レッド・ローズ
マスター名:呉羽
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/04 21:46



■オープニング本文


 その領地には、町が3つあった。
 それぞれどれも大きな町とは言えなかったが、比較的穏やかな気候と比較的肥沃な地にあって、人々は平穏に暮らしていた。
「旦那様‥‥本日は顔色も宜しゅうございますね」
 その3つの町が遠くに霞んで見える小高い丘の上に、屋敷が一軒建っていた。門構えも屋敷も庭も、貴族の隠居地に相応しい佇まいをしている。
「‥‥少しでも、長生きをせねばならぬ‥‥」
「勿論で御座います。旦那様の領民の為にもこのような病、治して下さいませ。私共も尽力致します」
「のぅ、セラフ‥‥」
 老いた領主は、窓の外を眺めた。その向こうに霞んで見える尖塔は、あの町の時計塔だ。
「わしは、もっと早ぅに子を成すべきであった‥‥。何ゆえ、このような騒乱の元を残して逝かなければならぬのか‥‥」
「旦那様。このような病で天寿が来たりは致しません。さぁ、そろそろ御休みに‥‥」
「心配でならぬ‥‥。わしがまだ若かりし頃の事を思い出すのだ‥‥。かつてこの地には良質な鉱山があった事、そなたも憶えておろう。質の良い装飾品を加工する職人も多く抱えていた‥‥。皇帝に献上した事もあった‥‥。だが‥‥採掘が過ぎ、鉱山は閉鎖の憂き目に遭い、そして‥‥」
「旦那様。そのような事には。あの時のような事にはなりませんよ」
「‥‥経済は悪化し、一時は存亡の危機とさえ揶揄された‥‥。新たなる貴族を迎え入れ、領主を追い出そうという運動が起こった‥‥。革命‥‥。『紅橙の薔薇』」
「‥‥今は、領民も皆潤い、旦那様には感謝しております」
「父上は革命部隊と衝突を重ねた‥‥。多数の犠牲者が両者に出、そして‥‥父上は遂に、助けを求めた。我らが主君に。結果父上は引責辞任し、兵が派遣されて革命部隊を解体し、ようやく収まった‥‥。あの時の革命‥‥『半年革命』は忘れぬ‥‥生涯忘れぬ」
「その後を引き継ぎ成果を挙げたのは旦那様で御座います。領民は皆悉く感謝し、潤っておりますよ。ご心配なさらずとも」
 執事の言葉は穏やかだったが、領主は遠い目をして窓の外を眺めたままだった。
「今やこの領地の各地には花畑が広がり、花を育てる専門家も増えております。その一方で、旅人を持て成す酒場や宿屋の充実、劇場や独自の祭事を行い、この領内を巡る観光にも力を入れておいででは無いですか。旦那様のお力のおかげでかつての職人達も半数は残り、その技を次代に受け継ぎ、細工物を造り上げては家々を、町を華やかに彩っております。何を心配なさる事がありましょうか」
「‥‥子供だ」
「‥‥」
 領主の呟きに、執事は黙り込んだ。
「イチル、ニーナ、ミルヴィアーナ‥‥。あれらに野心があるのかは分からぬ‥‥。だがあれらに仕える従者達がこぞって競い合っている‥‥。わしがこうして病床についてからは尚の事‥‥。皆が皆、母親の違うわしの子供だ。もう少し早ぅ子を成していれば‥‥後継者を決める時間が、決定打があれば‥‥」
「旦那様の病状が悪化するなど有り得ない事では御座いますが‥‥確かに、後継者をそろそろ選出する時期に入っているものと思われます。旦那様も、領主の座をお継ぎになった時にはもう20歳になっておられましたし‥‥」
「あのような不幸な形で後継者が選出されるような事は、あってはならん。何としてでも平穏無事に、決めたいのだ‥‥」
「手の者を、送ってはいかがで御座いましょう? 真に相応しい方かどうか、見定められては。表から見るだけでは分かりませぬゆえ‥‥」
「‥‥わしの手の者など、あれらはともかく、従者達は把握しているであろう。見破られれば内実を知る事は出来ん」
「では‥‥」
 少し考え、執事は頷く。
「開拓者の方々にお頼みになっては如何でしょうか。丁度、ニーナ様のいらっしゃる通称『白緑の町』では、例のお祭りが始まるとか。それに参加して頂き、内情を探って頂いては如何かと」


