炸裂、果菜回転割断撃!
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/06 22:27



■オープニング本文

「……何だよ『コレ』は」
 畑仕事に来た中年男性が、驚愕の声を漏らしながら茫然と立ち尽くす。視線の先にあるのは…直径5m程の、巨大なスイカ。それが、畑の作物を全て押し潰し潰して鎮座している。
「冗談じゃねぇ! 俺の畑に何すんだ!」
 怒りの声と共に農耕具を投げ、男性はスイカに向かって駆け出す。その距離が10mまで近付いた直後、スイカから無数のタネが放たれた。
「え? うわ、おぉ!?」
 弾丸の如く飛来するタネが、男性の全身を打ち付ける。大した威力は無いが、こうも掃射されてたら近付く事も出来ない。奇声を発しながら、男性は地面を転がるように距離を離した。その距離が10m以上になると、唐突に射撃が止まる。
「はぁ…はぁ……何なんだよ、この危険なスイカは!」
 全身切り傷だらけになりながら、男性が叫んだ。目の前にあるモノは、常識を完全に無視している。その大きさも、タネの射撃も、非常識極まりない。
 気付いた時には、周囲は野次馬で囲まれていた。その中から、物腰の柔らかい老人が中年男性に歩み寄る。
「大丈夫ですか? 失礼ながら、貴方の行動は見せて頂きました。ここは…『果菜回転割断撃』を使うしかありません!」
 老人の言葉に、周囲から驚愕の声が上がる。勿論、中年男性も例外ではない。
「ちょっと待てよ村長! この村に、あれを使える奴は居ねぇぞ!?」
 村長と呼ばれた老人は、膝を付いて男性の肩を叩く。そのまま、口元に不敵な笑みを浮かべた。
「ですから、我々ではなく開拓者の方にお願いするのです。あの人達なら、きっと『果菜回転割断撃』を使えるハズです」
「なるほど…確かに、あいつらだったら…!」
 男性の瞳に、希望の光が灯る。こうして、前代未聞の珍事件を解決するために、ギルドに依頼が申請された。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
Kyrie(ib5916
23歳・男・陰
アムルタート(ib6632
16歳・女・ジ
エルレーン(ib7455
18歳・女・志
響 大地(ib9813
22歳・男・吟
土岐(ib9815
22歳・男・吟
緋乃宮 白月(ib9855
15歳・男・泰


■リプレイ本文

●西瓜の怪
 夏の太陽を燦々と浴び、スクスクと育った巨大西瓜。周囲の作物は潰され、養分を吸われたように枯れている。タネの射撃と、作物の枯渇…二段構えで恐怖を与える事が、アヤカシの狙いなのだろう。
「『果菜回転割断撃』だと…? スイカ割りと偽り、人目を忍んで伝承されてきたと聞くが…まさか、実在していたとはな」
 腕を組んで、一人思案にふける羅喉丸(ia0347)。彼は、儀式について何かを勘違いしているような気がしてならない。
「……えーと、要は超真剣スイカ割りって事ですね? 『スイカ割り』って事ですよね?」
 大事な事を確認するように、2回問い掛けるペケ(ia5365)。儀式の内容だけを見れば、スイカ割りと言えない事もないが…その辺りは、ツッコんだら負けである。
「まぁまぁ、ペケちゃん。ここでは『果菜回転割断撃』らしいからさ。思いっきり叩き割って、今年の夏を締めくくろうか」
 爽やかに微笑みながら、響 大地(ib9813)がフォローを入れる。にこやかな表情で、棒を手でバシバシ叩いている姿は、若干怖い。
「ずいぶん……大きなスイカですね。僕の力で割れるかな…?」
 畑の西瓜を見上げながら、目を丸くする緋乃宮 白月(ib9855)。いつもはクネクネ動いている尻尾が、珍しくピンッと立っている。
「タネをうちだすスイカさん…うーん、うまく使えば、大砲の代わりになるのかなあ?」
 同じように西瓜を眺めるエルレーン(ib7455)だが、感想は白月と全く違う。発想自体は、なかなかユニークで面白いが…。
「いや、無理だろ。あんな奇奇怪怪な西瓜、さっさとブッ倒してやろうぜ!」
 バッサリと意見を却下する土岐(ib9815)。元々無理だと思っていたのか、エルレーンは明るく笑っている。
 土岐は不敵な笑みを浮かべながら、右腕を回した。どうやら、ヤル気は充分なようだ。
 全員の士気が高まる中、不意に金属音が連続で響く。音の先に居たのは、Kyrie(ib5916)。盾を構えながらゆっくりと敵に接近し、種が飛んで来るギリギリの位置を測定。地面に1m程度の棒を突き立て、場所を変えて再び接近。それを繰り返してアヤカシの周囲を1周し、簡易的な柵を構築した。
「この荒縄の内側には、入らないようお願いします。これ以上接近しては、危険ですからね」
 Kyrieは周囲に集まった村人に対して礼儀正しく頭を下げると、重厚なテノールの声で注意を促す。
「今からスイ…・アヤカシ退治するから、こっち来ちゃだめだよ? お願い!」
 念を押すように、アムルタート(ib6632)が村人達に向かって叫んだ。彼女のような可憐な少女にお願いされたら、誰でも言う事を聞きそうである。
 村長の指示で開拓者達に手拭が渡されると、8人はそれを受け取って2列に並ぶ。村人達の期待が高まる中、とうとう儀式が始まった。

●儀式、炸裂!
