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■オープニング本文 ●弱肉強食の理 理穴を侵食する魔の森の繁茂と、それによるアヤカシどもの凶暴化は人間以外‥‥すなわちケモノにとっても脅威となる。 己の縄張りを侵食され安住の地を奪われるケモノとて、黙っているわけではない。 アヤカシを相手取り縄張りを守ろうと戦うものもいる。 力のあるものは戦い、弱いものはアヤカシに食われてしまうか縄張りを捨て逃げ出す。 まさに、弱肉強食だ。 そして今も、あるケモノの群れがかつて棲家だった場所を魔の森に飲み込まれ、安住の地を求めて理穴を逃れて陰殻を南下している。 その群れは他のそれと比べると強くも多くもないものだったが、頭のケモノが賢く小競り合い程度の縄張り争いでも上手く立ち回っていた。 故に勝ち目の無い争いを避け、新たな安住の地を求めたのだろう。 しかし、陰殻の土地は肥沃とは言い難く群れが住まうには向かず、疲れた体と飢えに苛まれながら獣たちはさらに東南へと移動するのだった。 ●緑茂の里への物資輸送 「なんでも、理穴の緑茂の里ってのが今危ないらしいじゃないか」 「あぁ、聞いた聞いた。飛空船が襲われて物資補給も大変だってね」 場所は神楽の都、開拓者ギルド。 様々な依頼が舞い込むこの場所も、今は理穴の話題が多い。 アヤカシの凶暴化に比例して、理穴に関わる依頼が急増しているのもあるだろう。 事実、依頼を探して訪れた開拓者に提示されたのも、理穴方面へのそれだった。 依頼内容は「物資輸送」 兵糧となる食糧を陰殻の地方里にて受け取り、精霊門のある根来寺に届けて欲しいとのこと。 「気をつけてな、最近はアヤカシだけじゃなくケモノや盗賊も出るらしいから」 ギルド員の言葉に頷いて、開拓者はまず里へと出発した。 開拓者一行は、特に問題なく里で物資を受け取った。 輸送する食糧は荷車2台分と、それを引く馬が2頭。 目的地の町、根来寺の精霊門で馬ごと引き渡すのが今回の依頼である。 「最近、魔の森が広がってるだろ。それまでそこに暮らしてたケモノが棲家を失って人里に出てくることが多いんだよ。あんたらも気をつけて行くんだよ」 くれぐれも、積荷と馬を無事に届けておくれ。と何度も念押しされた一行は、馬を引きながら根来寺に向けて北西へと移動する。 ●ケモノと食糧と開拓者 ケモノの鋭い嗅覚が真っ先にそれを嗅ぎ取った。 進行方向から向かって来る、人と食糧のにおい。 疲労と飢えに群れ全体の気が立っており些細なことで諍いを起こしていたことに、頭のケモノはそれをどう納めようかと思案していた所だったので、まさに渡りに船だった。 群れの不満を解消させると同時に腹を満たすことが出来る、と。 手下のケモノたちは既に、涎をたらして今か今かと待ち構えている。 久々に腹いっぱい食える、そんな期待に誰からともなく雄叫びが上がる。 ――グォォォォン‥‥ それは、すぐ近くまで移動していた開拓者一行の耳にも届いたのだった。 |
■参加者一覧
恵皇(ia0150)
25歳・男・泰
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
瑠璃紫 陽花(ia1441)
21歳・女・巫
煉(ia1931)
14歳・男・志
菫(ia5258)
20歳・女・サ
紅蓮丸(ia5392)
16歳・男・シ
アリア・レイアロー(ia5608)
17歳・女・弓
和泉 茶々(ia6774)
18歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●ケモノの群れ 補給物資の食糧と馬を引き林道を進んでいた一行は、前方から聞こえてきた雄叫びに厳しい表情で身構えた。 「楽な仕事だと思ったんだがねぇ‥‥全く面倒だ」 冷めた眼で前方を睨みながら鷲尾天斗(ia0371)が言えば、手にしていた手綱を彼に預けた紅蓮丸(ia5392)が軽く屈伸をしながら仲間を振り返る。 「ふむ、不穏な気配でござるな。皆の衆は此処で少し待っているでござるよ。拙者が偵察してくるでござる」 出発前に打ち合わせたことなので、全員動じることなく紅蓮丸が駆けていくのを見送った。 樹木や岩陰に身を隠すように、前方の不穏な気配のする場所に近づいた紅蓮丸は、ケモノの群れをその眼に捉えた。 