ハウリング・ゴースト
マスター名:久冬
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/10/08 23:39



■オープニング本文

 ジルベリアのとある町。
 この町の住人たちは皆寝不足に苦しんでいた。
 その原因は、町にたたずむ古い廃屋敷にあった。
 
 月は陰り、霧のかかる夜更け。
 町には異様な声が響き渡っていた。
 嘆くような、哭するような、哀しく狂った悲鳴。嗚咽。
 声は廃屋敷から聞こえてくる。
 慟哭は風に乗って町を震わせ、夜が明けるまで延々と続いた。聞いているだけで胸の苦しくなるその声に、住民たちの眠りは妨げられていた。

 あるとき、町に住む若者たちが集まり、声の原因を調べようとした。
 屋敷の門は朽ち果て、壁一面に蔦が絡まっている。
「この屋敷だな‥‥ここに人は住んでないんだよな?」
「ああ、昔、ある金持ちが建てた家らしいんだが‥‥今は無人のはずだ」 
 大きな扉を開けて屋敷のなかへ入る若者たち。
 玄関間にはボロボロになった絵画や彫刻が散乱している。調度品もそのままに打ち捨てられたようだ。
 若者たちは破れた窓から差す光をたよりに奥へと進む。
「‥‥なぁ、なにか聞こえないか?」
 若者の一人がいった。
 皆、足を止めて耳を澄ます。
「聞こえるぞ‥‥啜り泣くような‥‥」
「馬鹿な。人がいるのか?」
 泣き声は廊下の最奥、大広間の扉の向こうから聞こえてくる。
「‥‥開けるぞ」
 扉を開け、なかへ入る若者たち。入ってすぐ、大広間の中央に人らしき黒い影がうずくまっているのを見つけた。 
 影は啼いている。
 若者の一人がそろそろと影に近づいた。
「お、おい、あんた‥‥」
 頭を上げた影は――。
「ひぃっ!」
 若者は恐怖の声を漏らす。
 若者に向かう顔――そこには目鼻口らしき虚な空洞があるだけで、人間の表情はなかった。
 そして同じような影がテーブルの下、カーテンの隙間からぞくぞくと沸き出てくる。
「ゴ、ゴーストだ!」
 ゴーストが若者の耳元で慟哭する。その引き裂くような声を間近で聞いた若者は白目を剥いて気絶してしまった。
「に、逃げるぞ!」
 若者たちは気絶した仲間を背負って、命からがら脱出したのだった。  
 屋敷に棲み着いたゴーストは一般人の手には負えない。住人たちはギルドへアヤカシの退治を要請した。


■参加者一覧
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
北条氏祗(ia0573
27歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
王禄丸(ia1236
34歳・男・シ
羽貫・周(ia5320
37歳・女・弓
風雷(ia5339
18歳・男・シ
野乃原・那美(ia5377
15歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ


