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■オープニング本文 一人の少女がるんるんと道を歩いていた。彼女の名は夢。もふらさまが大好きな七歳の女の子である。 「ふんっふふーんっ、らんららーんっ」 あまりに上機嫌なその様子に、近所のおばさんが微笑んで声をかけた。 「あら、夢ちゃん、今日もご機嫌ね。何かあったの?」 すると夢はおばさんの方へ振り返り、特大の笑顔で叫んだ。 「今日ね、もふらさまに会いに行くのーっっ!!」 その日の昼下がり。夢は前々からの約束通り、母にもふら牧場へ連れてきてもらった。人生初のもふら牧場。普段は道端などで見かけるだけだが、ここに来れば‥‥ 「もふらさまがいっぱーーいっ!!」 叫びながら、夢は目の前のもふらさま軍団に駆け寄った。もふもふの中に飛び込む。気持ちいい。 「こら、夢っ。あんまりはしゃがないの」 母の声も、夢中になっている娘の耳には殆ど届いていない。もふらさまを抱きしめ、頬を擦り寄せる。たまらない。 「かわいーっ‥‥‥‥あれ?」 もふ、もふ、と一匹のもふらの背を触りながら、夢は首を傾げた。 「これ‥‥もふらさまじゃない‥‥」 娘の小さな呟きに、母親が反応する。 「もふらさまじゃない?‥‥見せてみなさい」 夢が指したもふらさまは、よく見ると妙に眉が吊り上がっていた。 「‥‥こんなの、もふらさまじゃないよぅ‥‥っ」 泣きそうになる夢を、母親は優しく撫でる。 「泣かないの。牧場のおじさんに訊いてみましょう」 「えっ?眉が吊り上がったもふらさま?」 そんなのいませんよ、と牧場主が不審そうな顔をする。 「でも本当にいたんですよ。見てみてください」 母親に促され、仕方なしといった様子で重い腰を上げた牧場主。しかし、その光景を見て唖然とした。 「もふらさまが‥‥倍になっている‥‥!?」 朝見たときは五十匹あまりだったもふらさまが、今や百匹を超えている。 「見て、おじさん‥‥このもふらさま!」 夢が指したもふらさまは、耳が異様に長かった。その向こうには先ほどの吊り上がった眉のもふらさまもいる。 「これは‥‥話には聞いていたが、まさか‥‥!」 「‥‥何なんです?これは‥‥」 問う母親に、牧場主は暗い表情で呟いた。 「人から聞いた話に過ぎませんが‥‥多分これは、アヤカシの一種――ふらも、です」 |
■参加者一覧
瑞姫(ia0121)
17歳・女・巫
秋霜夜(ia0979)
14歳・女・泰
王禄丸(ia1236)
34歳・男・シ
スワンレイク(ia5416)
24歳・女・弓
アーニャ・ベルマン(ia5465)
22歳・女・弓
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
綾羽(ia6653)
24歳・女・巫
千羽夜(ia7831)
17歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●挨拶はもふもふで 「もふもふ〜♪」 笑顔で手を振りながら、秋霜夜(ia0979)は夢のもとへ駆け寄った。 「あなたが夢ちゃんですね?よろしくお願いします♪」 夢はたくさんやってきた開拓者に目を丸くした。 「――さぁ、もふ櫻ちゃん、一緒に頑張りましょう」 瑞姫(ia0121)が相棒のもふらに向かって微笑んだ。 「もふらさま倍増!という夢、打ち砕かれたからには容赦しませんわよ‥‥!」 そう言って闘志を燃やすのはスワンレイク(ia5416)。