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■オープニング本文 ●お金が無い話 時として、人は理不尽な運命や出来事に翻弄されるものです。 私が日々遭遇している運命も又、いつでも予想できるけれどもしたくない出来事でした。 8月中頃。『開拓者宿屋 秘境のお宿』は、開拓者達の手によって再建されました。実に素晴らしい働きで、宿は見違えるほどの素晴らしい姿を取り戻したのです。いいえ、新しい姿を手に入れる事が出来たのでした。 行方を晦ましていた店長と店員は珍材料を取りにジルベリアの外にまで遠出していただけで、非常に人騒がせな人々ですがこうして旧友の役に立てた事は、私としても誇りに思う所です。 「いやー、新築同然だね〜。ありがとね、ヨーシア」 旧友の素直な感謝の言葉に、私は胸を張りました。 「本当に、苦労したんですよ。日頃ペンより重い物は余り持たない主義の私が、椅子作りも頑張ったんですから!」 えぇ。実に芸術的な仕上がりの椅子になりました。後は色を付ければ完璧だったのに。 「って事は、皿も持たないわけだ」 そのような突っ込みを遠慮なくしてくれるのも、旧友だからこそです。 けれどもこの旧友。珍食材を求める余りに食材をおびき寄せ、乱闘の末に以前の宿屋が崩壊してしまったと言うのですから、余り宿屋経営に向いているとは言えません。否、向いていません。そこで、私が副店長になってあげる事にしました。旧友の為ですから、仕方がありません。 さて。そうともなれば、いよいよ宿屋再開に向けて、作戦を練らなければなりません。 まずは、従業員確保です。 再建の手伝いをしてくれた開拓者達も、開拓者自身が従業員である事を薦めてくれました。しかし現実問題、西に東へと忙しい開拓者達です。常勤してくれるような人が見つかるはずもありません。 「シアンさんはマゼンタに恋しているから常勤してくれているとして‥‥」 「恋などしていません!」 何と言う事でしょう。年頃の男子が年上のお姉さんに恋をして健気に働くという状況は、実に物語になる設定だったのですが。 「それにシアンは志体持ってないしね」 「持っていないのにマゼンタに付いて珍食材探しの旅に‥‥。やはりこれは恋」 「何故に実姉に恋しなくてはいけないんですか」 禁断の恋は、老いも若きも女性の密かな人気を呼ぶ題材ですのに、残念な事です。 「大体、目下の所の問題は沢山あるけれども、第一はそこじゃないよね」 「そうですねぇ」 「お金が無い。ヨーシア、お金、持ち出ししたでしょ」 「しましたよ。だって、何もかも使い物にならなくなっていましたから」 「因みにヨーシアは今、幾ら持ってるの」 「私のお小遣いにまで手を出すつもりですか? この前、開拓者を雇うのに使っちゃいましたよ」 「‥‥」 「‥‥」 「従業員も雇えないじゃない」 「もふら様も買えませんね」 宿の目玉のひとつとして、もふら様を飼うという話が出ていました。しかし現実は容赦なく厳しく私達に圧し掛かってくるのです。 そう。私達はいつだって、お金が無いのです。 「ですが、私に良い考えがありますよ」 お金が無いからと言って、ここで夢と野望を諦めてしまってはいけません。 何事も為せば為る、のです。 ● 「‥‥ですからヨーシアさん。依頼文が長すぎるんですって‥‥」 「今回は、ちょっとは分かりやすく、会話文を多めに入れてみたんですよ!」 「いえ、ですから‥‥」 いつもの開拓者ギルドの片隅で、ヨーシアという名の女性が受付員に噛み付いていた。今日もまだ、歯を使って噛み付いてはいない。 「自慢じゃないですけど私、お金遣いは荒いほうなんです。でも今回、開拓者の皆さんを雇うために頑張りました。仕方が無いので、ちょっと簡単そうなアヤカシ退治依頼に行ってみたり、招待状を書いたり、色んな仕事もしました。私は拠点を持たない旅人でしたけれども、宿屋を拠点にしたいなと思っているんです。