■リプレイ本文

●廃屋敷

 くすんだ煉瓦、灰色の壁。
 目前に建つのはジルベリア様式の朽ちかけた建物だ。
「ここが例の屋敷か‥‥たしかに陰気だ」
 北条氏祗(ia0573)はそれぞれ異なる色の虹彩を宿した両眼で廃屋敷を見上げる。
「なかなか雰囲気のある屋敷じゃないか」
 ジルベリア風の格好をしたシノビ、風雷(ia5339)がいう。
「ほんと、炎に映えそうな屋敷よね〜。あ〜、なんか燃やしたくなってきちゃった」
 朱の長襦袢を婀娜っぽく着こなした、葛切 カズラ(ia0725)は艶めかしく微笑む。
「始まる前から燃やさないでくれよ‥‥」
 弓をたずさえ、落ち着いた物腰の羽貫・周(ia5320)がいう。
「ゴーストって幽霊だよね。迷い出てくるなんて往生際の悪い。終わればすべて同じなのに」
 まだ若く、年相応に明朗快活なシノビの少女、輝血(ia5431)だが、言葉の奥にはどこか達観したようすが窺える。
 町の上空には粘りけのある黒雲が流れてきていた。同時に微かながら薄霧が湧き始めている。どうやらこの地方は霧が発生しやすいようだ。
「本当に、厭な雰囲気だ」
 氏祗がぽつりと漏らす。
「あれれ? 氏祗、もしかして入る前から怖がってたりしてる?」
 胸元の大きくはだけた忍装束から控えめな胸をのぞかせ、悪戯っぽい笑顔をたたえた野乃原・那美(ia5377)がからかい半分にいう。
「べ、べつに拙者、なにも怖くなどないぞ!」
「いやいや、わかるよ、そんな怖がらなくても。ほら、よくいうじゃん、ゴーストの正体見たり枯れ尾花って。だからぜんぜん怖くないよ」
「枯れ尾花ぁっていうかぁな、ここに出てくるのは本物だからぁな」
 独特の間延びした口調でそういったのは、黒の着流し繻子の羽織、頭に黒犬の面を傾けた陰陽師、犬神・彼方(ia0218)だ。
「あ、そっかー、ここには本物のゴーストが出るのかぁ。じゃあやっぱり怖いよね」
 と、那美は氏祗の背中をばしばし叩く。
「いやだから拙者はゴーストなど怖くはないと‥‥」
 必死で訂正する氏祗。
「まぁ、ゴーストよりかぁ恐ろしい格好した味方が、いるんだけどなぁ‥‥」
 彼方の示した方向にたたずんでいるのは、数多の眼目模様が描かれた覆面に、脇にかかえた牛髑髏。異相の志士、王禄丸(ia1236)である。
「廃屋敷に幽霊。いい空気だ」
 王禄丸は廃屋敷に負けず劣らず不穏な気配を漂わせている。
「‥‥なんていうか、王禄丸が廃屋敷の主という感じだな」
 と、周。
「そろそろ入るか。さっさと幽霊探して退治しないとな」
 玄関扉へ向かう風雷。
「幽霊を探す、というのもおかしな話だがな。本来は向こうから出てくるものだろう? ああいうのは‥‥」
 といいながら、周は弓弦の具合をたしかめる。
「ああ、そうだ。はい、これ」
 カズラは胸元から屋敷の見取り図を取り出した。
「図面か。いつの間にこんなものを手に入れていたんだ?」
 周が訊ねる。
「ん〜、ちょっと早めに町に来てて。酒場で情報収集してたの。ジルベリアの殿方もいいわね〜。こう、なんていうの、“わいるど”なところが‥‥うふふ。今夜は楽しみだわ」
 装備を確認し廃屋敷へ進入する開拓者たち。
 王禄丸はゆっくりとしたしぐさで牛髑髏の面をつける。
「死者たる霊と牛頭件武。さあ、どちらがより怖いか教えてやろう――」


