虫を捕る子供
マスター名:小風
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/08/16 21:06



■オープニング本文

●雌雄の甲虫
 夏という季節。それが好きと言う人嫌いと言う人様々居るだろうが、個人の主観を置いてきぼりにして季節は巡り巡る。
 夏になると活発になる生き物は多々存在する。一々挙げてはキリが無いので、関係あるものだけを挙げる。
 昆虫及び人間の子供。勿論、前者も後者も個人や種類、性質によっては逆に引き篭もる者も居るのだろうが、全体的な統計で見ればやはり活発になると結論付けて良いだろうと思う。
 始点としては人間の子供。
 夏になると子供の好奇心や冒険心を刺激するものが多くなる。ここでも必要なものだけを挙げるが、森、そして虫。大人になってしまえば、そのような場所や生き物には、合理的な理由が無い限りそうそう踏み入る事も触る事も無い。だが、子供達は違う。理由が無いのが理由であって、躊躇も恐れも無くそういったものに近付くのは常だろう。
 そうした要因が重なっての舞台。
 神楽の都に程近い、村としては比較的裕福であろうそこ。その村に住む子供のひと組が、その日、虫を捕りに四半日程歩いた所にある森へと入っていった。後で聴いた話によると、各個がそれぞれ虫を捕り、その数や大きさを競うつもりだったらしい。
 子供社会にもやはり中心となる人物は居るもので、提案したのは中心人物たる少年。決められた時間内で獲物を集めた彼は、意気揚々と集合場所に決めた森で一番大きな木の元へと向かった。
 そこで少年が見たのは、大木の根元で黙々と子供だった残骸や集められた昆虫を喰い荒す甲虫二匹――大きさは少年自身とほぼ同等、傍目から分る雌雄――有り得ない大きさの甲虫であるが、そもそも彼らは肉食などしない。故に、これは甲虫などでは決して有り得ない。
 少年が気付いた時には、何もかも投げ捨てて自宅の前に立っていた。

●子供なりの意思
「そういうわけで、そのアヤカシと思われる甲虫の夫婦を退治して下さい、というのが今回の依頼です。幸いまだ森から出てくる様子は無いですが、何時出てきて村を襲うか分りませんから」
 何やら疲れた様子でギルドの受付さん。
 『甲虫の夫婦』などと言ってはいるが、アヤカシは種族としての生殖能力など無いからして、雌雄で現れた所でそれが番いであるわけもない。そういう姿を持って現れたアヤカシに対する皮肉だろう。
「知能的には本来の虫と大差無いでしょうから、此方から行けば自然姿を現すと思います。大きさも大きさですし、発見には手間取らないと思いますが――」
 そこで溜息を吐く受付さん。疲れ以外に憐憫も浮かんでいる模様。
「一人だけ生き残った子なんですが、自分が仲間を引き連れて森に入ったせいで皆殺された、と責任を感じてしまったらしくて、持てるだけの食糧や武器になる物を抱えて森に突入してしまったそうなんですよ。
 ‥‥多分、自分だけ逃げ延びたのも負い目になってるのでしょうね」
 同年代を統率する子供と言うのは、下手な大人の統率者よりも見るべき面を持つ。勿論、大人には色々な策というのがあるので子供の方が優秀と言うわけではないが、余計なものを排除した子供の意思と言うのは真っ直ぐであり、止め難い。
「可能であれば、この子を先に保護して下さい。勿論、彼が勝手に起こした行動ですし既に喰われている可能性もありますから、アヤカシさえ倒してくれれば基本的には問題無いです」
 子供を無視すればアヤカシ退治としては楽な部類に入るだろう。だが、逆に子供を優先すると難易度が跳ね上がる――それは受けた者が自分で選択しろという事か。
「こういう切り捨てっぽい話ってしたくないんですけどねぇ‥‥この間の変な女の方が持ち込んだ依頼の方が余程気楽ですよ‥‥」
 受付さんは、最後にそう呟いた。『変な女』というのが何なのか不明だが、何にせよ職務的に告げた『切り捨て』に、受付さんが自己嫌悪しているのは確かだった。