 通称『白緑の町』。淡い色合いの緑を基調とした建物が多く並ぶ町である。
 その町の町長は、領主の長女にあたる娘、ニーナ・ハインルスターであった。明るい色の茶の髪と、綺麗に輝く紫の瞳。18歳の娘だが、歳よりも若く元気で明るく、町人とも気さくに話し人気があった。だが彼女は『運動の一環』と称しての格闘や決闘を見るのが大好きで、町に『小さくてもいいから闘技場が欲しいな〜』と言うくらいである。実際にそのような物を造るとなれば場所も費用も必要だ。
 彼女自身が他人に喧嘩を売る事は無いが、血の気が多いのだろうと父親である領主は心配をしていた。町人に尤も人気がある彼女が次期領主になるのは、相応しいように思える。だがその血の気の多さが災いして他所に喧嘩を売るのではないか。そう、危惧するのである。
「やぁ、ニーナ。今日も君は最高に可愛いね」
 そんな町長ニーナが暮らす屋敷には、1人の男が一緒に暮らしていた。
「有難う御座います。嬉しいですわ、ご主人様」
 ニーナは男ににっこり微笑んだ。
「ねぇ、そろそろ結婚しない? 僕達、きっと最高の夫婦になれると思うんだけど」
「はい、ご主人様。次の試合に勝ったら、結婚して下さいませね」
「勝つよ、勝つよ。僕が負けるはずないだろう? 安心してよ、ね?」
「はい」
 穏やかに微笑むその姿は、凡そ町人達が知らない彼女の顔だ。良人に見せるからこその大人びた笑みなのか。
 それとも。


■参加者一覧
六条 雪巳(ia0179
20歳・男・巫
黒鳶丸(ia0499
30歳・男・サ
フレイ(ia6688
24歳・女・サ
カールフ・グリーン(ib1996
19歳・男・騎
万里子(ib3223
12歳・男・シ
ディディエ ベルトラン(ib3404
27歳・男・魔


■リプレイ本文


 通称『白緑の町』は、2ヶ月に1回行われる催し物のおかげで、そこそこ賑わっていた。
「えぇ。物見遊山の途中でして」
 祭りの名は、『白薔薇の戦』。主の目的は、1対1の決闘を模した戦いである。町長を務めるニーナの好みで2年前より始まったその祭りは、今では町の日常と化していた。あちこちに屋台も並ぶ広場の一角で、六条 雪巳(ia0179)は登録用紙に名前を書いている。
「祭りと聞いたので、是非参加させて頂きたいと思い寄せて頂きました」
「試合! 久しぶりで震えるわ!」
 少し離れた所では、フレイ(ia6688)がガリガリと紙にペンを走らせていた。雪巳にまで届くほどの張り切った声である。
「お姫様を巡って戦うなんて、燃えるわ!」
「お。女性の参加者とは珍しいね」
「そうなの?」
「そりゃあ、お若い町長が景品だからね。あの方自身もお強いはずなんだが」
「あら。戦う事は、好きじゃないのかしら?」
「好きなはずなんだがね」
 長生きしていそうなお爺さんと話しつつ、フレイは時間を待った。世間話をしながら、ニーナの評判などを聞いていく。
「はぁ〜、大会の賞品は町長自身!」
 一方酒場では、ディディエ ベルトラン(ib3404)がカウンターで、こっそり店の主人と話をしていた。
「いやはや、未婚の女性と共に暮らす権利ですか〜。大変に魅力的な響きを持っている事は疑いようがありません‥‥が、しかし〜‥‥」
「最初は町中大騒ぎでしたがね。今では祭りの一環ですから」
「ですが〜、仮に私に娘が居たとしまして〜、そのような行いを許すかと問われましたら、断固として許しませんがねぇ」
「殆どの住民は、冗談みたいなものだと思ってますよ。気さくな方だが、領主様の息女ですからね。祭りを盛り上げる為に町長が用意した冗談、という感じですかね」
「しかしですねぇ〜‥‥未婚の女性と一つ屋根の下、暮らすというのはですねぇ‥‥こう、モラル的にもどうなんですかねぇ‥‥?」
「モラルねぇ‥‥」
 主人が含み笑いをしたので、ディディエは更に声を落す。
「マスター〜、もう一杯頂けますか〜?」
「あんた、酒飲みなよ」
「この肉料理にはミルクが最適ですよ〜。‥‥それで、何か他に‥‥『モラル』で引っかかる部分が?」
「あ〜、腹減ったわぁ‥‥」
 祭りの最中という事もあって、昼間にも関わらず酒場は盛況だった。扉を開けて入ってきた黒鳶丸(ia0499)はカウンターにディディエの姿を認めたが、気付かないフリをしてテーブル席に着く。『白薔薇の戦』の予選会場となる広場にはカールフ・グリーン(ib1996)も居たが、今回依頼を受けた6人は、基本的には互いに接触しない事にしていた。領主からの手先であるとニーナ側に知れれば、今回の潜入調査が無駄になりかねないからである。万里子(ib3223)は目立たない場所に潜んで、準備体操をしていた。
 そうして、次期領主候補の1人、ニーナ・ハインルスターを調査する為、6人は動き始める。


