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■オープニング本文 ──事件の冒頭 ザワザワザワザワ 大勢の人々で賑わう街。 ここ泰国中央にある『凛安(りんあん)』と呼ばれる小さな街では、またしても事件が起こっていた。 本当になんでこの街ばかりと頭を捻ってしまうが、まあそれは置いておくとして。 「ゴホゴホゴホゴホ‥‥」 布団の中で、一人の老人が咳き込んでいる。 ここは凛安の中にあるとある道場。 そこの道場主であり師範でもある一人の老人がねやはり病に倒れてしまい、今にも危険な情況であった。 「お父様、しっかりしてください‥‥」 老人の孫娘である『鈴明(リンメイ)』が、飲み薬を手にそう呟く。 「鈴明よくお聞きなさい。ワシはもう長くはない‥‥」 「そんな弱気になっちゃダメっ。さ、この薬を飲んでゆっくり休んで‥‥」 「この道場は全てお前に託す‥‥師範代の神白龍(シェン・パイロン)と共に、ここを盛り上げるがよい‥‥」 そう告げると、老人は静かに眠りに付いた。 ──そして 老人の葬儀も無事に終り、これから道場を盛りたてていこうという矢先に、事件は起こった。 現道場主である神白龍が、新しく師範代候補の中から師範代を認定しようと思ったある日。 「師範、本日を以って、私はここを止めさせて頂きます」 師範代候補が突然道場を止めると言い出したのである。 以前より他の道場から引抜きがかけられていたらしく、道場主が変わったのをきっかけに、移籍するということらしい。 そして、大勢の弟子も一緒に連れていかれてしまった為、師範代候補となる者が一人もいなくなってしまったのである。 「このままでは、おじいさんの残してくれたこの道場が無くなってしまう‥‥どうしたらいいのかしら‥‥」 道場存亡の危機。 そんな噂がやがて街の彼方此方にも流れたとき、君達開拓者立ちはこの街を訪れた‥‥。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
紫夾院 麗羽(ia0290)
19歳・女・サ
花脊 義忠(ia0776)
24歳・男・サ
秋霜夜(ia0979)
14歳・女・泰
衛島 雫(ia1241)
23歳・女・サ
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
佐竹 利実(ia4177)
23歳・男・志
狼(ia4961)
26歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●凛安より武道家のみなさんへ ──凛安・凛安正統泰拳道場 ゴホゴホゴホゴホ 師範の咳き込む声が廊下をこだまする。 すぐ外では、数少ない門下生達が、熱心に日課を行なっていた。 全ての基礎である流派、そのプライドを護る為に頑張っているのだろう‥‥とおもいたい。 「やれやれ、何事もにぎわんとあかんからな。仰山繁盛させるさかい、まかしてな」 そう告げつつ、天津疾也(ia0019)は練習中の門下生の様子をじっと見ていた。 「もう少しいい所を揃えたほうがいいかもな」 と告げつつ、天津は静かに道場の外に出ていった。 「おらおらぁ。もっと突きは鋭く!! こうだ!!」 ──ゴウゥゥゥゥゥッ 門下生達に指導するために、激しく突きを繰り出しているのは花脊義忠(ia0776)。 「ハイッ!!」 そう元気に返事を返しているのはいいが。 ──ぶぅん。 ああ、そんなに凄くない。 「違う違う、もっと脇を締めて。突き出すときは真っ直ぐに、捻りを加えつつこうだ!!」 ──ドッゴォォォォォォォォォ ああっ。まったく参考になっていない。 「すいません。外で勧誘されたのですが‥‥」 と、威勢のいい兄さん達が次々と道場を訪れる。 「はいはい。いらっしゃいませー。入門の受け付けはこちらですよー」 にこやかに来客に声を掛けているのは秋霜夜(ia0979)。 午前中、道場の一人娘である鈴明と一緒に色仕掛けで外で声を出して勧誘していたらしい。 「こちらでも新入門性の皆さんはこちらにどうぞー」 「こちらでも受け付けを行っていますからねー」 そう叫ぶ鈴明と霜夜の二人。 その声に導かれて、次々と入門希望者が列を作って並んでいる。 ちなみに比率は鈴明8に対して霜夜2と、何故か人が片寄っている。 胸許を誇張している胴着を着ている鈴明と、ややなだらかな曲線を誇張? している霜夜。 どうやらここに人々の関心は集中している模様。 「くっ‥‥屈辱だわっ‥‥」 がっくりと肩を落とす霜夜であったとさ。 めでたしめでたし。 「ちょっと、ちっともめでたくないわよっ!!」 まあまあ。 ──その頃 「失礼する。黄さんはいらっしゃるか?」 町の中にある鍛冶屋を尋ねて、衛島雫(ia1241)がそう挨拶している。 