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■オープニング本文 ●失われた宿のお話 時として、人は理不尽な運命や出来事に翻弄されるものです。 私が遭遇してしまったこの事件も、予想だにしない出来事でした。勿論、その場所が危険である事は、私も知っていたのですが。 久しぶりに旧友と会おうと決めたのは、7月の中頃の事でした。丁度、ジルベリアにも用事がありましたし、友人がジルベリアに今年の頭から店を開いたと聞いていて、一度行ってみたいと思っていたのです。 用事を先に済ませ、私は友人に会うべく山を登りました。随分と急な坂でした。牛車なんて無理だろうなと思いながら、夏の暑い最中を私は歩いて登りました。その山道は細く、賑やかに人が往来するような峠でもありません。誰も通らない気味の悪い山道を数時間掛けて登ると、そこに一軒の小屋が建っていました。 「『開拓者喫茶』‥‥」 小屋の玄関の上に打たれた看板には、そう書いてありました。そこまでは読めたのですが、続きは消えています。 いいえ、問題はそういう事ではありませんでした。今年に造ったばかりと聞いた小屋が、まるで何かの災害に遭ったかのように、壊れています。 まず、屋根がありません。これでは宿として全く成り立たないでしょう。勿論、夜空を見ながら眠りにつく事は素晴らしいですが、それを売り物にする為には、雨が少ない地方でなくてはいけません。 それから、壁が部分的にしかありません。扉がある場所はきちんと立っていますが、他の部分はまるで外から丸太で勢い良く突いたような壊れ方をしています。更に木屑が店内にまで散乱しています。これはいけません。掃除がなっていないと怒られる以前に、景観が悪すぎます。 では、半開きの扉を開いて中に入ってみましょう。 確か、2階が宿。1階が軽食屋と聞いたのですが、まず、階段がありません。屋根が無いのですから階段も壊されたものと見て良いでしょう。それから、床も穴だらけです。落とし穴にしては余りに無用心ではないでしょうか。穴は隠すべきです。落とし穴だらけの廊下らしき場所を抜けると、厨房と思われる場所に辿り着きました。煉瓦と思われる物が散乱しています。そこから外へ出ると、裏手には川がありました。上流らしく、細い川です。 さて。考えてみましょう。 私は、旧友に会いに来ました。 しかしどう考えても、この宿が営業しているようには見えません。 そして、店長として働いているはずの旧友の姿もありません。 「これは‥‥」 つまり、『事件』だと言う事では無いでしょうか? ● 「‥‥却下です」 「何故ですかっ」 いつもの開拓者ギルドの片隅で、女性が受付員に噛み付いていた。一応まだ、歯を使って噛み付いてはいない。 「こんなに長い文章を依頼として貼れと言われましても」 「何言ってるんですかっ! これは事件です! 一大事件ですよ!」 「瓦版に出したいなら、そちらへどうぞ」 「では、真相をお話しますよ? その宿をそこに建てた私の旧友は、山道の先に『遺跡』がある事を知っていたんです。それ目当てに山道を登ってくるであろう開拓者達の為に、あの宿を開いた。つまり、あの小屋を破壊したのは、それを快く思わなかった『遺跡』内のアヤカシ達に間違いありません!」 「ヨーシアさん」 力説する依頼人をまぁまぁと押し留めながら、受付員は小さく首を振った。 「遺跡内のアヤカシが外に出てくる事は無いと言われています。そして、そこに宿が一つあったからと言って、アヤカシがわざわざ破壊しに行ったりはしませんよ。勿論、そこに居る人間目当てにという可能性はありますが、遺跡内のアヤカシでは無いかと」 「まぁ、それはどっちでもいいです」 あっさりとヨーシアは言った。 「問題は、あの場所に宿が無くなってしまった、と言う事です。山を越えて向こう側に行く事も考えると、あの場所に宿があると言うのは、人々も安心できる事だと思うのです。なので、再建したいんです」 「しかし、又壊される可能性もあるのでは?」 