その隣で、千羽夜(ia7831)も握り拳をつくっていた。 「首を洗って待ってなさい、ふらも!!」 「‥‥夢ちゃんも、偽もふ退治に協力して下さいます?」 お礼はちゃんと此処に‥‥と、霜夜はもふらのぬいぐるみを取り出す。それを見た途端、夢の目がきらきらと輝いた。 「わぁ‥‥!」 「こんなもので釣るのはずるいかしら?」 微笑む霜夜に、夢はぶんぶんと首を横に振る。 「ううん!夢も、いっしょにがんばる!」 いい子ですね〜、とアーニャ・ベルマン(ia5465)が夢の頭を撫でる。 「夢ね、牧場のおじさんに、もふらさまのすきなたべもの、聞いてきたの!} ぺらりと出された紙を覗いて、スワンレイクはむ、と顔を顰める。 「‥‥どうやら果物が好きな様子ですわね」 「でしたら、牧場主さんに用意していただきましょうか」 アーニャが牧場主の方へ駆けていく。他の面子は夢と共に、もふらの元へと向かった。 ●見分けろ!もふら 「‥‥はぅ‥‥」 綾羽(ia6653)は、もふらさまの大群にめろめろになっていた。隣で雪斗(ia5470)が微笑む。 「可愛らしいけれど、もふらさまの偽物か‥‥ややこしいな」 「‥‥まあ、頑張るしかないってことだな」 王禄丸(ia1236)は頭を掻いた。 「よーし。隔離班、参りましょう!夢ちゃんも来てください〜」 霜夜が拳を突き上げた。おー!と、瑞姫、スワンレイク、綾羽が続く。 「さあ、このさらしを裂いて、紐にして‥‥」 豪快な音を立てて、二枚のさらしを細かい紐にしていく。その数約五十。 「これで、本物のもふらさまに印をつけるのです!」 「早速始めますわっ」 スワンレイクは手近なもふらを凝視した。 「んー‥‥この子は大丈夫そうですわね」 「この子は本物ですっ」 綾羽が瘴索結界で確認した後、手際よくもふもふの毛に紐を結んでいく。 「さて、行きましょうか」 「こっちもふよ〜」 瑞姫ともふ櫻が先導し、仕分けられた本物を遠くへ移動させた。純粋なもふらはてくてくとついて行く。 その時、霜夜がはいっ、と挙手をした。 「ここであたし、もふらさまの好奇心と優しさを頼ってみます〜」 言うや否や、彼女はもふらの面を付けて辺りを走り出す。 「もふらさま、こちらですよ〜」 もふらさまの前を駆ければ、好奇心旺盛なもふらさま達は彼女を追いかける。 「待つもふよ〜」 「置いていかないでほしいもふ〜」 てけてけ、とたくさんのもふらさまが後を追う様子はまさに『癒し』―― 「ほわ〜。かわいいのです〜」 果物を手に遠くから見ていたアーニャがふにゃりと笑う。 その後暫く駆け回った霜夜は、急にぱたりと倒れた。これも作戦のうちなのだが、そんなことは知らないもふらさまは大慌て。 「わぁ、大丈夫もふか!?」 「大変もふ!起きるもふ!」 わらわらと霜夜の周りに集まってくる。 「――今です、紐を!」 彼女が小さく叫ぶと、他の面子が次々と紐を結んでいく。もふらさまには次々印が付けられ、瑞姫ともふ櫻がそれを誘導した。 (「うふふ‥‥もふもふまみれで幸せ〜」) 思わずにやける顔を押さえながら、霜夜はもふもふの中に沈んでいた。 その作戦が終了した時点で、スワンレイクは隔離されたもふらさまを数えた。 「ふぅ、これで四十五匹は隔離完了ですのよ!」 「全部で五一匹とのこと。あと十六匹です!」 叫ぶと、アーニャはもふもふ集団に駆け寄って、もらってきた果物の山を地面に置いた。 今すぐもふりたい衝動に駆られながら、もふりはあとでもふりはあとで‥‥と言い聞かせて、少しその場を離れた。 