開拓者の皆さんがあの場所に夢と希望を詰め込んでくれたみたいに、私もあの場所から夢と希望を配信したいなって」 「ちょっと良い事言った風な顔しても、駄目ですよ。書き直して下さいね」 「ちっ‥‥」 渋々、ヨーシアは依頼文を書き直した。元々書いてあった依頼文は、鞄に片付ける。 「つまり‥‥金を稼ぐ仕事を依頼したい、という事ですね?」 「出来ればもふら様を飼えるくらいのお金は稼いでおきたいんですけども、まぁそうじゃなくても家具とか小道具とか演出物とか‥‥そういうものも足りてないんですよね。鉱泉からどう水を引くか‥‥も考えないとですし、やっぱり人力でしょうか?」 「‥‥は?」 「お風呂は私も充実させたい所なんですよね〜。やっぱり、お風呂って気持ちいいですし疲れも取れますし。店員がお揃いの服を着るっていうのもいいですよね〜。でも、充実させようと思えば思うほど、夢を叶えようと思えば思うほど、お金ってかかるんです。ある日突然空から落ちてきたりはしないんです。というわけで、今回開拓者の皆さんを雇えるほどのお金は、私も持ってきてないんです」 「それは、困りますね」 「だから、ついでに自力で稼いでもらおうかなって」 「はい?」 「ふふふ‥‥まぁ色々、稼ぐ方法はありますからねぇ‥‥」 そう笑うと、ヨーシアは新しく書いた依頼文を受付員に渡した。 |
■参加者一覧
黎阿(ia5303)
18歳・女・巫
アーニャ・ベルマン(ia5465)
22歳・女・弓
ジルベール・ダリエ(ia9952)
27歳・男・志
フラウ・ノート(ib0009)
18歳・女・魔
マテーリャ・オスキュラ(ib0070)
16歳・男・魔
ライディン・L・C(ib3557)
20歳・男・シ
リリア・ローラント(ib3628)
17歳・女・魔
エーディット・メイヤー(ib3831)
24歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ● 「貴方の力が必要なのよ!」 ある日、黎阿(ia5303)はフラウ・ノート(ib0009)の頭にがしっとカチューシャを付けて、ずるずると引っ張りながら山道を上って行った。 「をー。黎‥‥え? ちょっ‥‥な?! まっ‥‥」 などと戸惑うフラウの頭の上でぴこぴこと狐耳が揺れている。 「お。どないしたん? 獣耳やん」 そこに、一軒の宿があった。今日も清清しく良い天気に山の冷涼たる空気が気持ち良い。木を切っていたジルベール(ia9952)がやって来た二人の頭の上の物体を見つめた。 「特色付けとしてこれ(獣耳カチューシャ)どうかなってね♪」 「お〜。連帯感は大事やもんな、うん」 一瞬きらんとジルベールの目が光り、彼はすぐさま懐から犬耳カチューシャを取り出す。かぽっ。 「ふふふ〜。素敵な獣っ子になる事間違いなしですね〜。きっと知名度も上がるのです〜」 ヨーシア達の分とばかりにせっせとカチューシャを取り出す黎阿。その周囲のケモミミ達を眺めながらエーディット・メイヤー(ib3831)は楽しそうに笑った。両手で色鮮やかな生地を抱えている。 「それ、何ですか?」 チラシを作成していたアーニャ・ベルマン(ia5465)が、興味津々に覗き込んだ。 「制服ですね〜。天儀風の可愛い衣装から作ろうかと〜」 「それは楽しみですね」 「男性陣も可愛い衣装でちゃれんじですよ〜♪」 「えっ‥‥僕もですか‥‥?」 夏でも頭からフードすっぽりのマテーリャ・オスキュラ(ib0070)が、びくと体を震わせる。ちょっと人見知りな彼にフードを取って派手な衣装を着るというのは勇気が要る出来事だ。 「ここが、以前お話して下さった宿なのですね」 ライディン・L・C(ib3557)と一緒にやって来たリリア・ローラント(ib3628)は建物の周囲を一周していた。 「仲良しさん達が頑張ったお店。私も、何かお手伝いできれば‥‥」 「お金無いって、つまりは物理的にも経営的にも『潰れてた』ワケじゃん‥‥おい、店主!?」 