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■オープニング本文 ──事件の冒頭 さて。 凰凱地下闘技場にて行なわれている最強闘士トーナメント決定戦。 それに参加している闘士、拳士たちは常日頃深々を鍛えている。 が、このトーナメントにおいては、今までの修行レベルでは魔に泡ないと考えた者たちが多く、こっそりと人知れず猛特訓を繰り返しているようで。 ──とある鉱山跡 そこは今は使われていない廃坑。 その広い敷地と迷宮にて、わんドシ君は静かに特訓を繰り返していた。 ──ドゴッ・・・・ 岩肌に拳がめり込んでいる。 わんドシ君の一撃で、岩に穴が空いていたのだが。 「その程度じゃまだまだだなぁ」 と横に立っている秋夜が呟く。 「そ、そうなんだワン。もっと一撃を高める術を教えてほしいワン」 と秋夜に問い掛けるわんドシ君。 「剛体術と震脚、そこに『螺旋』と『柔撃』を加えりゃいーじゃんか」 「その矛盾した打撃はなんなんだワン!!」 とわんドシ君が呟いた刹那。 ──バシィッ と秋夜が岩に向かって掌底を叩き込む。 その刹那、岩がサラサラと崩れはじめ、やがてそこには砂の塊だけが存在していた。 「まあこんなかんじか。人体だとこうはならないな。無機物である岩程度なら粉砕はできる・・・・やってみろ」 「む、無茶だワン・ こんな技、大会で使ったら・・・・」 「だから人体には使えない技だっていうの・・・・」 あんたたちの修行、恐いわ。 |
■参加者一覧
朧楼月 天忌(ia0291)
23歳・男・サ
秋霜夜(ia0979)
14歳・女・泰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
紅咬 幽矢(ia9197)
21歳・男・弓
劫光(ia9510)
22歳・男・陰
日御碕・神楽(ia9518)
21歳・女・泰
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
リリアーナ・ピサレット(ib5752)
19歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●修行とは ──紅道場 「つまりあたし達の修行の前に紅老師に顔を貸して欲しいという事ですか?」 キョトンとした表情でそう告げているのは秋霜夜(ia0979)。 その横では、柔軟を終えた日御碕・神楽(ia9518)が立っている。 「お前たちの修行のあとで良い・・・・」 と告げているのは朧楼月 天忌(ia0291)。 「ふぉっふぉっ・・・・では、午後にでも相手をしてあげよう」 「ああ・・・・」 と告げて、朧楼月は柔軟と準備運動を開始。 「それじゃあ早速トレーニングを始めましょうかー」 「そうですね」 ということで、霜夜と神楽はわんドシ君の元で修行開始。 「霜夜はこの特訓で・・・・神楽はこっちだワン」 ということで二人は別々の部屋に移動。 ──神楽の特訓 「ドキッ、音は立てずに静かに震脚をしてみようのコーナーだワン」 そう告げると、わんドシ君は床板の上に濡れた紙を張付ける。 「ここで震脚するワン」 「それって、この紙破れますよね?」 「そうだワン。だから破らないで震脚するワン」 ちょっとまて。 「震脚っていうのは確か『広大で強い大地に踏み込む事で大地の強い力を借り受ける…』でいいのですよね? それとこの修行は反していませんか?」 と問い掛ける神楽に、わんドシ君は手本を見せる。 「では、この濡れた紙の前に巨大な壷をおいて・・・この中には大量の水が入っているワン」 そう告げて壷をコンコンと叩く。 「はあ・・・・」 「で、この紙の上に立って・・・・手は掌底、踏込みとかはすべて剛体法のままで、両脚と手は柔体法に切替えて」 ──トン!! と力一杯踏込むわんドシ君。 それと同時に壷に掌底を叩き込むが、なにも反応はない。 「とまあ・・・・こんなかんじだワン」 確かに足元の紙は破けていない。 が、踏込みで大地にしっかりとめり込んでいる。 そして掌打のあたった正面はまったく傷ついていないにも関らず、壷の反対側は掌打の威力で砕け、水が零れていた。 「これって・・・・」 「神楽の為に教える技だワン。