|
■オープニング本文 ──事件の冒頭 ザワザワザワザワ 大勢の人々で賑わう村。 ここ泰国中央にある『凛安(りんあん)』からかなり離れた人里離れた小さな村では、今、まさに事件が起ころうとしていた。 「もうすぐ水神祭が始まる‥‥」 不安そうな顔で、目の前の湖をじっと見つめている村長。 その視線の先には、湖の中央にポッカリと浮ぶ小さな島と、そこに立ててある祠があった。 この村では、毎年秋の水神祭の時に、『人身御供』として村の女性を一人、湖の水神様に差し出さなくてはならない。 白装束に身を包んだ女性は、祭りの最後の日に、小さな小舟で一人祠に向かう。 そこで、湖から姿を現わした黄金三頭龍の水神様に贄として捧げられるのである。 この時期になると、毎年、今年はどこの家の女性が贄にされるか話し合いが行なわれた。 未婚の、年頃の女性しか贄として選ばれず、それ以外の女性がさし出された翌年は、水神様の怒りなのか農作物はほぼ全滅してしまう。 今年選ばれたのは『村長の一人娘』。 まだ16歳のその女性は、水神祭が来るのをじっと家で脅えているだけであった。 今から娘を結婚させる? そうなると、別の家の娘を改めて選別しなくてはならない。 そして、そんな時間はもうない‥‥。 まもなく水神祭。 偶然、この祭りの話を凛安で聞いた開拓者たちは、一路その村へと向かっていった。 |
■参加者一覧
樹邑 鴻(ia0483)
21歳・男・泰
アルティア・L・ナイン(ia1273)
28歳・男・ジ
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
煉(ia1931)
14歳・男・志
水月(ia2566)
10歳・女・吟
翔(ia3095)
17歳・男・泰
銀丞(ia4168)
23歳・女・サ
白蛇(ia5337)
12歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●悲しみの連鎖 ──とある村 静かな村である。 祭りが近いにも関らず、普段なら村人達が大勢居る筈だが、開拓者一行が村に到着したとき、表にはあまり人が居なかった。 時折見掛ける村人はというと、近々行なわれる水神祭の準備の為に働いているという。 この時期、祭りが始まるまでは、水神様の怒りに触れないように、殆どの村人はひっそりと家から出ないようにしているらしい。 「ここが村長さんの家ですね」 「とりあえず話をきいて見る事にしましょう」 水月(ia2566)と翔(ia3095)がそう告げると、一行はまず村長のもとを訪ねた。 そこで一行は、まもなく水神祭が始まること、その為に村の娘を一人、生贄に出さなくてはならないことなどを聞き出すことができた。 「その風習はいつ頃からなのですか?」 翔が村長にそう問い掛ける。 「もうかなり昔からぢゃないかのう‥‥ワシが子供のころにはすでにこの風習はあったからのう‥‥」 そう告げる村長。 「村長、俺達が水神様と交渉か、それがダメなら退治してやあげますよ」 「し、しかし‥‥水神様を退治となると‥‥祟りがこの村に起こるやも知れぬ‥‥」 と動揺する村長。 「余所者で若造な俺が言うのもなんですが、誰かの犠牲の上で成り立つ平穏なんて、そんなに長持ちはしないです。何より、親より先に子が死ぬ‥‥こんな悲しい事を、何時までも繰り返してはいけないですよ。この村の将来を思うなら、悪しき慣わしを絶ちたいとは思いませんか?」 翔がそう告げると、村長はしばし下を向いたまま考え込んでしまった。 ──ガラッ 静かに扉が開くと、外から銀丞(ia4168が戻ってくる。 「ちょっと話を聞いてきたんだが、その水神様っていうのは大体体長にして20m前後の巨大な三つ首の黄金龍らしい‥‥それだけ巨大なアヤカシなのに、一年に1度、村人を食べるだけで満足しているなんておかしな話だよな?」 そう銀丞が告げる。 「そ、それが実は‥‥この村の近くに古い街道がありまして。あちこちの街を繋ぐ道としては、ちょっと荒れていますがそっちを走った方が早いときがあります‥‥そこでは時折、水神様に襲われた旅人もいるとの話も聞きます‥‥」 そう告げる村長。 「まあ、もっと詳しい話は村人から聞いた方が早いか」 銀丞のその言葉に一同は納得。 「あ‥‥あの‥‥村長さん。その三頭龍は、本当に水神様なのですか?」 そう問い掛けるのは白蛇(ia5337)。 「‥‥といいますと?」 「水神様の姿を写し取ったアヤカシが暴れているっていう可能性もあるよね? もしそうだとしたら、そんな偽りの神に生贄を捧げているって‥‥本物の水神様が怒っちゃうんじゃないかな‥‥」 と告げる白蛇。 「はわわわわ‥‥そ、そんなことになったらどうすればいいのか‥‥」 と動揺する村長。 と言うことで、まずは細かい情報を集めるのと、村人の真意を訪ねる為、村人達を一ヶ所に集めることにしたらしい。 ●村人の真意 ──とある村の集会所 やがて村長からの使いが村銃に走ると、村人達は村の中の集会所に集まってきた。 そこで、開拓者達は、今回自分達が水神様を退治しにやってきたことを告げる。 「まず、みなさんに幾つか教えて欲しい事があります」 そう告げるのはアルティア・L・ナイン(ia1273)。 「まず最初に。生贄を捧げた場合だが、常に豊作だったのか?」 ザワザワと村人達がざわつく。 「生贄を捧げているあいだは常に収穫量も一定になっていたなぁ」 「生活がかなり楽だったよな」 「まあ、水神様の加護が本当だったっちちゅーこった」 と、みな肯定的な意見ばかり。 「では、次にですが、生贄を奉げなかった場合、どのように不作になったんだ?」 再びザワザワとざわつく。 「貯水池の水が全て干からびちまっただよ」 「見た事もない化け物が森を徘徊して、狩りもできやしない」 「井戸が枯れて、水にこまったなぁ‥‥」 と、やはり肯定的な意見ばかり。 「では最後に。この土地は作物を育てるのに適切な土地でしょうか?」 こんどはあちこちから意見。 「あ。このあたりは土地が肥沃でな。水神様の加護が確かにあるっつーこった」 「水神様が土地を操っているから、肥沃とはいえないなぁ‥‥」 「生贄さえ捧げていれば我々の生活は安定しているんだ‥‥」 と、様々な意見が出はじめる。 「どうだろう‥‥この忌むべき風習をそろそろおしまいにしないか?」 滝月玲(ia1409)がそう村人に叫ぶ。 「娘を生贄に捧げ続けるって事は豊作と引替にこの村の未来を失っていく事と同じなんだよ、それくらい怯えた娘を見送ってきた人達なら判ってるだろ」 その意見に、村人達は静かになる。 だが、ポツリポツリと出てくる言葉。 「仕方ねぇ‥‥生贄は仕方ねえんだよ‥‥」 「今更そんなこというなや!! うちの娘こは去年生贄になったまっただ!!」 「もし水神様になにかしでかしたら、それこそ俺達の村は滅んじまう。開拓者さん、悪いがとっとと村からでていってくんないか?」 と、開拓者達の存在に否定的な態度を取るものさえいる。 「俺達は、村のあんたたちが必要ないというなら出て行くさ。俺達は当事者ではない、水神様を倒す稼動か、決めるのはあんたたちだ‥‥」 アルティアがそう告げると、再び村人達はザワザワし始める。 「‥‥望むなら協力してやってもいい。判断は任せる」 煉(ia1931)が静かにそう告げる。 開拓者達は偶然通りかかったにすぎず、別に干渉して欲しくないのなら、手を貸す必要もない。 「水神様が住んでいるのは離れた湖だよね?」 そう問い掛ける白蛇。 「ええ、そうですが」 「その湖の水って、畑まで引いていますか? 井戸の水源は?」 そう問い掛ける白蛇に、とある村人が一言。 「なんでも地下水っていうのが湖から広がっていて、それが井戸や畑に繋がっているって、以前ここにきた諸葛先生が行っていたなぁ‥‥」 またしても出たな諸葛先生。 まあ、諸葛云々のくだりはおいといて、その情報を得た白蛇が一言。 「地下水の流出を水神様が栓をして止めている‥‥これで決まりだね」 と告げると、開拓者一行は静かに肯く。 「俺達が水神様と直接交渉をしてみましょう。今までのように贄ではなく、何か別の供物で代用していただけないか」 退治ではなく交渉。 それならばと、村人達は開拓者達に水神様との交渉を頼み込んだ。 ●交渉人 ──とある村近く、水神の住まう湖 キーコキーコーキーコーキーコ 舟を漕ぎ、湖の中央にある小島にたどり着く。 そこで祠を確認すると、一行は貢ぎ物として用意した酒や饅頭などの食べ物を祭壇の上に安置する。 そして交渉人である白蛇、荷物運びの樹邑と巫女姿の滝月を残し、全員が近くの茂みなどに隠れることにした。 「小さな祠で‥‥これは神獣鏡‥‥これが水神様の鏡‥‥ってあれ?」 祠に安置されている神獣鏡を見て、白蛇はふと気が付いた。 見た事もない護符が神獣鏡に張付けられているのである。 ──ザッバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン やがて湖面が波打つと。湖の中から巨大な水黄金三頭龍が姿を現わした。 「‥‥グルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル」 激しく喉を鳴らし、あきらかに威嚇行動を見せる黄金三頭龍。 「水神様。まずはお酒をどうぞ。私は生贄ではありません‥‥交渉の為にやってきました‥‥」 丁寧に頭を下げると、白蛇は両手で貢ぎ物を差し出す。 だが、黄金三頭龍は警戒の色を解こうとはしない。 「お願いが有ります。もう人の伊の地を生贄とするのは止めて欲しいのです。生贄を酒や食べ物で代用して欲しいのです‥‥」 そう告げた刹那、祭壇に安置されていた酒や食糧を巨大な尻尾で吹き飛ばす黄金三頭龍。 ──グウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ 黄金三頭龍の咆哮。 そしてそれが戦いの合図となった!! 次々と物陰から飛び出しては、黄金三頭龍に攻撃を仕掛けていく開拓者達。 「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」 ──ドッゴォォォォォォォォォォォォッ 気功掌を発動した手で黄金三頭龍に一撃を叩き込む樹邑 鴻(ia0483)。 だが、それは分厚い皮膚で殆ど止められてしまった。 「この皮膚をなんとかしないとっ!!」 樹邑のその叫びと同時に、アルティアが二刀流で次々と分厚い皮膚を切り裂いていく!! 「禍断派、アルティア・L・ナイン──参る!」 さらに皮膚の弱そうな所を狙い、一気に切り裂いていくアルティア。 「後ろががら空きだぁ!!」 ──ズバァァァァァァァァァァァァァァァッ 後方にまわりこみ、尻尾から一気に駆けあがっていくと、滝月は黄金三頭龍の翼をまず一枚切断する!! ──ドシュッッッッッッ その直後、暴れた黄金三頭龍によって吹き飛ばされた滝月。 激しく大地に叩きつけられ、瀕死寸前まで追込まれてしまう!! 「誰か滝月を頼む!!」 そう叫ぶと煉が次々と矢を放つ!! 黄金三頭龍の首や頭などに矢をいると、攻撃の対象を分散させる事に成功した。 「急いで治療します!!」 水月が慌てて神風恩寵を滝月に施す。 どうにか一名は取り留めたものの、怪我が酷すぎる。 さらに黄金三頭龍の攻撃はし烈さを増していく。 開拓者達の攻撃はほとんど効果的ではなく、逆に黄金三頭龍の攻撃によって徐々に疲弊していく一行。 ──ドドドドドドドドドドドドトドドドドドッ 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」 次々と連撃を叩き込んでいく翔。 ──グウォォォォォォォォォォッ と、その翔目掛けて尻尾が激しく叩き込まれる!! 「危ないっ!!」 吹き飛ばされた翔を庇う白蛇だが、そのまま一緒に祠まで吹き飛ばされた。 ──ドゴォォォッ そのまま倒れている二人に向かって、黄金三頭龍の首が襲いかかる!! と、手元に神獣鏡が転がっているのを白蛇は見つけた!! 「水神さまっ!!」 慌てて鏡を黄金三頭龍に向ける。 ──ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォッ と、突然鏡の中から巨大な龍の拳が現われた。 その光景に、黄金三頭龍が一瞬怯み、後方にさがった!! 「な、なんだ今のは‥‥」 樹邑がそう叫ぶ。 「い‥‥今のが本物の水神様だ!! お前は偽物なんだ!!」 白蛇が勇気を振り絞って叫ぶ!! 「なら手加減は一切無用っていうことか‥‥」 そう呟きつつ、銀丞がゆっくりと構えを取る。 「剛力集中‥‥」 と、その刹那、銀丞の筋肉が激しく脈打つ。 上腕、胸部、腰部、大腿部、足‥‥次々と筋肉が膨張していく。 ──グゥォォォォォォォォォォォォ その銀丞目掛けて襲いかかる黄金三頭龍。 「剛力解放‥‥直閃斬っ!!」 ──ズバァァァァァァァァァァァァァァァッ その一撃で黄金三頭龍の頭部を真っ二つにする銀丞。 そうなると二つの頭を破壊された黄金三頭龍は脆い。 次々と攻撃を仕掛けられ、ついには大地に崩れ落ち、瘴気となって消滅した‥‥。 ●そして ──村では 全てが終った。 村長に全てを報告すると、白蛇は静かに話を始めた。 「えっと‥‥あの‥‥湖の黄金三頭龍は水神さまではありません‥‥」 「そ、それはどういうことで‥‥」 と問い掛ける村長に、一連の流れを見ていた開拓者達が話を続ける。 「本物の水神様は、あの島の祠にある神獣鏡に封印されていました。我々も、水神様に助けて貰ったのです」 とアルティアが告げる。 白蛇があの後で神獣鏡を調べた所、鏡には何かが封印されているという感じはなかった。 おそらく鏡の中央に生めこまれていた玉(ぎょく)が幻影を生み出す宝珠だったのだろうと一行は推理した。 「俺と銀丞、滝月で祠は直しておいた。神獣鏡もそこに安置しておいたから、あとはヨロシクな」 樹邑がそう告げる。 「では、もう生贄は必要ないのですね」 村人の誰かがそう告げる。 「もう、悪しき風習に縛られることはありません。水神様を語っていた悪しきアヤカシは滅びました」 水月がそう告げると、村人は歓喜の声を上げた。 「ただ、祠には今でも本物の水神様が奉られています。水神様の封印されている神獣鏡がありますから、それを大切にしてください‥‥」 信仰心を失わせてはいけないという配慮であろう。 翔がそう告げると、村人達は再び感謝の気持ちを開拓者達に告げた。 静かに風が吹きぬける。 下を向いて生きていた村人は、ようやく青く広がる空を見上げる事が出来た。 そしてどこからもなく祭囃しが聞こえてくる。 それを遠くに聞きながら、開拓者達は再び旅路に付いた。 ──Fin |