「一般人と戦うのは気が引けるけど、参加するからには頑張らないとね」
 ジルベリアと言えども、真夏は暑い。勿論涼しい場所もあるだろうが、真夏の昼間から外で試合をするというのは、さすがに尋常ではなかった。
「‥‥あのぅ‥‥その鎧、脱がれては‥‥」
 騎士らしいすらりとした立ち姿のカールフは、その出で立ちだけでも充分に目立っている。
「そうだね。じゃあお言葉に甘えて」
 にっこり微笑むと夏の花がバックに咲くような爽やかな青年だった。ブリガンダインを脱ぐと赤色のコートが自然と目を引く。剣と盾を持って広場の中央に出ると、観客の女性達から華やかな歓声が上がった。
「‥‥何で騎士様が、こんな道楽に出てるんだ?」
 対する男は大剣を両手で持ち構えている。苛立ったように観客の女性達へと一瞬目を移した。
「今はただの旅人ですよ。祭りに興味があって、一度参加してみたいと思っていたんです」
「騎士と言えども、余所者には渡さん!」
「そうですね。あの景品は‥‥頂いても困っちゃいますしね」
 青年の微笑みに反比例して男は怒りに燃えている。
 審判の合図と共に、2人は指定の立ち位置に立った。旗が振られ、一斉に相手へ向かって飛び出す。だがその男の動きは、カールフの目には余りに遅すぎた。軽くかわしただけで、男の背後を取ってしまえる。慌てて振り返った男の首元に剣の切っ先を突きつければ、男も降参するより他無かった。
「志体持ちが参戦しているそうだなぁ」
 雪巳は弓を持っていた。その出で立ちは、カールフ以上に目立っている。
「で、お前‥‥男なのか?」
「はい。申し訳ありません」
 謝る必要は無い気がしたが、対戦相手に向かって真っ直ぐにお辞儀して見せた。すらりと伸びた背筋が、狩衣の上からでもそうと分かる。
「私は開拓者です。弓が主武器ですが、宜しいでしょうか」
「かっ‥‥開拓者っ‥‥!?」
 男は逃げ腰になった。いや、逃げた。一応、審判には一言言ってから、広場を出て行った。
「‥‥逃げられてしまいましたね‥‥」
 苦笑しつつ、雪巳は次の対戦を待つ。
 志体持ちが参戦しているという噂は広場中にたちまち広がり、黒蔦丸も多少やりづらくなった。どちらにしても、兵士として鍛えたというわけでもない、一般の町人よりは強いという程度の者達ばかりの参戦である。手加減しても、あっけなく終わってしまう事もあった。一方で、
「ジルベリアはベルマン家長女、フレイ参上! さあ、私の相手はだれ?」
 気にせず暴れまわっている人が居た。いや、派手に声を上げて動き演出しているのだが、一応手は抜いているつもりである。それでもうっかり相手を弾き飛ばしてしまったりして、相手が気絶してしまう事もあった。次々と運ばれていく人達は、宿の一室にどんどん寝かされていく。手当てなどをきちんとしているのかカールフがこっそり行って覗いてみたが、その辺りは問題ないようだった。
「派手だね〜」
 少し離れた所から、万里子は夜を待ちつつその光景を眺めている。
「万里子さん〜」
「おやぁ?」
 最後まで誰とも接触するつもりの無かった万里子は、地上で樹をこつこつ叩いているディディエを見下ろした。
「情報交換は最後じゃなかった?」
「すみませんねぇ〜。一応、私の得た情報は報告したほうが宜しいかと思いまして」
「じゃ、茂みの中に隠れて」
 素早く辺りを見回し誰も居ない事を確認してから、2人は身を屈める。
 そして。


