【ちま】ともだちづくり
マスター名:言の羽
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/09/19 19:08



■オープニング本文

 賑わう市場は人でごった返し、よいものをより安く求めようとする賑わいであふれていた。といっても市場を舞台とする行為は買い物に限った話ではなく、吟遊詩人や芸人、およびその観客でひと山できている一角もあった。
「‥‥あっちぃ‥‥」
 しかしその男は市場からひとつ入った細い道、屋根と壁が作ったあまり広くない日陰に腰を下ろしていた。ぱたぱたと手で自らの顔付近を扇ぐも、それで生じる風は些少。むしろ動かしている腕がその運動により熱を生じて、一層暑い。ひたいから生まれて鼻筋を通って唇付近まで垂れてくる汗を袖でぬぐうも、その袖もとっくの昔に濡れ雑巾のごとく。
「ああもう、なんや、何でこんなに暑いんや!!」
 声は大きいが独り言だ。暑さでイライラする、そんな経験は誰にでもあるのではないだろうか。
 けれど彼のイラ立ちは自業自得と思われた。背に負うは大きな木箱。素肌を極力覆うように仕立てられた旅装。そして――
「髪を切ってヒゲを剃れば、多少なりとも涼しくなるのではないかしら?」
 男が汗でひたいに張り付く前髪をかき上げながら上向くと、いかにも気の強そうな少女が腰に手を当てて彼を見下ろしていた。
「‥‥いややなぁ、こいつらは俺の個性なんや。切るとか剃るとか、殺生なこと言わんといてんか」
「あらそう。だったら黙って静かに我慢していればいいんだわ。汗もこまめに拭いてちょうだい、見ているだけで暑苦しいったら」
 少女はまとう雰囲気どおりに偉そうな態度をしているが、そこらにいる同い年の子らと変わらない服装をしていた。ただあまり汚れていないという点は、はなから疑ってかかれば気づく者もいるかもしれない。
 そんな彼女は、小ぶりの袋を持っていた。袋には幅広の紐がついていて、右肩から左腰へ斜めがけにしている。袋の口は少し開いていた。丸っこく愛らしい人形が顔を覗かせている。人形に気づいた男は、ふっと笑った。
「嬢ちゃん、大事にしてくれとるみたいやな」
「汗をぬぐった汚い手で触らないで!」
 体をひねって逃げる少女に、男はそこはかとなく傷ついてみたりして。
「‥‥仕方ないわね、これでその手を拭いてから触るなら、ああ、あと、どこか痛んでいないか見てくれるのなら、許してあげなくもないわ」
 それにやや焦りを覚えたのか、少女はそっぽを向きながら口先を尖らせる。頬が赤らんでいるのが男のニヤつきを復活させた。

 少女の持っていた人形はとても綺麗なものだった。――いや、正確に言うならば出来はさほど綺麗でもないのだが、それでも日々大事にされているのだろうことがうかがえる状態だった。
 ではなぜ少女は自分を探していたのか、と男は考えた。人形が壊れたから直してほしいのかと思ったら違った。
「それ、あたしの双子の兄なの」
 首をかしげながら人形の髪を整えていた男に対し、少女は腰に手を当てながら言った。
「ん、ああ、それはこいつを作った時に聞いたで?」
「ずっと一緒にいられるわけないけど、あたし達はやっぱり繋がっているし、繋がっていたいのよ」
「‥‥そか」
 スルーされた。男のまなざしが一瞬だけ空ろになった。
 だがそんな男にも、少女の述べていることが少女にとってどれだけ重みのある言葉であるかは理解できた。
「もう一体、作りたいんやな。今度は嬢ちゃんの人形が。その双子の兄ちゃんに持たせるために」
 こくり頷く少女。
「しゃーないなぁ‥‥じゃあ、嬢ちゃんのほかに後何人か連れてきてくれたらええわ」
「え、ちょっ、ちょっと! 今の流れはあなたが喜んであたしに人形を作ってくれるところじゃないの!?」
「やかましい!! 俺も生活かかっとんねんっ!」
 大人気ない男。先ほどスルーされた腹いせか。
 しかし作成の手ほどきを受けなくてはならない都合上、少女は折れざるを得なかった。仕方なく開拓者ギルドを訪れ、「カオル」と名乗り、人形作りの希望者を募ったのだった。