「それは勿論考えられる事です。でも、殺伐とした中にだって、安息の場所は必要だと思います。旧友だって、それを望んでいるはずですっ」 「‥‥ご友人の方には、誠にご冥福を」 「あ、それは多分大丈夫」 沈痛な面持ちとなった受付員に、軽くヨーシアは手を振ってみせる。 「あの子、志体持ちですから。でも確か、料理が致命的に出来なかったはずだから、誰か雇っていたはずなんですよね。その人がどうなったかは知りませんけども」 「‥‥そんな適当でいいんですか‥‥?」 「分からないものは分からないもの。もしかしたら一緒になって珍食材探しに行っていたかもしれないんですけど、連絡のし様が無いので‥‥。もしかしたらそのまま別の場所に宿を開いたかもしれないですし、本当にアヤカシに食われちゃったかもしれないですけども、とりあえず再建してみたいなって」 「‥‥簡単に言いますね」 「いつでも前向きに! が、私のモットーなので。まぁ出来れば、宿を再建した後も一緒に宿を盛り立ててくれる人、従業員になってくれる人、とか。そういう人を募集したいんですけども」 「分かりました。‥‥とりあえず、依頼文を書き直して下さい」 |
■参加者一覧
深山 千草(ia0889)
28歳・女・志
黎阿(ia5303)
18歳・女・巫
アーニャ・ベルマン(ia5465)
22歳・女・弓
ジルベール・ダリエ(ia9952)
27歳・男・志
天野 瑞琶(ib2530)
17歳・女・魔
ライディン・L・C(ib3557)
20歳・男・シ
アルマ・ムリフェイン(ib3629)
17歳・男・吟
エーディット・メイヤー(ib3831)
24歳・女・魔 |
■リプレイ本文 そうして、私達は謎の現場へと足を踏み入れました。 共に旅立つ仲間は、深山 千草(ia0889)、黎阿(ia5303)、アーニャ・ベルマン(ia5465)、ジルベール(ia9952)、天野 瑞琶(ib2530)、ライディン・L・C(ib3557)、アルマ・ムリフェイン(ib3629)、エーディット・メイヤー(ib3831)。私を合せた以上9名は、果たしてこの謎を解く事が出来るのでしょうか。 ● ずぅ〜る、ずぅ〜る。 急な道を、アーニャが登っていた。その背には黎阿が乗っている。 「アーニャ、おぶってー」 「おぶってますよ!」 正確にはおんぶはしていなかった。体力が無いと言って背にへばりついた黎阿を、アーニャが引きずって登っているだけである。 「あ。見えました〜」 ようやく崖の天辺に手をがしっと手を掛け、アーニャがひらりと崖の上に飛び乗った。反動で黎阿は背中から滑り落ち崖に顔をぶつけた。 「何をしていますの?」 崖下へと滑り落ちている黎阿を見送りながら、瑞琶が問う。彼女は手帳を持って宿の現状の問題点について書き込んでいる所だった。 「周辺調査と観光資源が無いかの確認です。危険な所は確認して、一般人が入り込まないようにしないと。それからトレッキングできそうなら、道の整備もしないとですね。じゃ、早速〜」 どっかーん。道の逆側の木々と草花が、バーストアローで吹っ飛んだ。 「‥‥それを坂の下までやるんか? えらい手間やな」 他の者達はまともに道を上って来ていた。ジルベールは狭い道を台車を動かしながらやって来て、残った柱や土台、建材や調度品で再利用できるものは再利用しようとひとつひとつ確認している。使えないものでも木材も石材も他の用途はあるだろう。 「ヨーシアちゃんは、以前にお友達の荷物は探していなかったのかしら?」 「そういえば見てないですね」 「では解体前に探してみましょう?」 解体用に刀を抜きながら、千草はおっとりと言った。まずは、1階に落ちたらしい2階部分を引き剥がす作業からだ。ずんばらずんばらと大業物で斬っている千草だが、刃零れが気になる所である。 「ねぇ、ラピイちゃん。どうやって壊れたんだと思う?」 周囲に散らばった大量の屑を掃除しながら、アルマはライディンへと振り返った。 「うーん、何でかな。それより、風呂があったら入りたい。むしろ作りたい。