【娘守護隊】因縁の決戦
マスター名：陸海 空
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| ■オープニング本文 前回のリプレイを見る 「くそっ、びくともしねぇ！」 何度か拳を打ち込んで、そのことごとくを黒い繭に殺されてしまった鴻が、腹立ち紛れにボヨンと繭を殴りつけて呟いた。 拾の刀も、ハイネルの剣も、御門の術でさえも通じない。 ユンを庇って喰われたタイガを包み込んでしまった黒い繭は、鳳鳴曰わくアヤカシ自らの瘴気で出来ており、取り憑いた人間を喰い終わるまで身を守るものだそうだ。 仲間に憑依したアヤカシを鳳鳴たちが全力で倒そうとし、自我が残る限り喰われた開拓者も抗ったからだろう。 陰陽師に取り憑いた直後に、瘴気の繭に篭もるようになったのだ。 「つまり、タイガさんの自我を食らいつくして、自分が体に馴染むまでは出てこないのね」 薫の言葉に、水月と霧絵から治療を受けながら鳳鳴が頷いた。 「繭に包まれてから、奴が出てくるまでおよそ一昼夜。念のため様子を見ながら、戦いに備えて休息を取る方が良い」 さらに開拓者を喰らったアヤカシは、また力を増しているだろう。 先ほど戦った相手だとは思わない方が得策。 「そうですね。エンカク村で宿を請い、対策を講じましょう」 よろしいか、と問う水奏に鳳鳴が頷く。 「俺は、ここであれを見張っておく。どうせ、一日休んだ程度では全快しないし、繭の変化を一度見ているから適任は俺だけだろう」 鳳鳴は、一年間の放浪生活で野宿には慣れていると笑った。 そして、少し離れた場所で一心の服の裾を握りしめて立ち尽くしている愛娘に目を向ける。 「‥‥ユン」 名を呼ばれて、ユンはピクリと肩を震わせる。 「大きくなったな。もう立派な開拓者だ。‥‥だから、わかるな？」 優しく厳しい父の言葉にユンは泣きそうな顔で、しかししっかりと頷いた。 「‥‥ぅん。アヤカシを、倒すのよ」 一年以上会えなかった父との再会を喜ぶのも、甘えるのも。 全てアヤカシを倒した後で出来ることだ。 今、ユンたちに課せられた使命は、人を喰らう凶悪なアヤカシを討伐することのみ。 幼い娘になんと厳しいことを要求するのだろう、と思いはしても居合わせたものは何も言わない‥‥否、言えない。 開拓者としての心構えをしっかり持っているユンに、それを揺らがせる甘言は控えるべきだ。 「それじゃあ、後で食糧と水を運んできます。何度か交代で様子を見に来ますから、必要なものがあったら言って下さい」 騎士として、疲労の色が強い鳳鳴を一人残すことが心配でしょうがない龍馬は、何度もそう言って仲間と一緒に村に引き返した。 荒野に一人、黒い繭が良く見える場所に座り込んだ鳳鳴は震える拳を握り締めて、かつて仲間であったものを見据える。 五人居た仲間は、とうとう己一人となってしまった。 「皆‥‥もっと早くに倒せなかったことを、許してくれ」 だが、これが決戦だ。と鳳鳴は声に出さないまま呟く。 まだ小さく庇護するべきだと思っていた愛娘が、随分と立派になって心強い味方まで引き連れて現れたのだ。 ここで奮起しなければ、父親としての存在意義に関わる。 「命をかけて、と言いたいが‥‥お前らは怒るんだろうな」 娘を一人にするなと、散々説教してくれた仲間を思い小さく笑う。 「生き残るさ‥‥手脚をもがれるとしても、生き延びる。お前らの分まで、俺が生きないでどうする」 アヤカシを倒すために死んでも良いなんて感傷は、タイガの最期とユンの顔を見て霧散してしまった。 ならば、できる限りのことをして皆無事に生きて帰るだけだ。 「一年間、追い続けた俺を甘く見るなよ。きっと、お前に引導を渡してやる」 名も無いアヤカシが篭る繭は、ただ中にいる者を守るためにかすかに胎動するのみだった。 |
■参加者一覧
