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■オープニング本文 「夢を見ました。巫女様」 朝から、うだるような暑さだった。蚊帳の中で薄い布団を蹴って寝ていた少女が、夜が明けたか明けぬかという時刻に起きて、気配と共に目覚めた女性の傍で口を開いた。 「夢‥‥?」 「はい。お母さんが死んでしまう夢です」 「‥‥」 「大きな男の人がやって来て、お母さんを大きな刃で切りました。巫女様。私‥‥お母さんに会いたい」 「‥‥雫‥‥」 その少女を抱き締め、巫女と呼ばれた女性は唇を噛み締める。 出来る事ならば、そうしてやりたい。けれども‥‥。 ● 小さな村の外れに、小さな家があった。 そこに、母子と思われる二人と、一人の世話役が暮らしていた。 「巫女様。今日の晩御飯は如何しましょう?」 世話役が、明るい声と共に台所から顔を出す。 「そうね‥‥。雫が、豆を食べたいと言っていたわ。用意できるかしら?」 「あ。畑の豆を収穫して、ゆでましょうか。梅とあえると美味しいんですよ」 小さな裏庭に、畑があった。彼女達がそこに住む前から育てられていたその土の上には、季節の野菜が並んでいる。その隣で花を切っていた女性は、陽射しを遮るために頭から布を巻いていた。 「‥‥どうか、なさいましたか?」 世話役が目ざとく『巫女様』の横顔が曇っていることに気付く。問われて彼女は苦笑を浮かべた。 「‥‥その呼び方は、もう止めて。私は‥‥」 「ですが私にとっては、巫女様に他なりませんし‥‥」 「‥‥お願い。私にはもう‥‥誰かを救う力など無いのだから」 「ミレイ様‥‥」 「様、もいらないわ」 穏やかに微笑んだその人に、世話人は曖昧に頷く。 誰か、ではなく、ただ1人の人を救いたいと願ったはずだ。願って祈って呪ってそして。今、ここに居る。その心の負担を少しでも和らげる事が出来ればと、世話人は思っていた。 「でも‥‥それでも、ミレイ様は生き続けるならば『巫女』でしか有り得ないと。そう、おっしゃったそうですね。ここに雫さんと2人で暮らして。それでいいではありませんか。雫さんもミレイ様を大層慕っておられますし‥‥」 「‥‥そうでもないのよ。母に会いたいと、前に言っていたわ」 「それは‥‥まだ、7つですから‥‥」 「‥‥あの子も『夢見』。起こりえる未来を予見してしまう‥‥。けれども、あの子にはまだ視えていない‥‥。もし、その未来が存在しなければ、私とて、連れてきたりは‥‥」 「‥‥巫女様‥‥?」 不安げな世話人に、巫女は弱い微笑を向ける。そして、無理矢理自分を叱咤するように、声を出した。 「いいえ。戻らなければ起こりえないはずの未来だもの。大丈夫よ。さ、雫を迎えに行かなくちゃ」 花を活け、彼女は立ち上がる。共に暮らす、巫女と血のつながりの無い少女、雫は、いつも村で子供達と遊んでいた。夕刻には迎えに行き、ささやかな夕食を3人で楽しむのだ。雫が話す村での出来事は、巫女の慰めとなった。 雫が居たから、巫女はここで生き続けている。前向きに、雫を護って生きようとしている。今はそれでいいと世話人は思っていた。だが今度は二度と、同じ過ちは繰り返すまい。巫女が出した占いの結果を、村人に話すような真似は決して。 「‥‥さて、豆もそろそろ‥‥」 火を消して鍋の蓋を開けると、煮込んだ豆の良い香りがした。ゆでたほうの豆は既にザルにあけて梅と混ぜてある。 「‥‥水島!」 釜の飯もあけようと蓋に手を掛けた瞬間、戸口が勢い良く開いた。 「巫女様!?」 「雫が‥‥!」 必死で走ってきたのだろう。息は切れ髪は乱れきっている。その形相で、世話人は即座に理解した。 「まさか‥‥何処かへ‥‥?」 