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■オープニング本文 ● 「たっ‥‥大変だぁああああ!」 ある日のいつもの開拓者ギルドに、一人の男が飛び込んできた。 「おぅ、どうした?」 諸肌脱いだ男が、暑そうに団扇で扇ぎながら問う。転がるように、いや転がり込んできた男は、団扇男の前で荒く息をついた。 「烈弧の奴が帰ってこない‥‥」 「あぁ、何日になる?」 「4日だ‥‥」 「それはマズいな」 「大いにマズいだろう?」 「とっくに殺されてるだろうな。何せ奴等は男子禁制。見つかればその場で森から放り出されるのが普通だ。それが帰ってこない所を見ると、ヘマをやらかして奴等の怒りを買ったと見るのが妥当だなぁ」 「だがどうする‥‥? あいつが居ないと、うちの情報収集もままならないぞ‥‥。それに、あの猫達の力を借りたいって言ったのはお頭だ。烈弧の事も買ってたし、バレたら不味いぞ‥‥」 「どうすっかねぇ‥‥」 団扇男は、ぱたぱたと扇いだまま天井を仰いだ。彼の傍に座っていた者たちが迷惑そうに離れて行く。それを意識してか、団扇男はそのまま長椅子に寝転がった。 「ま‥‥妥当なのは、ここの力を借りることだよなぁ」 「烈弧の死体を捜して来い、とでも?」 「違うだろ。猫達との取引だ。開拓者達に行って貰う」 「いいのか‥‥? それで男が集まりでもして、何かあったら‥‥今度こそ、取り返しがつかないぞ」 「俺はなぁ‥‥烈弧が、本当に何もせずに殺されたとは思えないのよ。タダじゃあ死なない男だ。何か、残してるさ。あの森に」 「‥‥なるほど」 「あのぅ、お客様‥‥」 そんな二人に、ギルド員が控えめな声を掛けてくる。 「他のお客様のご迷惑になりますので、その、椅子の占領は‥‥」 「おぅ、悪かったな、嬢ちゃん。いや実は、ここに依頼を持ってきたのよ。一つ頼まれちゃあくれねぇかい?」 そして、団扇男はギルド員に笑みを向けた。 男達の依頼はこういう内容だった。 獣人の一種、猫族‥‥或いは、他国の猫耳猫尻尾の獣人かもしれないが、とにかく、猫獣人が住まう森がある。彼女達がそこに住み着いたのは3年前なのだが、そこは貴重だと言われる薬草の一種が生える、美味な果実が出来ると評判の森で、彼女達が住み着いてからというものの、それらを採取する事が出来なくなってしまったらしい。時折訪れる商人とは取引しているようだが、彼女達の事では領主も頭を痛めているらしく、何とか森を出て行ってもらえないか、再三話し合いに行っているらしい。しかし。 「奴等は極端に男を嫌う。どうやら猫達は全員女らしくてな。取引している商人も女なんだ。最初は男恐怖症なんかね、とか言ってたんだが、男が森に入ると捕らえられて森の外にぽいっと放り出される。恐怖症と言うより、ただの男嫌いだな。或いは‥‥男が触れちゃいけない、『何か』を奴等は持っていて、それを護ってる可能性もある」 「根拠として、既に3名の男が奴等に殺されています。内二人は盗賊で、奴等が貴重な宝玉を持つと思い、森の奥に踏み入ったようです。もう一人は領主の手の者で、猫達を森から追い出すべく交渉に当たっていた人物でした。このままでは、更なる被害者が出る事が考えられます」 そして、彼らは依頼の目的を告げる。 「先に一人、烈弧という男が森に入ってる。もう4日帰ってきてねぇ。多分奴も殺されてると思うんだが、奴の生死確認と、奴が何か伝言をどこかに残していないか探して欲しいのが一つ。それから、最終目的は猫共を森から出す事だ。一番いいのは、誰かが雇っちまう事じゃねぇかとは思うんだがな。ま、それをうちのほうで引き受けたいと思ってるんだが、奴等が男嫌いだからなかなか上手くいかねぇ。その辺りの力添えを頼みたいんだがな」 ● 一方、同じ頃のとある森‥‥。 「ちっ‥‥逃げやがった!」 猫耳をぴんと立て、猫尻尾を張った猫獣人の一人が、弓矢片手に森の中を走っていた。 「はっ、あたしに任せな! 狩りは得意だよっ!」 