朋友顔見世総見
マスター名:陸海 空
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/01/17 01:04



■オープニング本文

 北面の都、仁生に女性だけが加入できると言う花椿隊の詰所がある。
 身分や年齢を問わない、志を同じくする女性達が毎日出入りする華やかな場所で有名だ。
 有志で構成された花椿隊は、北面直属ではないもののその華やかさから街の人々にもそれなりに知名度があるようだ。
 開拓者ギルドに頼むまでもない簡単な依頼や、女性にしか出来ない仕事などを率先とする傍ら、彼女らは好奇心旺盛で様々な事に首を突っ込んでしまうと言う面もあったりする。
 しばしば事が大きくなり開拓者ギルドの世話になることもあるので、困るやら助かるやら、判断に困る所だろう。
 そんな彼女達が現在とても興味を示しているものがある。

 それは何を隠そう、最近話題になっている開拓者達の「朋友」だ。

「杪葉隊長の甲龍、緋桜丸も素敵だけど。やっぱり私は猫又が気になるわ」
「あら、土偶のまるっこい姿も捨てがたいですよ」
「鬼火玉は、この時期は暖かくて良さそうではなくて?」
「えぇ〜、なんと言ってももふら様でしょ! 神様なんだから」

 詰め所では「朋友各種案内」という冊子を広げて、きゃらきゃらと盛り上がる花椿隊員たちが楽しそうにそれぞれの気に入った朋友について語り合っている。
 有志の集まった部隊なため、志体もちはいるものの一般人も多く開拓者として登録している隊員はかなり少ない。
 そのため、現在朋友について彼女らが身近に感じられるのは、隊長である杪葉が借り受けている甲龍だけである。
 彼女らの好奇心は、それだけで収まる筈がなく。
 その数刻後、杪葉の元に女性隊員たちが嘆願書を携えてやってきた。
 曰く――。

「色々な朋友さんたちを直接みたい! そして触れ合いたい!」
 とのことだ。

 それを聞いた杪葉は、彼女らの勢いだとこのまま開拓者ギルドに大挙して押しかけて面倒ごとを起こしかねないと憂慮した。
「わかったわ。開拓者ギルドの方に協力をおねがいするから。はしゃぎすぎてはダメよ?」
 彼女らを宥めすかして諦めさせることを断念した杪葉は、そう言って開拓者ギルドに向けての依頼書を作成したのだった。


■参加者一覧
橘 琉璃(ia0472
25歳・男・巫
玖堂 真影(ia0490
22歳・女・陰
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
 鈴 (ia2835
13歳・男・志
斎 朧(ia3446
18歳・女・巫
白蛇(ia5337
12歳・女・シ
アルネイス(ia6104
15歳・女・陰
莠莉(ia6843
12歳・男・弓
趙 彩虹(ia8292
21歳・女・泰
ルーティア(ia8760
16歳・女・陰


■リプレイ本文

●開拓者と朋友
 花椿隊の依頼による朋友お披露目会が執り行われる会場は、北面諸隊用の練兵場である。
 中には少々気難しい性質の朋友もいることから、会場には開拓者と朋友が先に入り落ち着く場所を定めた後で隊員達を迎える手はずになった。

「泉理、ちゃんとお行儀良くしてなきゃダメよ?」
 木陰にしつらえた長椅子に座って、膝に載せた己の人妖に向けてとくとくと語っているのは玖堂 真影(ia0490)である。
 何度も聞かされた言葉に泉理は唇を尖らせる。
『‥‥メンドイ‥‥大体さ、何か見世物っぽくない? 気が進まないなぁ』
「あら、一ヶ月おやつ抜きにされたい?」
『う‥‥判ったよ‥‥ちゃんとする』
 しかし、ちょっとした反抗心も真影の満面の笑みによる脅しにあっさり萎れてしまうのだった。

「よしよし、いい子です。今日は色んな人が来ますから、よろしく頼みますよ」
 広場の中央、龍が発着する十分な広さを確保した場所に相棒である炎龍の紫樹の首を撫でながら橘 琉璃(ia0472)が言う。
『グルルゥ‥‥』
 主に撫でられ気持ちよさそうに目を細めて紫樹が、喉の奥でのんびりと唸る。
 およそ攻撃的な炎龍とは思えない、のんびりおっとりした様はよほど主との信頼関係が固く結ばれているのだろうと容易に推察することができた。

