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■オープニング本文 もうすぐバレンタインデー。大切な人に贈り物をする、ジルベリア伝来の行事だ。 「私のお店でも、やろうかなと思うの、贈り物の特別配達」 雑貨屋の看板娘、莉玖は幼馴染みの寛太に打ち明けた。 「色々なお店でやってるから、二番煎じになりそうなんだけどね」 「何を売るんだ?」 寛太の問いに、莉玖は困ったように笑った。 「まだ決定じゃないんだけど、――ぬいぐるみがいいかなぁ、って思ってるの。いろんな種類を用意して、小さな手紙を添えて」 楽しそうに話す莉玖を見て、寛太は口を尖らせた。 「‥‥お前は誰かにあげんの?」 「父様と母様にね」 莉玖は立ち上がって、寛太にお茶を淹れた。 「じゃあ千琉先生は?」 さりげなく言ったつもりが、声が裏返る。 「千琉先生?そうね、いつもお世話になっているし、何か贈ろうかな」 顔面を殴られたような顔をしている幼馴染みの様子に気づくこともなく、彼女は笑って構想を練り始めた。 「何のぬいぐるみがいいかなぁ。まずはもふらさまでしょ、それから兎と犬と猫と‥‥」 寛太は黙って茶をすすっていた。 ● それから一週間後、ぬいぐるみをたくさん用意した莉玖は、想像以上にたくさんの注文に顔をほころばせた。やっと注文が落ち着いたところで、彼女はぬいぐるみの仕分けをしようと思い立った。それらを保管している部屋に入った彼女は唖然とした。 ――ぬいぐるみが‥‥ない! がさがさと部屋を漁るが、他の商品はあるものの、かなり大きいはずのぬいぐるみの箱がどこにも見当たらない。焦って辺りを見回したとき、莉玖は一枚の紙が落ちているのを見つけた。 ぬいぐるみはいただいた。 返してほしければ贈り物を捧げろ。 何度裏返しても、それ以外何も書かれていない。差出人の名前すらない。さっぱり意味がわからなかった。とりあえずわかるのは‥‥ 「‥‥盗まれた、ってことよね‥‥」 そう言えばこの筆跡はどこかで見たことがあったような。しかし、しばらく考えてもよく思い出せなかった。誰の筆跡だったっけ――。 とにもかくにも、配達日はもうすぐだ。遅れるわけにはいかない。でも今からぬいぐるみを作るわけにもいかない。‥‥一刻も早く、探し出さなければ。 「‥‥とりあえず、開拓者ギルドに相談してみよう」 思い立った彼女は、ギルドに出向いて事情を説明したのだった。 |
■参加者一覧
巳斗(ia0966)
14歳・男・志
霧葉紫蓮(ia0982)
19歳・男・志
王禄丸(ia1236)
34歳・男・シ
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
四方山 連徳(ia1719)
17歳・女・陰
氷那(ia5383)
22歳・女・シ
雲母(ia6295)
20歳・女・陰
夏 麗華(ia9430)
27歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ● 莉玖はその日も、雑貨屋で雑用をこなしていた。彼女は仕事を心から楽しんでいるようで、その顔からは笑顔が絶えない。 「本当によく働いていらっしゃいますね、莉玖様は」 店を覗いた夏 麗華(ia9430)は感心したように呟いた。隣で通りを見渡す喪越(ia1670)もうんうんと頷く。 「ああいうセニョリータって、色恋沙汰にニブいもんだよな」 居合わせた面子は思わず苦笑した。 「あっ、莉玖さん休憩みたいです。