 各列の先頭は、羅喉丸とエルレーン。その後ろに、ペケと土岐が並んでいる。更に、その後ろにはKyrieと大地。最後尾は、アムルタートと白月である。
(手拭で視覚を封じる事で『心の目で見ろ』という事か。そして、右回りに5回半回転…まさか、龍脈より気を引き出して棒に込める儀式か!?)
 手拭で目を隠し、回転する羅喉丸。その考察は独特で斬新だが、他の開拓者が聞いたら爆笑を誘うかもしれない。
「羅喉丸さん、左に行き過ぎなのです! もっと右なのですよ!」
 目を回してフラフラと歩く羅喉丸を、ペケが的確に誘導する。羅喉丸は軽く頷き、地面を強く踏み締めた。
(第三者の指示に従うのは、己を捨て空となり、天地と一体化するためだろうな。これ程の奥義…人の身では90秒しか耐えられぬという事か)
 90秒という時間を有効に使い、確実に目標に近付いていく。対照的に、エルレーンと土岐は…。
「まっすぐ行けー。敵は目の前だぞー」
 気楽に、大雑把な指示を出す土岐。そのせいで、エルレーンは迷子気味だったりする。
「うぅ…あ、あたるかな…土岐さん、ここで大丈夫…ですか?」
 緊張しているのか、不安そうな声が口から漏れる。彼女は心眼のスキルを持っているが、ぐるんぐる回転した影響で意識を集中出来ずにいた。
「大丈夫だ。お前を、信じろ〜。敵は手も足も出せねぇからな」
 元々、西瓜に手足は無いが、そんなツッコミを入れている場合ではない。目標を大きく外れたエルレーンは、土岐の言葉を信じて棒を振り上げた。
「そこです! 振り下ろして下さい!」
 ほぼ同時に、ペケの指示が響く。その声に反応し、羅喉丸は天地と一体化するように棒を高く振り上げた。
「ちぇすとぉーーーーーーーーーーッッ!!」
 裂帛の気合と共に、エルレーンが全力で棒を振り下ろす。同様に、羅喉丸も棒を振り下ろした。両手に伝わる、何かを殴った手応え。期待に胸を躍らせながら手拭を外すと、エルレーンの表情が一瞬で落胆に変わった。
 彼女が殴ったのは、Kyrieが刺した棒。スタート直後から、西瓜とは全く違う方向に歩いていたのだ。見物に来ている村人に被害が無いのは、不幸中の幸いだが。
 羅喉丸の棒撃は西瓜に命中したが、固過ぎて割る事は出来なかったようだ。表面が一部ヘコんで、20cm程のヒビが走っているだけでも大したものである。
 タネの狙撃を受けないよう、2人は素早く柵の外側に脱出した。今度は、土岐とペケの番だ。
「それにしても……あのお化けスイカ、さっきから私の腰辺りを見ていやがるですね…」
 手で腰を隠しながら、警戒心を強めるペケ。無論、西瓜に目があるワケが無いが。
「妙にスケベ面ですし………はっ!! もしかして、私の弱点がバレたですか!?」
 ペケは驚愕の表情を浮かべ、自身の下着を押さえた。彼女の弱点…それは『トンでもないタイミングで下着が緩む』事なのだ。こんな大観衆の中で下着が解けたら……色んな意味で大惨事だろう。
「私には普通の西瓜にしか見えませんが…落ち着いていきましょう、ペケさん」
 彼女を落ち着かせるように優しく微笑み、そっと肩を叩くKyrie。ペケは笑みを返して頷くと、目隠しをして回転した。
 その隣では土岐と大地が若干口論しているようだが…見なかった事にしよう。
「2歩程右に移動し、そこから真っ直ぐです。多少の誤差は、私が調整します」
 Kyrieの的確で落ち着いた指示が、ペケを西瓜へと導く。足元はフラついているが、確実に距離は縮まっている。
 若干スタートが遅れた土岐も、ようやく準備を終えて柵の中に足を踏み入れた。
「土岐、右だ、右! 時間が無い、全力で走れっ!」
 軽く舌打ちしつつ、大地の指示に従って全力で駆ける土岐。彼と西瓜の距離が急速に近付き…。
 ドゴッ。
 2種類の鈍い音が、周囲に響いた。1つは、ペケが西瓜を殴打した音。皮が固過ぎるせいか、やはり両断は出来ない。羅喉丸とは違う位置に、10cm程度のヒビが入った。
 もう1つの音は…。