●嘆きのゴースト

 広い玄関間には破れた絵画や彫刻の破片が転がっていた。入ってすぐのところに階段があり二階に通じている。
「まずは大広間からだね」
 輝血は玄関間から真っ直ぐに延びた廊下の奥を指差す。
 ほこりっぽく、湿り気を帯びた空気のなかに、床の軋む音がじわりと響く。
「‥‥こういった廃墟は、幽霊が棲むのにはうってつけなんだろうな」
 風雷がいう。
「そうだよねー。物陰にたたずんで、こう、ひゅうどろどろどろ〜って、出てくるんだよね」
 那美は胸の前で両手をだらりと垂れ下げ、氏祗のほうを見る。
「うらめしや〜」
「‥‥なぜ拙者のほうを見る? というかそれはなんか違うだろう」
 開拓者たちは少しずつ大広間の扉に近づいてゆく。
 そして、床の軋みとは別のものが――。
「‥‥聞こえるな」
 周が立ち止まる。
「うん――聞こえるね。泣いてるみたい。女の声かな?」
 輝血も耳を澄ます。
 やはり声は大広間から聞こえてくるようだ。
「‥‥開けるぞ」
 彼方が扉を開ける。
 薄暗い大広間の中央でうずくまっている影がひとつ。
「あれがそうか‥‥皆、油断はするな。報告ではここにいるのは一匹だけではないぞ」
 王禄丸は槍をかまえた。
 開拓者たちは周囲を警戒しながらゆっくりと中央へ向かう。
「――む」
 泣いていたゴーストが立ち上がる。
 細い、影のようなすがたを開拓者に向けて、
「来るぞ!」
 その場でぐるりと回ったかと思うと、天井高く飛び上がった。
 同時にテーブルやカーテンの隙間からもゴーストが出てくる。
 ゴーストたちはそれぞれ絡み合い、ときには分散し、広間中を飛び回る。
「‥‥ゆらゆらぁ、するするぅと、うっとぉしぃなぁ!」
 ゴーストは影のようにつかみどころのない動きで、開拓者たちを翻弄する。
「幽霊だろうがなんだろうが、この弓で射貫いてやるさ」
 周は矢をつがえると、ゴーストの動きを追う。
 素通しの澄んだ瞳が影をとらえる。
 瞬刻。
 閃き。
 白雷の矢が黒き影を射貫く。
 動きを止めたゴーストに彼方が追撃を仕掛ける。
「犬の神に従い、我が牙ぁに其の牙を重ねよ! 霊青打ぁ!」
 黒犬のすがたをした式が槍に憑依する。彼方は黒犬の牙とともにゴーストに突撃する。
 その一突がゴーストの薄い体に穴をあける。
「牛ぃ! そっちへ行ったぞぉ!」
 王禄丸は腰を落とし、踏み込みと同時に突き入れる。
 槍はゴーストを貫き、背後にある壁をも穿つ。
 ゴーストは悲鳴を上げると、ぱっと散るようにかき消えた。


 するすると壁際をつたうゴースト。
「ったく、いつまでも飛び回っていられると思うな!」
 風雷は壁際を飛ぶゴーストへ狙いを定める。
「さっさと成仏しろよ!」
 背後から回り込むように手裏剣を打ち込む。その後、反撃を仕掛けてきたゴーストの腕をすり抜け、ふたたび距離を開けて手裏剣を打つ。
 影のような体に手裏剣を刺したまま、ゴーストは立ちすくむ。
「――!」
 風雷に向けてゴーストの口が大きく開いた。
 呪われし、嘆きの声。
「くっ――」
 風雷は脳に直接響くようなピリピリとした衝撃を振り払い、後方へ跳ぶ。
「‥‥こういうやつにはお仕置きが必要ね」
 カズラは豊かな胸の谷間に挿んでいた符を抜き取る。
「急ぎて律令の如く成し、万物尽くを斬り刻め!」
 呪言とともに符を放ち式を呼ぶ。
 呼び出したのは、鈍く光る巨大な一眼に無数の触手を湛えた奇怪なる様相の式。
 術者の命を受けた式は鏃状に変化してゴーストへ飛来、その体を斬り刻んだ。


「この世に残る理由なんて、あるの!?」
 輝血は呪声を叫ぼうと動きを止めたゴーストへ手裏剣を投擲、呪声を牽制すると同時に一気に距離をつめて接近戦を仕掛ける。
 突き、裏拳。
 鉄爪の刃を利用した拳を連続的に打ち込む。
 攻撃のあとは素速く後方へ下がり、味方の連携へと繋げる。
 那美が早駆でゴーストに追撃する。
「それ、ボクの攻撃を喰らっちゃえ!」
 しなやかな脚で壁を蹴り、空中のゴーストに拳撃を喰らわせる。
 鋭い手刀を叩き込み、すぐさま後方へ飛び退く。
 打ち出ては退く、この繰り返しでダメージを与えていく。
「‥‥むー。暖簾みたいな手応え。やっぱり斬り心地、というか殴り心地? は良くないなー」
「手応えがあろうとなかろうと、砕いてしまえばいい!」
 氏祗はテーブルを台にして飛び上がり、頭上高く斧を掲げた。
 ブン、と低く重い音を鳴らし、ゴーストの頭に大斧を振り下ろす。
 斧は一気に床まで到達し、ゴーストを両断した。


