積荷は‥‥燃やすな!
マスター名:陸海 空
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/28 21:05



■オープニング本文

●密約
 陰殻を騒がせた賭け仕合の決着がついて数ヶ月。
 表向きは平穏を取り戻したが、そこかしこに火種は燻っている。
 それが燃えるか、鎮まるかは、それぞれの流派の出方に関わってくる。
 友好も敵対も、打算と謀略で決められ、利害が一致すれば憎む相手とすら手を組む。
 陰殻とは、そういう国である。

「‥‥やはり、狙うものがいる、と」
 己の執務室で部下より報告を聞いた諏訪氏頭領、顕実は丸眼鏡の弦を指で押し上げながら問うた。
「是。贋作を積んで出立させた囮の二隊、各々別の流派らしきシノビに襲撃された由」
 部下が差し出してきた文書は、暗号化されたいつものそれで。
 襲撃したシノビの数、推測された流派について記されている。
「ふむ、なかなかの手練を投入してきましたね。よほど、手にしたいと見える」
 あんな物騒なもの、手にして何に使うつもりなのかと顕実は呆れ半分で考える。
 襲撃者が狙っているのは、現在諏訪氏預かりとなっている宝珠爆弾。
 製造技術を所持している北條氏が返還を求めており、現時点では面倒ごとを避けたい諏訪がそれに条件付で了承した。
 北條と諏訪の間で交わされた密約により、宝珠爆弾は幾度か輸送班が組まれ出立したのだが、賭け仕合の時に一つ盗まれ使用されてしまったことにより、その脅威が明るみに出た。
 狐妖姫の謀略で情報が漏らされていたこともあり、よからぬことを企む流派が密かに狙っているのだ。
 賭け仕合が終了した後も、二度ほど輸送班が組まれたがどちらも襲撃者が現れた。
 幸い、襲われたのは威力どころか爆発すらしない偽の宝珠爆弾を積んだ囮部隊であったため、事なきを得たのだが。
 次は本隊が襲撃されないとも限らない。
 手練の部下を配して輸送したいのだが、そう何度も使いに出すわけにも行かず人手も十分とは言えない。
「世情が動いてますし、今は出来るだけ手のものを情報収集に向かわせたい」
 諏訪にとって情報は最上級の武器である。
 だからこそ、信頼のできる部下を向かわせたい。
「‥‥ふむ。また、開拓者を頼りますか。下手な者に頼るより、よほど安心して任せられる」
 とん、と文机を指先で叩いて呟いた言葉に、報告に訪れていた部下が表情を曇らせる。
「ですが、開拓者の中に不心得者が混じっている可能性も‥‥」
 常に最悪の事態を想定し、あらゆるアクシデントに備えろと教え込まれてきたことをしっかりと発揮する部下に、顕実は微かに表情を和ませる。
「良い質問です。輸送のために、何人もの手練部下を割くのはできませんが、一人なら問題ない。‥‥開拓者には、来須をつけます」
 反論は許しません。と有無を言わせない笑顔を浮かべる顕実に、反論をすることは出来ず「‥‥はっ!」と答え部下はその場を辞したのだった。


●危険物輸送の依頼
 数日後、一人のシノビが開拓者ギルドに依頼を持ち込んだ。

【陰殻の諏訪所領から北條所領まで、危険物輸送をして欲しい】

「危険物ってのは、具体的に?」
 ギルド職員の質問に、来須と名乗る赤みを帯びた強い癖毛のシノビは淡々と答える。
「叩きつける等の強い衝撃を与えると、爆発し広範囲を破壊する危険な代物。我一人では手に余るゆえ、助力を求める由」
 その言葉に職員は瞠目する。
「おいおい、穏やかじゃないな」
「順路は同行する我が案内する。途中、積荷を狙った襲撃がある可能性がある故、手練の開拓者を所望する」

 ギルド職員は、その他いくつか質問を投げかけながら、大変な依頼が舞い込んだものだと思うのだった。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
柳生 右京(ia0970
25歳・男・サ
空(ia1704
33歳・男・砂
水津(ia2177
17歳・女・ジ
羊飼い(ib1762
13歳・女・陰
花三札・猪乃介(ib2291
15歳・男・騎
花三札・野鹿(ib2292
23歳・女・志