傍を走っていた猫娘の一人が、背負っていた槍を手にし、勢い良く振りかぶって投げる。鋭い音と共に槍は幹の間をすり抜け、前を走る男の‥‥すぐ脇の木に刺さった。 「ちっ‥‥逃したか!」 「逃がすんじゃないよ、お前達!」 「分かってるわよ! んもぅ、ほんと逃げ足だけは速いんだから‥‥!」 別の一人が木の枝に飛び乗り、弓を構えて矢を番える。 「こんのぉ‥‥止まれって言ってるでしょぉー!」 矢は続けざまに2本放たれた。それらは男の走る先に刺さり、男は一瞬走る速度を緩める。 「やったっ」 「網を掛けな!」 「ったくもぉ‥‥烈弧様、往生際が悪いわよ!」 再度走り出そうとした男の傍に、3本目の矢が刺さる。矢を射掛けた娘はどこか嬉しそうだ。 「いい加減、観念するんだな、烈弧。お前にはもう逃げ場は無い」 放たれた網にまで引っかかってしまった男は、困ったように娘達へと振り返る。 その男の頭にも、猫の耳がくっついていた。 |
■参加者一覧
嵩山 薫(ia1747)
33歳・女・泰
白蛇(ia5337)
12歳・女・シ
アグネス・ユーリ(ib0058)
23歳・女・吟
煉谷 耀(ib3229)
33歳・男・シ
タカラ・ルフェルバート(ib3236)
31歳・男・陰
野分 楓(ib3425)
18歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ● この世には、種族が違えど所詮は男と女。2種類の生き物しか存在しない。 「‥‥いい男がいるにゃ」 だが彼女達にとっては、獣人以外の男はその辺の排除したくなる石と同じであるようだ。 「あらほんと。あたし達ってついてるわよね」 森から命からがら逃げ出してきた男に遭遇したのは、6人の開拓者である。彼らが見上げた先で、1人の猫型獣人が樹の枝の上に。もう1人は樹の幹に。半身隠すようにして立っていた。 「‥‥ちょっと待って。私達は、交渉に来たの。貴女達の纏め役の人は、居ないかしら?」 この時の6人には、猫娘2人が何に注目しているのか今ひとつ分かっていない。嵩山 薫(ia1747)が声高らかに話しかけると、幹に左半身を隠していた猫娘の耳がぴーんと立った。 「桃の事かにゃ?」 「商売の話?」 「それも、ある」 答えたのは煉谷 耀(ib3229)だ。4つの猫の目がぎらりとその姿を捉える。 「あら、素敵。同族の男性ならいつでも歓迎、大歓迎ですっ。ささ、どうぞ中へ‥‥」 樹の上の猫娘が笑顔を見せた。 「ん? 聞いていたのと少し話が違うな‥‥?」 「そうですね。獣人には友好的なのでしょうか」 タカラ・ルフェルバート(ib3236)も小声で応じる。 「あ。じゃあ、あたしも交渉に加わると有利かな? 何かあの目つき、凄く知ってる目つきな気がするし。違和感無いって言うか、仲良くなれそうって言うか」 野分 楓(ib3425)が楽しそうに2人に話しかけると、4つの猫の目がぎらーんと鋭さを増した。 「‥‥排除」 「待つにゃ。相手はきっと武装済だにゃ。殺ルなら中で」 「それもそうね」 不穏な会話は、全員でなくとも一部の者の耳には届いていただろう。 「急に殺気が見えたわね‥‥。どうする?」 「『宝』の為に‥‥殺気立ってるのかも‥‥」 アグネス・ユーリ(ib0058)に白蛇(ia5337)も応じて、少しだけ声を張った。 「あの‥‥。僕達も事を荒立てたくないから‥‥纏め役の人と話しをしたいのだけど‥‥駄目‥‥かな‥‥?」 「分かったわ。でも、そこの猫女は森の外に置いて来て」 「えーっ!? 何でっ」 「彼女も僕達の仲間なんだよ。1人だけ置いていくわけには行かないんだけど」 タカラが援護する。 「そうだ、そうだー!」 「これは‥‥『恋に恋する乙女』は何とやら、かしら?」 薫が察して呟いたが、一先ず6人は森の中に入れてもらえる事になった。 ● 森の中に入ってまず、彼らは自己紹介をした。樹の上に立っていた娘は愛羅。樹の幹の所に居た娘は輝と言うらしい。だが、6人全員を桃に会わせるわけには行かない。