■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
御陰 桜(ib0271
19歳・女・シ
玄間 北斗(ib0342
25歳・男・シ
ケロリーナ(ib2037
15歳・女・巫
禾室(ib3232
13歳・女・シ
神爪 沙輝(ib7047
14歳・女・シ


■リプレイ本文

●今日はよろしくお願いしますのご挨拶
「呼びかけに応えてくれたあなた達にはお礼を言わせてもらうわ!」
 指定された場所に集合した面々は、偉そうにふんぞり返る少女カオルから挨拶のようなものを受けた。
「ヨロシクねカオルちゃん♪」
「ちょっ‥‥!?」
 御陰 桜(ib0271)がカオルの頭をぽむぽむすれば、カオルはいきなり何をするのかと桜の手を振り払おうとする。さっそく不穏な空気が漂うことになるかと思いきや、そこへ勇敢にも、朝比奈 空(ia0086)も手を伸ばした。そしてゆっくりと撫でる。
「‥‥あなたまで。あたしの頭はそんなに魅力的なのかしら?」
「ふふ‥‥特に深い理由はありませんよ」
 微笑する空にカオルが肩を落とせば、なるほどとばかりに撫でへと転換する桜。右から左から撫でられるカオルはさながら人形が愛でられるかのごとく。
「おーい、お前らー。ちまを作りに来たんやないんかー?」
 女の子同士が作る独特な雰囲気に半ばのまれながらも、それを打破するがごとく声をかけたのは人形師の男だった。
「そうだよ、香‥‥あ、えっと、カオル、ちゃん」
 柚乃(ia0638)は途中でなぜか言葉を切って言い直す。
 カオルは黙ったまま、柚乃からケロリーナ(ib2037)へと視線を動かした。
「カオルちゃんですのね。どうぞこちらにお座りくださいですの」
「――そうね、そうさせてもらおうかしら」
 にっこり笑って隣の空いている席を示すケロリーナに、カオルはにっと笑って示された場へと腰を下ろした。
 ちなみに場所は大通りから少し外れた、人通りの少ない路地裏だ。カオルが撫でられまくっている間に、玄間 北斗(ib0342)が持参した茣蓙を敷いてくれている。本人はのんびりした表情ながら頬を少し紅潮させているが、それは美人に囲まれているから嬉しいのだとか。美人と言われて喜ばない女性は恐らくおらず、神爪 沙輝(ib7047)も例外ではないようで、恥ずかしそうにややうつむいている。
「んじゃ、手ほどき頼むぜーおっさん!」
 北斗とは別の方向というか性癖というかでテンションが上がったらしい村雨 紫狼(ia9073)、無意識なのか。それともわざとか。人形師のぼさぼさ髪の間でその双眸が鋭く光る。
 
「見つけたのじゃ、お主がちま職人のおじ‥‥おにーさんじゃな!」
 息せき切って路地裏に駆け込んできた禾室(ib3232)が目にしたのは、化け物のごとき形相の人形を振りかざす人形師と、それを止める女性陣、そして面食らう紫狼と、紫狼に前言撤回するようにと頼む北斗という、すさまじい光景だった。

