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■オープニング本文 三日月双刀、その刀はそう呼ばれていた。瘴気を帯びてアヤカシが取り付いた後でも。 前の持ち主などはもう何処にもいない。アヤカシに怯えて逃げたのか、それともこの世に居ないのかはわからない。けれども今はそんな事はどうでも良いのかもしれない。そのうち捨てられた刀を手にする者がいるのだから。 「なんでも辻斬りが出るらしいってよ」 街道筋の宿場町ではそんな噂が流れ始めていた。どうやら旅人が辻斬りを見た事が始まりらしいが、この手の噂話に尾びれ背びれが付く物で詳しい事などは分りはしない。 そういう噂が流れるとなると当然確かめたくなる者達が出てきてもおかしくは無い。 だからその者達は三人ずれで街道筋にある辻斬りが出る森へと姿を隠しながら現場を見ようとしていた。 ここの街道はかなり広く。右側は森となっており、左側は田んぼとなっている。それでも街道はかなり広く作られており、道幅から言っても大立ち回りが出来るほどの広さがあるだろう。 そんな街道筋の森に姿を隠した野次馬達はとうとう辻斬りと出くわす事となった。現場を見ようとしただけで決して踏み込むつもりは無かった。まさか自分達が標的にされるなんて思わなかったからだろう。 けれどもこうして現に三人は辻斬りの標的とされている。そう、目の前のアヤカシに睨まれながら。 両手には太刀を持ち、三人の目の前には鬼武者のアヤカシが立ちはだかっている。 三人はただの村人で野次馬。アヤカシ相手にどうする事など出来はしない。だから鬼武者が振るった一刀の元に一人が切られてしまった。 正に一撃だ。血飛沫を上げて倒れる野次馬の一人。このままでは殺される、残りの二人もそう思っただろう。けれども鬼武者は倒した獲物の食事へと取り掛かった。どうやら残りは後で殺して食べるらしい。 逃げるなら今しかない。そう思った残りの二人は後ろを振り向く事無く。一気に駈け走る。追いつかれでもしたら殺される事は確実だ。そんな思いから残りの二人はその場から逃げ去って行った。 その頃、食事を終えた鬼武者は残りの二人を斬り殺しに掛かるが、もう逃げ去った後で何処にもいない。辺りを見回しても誰かが居る気配が無い。逃げたのは間違いないと確信すると元の森へと戻っていった。一人を食い殺しただけで満足したようだ。 紫色の瘴気を地面へと降ろしながら鬼武者は再び、森の中へと帰っていくのだった。 朝方にも関わらず開拓者ギルドの門を叩く者達が居た。もちろん逃げ出した野次馬の一人だ。受付番は眠い目を擦りながらも二人から事情を聞く。 「どうやらアヤカシに間違いないようだな」 今回の辻斬りがアヤカシの仕業なら早々に始末しなければならないんだろう。なにしろ街道筋だ。このまま放置しておけば被害が増えるばかりだ。 だから何としても鬼武者を倒せる開拓者達を集めなければならなくなった。 |
■参加者一覧
緋桜丸(ia0026)
25歳・男・砂
青嵐(ia0508)
20歳・男・陰
こうめ(ia5276)
17歳・女・巫
藤(ia5336)
15歳・女・弓
七郎太(ia5386)
44歳・男・シ
忠義(ia5430)
29歳・男・サ
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
早乙女梓馬(ia5627)
21歳・男・弓 |
