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■オープニング本文 「先日の話だがの。商会傘下の一つにある刃物全般を扱う店に、職人が来なくなった」 陰穀。前連絡も無く屋敷を訪れた元和の唐突な報告に、蔓は首を傾げた。 「失踪ですか」 「でなければ、報告になぞ来るものか」 「具体的には何人です?」 「七人だ」 「‥‥待遇に不満を持って別の所に行ったとかいうオチが無ければ、誘拐の線が強そうですね」 流石に一斉に居なくなるには数が多すぎる。蔓も今の立場になる前は何度かその店に顔を出した事があるので分るが、不満を抱かせるような待遇では無かった。商会の頭が実質的に元和になった後に待遇が変わったなら、報告などせずに元和が自分で処理している筈である。 「それに、それぞれの家を周ってみたところ、侵入された形跡がありありとあったからの」 「‥‥そういう事は最初に言って下さいな」 恐らくはわざとなのだろうが、肝心なものを後回しにするのは止めてほしい。そう蔓は思うも、少し前の自分も似たような事をしていたので文句は言えない。 「役人には?」 「話しておらん」 「何故です? 失踪どころか明らかに誘拐でしょうに」 「居なくなった奴の中には、主の派遣した志体持ちも含まれていての。役人の手には余ると判断した」 「‥‥」 だからそういう事は先に言え、そう言いたくなるのを呑み込み蔓は派遣した志体持ちの事を思い出す。 以前に、蔓と元和の間で結ばれた協定の中に、志体持ちの派遣と現地での教育というものがあった。蔓の血族に志体持ちはもう居ないのだが、余所の家で『種馬か胎盤にしか使えない』とまで言われるような落ちこぼれを『買い取り』、一族の者として幾人か引き取った。彼らはあくまで『シノビとして落ちこぼれ』であって他の可能性は幾らでもある。蔓にしてみれば閉鎖的な陰穀に外のものを取り込む下地、元和にしてみれば上手くすれば高い身体能力を持つ労働力が手に入る――そういった背景の協定なのだが―― 「あそこに派遣したのは確か‥‥」 「十二の小僧だったな。小僧とは言え、志体持ちだ。かなり重宝されていたようだがの」 細かい技術はまだだろうが、高い身体能力だけでも充分だろう。 「‥‥元和。先程『侵入された形跡』と言いましたが、『争った形跡』は?」 「判断が付き難いが、見た限りは目立った痕跡は無かったの。周りの家の住人も誰一人気付いていなかった有様だ」 ――となると、少人数ではあるが手慣れた相手。若しくは、抵抗出来なくする術を持った者が居るという事か。 「分りました。この件は私が引き取りますので、元和は手を引いて下さい」 そんなやり取りの後、一週間。 「つ、突き止めまし、た‥‥」 たどたどしい声が蔓を呼ぶ。声の主は、蔓が唯一この家に残したままにしているシノビの少女。引き取った中では例外的にシノビとして優れた少女なのだが、兎に角臆病。そのモりが落ちこぼれの烙印を押された原因なのだろうが、それならそれで使い方を考えれば良いだけである。 「何処です?」 「そ、その店がある神楽の都から北西‥‥街道からかなり外れた所に‥‥」 「居なくなった人は視認出来ましたか?」 「は、はい。窓越しの上遠目にですが‥‥後、あの子だけは確認出来ませんでした‥‥」 あの子、というのは派遣した少年の事だろう。やはり志体持ちという事で厳重監視されているのか。 「窓越しという事は建物ですか。どんな建物です?」 「木製の家というか‥‥大きめの小屋、でした。道から外れた旅人が、夜を凌ぐための場所‥‥と思います」 会話にも苦労するほどの臆病さだが、きちんとした問いを投げれば答えは返ってくる。その調子で見張りなどの確認を取った蔓だったが、少女が最後に付け足した情報に眉を潜めた。 「あの‥‥一人だけ女の人が居ました。巫女装束姿の‥‥」 「巫女装束?」 誘拐犯が何の冗談か。聴けば、遠目で見た限りその女性が明らかに上役だったらしい。体格の良い男性を連れていたらしいが、その彼の様子からしても間違いないそうだ。 「‥‥気に入りませんね」 |