その傍では、ライディンが帳簿をぺしぺしと指しながらマゼンタに説教している。 「だって仕方ないじゃない。珍味って手に入れるのに金かかるのよ」 「経営との兼ね合いを考える! どんぶり勘定は許しませんよっ」 ぺしぺし。 「そんな事言われてもー」 「‥‥シアンさん、ですよね」 マゼンタの隣に立って一緒に話を聞いているシアンに、リリアが微笑を浮かべながら近付いた。 「えぇと‥‥頑張って下さい、ね?」 「はい?」 依頼書を読んで完璧な勘違いをしたリリアが、密かに恋の応援をする。 そんなわけで、今回も8人の開拓者達が宿屋再建に向けて頑張る‥‥というお話。 ● 世の中地道が一番ですとマテーリャが言う。店の経営が上手くいけば財布にも余裕が出来て経営も波に乗るに違いない。最も、問題は店長副店長共に浪費癖がある事なのだが。 マゼンタとシアンから宿崩壊前のレシピ提出を受けて原価の安い順に区分けしたライディンが渡すレシピ張を受け取り、マテーリャは考え込んだ。明らかにレシピが可笑しい。 「んー。宿の特色とゆーか、料理でも立派にお客は呼べると思うのよ。どんな料理でお客さんをもてなしたい、って希望あるかしら? 大まかで」 フラウもマゼンタに尋ねていたのだが、『珍料理』という言葉しか返って来なかったのだ。 「林檎のコンポートやろ‥‥カクテルはハブ‥‥やない、ハーブを漬け込んで‥‥」 以前ライディンが作り出したレシピにジルベールが案を加え、そこに足りない物をマテーリャは思いついた。 天儀風の料理が多いから、意外と材料費が高くつく。崩壊前レシピは言語道断な原価高だし、 「龍のお肉を使って珍しい干し肉を作れないでしょうか〜?」 塩漬けになっている龍肉を樽から取り出し、エーディットが部分的に切っている。 「ここでしか買えない物という触れ込みにすれば、限定心をあおるかも〜?」 「そうですね‥‥。ですが原価が高いという事は、売価も高くなるという事です。一般人のお客さんには手を出せない値段になるかも。珍しいばかりでは定着しないかもしれません。『売り』は必要です。地元の名産品とそれを使った料理のレシピを調査してきます」 「いってらっしゃいませ〜」 というわけで、マテーリャは麓に下りて様々なレシピを聞いてきた。 「料理の基本はやっぱり愛情ですよね」 「愛情よね?」 「愛情やな。なぁなぁ。串焼き魚にお御籤結ぼ思ぉとるんやけど、凶とかどないやろ」 「『巫女の川魚』だから巫女さんお御籤なのですね〜♪ 凶でもがっかりしないように折り雛人形を添えるとかどうでしょう〜」 「お御籤の文章はどう書くんです?」 「『今日の貴方はサイアク!』とか?」 ジルベリア出身者達が考え出したお御籤の内容は、至って簡単なものである。紙を使って折り雛を作ってみたが小さな物を作るのは難しく、特にマテーリャのは。 「素敵なアヤカシなのです〜♪」 「‥‥ですよねぇ‥‥」 そんな彼がレシピを元に作り出した試作料理。味、栄養価、費用対効果に優れた逸品の数々は‥‥。 「アヤカシ料理やな」 「ですよねぇ‥‥」 だが見た目に恐れを為してはならないと、試食大好きジルベールが一体何だか分からない料理に手をつけてみた。 「あ。旨い」 「『名物アヤカシ料理』とかどうでしょうか〜♪」 「どうしてこうなっちゃうんでしょうねぇ‥‥。やっぱりフラウさんにお任せします‥‥」 と、焼きあがったとってもでこぼこパンを皿に置きながら、マテーリャは溜息をつく。 「了解っ。あ、そうだ。食材を大量に仕入れる事が出来る場所って無かった? 市場とか」 「市場ですか‥‥。この辺りは村なのでだいぶ歩けば町があったかと」 「海の幸は難しいから山の幸‥‥。でも安定的な供給を考えるとやっぱり市場よね」 「あ。せや。マテーリャさんも一緒に流木アートしてみぃへん? この前のヨーシアさんの椅子見て思ぉたんやけど、大事なんは感性やし。ヨーシアさんと一緒に花器とか額縁とか衣装掛けとか面白いんとちゃうかな」 「えへへ〜。