「テメェ! 誰が衝突するようにって頼みやがった!? テメェの耳は飾りか!」
 手拭を外し、土岐は怒りの形相を浮かべながら大地に向かって吠える。大地の指示に従った結果、土岐は西瓜に頭から激突したのだ。しかも、全速力で。
 当の本人は、悪びれる様子も無く爆笑している。土岐は『面白そうだ』という理由で大地に指示を頼んだが…違う意味で、面白い結果となってしまった。
 激突した事を知らないペケは、軽く小首を傾げながら柵を飛び越す。ほぼ同時に、土岐と大地に向かってタネが殺到した。失敗しても射程外に出なかったため、土岐は『侵入者』と認識されたのだろう。大地は、笑い過ぎて柵の内側に入ってしまったようだ。
 アヤカシの射撃が降り注ぐ中、畑の中に一陣の風が吹く。それが2人の体を抱き上げ、柵の外側に連れ出した。
「まったく…楽しむのは駄目とは言わないけど、2人共油断し過ぎ!」
 軽く眉間にシワを寄せながら、アムルタートは大地の額をツンッとつつく。風のように見えたのは、跳躍移動した彼女と、高速移動した羅喉丸。目にも止まらぬ早業で、2人を救出したのだ。
「同感だ。下手したら、蜂の巣だったな」
 苦笑いを浮かべながら、羅喉丸は土岐を優しく地面に下ろす。助けた2人も助けられた2人も軽傷程度で済んだのは、日頃の行いが良いからだろう。多分。
「響の馬鹿のせいで、手間掛けて悪かったな……『響の馬鹿』のせいでっ!」
 頭を下げ、素直に謝罪する土岐。元凶の名前を呼びながら怒りの視線を向けるが、大地はそれをキレイに無視している。
「申し訳無い。助かったよ、アムルタートちゃん♪」
 爽やかな笑みを浮かべながら、大地はアムルタートの手を取って甲にそっと口付けた。ここまでキザに決められると、逆に清々しいと思えてしまう。
「……まさか攻撃を喰らうとは思ってもいなかったな。あのスイカ…絶対に割ってやる」
 笑顔とは裏腹に、全身から黒い雰囲気を醸し出しているが…深く気にしないでおこう。そのままフルートを構え、武功を上げた者の曲を奏でて自分を奮い立たせる。
「売られた喧嘩は、買うのが礼儀だ。白月ちゃん、協力よろしくね?」
「はい…自信はありませんが、頑張ります…!」
 楽器を棒に持ち替え、大地は白月に声を掛けた。手拭をして回転し、西瓜に向かって1歩を踏み出す。
 その隣では、目隠しをしたKyrieが回転していた。5回転半し、若干フラつきながらも前に進む。
「もっと左に進路修正して下さい。焦らず、ゆっくりと」
 白月の指示で、大地は方向を修正していく。棒を握る手に、かなり力が入っているようだ。
「もうちょっと右回転〜…ストップ! そのまま前進! あと3歩左にずれて〜…そこぉ!!」
 目隠し状態なのに、回転を指示するアムルタート。それを実行するKyrieもKyrieだが。不意に、彼の口元に不敵な笑みが浮かんだ。
「ふ…ふふふ…うおおお最高だぜえええ!」
 気分が荒ぶったのか、両手を広げて天を仰ぎ、叫び声を上げるKyrie。そこに、普段の穏やかな面影は微塵も無い。
「Kyrie、まるで別人みたい…」
 アムルタートが怯えた声を漏らすのも当然だろう。その豹変ぶりに、誰もが言葉を失っている。
「イェアアア! ぶっ壊してやるァーッ!!」
 絶叫しながら、Kyrieは頭を激しく前後に揺らす。勢い余って、西瓜に何度も額を打ち付けた。衝撃で表皮が破れ、真っ赤な果汁が飛び散る。
 近くから聞こえる異音に若干戸惑いながらも、大地は恨みを込めて棒を振り下ろした。殴った箇所は、羅喉丸とペケが付けたヒビの中間辺り。2つのヒビが繋がり、大きな亀裂と化した。
 ダメージは蓄積しているが、頑丈さは想像以上である。未だ興奮状態のKyrieを引き連れ、大地は柵の外へ避難した。
「私の番、ですね。エルレーンさん、誘導お願いします」
 そう言って、白月は深々と頭を下げる。エルレーンが親指を立てて笑みを返すと、白月は手拭で目を覆って回転した。
