【砂輝】Y日誌の続き
マスター名:久条巧
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/04/15 21:04



■オープニング本文

──事件の冒頭

 渡月島に急造された飛空船工房では、天儀のみならず泰国、ジルベリアから集められた船大工と宝珠加工職人達が、長く続いた作業の終了に揃って地面に座り込んでいた。
「こりゃあ、軍船だ」
「軍船だって、こんな丈夫なのは滅多にねえよ」
 彼らが見やる先には、最初見た時からこれまで、変わることなく荒れた様子しか見せない嵐の空がある。いつこの島も暴風雨に晒されるかと、彼らのその心配は杞憂だったが、注文通りの飛空船が完成した今は、別のことが気に掛かる。
「まさか、あたし達まで一緒に乗れなんて言われないかしら?」
「冗談じゃない。そりゃ騎士や開拓者の仕事だよ」
 凪月島の精霊門は安定化したものの、どこにも繋がる気配がない。ならば天儀と繋ごうとしたのだがそれも出来ず、黒井奈那介と精霊門の宝珠加工職人が張り付いて調べた結果は、『鍵が掛かっている』というもの。
 黒井は『鍵を掛けている』先が新たな儀だと信じて開封を試みたがいまだ成功せず、渡月島では嵐を突破するための飛空船改造が一三成の監督の下で行われた。
 朝廷からの派遣だけでは二、三隻を改造するので手一杯だったろうが、各国の思惑が入り乱れ、あちこちから人手が送り込まれた結果、十隻を超える飛空船が軍船もかくやという強度と武装に加え、宝珠を追加されて推進力を増していた。これなら嵐も突破出来るだろうが、職人達でそんな危険な船旅に同行したい者はごく少数派だ。
 もちろん黒井、一三成に、各国派遣の調査隊や利権を求めて来た商人達は、職人達より開拓者を乗せることを選んでいた。


●遭難ですか、そうなんです
 ・・・・
 何故このようなことになったのか。
 それは誰にも判らない。
 ただ一つ言えることがある。
 彼は生まれつき不幸とともにあるらしい・・・・。

「ふぉっふおっふおっふおっ」
 と軽快に笑いつつ、ウェンリー・ジョーンズ博士はゆっくりと窓の外を眺めている。
 広大な砂漠。
 その一角に墜落している自分達の飛空船。
 ここは今まで自分達の住んでいた『儀』ではない。

──どうしてこうなったか
 件の地下神殿から回収した石碑などの調査結果、海底地下神殿に繋がる鍵が別の大陸にあると導き出したジョーンズ博士。
 その事実を確認する為に例の小島に向かおうとしたが、そこにはすでに島自体が存在していなかった。
 その為あらたなる手掛りを探っているうちに、ふと開拓者ギルドで新しい『儀』に向かう為に嵐の壁を突破する飛空船があるということを確認。
 そして調べていくうちに、その調査団の向かう先がジョーンズ博士の求めていた『鍵』の一つである可能性が高い事を知ると、いつものように自分の雇った開拓者とともに調査団に動向することになった。
 
 そして嵐の壁を越えていよいよ新たなる『儀』に到着した刹那。
 飛空船が突然の砂嵐に巻き込まれてしまい、そのまま緊急不時着してしまったらしい。
「とりあえず船体の補強などを行なわなくてはなりませんが・・・・この砂漠ではどうしていいものか・・・・」
 と告げる調査団のメンバー。
「大丈夫ぢゃて。ここにいるものたちは開拓者の中でも精鋭、きっとなんとかしてくれるはずじゃて・・・・」
 マジか、じいさん?


■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
日和(ib0532
23歳・女・シ
成田 光紀(ib1846
19歳・男・陰
晴雨萌楽(ib1999
18歳・女・ジ
宮鷺 カヅキ(ib4230
21歳・女・シ
春陽(ib4353
24歳・男・巫
りこった(ib6212
14歳・女・魔