■参加者一覧
静月千歳(ia0048)
22歳・女・陰
陽(ia0327)
26歳・男・陰
八嶋 双伍(ia2195)
23歳・男・陰
碑 九郎(ia3287)
30歳・男・陰
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
龍馬・ロスチャイルド(ib0039)
28歳・男・騎
シャンテ・ラインハルト(ib0069)
16歳・女・吟
白藤(ib2527)
22歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●四つの人魂 「なあ、俺達何時までこんな場所に居れば良いんだ?」 「知るか‥‥雇い主に訊いてくれ」 「‥‥金払いは良いし、楽な仕事だから構わないんだけどよ。あの雇い主正直どうよ?」 「どっちの事だ?」 「女の方」 「‥‥二度と関わり合いになりたくないが、そう言い切れん気もする。妙な奴だ」 「だな。何なんだ、アレ?」 「外の見張りは二人だけ。小屋一階広間に六人。残り二人が奥の休憩室。職人さん達は奥の一室――ってところかな」 小屋の内外を周り終えた人魂を戻し、陽(ia0327)が告げる。足元に簡単な見取り図と人員配置が描かれている。事前情報では敵の数は十人。巫女装束の女と体格の良い男とやらは見当たらないが、寧ろ居ない方が好都合なのかも知れない。 「ふむ‥‥やはり志体持ちの子は見当たりませんね」 陽の見取り図に色々書き足しつつ、此方も人魂を戻した八嶋 双伍(ia2195)。志体持ちの少年だけが確認出来ない辺りがどうしても引っ掛かる。 「小屋の周辺を探せる範囲は探したが、巫女装束も大男も子供も見当たらねえな‥‥居ないのは結構なんだが」 同じく人魂を戻した碑 九郎(ia3287)は複雑な表情。 「広間の窓は潜るのに支障はないですね‥‥勝手口はここ。見張りは居ませんが、休憩室に行く為には、どうしても六人が居る広間を通る必要がありますか。あちらの窓は、裏から補強されていましたね」 最後の人魂。それを放った静月千歳(ia0048)も渋い表情。救出という依頼の性質上、ある程度の危険は致し方無いのだが、それが攫われた者達に降り掛るとなれば話は変わる。 「‥‥とりあえず、長居してると巫女装束が現れないとも限らねえ。動くなら迅速に、だ」 九郎が場を締めるよう呟く。少年に関しては、確認出来ない以上はあの十人を締め上げるしかない。言外に含まれたそれに一同頷き、見張り達に気付かれぬよう慎重に動き始めた。 ●看破と突入 見張り二人の表情が引き締まる。彼らの視線の先には支え合うような人影が二つ。 「何だありゃ?」 「‥‥ここを本当の目的で使いに来た奴か?」 二人が色々思案している内に、人影はよろよろと彼らの前まで来てへたり込んだ。外見を見る限り、三十近い男と十代半ばくらいの少女。男の方はがちがちに武装しているのだが、彼とそして少女の方も血痕。男に至っては口からも――放置するわけにもいかない。 「どうした、何があった?」 「アヤカシに‥‥襲われて‥‥」 切れ切れに少女が応じる。男の方は俯いたまま声も出せない状態なのか。 「アヤカシって‥‥おいおい」 「そのアヤカシはどうした?」 「通り掛ったこの人が助けてくれたのですけど‥‥御覧の通り‥‥どうにか撒いて、ここまで」 見張り二人は顔を見合わせる。無関係な人間が現れた場合の対処はどう指示されていたか? 『本当に道に迷った人なら、泊めて上げるか正しい道を教えて上げるかして。怪我人が居た場合は‥‥まず、手当かな? 