■リプレイ本文

●炎燻ぶる現世
「諏訪所領から北條所領‥‥ハー、まァた何だかキナ臭ぇ感じだわ」
 人間同士、血で血を洗う戦の耐えない陰殻。
 肩を竦めたのは空(ia1704)口だけの笑みが奇妙に歪む。
「いやはや、物騒な積荷に加えて敵さんのお出ましがあるとは、派手さねぇ」
 同感だとばかりに、相槌を打つのは北條 黯羽(ia0072)だ、渦中にいれば大事でも開拓者達には関係が無い。
「何運ぶのかよー知らんアルが、結構必死っぽいナあ」
 梢・飛鈴(ia0034)が最後の木箱をゴザで巻き、縄を巻く。
「慎重に事を運ばなくてはなりませんね‥‥」
 悪路用の渡し板を詰め込んだ水津(ia2177)はどこか、気弱そうな笑みを浮かべる。
「(危ない物なんかサッサと壊しちゃえばいいのに、碌なことに使わないんでしょ)ちゃんちゃらですよぅー」
 権力争いなど退屈なだけ、羊飼い(ib1762)は砂を詰めながらお菓子を一つ口に入れ最後の野菜を詰め込んだ。
「積荷、かぁ‥‥お宝だったら、ちょっと分けてくんねぇかなー」
 無理だよなぁ、と思いつつも経営状態の芳しくない何でも屋『百花繚乱』を思いながら花三札・猪乃介(ib2291)が口にする。
「積み終わったな。荷運びだけにしては何やらきな臭い感じだが‥‥気をつけていこうか、うむ」
 花三札・野鹿(ib2292)が軽く木箱を叩き、それを猪乃介に見咎められて肩を竦めた。
「襲撃者‥‥どれ程の相手か確かめてみるのも一興か」
 己の得物に手をかけ、柳生 右京(ia0970)の呟いた言葉、何も言わず来須が視線を向ける。
「依頼内容だからな、逃しはしないさ」
 信用など置いていないであろう同行者の視線、暫くして道案内に歩きだす来須の後を追い開拓者も歩を進めるのだった。

「落とし穴とか‥‥ないよな」
 前方を歩くのは猪乃介、姉の野鹿と共に先導役を務める。
「ピクニックとかなら、楽しかったんだけどな―――」
 日の出を眩しそうに見ながら野鹿が答え、あくびを漏らした。
「罠なんてぇのは無さそうだな、今のところはよぉ」
 重い音を立てて荷を轢く馬の横、忍眼を駆使しながら空が呟く。
 超越聴覚を使っても、特に引っ掛かる敵などいない‥‥尤も、どれ程の手練なのかが分からない以上警戒は怠れない。
「見えない相手って言うのも、疲れるもんだ」
 北條の言葉に、やりにくいナと梢が呟く。
「梢さーん、自分にも下さいですよぅ」
 饅頭を齧る梢に向かって、手を伸ばす羊飼い―――緊張感など皆無であるが、重要な積荷を積んでいる等思いもしないだろう。
「それにしても、悪路ですね」
 デコボコとした道は、走れない事も無いが運搬には非常に不適切と言えた。
「伏兵や奇襲を掛けられそうな道はあるか?」
 柳生の言葉に、来須は淡々と返答を返す。
「地の不利など無き由」
「何処からでも襲ってくるって事かい?」
 厄介な、と北條が片眉を吊り上げる。
「‥‥何時仕掛けてくるか、何処から襲ってくるか、楽しみだな」
 戦う為に依頼を受けたと言っても、過言ではないのだろう、柳生は刃のような瞳を細めた。
「来須は何か、楽しい事ないですかぁ?」
 ツマンナイと呟きながら羊飼いが声をかける、相変わらず寡黙なシノビに唇を尖らせると馬の首筋を撫でた。
「愛想のないシノビは嫌いよぅ、ぷぅ」
 唯一の癒しである馬は、積荷の危険性を本能として知っているのか足運びが重い。
「愛想があり過ぎても、胡散臭いがナ」
 道の脇に気を付けながら、重なっている藪や見晴らしの悪い場所へ苦無を放つ梢。
 警戒しすぎると言う事は無いのだろう、すれ違う農夫、売り物を手にした商人。
 ―――彼らですら野菜を積む、と言うフェイクをしている。
 人数の多さから言えば、逆に怪しい気もするが何もなしに終える方が難しいように思えた。
「無事に終わるといいのですが‥‥」
 水津の呟き、未だ鳴らない呼子笛は何時鳴るのか―――