●仕切りなおして
「夢に見そうなのじゃ‥‥」
 狸耳をぴこぴこさせながら言う禾室に、桜は「ホントよねぇ」と返す。
「だから前に言ったじゃない。身だしなみに気をつければ歳相応に見えると思うわよ?」
「色んなとこ旅してるとその辺面倒でなぁ‥‥あと、これも面倒なんやけど」
 ただでさえぼさぼさの頭を掻いて更にひどい状態にしつつも、人形師は手を動かしていた。桜が駿龍の瑪瑙のちまを作りたいと希望したからだ。さすがにそうくるとは予想していなかったため、型紙から作っている。
「おにいさんはぷろなんだから龍の型紙だってお手の物よねぇ♪」
「よぅ言うわ」
 そのぶん人形師が裁縫初心者に作り方を教える時間が削られるのだが、経験者である桜が代わりを務めている。交換条件といったところか。
 もうひとりの経験者である柚乃は、んー、と考えてから、修羅の王である酒天のちまを作り始めた。
「お兄さん。手があいたら額の角のつけ方、相談に乗ってね」
「それはかまわんけど、またすごいところを。――そうや、前に作ったちまはどないや?」
「柚乃のちま、貰い手があったの。だから、今は手元にないの‥‥」
 すまなそうに言う柚乃に、人形師は首を横に振った。作った本人がそれを望んだのであればそれでいいのだから、と。
 だがこの話を聞いて残念がったのは紫狼だった。作り始める前に完成品の採寸をしたかったらしい。それなら自分のちまを貸すと桜が申し出れば、より若い女の子のちまのほうがと言いかけるも、無言の圧力を感じて引き下がった。
 採寸が終わると、落ちていた小枝を拾い、地面に絵を描いていく。少女の絵であるところがある意味彼らしいと言えよう。とはいえその出来には皆が目を丸くするには十分だった。
「‥‥あのな、心底意外そうな顔すんなよ。俺がヘコむ」
「ごめんなさい。でも意外で」
「カオル君はなかなかきついねえ」
 苦笑いする紫狼だったが、絵を描くという行為は彼の中にあるイメージを具体化するためのものだった。前の依頼で縁のあった女の子だというが、その子がどんな特徴を持っているのかが容易に読み取れるもので、なるほど、誰かの似姿であるちまを作るにはひとつの手であるだろう。
 目指す姿が固まった紫狼の次の動きはスムーズで、必要な材料をどんどん選んでいく。周囲の一同も負けじと自らの手の動きに一層集中する。ケロリーナなどその最たるものだ。彼女は彼女自身のちまを作成しようとしているのだが、金糸の刺繍やレースで彩られたきめ細かい作りのドレスとヘッドドレス、要するに自分と同じ衣装をも作って、ちまに着せようと考えていた。元々かえるの人形を作るなど裁縫の経験があるケロリーナ、唇をきゅっと結んで一心不乱に作業へ没頭している。
 一方、集中し続けることは各人にとってやはり大きな負担であり、
「まだまだ暑いから、良かったら、適当につまんだり飲んだりして欲しいのだぁ〜」
 北斗は皆の作業の邪魔にならない位置へ水や飴、塩気のある煎餅などを並べてから、妙にくてっとした自分のちまを作る作業を再開する。