■参加者一覧
儀助(ia0334
20歳・男・志
黒鳶丸(ia0499
30歳・男・サ
紙木城 遥平(ia0562
19歳・男・巫
志藤 久遠(ia0597
26歳・女・志
焔 龍牙(ia0904
25歳・男・サ
胡蝶(ia1199
19歳・女・陰
衛島 雫(ia1241
23歳・女・サ
碑 九郎(ia3287
30歳・男・陰


■リプレイ本文

●馬貸出条件
 開拓者ギルドにて請け負った人を喰う甲虫討伐依頼。
 純粋に討伐のみを目的とするならばそう緊急性のあるものではなかったのだが、仲間の敵討ちを目的とした少年がそれを変えた。
 ギルドではアヤカシを優先事項とはしていたものの――実際に動く者からすれば、見逃せない部分である。反応はそれぞれではあったが、可能な限り少年を保護する事は共通しており、それに応えたのか受付も彼らの求めた馬の貸出許可に尽力した。
 余談だが、ギルド保有の馬はそれなりの数を揃えている。勿論、所在地等で違いはあるが、全く保有していないという事は無い。ただ、当然ではあるがこれらはギルドの財産であり消耗品ではない。二つ返事で貸し出してくれるようなものではなく、かなりの緊急性を要する場合や担当個人の性格、開拓者達の伝手や信用といった要素がうまく重なれば貸し出される、といった具合。
 更に言えば、訓練された馬は貴重であり処分価格は往々にして報酬額を大きく上回る。こういう背景から開拓者自身が持ち逃げや隠蔽、死亡を装った売却、実際に馬が死亡した場合の損失も有り、需要は高いが供給は相当に絞られている。
 そして、今回の件に関してはどうかと言うと。
 結果としては貸し出された。但し、開拓者八人に対し四頭。短距離を迅速に移動するのであればそれで充分であるとの判断。更に、決して戦場になるであろう森までは連れて行かず村に預ける事という条件付き。ついでに、受付自身が後追いで村へ行き馬の監視をするとの事。
「‥‥随分、きっつくねえか?」
「これでも頑張ったんですから、そういう事言わないで下さい。血判状沙汰でないだけマシでしょうっ」
 元々、馬は村で世話してもらうつもりだったので手間が減った面はあるとは言え、中々の厳しい対応に碑 九郎(ia3287)は見送りに来た受付に、多少意地の悪いからかいを向けた。旅支度を整えた当人の返答はむくれてはいたが、決して不愉快そうではなかった。

●大木へ
「式――『翼のあるもの』」
 人形のように怜悧かつきつい印象を見る者に与える少女、胡蝶(ia1199)の手から符が放たれ小鳥の姿を模す。模された小鳥は彼女の視覚と同調し、上空からの情報を共有する。子供が虫捕りに躊躇無く入れるような森なので、鳥の視界でも充分全域が見て取れる。その中央付近、一か所だけ突き出ている大きな木の頭が見えた。
「やはり大きい――恐らくはあれね」
「その木の所で見付かるか途中で追い付ければ良いのですが‥‥」
 胡蝶の傍らで、表情や抑揚はともかく態度が明らかに焦れている、志藤 久遠(ia0597)が呟く。最も時間を気にしている彼女だが、冷静さを失っているわけではない。その証拠に、村での聴き込み自体は自身も行っていた。
「少年がアヤカシを探すのであれば、最初に大木の元に向かうのが必然でしょう。それを追えば足の差で追い付ける可能性は充分にあります。と言うよりも、そこで保護しなければ後が厳しいですね。
 ――問題は少年が冷静さを失って闇雲に動き回っていなければ良いのですが――」
 村人から教わった、主に子供達が踏み固めたであろう道を確認しつつ呟く紙木城 遥平(ia0562)。不安が無いわけではないが、子供を救いアヤカシも倒すという選択をした以上、それを果たす為に最善を尽くす――淡々とした青年の言葉にはそれが込められていた。
「まあ、食糧や武器を準備しているとなれば、そこまで真っ白になっているわけでもないだろう――上等な少年だ、死なすには惜しい」
「上等なのは認めるがな。無謀に過ぎる」
 長弓の弦の張りを確かめながらまだ見ぬ少年を気に入っている様子の焔 龍牙(ia0904)に、即座に否定が入る。一行では恐らく最も重装、胴巻と小盾、刀と連接棍で身を固めた人物だが、容貌は紛れも無い女性。ぶっきらぼう極まる物言いであるが、別にこれは彼女――衛島 雫(ia1241)としては常である。
「そうは言っても割り切れないのでしょう。子供なら尚更」
「ま、その辺りは仕方ないだろ。餓鬼の内にそこら鵜呑みにしてたら、碌な大人にならねえだろうしなあ。
 ――しかし、皮肉なもんだな」
 久遠に飄々とした言葉を向けた儀助(ia0334)だったが、夏の炎天下に晒される森を見ながら苦笑いする。恐らく同じ感想を持ったのだろう、容姿と物言いが明らかに反比例している黒鳶丸(ia0499)がその後を継いだ。
「夏に甲虫――まるで子供ら引き寄せる事、分っててそういう形になったみたいやな。洒落が効いとるつーか、夏の風物詩先取りつーか‥‥ま、気に食わん事には変わり無いな」
 勿論、下級のアヤカシのそんな感性など無い。受付がアヤカシを『夫婦』と皮肉ったのと同様、彼ら流のアヤカシへの皮肉だろう。

