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■オープニング本文 ●村に迫るアヤカシの恐怖! 山の麓に小さな村がある。 農耕向きではないその村は、木こりが伐りだす木材と狩人が仕留めて来る獣の毛皮や食肉で生計を立てていた。 「今年は気候もよかったで。ウサギもキジもよぉ肥えとる」 弓と罠を担いで、手には仕留めた獲物を提げて。 我が家に戻ってきた狩人が嬉しげに言えば、それを迎えた女房も笑って頷く。 「ホント、いい毛皮。これで冬用の上着がつくれるでなぁ」 ウサギなどの毛皮は市場でも良い値で売れるが、今回は自宅の防寒具を作るのに使うらしい。 「お隣のゴンベさんが、木ぃ伐りに行ってでっかい松茸見つけたそうな」 「まぁまぁ、そら凄いねぇ。あぁ、今年は安心して冬を迎えられそうだで」 裕福とは言えない村だが、今年は山の実りのおかげで越冬の蓄えは順調のようだった。 だが、長閑で平和なその村にもアヤカシの魔手は容赦なく襲い来るのであった。 「ア、アヤカシがでたああああぁぁぁ!」 必死に叫びながら村に飛び込んできたのは、手斧を担いだ木こりの男。 「アヤカシ!? ゴンベさん、そら本当かいな!?」 小さな村にゴンベの絶叫は隅々まで届き、方々から住民が集まってくる。 「本当だ! オラ、餅はついても嘘はつかねぇ! 木を伐ろうとしたら、上から降ってきただ!」 覆いかぶさるように襲われて、恐怖のあまり叫びながら振り払って逃げてきたのだと言う。 その話を聞いた村長は、難しい顔で考え込んだ。 折角今年は気候も良く冬支度が順調に進んでいるのに、アヤカシが出たとあればそれもままならない。 早急に手を打たなければ、村人全員が冬を越せないだろう。 村長は、村人達の視線を受けて重く頷いた。 「開拓者ギルドへ、依頼を出そう」 ●見た目はキュート! ‥‥その実力は? 開拓者ギルドに、アヤカシ征伐の依頼が入った。 その依頼は、今のご時勢余り珍しいものではない‥‥のだが。 「ヤマネぇ!?」 ギルド職員から告げられた言葉に、開拓者は素っ頓狂な声を出す。 「正しくは、オオヤマネだそうだ。ヤマネよりもふた回りほど大きい」 ちなみにこれが絵姿だ、と紙を手渡された開拓者達はそれを覗き込んで、再び頓狂な声をあげる。 「か、可愛い〜〜!」 主に可愛いものが大好きな女性開拓者が喜びの声をあげている。 確かにオオヤマネの絵姿は大変愛らしかった。 体長はおよそ20cmほど、尾の長さは15cm前後。 茶褐色で腹部だけ白いその被毛は、ふわふわふさふさである。 つぶらな瞳でちょろちょろと樹の上を走り回るだろうその姿を想像するだけで、身悶えそうなくらい愛らしいのである。 「これが本当に、人を取って食うアヤカシなのか?」 開拓者の一人が疑問を投げかけてくる、それももっともだ。 ギルド職員はそうなんだよなぁ、と頷きながら関連書類をペラリとめくる。 「見た目はどうしようかってくらい可愛いんだけどな。結構えげつないぞ」 職員の説明は以下の通りだ。 ・20cmほどのオオヤマネのようなアヤカシは20体ほどの群れで襲ってくる。 ・一体ずつは、一般人が振り払って逃げられる程度の力だが一斉に飛び掛られると危ないだろう。 ・オオヤマネたちは自分の身に危険が及ぶと、合体して巨大ヤマネになる。 「合体いぃぃ!?」 居合わせた開拓者が、異口同音にそれを指摘するが職員は動じもせず頷く。 「うむ、およそ4mほどの巨大ヤマネになるらしい」 4mのふわふわふかふかの巨大ヤマネ。 腹の白いふかふかの被毛‥‥。 「いい‥‥!」 「その、ふかふかもっふもふ‥‥げふん、巨大ヤマネを倒してくればいいのね?」 村人のピンチを救わなければ! と意気揚々と書類を受け取る開拓者達の目は、なにやらキラキラと輝いている。 「あー、うん。まあふかふか堪能もいいけど、しっかり倒してきてくれよ。村人たちのために」 ちょっと羨ましいかも、と思わなくもないギルド職員はしっかり釘を刺して開拓者達をアヤカシ退治に送り出したのだった。 |