 型紙作りを終わらせて煎餅をくわえた人形師は、空が悩んでいることに気がついた。
「なんや、どこかわからないとこでもあんのかいな」
「いえ、わからないと言いますか‥‥穂邑さんという友人のちまを作っているのですが、表情に合わせた体勢をとらせたくて。けれどいきなり難しいのに挑戦してもうまく作れなければ意味がありませんので、迷っているんです」
「体勢ねえ。例えば?」
「活発な感じか、正座した状態で柔らかな雰囲気を出すか‥‥」
 空は真剣だった。
 人形師は途中まで縫われたちまを空から受け取ると、恐らくここが膝っぽいというところで足を曲げた。膝というより足全体を付け根から曲げたように見える。「基本的にちまは足が短い」という、悲しい真実。
 空は活発な感じを選択した。
「おにーさん、これをちまの耳尻尾には使えぬじゃろうか?」
 そう言って禾室が差し出したのは、彼女自身の耳と尻尾の抜け毛だった。以前、同居人にちまを見せてもらった時から、自分のちまを作る際に耳と尻尾の再現に困らぬようにと、集めては消毒して保存していたものだという。
「ほれ、わし、この通り神威じゃからして」
「そうやなぁ‥‥例えば絹の素材は蚕の繭やろ。あれとおんなじやって考えればいけるんちゃう? 手入れは大変かもしれんけど」
「手入れか、わかった。そこは怠らぬようにしよう」
 実際にはどうしたかというと、まさか糊で貼り付けるわけにもいかず、複数の束に毛を分けて縫いつけてから、ハサミ等も用いて成形していくことになった。
「あなたは誰のちまを作っているの?」
「え、あっ、ふ‥‥双子の弟のちまを‥‥」
 カオルが沙輝の手元を覗き込む。同じ年頃ゆえか興味を引かれたのだろう。そして、沙輝の答えを聞くや否や、ぱっと表情を輝かせた。
「あなたも双子なのね! あたしのところは兄だけど‥‥まあ、順番なんてどうだっていいわよね。双子は双子だわ!」
 勢いに気おされて動きが固まった沙輝の手をとり、上下に振る。仲間を見つけたことで興奮している。沙輝はますます動けない。
「そういえば、カオル殿の兄上はどんなお人なのじゃ?」
 代わりに禾室が首だけこちらに向けて質問を飛ばしてきた。
「どんな人かって‥‥そうねえ。基本的には要領がいいんだけど、面倒くさいことをどんどん押し付けられちゃうくらいお人よしね。あと、じじくさいわ。お茶請けは何がいいかって聞くと、漬物って答えが返ってくるのよ。お菓子じゃなくて」
「お菓子よりお漬物‥‥それは確かに、じ――あ、いえ、その」
「そこまで言えるほど仲が良いのじゃのう。わしは兄弟おらぬから羨ましいのじゃ」
「嬢ちゃんたち、手が止まってんぞー」
 北斗と小豆の量を調節していた人形師から注意が入り、三人ははーい、と揃って応答する。それから顔を見合わせ、くすくすと笑いあい、また注意された。

●完成!
 木箱の上にちまが光臨する。

 胸をはり、長い髪をたなびかせ笑顔でまっすぐに前を向くほむらちま。
 布製の角がおでこに陣取る、活発そうというかいたずら大好きそうな、しゅてんちま。
 水色のおかっぱ頭のてっぺんからひょっこりアホ毛が天を指す、女の子のちま。マント付。
 藍色の立派な翼を持ち、今にもばびゅんっと羽ばたかんとする駿龍のめのうちま。
 小豆の詰め物が心地よい尻尾を持つたぬきの着ぐるみを身にまとった、本人の雰囲気そのままなたれたぬきちま。
 レースたっぷりでペチコートも完備した、黒を基調としたドレス+ヘッドドレスのけろりーぬちま。
 本物の毛を使用して本物の感触を実現。木製のおたまを持った、たぬき神威人かむろちま。
 顔はそっくり、見分けるポイントは沙輝のさらさら黒髪と異なるツンツンヘアな、双子のおとうとちま。
 こちらのそっくり加減はそこまでではないけれど、醸し出す雰囲気がなんか似ている、カオルのおにいさんちま。