 一方少し離れた場所の水飲み場。
 風呂釜にも使えそうな大きな盥にたっぷり張られた水の中を覗き込んで、白蛇(ia5337)が己の朋友に心配そうな声を掛ける。
「オトヒメ‥‥大丈夫、怖くないよ‥‥」
 水中で落ち着かなげに動いているのだろう、周囲で大きな物音がする度に水面は怯えるように波打つ。
「一緒に頑張ろうね‥‥」
 己に言い聞かせるように呟いて、水中に手を差し入れるとミズチのオトヒメがスリ、と頭をすり付けて来る感触がしてわずかに瞳を和ませた。

「おやっさん? おかしいな、おやっさーん?」
 先程から広場を見回して誰かを読んでいるのは巴 渓(ia1334)。
 彼女の側に朋友の姿はなく、己の相棒を探して視線はあちこちに投げかけられている。
「まったく、仕事だからしょうがないってのに‥‥。まあ、花椿隊のお嬢さんがたにも困ったもんだけどな」
 愛玩動物と間違えてないだろうな‥‥とぼやきながら、渓が建物の影にジルベリア風のソフト帽とサングラスを装着したやたらとハードボイルドなもふらさまの姿を見つける。
 そのやたらハードボイルドなもふらさまこそが、渓の相棒ジョーカーだ。
 しかし、渓が声を掛けて呼び寄せる前にジョーカーはフイッと再びどこかに行ってしまった。
 それに肩を竦めて捜索を諦めた渓は、時間まで適当に過ごすことにした。

 鬼火玉の火鈴を伴った 鈴 (ia2835)はと言うと、広場が見渡せる特等席に陣取って隣に座った相棒とともに集まった朋友達を興味深そうにみている。
「火鈴、猫又さんがいるよ。人も一杯いるけど、もう少ししたら花椿隊の人もくるんだって」
 聞いているのかどうなのか、火鈴はプカリプカリと呑気に浮いている。
 鬼火玉は基本的に人懐こい性質だが 鈴 にとって火鈴が初めて手に入れた朋友なので、どうにも不安が残る。
「呑気だなあ‥‥。まあいいか、今日は楽しもうね火鈴」
 マイペースな火鈴に緊張が解された 鈴 の言葉に、心得たと言わんばかりに『グルル‥‥』と鳴き声が返ってきた。

「ヒャッホウ! 遂にこの俺がモテモテになる機会がっ」
 サングラスとリボンと言うおしゃれな出で立ちで気合の入った様子のもふらさまに、側に佇むルーティア(ia8760)がうんざり顔でツッコミを入れる。
「やかましい、このエロもふら」
 女性大好きなもふらさまの名前はチャールズと言い、先程から少しでも花椿隊の娘さんたちに格好良い様を見せようと身だしなみを整えるのに余念がない。
 今朝も、やたら早起きして寝ぼけ眼のルーティアを急かして念入りにブラッシングさせたのだ、普段からもふもふ具合が自慢のチャールズは本日より一層もふもふしている。
「このもふもふの手触りで、花椿隊の娘さんを‥‥もっふっふっふっふ‥‥」
 無駄にスキルの含み笑いを発動させて期待に胸を膨らませるチャールズに、もはやルーティアは突っ込む言葉も持たなかった。

 気軽に休めるようにと敷布が広げられた場所に、それぞれ思い思いのくつろぎ方をしているのは今回一番多い猫又組であった。
「茉莉花にも友達出来るといーね♪」
『そだね☆ ‥‥って、小虹が他の朋友と遊びたいんじゃん?』
 きゃいきゃいと仲良く元気なおしゃべりに興じているのは趙 彩虹(ia8292)とその朋友、茉莉花。
 茉莉花のツッコミにギクッとしつつ、ごまかし笑いする彩虹。
「でもでも、猫叉とか人妖やミヅチにもなかなか会えないしね」
『あたしも初めてだよ』
「楽しみー♪」
『だねっ☆』
 なかなかのコンビネーションだと言える。