■リプレイ本文

●アルスラーン王国辺境砂漠にて
──墜落現場
 ヒュルルルルルルルルルルルルルルルルルル
 渇いた風が砂漠を駆け抜ける。
 強い日差しによって大気は陽炎の如く揺らぎ、生きとし生けるもの全てに苦難を与えつづけている。
 そんな砂漠の一角。
 不時着した飛空船では、船体の修復に必要な材料を調達するための計画が話し合われていた。
「とりあえずは周辺調査から始めた方がいいと思います。私達はこの見知らぬ土地のことを何も知りませんから」
 そう告げるのは朝比奈 空(ia0086)。
「それで、修復に必要な材料とかは? それらのリストを出しておいて頂けたでしょうか?」
 と船員に問い掛けるのはジークリンデ(ib0258)。
「はい、このリストがそうです‥‥書いてあるものは船体補強に必要なものばかりですが、何分‥‥この辺りには樹木などが存在していませんし‥‥」
 という船員に、ジークリンデが静かに問い掛ける。
「破損ヶ所には私のストーンウォールで作り出した石材を用いては?」
「それは不可能です。船体の左右バランスが取れないので、飛行が困難になりますから‥‥」
 と告げられてジークリンデの案はアウト。
「そう‥‥それじゃあ私は、船体の周囲に石壁でも作ってくるわね‥‥」
 ということで、ジークリンデは破損した船体の周囲に石壁を作成、砂嵐から船を護るようにした。
「‥‥ちょっと待ってください‥‥商隊らしきものが見えますが‥‥」
 窓から望遠鏡で外を眺めていた成田 光紀(ib1846)が仲間にそう告げる。
「その商隊と連絡を取ってみて、色々と教えてもらいましょうよ!!」
 とモユラ(ib1999)が立ち上がりつつ告げる。
「ジョーンズ博士も一緒に行きましょう!! この当たりの摩訶不思議が聞けるかもしれませんよ」
 とモユラに告げられて、ジョーンズ博士もゆっくりと腰を上げる。
「そうじゃのう‥‥では、向かうとするか‥‥」
 ということで、急遽商隊と合流するチームが作成された。


●奇跡は起こすものじゃない
──砂漠
 飛空船から離れた場所を商隊が歩いていた。
 ラクダに跨がり様々な荷物を運んでいるその商隊は、彼等開拓者にとっては初めて見る光景である。
 腰に下げている三日月型の武具、ネイルアーマーと砂漠の砂から顔を護るマスクなど、この大陸の文化に初めて遭遇していた。
「‥‥ええっと、私達は天儀から飛空船でやってきました」
「運が悪く乗ってきた飛空船が制御不能になり緊急着陸したのですが、その際に船体を破損してしまい、飛行する事が出来ないのです」
「ということで御願いです。飛空船を修復できる場所もしくは修復する材料が手に入る場所を教えてください」
 モユラと宮鷺 カヅキ(ib4230)、春陽(ib4353)が商隊のリーダーらしい老人にそう問い掛ける。
「ふむふむ。いいじゃろう。丁度ワシもこの先のエリアに用事があってのう。いつもなら飛空船をつかうのぢゃが、ここ数日は砂嵐が酷くて、ほれ、このようにラクダで向かっているのぢゃよ」
 と告げられて、一行は安堵の溜め息を突く。
「あの、ちょっといいですか?」
 と春陽が老人に問い掛ける。
「ふむ、なんじゃ?」
「これが噂に聞くサボテンと言う奴ですか? 水分が獲れる、中に虫がいるという」
 と告げつつ、近くに生えていたサボテンを手に取る春陽。
「ほう、よく知っているのう」
 と返事を返している沙那カ、春陽は手にしたサボテンをちぎり、刺を抜き、そして口の中に放り込む。
──モシャモシャ
「し、春陽!!」
「まあ、大丈夫です、水分補給にもいいですね」
 ということで、そのまま一行は老人の告げる【エリア】へと向かっていった


●その頃の飛空船
──墜落現場
「‥‥こっちにも石壁完了しましたぁ」
 にこやかに告げているのはりこった(ib6212)。
 ストーンウォールを組み合わせて日陰を作ったり、樽の中に保存してあった水にキュアウォーターを施していた。
「こっちの修復は完了したけれどー。そっちはどうですかー?」
 と船員の叫ぶ声が聞こえてくる。
 そんなさ中。
「食糧調達班ただいま戻りましたー」
 と朝比奈、成田のチームが大量の食糧? を持って帰還。
「ふぅん。結構あるのねぇ」
 とジークリンデが駕籠の中を覗きこむと‥‥。
「砂トカゲですね。食用で美味しいですよ?」
 と成田が一言。
「ト、トカゲ!!!」
 その言葉にりこったが楽しそうに反応。
「焼いたら美味しいよねー」
 と楽しそうに告げる。
「ああ、はいはい了解。こっちの情況は船体修復の一部が完了、あとはジョーンズ博士達の向かった場所でどれだけの材料が手に入るかよね」
 と告げるジークリンデ。
「そうですね。何事もなければ良いのですけれど‥‥」