●思わぬ強襲
 太陽は中天を過ぎ、そろそろ一同が休憩を取ろうか、と言う時だった。
「待ち伏せだねぇ、これはァ」
「来たようだな‥‥だが」
 ペロリと舌舐めずりして呟いたのは、忍眼を発動していた空。
 心眼で周囲を警戒していた野鹿も、相手に気付き交戦とばかりに得物を構える。
「‥‥聞いていた話とは、違うな」
 臨戦状態に入る面々、その中で退屈そうなのは柳生。
「‥‥隙だらけ、ですね」
 声を顰めた水津の言葉、パラパラと飛び出して来たのは10名程の人間。
 隙だらけ、得物と思われるものも鍬や斧―――此れは何よぅ、と視線を来須に向ける羊飼い。
「下手人ならば追い払う由」
「ちょっと脅せば、いい気もするがナ」
 梢の言葉に得物を構えた開拓者達、先手を取ったのは梢だ。
「おい、何の用アルか?」
 手には苦無を煌かせ、いつでも放てるとばかりに睨みつける。
「その‥‥積荷を、渡せ!」
 金がいるんだよっ、と叫ぶ‥‥目の前の人物達はこけた頬、見るからに貧しい身なりだ。
「積荷の中身を、知ってるのかい?」
 合口「呪痕」を手に持ち、不敵に微笑むのは北條、知らねぇ!と声を上げた一人。
「うむ、ならば、引きさがって貰えるか?‥‥此方も、無闇に血を流すのは好まない」
 野鹿が槍の穂先を付きつけ、揺るぎない視線で語る。
「野菜、位なら分ける事が出来ますが‥‥」
 水津の言葉に、下手人の視線が揺らぐ―――殺気を放つ目の前の槍使い、苦無を閃かせる少女、合口を持ち微笑む女性。
「金の入ってるのかは知らないけどさ、引いて貰えると助かるんだ」
 猪乃介が畳みかける、そして空と柳生。
「それとも、シシシ、死、死ぬかァ?」
「雑魚に用は無いが‥‥死にたいのなら」
 明らかに殺気を放つ男性二人‥‥柳生の刀が閃く、首を掻き斬られた男、鮮血を噴きだし大地を染める。
 空の放った苦無「獄導」は暗い闇を纏い、下手人の首へと突きささった。
「どうやら、襲撃者とは違うみたいだけどねぇ」
 相手が悪かったよ、と北條が槍を振るう‥‥一般人と思われる彼等は、次々に事切れた。
 ―――草、シノビと言う名の盗賊。
 それを容認しているのが、実情、日々の生計を立てる為には弱い者を見極め、襲う。
 彼等は相手が悪かった、唯、それだけのことである。