 その少し離れた場所の敷布に座って今朝も高い場所から顔面めがけて落下してきた朋友フレイヤに、莠莉(ia6843)がとくとくと説教しているのだが‥‥。
「ちょっと、聞いていますか? フレイヤっ!」
 主の剣幕もどこ吹く風で、フレイヤはそっぽ向いて自慢の尻尾の毛づくろい等をしている。
「もう‥‥、取り敢えず今日は、悪戯などしないでおとなしくしていて下さいよ」
 ひょい、と了承の為にか振られたフレイヤの尻尾は違わず莠莉の頬にヒットして、さらに怒らせるのだがどうもそれ自体を楽しんでいる節があるので、主としては色々大変そうである。

 斎 朧(ia3446)はその様子をのんびり眺めながら笑う。
「あらあら、皆さんそれぞれ楽しそうですね」
 ざわめく会場内を興味深そうに見回してうずうずしている玉響をさり気なく抑えながら、朧はそれぞれ朋友との接し方や行動を観察している。
 こういう機会でもないとじっくり色々な朋友を眺めることは出来ないので、存分に楽しむつもりでもあるし朋友との接し方について学ぶつもりである。
「玉響、花椿隊の皆様は志体をお持ちでない方もたくさんいるそうです。良い子にしてくださいね? 悪戯が過ぎると、力の歪みでお仕置きしますよ」
 いつものように笑顔を浮かべる主に、玉響は『くわぁ‥‥』とあくびをすることで答えた。

 初めて訪れた練兵場の雰囲気にそれぞれの朋友が慣れ始めた頃、お披露目会への参加を控えた花椿隊の面々は隊長の杪葉からいくつかの注意事項を聞いていた。
「良い? 朋友は開拓者の皆さんにとって、大事な相棒です。ご主人である開拓者の方の許可なしに手を出して、しっぺ返し喰らっても私は助けません。それぞれ自重して、今日は楽しみましょう」
「はいっ!」
 隊長の言葉に良い返事でこたえた隊員達は、頬を紅潮させて、会場内で待っているだろう開拓者と朋友達に胸を高鳴らせながら会場に入ったのだった。

●猫又たちの攻防戦
 なるべく朋友達を警戒させないように、と考慮して花椿隊の面々が一挙に詰め掛けないようバラバラに挨拶に回ることになっていた。
 そこかしこで挨拶が飛び交い、顔合わせを済ませて開拓者及びその朋友と隊員は思い思いの行動をする自由時間に突入した。

「あら?」
 花椿隊の中でも猫好きで有名な隊員が、わくわくしながら猫又たちのいる一角を見ると三体の猫又‥‥茉莉花、玉響、フレイヤが同じ種族と言うだけあって興味深げに顔を見合わせている。
『‥‥』
 黙したまま、ヒクヒクと鼻を動かしヒゲを前に向けて相手を伺っているフレイヤに莠莉が心配そうに見守っているが、どうやら喧嘩を仕掛けると言う雰囲気ではなさそうだ。
「茉莉花、どうしたのー?」
 先程まで自分とおしゃべりしまくっていた茉莉花の、先ほどと打って変わった静かな様子に彩虹も首を傾げて見ている。
「お仲間の猫又が珍しいんでしょうねぇ」
 朧がのんびり微笑んで、同じく興味深そうに仲間を伺っている玉響に目をやる。
 悪戯心よりも好奇心の方が優っているようで、三体とも目を真ん丸に見開いて入る。
 尻尾を揺らめかせ、互いに距離を図りつつ少しずつ近づいていく。
 やがて、相手を伺うことに満足したのだろうか三体はそれぞれ『くわぁ‥‥』と欠伸をして毛づくろいや伸びをする。
「お互い敵じゃないと判断したみたいですね」
 あからさまにホッとした様子の莠莉に、彩虹と朧が頷く。
『小虹〜! おやつが欲しいよ〜☆』
 シュタっと彩虹の側に降り立っておねだりする茉莉花を見て、莠莉が目を丸くする。
「喋ってる‥‥」
「猫又は知能高いからね♪ 特に茉莉花はおしゃべりだよ」
 とっさに莠莉が自分の朋友に目をやっても、フレイヤはそ知らぬ顔でそっぽを向いている。
「喋るのも本人の意思次第かしら?」
「‥‥喋っても、いぢめられそうな気がします‥‥」
 慰める朧に肩を落として答えた莠莉の言葉に『その手があったか』とフレイヤが目を輝かせたかどうかは、定かではない。
「あの、お気に召していただけるか分かりませんが‥‥私、鰹節を持ってまいりました」
 猫好き隊員が「猫又さん達に差し上げても良いですか?」と問うのに茉莉花が嬉しそうな声で真っ先に答える。
『わ、嬉しい〜! 鰹節大好き〜☆』
「茉莉花ったら現金。この子はこの通り喜んでるから大歓迎よ♪」
 彩虹の返事に早速隊員が茉莉花に鰹節をプレゼントして、朧と莠莉を見る。
「玉響、食べます?」
 隊員から受け取った鰹節を朧が差し出すと、玉響が手のひらに載せられた鰹節をクンクンと確かめて食べ始める。
 どうやら気に入って貰えたようだ。
「こら、フレイヤ、ちゃんと上げますから‥‥いたっ! 今、わざとひっかきましたね!?」
 同じく莠莉が手に取った鰹節を、爪を出した前足でひっかいて掻っ攫っていくハンターな猫又‥‥フレイヤは怒る主に目もくれず上機嫌で鰹節を食んでいる。
 猫又と主の関係は、なかなかに多種多様であった。