 ディディエ、万里子を除いた4人は、難なく決勝まで勝ち進んだ。隠していても、超えられない壁というものは見えてしまうものである。たちまち志体持ちとバレた4人は、屋敷へと入った。
「ほぅ、ほぅ‥‥全く見知らぬ同志の志体持ちが偶然4人も、この祭りに参加して頂いて居たとは‥‥いやはや、奇遇ですなぁ」
「そうなの。私も驚いているわ」
 じろじろと4人を見る家臣に、フレイがあっさり述べる。
「志体持ち言うても、何時でも仕事があるわけや無い。三食寝床付の生活が貰える聞いてな。あ〜、腹と背の肉がくっつきそうや。美味い飯、早ぅ食いたいわ」
 黒蔦丸が食欲について訴えると、ではと食堂へ案内された。
 食事は4人だけ、そしてしっかりと使用人が部屋の4隅に立っている。トイレに行く時でさえも誰かがついて来た。彼らの目を盗んで調べに行くのは容易いが、姿を晦ませば怪しまれるだろう。4人は館の客間に案内されて、そのままそこで夜を明かす事となった。
 翌朝の朝食後、4人は広間に案内される。そこで、彼らは初めてニーナと会った。
 白地に赤の縁取りがされたドレス姿で、彼女は貴族らしく丁寧に挨拶をする。同じような挨拶をフレイとカールフも返し、その場で4人の対戦組み合わせが決まった。
「さぁ! かかってらっしゃい!」
「三食寝床付の生活が掛かっとるんや、手加減無用でいかせてもらうで!」
 初戦は気合の入ったフレイと黒蔦丸である。スキルを使って派手に戦うつもりであったが、さすがに床や壁を破壊してしまうのは良く無いだろう。共に強力を使用して筋力を増加させ、激しい戦いを繰り広げた。広間をうっかりぶち抜かない事だけは注意して。
 サムライ同士の戦いは、からくもフレイに軍配が上がった。次は雪巳とカールフの戦いである。
 丁寧な挨拶の後に、2人は距離を取った。弓を構える雪巳のほうが不利ではある。だが先に撃って出たのは雪巳の矢であった。鋭い音を立ててカールフの足元に刺さる。カールフは真っ直ぐに盾を構え、押し出すようにして駆け寄った。武器を狙い弾き飛ばそうとした雪巳の矢は、盾に弾かれる。懐に入られる前にと力の歪みを使おうとした雪巳だったが、直前にカールフの剣が雪巳の胸元に向けられた。一切スキルを使わぬまま挑んだカールフに気付き、雪巳は小さく首を振る。
「参りました」
「お手合わせ、有難う御座いました」
 2戦が終わった時点で、皆は昼食へと招かれた。
 ニーナは、物静かな娘だった。皆から話を振られても殆ど喋らず、皆の話を大人しく聞いている。
 最終戦は明日にと言われ、しばらくの自由時間が出来た。自室に帰るというニーナをフレイが引きとめてお茶でもと言ったが、彼女は断って皆の前から去って行った。
 雪巳は中庭へ、黒蔦丸は厨房へ、カールフは客室へ、フレイはニーナの自室へ向かう。
「町の雰囲気も良いトコやけど、屋敷も皆ええ人で飯も美味くてええわぁ。荒事しか取り柄のない俺にはありがたい祭りや」
 厨房でおやつをたかった黒蔦丸は、料理人と傍に居た使用人に話しかけた。
「ニーナはんの眼鏡に叶う強さを俺が持ち続けられれば、このありがたい暮らしが手に入るんやなぁ」
「やっぱりあんたも、ニーナ様の夫となって次期領主を狙ってるのかい?」
「次期領主? 俺は美味い飯と綺麗な寝床があったらそれでえぇねんけど、今までの参加者の目当てはちゃうかったん?」
「平民でも次期領主なれるって言ってね。始めの頃は大騒ぎだったよ」
「まだ10回目て聞いたけど、この大会始めたんはやっぱりニーナはんなんか? 街が活気つくようにて?」
 祭りを始めた理由は、本人曰く『1対1の闘技が見たいから』という事らしいが、何故自分を景品としているかは、誰も知らないのだと言う。
「定期的に‥‥ですから、花婿探しでは無いですよね‥‥」
 雪巳が庭師と話した結果も、同じだった。少なくとも使用人は、誰も彼女の本意を知らない。だが、彼女自身は新人の使用人の名前までいち早く覚えるなど使用人に優しく、町での評判以上に彼女の評判は良かった。何か重要な理由があるのだろうと庭師は雪巳に告げる。
 そして、再び夜がやって来た。