特に男は厳禁と言うので、彼らは別れる事となった。 「ふっふっふっ‥‥この男は、あたしのモノだ!」 それは、別れて数分後の事である。 「なっ‥‥何だ!?」 耀の傍に、槍が飛んできて刺さった。 「待て! 俺は男だが、お前達の仲間に案内されて森の中に」 「分かってるって!」 「よし、囲め!」 槍の後には矢が飛んできた。耀がかわしてアグネスが両手のブレスレット・ベルを鳴らそうとしたが、そこへ網が降って来る。 「いきなり捕獲っ!? その無駄な気力、殺いであげ‥‥」 「ちっ。そっち回ったよ! 投網仕掛けな!」 「あいあいさー」 アグネスはあっさり無視された。早駆を用いて耀が脱兎の如く逃亡していくのと、その後を狩人のように追っていく猫娘達を思わず見送り、少しの後に我に返る。 「あれ‥‥? タカラ? 楓?」 そして、何時の間にか自分1人だけ取り残されている事に気付いた。 というわけで、追われているのは耀だけでは無い。 「ちょ‥‥っと、待って。話、させてほしいんだけど‥‥」 有無を言わせず追い掛け回されたタカラは、木々が作る袋小路に追い詰められた。 「何の話? あたしをお嫁さんに貰ってくれる話? うぅん、照れなくていいのよ? あたしこう見えて、お料理上手なの」 弓矢を持ったまま、愛羅が頬を染めつつ近付いてくる。 「そうだね‥‥。でも僕はこの森に暮らすつもりは無いし、この森を出ていく事になるよ?」 「はい! 宜しくお願いします!」 愛羅は勢い良くお辞儀した。 「あぁでも‥‥できれば、君だけじゃなくて、他の子達も‥‥」 「えぇ〜。愛羅1人じゃダメなんですかっ」 うるうると近付いてきた娘の目を見つめて、タカラは微笑んだ。 「そういうわけじゃないけど‥‥僕も、色々と事情があって、ね‥‥。君から皆に話して貰えると嬉しいな」 「あぁっ‥‥眩しいっ‥‥」 タカラのきらきら光線に、愛羅は片手をかざした。本当は自然な動作でそっと肩や髪に触れたりするつもりだったが、その段階で取り返しがつかない事になるような気がして、タカラは笑顔だけで留める。勿論、これはあくまで『タカラ流交渉術』であって、本心ではない。乙女心を弄んでいる? いいえ、あくまで聞いてみただけです。実行するかは別の話。 一方で、 「何っで、あたしばっかり?!」 こちらはまさしく死を掛けた逃走劇。楓は手加減無用で飛んでくる槍、剣、矢、石、その他から逃げていた。ひたすら逃げていた。網が飛んで来ないという事は、元より捕獲するつもりは無いという事だ。 「くっ‥‥このぉ!」 森の中をぐるぐる回った後に、我慢しきれず楓は振り返る。こうして同族達を引き付けている間に、同行してきた仲間達が情報を入手していると信じたい。振り返るとざっと視界に入っただけで5人の娘がそこに居た。 「あっち行けー!」 ばっ、と土を掴んで投げる。昨年の秋に落ち葉をしっかり吸収して良い土となったそれが、1人の猫娘に当たった。 「何をするー!」 「こっちの台詞よー!」 「こんのバカ猫ー!」 「どっちがー!」 楓はあらかじめ用意してあった砂を入れた袋を取り出し、砂を相手に掛けた。相手も土を手にして投げつける。砂と土の応酬が激しく続いたが、その間、他の4人は動かなかった。 「はぁ‥‥やってくれるじゃない‥‥」 十数分が経過して、ようやく。相手は折れた。全身砂で白くなっている。 「どうせあんたら、烈虎を取り返しに来たんだろ?」 「あれ? 取り返しに来たっていうか、何て言うか‥‥? 生きてるの?」 「あたしらの夫を殺すわけないだろ。来な、会わせてやる」 「本当? あ、別に烈虎さんに興味あるってわけじゃないんだけどね。あたしは野分楓だよ、よろしくね」 「露麻。桃の補助をしてる」 そうして、戦いあって友情が芽生えたのか。 楓は森の奥へと案内された。 ● 「小石‥‥」 森の中にあって、白い石はそれなりに目立つ。白蛇が即座に見つけて、その石の先を目で追った。 