「‥‥と言うわけで、フレイヤとは食事の毎に熾烈な取り合いを‥‥。おかずの魚を何度横取りされたか」
 少し落ち着いたところで、開拓者と猫又の出会いやエピソードに隊員が耳を傾ける。
 中でも莠莉の語るエピソードは、不憫‥‥もとい、なかなか波乱に満ちた日常のようであった。
「はい、そっと撫でてあげてください。余り乱暴だと嫌われてしまいますからね」
 許しを得て玉響の漆黒の毛並みをそっと撫でる隊員もいる。
 勿論、朧が側にいて玉響にジッとしているように言い含めているので問題はなさそうだった。
「茉莉花っ! 鎌鼬! 上手に当ててね!」
 彩花は、茉莉花のスキル鎌鼬を用意している藁束の的に向かって発動させる。
 茉莉花の瞳が淡い緑に包まれた刹那、発された風の刃はビョウ、と音を鳴らし藁束を正確に切り裂く。
『よゆーだしっ☆』
 見事的中させた茉莉花は拍手喝采を浴びながらクルンと宙返りをして、得意気に尻尾を揺らした。

●大空翔ける龍翼と心優しき水の精霊
 会場内でも、最も大きく目立っているのは琉璃が連れている炎龍の紫樹である。
「紫樹の他にも猫又‥‥紅雪と言う名前の子がいるんですよ」
 側に来た隊員らが怪我をしないように注意しつつ、触れさせたり背に乗せてみたりしながら琉璃が語る。
「この紫樹は、私の妹の龍と兄弟なんです。こちらが、兄龍なんですよ? 気性の激しい炎龍なので、子供の頃は、育てるのの苦労しましたねえ」
 当然、彼女らを乗せて飛び上がらせる等の危険な事はせず、隊員達もちゃんと弁えているようだ。
「炎龍は攻撃的な種族ですものね。でもこの子、とてもおとなしいですね」
 主でない者を背に乗せてもおとなしくしている紫樹にそんな言葉が向けられると琉璃が含み笑いをして答える。
「おとなしいですか? ふふ‥‥主に性格が似る、という感じでしょうか? でも、怒らせると怖いですよ」
 それじゃあ貴方も? と言う質問を笑顔ではぐらかして琉璃は、隊員達を下がらせる。
「では、紫樹が天空を翔ける勇姿を、ご覧に入れましょう」
 号令をかけると、紫樹がバサっと両翼を広げ小さなつむじ風を巻き起こしながらゆっくりと宙に浮き上がる。
 わぁっ! という歓声を背に、主である琉璃を背に乗せた紫樹はその巨体が小さく見える位置まで一気に上昇すると大きく空を旋回する。
 その姿や勇ましく、そして優美で会場に居合わせた全員がその姿を見上げて感嘆の声を漏らした。
「珍しいものが見れて、皆さん嬉しそうですね」
 己の自慢の龍に向けられる賛美に、自分のほうが嬉しそうに琉璃が微笑んだ。