そんなに褒められると照れますよ」 獣耳をつけたヨーシアが笑って見せたが、とりあえずヨーシアと共に川へと降りて作業をする事になった。 ジルベールのほうは、マテーリャが料理を作っている間に崖に沿って階段を作っていた。階段は木製で手摺付き。防腐用に上から光沢の出る樹脂を塗る。階段の最上段と同じ高さに木製の張り出しを作ってテラスとし、そこに露天風呂を置き直した。張り出しも階段も定期的に安全性を確認する必要があるだろう。 「木彫り招きもふら様できました〜」 黎阿が置いて行ったもふらぬいぐるみを店内に並べていたジルベールの所に、エーディットが色々持ってくる。 「あ。この手触りいいかも〜。もこもこ‥‥もこもこ‥‥」 毛糸でぬいぐるみを編むという話に乗ってフラウも器用な手先を使って編み上げた。真夏に毛糸製は暑いが。 「この『ころがりもふら様』可愛いのです〜♪」 「エーディットさんが言う『二足歩行』も今作成中よ」 そうして、着々と宿の基本と応用は固められて行った。 ● 一方その頃、町まで遠出した一行は。 「ところでライディンさん。私、お腹が空きました」 「そろそろ休憩にしますか? お嬢様っ」 リリアの口に饅頭を押し入れてから椅子を差し出したライディンの姿があった。 「秘境の宿、回転‥‥じゃなかった。開店準備中よ〜」 アーニャが作ったチラシを配りながら、黎阿はひらひらと舞を舞っている。 「ちょっと2人共! さぼってないで働く!」 「はぁい‥‥」 「はーい‥‥って、あんたさっきサボってたよね!?」 「気のせい気のせい」 小休憩を取りながら、3人は宣伝をして回った。 ライディンはマゼンタ、シアンと共に出張屋台を設置。その屋台をまずリリアが宣伝する。ブレスレットベルが軽快な音を奏でる中、太陽のように明るい歌を存分に歌う。それに惹き付けられた人々を屋台へ案内し、そこではライディンがシアンと共に作った料理や飲み物を置いて待っている‥‥という計画だ。勿論簡単な料理しか作れないから、主にうどんやスープパスタが中心である。 「とろふわ親子ど〜ん♪ もふらまんじゅ〜♪ あめざいく〜♪」 「私も、料理のお手伝いしますね」 「え‥‥駄目! リリアちゃんは駄目! じゃない、大丈夫! 太陽のような笑顔で踊っていてくれればそれでいいから!」 「‥‥何故?」 かくんと力を落としたリリアを広場へと背を押し追いやって、ライディンは笑顔で客応対を重ねた。実はマゼンタの料理の腕も壊滅していると知って、そこにリリアが加わればある意味最強極悪非道な料理が出来るに違いないと思った。とは言えない。死人が出ても可笑しく無い、なんて。 「どうして、ダメなんでしょう‥‥」 「気落ちしないの。誰にだって得手不得手はあるものよ」 「火ならありますのに‥‥」 しゅぼっ。リリアの指先にファイヤーボールが灯った。いや結構でかい。危ない。 「と、とにかく貴族の家を見つけたわ。獣人好きらしいし、行ってみましょ」 と言うわけで、獣耳装着の2人が向かった先の貴族邸では。 「ワタシ〜、各国ヲマワッテ行商ヲシテマス。ダンナーサン。ゼヒ見テ下サーイ」 アーニャが天儀と秦国の衣装を混ぜて着て、貴族にあやしげな物を売りつけていた。だが見た目はどう見てもジルベリア人である。 「オー、ダンナーサン。御目ガ高イデスネ。コレはブツゾーと言ッテ、天儀デ注目ノ彫刻家ノ作品ナノデース」 実は私が作ったんですけどもと心の中で呟きつつ、アーニャは仏像を売りつける。悪徳商売? いいえ、貰える所からきっちり頂くのが商売と言うものです。というわけで原価の10倍で売りつけると、次にアーニャはもふら彫刻を取り出した。 「今ダケノゴ奉仕価格! ナノデース。コノもふら様彫刻ガ何ト〜! 1点500文ノ所ヲ、今回限リ〜、3点デ1000文! ナノデース」 「えぇ? あのもふら様像が3点で1000文!?」 横から黎阿が割って入る。 「あら、ごめんなさい。