剛体法だけでなく柔体法も身につけるワン。まあ、ここに至るまでの修行は・・・・判って居るワン」 コクリと肯くと、神楽はその前段階の修行を開始。 まず壁に四本の丈夫な縄をつけてそれを両手両足にくくりつける。 それを前方に踏み込む動きだけで全部切断できるように『剛体法』からの震脚を修行。 全身を捻る動き、それに『気功法』で練った気を一瞬で爆発させて踏み込む。 そして足元に置いてある濡れた紙を破かないように。 それらの動作を全て身につけるよう、神楽の修行は始まった・・・・。 ──その頃の霜夜 「では始めるワン」 と告げてわんドシ君は、霜夜の前にスッと立つ。 「私の修行はどうすればいいのですか?」 と告げられて。わんドシ君はスッと霜夜に向かって拳を見せる。 「無限組み手だワン。僕はこの円の中から動かないワン、だから思いっきり掛かってくりワン」 と直径1mほどの円の中に立つわんドシ君。 「どうすれば勝ちですか?」 「ここから出せばOKだワン。自分の持てる技を全て使うワン。ただし、僕の身体は気鎧(きがい)を身に纏っている為、一撃一撃の技の威力では後ろに下がらないワン・・・・」 つまり、霜夜の場合『泰練気法・弐』全てを同時に叩き込みつつ、その全てに気を纏わせなくてはならない。 「そ、その為の特訓では?」 「秋夜から言われている事をそのまま告げるワン」 その直後にわんドシ君が告げた言葉を聞いて、霜夜は意識が朦朧とした。 「全身全霊を以って、貴殿を闇に葬り去るワン」 (お母様・・・・さようなら・・・・) ●一日の長 ──ルオウの場合 「小難しい事はわからねえ! だから身体で覚える! つーわけで勝負だあっ!!」 ということで、一足先にわんドシ君の元で修行していたルオウ(ia2445)。 そのままわんドシ君から一本の巻き物を預かると、それを懐に秋夜の元に駆けつけていた。 「わんドシ君直伝の剛体法だっ!!」 とまずは剛体法を発動。 「ほう、その程度のものが剛体法とは」 ──どっごぉぉぉぉぉっ とそのまま秋夜の正拳によって後方に吹き飛ばされるルオウ。 「っ痛てぇぇぇぇぇぇ。洒落になっていないまじで・・・・」 そのまま血反吐をはきつつ立上がるルオウ。 「・・・・オマエ、わんドシ君から何を学んできた?」 「気のコントロール。気功法とそこから派生する剛体法。それを一通りだ!!」 「さっきか?」 「ああ」 ──ヒュルルルルル 「まだ完全ではない。が、きっとものに出来る!!」 そう言い切ったルオウはさらに秋夜に向かう。 が、全て返され、弾かれ、叩きつけられる。 「・・・・こ、こんなはずじゃあ・・・・」 とふと思い付いてわんドシ君から受け取った巻き物を開く。 『サムライのルオウには気のコントロールなんて無理だワン・・・・だからいいものを教えてあげるワン・・・・』 「あ、あのワンコロ野郎!!」 と拳を振るわせつつ叫ぶルオウ。 だが、その後に書き記されたものを見て、ふと我に帰る。 「え? まてまて・・・・これってサムライの・・・・ふむふむ・・・・ああ、成る程・・・・」 あ、なにかわかった模様。 「よし、それじゃあ次いって見ようか・・・・」 とルオウは立上がる。 そして静かに秋夜に向かって構えを取る。 「我はサムライ・ルオウなり・・・・我が拳は金剛の如く・・・・我が脚は疾風の如く・・・・我が心に迷い無し・・・・我が肉体に迷いなし・・・・我、己の生きざま全てを掛ける・・・・覚悟完了!!」 その刹那、ルオウの拳が不動によって鋼の如く硬化。そこに強力によって生み出された力が加わり、背水心によつて限界を越えて底上げされた。 そしてルオウの拳が秋夜の身体に向かってめり込んだ!! ──ミシッ 「くっ・・・・ジルベリアの『戦闘言語(コマンドワード)』の応用か・・・・サムライの力を底上げするとはわんドシ君め、面白いものを・・・・教えたものだな」 と呟く。 そしてルオウの身体を押さえると、その場に横たわらせる。 その一撃で、ルオウは意識を失っていた。 「この男。実に面白い・・・・」 ──その頃の幽矢 わんドシ君と霜夜の手合わせを終えて、一息入れているわんドシ君。 その正面では、結跏趺坐で精神を集中している紅咬 幽矢(ia9197)の姿か゛あった。 