ごめんなさい、巫女様。 私、知っているのです。 私の未来、見てしまったのです。 でも、お母さんを助けられないなら。 私もこの未来。 受け入れたいのです。 ● かつて、その場所は中央に社を持ち、東西南北に村を配した場所だった。 社には村の吉凶を占う巫女が居て、人々は彼女の占いを純粋に信じて生活していた。 だが7年前、彼女は突如、凶事しか占うことが出来なくなってしまう。人々はその占いに怯えるようになり、何時の間にか巫女を憎み恐れて閉じ込めた。だが、彼女は7月7日、村が近いうちに滅ぶという占いの結果を出してしまう。その結果に村人たちは決意した。凶事しか出さぬ巫女は、人にあらず。アヤカシかもしれぬしそうではないかもしれぬ。だがどちらにせよ、その魂は天にお返ししたほうがいいだろう、と。 そうして、彼女の命を奪うべく彼らは開拓者を雇った。 一方で、彼女の命を護るべく、巫女の傍仕えの者が別の開拓者を雇う。そうして開拓者達は密かに協力し合い、巫女が死んだと見せかけて社から連れ出し、小さな村に一先ず暮らすようにと場所を与えたのだった。 その時、社にこっそり遊びに来ていた子供が居た。その子の名は雫。次代の巫女としての定めを課せられた少女である。自分が居なくなってもその子が代わりになるだけと、巫女は開拓者に頼んで一緒に連れて出る事にした。小さな村では、巫女の命を救ってほしいと依頼を出した傍仕えの娘と、雫と、三人でひっそりと暮らしている。 だが、巫女は雫を連れ出したその時、既に視ていたのだった。 雫を残せば、近いうちに死に至るであろうと言う凶事を。 だから、連れて来たのだ。 他の誰を救う事は出来なくても、せめて、ただ1人、自分と同じ定めを受けた少女だけは、救いたいと。 「ですが、巫女様‥‥ミレイ様には見えていませんでした。ご自分が生き残るという未来が、です。つまりそれは吉事。だから巫女様には見えない。巫女様には常に、悪い未来しか見えていません。ですが誰かが動く事で、それは回避されました。未来は定まっていないと、以前、開拓者の方々がおっしゃっていた。だから、私も信じます。今回は、はっきりと信じられます」 その日のうちに、世話人の水島は開拓者ギルドへと走った。何とか夜中になる前に着いて、緊急の事態がと告げる。 「雫さんを、そしてあの場所を、どうか救って下さい。四村は『滅ぶ』。この未来は回避されたわけではないとミレイ様はおっしゃいます。でも、それを『何』が、『誰』が持ってくるのかは分かりません。もしかしたら、雫さんが村に、自分の母親の元に戻った事で、引き金となっているのかもしれません。どうか‥‥皆様のお力で、お願い致します」 |
■参加者一覧
柄土 仁一郎(ia0058)
21歳・男・志
カンタータ(ia0489)
16歳・女・陰
黒鳶丸(ia0499)
30歳・男・サ
鬼灯 仄(ia1257)
35歳・男・サ
巴 渓(ia1334)
25歳・女・泰
ユリゼ(ib1147)
22歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ―― あの日、もしも凶事が詠めていたら。 あの人は、今もわたしの側で笑ってくれていたのかもしれない ―― ● 「あの時の縁だ。出来る限りはしようじゃないか」 以前巫女の救助を手伝った柄土 仁一郎(ia0058)は巫女とその側仕えの香にそう告げる。 既に一行は北村へと急いでいた。 ユリゼ(ib1147)の交渉でギルドから荷馬車を借り受け、徒歩で向かうよりもはるかに時間短縮が出来ているのだが、事は一刻を争うのだ。 「私達よりも、村の皆の元へ向かって下さい。多くの刃が見えるのです」 「安心しろ。