あのもふら様像がそんな安く買えるなんてとびっくりして‥‥」 どこからどう見ても天儀人の黎阿がそう言えば、他所を知らないジルベリア人なら誰でも納得してしまうだろう。確かにこんな彫刻は見た事が無い。だが貴族の目は、獣耳の2人へと真っ直ぐに注がれていた。2人は改めて挨拶し、一応連絡はしておいたが突然の訪問の無礼を詫びる。それから、宿の宣伝を始めた。 「サービスするから是非来て貰えません? 本物のもふら様も呼ぶ計画を立てていますの」 「みんな、獣耳を付けて、お待ちしています」 黎阿は練った作戦の元に、リリアは素で、貴族を誘う。 「営業妨害デース。デモ本物ノもふら様興味アリマース」 「よし分かった。このダイブーツを返すから、もふら様像を買おう」 獣耳大好きなその貴族は、大仏には全く興味が無かった。だがもふら様の耳には興味津々のようだ。 「‥‥応援、して下さいませんか?」 じいっとリリアに見つめられ、貴族は本物もふら様購入代金の援助を申し出た。だが条件がある。 「金を出すからには、月の半分はうちにもふら様を住まわせる事。居ない間は獣耳の店員が定期的に我が屋敷を訪れる事」 「先立つものが無くて、まだ本開店には少々かかりそうですが、がんばりますわ。こんこん」 あざとく狐風を演じて見せながら、黎阿は内心思った。 ジルベールかライディンに獣耳を付けて来させれば万事解決。問題はもふら様分割問題だが‥‥そこは宿に帰って皆で相談する必要があるだろう。 一方のアーニャは、屋敷を出た後に一般的なジルベリア人の格好に戻し、町中を資金集めして回っていた。描いたもふら図を見せながらジルベリアにもふらをと呼びかける。売れなかった大仏と残ったもふら像を売りながら宿屋のチラシを配って回り、購入者には宿優待券を渡した。 そうして一行は町での宣伝を終え、宿へと戻った。 ● 「お〜、お帰り」 宿では、ジルベールが新たな内装に取り掛かっている。その名も『シノビの間』。からくり窓は作ったが問題は畳だ。これを輸送せねばなるまい。畳返しが出来なければシノビではない。多分。 「おっかえり〜♪ どーだった?」 屋根の上で川魚を干していたフラウも、ひょこっと顔を出す。 「うん、手応えはあったかな」 「それは良かったです‥‥」 「今度宣伝に行く時は、もふら様耳も良いと思いますよ〜」 色んなケモミミを作っていたエーディットが、ウサミミをライディンの頭にのせた。 「こっちも色々作れたよ。料理の種類は大分増えたと思う。後は‥‥お金?」 「何とか全部売ってきましたよ〜」 アーニャがまず最初に売上金を提出した。続いてライディンが屋台の売上と踊り手達へのお捻り代金を提出する。資金援助を申し出た人の名前と住所を書いたメモをマゼンタに渡し、マゼンタはそのメモをヨーシアに渡した。 「失くすと困るし」 売上金の中から皆への報酬を払い、宿の備品装飾品その他の購入代金に充てると‥‥もふら様購入代金は全く残らなかった。だがそこは、資金援助者達との交渉次第で何とかなるかもしれない。 「あ、そや。鉱泉やけどな。もふらさまに水運んでもろたらどうやろ?」 「そうね〜。もふら様って肉体労働するもんね」 「もふらさまが運んだ癒しの水って有り難い気せぇへん? 道中の姿とか人気になるかもしれへんし」 「確かにそうですね〜」 「じゃ、みんなに新作レシピ披露するね。お疲れ様パーティにしない?」 「賛成ー。もう疲れたー」 「あ、僕も下拵えだけ手伝いますね」 「うん、宜しく〜」 颯爽とフラウが厨房に向かい、その後をマテーリャが追った。皆はテーブルを合わせて11人座れるだけの広さを取り、ライディンが出来上がった料理を給仕。アーニャが飲み物を運んだ。 それを見ながら、そっとリリアが立ち上がる。 「これ‥‥役立てて下さい、です」 龍肉を捌いていたマゼンタに先ほど貰った報酬を渡すと、彼女は微笑んだ。 「‥‥今回だけよ。次からは貴女達からの寄付は無し。嬉しいけれど、ちゃんと働いてるんだから。ね?」 「はい」 そうして2人は、龍肉を持ってテーブルへと戻って行った。 |