「みんな‥‥表での調査、任せたよ!」
 万里子は、小さな体を生かして屋敷内に潜り込んでいた。2日連続である。獣人であるだけで目立つだろうと言う事もあって、進んでこの役目を引き受けたのであった。ジルベリア人にはわからないだろうが、盗人系の仕事着も着用済である。本戦前夜ならば多少普段よりばたつくだろうという彼の読みは見事に当たり、昨日はすんなりと内部の警備配置まで把握できた。ジルベリアの屋敷は構造が違うので屋根裏に潜伏するのもなかなか大変だったが、使用人部屋の上で夜を明かした。
 日中、入手した情報を光の差し込む場所に行って手帳に書き写し、再び夜中を待って全ての物置へと忍び入る。初日は警戒が厳しく、仲間達にも見張りが付いていたので様子見したのだ。
(‥‥割と普通っぽいかな‥‥)
 荒らさないよう、物の位置をずらさないよう注意しつつ、何か重要物が無いか探す。
(それにしても‥‥)
 物置から直接屋根裏に行けない事が多かった為、用心深く万里子は廊下に出て物陰に隠れた。
「今まで一度も同じ人物が優勝した事は無かったそうですよ。必ず次の大会が始まると追い出されて、次の大会で負ければもう屋敷にも入れて貰えない。その後も再戦の日を待っている人も居るとか〜」
「残酷だね〜」
 ディディエが夕刻に話した情報は、まだ続く。
「それから珍しい話では無いかもしれませんが、領主様には合計3人の奥方と愛人が居たようです〜。ニーナ様のお母様が正妻だったそうですが、現在は離縁なされて故郷に帰っておられるとか。町の皆さんも元々正妻の娘であるニーナ様が次期領主になるのは当然と思っているようですが〜」
 あの父親あってのこの娘。血筋は争えないと町人の一部は思っているようだった。
(2ヶ月限定の愛人ね‥‥。意味あるのかな、それ)
 物置には特に目ぼしい物は無かった。やはりあるならば、ニーナの私室だろう。優勝者が入れるとも限らなかったので、万里子は私室の上辺りに忍びこもうとして‥‥気配を感じた。素早くその場を離れ、外へと飛び出る。相手に気付かれては居ないはずだが、私室内に居た誰かが武器を抜いた音がしたのだ。そのまま超越聴覚で音を拾うが、武器を鞘に納める以外に私室から話声はしなかった。万里子はそのまま、逃げた場所、中庭を見渡す。
 白い薔薇が、所々に咲いていた。


 翌朝。
 最終的な戦いは、フレイの勝利に終わった。ニーナは微笑み、フレイに白い薔薇を一輪渡す。
「ご主人様。私、あなたのような強い方にお会いしたのは初めてです。今後とも、宜しくお願いします」
「えっ‥‥えぇ。宜しくね」
 ニーナは嬉しそうにフレイの腕に、自分の腕を回した。
「ご主人様はジルベリアにはいつもはいらっしゃらないのですよね? 私もお供します」
「い、いえ、いいわよ。時々この屋敷に遊びに来るわ」
「いいえ。私はいつも、ご主人様のお傍に」
「この領地の御姫様なんでしょ? 駄目よ、そんなの」
「‥‥ご迷惑ですか?」
 などとフレイとニーナがやっていたので、領主への報告は他の5人で行く事となった。
「町人や使用人の評判はえらいえぇようやけど‥‥自分を景品にしてはる事は、一部では良く思われてへんようや」
「前回の優勝者という男性にお会いしました」
 雪巳は、前日の内に屋敷を抜け出し、前回の優勝者に会っていた。逆上されて襲われかけた所にディディエもやって来て、二人で話を聞いたのだ。
「ニーナ様は何のために大会を催されているとお思いになられますか? もしくは‥‥なぜそれほどまでに強者を欲せられるのでしょう?」
 ディディエは尋ねたが、男は全く話を聞いていなかった。あんなに愛していると言ってくれたのに。結婚の約束までしたのに。と。
「今回の優勝者は初の女性でしたが、大変嬉しそうにしていらっしゃいました。過去の優勝者に冷たくする理由は分かりませんが、もしかしたら‥‥愛情に飢えていらっしゃるのかもしれません」
 カールフも伝えた。前回大会以前の優勝者が何処に居るかは分からなかった為、全員がニーナを恨んでいるかは分からない。だがその可能性は高いかもしれなかった。
 それらを伝え、彼らは領主の元を離れた。