各村へは鬼灯さんが向かっている。雫はユリゼさんが探しているし、北村にはカンタータさんと黒鳶丸さんが先に向かってる。美礼さんは何も心配しなくていい」 震える巫女に、柄土は安心させるように自分の胸に手を当て、力強く頷く。 (俺には巫女さんが力を前向きに捨てた様には見えないな‥‥) つい先日の依頼で深手を負いながらもこの依頼についた巴 渓(ia1334)は、苦しげな表情の巫女を見て取る。 柄土と以前の事や近況などを言葉少なめに話す巫女は儚げで、今にも消えてしまいそうだ。 苦しいのはこんな事態になった事だけではないのだろう。 小さな村で暮らすようになり、もう巫女として吉凶を占わなくて良くなったものの、その力は彼女の中にまだある。 夢見としても見えてしまうこともあるというのだから、凶事を視続けるその辛さはいかほどか‥‥。 周囲に雫の姿は見えない。 子供の足だが、居なくなってからかなりの時間が経過している。 とはいえ、まだ村には着いていないはずなのだ。 柄土は心眼を用いながら、雫を探す。 ● 「兇刃が見えたなら叩き折ったる、ての」 北村に雫の母親をカンタータ(ia0489)と探しに来た黒鳶丸(ia0499)は、馬上で煙管の吸い口噛みながら呟く。 雫は以前黒鳶丸がその羽織の中に隠してこの村から逃がした子だ。 今日此処で死なせる為に逃がした訳ではない。 無論、その母親もだ。 「ごきげんようーです。依頼遂行中で急いでいまーす」 大慌てで村に駆け込んできたカンタータと黒鳶丸を驚いた顔で振り返る村人達に、カンタータはにっこりと笑顔を返す。 今回の依頼を察せさせまいと余計なことは一切言わない。 黒鳶丸と二人、馬を下りて周囲を見回す。 雫の母親とは、誰だろうか。 「そういや行方知れずの子がおるとか」 周囲の村人に黒鳶丸が尋ねると、村人はすぐ側の家を指差して教えてくれた。 二人が家を尋ねるより早く、家より痩せ細った女性が出てきて、目が合うとこちらに会釈をした。 この女性が雫の母なのだろう。 雫に似た優しげな目元には、深い疲労を感じさせる。 一人娘が消えた日から、きっと眠れぬ日々を過ごしていたのだろう。 事情があったとはいえ、雫を連れ出したのは自分達。 黒鳶丸は煙管を深く噛み締める。 だが今は、夢の凶事を実現させない事が先決。 「ちぃと、話があるんや。ここや何やし、場所を借りてもえぇやろか? 娘さんの事も力になれるかもしれんから、話聞かせてぇや」 黒鳶丸に雫の母親は驚きながらも二人を家へと招き入れた。 ● 「人を守るのがこんなに不安なのは初めて‥‥」 ユリゼは早馬に乗りながら北村側の林の中で雫を探す。 荷馬車を借りるとき、事情を察したギルド職員が一緒に貸し出してくれたのだ。 普段おいそれと荷馬車や馬を貸し出してはくれないのだが、香の必死の姿に事の至急さを感じ取り、人命救助の為にとの事だった。 母親の凶事を視てしまった雫が真っ先に向かう場所は、彼女の母親の住む北村以外にはないだろう。 (最短ルートでは、この林を通るはずなの) ユリゼは事前に巫女と香に、巫女達の住む小さな村から北村への最短ルートを確認しておいたのだ。 早馬で追いかけてきたのだから、そろそろ雫に追いつくはず。 林の中、前方に小さな人影がみえた。 よろりよろりと、今にも倒れそうなその人影はそれでも必死に前に進もうと足掻いている。 こんな場所を一人で歩く子供は一人しか居ない。 雫だ。 「雫ちゃん!」 ユリゼが馬から飛び降りて雫を抱きとめる。 「お母さんが‥‥お母さんが‥‥っ」 「うん、知っているわ。助けに来たの。だから、もう大丈夫よ」 ユリゼは小さな身体を抱きかかえて、早馬に一緒に乗せる。 ずっと走り続けていたのだろう。 