 アムルタートも、目隠しをして規定回数回る。ほぼ同時に、2人は棒を構えて1歩を踏み出した。
「白月さん、右に3歩、なのっ。そのまま、まっすぐ…!」
 短く、分かり易い指示を心掛けるエルレーン。白月は尻尾を立ててクネクネと動かしながらも、スイカに向かって進んでいく。
「もう少し左だ。緋乃宮さんとぶつからないよう、気を付けてくれ」
 回転で足元が覚束ないアムルタートを、羅喉丸が導く。その指示に従い、彼女は進路を左に修正した。
「そこ! 2人とも、思いっきり振り下ろしちゃえ!」
 興奮し過ぎたのか、エルレーンが拳を握りながら叫ぶ。アムルタートと白月は思わず笑みを浮かべ、脚を止めた。
「くらえい! 果菜回転、割・断・撃!!」
「…果菜回転割断撃、いきます!」
 2人の叫びが重なる。全身全霊を以って、勢い良く棒を振り下ろすアムルタート。棒を握り直し、素早く鋭く振る白月。2つの殴打が同時にスイカを捉えると、仲間達が付けたヒビが全体に広がり、亀裂となって縦に伸びる。全員が見守る中、スイカは真っ二つに割れ、溢れ出す瘴気が空気に溶けていった。

●予想外の…?
 村人達から、大きな歓声が上がる。儀式が成功し、西瓜を撃破して貰えたのが相当嬉しいのだろう。
「すごい! カッコいい!! スタイリッシュ!!! 超楽しかったね〜♪」
 目をキラキラ輝かせ、ご機嫌な様子でクルクルと回るアムルタート。どうやら、果菜回転割断撃が気に入ったようだ。
「西瓜割りは楽しかったですが…『果菜回転割断撃』って、なんだか変わった技ですね」
 対照的に、白月は複雑な表情を浮かべている。彼女の言う通り、独特の儀式なのは否定出来ないが。
 エルレーンは砕けた西瓜におずおずと近寄り、タネを飛ばさない事を確認。そのまま、欠片を拾い上げて凝視する。
「うーん…どう見ても、普通のスイカ、なのにねぇ。私…スイカってタネが面倒くさいから、あんまりすきじゃないの」
 残念そうな表情を浮かべる彼女の隣では、羅喉丸が神妙な面持ちで西瓜を見下ろしていた。
「ここまでの破壊力を生みだすとは…真に恐るべきは、人の執念か」
 確かに、この儀式を最初に作り出した人物は凄いが…羅喉丸は、何かを激しく勘違いしているような気がしてならない。
 歓喜や思案に浸っている開拓者達に、突然村長が駆け寄って来た。
「開拓者の皆さん、ありがとうございます! お陰で助かりました!」
「礼には及びません。こちらこそ、興味深い儀式を体験出来た事、感謝致します」
 深々と頭を下げる村長に、礼儀正しく挨拶を返すKyrie。つい数分前の絶叫が嘘のようだ。
「どうやら、村人さん達も無事みたいですね。せっかくですし、スイカはみんなで美味しく頂くのです♪」
 ペケの提案に、湧き上がる一同。開拓者達が柵を撤去すると、村人達は西瓜の周囲に集まった。皆が西瓜を楽しむ中、土岐が勝利の曲を奏でる。
「オイ、村人共! 楽しかったぜ西瓜割り! わりぃが、長ったらしい名前は最後まで覚えられなかったぜ」
「相変わらず、鶏頭だね。おっと…お前と一緒にしたら、鶏に失礼だな」
 軽口を叩きながらも、土岐に合わせて演奏する大地。普段は喧嘩する事の多い2人だが、演奏の息はピッタリである。
「お取込み中申し訳ないのですが…少々、宜しいでしょうか?」
 スイカと演奏で盛り上がる中、村長が再び声を掛けて来た。開拓者達が視線を向けると、神妙な面持ちで咳払いをし、ゆっくりと口を開く。
「本来、『果菜回転割断撃』は門外不出の儀式なのです。ですから…」
 話しながら歩を進め、村長はアムルタートと白月の肩を強く叩いた。
「貴女達2人で、伝統を守りながら後世に伝えて下さい!」
 今日一番の盛り上がりを見せる村人達。代々村に伝わってきた儀式を、継承して伝承する者が現れたのが嬉しいのだろう。
 苦笑いを浮かべながら、顔を見合わせる開拓者達。このままでは、誰かが後継者にさせられてしまう。開拓者達はアイコンタクトを交わすと、村から逃げるように駆け出した。