巨大な猪が恐らく群れのボスだろう、その傍に従うのは2頭の大きな熊。 そして15匹の猪と、10匹ほどの野犬がその周囲を取り巻いていた。 そのどれもが、腹を減らしているらしく仲間たちがいる方向に向かって血気盛んに唸り声を上げている。 「‥‥これは、まずいでござるな」 紅蓮丸は、ケモノどもに感づかれる前にその場を離れ、途中の道に牽制のための撒菱を仕掛けて皆の下に戻ったのだった。 話を聞いた一行は、早急に迎え撃つべく手はずを整え始めた。 まず煉(ia1931)が馬を木に繋ぎ、怯えて暴れないようにケモノから守るように傍に控える。 「魔の森の影響がここまで来ているとはな‥‥」 その呟きに二台を道の中央に並べて輪留めで固定しながら、恵皇(ia0150)が頷く。 「全くだ。アヤカシの影響でケモノまで迷惑を被ってるわけだな」 見通しの良い場所で支援するために、荷台に上った瑠璃紫 陽花(ia1441)は足場を確かめながら小さく呟く。 「アヤカシだけでなく、ケモノまで出るようになってしまうとは‥‥色々複雑ですね」 同じく荷台に乗って援護射撃をするべく弓を構えたアリア・レイアロー(ia5608)は、揺るぎのない瞳で敵が来るであろう方向を見据える。 「たとえ、どんなことがあっても。私は、私の出来ることをしたいです」 荷台の守りについた菫(ia5258)はそのきっぱりとした態度に、微かに眼を伏せた。 相手も、こちらも命を賭けているのだから、アリアの言葉は正しい。 敵に情けをかけるほど愚かなものはないし、菫自信も覚悟は出来ている。 けれど、相手の命を奪うことに引け目を感じてしまうのもまた事実だった。 「きっと私は傲慢なんだ‥‥。弱いな、私は」 誰にも聞こえないようにそう一人ごちて、それでも意識を切り替えて武器を構えた。 「わぁ‥‥。ケモノでも襲ってくるとなると、怖いですね」 荷台に乗り、狙いをつけやすいように腹ばいになった和泉 茶々(ia6774)が弓術師ならではの視力の良さでこちらに向かって来るケモノの群れを察知して呟く。 その言葉に、迎撃準備を整えた一行は気を引き締め敵が向かって来る方向を見据えた。 ●生きるための戦い 「ほう、犬の何匹かは動きが鈍いな‥‥足に怪我でもしてるのか?」 かなり離れた場所でこちらを伺うように動きを止めた群れを見て、天斗が首を傾げれば紅蓮丸がそれを確認し少々悔しそうに返答をする。 「先ほど拙者が仕掛けておいた撒菱にかかったのでござろう。しかし、思ったよりかかったケモノが少ないでござるな」 そう言われてみれば、罠にかかったらしいのは野犬のみで、猪や熊に被害はなさそうである。 敵のリーダーがどうやら、利口なものなのだろう。 「恵皇様、火種を」 陽花が恵皇の手にした松明に火種を使って火を点す。 ケモノが火を恐れるかもしれないので、試してみるために用意したものだ。 しかし炎を前にケモノたちは、若干怯みはしたものの足止めにすらならなそうだった。 「そう上手くはいかねぇってことか」 仕方なさそうに呟いて、恵皇は松明を地面に擦り付けて火を消す。 戦いの邪魔になってはいけないからだ。 恵皇の言葉に、つまらなそうに肩を竦めて天斗は担いでいた槍を掴み直す。 「多少はやるようだが‥‥こちらも馬鹿じゃねぇからなぁ」 二人がちらりと後方に視線を向ければ、既に仲間の戦闘準備は完了しており、偵察してきた紅蓮丸も呼吸を整え荷台の守りについている。 「荷を護りながら敵を撃退‥‥か、面倒だが‥‥立ち塞がるなら、殲滅するのみだ」 唇の端を吊り上げにやりと笑った天斗の言葉に呼応するかのごとく、ボスである大猪が号令をかけるかのように雄叫びを上げる。 「来るでござる!」 雄叫びに呼応して野犬全てと猪の半数が林道から林の中に散開し、紅蓮丸が仲間に注意を喚起する。 「天斗様、恵皇様、お気をつけて!」 陽花は、戦いを有利に進めるにはまず頭を叩くこと、とばかりに敵陣に突っ込んでいく二人に加護法をかける。 アリアと茶々は弓の射程に入ったケモノを射ながら、攻め手の二人の援護をする。 「周りを囲むように樹木の影に身を隠しながら、じりじりと寄って来てる。木が射線を遮ってるのは痛いな」 煉の言葉に、紅蓮丸と菫が頷く。 荷から大きく離れるわけにも行かず、物陰から物陰へと移動する隙を突いて紅蓮丸が打剣で手裏剣を投げるものの上手くいかず、仕留めることが出来たのは撒菱で足を負傷した数匹の野犬だけだった。 