■参加者一覧
ゼロ(ia0381)
20歳・男・志
奈々月纏(ia0456)
17歳・女・志
白姫 涙(ia1287)
18歳・女・泰
水津(ia2177)
17歳・女・ジ
燐瀬 葉(ia7653)
17歳・女・巫
桂木圭一郎(ia7883)
37歳・男・巫
宗久(ia8011)
32歳・男・弓
秋月 紅夜(ia8314)
16歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ●遠足? いいえ、アヤカシ退治です! 依頼を受けた開拓者一行は、村に到着するとアヤカシと遭遇したという木こりのゴンベに道を聞き山道を登った。 アヤカシを倒しに行くという危険な仕事なのだが、一行の表情はなぜか妙に明るい。 恐らく、事前に聞いたアヤカシの情報にその理由があるだろう。 「オオヤマネってどのくらいもふもふなんやろ?」 まだ見ぬオオヤマネのアヤカシに夢を膨らませて、ほんわか言うのは燐瀬 葉(ia7653)である。 勿論、その他の面子も同様である。 「毛皮とか、取れないかな」 村人が安全に山に登るためだろう、それなりに整備された山道を歩きながらゼロ(ia0381)が呟くと隣を歩いていた宗久(ia8011)もハハハハハと上機嫌に笑いながら同調する。 「いいよなぁ、ふかふか。リスも捨てがたいけどオオヤマネも可愛いよなぁ」 可愛くて、可愛さが余って何か違うのに変化しそうだ、と微妙に物騒なことを呟いたりしているがまあ気にしない方向で行こう。 「んー、あんさんがオオヤマネっちゅー子やろか? ちゃうのん?」 「それは、リスです‥‥。あと、さっきのウロで寝てたのは、ムササビ‥‥」 キョロキョロと木の枝やウロを覗き込みながら、遭遇したリスや睡眠中のムササビにそう問いかける藤村纏(ia0456)に、一つ一つ丁寧に訂正しながら歩くのは白姫 涙(ia1287)だ。 さすが実りの多い山だけあって、そこかしこに小動物がちょろちょろしている。 「今日は純粋に、もふもふを堪能するのです‥‥。も、燃えーです」 それは燃えじゃなく萌えの間違いじゃないのかとツッコミたいところだが、もふ分に対して燃え上がってるという意味では概ね間違っていないので、うっとりと呟く水津(ia2177)に誰も突っ込みを入れない。 「ふかふかもふもふ? 小物の考えそうな外見じゃないの。そんなの通用しないって思い知らせてあげる」 アヤカシと戦うのは初めてだという秋月 紅夜(ia8314)は、自信満々に言い切っている。 それをまあまあ、と宥めるのは隣を歩く桂木圭一郎(ia7883)だ。 「開拓者にはそうでも一般人である村人にはアヤカシは恐怖ですからねえ。冬の準備は大切ですから、確実に倒しませんとね」 しかし、なんと言うか。 アヤカシを倒しに来たとは思えない、どちらかと言えば遠足に来たと言った方が当てはまるかもしれない和やかな雰囲気の一行である。 ●恐怖のぷりてぃアヤカシ! 