火と水周りの確認はしたいね」 「お風呂は‥‥全滅みたいだよ。専門家呼ぼっか。今後のツテも考えて」 「珍料理のレシピって残ってないかな」 探しに瓦礫の中に足を踏み入れたライディンは、見事に木板を足でぶち抜いて嵌る。 「あれ? 抜けないっ‥‥」 「元の宿はどんな所だったのでしょうか〜」 看板っぽいものを眺めながら、エーディットは妄想で頭の中が膨らんでいた。有名開拓者の格好をした店員達が『お帰りなさいませ』と言う開拓者喫茶だったに違いない。きっとそうに違いない。 「ん〜‥‥? 自然現象で壊れたわけではないみたいですね〜」 「その、料理が下手な子の仕業じゃないわよね? 失敗してドーンとか」 「あ、黎阿さん。無事の生還お帰りなさい」 「アーニャ、あんたわざとよね? わざとだったわよね!?」 「それにしても、燦々たる状況ですわね。廃墟としか言い様がありませんわ。もし店長と店員の喧嘩とかでしたら、人員に問題アリですわ。最もこれは‥‥上から踏んだような気もしますけれども」 「上、ねぇ‥‥」 皆は空を眺めた。いい青空だ。 「はぁい、皆、下がって下がって」 青空の下に輝くに相応しい笑顔で、千草はざんばらざんばら斬り続けている。ライディンは踏み抜いた木板ごと逃げた。 ともかく、皆で廃墟の解体と掃除にまず、力を尽くすのである。 ● 1階部分で潰れたままの家具からマゼンタ達の私物と思われる物を幾つか運び出し、腐っていた食材はその辺の土に埋めた。私物の多くは装備品で、武器なども転がっている。 再建すると言っても、再建にはまずお金がかかる。家具の中から出てきたお金をヨーシアが『再建に使う』と言ったが、それにしても少ない。では、お金を何処から調達するべきか。 「この周囲にアヤカシは居ないみたいですけど‥‥でも、アヤカシの出ない遺跡なら一般人も冒険浪漫が堪能できます。探検できる大きさなら楽しめますし〜、行ってみましょう!」 「そうね〜。金目の物が落ちていたら、それを売って再建費用に充てるといいわよね」 鏡弦を使って調べた所、宿の周辺にはアヤカシは居ないようだった。アーニャと黎阿は、2人で早速あると噂の『遺跡』探しに出かける。 「‥‥あら? ここ‥‥怪しいわよね」 時間を掛けて探して見つけた洞窟は、確かにかつては人が通っていた気配があった。バーストアローでごっそり草を吹っ飛ばすと、大きな石などを取り除いた小道の跡が出現する。洞窟自体は木々に隠れるようにしてあったが、それより少し上の山の頂上には、小さな広場があった事を確認した。その広さならば龍が降りて1体は休む事が出来そうである。 「以前は、上の広場に龍を置いて開拓者が来ていたのかしらね? でも‥‥ここ」 だが洞窟は、ほんの数歩歩くと入り口が狭くなり、そこに幾つもの岩が置かれてあった。その奥には木板も見える。どう見ても、誰かが人工的にその障害を置いて出入りできなくしたとしか思えない。 「取り除いて中に入ります?」 「こんな事を誰かがしたって事は理由があるのよね。その理由を知らないまま開けて、取り返しのつかない事になっても困るわ。とりあえず‥‥下の村とかで聞いてみて、後は温泉探しましょ」 「は〜い」 その頃、既に村には瑞琶とアルマが行っていた。 とにかく、疲れを癒す為には大きなお風呂。温泉があればそれを引く。その夢を叶える為に、である。 村人達は余所者に教えることを最初は嫌がっていたが、アヤカシに怯えず山向こうに行き来できるようにすべく彼らが働いていると知って、態度を改めた。 「『癒しの水』‥‥あ。鉱泉があるんだね。沸かせば使えるだろうけど、場所‥‥少し距離あるね。しかも宿より位置が低い」 簡易地図を作成しているアルマが、アーニャ達の話と村人の話、そして宿跡の周辺を巡った皆の話を書き加えていく。 「この宿まで引くのは難しそうですわね。鉱泉の位置よりも下方に場所を設けて引く‥‥。或いは‥‥」 「鉱泉のお水を人力で運ぶ、というのもあるわね。でもね。楽しみ風呂もいいと思うの」 千草が言う楽しみ風呂とは、 「温泉も無理、大浴場も無理でも、お外はどうかしら。