●散らす命、救いすらなく
 迎撃を終えた一同、交互に昼食を取ろうとした時‥‥一陣の風が吹いた。
 色も感情も無い風は、同時に只者ではないと直感する。
「全く、襲撃も場所を選んで欲しいアル」
 饅頭を飲みこみ梢が苦無を構えた、その人数、3名。
 先程の襲撃は、囮だったのだろうか―――だが、わざわざ積荷に全員が張りついている時に狙わなくても。
 否、その隙を狙ったのだろうか?
 鮮血と交戦で聴覚や嗅覚が鈍る最中、潜んでいたに違いない。
「これを渡すわけにはいかないのですよ‥‥大人しく燃えるか立ち去るか選びなさい‥‥」
 馬車を守っていた水津が説得の後、動かないシノビを見て呼子笛を吹く‥‥後背から3名。
「後ろから3名来ましたよぉ」
 緊張感のない羊飼いの声。
 側面から1名、荷馬車に張り付いてた空が苦無「獄導」を放つが、相手のシノビはヒラリとかわし、裏術・鉄血針で応戦する。
 宙に鮮血が舞う、だが直ぐさま空は水遁を放った。
「ザざ坐ン念ダったなァァア!叩き突けル水見ズ水巳!」
 平衡感覚を失ったシノビは術に転じる事にしたのか、同じく水遁を放つ。
 突如、印を組むシノビの指先が弾き飛び、吹き出る出血が腕を伝う。
「流石シノビ、汚いですよぅ」
 放ったのは羊飼い、袋に詰めた砂を相手に向かってぶちまける。
 咄嗟に距離を取るシノビ、後背から空が水遁を放ち、続けて水津の浄炎が襲った。
 ―――事切れるのを確認し、護衛班は積荷から離れず、残りのシノビ達へ視線を移す。

 遊撃班の3名、北條、梢、柳生は後背から来た3名と対峙していた。
 梢の手から、苦無が飛来する、牽制の威力を確かめぬまま彼女は瞬脚で一気に距離を詰め足を踏みつける。
 だが、相手のシノビは梢の足首を狙い振り子のように蹴りを入れると、たたらを踏んだ彼女へ飯綱落としを仕掛けた。
 脳が痺れるような感覚‥‥強い、だが、近接なら秦拳士の十八番。
 もふらの面の奥、笑みを浮かべた彼女は暗勁掌を叩きこんだ‥‥骨の折れる感触、後方から飛来した北條の斬撃符がシノビ一体を葬り去る。
「積荷を狙うだけあってなかなかの手練揃いのようだ‥‥面白い」
 残忍とも言える光を湛えた柳生が、咆哮を使い敵を引き寄せる。
 正面から引き寄せられたシノビ、柳生の後背へ向かって水遁を放った。
「(‥‥彼等は、火の術を使っていませんね)」
 ふと、水津が抱いた疑問、彼等は燃やす気は無い‥‥奪う事が目的。
 中身を知っており、尚且つ可燃性のある物だと気付いている―――可燃性のある物、酒や焙烙玉?
「(いえ、今は無事に積荷を‥‥届ける事が先―――)」
 水遁を放った敵の後背、アーバレストで射るのは猪乃介―――後背を取られたシノビは咄嗟に急所を外したが口から血を吐く。
 容赦なく柳生の刀が振るわれ、焔陰と両断剣を組み合わせた斬撃を放つ。
 矢に身体を貫かれ、斬撃を受けたシノビは肉の焦げる臭気を発しながらその場に倒れた。
 後ろから襲撃してきたシノビの残り、柳生へ向かって螺旋を放つ。
 鋭く回転した手裏剣は容赦ない破壊力で、彼の肩を抉る。
「悪いが止めは確実に刺させて貰うぜ。闇に生きたんだ‥‥闇に還りな」
 次の印を組むシノビ、発動する前に北條の斬撃符が首を抉り、シノビはその場に崩れ落ちた。
 互いに負傷していく開拓者とシノビ達。
「眼鏡から怪光線‥‥所謂、閃癒です」
 眼鏡が淡く輝き、周囲の開拓者達の傷を癒していく―――完全に開拓者に利があった。
「機動力、があっても奪っちゃえば問題ないですよぅ」
 羊飼いの呪縛符が1名を絡め取る‥‥確認した開拓者達はその一名へ攻撃を絞った。
「此方にも理由がある‥‥お前には分からないだろう、私にもお前達の事は分からない」
 猪乃介を庇いながら、野鹿が巻き打ちを使いシノビの出鼻をくじく。
 その身で苦無を身体に受けるも、槍は手放さず。
「鹿姉ぇ!」
「大丈夫だ、猪乃介‥‥攻撃に徹してくれ!」
 ―――依頼も勿論、大切な弟を失くさない為に。
 瞳に強い力を宿した野鹿は、槍を振るうとシノビの胴を突き差し抉るように命を奪う。
 残りのシノビは2名。
 その2名のシノビには恐怖がありありと映っていた。
 ―――死への恐怖、失敗する恐怖、それとも?
「積荷が得られないなら‥‥そのまま戻る位なら―――」
 低く、世界を呪うかのように呟くシノビの一人、紡ぎだす印は火遁。
 同じシノビである空は危険を察し、水遁の印を紡ぐ。
「ヒヒっ、去去去去!死ッ!!」
 壊れた人形のように嗤い声を上げた空、滑り込んだ梢が暗勁掌を放ち火遁の射程から積荷を遠ざける。
 続いて空の放った水遁が、シノビの一人を葬った。
「(得られないなら、ぶっ放すカ)」
 いざという時、ハッタリとして焙烙玉で爆破、を考えていた梢だったが―――それは意味が無いと冷静に判断する。
 後一人、殺した方が早い‥‥そして、始めから彼らには逃げると言う選択肢などないのだろう。
 包囲する開拓者達、対するのは一人のシノビ‥‥一気にシノビが駆ける。
 ―――早駆、三角跳、向かうのは馬。
「ねーちゃん、にーちゃん、馬狙いだ!」
 猪乃介が叫び、アーバレストを放つ―――複雑に動くシノビ、掠めるものの当たらない。
「積荷は持っておこう」
 馬と積荷を切り離す柳生、馬を狙っても積荷が無ければ意味が無い‥‥追いつめられて判断が狂ったのだろうか。
「馬さん、帰ってくるのですよぉ」
 羊飼いが馬を切り離す、不意を突かれたシノビは馬を駆る。
 足とするつもりなのか、馬上から放つのは確実に命中する水流刃だ。
 一番近くにいた猪乃介の胸部から鮮血が飛ぶ、野鹿の悲鳴のような声を聞きながらも彼は駆けた。
 後背から、羊飼い、そして北條の斬撃符が飛ぶ、横を瞬脚で駆ける梢、咆哮で引き付ける柳生。
「諦めるアル」
 梢の冷ややかな言葉、暗勁掌は馬の足へと叩きこみ馬上のシノビを地面へ落とす。
 二人の放つ風の刃がシノビの身体を紅に染めた。
「‥‥私の弟を、傷つけた罪は、重い」
 断罪の言葉と共に、野鹿の槍がシノビを闇へ葬った。