 馬のお陰で現場である森には昼間に到着した。夏の日中気温の中で森の探索というのはきついものがあるが、夜に探索するのは別の意味できついのでそこは我慢するしかない。
 大木への最短道程――子供達が使っていたであろう道と同じ――を辿りながら『咆哮』と『心眼』を組み合わせた手法でアヤカシを誘ってみるが、現状引っ掛かった様子は無い。道すがら、少年が隠れていないか或いはその痕跡は無いか、音や匂いに異常は無いか――彼らの見る限りではそういったものも見られない。幸いと言って良いのか悪いのか、一番新しい足跡――恐らくは件の少年のもの――が真っ直ぐに開拓者達と同じ方向に向かっている事は分った。
「おい、どうしたよその腕」
 ふと、九郎が前を歩いていた胡蝶の白い腕に巻かれている包帯に目を留めた。うっすらとではあるが、赤い染みが出来ている。森に入る前は、そんなものは巻かれていなかった筈――問い掛けに、胡蝶は愛想の無い声。
「怪我したから手当てしたの。だから何?」
「何つーか‥‥」
 そこまで口に出して、九朗は何となく悟った。恐らくは、血の匂いを意図的に周囲に振り撒く為だろう。知能の低いアヤカシは食欲を最優先する。その中でも人間は最上位――効果の程はともかく、一つの手段ではあるだろう。尤も、開拓者とは言え一人の少女が意図的に自分に傷を付けるというのは、中々出来るものでもない。
 九朗の表情に、自分の意図を悟られた事に気付いた胡蝶は指に髪を絡めながら明後日の方向を注視。
「わざわざ寝覚めを悪くする事も無い。それに、早く片付けたい。こんな暑苦しい森、さっさと出たいし――それだけよ」
「は――――」
 喉元まで来た笑いを噛み殺す九朗。まあ、何と言うか――面白い娘である。

 大木が視界に入ってきた頃、最後の『心眼』に明らかに異質な反応が三つ引っ掛かった。場所は――
「――真正面! どうやら当たりのようだな!」
 龍牙が感じとった反応が大木の元にあると確信し、叫ぶ。全員が耳を澄ますと、何かが転がる音、金属を擦り合わせたような異音、荒い呼吸音が連続する――
「間に合ってっ!!」
 久遠が即座に加速する。明らかに襲われている音だ。ここまで来て少年を死なす事はあってはならない。彼女の後に続いて七人も暑さを忘れ走り出した。