行きましょうか」 巳斗(ia0966)が促す。話を聞く担当になった雲母(ia6295)、霧葉紫蓮(ia0982)、四方山 連徳(ia1719)は頷くと、連れだって雑貨屋に入った。 「あっ、いらっしゃいませ〜」 休憩で奥に入ろうとしていた莉玖は、扉の音に急いで振り向いた。 「拙者達は、貴方の依頼を受けた者でござるよ」 連徳を先頭に四人はそれぞれの名を告げ、会釈した。莉玖は合点がいったように頷くと、四人を奥の部屋に通した。巳斗が早速切り出した。 「最近、誰かにぬいぐるみの話をしましたか?」 「‥‥父と母に。あと、幼馴染みと、友達と、‥‥くらいですね」 莉玖はまさかその中に犯人がいるなどとは思っていないのだろう。続けて連徳が訊ねる。 「ぬいぐるみはどんな箱に入っていたのでござるか?」 「私が抱えられるくらいの木箱です。中身自体はぬいぐるみなので、そんなに重くはないですが」 「では、盗まれた当日のことだが。盗まれたのは昼か?夜か?」 雲母の問いに、莉玖は困惑したように眉を寄せた。 「多分‥‥昼、だと思います。あの倉庫、夜は門番がいるんです」 四人は顔を見合わせた。 「‥‥では、犯人に言いたいこと、などは?」 紫蓮が問う。少し考え込んでから、莉玖は囁いた。それを聞いた紫蓮は微笑んだ。 「もうひとつ聞いていいですか?――いや、莉玖さんの理想の男性像、なんて」 ちょっと参考にしたくて、と慌てて付け足した紫蓮に、莉玖はくすっと笑った。 「私の好みは、そうですね‥‥」 莉玖は一瞬黙って、苦笑した。 「色々と挙げればきりがないですけど、でも――いちばん大切なのは‥‥」 ● 向かいの団子屋で、氷那(ia5383)は通りに目を走らせた。隣にいた王禄丸(ia1236)が、あ、と呟く。 「あれ、犯人じゃないか」 指した先には、雑貨屋を覗く男の姿。明らかに覗き方が怪しい。 「そうね。麗華さん、行きましょうか」 麗華は頷いた。二人は連れだって、寛太と思しき男の前をゆっくり通り過ぎる。 「ねえ、知ってる?このお店の、莉玖さんの話」 「あ、商品のぬいぐるみが無くなって困っている、とか」 「そうそう。全く、誰がやったのかしらね」 その時、余りに自然な噂話に寛太がぎくっとしたのを、麗華は見逃さなかった。王禄丸は鼻で笑った。それと同時に、四人が雑貨屋から出てきた。巳斗が団子屋の四人に気づいて、笑いかけた。 「どうですか、寛太さん見つかりました?」 喪越は首肯する。 「店を覗いてった上に、セニョリータが困ってるって噂に動揺してる男がいた、多分あいつだ」 「依頼人の話を聞くと、やはり寛太が犯人だろうな」 「そうですね‥‥では、犯人の特定とぬいぐるみの捜索で分かれましょうか」 雲母の言葉に頷いた麗華が提案する。それをきっかけに、八人は半分に分かれて捜査を開始した。 ● 「すみません、少しお伺いしたいのですが」 氷那は道行く女性に声をかけた。 「大きな箱を幾つか運んでいる人って、見ませんでした?」 女性は首を横に振った。 「‥‥有難うございました」 連徳と雲母、麗華も訊いて回るが、なかなか有力な情報がない。夕暮れ時、一行が諦めかけた、その時だった。 「あ、そういえば、寛太が何か運んでなかったか?」 ある男性が、妻に向かって呟いた。妻は頷く。 「そうね、運んでたわ。一生懸命運んでたから、珍しくお父さんの手伝いでもしてるのかと思った」 四人は顔を見合わせた。 「その箱、どこに運んでいったかご存知ですか?」 「ええと‥‥確か、向こうだったわ」 女性が指したのは、寛太の家の方向だった。