●北條流、村にて
 その後、目立った襲撃も無く村へと辿りついた開拓者達。
「馬さん、大丈夫ですかぁ」
 水津の閃癒にて癒されたものの、まだピリピリとしている馬に羊飼いは声をかけながら村を見まわす。
「話を、付けてくる故」
 そう言って離れた来須、やがて北條の使者と思われる男が積荷を確認する。
「一件落着アルか」
 深々と頭を下げた男を見て、梢が呟く。
 空は既に太陽の統べる時刻から、月の統べる時刻へと変化していた。
「‥‥(道すら明らかにされないような場所の村は明らかに怪しいですから)一晩休んだら帰らせていただくですよ」
 ゆっくりしていくか、と問われた開拓者達、水津は不信を声に出さずキッパリと断る。
「猪乃介、大丈夫か?」
「鹿姉ぇこそ‥‥」
 猪乃介と野鹿の手当てを、と申し出たシノビが慣れた手つきで介抱していく。
「やっと一服出来るねぇ」
 煙管を吸いながら北條が言った、恐らくこの積荷は相手側の頭領へと返却される。
 ‥‥長い一日、それの終わりを意味していた。
「お国柄か何だか知らんが、懲りずに騒がしいこって」
 空の皮肉に、来須、そして使者のシノビは顔色一つ変えず。
「―――それが、陰殻ですから」

●終幕
「無事に積荷は届きましたか」
 顕実は丸眼鏡の弦を指で押し上げ、来須からの報告を聞いていた。
 追って北條からの書簡を確認する‥‥尤も、既に把握していた事実ではあるが。
『例の物は無事です、有事の際、助力しましょう』
 暗号文で書かれた簡素な書簡は、紛れも無く北條流頭領の物だった。
 ‥‥一つの密約、それが陰殻に何をもたらすのか、それはまだ、わからない。

(代筆 : 白銀 紅夜)