滋藤 御門（ia0167）17歳・男・陰 
高遠・竣嶽（ia0295）26歳・女・志 
樹邑 鴻（ia0483）21歳・男・泰 
嵩山 薫（ia1747）33歳・女・泰 
水月（ia2566）10歳・女・吟 
平野 拾（ia3527）19歳・女・志 
一心（ia8409）20歳・男・弓 
霧咲 水奏（ia9145）28歳・女・弓 
鯨臥 霧絵（ia9609）17歳・女・巫 
龍馬・ロスチャイルド（ib0039）28歳・男・騎 |
| ■リプレイ本文 ●最善を尽くす為に 荒野の広がるその場所で、黒い繭はもぞりと蠢く。 重苦しい空気は、アヤカシの醸し出す禍々しい瘴気の為か、それとも‥‥。 「鳳鳴さん、癒えきってません‥‥ね？ よろしければこれを」 気休めにはなると思いますのでと、龍馬・ロスチャイルド（ib0039）は符水と梵露丸を鳳鳴に手渡す。 野宿には慣れているからとこの場に残りアヤカシを見張っていた鳳鳴の疲労は色濃い。 薬で全ての疲労を癒すことは出来ずとも、ロスチャイルドの気遣いは薬よりも温かく鳳鳴の身に沁みる。 黒い繭に篭るアヤカシを取り囲むように、開拓者達は陣形を捕る。 嵩山 薫（ia1747）、樹邑 鴻（ia0483）、高遠・竣嶽（ia0295）、拾（ia3527）の四人が前衛。 竣嶽と拾が敵正面に立ち、薫と鴻は敵の背後に。 事前に鳳鳴からアヤカシの食らった開拓者達の能力については皆聞いている。 その中に無差別範囲攻撃の悲恋姫がある事も。 だから範囲外に幼いユンはもちろんのこと、鳳鳴、水月（ia2566）、鯨臥 霧絵（ia9609）の四人の巫女達を配置した。 更にその傍には滋藤 御門（ia0167）が攻撃と巫女達の護衛を兼ねれる様に立ち、ロスチャイルドはユンと水月を守るべくその背に庇い、一心（ia8409）と霧咲 水奏（ia9145）の弓術師は前衛より少し下がり、アヤカシの斜め後方より狙いを定める。 （「改めて誓います『護りきります』と」） タイガが身を挺してユンを庇ったその光景が頭から離れないロスチャイルドは、蠢く禍々しい繭を見据えながら心の中で誓いを立てる。 あの光景を二度と繰り返すわけには行かないのだ。 「わたしにできる事を、せいいっぱい」 アレは、とても強そう、だけど‥‥だいじょうぶ。 そう呟いて、霧絵はいつでも回復できるように、そしてユンには加護法を使ってもらうようにお願いする。 ‥‥決戦は、もうすぐ。 アヤカシを包んでいた黒い繭が解け始める。 ●決戦！ わかっていた事だった。 黒い繭から出てきた時、例えその姿がタイガのままであってもかつての仲間ではない事は。 けれど昨日まで生死を共にした仲間が姿をそのままに、纏う気配を変えて敵として対峙するこの現実に鳳鳴は歯噛みする。 「タベタイ、タベたイ‥‥カイタクシャ！」 アヤカシが欲望を叫び、目の前にいた拾に襲い掛かる。 「あなたにはもうだれもうばわせませんっ！」 ユンと同じくらい柔らかそうな拾は、けれどアヤカシの欲望などにひるむ事無く篭手払で押し返す。 「‥‥鯨臥、霧絵。参ります」 霧絵は神楽舞を鴻に舞う。 神楽舞を受けた鴻は空気撃をアヤカシに打ち込んだ。 だがアヤカシは不規則的な動きを見せた。 よろけたかの様にみえ、そのまま刀を振り抜き間髪入れずに鴻を斬り付ける！ その動きはシノビの技とも違うともいえ、数多の一般人と四人の開拓者を取り込んだアヤカシの中で変化しているのだろう。 予測不可能だったその動きに鴻は咄嗟に槍で受け流し直撃は避けたものの、瘴気を纏ったアヤカシの刀がその肩を切り裂いた。 高い回避能力を誇る鴻でなければ直撃を免れなかったそれは、けれど鴻の動きを一瞬止めるには十分。 タイガの顔を嬉しげに歪ませて、アヤカシが再び鴻を切りつけようと構える。 飛び散る鮮血にユンが悲鳴を上げて駆け寄ろうとするが、水月がそれを抑えた。 