月替わりで草花を使ったハーブや果実風呂、牛乳風呂と変えていけば、楽しいと思うのだけど」 「個人的に露天風呂は外されへん思おてたんや。こう、裏の川に張り出す感じにテラス作ってな。浴槽置いて薬湯入れて野趣溢れる感じがエエんとちゃうかな。月替わりはエエ考えや思うで」 ジルベールは家具や家の内装を請け負う家の出である。大工仕事は得意だ。がりがりと図面を書き始めると、皆がそこに希望や意見を述べてどんどん埋まって行く。幾つかの案を重ねて、まずは以前あった宿と同じ大きさの建物を再建する事となった。土台は残っているし、柱も幾つかある。瑞琶がストーンウォールで作り出した石壁を削って、『開拓者の隠れ家的な』、『秘境の喫茶的な』宿を目指して、建築が始まった。 同時に、木の切り出しも行われた。行く行くは道幅も広げたいが、その為には木々を切倒さなくてはならない。土層の事も考えて、ある程度の専門家の手も借りたほうが良いだろうという事になった。手近な所に専門家は居なかったので、とりあえず千草が道の途中途中に休憩用の椅子を置く事を提案する。 「ヨーシアちゃん。その椅子は、座れないと思うわ」 「あ。駄目ですか〜?」 張り切ってヨーシアが歪な椅子を作りあげた。一緒に椅子を作りながら、同時に千草は防護柵も作る。アルマが注意深く崖の強度を確かめて、崖より幾分手前に柵を挿して行った。部分的に戸を作って自由に出入りできるようにはしておく。これで、アーニャ達が崖からやってきても大丈夫‥‥というわけではなく。 「階段はどう作ったほうがいいかしらね‥‥」 崖を削って階段を作るとどうしても急になってしまって危険である。やはりここは、木製の階段を作って繋げたほうがいいだろうが、簡単に作れるものではない。ジルベールが外装を1人で請け負っている為、一先ず階段は後回しとなった。 「こことここに食材‥‥後は‥‥」 アルマ作の地図は様々な用途で複数枚作られている。把握した範囲での道のり、名物となりそうな物の場所、食材がある場所などなど。 「うっわ‥‥。この釜酷いなぁ‥‥」 一方、料理全般担当のライディンは、残っている調理道具を綺麗に洗った後、色々と悩んでいた。 まず、衝撃で壊れたり歪になったりした調理道具や食器が数多い事。寧ろ殆ど使えない事。それらを買い換える為にお金を貰って町まで遠出して買ってきたものの、残っていた珍料理レシピが‥‥。 「龍肉丸焼きかぁ‥‥。ジルベリアじゃ、龍肉はマイナー過ぎるんだよね。だからこそ珍料理‥‥っていうか丸焼き!? 味付け塩だけか!」 塩だけだった。そんなレシピは寧ろ必要ない。 食堂自体はジルベリア風に自分で取ってくる形式に。テーブルと座敷と両方を造ってもらえるようジルベールには頼んでおく。ジルベリアではあるが、ご飯(米)と味噌汁は大きい鍋に作れるよう用意。レシピとしては、ジルベリアに居ながら天儀を味わえるようなものも用意する。煮物、揚げ物、焼き魚などは、真夏には保存が効くものではないが、ジルベリアの高地での夏は比較的涼しめであるから、夏でも使えるだろう。周囲の山菜や裏の川で採れる(予定)の魚も旬の味わいとして楽しみたい。 「他にも魚色々楽しみたいんだけどなぁ‥‥生魚は運搬がちょっと厳しいかな‥‥」 「海魚とかですか?」 「酒のアテに欲しいんだよね」 「あ、それはいいですね!」 アーニャも酒場用の酒を考案中であった。天儀酒やヴォトカは勿論用意だが、『開拓者の為の開拓者による開拓者気分も味わえる宿』の為には、開拓者気分満喫に相応しい龍をイメージしたカクテルも必要なのだ。 「『炎龍』はアセロラ‥‥『駿龍』はジンジャーエール‥‥『甲龍』はオレンジ‥‥」 「オレンジは運搬大変だよ〜? この辺じゃ採れないし」 「あら〜? 私、メロンとスイカ持って来たのですけれども〜」 「ジルベリアじゃ栽培も大変だよ?」 マスコットキャラクター考案をしていたエーディットも、アルマに突っ込みを受けた。 「あらあら〜‥‥旬の果物のスイカを合わせてクマスイカ〜を作ろうと思ったのですけども〜」 土産物と言えば、木彫りの熊。