四人は一礼し、指された方向に向かって歩き出す。 「人が物を隠す時って、自分の見知った所に隠す事が多いと聞いた事があるけど」 氷那が考え考え呟く。麗華も首を傾げた。 「犯人にとって、行きやすくて取り出しやすいところですよね‥‥」 「‥‥本当、面倒なことをしてくれる犯人だ。これは鉄拳制裁かな」 雲母は不敵な笑みで拳を鳴らす。ごくりと唾を飲んだ連徳は慌てて言った。 「‥‥とりあえず、彼の家をあたってみるでござるー」 ● 一方の犯人特定班は団子屋にいた。 「じゃっ巳斗、お着替えヨロシク!」 喪越はどこから出してきたのか、女物の着物を満面の笑みで差し出す。 「え、ちょ‥‥何でボクが!」 言いながらも、ちゃっかり着物を受け取る巳斗。紫蓮はその肩をぽんと叩く。 「ほら、女性陣は全員聞き込み班だし。――そういう定めなんだよ、みーすけ」 かくり、と巳斗は、しかし少し嬉しそうに項垂れた。 団子屋の一室を借りて着替えた巳斗は、もはや女の子だった。喪越は口笛を吹いた。王禄丸も思わず苦笑を漏らす。 「‥‥女にも勝る女ぶりだな」 その時、ちょうど寛太が自宅から出てきた。紫蓮に背を押され、巳斗は飛び出した。慣れた仕草で歩いていく。寛太の目の前で、巳斗は器用に転んだ。 「わ、大丈夫っすか?」 「痛‥‥っ」 寛太は巳斗を助け起こした。 「有難うこざいます‥‥あの、宜しければお名前を教えて頂けませんか?」 顔を微かに赤らめ、もじもじしながら巳斗は紙と筆記具を差し出す。愛らしい少女を前に、寛太は満更でもない様子だ。 「‥‥さすが、凄い演技力だ」 王禄丸は再び苦笑した。全てを終えた巳斗がぱたぱたと駆け寄ってくる。 「終わりました‥‥どうですか?」 巳斗は預かっていた犯行状と、先程の筆跡を並べてみせた。紫蓮は不敵な笑みを浮かべた。 「同一人物だな、間違いない」 ● 「大きな箱を四つ?ああ、お預かりしてました」 寛太の実家へ赴くと、出てきたのは寛太の長兄だった。 「でも一昨日、寛太が持って行きましたよ。知り合いからの預かり物だと」 一同は顔を見合わせた。 「どこに持って行ったか分かりますか?」 長兄は残念そうに首を横に振った。 「自宅に無いなら、あとはどこに‥‥」 麗華は首を傾げた。 「どこにしろ、そんなに遠くへは持って行けないはずでござるよ」 連徳の呟きに、氷那が頷く。 「そうね。この辺で、もう一度聞き込みを――」 その時、何処かから怒鳴り声がしたかと思うと、ぽーんと一人の男が飛んできた。 「あんた何でこんなの預かったんだよ?しかも四つも!邪魔じゃないか!」 「友達の頼みだし仕方ねーだろ」 「何だい、妻より友達が大切ってのかい!」 ぴしゃん、という激しい音と共に戸が閉まる。その前には一人の男が転がっていた。 「あの‥‥大丈夫ですか?」 麗華が助け起こす。男は恥ずかしそうに頭を掻いた。 「いやー、申し訳ない。夫婦喧嘩でね」 男は苦笑した。しかし、氷那の目は違うものを捉えていた。 「これ‥‥!」 「あー、友達から預かったんだよ、何の箱だかわかんねーんだけどさ」 「‥‥友達、ってもしや寛太さんでござるか?」 連徳の言葉に、男は目を丸くした。 「へえ、よくご存知で。一昨日運んできたんだが、家内の気に入らなくてな」 四人は顔を見合わせた。 「‥‥実は、この箱を探していたんだ。預かってもいいか?」 銜えた煙管を揺らしながら、雲母が問う。 「んー‥‥寛太のもんだからなあ」 四人は目線を交わした。刹那の沈黙の後、麗華が口を開いた。 「実は‥‥」 事情を話すと、男は豪快に笑った。 