「連行される際‥‥定期的に小石を落し‥‥目的地への道標を残す‥‥捕らわれたシノビも良く使う手だね‥‥」 囁きに、薫は目だけで白蛇の見ている方向を見やる。 「行ってみる?」 「‥‥うん」 白蛇が頷いたので、薫は前を歩いていた猫娘を呼び止めた。 「この子が、あそこの美味しそうな実が他にも無いか見つけたいと言ってるんだけど」 「黄金美礼の事かにゃ? 欲しいなら、1個や2個なら食べてもいいにゃよ」 「探してくる‥‥」 輝は2人を全く警戒していなかった。それは最初に案内し始めた時からそうだ。白蛇はその場を離れ、小石の後を追って茂みの中に隠れる。そこには一軒の小屋があった。扉の近くで薪割りをしている男が目に入る。鎖に繋がれているとか、そういう気配は無かった。すぐに戻って報告しようと下がった時、逆方向から話し声が聞こえてくる。 「あ。お菓子の材料は持って来てるよ。仲良くなれたらクレープでも作ろうかなって思って」 「くれーぷって何だ?」 「生地をうす〜く伸ばしてね‥‥中に苺とか、あ、今の季節なら桃? 果物色々入れたら美味しいんだよね」 「‥‥楓‥‥」 仲間が打ち解けている姿を認めて白蛇は少し迷ったが、よじよじと近くの樹に上った。手近にあった黄色っぽい皮の木の実を見つめる。触るとまだ硬く、食べるには早いと思われた。 「‥‥あれ? 白蛇さん?」 気配に気付いたのか、楓が下から手を振る。それへと小さく手を振って、白蛇は木の実を指した。 「これ‥‥黄金美礼‥‥?」 尋ねると、石榴の一種で彼女達は黄金美礼と呼んでいるのだと告げる。そして、小屋の前の男を烈虎だと紹介した。金髪に灰色の双眸をした男は、『可愛いレディ達だね』と微笑んだ。 「烈虎さんの仲間だって人が探してたよ。何でこんな所に住んでるの?」 「露麻に捕まった。露麻。そろそろ出て行ってもいい?」 「やーっと見つけた!」 ばさばさばさ。茂みの中から、突然アグネスが現れた。頭に葉が大量に乗っている。 「この森、迷子増産の罠多すぎよね。洞窟も無いし、樹のうろも無いし、落とし穴はあるし」 「山も無いのに洞窟なんてあるわけないだろ」 「それより貴女達、何で森に篭ってんの? 入ってきたの待ってて狩るより、外出て探したほうが、断然効率イイと思うけどな」 ざかざかと茂みの中から出てきて、アグネスが猫娘達に問うた。 「それに今は、来たら誰でも! って狩ってない? 勿体無いと思うわ。せっかく可愛いのに。一番って思えるの、見つけ出して狙い打ったほうが」 「そうそう。都でこの前、すっごく良い男と会ってね」 「森の外は大変だけど‥‥楽しい事も沢山あるから‥‥」 「仕方ないじゃないか。子供が産まれちまったんだから」 「子供‥‥」 白蛇の目が、真っ直ぐに露麻を見つめる。 「一緒に遊んでも‥‥いいかな‥‥?」 「あ。あたしも」 仕方ないという風に、皆は烈虎も含めて露麻の案内で更に奥へと進んだ。 ● そこは、太陽が上から降り注ぐ、拓けた場所だった。 小さな畑を耕す娘達が居る中で1人、椅子に座っている女性が居る。 「貴方が桃さん?」 薫が声を掛けると女性は顔を上げた。両目を深く閉じている。 「お話いいかしら? ここの子達について」 問われて桃は頷いた。輝が運搬式切り株を持ってきて薫の為に置いたが、不安定な座り心地である。 「貴方も異性と結ばれた身。あの子達が明らかに迷走しているのはお解りじゃない? どうか貴方からも彼女達に考えを改めるよう説得を」 「悪い事をしたと言う自覚はある」 「それから、もう一つは不躾ながらこの森からの退去の要請よ。真面目な話、今はまだ小さな諍いだから冗談で済まされているけれど、領主達に本気で目を付けられたら命の保障がないわよ」 「あぁ‥‥分かっている」 「ならば、何故?」 「子供は、七歳になるまで森の外に出してはならない。これは我ら一族の掟だ」 彼女達は旅をして回る一族である。本来ならば『子供に獣人以外の男が触れる事は法度』などの説明もした上で森に住む交渉をしているのだが、桃が急病で流産し掛けた為、止む無く傍の森‥‥この森に住み付いたらしい。