果物をほおばるもふらさま達。その中に‥‥ (「‥‥紫の瘴気!」) 食べた後、紫の瘴気を出すのはアヤカシだということだ。しかし、その場で倒せばもふらさまが怖がってしまう。偽物は放置で、とりあえずは本物の別離を。 「世間の目を欺けても、私の目は欺けませんよ〜」 残念でした、とアーニャは笑った。続いて、討伐班で分担して紐を縛る。 「ここまで来ると、さすがに紫の瘴気だらけ‥‥ですね」 雪斗が苦笑いを漏らす。千羽夜も唇を尖らせる。 「本物のもふらさまの方が断然少ないわね」 一方、綾羽は瘴索結界を使いながら目を皿のようにしてもふらさまを探した。 「またアヤカシ‥‥これも‥‥」 【分け入っても分け入っても偽もふら】状態に陥りながら、綾羽はがっくりと肩を落とす。 その状況はスワンレイクも一緒だった。 「くぅ‥‥どれもこれも、全部偽物なのですわ‥‥!」 さすがに、偽物五十数匹の中で本物十数匹は見つけづらい。 「瑞姫さん!あと何匹かわかりますー?」 霜夜の叫び声に、暫くして瑞姫からの返答が帰ってくる。 「あと十一匹です!」 さっきから五匹しか減ってない、と少し落胆しながら、彼らはまた捜索を始めた。 ――もふらさまを傷つけるかもしれない危険分子・ふらも、絶対に懲らしめるんだから! 「おねえちゃん!これ、本物だよ!」 夢が地道に見分けていく。綾羽が瘴索結界で確認して、紐を結んだ。 「そうよ、夢ちゃんが頑張ってるんだから‥‥もふらぶぱわーで頑張りますのよ!」 スワンレイクがくわっと叫んだ。 「やりますわよーっ!」 ●これはもふらさまじゃない 数十分後、彼らの格闘の末、五十一匹のもふらさま全てが隔離された。 「あとはお願いいたしますね」 綾羽が微笑む。雪斗は頷きながら苦笑した。 「随分広いな‥‥これは骨が折れそうだ」 「さて。偽物相手なら、怖がらせても問題ないな?」 王禄丸は呟いて、牛面を装着する。仮面の奥で、王禄丸の目がにやりと笑った。 「さて、やりましょうかっ」 アーニャは気合いを入れながら、偽物に向かって弓を引く。ああ、愛しのもふらさまに矢を‥‥いや違うあれは偽物。 (「奴らは可愛さで人を油断させて、捕って食うつもりなのですよ‥‥!」) 自分に言い聞かせながら、アーニャは心の中で葛藤していた。 (「あれは擬態しているだけのアヤカシ‥‥全然可愛くない、全然可愛くない‥‥可愛くない可愛くない可愛くないぃぃ‥‥っ」) 自分を洗脳しながら、逃げるふらもを即射で射抜く。 (「ぜんっぜん、可愛くないんだから――――!」) 一方の王禄丸はそんな躊躇いなど全くなく、一匹一匹確実に斧を振り下ろしていく。 その姿は、まるでアヤカシがもふらさまを襲っているようにも見えなくもない。ふらもが可哀想になってきた、と少し遠くから見ていた雪斗は思う。 「‥‥普段手をあげてはいけない相手であるだけに、こう、微妙な罪悪感が‥‥」 呟いてから、王禄丸は雪斗の妙な視線に気づいた。多少遠慮がちではあれど、明らかに疑惑の目。 「‥‥本当だぞ。表情は見せないが」 ふい、と顔を逸らし、またもう一匹のふらもに斧を振り下ろす。 (「その作業のどこに罪悪感があるんだ――――!」) 急いで目を反らし、雪斗は弓を引くことに集中しようと試みた。しかし暫くして、また恐ろしい言葉が聞こえてくる。 「もふらって、臆病ですぐに逃げる習性がなかったか?怖がらせれば早かったような‥‥」 そう呟いて、王禄丸はふ、と笑う。雪斗は衝撃を受けて大きな牛面を見つめた。 