「何だ、馬鹿だなあいつ。――いいよ、持ってきな。どうせ邪魔だしよ」 ● 「さぁて、どーするよ?」 喪越はにやつきながら言った。やっと面白くなってきた。 「とりあえず、謝っていただかないと」 そう言った巳斗は女装したままだ。それに対する抵抗は皆無のようである。 「じゃあ、接触してみるか?」 色々言いたいこともあるし。と、紫蓮は微かに笑う。王禄丸もゆっくり頷いた。 四人は寛太の家に向かった。 「寛太さんとちょっとお話したいのですが」 どうぞ、と言って通された先は、なかなかに広い客間だった。骨董品であろう壷や掛軸、狸の置物まである。 「寛太を呼んできます。あ、物にはくれぐれも触れないでください」 狸を触ろうとしていた喪越は慌てて手を引っ込めた。青年は微笑んで出て行った。 「‥‥すごい家だ。余程金を持っているな」 王禄丸が呟いた。四人がきょろきょろしているうちに、申し訳程度に扉が開いて、すり抜けるように寛太が入ってきた。 「‥‥あ、あの、な、何のご用でしょうか」 明らかに声が裏返っている。 「‥‥あんたなんだろ、莉玖のぬいぐるみ盗んだのは」 紫蓮はゆっくりと言った。寛太は噛み締めるように俯くと、椅子にへたり込んだ。 「‥‥そう、犯人は‥‥俺、です」 喪越はそんな寛太の肩をぽんと叩く。 「莉玖に熱いパッションを抱いてるからってさ、盗みはだめだろー、な?」 寛太は小さく頷く。 「しかしまあ、『頑張れば一人でも運べる荷物』を4つもとは、存外に努力はしているな。あまり意味はないが」 最後の一言にぐさっと来た寛太はまたさらに項垂れた。 「寛太さん、反省する気持ちがあるなら、謝ってください。莉玖さんなら許してくれますよ」 巳斗が優しく言った。 「でも‥‥」 渋る寛太。きっと嫌われるのを恐れているのだろう。紫蓮は溜め息と共に『切り札』を出した。 「『あなたにも何か理由があるんですよね。だから怒りませんよ』――犯人に向け、莉玖はこう言っていた」 「犯人にさえこんな優しい言葉かけてくれてる莉玖セニョリータだ。幼馴染みのてめぇの事、嫌うわけねぇだろ?」 喪越は笑った。 「‥‥明日の朝、謝る気があれば団子屋に来い。莉玖も呼んでおく」 王禄丸のその言葉を最後に、一同はその場を去った。 「あとは明日、寛太さんがどう出るかですが‥‥」 「ま、来るだろーなありゃ」 喪越は気楽に呟く。その後、通りの向こうからやってきたぬいぐるみ捜索班と合流し、一行は箱を雑貨屋に運んだ。 ● ぬいぐるみが無事見つかったことを報告すると、莉玖は安堵の笑みを見せた。 「よかった、。これなら配達も間に合いそうです」 それから犯人の事だが、と王禄丸が切り出す。 「明日の朝、向かいの団子屋で謝りたいそうだ。行ってくれるか?」 もちろん、と莉玖は微笑んだ。 ――その夜、夜道を散歩していた寛太の前に、世にも恐ろしい百目の怪物が現れたという噂が、後日広まった。 「‥‥悪事には罰を持って対処する‥‥存分に後悔するがいい‥‥」 その言葉を耳に残し、怪物はにたり、と笑った。その怪物が彼に何を施したのか、知っているのは当人のみである――。 翌朝、莉玖が団子屋に行くと、寛太が縮こまって座っていた。 「あれ、寛太?どうしたのこんな早くに」 ごくり、と唾を飲む。言えるだろうか。言えない。いや言わなければ。 「‥‥あの、さ‥‥‥‥」 少しの沈黙。莉玖は純真な目で寛太を見つめている。まさか幼馴染みが犯人だなんて思っていないのだろう。寛太は今更ながら胸が痛んだ。 