「お父さんの前で、立派に成長したところ‥‥見せられると信じてます」 ユンは泣きそうな顔で頷き、水月は淡く煌きながら閃癒を発動させる。 「僕に出来る事を為すまでです！」 アヤカシの動きを封じるべく、御門は呪縛符を使う。 小さな式はアヤカシの腕に絡みつき、その動きを鈍らす。 「たまには現役の道場師範らしく、ひとつ指導してあげるわ」 アヤカシの動きが鈍ったその瞬間に、薫が紅砲をその背に叩き込んだ。 前方に吹っ飛んだアヤカシは、呻き、叫ぶ。 「じゃま、スルナ！ オレ、くイたイ、ヤワラカイ、にク‥‥こどモ！」 拾、水月、ユン。 柔らかく、そして力を感じる三人にアヤカシの欲望はなおも高まる。 だがその欲望を満たさせる事など、誰一人許しはしない。 吹っ飛ばされた勢いを利用して水月達巫女に向かって突進しようとしたアヤカシの前方に、竣嶽が即座に立ち塞がる。 「‥‥喰らった者の技を使うなど、冒涜も甚だしい‥‥！」 竣嶽は凄まじい勢いのアヤカシの突進を紙一重で避け、すれ違い様に居合を放って打ち抜けた。 決して回避率の高くは無い竣嶽だが、欲望のままに突っ込んで来ただけのアヤカシの攻撃を避ける事など造作も無い。 二度と犠牲者を出さぬように、絶対に通さぬ気概で。 だが力を蓄え続けたアヤカシの身体はなお硬く、操るのは開拓者のタイガの身体であるにも係わらずその動きは止まらない！ ―― そのアヤカシの右膝に、矢が突き刺さった。 「いざ‥‥決戦」 仲間が斬られ、狙われながらも冷静に好機を窺っていた一心の矢だ。 「いかに熟練の開拓者の体といえど‥‥人の体を使う以上は動きに制約がかかる‥‥間接の動き、特に膝の動きに」 そう見極める一心の手には既に次の矢が番えられている。 膝を射抜かれ、動きを阻害されたアヤカシはゆらりと向きを変えた。 柔らかい、旨そうな肉から、邪魔をする餌達へと。 「オマエ、オれノ、邪マ‥‥さキに、‥‥クラウ！」 「一心さん、散華です！」 アヤカシと、その動きから次の攻撃を察知した御門が同時に叫ぶ。 直後、アヤカシの指先から無数のクナイが迸り一心に襲い掛かった。 複雑な機動を描いて飛び交うそれは、到底避けきれるものではない。 事前に急所に哀桜笛を仕込んでいたから辛うじて急所は免れたものの、一心は膝をついた。。 「霧咲が弓術の真髄たる即射の業は牽制のみに非ず。神速の業にて誅しましょう！」 一心から注意を逸らし、アヤカシの動きを止めるべく霧咲の矢が放たれる。 狙い違わずアヤカシへと届くその矢は見事左足を打ち抜いた。 「‥‥だいじょうぶ。きっと、何とかなるわ」 霧絵の神風恩寵で優しい風に包まれた一心の傷が癒えてゆく。 また一心自身も符水を飲み干す。 両の足を射抜かれ、素早い機動力を奪われたアヤカシは、けれどニヤリと微笑んだ。 「‥‥ワカる。コれがオマエたチノ、チカラ。‥‥オレノエタ、サイ強ノチカラ！！！！！」 ―― 悲恋姫！ 開拓者達の一番恐れていた無差別攻撃が発動する。 竣嶽、鴻、薫、拾の前衛四人に怨念と呪いの悲鳴が突き刺さる！ 肉体でなく精神に被害を与えるその技は、前衛四人の脳内に悲鳴を響かせる―― 今迄アヤカシ喰らった被害者達の声で。 なぜ、もっと早く助けてくれなかったのか、なぜ、自分が死ななければならなかったのか、なぜ、何故、ナゼ！ 四人のせいではないというのに、そして決してそんな事を口にするはずの無いタイガの声までが呪詛を孕んで竣嶽達を責め苛む。 本来無関係な悲恋の苦しみの瘴気の悲鳴が、拾達が一番聞きたくない声となって責め苛むのはやはりアヤカシの中でスキルが変化しているのだろう。―― より開拓者達を苦しめるように。 時間にして、ほんの一瞬。 瞬きする間の出来事であるというのに、悲恋姫の攻撃を受けた開拓者達の精神的苦痛は計り知れない。 