それに旬の果物を合わせて年代わりでマスコットキャラクターお着替え作戦を考えていたエーディットだったが、実物を使うのは難しそうだった。 「メロンと龍を合せたメロン龍〜とかですとか〜、一攫千金を狙う意味で、小判を抱えたゾウガメですとか〜」 「ゾウガメってジルベリアは居ないわよね? 天儀にも居たっけ?」 アーニャが作っている酒をぐびぐび試飲しながら、黎阿が首を傾げる。 「作り物で作るのですよ〜。ジルベリアマネキゾウガメを早速試作です〜♪」 と言って、エーディットは木板を彫り始めた。 ● 「もう何日もお茶の時間を楽しんでいませんわ」 瑞琶は、石壁の残りを削って、外に石造りテーブルセットを作り上げた。微妙にごつごつしているが気にしてはいけない。ティータイムは外で取るのが良いのだ。 「お酒、完成です〜。オレンジジュースなら、運搬もできますし、それから『雲海』。飛行船に乗った気分で、ちょっと甘めに造ってみました〜」 「こっちも出来た。鳥の山アヤカシ焼き。味噌と山椒を効かせた地元山菜を添えて。それからシノビの暗黒パスタ。イカ墨風。吟遊詩人の織り歌風サラダは‥‥彩鮮やかな魚介カクテルサラダ。珍メニューで、超地底湖そばとうどん。超深いどんぶりに、深度によっては箸の長さを変える、トクモリメニューだ。テーブルには‥‥置けないかな」 「試食やな〜」 是非にと待っていたジルベールが、高速でやって来た。 「あ、料理名なんやけど、『符水風カクテル』とか『巫女の川魚 浄炎焼き』『弓術師の射抜いた林檎のコンポート』とかおもろくない?」 「お。どんなのにしよ〜かな」 「ねぇねぇ。箸だけじゃなくて、フォークも要るんじゃない?」 「ライディンくん。パスタを盛るわね」 「あ、宜しく頼みます」 「符水風カクテルですかぁ〜。うーんうーん‥‥爽やかな色合いがいいのかしら」 「幾らでも飲むわよ〜」 「紅茶に合う料理も食べたいですわ」 「お鍋料理とかですか〜?」 建物は外観は終わった。わいわいと皆で試食しながら、意見を出し合う。 お風呂も、月見用の露天風呂が作られた。と言っても、木製の2人用浴槽である。そこに鉱泉から水を運んで試し湯とばかりに湯が張られ‥‥。 「風呂体験っ」 アルマを抱えながらライディンが走ってきてばばっと脱いで中に飛び込んだ。一応陽は既に沈んでいる。 そんな2人を、建物の陰からひっそり見ている人が居た。エーディットである。 「‥‥素敵ですね〜♪」 何やら凄い想像をしていた。内装工事をしていたジルベールが軽くくしゃみをする。 内装は、開拓者ギルドをイメージして造られていた。お客を迎えるカウンターもギルドの受付風に。1階の酒場は受付の待合室のような雰囲気を演出してみた。2階の客間は『サムライの間』や『魔術師の間』などと名付ける。デザインもそれらしくし、魔術師の間では、魔法陣を壁に書き、サムライの間は板張りの間で、木刀や生け花を飾る予定である。予定なのは、予算の都合上、花瓶などを買えなかったからだ。 細かい事は抜きにして、あくまで雰囲気重視の内装を心がける。 さて。大体出来上がったならば、後は従業員募集である。 「従業員は開拓者がいいよね」 「志体持ち優先でね。うん。大事なのは『付加価値の創造』! また来たいと思ってもらえるような心に残るお持て成しが出来る人に教育しないと!」 「ヨーシアちゃんの為に、宿帳のほかに、こんな事があったよとか珍しい食材の噂があるよとか、自由に書ける帳面を置いてみると、ネタが拾えるかもしれないわね」 アルマが町にリュートを弾きながらの宣伝兼店員募集に出かけ、皆は最後の内装や土産物作りに取り掛かった‥‥が。 「あれ? マゼンタ?」 「ん? 何か出来てるー」 そこに、マゼンタとシアンが帰ってきた。背中に荷物を背負って。 「龍肉取りに行ってたのよ。ここで捕まえてやろうと罠仕掛けてたんだけど、逆に店潰されちゃってね。随分遠出したんだから」 「へぇ〜」 荷物を降ろし、マゼンタは平然とそう言うのだった。 |