「ああ、黄は俺だが?」 上半身裸で鍛冶用のハンマーを振りおろしていた男性がそう告げる。 「はじめまして。衛島と申します。実は卿お伺いしたのはほかでもない‥‥」 と静かに話を切り出す衛島。 「噂は聞いたことがあるかも知れないな。いろいろと尾鰭がついているが、道場が苦しい状態なのは確かだ。どうか力を貸して貰えないだろうか」 と切り出す。 「ああ‥‥うわさは聞いているよ。まあ、俺としてもお世話になった道場だ、何かしてやるてぇのはやまやまなんだが‥‥」 と告げると、少し考え込む黄。 「この先の飯店の主人にも話を切り出してみな。鍛冶屋の黄の紹介といえば話は聞いてくれるだろうさ。あいつも元々は師範代の一人だったからな」 「そうでしたか。それは助かる‥‥では失礼する」 と丁寧に挨拶を返すと、衛島は早速飯店へと足を伸ばす。 ──そのころのとある路地裏 「このおっさんが‥‥ふざけやがって!!」 いきなり不良に絡まれているのは佐竹 利実(ia4177)。 街の路地裏などでいきがっている不良を見つけては、そいつらの腕を見る為に挑発を繰り返している。 そしてやがては素質のある奴が出てくるだろうというもくろみらしく、すでに3人ほど叩きのめしては仲間を呼びに走らせていた。 (それにしても‥‥手応えがねぇガキばかりだな‥‥) と呆れていた佐竹であったが、次に呼ばれてきたガキはちょっと勝手が違っていた。 「舎弟達がお世話になったらしいですね‥‥」 と姿を表わしたのは、見た目もかなりごっつい青年。 「んー、ああ。ようやく力のある奴が出てきたか」 と笑いつつ呟くと、ゆっくりと拳を構える。 「まあ、多少は腕が立つようだが‥‥それでも駄目だな。町でくだ撒いても人生行き着く先は決まってるもんだよ」 と呟く。 ──シュンッ と、目の前の青年は腰から二つの拐(かい)と呼ばれている武具を取出す。 「ほう。トンファー使いか」 「トンファー?」 「ああ済まない。異国ではそういうんだ。その武器はな」 「異国か‥‥下らない」 そう叫ぶと、青年は素早く間合を詰め、佐竹に2連撃を叩き込む。 ──ヒュヒュンッ それらを紙一重で躱わすが、その瞬間に拐が取っ手部分から回転し、そのまま佐竹の肩口に一撃が叩き込まれた!! ──バシィィィッ 「痛っ。いい腕しているじゃないか‥‥なら、こっちも本気で行かせてもらうぜ」 そう告げつつ竹刀を抜くと、そのまま正眼の構えをする。 「まあ、すきなように掛かってきな」 と呟いた刹那、青年は上下二段の波状攻撃を仕掛けてくる。 が。 ──ドンッ!! その二つの攻撃があたる寸前に、佐竹の一撃が青年の頭部に直撃する。 そのままフラフラと意識を失いそうになる青年。 「い、今の技は‥‥そんな技はない‥‥」 「当たり前だ。基礎がしっかりと出来ていない奴に、俺の技が見える筈がないっ。悔しかったら、基礎をしっかりと学びにきな。俺は凛安正統泰拳道場に食客として住み込んでいるからな‥‥」 と告げて佐竹は満足そうにその場を立ち去った。 ●とある道場の事情 ──凛安長拳道場 もっとも大勢の門下生が引抜きされている道場。 ここを狼(ia4961)は調べている最中であった。 「ふむ。指導力といい型といい。どれも一流。礼節も重んじ、まさにここになら引き抜かれていても仕方ないという所か‥‥」 高い木の上に昇り、道場の中を覗いている狼。 そでは規則正しく訓練が行なわれている。 門下生や師範達も真剣に、そして熱心に指導を行なっている。 「それじゃあ行くとしますか」 と告げて木の上から降りると、正面から長拳道場の門をくぐった。 「失礼する。見学させて頂きたいのだが」 そう丁寧に? 挨拶をすると、手の空いているらしい師範代が狼の近くにやってくる。 「旅の方ですか。どうぞこちらへ」 と武舞台(訓練をする石畳のある場所)の近くへと案内される。 そこに作られている席に通されると、師範代が丁寧に挨拶をしてくる。 「ようこそ凛安長拳道場へ。まずはお茶でも呑みながらごゆっくりと」 と告げられ、茶を進められた。 「これは助かる。最近になってこの街に来てな。泰拳について色々と見て回っているのだが」 「そうでしたか。この町には大小様々な道場がございます。どこでも見学は自由になっていますので。で、うち以外にはどちらをまわられましたか?」 そう問い掛けられて、狼は途中で見て回ってきた幾つかの道場の名前を上げる。 「で、このあとは凛安正統泰拳道場を見ようと思っている」 と告げる。 「ああ、それは宜しいかと。あそこはこの街の中でももっとも歴史が古く、基礎を重点的に指導している道場です‥‥うちの子供達のなかにも、あそこで基礎を学びねそして移ってきた子供達もいます‥‥」 そう告げられて、狼はもう一度子供達を見る。 確かに、正統体験道場でみた、基礎の流れをしっかりと憶えている子が殆どである。 