最後に「さすがにそれは人道に反するか‥‥」と苦笑いしたことなど、彼の耳には入っていない。 ――怖い、怖すぎる。絶対敵に回したくない。雪斗は切実にそう思った。 (「あの長すぎる耳‥‥後ろ姿からして明らかにふらもね」) そう考えながら近づく千羽夜。少し楽しそうに見えるのは御愛嬌である。 (「どんな顔か拝んでみようかしら‥‥きっと顔だって可愛くな――」) その刹那、彼女は胸を押さえて微かに仰け反る。 (「かっ、可愛い――――――!」) きゃーっとまた黄色い声を上げて、彼女はその長い耳をもふった。長い形状は気味が悪いが、確かに触り心地はもふらである。 「耳までもふもふなんてもう最高‥‥きゃあっ!」 ビンタ‥‥!耳でビンタされた‥‥!! 千羽夜は打たれた頬を押さえ、精神的衝撃でふるふると震えていた。 「や、やったわね‥‥もう騙されないわよ?」 もふもふはぜんっぜん痛くない凶器なんだから、と彼女はガビシを構える。 「覚悟なさい‥‥もふらぶぱわー、全開っ!!」 スワンレイクがこの言葉を開発したことを喜びながら、彼女は打剣を使ってガビシをふらもに巻き付ける。それで手繰り寄せたところに、刀を叩きつける。その一撃一撃にもふら愛がつまっている。 (「もふらさま、待っててね――――!」) 今すぐ終わらせて、もふりに行くんだから! 彼女は終了後のもふタイムを思い浮かべて、幸せな気分になりながら刀を振るった。 「‥‥何だか騒がしいですね‥‥?」 討伐班の方を見やりながら、綾羽が首を傾げる。悲鳴というより、寧ろ―― 「楽しそうじゃありませんこと?」 スワンレイクが頭上にはてなを浮かべる。 夢は霜夜と一緒に、もふらさまを逃がさないという名目でもふらと戯れていた。 てくてくと瑞姫の方に歩いていくもふらを見て、夢が叫んだ。 「あっ、もふらさまそっち行っちゃだめ‥‥!」 「大丈夫ですよ、それは私のもふらさまですから」 ね、もふ櫻ちゃん?と微笑んで、彼女は自分のもふらを撫でた。 「大丈夫もふよ!もふ櫻も一緒に見張ってるもふ!」 その桜色の可愛らしい姿に、一同は思わず和んだ。 ●春のもふら 「やっと終わりました〜」 アーニャが額の汗を拭く。そんなに動いていないのに、敵がもふらさまの形だからなのか異常に疲れていた。普段の三倍以上の労力を費やした気さえする。 「お疲れ様。終わってみれば偽物って面白かったわね」 眉がつり上がったもの、耳の長いものは聞いていたが、まさかつり目、垂れ目、耳が無い、尖った耳、堅い毛、と見た目から違うものが多かったが、中にはわんっと吠えるものまでいた。 綾羽がぽむ、と手を叩いた。 「さあ、皆さんで復旧作業をいたしましょうか」 綾羽を先頭に、もふらに付いた紐を取ったり、乱れた柵を戻したり。 「‥‥よし、終わり!さっそくもふタイムよ〜!」 千羽夜が笑顔で飛び跳ねた。みんなもそれに乗じ、各自のもふタイムが始まった。 「夢ちゃん、もふらさまと一緒に散策しませんか?」 母親の許可を取ってから、霜夜が夢に向かって微笑んだ。夢は目をきらきらさせて、霜夜の手を握る。 「いいの?行きたい!」 アーニャも微笑む。千羽夜は夢のもう片方の手を取って歩き出す。 「さっ、行きましょうか♪」 「もふらさまとあまり遊んだことがない、だなんて‥‥もったいないですよ?」 綾羽は歩きながら、隣の雪斗に微笑みかける。雪斗は困ったような微笑みを返す。 「そうかな‥‥?」 微笑みと共に差し出された手に、雪斗は微かに頬を赤らめた。 「えぇと‥‥どうしても戯れると言うなら、ご一緒しようか」 手を握り、歩き出す。