●彷徨う影

 広間のゴーストを倒した開拓者たちは二手にわかれて行動を開始した。
 彼方、王禄丸、風雷、周は東側を探索していた。
 すでに一階を廻った班は二階へ上がり、ゴーストの所在をくまなく洗い出す。
「‥‥む」
 カタカタと天井裏で音が鳴る。
「曲者!」
 王禄丸が天井へ槍を突き立てた。
「‥‥‥‥」
 引き抜いた槍先に刺さっていたのは一匹の鼠だった。
「なんだ鼠か‥‥」
「いやぁいや牛よ、さっきも大広間ぁの壁に大穴ぁ開けただろ? 屋敷を穴だらけにする気かぁ?」
 彼方は天井の大穴を見上げる。
「どうせ廃屋敷だ。壊してしまっても構わんだろう」
「俺たちがなかにいる間は、倒壊とかさせないでくれよ‥‥」
 と、風雷。
 先の部屋で物音がする。なにかを揺らすような、擦るような。
「‥‥アヤカシか?」
「いや、どうだろう」
 一行は音のする部屋へ足を踏み入れる。
 剥がれた壁、朽ちたベッド。音は部屋に備え付けてある大きなクローゼットから聞こえてくる。
「ここか‥‥」
 周はクローゼットに矢を向ける。
「まぁた鼠じゃぁないのか」
 彼方は槍をかまえつつ、訝しむ。
 ここで王禄丸は心眼で周囲の気配を探った。室内に異質な気配がただよっている。
「鼠の気配にしては大きいな。それに――」
 王禄丸はくるりと背後のベッドに向き直る。
「ここにも隠れた気配がひとつ――」
 いうが早いか王禄丸がベッドに槍を突き刺すと、その下から悲鳴とも奇声ともつかぬ声を上げてゴーストが這い出てきた。
 同時にクローゼットが開き、ゴーストが飛び出してくる。
「びっくり箱かよっ、ふざけんな!」
 風雷と周は、ゴーストが出てきたところを狙って風魔手裏剣と矢の即射を間隙なく打ち込む。
「ここはてめぇらの棲家じゃねぇんだ‥‥さっさと成仏しな!」
 集中砲火を浴びたゴーストは影もなく散り消える。
 残りの一匹は床を滑るようにして部屋の外へ逃げ出す。
「逃がすものか」
 王禄丸はゴーストを追いかけて廊下へ出る。廊下を泳ぐように逃走する影に、槍を向けた。
「牛! その一突き、俺ぇも混ぜろ!」
 部屋を出てきた彼方がとなりに並ぶ。
 二人、槍をかまえ、呼吸を合わせて同時に駆け出す。
「オオオオッ!」
 気合いを漲らせ、廊下に張り付いたゴーストに突貫する。
 勢いに乗った二本の剛槍はゴーストを貫き、そのまま床板をも破壊する。二人は轟音を立てて床を突き破り、階下に着地した。
「‥‥二人とも、大丈夫か?」
 二人の開けた大穴から階下をのぞく周。
「ん、無事だぁな」
 彼方は肩のほこりを払って手を挙げる。
「すこしやりすぎたか?」
 二人は目を合わせて軽く笑った。