●甲虫夫婦の末路
 そのままの勢いで背の低い雑草や落ち葉で広場のようになった大木の元へと躍り出る。大木の根元で角を持った巨大な甲虫と揉み合う少年。その顎は少年の喉元まで近付き――
「式――『毒を運ぶもの』!!」
 流石にこの状況では直接的に攻撃するわけにもいかない――瞬時に見切った胡蝶が蜂を模した式を放つ。一息に雄甲虫に近付いたそれは、外殻の隙間から一突き。嫌な唸り声と共に雄甲虫の動きが緩慢となる。
「そこ退けやあっ!!!」
 瞬間的に引き上げた腕力を乗せ、薙刀の柄を下段から真横へと振り抜く黒鳶丸。真下から振り上げては少年に当たる――狙い違わず雄甲虫の側面を打ち抜き、その巨体を少年から引き剥がした。
「だ、誰だよあんた達?!」
「開拓者ですよ――怪我は無い様で何より。アレは普通の人間で対処できるものじゃないのは、君も聴いた事くらいはあるでしょう。気持は分らないでもないけど、ここからは僕達の領分だ」
「そういう事だ。仇は俺達が討つ、だから傍から離れるな」
 駆け寄り少年のの具合を確かめながら言い含める遥平と、その横で長弓に矢を番える龍牙の言葉。その二つに、少年はきっぱりと首を振った。
「駄目だ。あいつらが喰われちまったのは俺が原因なんだ――倒せない事なんか知ってる。だけど、一発でも多く殴ってやらなきゃ、あいつらが可哀そうだ!」
「だったら余計に俺らに『協力』し。あいつ底無しの脳無しやから敵討ちに正面切って付き合ってくれるような手合いじゃあらへん――俺ら使て仇討っちゃり。
 さっき俺の攻撃が当たったのだって、お前さんがあいつを抑えててくれたお陰やで」
 ――実際の所、最後の言葉は黒鳶丸自身にも測りかねる。だが、これは少年に必要な言葉だ。油断無く薙刀を構えながら、我ながら似あわない詭弁を吐くものだと苦笑い。
 軽妙な物言いに少年も毒気を抜かれたか、憑物が落ちたような表情になる。
(――反応は三つ――残り一つは何処だ?)
 符を構えながら、九朗は全域に気を配る。普段のずぼらな様子は消えている。本来であれば彼も攻撃に参加する筈だったのだが、多少想定していない状況に身を留める。
 術や技の使用限界も有り、最後の『心眼』は『咆哮』とは併用できなかった。位置が分らなくともこの周辺に居るのは分っている――だが、何処だ?
「あ――――姉ちゃん、下! 一匹、あんたらが来る前に潜った!!」
 落ち着いたかに見えた少年が叫ぶ――その先は久遠。直後、彼女の足元が一気に盛り上がり、そこから角の無い甲虫――雌甲虫が飛び出してきた。
「っ?! 虫の割にそういう知恵は働きますか!」
 少年の言葉に一気に間合いを離す久遠、だが一拍遅い。
「――だが、所詮は虫――不意討ちならばもっと時期を待つべきだな。
 そして少年、良い援護だ!」
 雌甲虫と跳んだ久遠の間に割り込む重装。組み合わせた小盾と連接棍で雌甲虫の体当たりを抑え込んだ雫は、虫の浅い知能を皮肉った。態勢が膠着する前に全身の筋肉を総動員して雌甲虫を跳ね飛ばしつつ少年に声を掛ける。その雫の脇から再肉薄した久遠が、槍の石突を転がった虫の頭頂部へと突き込んだ。甲虫の身体構造上、陸上ではそこまで俊敏に動けるわけではない。まして跳ね飛ばされた後では回避もままならず、石突きに直撃された頭頂部に罅が入っていた。追撃とばかりに振るわれた雫の連接棍は、その取り回しの難しさからか外殻を削るに留まった。
「慣れない物を使うべきではなかったか?」
「鈍器なら当たれば衝撃は充分通ります。刀よりは遥かに良いでしょう」
 苦笑いする雫に、目だけで礼を伝えながら久遠は返す。限度を超えた固いものを破壊する際、鈍器か刃物のどちらかを選ぶかと言われれば、大概は前者だろう。
「成程――そういえば、雌の足は地面に潜るのに雄より太くて適しているんだったか」
 雌甲虫の背後に周りつつ、儀助は自身が危惧していた雌の足の特性を思い出していた。
「とりあえず、これだけ広けりゃ多少飛ばれたところで問題無い――そっちはどうよ?」
「あー、心配要らんわ。前衛足りてないけど、こっちは足止めと癒しでウハウハや。そっちに渡したりせんから、安心しとき」
 儀助の問い掛けに答えた黒鳶丸を見ると成程、遥平と龍牙、胡蝶の三人が雄甲虫の一番危険な角の攻撃の届かない位置から、徹底した援護を行っている。あれだけされれば、もはや接近すら困難だろう。
 もはやこの時点で決着は付いていた。後は時間の問題――そう全員が思った直後、雌雄が示し合わせたように羽を開いた。昆虫類の羽は鳥類と比べ『飛ぶ』という純粋な概念においては非常に優れている。雌雄共に負けを本能的に悟ったのか、この場から離脱する算段を立てたらしいが――
「そこで逃がす程僕らはお人好しじゃない――精現『力歪』!!」
 状況を想定していれば逆。頭の上辺りまで飛び上がった雄甲虫に向け、精霊の奇跡を発現する遥平。放たれた力は虫の周辺の空間を揺らがせ、その身を反転させる。背面状態で飛べるわけもなく、後は落ちるだけだ。
「喰われた連中の分だ、受け取れ!!」
「刃が通らないならば熱――式『火を伝えるもの』。いきなさいっ!!」
 落ちながら、剥き出しになった柔らかい腹部へと矢と火輪が同時に突き刺さっていく。瀕死の状態で落ちた彼を待っていたのは大上段の薙刀――
「あばよ――二度と出てくんなや!!」
 渾身で振り降ろされた薙刀に粉砕された雄甲虫は、どす黒い何かを撒き散らしながら消滅していった。