何れにせよ、攫った人達がばれないように立ち回って』 単に事を荒立てたくないだけなのだろうが、割に常識的だった。 「とりあえず、そっちの兄ちゃんの怪我を見せてみろ。ここにあるもんで手当て出来るかだけでも確認しねえと」 「え‥‥?」 言われた直後、少女――シャンテ・ラインハルト(ib0069)の表情が曇る。彼女と、彼女に支えられている男――龍馬・ロスチャイルド(ib0039)は、先の四人と目的を同じくする者。つまり、これは芝居。 (‥‥問答無用で追い返されなかっただけ御の字ですが、この展開もあまり良くないですね‥‥) 重傷者の振りをしつつ、龍馬も内心舌打ち。この見張り二人を引きつけておくだけでも構わないのだが、出来れば屋内の警戒も薄くしたい。とは言え、ここで拒否するわけのも不自然。怪我を見せる振りをして鎧を脱いでいる間だけでも時間は稼げるか? そう龍馬が考え留金に手を伸ばした直後、屋内から怒号が響いてきた。 「何だよ、喧嘩か?」 「いや。これは‥‥」 見張りが二人組から視線を外す。落ち着いた物言いの方が何かを口にしようとした瞬間、何か圧力の様なものを感じ視線を戻すももう遅い。そこにあったのは、視界いっぱいに広がる翼竜の紋章。 「こういった手段は好まないのですが――暫く寝ていて下さい」 只の盾による打撃だが、盾は攻撃を受ける為のもの。生半可な武器よりも重さや強度が上回るのは必然。更には志体持ちの腕力を乗せたものとあっては尋常でない破壊力を持つ。殴られた男はそのまま綺麗に吹き飛び、小屋の入口にぶち当たって昏倒。 「加減したのですよね‥‥?」 「ええ。其方の方も‥‥眠っているようですね」 尋ねるシャンテに答えた龍馬が示したのは、もう一人の見張り。シャンテの眠りに誘う調べで眠ってしまっていた――随分と対応差が出てしまったが、まあ仕方あるまい。 広間の窓が立て続けに外側から破壊された。中で思い思いに屯していた六人が何事かと立ち上がった時には、既に壊された窓から見覚えの無い連中が入り込んでいた。 「な――」 恐らくは誰何しようとしたのだろが、それをしようとした男は最初の一言目を最後に前のめりに倒れた。彼の前には、木刀を携えた目立たぬ容姿をした青年が一人。 「表の雲行きが怪しかったので突入しましたけど‥‥どうにもお粗末ですね」 木刀片手に呟く菊池 志郎(ia5584)。お粗末というのは、自分達ではなく相手を示したもの。幾ら表に見張りがいるとは言え、中の連中は気を抜き過ぎである。武器を手元に置かない、防具すら身に着けていない者も居る。大体、見張りを一方向しか置かず見回りもしない有様では、志郎でなくともお粗末と言いたくもなる。 (妙ですね。巫女が予想通りの人なら、こんな有様にはならないと思うのですが) 志郎を始めとして、一同の何人かは巫女装束の女に心当たりがある。アレは只の人間の筈だが、統率や指揮についてはかなりのものだった。そのアレが動かした手合いがこの程度のものなのだろうか? 「‥‥それ以前にこの方々‥‥?」 志郎の指示で窓から突入した千歳が眉を潜める。お粗末云々以前に、意識のある者全員が既に裏口に向かって逃げようとしている。内一人を式で足止めしたが‥‥果たしてこの様子で必要だったかどうか。 裏口に走った者達の動きが止まる。当たり前の話だが、あからさまに存在する出口を封鎖しないわけがない。 「いやいや何とも‥‥逃げるのは結構ですけど、だったら最初からこんな事に加担しなければ良いと思うのですけどね」 「拍子抜けというか何と言うか‥‥詰らんな。俺は職人達を確保する。後は任せた」 「ええ。お気を付けて」 裏口から突入してきた双伍と九郎。逃げの一手に走る誘拐犯達に前者は苦笑、後者は呆れ顔。先に描いた見取り図と現在位置を頭の中で照らし合わせた九朗は、さっさとそこに続く扉に向かう。 「さて‥‥これで逃げ場は無くなりましたが、どうします?」 