 西側を回るのは、氏祗、カズラ、那美、輝血の四人だ。
 四人は西側二階の部屋を探索していた。
 日が傾くにつれて窓から差す光も心細くなり、屋敷内はさらに暗く、不気味な雰囲気を醸し出していた。
「‥‥‥‥それで男が部屋の戸を開けると、死んだはずの妻と赤ん坊が‥‥」
 開拓者たちは探索がてらに怪談話を始めていた。
「赤ん坊の泣き声が耳にべったりと張り付いて‥‥」
 いまはカズラが聞き知った怪談を語り終えたところだ。
「‥‥なかなか、怖い話だったね」
 那美と輝血が頷きあう。
「‥‥‥‥」
「あれあれ? 氏祗、黙っちゃって。もしかして怖いの?」
「‥‥べつになんとも思わんな。カズラの話はともかく、ここに出るゴーストは力の通じる相手だからな。怖れる理由などない」
「さすが、豪傑だね」
「ただ、陰気なのは気にくわねぇ。ここは歌でもうたって志気を上げるべきだ」
 と、喉の調子を整えてから陽気に歌い出す。
「青ーい空ー」
「シ! なにか聞こえるわ!」
 カズラは氏祗の唇に指を当てる。
 微かに耳に届くのは、ゴーストの笑い声。
 輝血は怪訝そうな顔をする。
「慟哭じゃないのはおかしいね」
「幽霊だって笑うこともあるだろう」
 氏祗は声の聞こえる部屋へ行き、扉を蹴破りなかへ入る。書架の敷き詰められた部屋。どうやら書斎のようだ。
 笑うゴーストは書斎の天井に張り付き、逆さまに氏祗を見ている。
「出たな、アヤカシ!」
 大斧をかまえる氏祗の後方から、那美と輝血が手裏剣を打つ。
 ゴーストはスルスルとした動きで手裏剣をかわし、部屋中を飛び回る。
「まるで遊ばれてるみたいね‥‥だったら、すこし相手してやろうかな!」
 カズラが符を放ち式を呼ぶ。
 式から伸びた無数の触手がゴーストの体を絡め取った。
「いい格好ね。生きてたら『らめぇ』って悶えさせるんだけど、ゴーストじゃね!」
「よし、そのまま押さえていろ。拙者がとどめをさす!」
 氏祗は跳躍し、力任せに大斧を叩き込む。その一撃でゴーストの体は砕け散り、ただ不気味な笑い声を残して消え去った。
「‥‥泣いたり笑ったり、まるで子供だな」
 輝血は書架のなかから一冊の本を抜き出した。ぼろぼろになっており文字はほとんど読めなくなっている。
「‥‥ん? これは‥‥」
 本に挟まっていた肖像画を見つける。これも劣化していたが、かろうじて一家族を描いたものだとわかった。
「‥‥思念と瘴気か、元住人か」
 輝血は本を書架におさめる。
「どちらにしろ‥‥行き着く先は同じ――」
 破れた窓から、夕暮れの冷たい風が吹き込んだ。


●最後の恐怖

 屋敷を調べ、ゴーストの殲滅を確認した開拓者たち。互いの無事を確認し合い屋敷の外へ出ると、町の住民たちがようすを見に屋敷まで来ていた。
「終わったのですか」
「ああ、無事に終わったよ。今後のために屋敷は壊しておいたほうがいいだろうな」
 周が住人に答える。
「よかった、もうゴーストはいないんですね‥‥」
「もういない? いや、ここに一人‥‥」
 と、柱の陰から王禄丸が頭を覗かせる。
「で、出たぁっ!」
 王禄丸を見てアヤカシと勘違いした住人たちが慌てふためく。
「こぉら牛、わざわざぁ怖がらせてどうすんだ。あんたぁの退治依頼が入るぞ」
 彼方が後ろから王禄丸の頭をぺちぺち叩く。
「スマン、冗談だ」
「そうだよ。町の皆さん、この牛さんはアヤカシじゃないよー」
 那美の言葉に平静を取り戻す住人たち。
「この怖い仮面の下にはそれはもう絶世の美男子が‥‥」
 後ろからささっと牛骨面を外す那美。
 しかし牛骨面の下には眼目の乱れる覆面が‥‥。
 薄霧のかかる夕暮れに映し出された数多の目玉模様は、なにも知らない住人の恐怖を駆り立てる。
「ぎゃあ〜っ!!!」
 住人たちは今度こそ、一目散に逃げ帰ってしまった。
 残される開拓者たち。
「‥‥‥‥おい、どぉすんだぁよ?」

 このあと、開拓者たちの必死の説明により誤解は解けたそうな。


       了