だが、守備に付いた人数が多かったのが幸いして飛び出してきたケモノから少しずつ倒して安全は確保できそうだ。 怯えて落ち着かない馬を大人しくさせるのに苦労しつつも、煉は心眼で死角をつくように飛び出してくる猪や野犬を察知し、仲間に伝える。 それに呼応して、菫が業物を盾のように使い攻撃を受けとめスマッシュで倒す。 紅蓮丸は、射線を遮られてはいるものの、野犬よりも動きの遅い猪に狙いを定めて手裏剣を投げる。 飛び出してきた敵に反応が遅れると、アリアの瞬速の矢が味方を助けた。 「すまない‥‥助かった!」 菫がチャージを使用しながら礼を述べれば、アリアはニコッと微笑んで天斗の背後を狙う猪に矢を放った。 「少し遠いですが‥‥まだ狙えますね」 狙眼でリーダーの傍に控えた熊の目を茶々が射抜けば、八極門で雑魚の攻撃を凌いでいた恵皇が躍り出て骨法起承拳を打ち込む。 「グオォォォォ!」 急所を狙ったその攻撃で、リーダーの両翼を護る片方の熊が戦闘不能に陥った。 「こっちも、負けてらんねぇな」 サイドステップで猪の攻撃を回避し、熊の死角に回り込むように天斗が移動すればそれを追うべく振り返る隙を突いてアリアの強射「朔月」が炸裂する。 「邪魔だ、食糧になりたくなければ道を開けろ」 痛みに身を捩る熊の脇腹に流し斬りを叩き込めばさしもの熊もなす術はなく、どうと音を立てて地面に倒れ伏した。 「なんだ‥‥? 急に動きが‥‥鈍ったな」 菫がバトルアックスを握りなおして呟けば、突っ込んできた猪から受けた紅蓮丸の傷を癒しながら陽花が微かに頷く。 「自分が危険になって、指令が行き渡らなくなった。ってとこか」 煉が自分に向かって飛び掛ってきた野犬を流し斬りで切り捨てながら、呟いた。 その見立てどおり、恵皇と天斗が雑魚を蹴散らしリーダーの大猪に肉薄したことにより、指令が発せられなくなったのだろ今までの連携が嘘のように動きが悪くなったのだった。 「一気に、いくぜ!」 恵皇が気合を入れれば、炎魂縛武で槍に炎を纏わせた天斗も呼応して槍を振りかざす。 「喰らいやがれ。紅蓮羽」 炎を纏った槍での流し斬りが打ち込まれるのと同時に、大猪の眉間に恵皇が骨起承拳が叩き込む。 追い討ちとばかりに、アリアと茶々の矢も次々と大猪に刺さり、いかなケモノのリーダーと言えど耐え抜けるはずもなく。 「グオォォォォン‥‥」 断末魔を上げて、轟沈したのだった。 ●弱者の末路 司令塔であるリーダーを倒した後の戦いは、至極簡単だった。 大猪が倒れたことのを見るや、獣達は一気に勢いを失っていき自暴自棄になって突っ込んできて倒されるもの、一目散に逃げ出すものが出て、その場を収めるのに苦労はなかった。 逃げ出したケモノは、再び襲ってくる様子がないことを煉の心眼で確認し捨て置くことになった。 「さて、荷のほうは大丈夫かな?」 天斗と恵皇が戻って問えば、損害を確認していた菫とアリアが頷いた。 「はい、大丈夫です。馬も怯えはしてましたけど、怪我も無く落ち着きました」 「ケモノには可哀想なことをした‥‥。もっと、強くなれば‥‥彼らのようなものがなくなるんでしょうかね‥‥」 意気消沈気味の菫に、茶々が冷えたお茶を勧めながら首を振る。 「それは、今考えても仕方ないことです。それより皆さんが無事でよかったです。さ、冷たいお茶でもどうぞ」 気遣わしげな茶々の態度に、菫はそうだな‥‥と頷いて差し出されたお茶を受け取った。 煉と紅蓮丸は倒したケモノを有効活用すべく、皮をはいで使えそうな肉を切り出しているところだった。 「ケモノの肉って、食えるかな?」 「どうでござろう? 試しに料理してみるでござるか」 その様子を引きつった顔で眺める陽花に気付いた紅蓮丸が、苦笑しながら切り出した肉を油紙に包む。 「ケモノも生きるために必死なのでござろうが、此方も同じでござるよ」 確かにその考え方は正しいけど、目の前で肉を捌かれる衝撃はすぐに収まりそうではなかった。 「しかし、自然と共存できないアヤカシってのは、ホント一体なんなんだろうな」 恵皇は荷台と馬を繋いで、再び出発する準備を整えながら誰に問うでもなく呟いた。 ともあれ、何とかケモノの群れを退けた一行は、食糧と馬を犠牲にすることなく補給物資を無事に根来寺の精霊門に送り届けることが出来たのであった。 |