●ここは砂漠の激戦地
──エリア88
 そこは今までの砂漠とは大きく変わった光景。
 石畳による滑走路、飛空船を何隻も収納できる巨大な倉庫、そして航空管制塔と様々な施設が立ち並んでいた。
 そして滑走路と呼ばれる場所には、様々な形をしたグライダーや竜騎が並んでいる。
「おお、マコイじーさん、頼んでおいたもの持ってきてくれたか?」
 とグライダー乗りの一人が老人に話し掛けた。
「お前さんの注文は難しすぎるでのう。砂嵐が終わったら飛空船で持ってくるから待っておれ。と、サキはどこにいるのぢゃ?」
「サキ司令? 司令ならほれ」
 とグライダー乗りが指差した方角から、長髪の男性が歩いてくる。
「マコイさん、そちらの方たちは? まさか‥‥」
「ああ心配するな。この人たちは天儀という異国からやってきた人たちじゃ。飛空船が不時着してな、修復の為の材料を貸して欲しいそうぢゃ」
「反体制側のものではないのですか。それは失礼を」
 と頭を下げるサキと呼ばれた人物。
「改めて自己紹介を。私はサキ・アルスラーン。このエリア88の司令官を務めています」
 そのやりとりにポカーンとする一行。
「改めまして。ワシはジョーンズ博士、考古学者ぢゃ」
「わ、私はモユラです」
「宮鷺カヅキだ」
「私はハルヒです‥‥」
 と自己紹介をする一行。
「さて‥‥飛空船の修復といいましたね。必要な機材と材料は全てお貸しします。砂嵐が一段落したらうちの飛空船で運びますので、それまではどうぞこちらで一休みしてください。このあたりのことはあまり知らないでしょうし、私も天儀という場所について色々とお話を伺いたいのですから‥‥」
 ということで、一行はそのままサキ司令とともに基地内を案内してもらい、しばしの間愉しい時間を過ごしていた。

 そこで一行は、自分達の飛空船が墜落した場所がアル=カマル首長連合王国内に位置する、アルスラーン王国という砂漠の辺境にある小国家であることを知った。
 そしてこの王国は現在内乱状態にあり、アル=カマル首長国連合とともに歩む政策を唱えた国王派と、首長国連合からの独立政策を独自に進めていた反政府軍との間で戦争が起こっていることも知った。
 このエリア88は、国王派であるサキが独自に組織した軍隊であり、現在アルスラーン王国から離れて活動している反乱軍との戦いの為に使用されている事も教えてもらっていた。
 現在王国には反乱軍は存在せず、近隣諸国に対して反乱軍が援助を要請、首長国連合からの独立を唱えている近隣諸国と反乱軍が手を組んだ組織『スルターン』との対立となっているらしい‥‥。

 まあそんな事は今はおいといて。
「さて、そろそろ砂嵐も収まって参りましたので、飛空船の修復に向かいましょう‥‥」
 と告げるサキであった。


●その頃の・・・・
──不時着した飛空船
「ハアハアハアハア‥‥あと何体いるのですか!!」
「あと残り20かしら‥‥まだいけそう?」
 息を切らせつつ叫んでいる成田にたいして、ジークリンデがそう答える。
 砂嵐が収まって間もなく。
 飛空船は謎の集団によって襲撃を受けていた。
 突然砂の中から姿を現わした全身包帯づくめのアヤカシ達。
 それらは生きている者たちに無差別に襲いかかってきた。
 その為船体の修復は一旦中止し、朝比奈と成田、ジークリンデの3名が応戦を開始。
 りこったは周囲の警戒を行なっていた。
「まったく‥‥そろそろ練力が尽きてしまいそうですのに‥‥」
「そうですね‥‥でも、ここは死守しないと‥‥」
 とダブルでブリザーストームを発動し、敵を蹴散らしていくジークリンデと朝比奈。
 その範囲から漏れた敵については成田が霊魂砲を叩き込んで撃破。
 そんなこんなで戦闘開始から二時間後、どうにか敵を殲滅していった‥‥。

「‥‥ふう‥‥りこった、敵の動向は?」
 と疲れているにも関らず、直に動けるように準備しているジークリンデ。
「てきはいないけれど‥‥飛空船がとんでくるよぉ?」
 と告げられ、一行は空を見上げた。
──グゥォングゥォン
 やがて飛空船はりこったたちの頭上に停止すると、すぐ横にゆっくりと着地していった‥‥。


●そして後日談
 無事にジークリンデ達と合流したカヅキ達。
 エリア88の作業員立ちの力を借りて無事に飛空船の修復を完了。
 とりあえず周辺調査を終えた後、天儀へと戻る事となった。
「ふむ。名残惜しいのう‥‥じゃが、また此処には直に来るような気がするのう‥‥」
 と窓の外を眺めつつ告げているジョーンズ博士。
「そうなのですか?」
 とモユラが問い掛けると、ジョーンス博士は一言。
「あの四角錘の遺跡を見よ!! あの内部調査などもしてみたいのう‥‥巨人についての何か手掛りがありそうではないか?」
 とにこやかに告げていた。

 そして一同は思った。
 また近いうちに、再びこの地を訪れる日がくるのかもしれないと‥‥。

──Fin