桃は長い間病床にあり、生死の境を彷徨った挙句目覚めた時には失明していた。その為長い間指導者が居らず、彼女達は森を護る事を第一として外からの侵入者を拒んだのである。 「では、森の外に出るつもりは無いと言う事なの?」 「今のような状況では、交渉もままならぬ。私も、この森から出る事は出来ん」 「‥‥幸い、お前達を雇いたいと言う者も居る」 不意に、小屋の後ろから声がした。 「今、神威の者達が街に溢れだしている。外に出るには丁度いい機会だ」 「見つけたぞ、耀!」 どすっ。壁に槍が刺さる。 「俺も男だ。女に想われてつまらぬはずはない‥‥とは言え、いい加減これは強烈す」 「いい加減、あたしのモノになれー!」 「葉蛇。君の腕力は素晴らしい。そのしなやかな体躯は並ではないよ。その美貌が槍を投げるときに歪まなければ、もっと素晴らしい」 「耀様! あたしにも言ってー!」 「凛。君は名前の如く綺麗な佇まいをしている。その着物もいいね。実に趣味がいいよ。耳は綺麗に立っているし、それから」 「耀さまー! 私にもー!」 どどどどど。嵐のように、彼らは通り過ぎて行った。追いかけられているほうが追いかけているほうを褒めながらという、多少妙な構図である。 「‥‥交渉、しましょうか?」 何事も無かったように、薫が話を再開した。 「今の見て、分かったわよね? 若い子は力も有り余ってるのよ。男を探すのなら、広い世界に出た方が断然良くてよ?」 「よく分かった。領主との交渉を頼めるなら、お願いしたい。若い者達が外に出たとしても、私は後4年は出られぬ」 「交渉次第だけれど、森の資源を開放する事は条件じゃないかしら」 「お店をやる、というのもいいかも。 具体的には分からないけど」 アグネスもやって来て、話に加わる。白蛇は桃の子供とお手玉や鞠で遊んでいた。子供は双子のようだが、遊んでくれるお姉さんによく懐いて楽しそうにしている。同年代の子が居ないのは寂しいのではないかと思うが、それを理由に森の外で暮らす、という事を桃には提案しづらかった。『掟』というものは、破れば『死』に至る。そういうものだ。 「又、お姉ちゃん遊びに来てくれる?」 問われて頷くしかない。 「ここでの生活を領主に保障して貰えるかは分からないけれど、話してみるわ」 「宜しく頼む」 薫と桃の話は凡そひと段落ついたようだった。ここから先は、依頼主の印象を上げて領主に接触してもらうしか無いだろう。今の所は。烈虎も口添えはすると告げた。烈虎が所属している依頼人達の集団というのは、ここの領主と関わりのある傭兵集団であるらしい。 「タカラ様〜。その耳素敵です〜。美味しそうですわ〜」 「そうかな‥‥。耳が美味しそうと言われた事は余り無いけど‥‥でも有難う」 べったり愛羅にくっつかれたタカラが、やがて皆の前に姿を現した。 「あれ。タカラさん、その人連れて行くの?」 楓の問いの後に、薫が交渉の結果を伝える。愛羅を使って全員を森の外に出す必要がとりあえず無くなったとあって、タカラは少し彼女から離れた。 「またね‥‥」 子供達に手を振り白蛇は2度後ろを振り返ったが、そのまま皆について広場を出て行く。 そうして、皆は森を離れて依頼人の元へと向かった。 ● 数日後、森から猫娘達が何人か離れ、依頼人達の所で雇われたという連絡がギルドに入った。 領主としては森の財産が開放されればそれで良く、きちんと彼女達が手入れしていた事もあって、桃と子供達、数人の娘達が森に留まる事を許した。だがきちんと話し合いには応じる事という条件は付けている。娘達も子供が護られれば異存は無く、一先ずこの問題は収束した。 だが。 「『次に男を見つけた時は、力も必要かもしれぬが心も添えて迫ってやれ』と言い残したはずだが‥‥」 「あぁ。かなり探させて貰ったよ」 耀の前に、赤い槍を構えた女が立っていた。 「『俺なんぞよりずっといい男をすぐ捕まえられる』とも‥‥」 「お前よりイイ男なんか居るかー!」 そして、追いかけっこがしばらく続いたとか何とか。 |