 そんな天空のショーが繰り広げられる片隅で、同じように空をみあげていた白蛇は側の盥の水面が大分落ち着いてきたことを確認する。
「オトヒメ、そろそろ‥‥大丈夫かな?」
 懐から取り出した横笛を吹いて、白蛇が楽を奏で始めるとそれを聞いた隊員達が興味深げに近づいてくる。
 事前に脅かさないように静かにして上げて、と言われていたので集まった隊員達はむやみに声を上げずにジッと見つめている。
 するとチャプン、と水面を揺らして盥からミヅチがそっと顔を出す。
『ピュイィ‥‥』
 白蛇が奏でている笛の様な澄んだ鳴き声を上げるのは、少し臆病なオトヒメだ。
「まぁ、可愛い‥‥」
 白蛇の笛が大好きなのだろう、嬉しそうに笛の音に合わせて歌い始めるオトヒメは水の精霊と言うイメージそのままに優しい印象を与える。
 周囲に自分を見ている人が居るのに少し怯えた様子だったが、白蛇の笛の音が落ち着くのかそれに応えて歌ううちに緊張が解れてきたようだった。
 小さな優しい音楽会が終わると、拍手を受けながらオトヒメは白蛇が用意したもふらのぬいぐるみに、命令され体当たりを浴びせる。
 威力は小さいが、陸で必死にヒレを動かして頑張る姿は大変愛らしかった。
「オトヒメ、頑張ったご褒美たよ」
 オトヒメは、好物のキュウリを大好きな白蛇から食べさせて貰ってとても嬉しそうにしていた。

●希少な人妖、和みの鬼火玉
 朋友お披露目会でもやはり目立つのは、希少で所持権を巡って国を上げての争いが起こったと言う逸話さえ残されている人妖だろう。
「本当に人の姿だわ〜! ちっちゃくて可愛い!」
 先だって泉理がぼやいた様に、少々見世物めいてはいるが大人気と言える。
「抱っこしてみます?」
 真影が膝の泉理を差し出すと、「いいの!? ちょっとだけ、ごめんね泉理ちゃん」と言いながら隊員は順番に触れて抱き上げる。
「着せ替え人形とかしてもいいですよ」
『ちょっと、真影!?』
 あんまりな主の言葉に泉理が振り返るが、おやつ抜きという言葉がのしかかって抵抗しきれないらしい。
 幸いと言うべきか、隊員も遠慮したので泉理は難を逃れることが出来た。
 隊員が持ってきた団子を食べながら、真影がねだられるままに泉理との馴れ初めを語る。
「人妖を創ることはあたしの夢で‥‥何度も挑戦しては失敗して‥‥泉理は努力の果てにつかんだ宝物です♪」
 団子を貰って上機嫌の泉理も口を開く。
『人間風に言えば‥‥生まれる瞬間って言うのかな? 気付いたら生温かい水の中を漂ってて‥‥突然、白い光が現れた。それを掴んだら一気に視界が開けて‥‥目の前に間抜けに口開けてた真影が居たんだ』
「‥‥泉理、一言多い」
 主のブーイングに泉理は涼しい顔で受け流す。
『ホントの事でしょ?』
 お団子没収! 等と言い合いを始めるが、二人の信頼関係は確固としたものだった。