「そうか。だが、どうして基礎を憶えた子供達が別の道場に流れてきているのだ?」 「まあ、経営方針とでも申しましょうか。毎月行なわれる凛安の擂台賽(らいたいさい、武術大会のようなもの)、基礎を重んじている道場の子供達を集めた方が、より上位に入る事が出来ますから」 つまり促成で強い拳士を作ると言うことなのであろう。 「それにしても、よく正統泰拳道場から引抜きなんてできたものだな」 「まあ、あっちは地味ですから‥‥と、どうぞ、そろそろ演舞の時間ですから」 と告げられて武舞台を見る。 そこでは、ここの道場の師範代らしい二人が九節鞭と棍を構え、華麗に戦い、舞いを躍っている。 「ははあ‥‥この派手さが、門下生を引き付ける魅力ということか?」 「左様で。正統泰拳道場では、器械(剣、棍などの武具の総称)を指導していませんから。子供達は少しでも強くなってくると、今度は派手さを求めてきます。そういう子供達を予備集めています。当然、こちらでも基礎はしっかりと行っていますから‥‥」 と説明を受ける狼。 (こりゃあ分が悪い。こっちの言い分はごもっともだな‥‥) と考えた後、しばらく見学を続けている狼であった。 ●飯店の死闘 ──釣花飯店 鍛冶屋の黄に進められて、衛島は釣花飯店にやってきていた。 そして黄の知り合いと告げて店主に挨拶をしていた。 「それはそれは、黄の紹介ですか。で、話というのは?」 と告げられ、衛島は黄の元で説明した事をここで再び行う。 「ははあ。成る程。まあ、皆さんの心配も判ります。でしたら、私も及ばずながら力をお貸ししましょう。この界隈の店の人間は、たしょう なりともあの道場のお世話になっていますから。なにか必要な事や名案がありましたら、いつでもここを訪ねてください‥‥」 ということで、衛島は釣花飯店の主人から協力を約束された。 ──その頃の道場 ペッタンペッタン‥‥ 「さあさあ、もうすぐつきたての餅ができますからね!!」 新しく入った門下生も咥えて、凛安正統泰拳道場には活気が溢れていた。 「餅を喰えば強くなる!! さあどんどん喰え!!」 杵を担いだままルオウ(ia2445)がそう叫ぶ。 つきたての餅は横の机で霜夜と鈴明によって丸められている。 近くのもふら様牧場で霜夜が勧誘してきた子供達も体験入門し、武術の何たるかを体で感じているらしい。 また、天津が近くの酒場で流してきた噂により、この街のちょっと裕福な家の子供達も親と一緒に体験入門に参加、そのまま門下生になった子供達もいた。 「これは調子がいい。この調子でもっと大勢の人たちが集まってくれればいいのだが」 天津がそう告げるが、狼が静かに頭を左右に振る。 「他の道場の様子も見てきたが。教えるという意味ではここと同じ感じだ。どちらかというと、他の道場は派手さが売り物、ここのように基礎ばかりを繰り返していれば、いつかはまた同じことになる‥‥」 そう狼が告げる。 「なら、基礎以上のものを使えばいい‥‥」 と告げて衛島と、大勢の泰拳士が道場に戻ってくる。 「随分と久しぶりだな‥‥」 と告げつつ、道場に入ってきた泰拳士はまっすぐ老師の元に向かい抱拳礼を行う。 「道場の危機ということで、我等微力ながらお力をお貸しします」 そう告げると、飯店店主や鍛冶屋の黄といった、この道場の卒業生達が静かに武舞台に昇る。 そこで見せられた熱い演舞。 それらは基礎がしっかりとしているからこその力強さと躍動感を感じさせる。 「‥‥で、お前はどうするんだ?」 物陰でこっそりと見ていた不良たちに佐竹が問い掛ける。 「入ってやるさ。そしてアンタに追い付き、いつか必ず倒す!!」 そう威勢よく叫ぶと、不亮たちも道場に入門。 かくして、凛安正統泰拳道場は数ヶ月ぶりに活気を取り返していた。 「さあさあ、腹が減っては戦が出来ぬ!! 餅はどんどん作るぞ!!」 ──ペッタンペッタンペッタンペッタン ルオウが演舞の如く杵を振るう。 その光景を見ていた霜夜だが、何故か胸許をギュツと押さえていた。 「嫌な響き‥‥ううう‥‥」 ──ペッタンペッタンペッタンペッタン 「う、薄くて‥‥ぺったんこで悪かったわねっ!! 花脊さん、貴方お手すきなら演舞のお相手をお願いします!!」 「ん? ああ、構わんが‥‥」 ということで、霜夜と花脊も武舞台で演舞を開始。 そのまま門下生達もそれらを見学し、そして自分達も強くなろうと誓ったかもしれない。 そして数日後 凛安正統泰拳道場では、以前よりも大勢の門下生達の練習風景が見えるようになっていた。 足りない師範代も、鍛冶屋の黄や他の卒業生達が持ち回りで身に来るようになり、ひとまずは安泰ということであろう。 数日後、その様子を見届けた開拓者立ちは、再び旅に出る。 次はどこの街へ行くのだろう。 この何処までも続く空の下で。 ──Fin |