互いに頬を染める二人はあまりに初々しい。 「――こうやってですね、もふもふすると‥‥ほら、気持ちいいでしょう?」 草の上に座り込んで、綾羽は懸命にもふらの魅力を伝える。雪斗はその話に耳を傾け、少しではあるがもふらを触ったりし始める。――意外と可愛いものだ。 その間にも、もふらさまは綾羽の周りに群がってきていた。どんどん増えるもふらに、綾羽は困惑半分、恍惚半分だった。 「‥‥あら?あの、もふら様?私ではなく雪斗さんのほうに‥‥ぁぁぁ」 一方瑞姫は、もふ櫻といっしょにもふらさまに質問を投げかけていた。同人誌に使う為だ。 「もふらさま、食べ物は何が好きですか?」 そこにわらわらと集まってきたもふらが、一斉に答え始めた。 「そうもふね〜、僕はりんごがすきもふ!」 「ここの牧場のご主人はいっぱい果物をくれるから好きもふ!」 「僕は野菜の方が好きもふよ!」 くらくらしながら、瑞姫は喜んでメモを取った。 それが済んだら、今度は昼寝だ。 あたたかな春の日差しに包まれて、もこもこのもふらさまに顔を埋めれば、太陽の匂いがする。 (「あぁ、幸せです‥‥」) 至福の時を過ごしながら、彼女はうとうとと眠りに落ちた。 その横で、スワンレイクももふもふパラダイスを味わっていた。 「うふふ。もふらさまがいっぱいなのですわ!」 周りに寝転がるもふらさまを眺めながら、彼女はもふらさまの毛を梳いてあげている。 もふもふの彼らは、存在するだけで彼女に元気を与えるようで。 「もふらぶぱわー充填完了、ですのよ」 彼女の笑顔は、ここに来る前よりもさらに輝きを増した。 仮面を外した王禄丸は、戯れるもふらと皆を眺めながら、のんびり一服していた。 「もふら型のアヤカシがいる、ということは、式神をあの形にできれば、一匹八万文‥‥新手の詐欺だな」 さっさとギルドに報告しておこう――こんなうららかな日差しの中、可愛いもふらさまの大群を目の前にして、そんな事を考えられる人が他にどこにいよう。 しかし本人は上機嫌で、家族への土産物を探しながら、彼もまた春の午後を愉しんだのであった。 「夢ちゃんはもふらさまのどこが一番好き?」 「んー、もふもふなところ!」 千羽夜の問いに、夢は楽しそうに答えた。それを聞いて彼女は微笑む。 「私もよ。しかも可愛いし、文句なしよね」 広い牧場は、歩いているだけで気持ちがいい。 青い空、白い雲。爽やかな春の風。 そして、もふらさま。 まさに天国のような情景だった。 「あ、あのもふらさまなら乗れそうですよ!」 アーニャは大きいもふらにぱたぱたと駆け寄る。顔をのぞき込んで、彼女は遠慮がちに訊いた。 「‥‥背中、乗ってもいいですか?」 「いいもふよ〜」 やったとばかり、彼女はゆっくりと乗ってみる。何て気持ちがいいんだろう。 「夢ちゃんも乗ってみますか?」 「うん!」 もふらの許可を得て、夢ももふらの背に乗る。 「すごくきもちいいねっ!」 夢がけたけたと笑う。もふらさまに乗れるなんて思っても見なかったのだろう。その様子を見て、千羽夜が微笑む。急にしゃがんだ霜夜は、あるものを手にとって夢に差し出した。 「ふきのとうだ‥‥!」 差し出されたのは、綺麗な色のふきのとう。薄緑の花は、見ているだけで春風が吹き抜けるように爽やかだ。 「もう、春が来たのですね‥‥」 小さいところに感じる春。 もふらと戯れるのもいいけれど、春を感じるのもいいものだ。 微笑みながらもふらと共に眠る彼女達の寝顔は、春の日差しのように柔らかく優しげだった。 |