 わぁ! とまた歓声が上がる。
 そちらに目を向けると先程の紫樹の空中遊泳の様に、居合わせた者が空を見上げている。
 また龍が飛んだ、と言うわけではなく。
  鈴 が連れている鬼火玉の火鈴が、スキルの超飛躍を披露しているようだ。
 普段は飛んでも2m程度の高さしか到達出来ないが、超飛躍スキルならば倍以上の高さまで到達出来る。
「また、レベルは低いですけど‥‥。もっと成長したら、より高い場所まで飛べる筈です」
 ふわん、と己の元に戻ってきた火鈴を労うように撫でて 鈴 が集まった隊員達に説明する。
「熱くないの‥‥?」
 鬼火と言うだけに、体は炎じゃないのかと心配する隊員に 鈴 は笑って「大丈夫、あったかいですよ」といって勧める。
 恐る恐る触れる隊員は、 鈴 の言うとおりじんわりと暖かい感触に顔を輝かせる。
 火鈴は、撫でられるまま時折心地いいのか、目を細めてぐるぐると小さく鳴き声を漏らしたりもする。
「 鈴 さんは、お若いのに立派ね。そうだわ、あなたも花椿隊に入ってみない?」
 そう隊員に誘われて、 鈴 は困った顔になる。
「あの、花椿隊は女性限定‥‥ですよね? 俺、男なんです」
 良く、間違われるんですけど‥‥と言う 鈴 に、勘違いしていた隊員は慌てて謝る。
「ご、ごめんなさい! あんまり可愛らしくて‥‥!」
 墓穴を掘っている気がしなくも無いが、その様子をよそに敷布に着地した火鈴が暖かさを求めていつの間にか寄って来ていた猫又達に埋もれるようにして目を閉じていた。

●真打はやっぱりもふらさま!
 そしていよいよ我らがもふらさまの登場である。
 隊員達は、もふらさまとその主である開拓者に話を聞こうとするが渓が連れてきている筈のもふらさまがいない事に気づいた。
 どうかしたのかと心配そうに問う隊員に、渓が肩を竦めて答える。
「まあ、俺の相棒…いや協力者はな、かなりシャイなんだ。呼びはしたが、姿を見せるか分からん」
 残念そうな隊員が聞くところに寄れば、曰く。
『俺は‥‥紫煙と酒の匂いしか愛せないんでな‥‥場違いなのさ』
 と、余り乗り気では無かったらしい。
「まあ、どこかでハードボイルドな笑みを浮かべながら、覗いているかもな」
 渓のその言葉に、好奇心旺盛の隊員達が反応しない筈がなく。
「それじゃあ、巴様のもふらさまを探してみましょう!」
 その掛け声とともに「もふらさまを探せ!」が始まったのだった。

「なんだかあっちは楽しそうだね」
 自分のエロもふらが暴走しないように見張りながら、隊員や開拓者達があちこちを探し回っているのを見てルーティアが首を傾げる。
「巴様のもふらさま‥‥ジョーカーさんがかくれんぼしているみたいなので、皆で探してるんですって」
 隊員の返事になるほど、と頷く。
 言われてみれば最初から渓の側に朋友の姿がなかった、そういう趣旨なのだろうなかなか楽しいコトをするな、と思いながら隊員のバストにギンギラギンにさりげなくタッチ使用とするチャールズにツッコミを繰り出した。
「ルーティア様のもふらさまは凄く人懐こいですね」
 もふもふと毛皮の感触を楽しみながら一人が言えば、他の隊員も好奇心一杯でチャールズに触れる。
「わぁ、ふわふわ!」
「チャールズさん、凄いです〜!」
 未だかつて無いほど、女性たちにちやほやされたチャールズはプルプルと震えたかと思うと歓喜の雄叫びを上げる。
『もふゃーーーー!! もふゃーーーーっふっふっふっふ!!』
 びっくり眼の隊員達に気づいて取り繕うように紳士面を取り戻したチャールズは、含み笑いをしながら答える。
『いやぁ、私の毛皮でよろしければ存分にお触り下さいお姉様方。もっふっふ』
「まあ、先程よりもモフモフ感が上がってるわ!」
「ほんと、超もふもふね!」
 嬉しさの余り、モフモフの毛皮スキルが発動してしまったのだろう。
 さらに隊員達が喜んでもふるので、しばらくその超もふもふさ加減は収まりそうになかった。
「‥‥自分、こいつ選んだの間違ってないかな‥‥?」
 ルーティアは思わず我が身を振り返ったが、深く考え込む前に隊員の私物をくすねようとしているチャールズに気づいてツッコミを入れるのだった。

 最終的に、渓の朋友であるジョーカーは皆の前に姿を現さなかったが、数人の隊員が物陰からニヒルな笑みで見つめているもふらさまを見つけたとの証言をした。
 何だかんだと、大騒ぎな朋友お披露目会であったが、隊員達に好評のまま幕をおろしたのだった。