「まずは気功法の初歩。己の中の気を見つめる事だワン。それがどういうものか、ゆっくりと感じ取るワン」 というのが幽矢に向けられた修行。 (わんドシ君は無機物に気を通す事を見せてくれた。その威力は数倍に跳ね上がっていた なら、その技を会得する) ということで幽矢はわんドシ君に師事し、気功法の修行を開始していた。 その横では、やはり気のコントロールの為にわんドシ君の素を訪れた不破 颯(ib0495)の姿もある。 二人とも目的は同じ。 ということで修行内容も同じ。 最初の数日はまったくなにも感じなかった二人だが、今は少しずつ自分の中に何かが流れているのを見出しはじめている。 (身体を巡回している力。これが気・・・・) (練力とは違う・・・・気力・・・・二つの絡み合った力・・・・) それをまだどうすることもできない。 が、確実に気の力を見出すことは出来はじめているようである・・・・。 ──リリアーナの場合 霜夜の休憩と同時に今度はリリアーナ・ピサレット(ib5752)の修行が始まった。 やはり気功法からのスタートであったが、すでに幾度の戦いの中でそれらの基礎は見出しているらしい。 「ではかかってくるワン」 と告げられて、リリアーナは挨拶と同時に荒鷹陣の構えを取る。 そしてそのまま軸足のばねと背部からの気の奔流により、地を滑るように雲耀の如く瞬時にわんドシ君に向かって間合を詰めている。 リリアーナのイメージでは既にわんドシ君の懐に飛びこんでおり、そこからの突進力を乗せた膝蹴りを叩き込んでいた筈である。 ・・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・ ──ドゴゴゴゴッ と懐に飛込んできたリリアーナに乱舞を叩き込むわんドシ君。 「ど、どうして・・・・今頃わんドシ君が宙に待っている筈なのに・・・・」 「気のコントロールが不十分だワン・・・・リリアーナのやりたいことは判ったワン・・・・けれど、基礎体力も必要だワン。気功法と基礎体力の修練を初めてもらうワン。それが出来てから次のステップに入るワン」 ということで、翌日からリリアーナも幽矢や不破と一緒に気功法の修練に入った。 ──そして朧楼月の場合 「では参ろうかのう・・・・」 紅老師と朧楼月の手合いが始まった。 次々と繰り出される紅老師の攻撃を、朧楼月は全て化剄(かけい)によって受け流そうとしていた。 その技の修得により、以前よりは撃たれ強くなっている朧楼月。 「ふむ。剛体術と柔体術のちょうど中間、気功体術に近い技じゃな。己の練力を四肢に纏い、打撃を流すとは・・・・」 と誉める紅老師。 「やられっぱなしというのはいやなんでな」 「ではほれ」 ──ドン と軽く掌底を腹部に受けた朧楼月。 その威力はそれほどでもないと悟った朧楼月だが、それを右腕で受け流した。 ──ドゴォッ それは右腕から駆け抜けた掌撃。 「な、なにしやがった・・・・」 「ただの勁じゃよ。触れると走るやつじゃな・・・・」 柔体法の一つ、勁撃と呼ばれるものであろう。 そのまま躱わしつづけられず、ついには大地に崩れる朧楼月。 「・・・・いい筋ぢゃな。化剄といったか、まだまだ強くなれるぞ・・・・精進せい」 と告げて、紅老師はその場を立ち去る。 「ふん、やられているようじゃまだまだか・・・・」 と告げつつも、何か嬉しそうに立上がる朧楼月であった。 ●命懸けの・・・・ ──とある山の中 「また来たのか」 山小屋の中で羅刹師父が劫光(ia9510)に向かってそう告げる。 「羅刹師父、陰陽体術について教えて頂きたい。相反する力を相殺させずに維持する事は可能だろうか?」 その言葉に、薪割りをしていた羅刹が止まる。 「可能だ・・・・が、それは難しい」 「コントロールがですか?」 「・・・・まあ口でいっても判らないから見せてやるか・・・・」 と告げると、手にした斧を大地に突きたてる。 そして懐から二枚の呪符帯を取出すと、静かに印を組み韻を紡ぐ。 「右手に燃えし火輪・・・・左手に凍れし氷柱・・・・対極の力一つとなりて彼のものを打ち砕け・・・・」 その刹那、師父の両手に二つの籠手が生み出される。 