「こうして並ぶと壮観ですね‥‥」
 自分以外の者が作ったちまを見てみたいと思っていた空は、実際に目の当たりにして感嘆のため息をついた。みんなで一緒に作ったのだからみんなでお披露目しあうのである。
 柚乃は実物よりも可愛らしくなったしゅてんちまに、自分よくやったと笑みを浮かべる。けれどその心中は決してそれだけでは、穏やかでは、ないようで。
「開拓者としての道を選んだのは自分。いつ、何処で…最期を迎えるかわからない‥‥コトは覚悟してる。でも‥‥」
 ぽそりぽそりと、誰にともなくつぶやきうつむく姿は寂しげに肩を落とす。
「やっぱり怖いね‥‥」
 それでも完成披露会に水をささぬようにと顔を上げれば、しゅてんちまは誇らしげに立っている。せめてもの自分の為のお守として、肌身離さず持っていよう。柚乃は改めて決意した。
「‥‥うん、この感じ‥‥」
 沙輝がおとうとちまの頭を撫でる。手に当たるチクチク具合が嬉しくて、切なくて、懐かしかった。ハリのある糸をいくつも何度も触ってから選んで、正解だった。
「この縫い目‥‥前回よりは幾分まっすぐ、よね‥‥。この調子で実践を重ねていけば、あたしってばすぐに裁縫上手になれるわ」
 隣ではカオルが自画自賛しているが、最初の水準がお察しくださいのため、誰もが大きくうなずくところまで上達するには多くの時間を必要とするだろう。その時間をどれだけ短縮できるかは、自身の努力の度合いによるけども。
「似てるかは俺以外に誰もわからんが、初めてでもやっぱ勘でいけるもんだな」
「追加で色々付け足そうとしなければ基本的な技術だけで作れる、それがちまやからな」
 子どもらしく飛び切りの笑顔で見上げてくる女の子のちまに、作成者である紫狼も満足げ。そんな紫狼に人形師も満足げ。
「さすがに瑪瑙の綺麗な虹彩は再現できなかったわねぇ。今後に改造の余地アリ、かしら」
 めのうちまはくりっとした黒いおめめ。本物の瑪瑙は、まさに宝石の瑪瑙のような、縞の入った綺麗な瞳をしているのだという。見合うものは人形師も所持していなかったし、その辺の店で気軽に買えるものでもないだろう。それこそ本物の宝石が必要かもしれない。
「さくらちまの着物も作れなかったし‥‥」
「手間のかかる型紙を作らせたこと、忘れんといてやー」
「ま、そうねぇ。ももちまの巻物を追加で作れただけでもヨシとしなきゃね。次の機会に期待しておくわ」
 前回に作成したしばわんこちまに持たせるための、小さな巻物を、桜は手のひらの上で転がす。開けば小さな文字で「ばんせんしゅうかい」と書いてある力作だ。
 次回のちまつくりはいつになるのかと桜が人形師に尋ねようとしたところで、その脇から北斗と禾室が顔を出す。
「その時はおいらにも見せてほしいのだぁ〜。他の人の作り方を見せてもらうのは勉強になるのだぁ〜」
「うむっ! わしもぜひ同席させてもらうとしよう!」
 たぬきつながりでいつの間にやら仲良くなったふたりは、もっともっと交流を深めようと積極的だ。禾室のゆらゆら揺れる尻尾が気になって仕方ない様子のカオルには、同じ女の子どうしだし、優しくしてくれるならと尻尾を預ける。
「ああっ、もふもふ‥‥もふもふしてるわ!」
「もふら様とはまた違った感触じゃが、手触りには自信があるぞ」
「いいなあ‥‥柚乃にももふもふさせてくれる?」
「もちろんじゃ、順番にの」
 ちまつくりという大きな作業を終わらせたことで身近なもふもふに目を向ける余裕が出来たようだ。カオルに誘われた沙輝も交えてきゃっきゃうふふする少女たちに紫狼が目を光らせたが、その両隣をすかさず桜と北斗が押さえ、少女たちと紫狼との間に空が入る。
「今日はロールケーキを作ってきたんですの☆」
 紫狼が身動きをとれずにいる間に、紅茶と岩清水で囲んで冷やしておいたケーキとで、ケロリーナがおやつの準備を整える。
「おにいちゃん喜んでくれるとイイわね♪」
「このあたしが頑張ったんだもの、喜んでくれないようならお仕置きが必要だわ!」
 それぞれの膝にそれぞれの作ったちまを乗せて、完成祝賀会の始まり始まり。カオルは兄のちまを作ることができて、人形師はお財布が潤って、集まってくれたみんながにこにこして。なんだか、ちまたちも一緒にはしゃぎたそうにしているようだった。