雫の靴はぼろぼろで、その身体も疲れきっていた。 (雫ちゃんの為にも、美礼さんの為にも、絶対、守りきって見せるわ) 不安は拭い去りたくても拭い去れない。 けれど全力でユリゼは手綱を引いて巴達と合流すべく馬を走らせた。 ● 「さあて、一仕事やらかすか」 鬼灯 仄(ia1257)は派手な着物を引っ掛け直す。 ユリゼ達と同じく、ギルドから借りた早馬で四村を回り終えた鬼灯は、いま北村の側の川で待機していた。 他の三村へは開拓者として悪党を追って来たと伝え、ちょっとでも何かあれば近くの村に自分達開拓者が居るので狼煙で合図するように伝えてある。 雫の夢見の内容から、四村は野盗の集団に襲われる可能性が極めて高い。 そして四村のうち、一番最初に襲われる可能性が高いのもこの北村だろう。 西村と東村の簡易橋は落とされてもすぐにまた架け直す事が出来るが、この北村の側を流れる川にかかる橋はそう簡単には壊せない。 (仮に俺が野盗の頭だとして、初めに襲うんなら北村からかねえ) 簡易橋を落とされても3村は盗れると、悪人顔で鬼灯はニヤリと笑う。 まるで鬼灯が盗賊の親玉のようだ。 だがそれだけではない。 鬼灯は、馬から下りて川の水位にも目を配る。 (ふむ。水位は変わっちゃいねぇなあ) 苔生した川岸よりも、水位はずっと低い。 天災の可能性で一番高いのはやはりこの川だろう。 四村の側を流れるこの川が氾濫を起こしたら、一瞬で村は滅びるだろうから。 だが見る限り、川は平穏そのもので北から南に穏やかに流れ続ける。 天気も晴れ渡り、この様子なら氾濫はまずありえないだろう。 安全を確認して、鬼灯は馬に跨り北村へと向かう。 ● 「雫ちゃんの夢見に沿って助けに参りました」 カンタータの言葉に、雫の母は目を見開く。 「あの子は‥‥雫は生きているんですか?!」 居なくなってからもう幾日も経つ。 生存はもう‥‥。 絶望的な気持ちで日々を過ごしていた雫の母にとって、生きてさえいてくれたならもう事情などはどうでも良かった。 「優しい子なんやなぁて、その気持ち護りたくて来たんや」 以前の村と巫女の確執については知っているという黒鳶丸に、雫の母は涙ぐむ。 「巫女様がいなくなったら、次はあの子が巫女にされるところでした。あの子は素質があると予言されていましたから。あの子は、何を見てしまったのでしょうか?」 「雫ちゃんは今こちらに向かっているはずです。騒ぎが起こる前に再び保護したいんです」 夢の内容には触れず、カンタータは雫の母に協力を求める。 たぶんもう、凶事の発現まであとわずかだ。 雫の母を此処から連れ出さないと、夢見の通りになりかねない。 「わかりました。共にいかせて下さい」 雫の母親は深々と頭を下げる。 ● 「雫ちゃんを見つけました!」 馬上で雫をしっかりと抱きしめて、ユリゼは叫ぶ。 「さすがだなユリゼ」 柄土の心眼でこちらに誰かが向かってくるのを聞き、荷馬車を降りて迎撃体制をとっていた巴の顔が綻ぶ。 「雫、君が知っているかは分からんが。俺達は前に、美礼さんに『未来は変える事が出来る』と言ったんだ。悪い事が起きるというなら、そうさせない努力をすればいいんだよ」 「お母さん、助けれる‥‥?」 柄土の言葉に、ユリゼの腕の中の雫は震える声で聞き返す。 もちろんだと柄土は頷く。 その為に自分達は来たのだからと。 「まあ、俺にとって『運命』ほど反逆し甲斐のある相手もおらん。そうそう未来を見透かされちゃ、楽しくもないさ」 凶事に逆らう気満々の巴も頷く。 「無事に見つけれたみてぇだな」 鬼灯も合流し、村の様子を皆に伝える。 「やはり、賊ですか‥‥」 荷馬車にユリゼが積んでおいた開拓者風の衣装を身にまとい、巫女には見えなくなった美礼は呟く。 