「式――『切り裂くもの』――ぶった斬れ!!」
 同時に、此方は雌甲虫に放たれた九朗の式。具現化した瞬間にかき消えた式は次の瞬間には、振動する両羽を寸断。飛行部位を破壊されれば何者とて落ちるのみ。
「夏の虫捕り邪魔するってのは良い度胸だなっ!!」
「子供の命と心――奪った重さを味わいなさいっ!!」
 同時に放たれる久遠と儀助の槍と太刀。二人分の衝撃に綺麗に吹き飛ぶ雌甲虫であったが、地面に叩きつけられ尚、残った力で飛び掛かろうと――
「――――もう良い。終われ、虫」
 ――した瞬間に、雫によって完全に止められていた。それで終わり。無表情で彼女が振り抜いた連接棍が外殻を完全に破壊し内部までも抉る。
 色々撒き散らしながら綺麗に吹き飛んだ雌甲虫は、地面に落ちる前に消滅した。

●笑っていこう
「お疲れさまでした――でも、私は歩いて帰るんですよね‥‥」
 当日の夜には村に帰還した八人と少年は、疲労の極致といった具合の受付の出迎えを受けた。どうやら、到着直後らしい。嘆くのも無理は無い。さっきまで歩いてきた道を、休み無く引き返さなければならないのだから。哀れである。
 救出された少年は、どこか夢を見ているような表情。当然と言えば当然。開拓者の戦いは、ただの人間とは別の次元にあるのだから。そのお陰か、暗さは伺えない。
 遺体は無いものの、大木の元にあった遺品を持ち帰り家族に手渡し埋葬するように願った。静かに頭を下げる家族達にいたたまれない気持にはなるが、この先はもう彼らの触れて良い部分では無い。
「――剣しか握れないこの手でも、抱きしめるくらいは許されますか?」
 脈絡無く放たれた言葉。当人以外が一斉に見た先は雫。目が如実に語るのは『お前? 今のくっさい台詞お前?!』である。受付と少年も漏れなく混じってるのが、何気に酷い。
「こ‥‥こっち見るなぁっ!!」
 彼女としては少年に向けた言葉だったのだが、あまりに脈絡無く意味不明だった事に漸く気付いたのか耳まで真っ赤に染めて蹲る。仕草はともかく、重装だからして可愛げを感じられないのが残念。
 笑いが広がる――少年も。今笑えるのであれば、この先も笑っていけるだろう。