「ゴンベさんが言ってたのは、この辺かな」 山の中腹辺りに、切り株がいくつかある少し開けた場所に行き当たりゼロが首を傾げて確認するように呟く。 「そうやねぇ、念のため心眼つかっとこか」 それらしい場所に出たことに同意を示して纏が精神統一をする。 意識を集中させれば、一行の周囲を広く取り囲むように動く生き物が幾つも察知できる。 「ひーふーみー‥‥ぎょうさんおるなぁ。囲まれとる」 その言葉に、一行が警戒を高め身構えるとしばらくして木陰から小さな塊が飛び出して来た。 「キュー!」 「オオヤマネの鳴き声って、キューって言うんですね‥‥」 涙が呟くが、オオヤマネと言っても相手はアヤカシなので本物が本当にキューと鳴くとは限らない。 「か、可愛い‥‥!」 そう呟いたのは水津だったか紅夜だったか、あるいはどちらもだったかもしれない。 飛び出してきた塊の数は20匹、切り株や地面や岩などに着地して開拓者一行を取り囲むように睨み付けている。 睨んでるんだったら睨んでる。 その姿が、愛くるしくて思わず可愛いと呟いた水津と紅夜に全員が声も泣く同意するくらいには迫力が足りないが。 茶褐色の被毛はもこもこしており、見るからに手触りが良さそうである。 さらに、睨んでくるつぶらな瞳のあまりのプリティ攻撃に開拓者一行は早くもメロメロである。 「四肢飛に数匹持って帰ってあげたいなぁ」 宗久の呟きに全員が心の中で全力で同意するが、悲しいかな相手は人の生活を脅かすアヤカシである。 倒さねばならない運命だ。 意を決して武器を構えれば、それを察知したオオヤマネたちが毛を逆立てて飛び掛ってきた。 「ウキュー!」 力が抜けてしまいそうなキュートな声で威嚇しながら、20匹のオオヤマネはそれぞれ縦横無尽に飛び回りながら開拓者達に襲い掛かる。 「な、なんて恐ろしい攻撃!」 オオヤマネにもふっと体当たりを食らった圭一郎がそのふかふかもふもふ具合に、うっかりうっとりしてしまい我に返って低く呻く。 肉体的ダメージはほとんどないが、精神的ダメージがハンパではない。 と言うか、なんか幸せすぎる。 「取り敢えず、この先にある開けた場所に誘導しましょう。ふふふ‥‥怖く無いから、お姉さんと行きましょうねぇ」 時々ビリッとする静電気に負けず、もふもふ‥‥もといオオヤマネを数匹確保した水津が提案すれば、他のメンバーもアヤカシ誘導に動き出す。 「ぐ、か‥‥可愛いじゃない。はっ! 違う違う、誘導するのよね、誘導。うん」 オオヤマネの愛らしさにメロメロになってた紅夜も我に返って、慌ててアヤカシを追い立て始める。 それにしてもさすが小動物の姿をしたアヤカシは、やたらすばしこくて補足が難しい。 しかし、攻撃自体は痛くないのだ。 むしろかゆい感じと言うべきか、じゃれ付かれてるような気分になって幸せなことこの上ない。 時々ビリッと静電気が走るものの、その間に頭に乗っかられて引っかかれても「ん、毛づくろいしてくれてる?」程度の感触しかない。 むしろアヤカシとしてどうなのよと、敵ながら心配してしまいそうなくらいだ。 「動物なら火を怖がるんだけどな。やっぱオオヤマネの姿しててもアヤカシか、あんまり怖がらないな」 葉に火種を使ってもらって火をつけた松明を振りながら、ゼロがぼやくと、同じく松明を持った葉も頷く。 「そうやねぇ、えらい失敗や」 この状態だと戦うのに邪魔になると松明の火を消して、二人は襲い掛かってくるオオヤマネの攻撃を時々回避に失敗しながら受け流す。 「わ、わざとじゃないぞ! コイツけっこう素早いからだ!」 ゼロの言葉ももっともだが、攻撃を受けるときに嬉しそうに笑ってたのを仲間は見逃してなかった。 