流行り病でない事だけは判っていたのだ。 そして雫とその母が何者かの兇刃に晒されてその命の灯火を消してしまうことも。 だが原因まではわからなかった。 未来を見ることは出来るとはいえ、その全てを確実に詳細に視れるわけではない。 断片的に視えてしまった凶事は、正直、村の誰かに‥‥とさえ見えなくもない未来で。 だからこそ、あの村に雫を置いておく事など出来なかったのだ。 「雫!」 カンタータと黒鳶丸に連れられて、雫の母もやってきた。 「お母さん‥‥!」 馬から飛び降りようとする雫を慌ててユリゼがそっと地面に下ろす。 お互いの無事を確認して抱きしめあう親子は、それはそれは幸せそうで、だからこそ、まだやる事が残っている。 「きなすったな」 鬼灯が煙管をしまう。 招かれざる客―― その名を野盗。 開拓者達は美礼達を背に庇う。 村の外れにいる開拓者達に気づいた野盗達は下卑た笑いを浮かべながら開拓者達に刃を向け、近づいてくる――。 ● 戦いは一瞬だった。 「空気よ、凍って。悪しき者達からみんなを守って‥‥ブリザーストーム!」 ユリゼが放つ魔法はニヤケ面の盗賊達を一瞬にして凍りつかす。 「神さんの代わりに吉事を伝えてやるからよ!」 巫女に叫びながら鬼灯は嬉々として刀を奮い大暴れ。 「賊なんぞに彼女らは指一本触れさせへん。我が身を賭しても美礼さんや雫は護る所存!」 「皆には手を出させん」 黒鳶丸の刀は深く敵の身体を切り裂き、赤い炎に包まれた柄土の剣は深く貫く。 「油断大敵でーす」 雫の母を狙った賊だったが術を発動させたカンタータが呼び出した黒き腕の数本に絡め取られると、動作は阻害されその攻撃は反れて空を切った。 「滅びを食い止めてやるぜ!」 巴の拳が賊の腹に決まった。 重傷を負っているとはいえ、賊如きに後れを取るはずがない。 奇襲ならいざ知らず、野盗はありとあらゆる事態を想定して動いていた開拓者達の敵ではなかった。 四村の滅びの未来は盗賊達の滅びによって食い止められた。 ● 「巫女様‥‥」 雫の母は、荷馬車から降りた美礼をみて、深く頭を下げる。 アヤカシに殺されたはずの彼女が何故そこにいるのか。 あえて、その事には口をつぐむ。 娘の様子とこの事態を見れば、言葉にせずとも判るものがある。 「なぁ、あんたが視たのって、吉事じゃないか?」 巴が巫女に言い、巫女は首をかしげる。 「わたしが視たのは凶事です。この村の未来と‥‥他にも」 雫親子の事はあえて伏せて、巫女は俯く。 「だからさ、あんたがその『凶事』を視ていなかったら俺達はここには来れなかったぜ? あんたの占いは外れたんじゃない。あんたはこうなる未来の為にそれを視たんだよ」 「凶事の夢は逆夢。知っとれば払う事も出来る強力なお守りやからな」 黒鳶丸も穏やかに微笑む。 もしもあの日あの人が亡くなる凶事が視えていたらと願い、その想いは強すぎて。 全ての凶事しか視えなくなった自分に吉事が見えていたというのか‥‥。 「あ‥‥」 苦悩する巫女の脳裏に、一つの光景が浮かぶ。 どうした事かと心配げに巫女を見守る皆に、告げる。 未来が見えたと。 幸せそうに微笑む、雫とその母親の近い未来が。 「その幸せな未来の中には、あんたもいるんだぜ?」 巫女に巴は軽くウィンク。 凶事を止めれたこの事実は、巫女の長年の苦しみを和らげたのだろう。 (3人には、心穏やかに暮らして欲しいと思うしな) 嬉し涙を零す巫女に、柄土もほっと安堵する。 村に戻って過ごすことは出来ずとも、雫と香と巫女の三人、小さな村でこれからは幸せな日々を送れることだろう。 開拓者達は村への事後処理を済まし、4村を後にするのだった。 (代筆 : 藍鼠) |