「‥‥‥‥‥ぬいぐるみ盗んだの、俺なんだ」 「‥‥え?」 「千琉先生に、贈り物するって聞いて、やきもち焼いちゃってさ。俺も贈り物が欲しくて、その‥‥後先考えず‥‥」 ぼそぼそ呟いたが、それがただの言い訳に過ぎないことは本人もよく分かっていた。 「‥‥ごめん、莉玖」 その言葉は、意外と素直に出てきてくれた。 「許してくれないかもしれないけど‥‥」 莉玖は俯き唇を噛み締めながら彼の言葉に耳を傾けていたが、最後の言葉に顔を上げた。 「‥‥何言ってるの、もちろん許すわ。――でも、二度とこんな馬鹿な事しないでね」 「‥‥ごめん」 寛太は項垂れた。しかし少し嬉しそうなのは、許してもらえたからだろう。 「‥‥ありがとう、寛太。正直に話してくれて」 俯いていた寛太が見上げると、今までと変わらない、莉玖の優しい笑顔がそこにあった。 「さあ、早くやっちゃいましょう」 巳斗が気合いを入れながら言った。隅で縮こまっている寛太の横では雲母がにやりと笑っていた。 「頑張ろうじゃないか。――悪人には人権が無いというのを知っているか?」 雲母は寛太の肩を叩きながら囁いた。銜えた煙管が愉快そうに揺れる。寛太は項垂れながら、不可抗力というものを実感していた。 「分担すればすぐに終わりますね」 麗華は箱を一つ開け、ぬいぐるみを取り出した。他の皆も、それぞれ仕分けを始めた。ぬいぐるみのふわふわさに、掻き立てられる煩悩を抑えるのがやっとだ。掃除の途中に見つけた読みかけの本のようだ、とは実に的を射た喩えである。 数刻後、全てを仕分け終え、次は配達に移行した。 「俺はこの店の近くを担当し、たくさん運ぼう」 王禄丸はたくさんのぬいぐるみを抱えて出発する。 「じゃあ私は逆に、遠いところを担当しますね。数は少なくなりますが」 氷那はぬいぐるみを幾つか手に取る。 「よろしくお願いします」 莉玖は礼をして、ぬいぐるみを抱えると軽やかな足取りで出て行った。 「ふう、何とか終わったでござる」 連徳は額をぬぐった。疲れの波が押し寄せる。 「疲れたな。まあ、この経験を糧に自らの放蕩ぶりを見直すんだな」 雲母は寛太を小突いて笑う。その言葉に、寛太はただこくりと頷いた。 「皆さん、お疲れ様でした」 莉玖は、部屋の奥からもふらのぬいぐるみを持ってきた。 「これはほんの気持ちです。――お世話になった皆さんに、感謝の気持ちを込めて」 そう言って、一人一人に差し出す。ぬいぐるみは九個あった。 「‥‥盗んだりしなくても、ちゃんと用意してたのに」 莉玖は苦笑しながら、寛太に最後の一個を差し出した。 「いつも相談に乗ってくれてありがとう、寛太。これからもよろしくね」 寛太は嬉しそうにもふらを抱きしめ、それまで居心地悪そうに固まっていた表情が少し緩ませた。 「贈り物、もらえたじゃん」 喪越が言ったが、寛太は周りを見渡すと俯いてしまった。 「でも、皆さんも同じのをもらってるし‥‥」 「‥‥おい、お前‥‥気づいてないのか?首」 唖然とした王禄丸の言葉に、寛太は自分のもふらの首をよく見てみた。桃色の飾り紐が結ばれている。それは、いつも莉玖がつけているのと同じ髪紐だった。 「てめぇは特別って事だろ。ひゅ〜ひゅ〜」 喪越の冷やかしに、寛太の顔は真っ赤だ。 「‥‥そうそう。莉玖の好み、聞いてみたんだ。――『私を想ってくれる人』、だと」 紫蓮は彼の耳許で囁きながら、にやりと笑った。 「確かに色んな面では、千琉に負けてるけどさ‥‥『想い』は誰にも負けないんじゃねーの」 飾り紐を見つめながら、寛太は真っ赤な顔で、嬉しそうに頷いた。 |