そして、圭一郎と纏が胡桃や木の実などを使ってエサで釣って誘導したり、涙と水津がドサクサに紛れて抱っこして移動したり、宗久が一気に5匹くらいに体当たりされて皆に羨ましがられたり、紅夜がうっかり抱き上げて静電気で痺れたりしながら何とか切り株だらけの足場がよろしくない場所から、見通しと良い広場に誘導し終えたのだった。 「皆、噛まれてない? 犬みたいに狂犬病持ってるかも知れないから気をつけてね。うん、冗談だよ」 なんと言うか、色んな意味でちょっと壊れ気味の宗久のジョークに、一同がちょっと引きつった笑いを漏らした。 ●大混乱! 合体を阻止せよ! 何とか戦闘に支障がない足場の良い広場へと到着した一行は、襲いかかってくるオオヤマネを合体させないように分散させながら戦い始めた。 「ああ! もう、素早い! 可愛い!」 ゼロは巻き打ちを叩き込んでオオヤマネを引き離しながら、補足しにくい素早さを嘆く。 「燃えー! っていうか燃やしたいわぁ。でも、合体は阻止しないとね」 水津の浄炎がオオヤマネを弾き飛ばせば、その脇を縫うように宗久の放った矢が別の1匹に刺さる。 「そういえばオオヤマネって、小さいんだよね。さすがに食べるには向かないか」 1班の後衛で矢を射る宗久は、折角の食欲の秋なのになーと笑いながら矢を番える。 まあ、アヤカシは食べれないんだよね、とセルフツッコミを入れながら放つ矢はよどみがない。 同じく1班の後衛を担う紅夜は、さっきの仕返しとばかりに少々八つ当たり気味に呪縛符を投げる。 「行きなさい、我が敵を滅せよ!」 修行を始めたばかりなのか、紅夜の放つ式は少々不安定な形をしているがきちんと効果は発揮しているらしく、鎖のような何かは1匹に絡み付いて動きを鈍らせる。 2班の面子も敵の素早さに手を焼きつつ奮闘しているようだ。 涙がわらわらっと集まり始めたオオヤマネに巌流を打ち込んで分散させる。 「ふかふか‥‥」 仕返しとばかりに体当たりを仕掛けてきたオオヤマネにびっくりしつつも、そのふわふわな感触に表情を和ませる。 ほとんどダメージを受けないながらも、数引きがかりで攻撃を仕掛けてくれば引っかき傷が増える。 「一応、癒しとくでー」 葉は神風恩寵で味方を癒しながら、後衛を護るように動く。 「あんさんら、すばしっこいなぁ」 1匹の攻撃を横踏で避けた次の瞬間、別の1匹に突進されて纏がのんびり呟く。 「神楽舞、行きます」 圭一郎の攻撃を強化する舞を舞えば、それを受けた涙の攻撃力が飛躍的に上がる。 重くなった攻撃に、危険を感じたのだろうか。 オオヤマネたちの動きが明らかに変わったのに最初に気付いたのは、当然ながら前衛の者たちだった。 ●4Mの巨大アヤカシに大暴走! 「ちょ! なんだ、早い!」 先ほどに比べれば、明らかにスピードが増したオオヤマネたちの動きに、瞬速の矢を打ち込みながら宗久が呟く。 「紅夜さん、呪縛符を!」 圭一郎の言葉に、紅夜が呪縛符を放つが全てのオオヤマネを補足することは不可能だった。 「が、合体‥‥!?」 「させません!」 涙が巌流を放つが、その攻撃の反動すら利用してオオヤマネたちがひとところに集まった。 「うっきゅー!!」 何とか合体を阻止しようとしたがあと少しのところで間に合わず、オオヤマネたちは閃光と共に1体の巨大なオオヤマネに合体してしまった。 ずももーん、と言う擬音が似合いそうなくらい巨大なオオヤマネに一行は固唾を飲んで見守る。 「もっきゅー!」 さっきの鳴き声に比べてかなりの重低音になったが、ふかふか具合が大幅にアップしている。 