その間にも、じりじりと志郎と千歳が間合いを詰め、九朗を見送った双伍も鎌を下ろし低く構える。誘拐犯達の様子を見る限り、式を使う必要も無い。圧力を掛けてやれば簡単に落ちるだろう。 挙句の果てには、正面玄関から龍馬とシャンテまで突入してきた。これでここは完全に詰みだ。 「窓が駄目なら壁ごとってな」 職人達の閉じ込められていた休憩室。そこは入口には厳重に鍵がしてあったし、窓は内側から封鎖されていた。開拓者としても通常の手段であれば手間取るだろう――『通常の手段』に限った話なのだが。 所詮、風雨を凌げれば良いと簡単に建てられた建物だ。頑強とは言い難い。 そして今、その一室の壁には大穴が開いていた。開けたのは陽。流石に彼自身が力任せに壁を破壊したのではないが、殆どそれと大差無い。鬼を形取った式を使い、数度の打撃で壁を打ち抜いただけの話だ。 勿論、事前に壁越しに職人達に離れるよう説明をするのは忘れていない。 外を見張っていた二人組も、流石に壁の破壊音に気付かない程馬鹿でもないし、それ以前に広間の騒ぎで異常は既に察知している。が、厳重にした鍵が災い。鍵を開けるのに手間取っている間に、あっさりと陽によって職人達は確保されてしまった。 「‥‥って、おい?! 逃げるの早っ?!」 漸く開けた扉の向こうでにやりと笑う陽の姿を見た二人組は、即座に反転。一番近い所にある窓を力任せにぶち破って必死の形相で這い出していった。 「参ったな。職人さん達の傍を離れるわけにもいかないしなー」 まず無いとは思うが、下手に彼らの傍を離れて人質にでもされれば面倒な事になる。とは言え、あの二人組を逃して良いものかと言えば―― 「おい、職人達は?」 陽が迷っている間に、広間から現れた九郎が合流してきた。 「ご覧の通り。ただ、ここを見張ってたお二人さんは、そこから逃げちゃったけどさ」 「例の餓鬼は‥‥?」 「この人達も知らないみたいだな。攫われた最初以外は見てないらしい‥‥最悪、その子だけどこかに移されたか?」 「ち――とりあえず、逃げた二人を捕まえて締め上げるか。変に餓鬼を隠さなければ放置してやっても良かったものを」 言った九朗は、即座に二人組が逃げたという窓に足を掛けて跳び出した。 「ちょ、ちょっと待て。本当に良いのか、俺らだけ逃げて?!」 「最初から言われていただろ! やばければさっさと逃げろって!!」 「でもよ――」 彼の言葉はそこで途切れた。妙に軽い音がしたと思った直後、太腿に激痛が走る。そこに刺さっていたのは一本の矢。 「どこから撃って――」 その彼の言葉も最後まで放たれる事は無かった。同じ手順で同じ位置に同じ矢が突き刺さる。そこで彼は漸く木々の間に紛れた狙撃者を見付けるが、後の祭り。 「お前らと違って、こっちはそう甘くねえんだよ。さて――職人達以外に餓鬼が居た筈だ。そいつは何処に居る? 早々に答えた方が身の為だぞ」 地面に転がった二人の背中に、彼らを追ってきた九朗の詰問が突き刺さった。 ●見えない意図 「狙い通り‥‥かな? 距離的にはぎりぎりだったけど」 唯一屋外に留まり逃げる誘拐犯を警戒していた白藤(ib2527)は、立て続けに放った矢が逃げようとした二人の足を貫いたのを確認し、弓を下ろす。倒れた二人には、彼らを追って窓から跳び出してきた九朗が確保した。 「あー‥‥思ったよりも早く来ちゃったか。あたしの読みも甘かったねー」 状況に似合わぬ暢気な声。白藤は声を掛けられる直前に嫌な気配を感じ、咄嗟に矢を番えつつ跳び退き距離を置いていた。 「や。見張りお疲れ様。その様子だともう事は済んじゃったのかな?」 「きみは‥‥」 視認する前から分ってはいたが、やはりそこに居たのは巫女装束の女。外見上、特に不審な点は無い――身の丈以上の鉄棒を携えていなければ、なのだが。 それにもう一人。 