「・・・・す、すごい・・・・理屈では可能と思っていたが・・・・まさか・・・・」 「これが陰陽体術の奥義その2って所だな・・・・お前の『北斗星君』が『初伝技』にあたり、この技が『奥伝技』にあたる。このさらに上に『皆伝技』、そして『秘伝技』と繋がり、そして・・・・まあそこはよし。まだまだ陰陽体術には先があることを憶えておけ」 と告げられて、羅刹は術印を解く。 「師父・・・・お聞きしたい。なぜ『陰陽体術』は世に広められていないのですか?」 「存在が外法だからだ。それゆえ『陰陽体術』は歴史から抹殺されている。使えるものもほんの一握りのみ、全てを納めている陰陽師は一人も生きていない・・・・」 ──ゴクッ 劫光の喉元を熱いものが流れる。 「まあ、それよりも基礎からゆっくりとだ。まだこの技は『早すぎる』・・・・」 と告げられて、其の日は終った。 そして数日後、基礎修練を終えた劫光が、ふと山の中で意識を集中する。 「技術的にはともかく複数の維持が可能だというのはわかった」 と呟くと、劫光は二つの呪符帯を用意する。 そしてそれを左右の腕にそれぞれセット。 「気合をいれよう・・・・下手をすれば死ぬ・・・・」 そして静かに印を組み韻を紡ぐ。 「右に劫火、動のエネルギーたる『陽』を示す『火輪』よ・・・・左に停止、静のエネルギーたる『陰』を示す『呪縛符』よ・・・・対極より両儀が生じ、両儀より四象へと分れ、徐々に分裂していく…今、あえてそれに逆らう」 両手に二つの籠手が生み出される。 右手には今まで見た事のない煉獄の籠手。 そして左手にはやはり見た事のない縛鎖の籠手。 「右に燃え盛る炎、左に停滞を示す冷気の流れ・・・・これを・・・・」 二つの相反する力を両手に合わせて集約する! ──ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ と、突然両腕に漆黒の炎が吹出す。 それは両腕の皮膚を焼きはじめた。 「ぐっ・・・・ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 絶叫を上げる劫光。 イメージはしていた。 だが、それをうわまるほどの火力。 そしてそれを意識ではコントロールできない。 術自体が暴走を開始していた。 両腕を焼いた炎は次第に劫光の肩口にまで昇っていく。 「だ、だめだ・・・・死ぬ!!」 死を覚悟した劫光。 だが 「右に生まれし沈静の光。左に生まれし破壊の光・・・・対極より生じた力よ、『古の盟約に基づき』、彼のものを粉砕せよ!!」 それは駆けつけた羅刹師父の言葉。 師父の両腕に生み出された『対極の籠手』により、劫光に纏わりついていた漆黒の炎は引き剥がされる。 だが、制御する意志を失った漆黒の炎は、そのまま羅刹師父の全身を包みこむ。 「師父、待ってください!! 今助けます」 と叫ぶ劫光。 だが。 「・・・・この泰国に儂と同じ陰陽体術会得者がいる・・・・名は紅美鈴(フォン・メイリン)・・・・そのものに助力を受けろ・・・・」 と告げてフッと笑った。 意識を集中し、暴走した炎の制御を始めようとする劫光だが。 自分の生み出したものの力は、自分でわかっていた。 それは『対象物を破壊するまで途切れない・・・・』。 「師父!! こんなことになるなんて・・・・」 「気にするな。それだけオマエの力が強大だという事だ・・・・この炎がおまえ自身の力の全てだ・・・・」 そう告げると同時に、羅刹師父は燃え尽きた。 何も残さず・・・・。 ●そして 今回の特訓において、幾つかの成果は出はじめている。 ・朧楼月は『化剄』をあるていどコントロールできるようになった。ただし、まだまだ基礎修練が必要 ・霜夜は『三連剛体撃(霜夜命名:破鎧撃)』の型を完成させる。但し、まだ実践的ではないとの事 ・ルオウは『戦闘言語(コマンドワード)』の修得開始。ここからどう成長するか楽しみである。 ・幽矢と不破、リリアーナは気功法の基礎を修得。次より各自応用編にはいるとの事。 ・神楽は今だ次の段階に届かず。だがおぼろげに形にはなってきた模様。 ・劫光は師父の死を乗り越える・・・・。『北斗星君・螺旋龍』今だ完成ならず。 。 ということで今回の修練は終った。 それぞれ身につけた技をこれからどう伸ばすかが楽しみであろう。 |