全てを助けたくても助けられなかった無念は深く、肉体に受ける苦痛よりも遥かに深く抉られるのだ。 でも、だからこそ。 「これ以上誰も犠牲にしないで」 水月の癒しの光が皆を包み込む。 「これで終いにいたしますっ！」 悲恋姫のダメージを振りきり、拾の剣が赤く輝く。 射抜かれた矢のせいで動きの鈍くなったアヤカシの身体を切り裂いた。 タイガの声で苦痛に呻くアヤカシに、 「如何に技が多かれども、それを用いる為の術理無くして本物の『力』には成り得ぬことを知るといいわ」 薫の極神点穴が放たれる。 正確に点穴に触れたその技はアヤカシの全身に衝撃を炸裂させる。 消される恐怖が再びアヤカシの中に芽生えた。 「オれハ、キエナイ、タベタイ、キエナイ‥‥コドモ！」 その場から動けぬほどのダメージを負いながら、アヤカシは再び散華を放つ―― 一番、欲しかった餌、即ちユンに！ 「何が有っても後ろには通しませんよ！」 決して前に出る事無く水月達巫女の護衛に徹したロスチャイルドがシールドノックでほぼ全てのクナイを叩き落し、残りはその身を挺して防ぎきる。 再び悲鳴をあげそうになるユンだったが、ぐっと耐えて回復に専念する。 叫んでもなにもなりはしないのだ。 父を、そしてここまで連れてきてくれた皆の為にも、ユンは幼いながらに開拓者であらんとする。 「残念ながら、おかわりは無しだ。食いすぎは体に毒だぜ？」 ―― クイタイクイタイクイタイクイタイ！ 最早使い物にならなくなった身体から次の身体へと乗り移るべく噛み付こうとするアヤカシに、鴻は情け容赦なく破軍発動！ 何重にもかけた破軍は鴻の攻撃力を最大限に高め、その拳はアヤカシの身体に深く沈み込む。 「そろそろ‥‥出てきて貰おうか！」 鴻の叫びに応じるかのように、タイガの身体から黒い靄―― アヤカシの本体が滲み出す。 ●因縁を断ち切って ついに正体を顕わにしたアヤカシは、噂通り。 実体を持たぬそれは霧のように、けれど素早く逃げようとする。 「これが僕の最大攻撃です。行け、白狐っ」 御門に召還された白狐は即座にアヤカシを組み敷き、実体を持たぬそれを難なく痛めつける。 呻き、ズルリと逃れるアヤカシに竣嶽は鎌鼬を見舞い、 「絶対に逃がさないのです」 水月と霧絵力の歪みでアヤカシの身体がぐにゃりと捩れた。 開拓者たちの総攻撃にもうアヤカシに逃げる力などなく、噛み付くことなど到底不可能。 「好機はここしかない。ぶちかませ、鳳鳴！！」 鴻が促す。 全ての因縁を断ち切る為に。 「‥‥恩に着る」 短く呟き、鳳鳴は浄炎を使う。 清浄なる炎がアヤカシを包み込み、断末魔の悲鳴を上げてアヤカシは完全に消滅した。 「やった‥‥支倉さん！ みなさん！ やったのですっ！」 拾が喚起の声を上げる。 ●感動の再会を 「さあ、お行きなさい」 薫がユンを促す。 旅の間、ずっとユンの親代わりとして努めて来た薫だったが、それも今日で終わりだ。 ユンが求めた父、鳳鳴のもとに無事に送り届けることが出来たのだから。 おずおずと、けれど嬉しそうにユンは鳳鳴に駆け寄る。 「おとぅさん！」 駆け寄る娘を、鳳鳴は力強く抱き締める。 この子と、開拓者の皆が駆けつけてくれなかったら、いま自分はこうして生きてはいなかっただろう。 感謝してもし足りない。 （「もうよろこぶのガマンしなくっていいよね！」） 感動の親子の再会に、拾も嬉しく涙ぐむ。 そして全員で、タイガの遺体を弔うべくエンカク村に運び込む。 アヤカシの抜けたタイガの身体は霧散する事無くその場に残っていたのだ。 その身を犠牲にしてユンを守ったタイガの顔は、ユンと鳳鳴の再会を祝うように穏やかに微笑んでいた。 （「犠牲になった者の数だけ弔いに花を捧げましょう‥‥」） 霧咲は色とりどりの花を添える。 長く辛い戦いは、いま幕を閉じたのだった。 （代筆 ： 藍鼠） |