「‥‥既に制圧済みなのが分っていて態々顔を出すお前の気が知れんぞ、俺は」 巫女のやや後方に立つ大男。体格以外目立った特徴の無い男だが、口調には苦笑らしきものが混じっている。 「良いじゃないの。あんただって、どんな連中が来たのかくらい見ておきたいでしょ」 「俺はまだ良い。だが、お前はそもそも大量殺人で手配書が回っているんだ。イチイチ顔を出そうとする癖を治せ」 会話だけなら此方に全く気を払っていないように聞えるが、両者とも意識はきっちり白藤に向けている。この二人の漫才に付き合っていても仕方が無いので、強引に会話に割り込んだ。 「職人を攫った理由は? やっぱり武器を造らせる為?」 「ん? あー‥‥やっぱりそう見えるのね。信じるかどうかは勝手だけど、『鍛冶師だから攫った』じゃなくて『攫ったのが鍛冶師だった』だけ。前提が逆」 「成程。で、質問の答えは?」 「ちょっとした実験。丁度良く、紛れ込んでる奴を見付けたからさ」 ――紛れ込んでいる奴? 一瞬意味が分らなかったが、直ぐにそれが志体持ちの少年を示している事に気付いた。 「その子に何をしたのかな?」 「別に何も、実験てのも比喩だし。アレだったら、台所床下の食糧庫に放り込んであるから、回収したければすれば。じゃ、あたしはこれで」 無防備に背を見せる巫女。矢を放てば一撃で仕留められる間合いだが‥‥ 「きみがそうさせてはくれないよね?」 「無駄死にする事はない。俺達が見えなくなるまでじっとしていろ」 白藤が返答を迷っている間に男は素早く後退。瞬く間に見えなくなっていった。 ●言伝 志体持ちの少年は、確かに巫女装束の女の言う通りの場所で発見された。厳重に縛られた状態で水以外は何も貰えていなかったらしく若干の衰弱は見られたが、命に別条は無い様子だった。 捕えた十人だが、開拓者の詰問に拍子抜けするほどあっさりと答えてくれた。 彼ら十人、元々は神楽の都でスリや空き巣などを行っていた一団だった。尤も、荒事は専門外というか‥‥寧ろ避けていたそうだ。 それが何故こんな事になったのかと言えば、とある日に彼らの溜まり場に現れたあの巫女装束の女が原因だった。いきなり見せられた大金。後ろに控える大男。何よりも、軽い割に妙に説得力のある女の言動が、彼らをここの管理という仕事に導いていった。 「つまり、あの人の目的は分らない‥‥と?」 「俺らはてっきり身代金でも要求するのかと思ったけど‥‥」 「‥‥それもないわけですね」 志郎、双伍が顔を見合わせ溜息。千歳も意味が分らないという表情を見せていた。 「一応言っておくとさ、あんたらを雇ったその女。両手両足の指全部使っても足りない数の人間を一夜で殺した奴だぜ? 下手すりゃあんたらもどうなっていた事やら」 陽は冗談めかして言っているが、別に嘘も誇張も無い。白藤から訊いた女の容姿は、紛れも無く陽の予想した女と完全に一致した。 「‥‥ま、ついでに言や、陰穀のシノビの家に喧嘩売ったようなものだがな。お迎えらしきものが来たぜ」 面倒そうな様子で九郎が玄関を示す。そこには忍装束の少女が一人。恐らく、依頼主である蔓からの使いだろう。怯えた様子で開拓者達に近付いてきた彼女は、小さい紙を彼らに手渡すと物凄い勢いで居なくなった。 「‥‥不思議な子ですね」 「それで、その紙には何と?」 『誘拐犯は普通に役所に引き渡して下さい。元和の方が手続きを行うので。 蔓』 ●後日談 「‥‥それで、あの子は?」 「相変わらず‥‥何も」 「あの子は何も無かった。あっちの職人達も知らぬの一点張り‥‥元和もお手上げ。何ですかね、コレ」 「‥‥気にし過ぎでは?」 「ただ帰ってきただけなら、ね。その後、部屋に閉じ籠ってしまったとなれば、話は別です」 「‥‥巫女装束の人、洗いますか?」 「少し様子を見ます。標さんから提供された資料を見る限り、迂闊に手を出せば喰われそうな気がしてならないので」 「‥‥御意」 |