呆然とする開拓者一行を、真ん丸くてつぶらな瞳で睨みながら巨大オオヤマネが体当たりをせんと突進する。 「ちょ、あぶ‥‥!」 一番近くにいたゼロと水津が第一の犠牲になる。 もふっ! 「い、いた! ‥‥く、ない‥‥?」 水津はまともに体当たりを食らって慌てるが、その痛みのなさに面食らう。 巨大オオヤマネに体当たりを食らったのに痛くない、むしろふわふわでふかふか? 「き、きもちいい‥‥! なんてふわふわなんだ!」 同じくその至福の感触にゼロも簡単の声をあげる。 一見遊んでいるように見える。 が、本人と本アヤカシはいたって大真面目だ。 特に巨大オオヤマネ自身は本気で攻撃している、ただふわふわの毛皮でダメージがほとんど与えられないだけで。 さらに、小さい時はちょこまか素早かったのだが、体が大きくなってしまったせいかバランスが悪く動きが格段に鈍くなった。 まさに天然呪縛符。 それに紅夜の呪縛符が加われば、さらに動きは鈍くなるわけで。 巨大オオヤマネの恐ろしい攻撃はことごとく避けられてしまうだけである。 スローモーションで引っ掻き攻撃が空振る様はちょっと哀れだが可愛すぎる。 もういいや、可愛いから。 「取り敢えず、皆満足するまでもふり尽くしたみたいだし」 ゼロの言葉に、全員が頷いて名残惜しそうにしながらも最終攻勢に出た。 涙の巻き打ちが腹の白い被毛にめりこめば、間髪を入れずに宗久の強射「朔月」がつぶらな瞳にヒットする。 紅夜の斬撃符が牙のような何かに変じて痛みにのけぞるオオヤマネを襲い、葉が力の歪みを発動させてオオヤマネの体勢を大きく崩させる。 圭一郎の神楽舞の援護を受けた纏が炎魂縛武を纏った刀で切り込めば、さしもの巨大アヤカシのダメージも大きくなっていく。 そこにトドメとばかりにゼロの巻き打ちと水津の浄炎が叩き込むと、巨大オオヤマネはドスンと言う地響きを上げて地面に倒れこんだ。 ●取り戻した山の平和 「ああ、名残惜しいなあ‥‥」 纏が、動かなくなった巨大オオヤマネを見て悲しげに呟く。 紅夜も眼鏡を押し上げながら、ちょっとだけ残念そうだ。 「アヤカシじゃなければ飼ってあげるのに」 「あ、同感〜。おみやげに凄い良さそうなのにね」 同じく宗久も、オオヤマネが気に入ったらしく名残を惜しんでいる。 「アヤカシじゃなければ‥‥! ああ、口惜しい」 圭一郎にいたっては、本気で口惜しそうである。 「ふわもこは正義。でも、アヤカシは正義じゃないしなぁ」 葉もそのふわもこ具合がなくなってしまうのを考え、ちょっと悲しそうだ。 「でも、倒さないと‥‥。アヤカシです、アヤカシだったのです‥‥」 涙が自分に言い聞かせるように何度も呟けば、水津も頷く。 「ほんっとに、本気で勿体無いけど。あぁ、でもこの巨大オオヤマネの焔は綺麗だったわ‥‥」 火に関われば性格が変わってしまう水津ならではのコメントである。 「毛皮だけでも取っていけないかな」 ゼロはそう呟いてオオヤマネの屍骸を見るが、アヤカシは倒されたら瘴気となって空気中に解け消え行くのみである。 毛皮どころか1本の毛すらも残ることはない。 それを心底残念に思いながらも、一行は霧散しはじめるオオヤマネを眺めながら手を合わせる。 ありがとうオオヤマネ、さようならオオヤマネ。 君がもたらした恐怖は忘れない。 同じくらい、いやそれ以上に君の愛らしさやふかふかもこもこさ加減を忘れない。 アヤカシの消滅を見届けた一行は、それぞれがふかふかふわふわな感触について語り合いながら山を降りていくのだった。 |