■リプレイ本文 田んぼの刈り入れはすでに済んでおり、乾いた田んぼが広がっている光景を見て青嵐(ia0508)は迷っていた。少しでもぬかるんでいるなら鬼武者を追い落とそうとしていたのだが、こう乾いていては意味が無いだろう。 そんな時だった。瘴気の痕跡を探っていた緋桜丸(ia0026)と出会ったのは。 地面に瘴気の痕跡さえ発見できれば、その周囲に出現するのは確かなのだから注意しておけばアヤカシがやって来る方向が分るだろうと。けれどもそんな痕跡は残っていなかった。どうやら相手のアヤカシは森の中から相手を見つけては襲っているようで、瘴気の痕跡を見つけるには森の奥深くに入らなくてはいけないようだ。 さすがにそんな危険な行動を一人でするわけにはいかない。 つまりは両者とも互いに思惑が外れて溜息を付く結果となった訳だ。それだけではない。緋桜丸には昼間のうちに鬼武者との決戦に挑みたかったのだが、どうも相手は夜にならないと姿を現さないらしい。こうなると夜になるのを待ってからの作戦の決行を決めると他の開拓者達に伝えに行くのだった。 夕刻。そろそろ日が落ちて辺りが暗くなってくる頃だ。その頃には開拓者は一箇所に合流していた。 「辻斬りか‥‥いかほどの相手なのやら」 緋桜丸がそんな事を呟く。 一般人に被害が出ているからには、これ以上の被害を出すわけにはいかない。そう考えたからこそ今回の依頼に参加したのだ。それにそう考えたのは緋桜丸だけではなかった。 「皆様が安心して街道を利用できるように、迅速に対処せねばなりませんね‥‥」 場所が街道だからこそ、これ以上の被害を出さないためにも、こうめ(ia5276)今回の依頼を受けたのだ。 そんなこうめとは少し違った心情を抱く者も居た。 「人によって作られ、人によって使われ、それがアヤカシとなって人を喰らうとはな、ある意味では滑稽な話だ」 そんな心情を抱く早乙女梓馬(ia5627)そんな心情を抱いていても、これ以上の被害を出すべきではないとは思っている。だからこそ今回の依頼で倒すべきだと決断したのだろう。 そんな三人の他に別の心情を抱く者も居た。それが忠義(ia5430)だ。 忠義は噂だけで、しかも丸腰でそんな場所に出向いた三人に呆れているようだ。忠義としては下手に薮を突いて蛇を出さない事が寛容だと思っているのだろう。 残りの三人のうち、二人はすでに戦闘準備に入っていた。 「右手は入り組み、左手は開けている。策を講じるには打って付けの場所だな」 周辺を見回し、作戦を練り上げる藤(ia5336)。すでに自分が居るべき場所と行動を考えているようだ。 そんな藤の言葉を聞き流すように準備を淡々と進める雪斗(ia5470)。本来なら日中に決戦を挑みたかったのが、夜にしか現れないとなるとしかたない。だからこそ戦闘準備に余念無く進めるのだった。 そしてまったく緊張感などなくアクビをしている七郎太(ia5386)。本人の心情としてはさっさと片付けて一杯やりたいと思っているのようだ。本当に緊張感が無いが、これがシノビであるが故の演技なのか本気なのかは本人にも分らなかったりもした。 そんな面々が揃った頃にはすでに日が落ち辺りは暗くなっている。こう暗くなってはどうする事も出来ないので緋桜丸は松明に火を灯す。 こうして明かりがあればアヤカシがこちらを発見するにしても見つけやすいだろうし、なにより自分達の足場が良く分かる。 そんな明かりの元で開拓者達は鬼武者が来るのを静かに待ち続けるのだった。 森の中から鉄が擦りあう独特の音が鳴り響いてきた。鎧を着て歩く時に発生する独特の音だ。どうやら鬼武者が松明の明かりを見つけた事は確かなようだ。鎧をまといながら歩いてくる音は段々とこちらに近づいてくる。 そして森の中からゆっくりと姿を現した鬼武者は松明の元に人間が居る事を確認すると一気に走り出して来た。どうやら相手は関係無く襲ってくるのだから知能は高くないようだ。 「いきなりそう来たか」 いきなり走り出して来た鬼武者に雪斗はそんな感想を口にしているうちに緋桜丸は向かってくる鬼武者に向かって走り出していた。 「俺の後ろには行かせねえぜ!」 鬼武者に向かっていく前衛に二人に後衛のこうめは加護法を掛ける。 その間にも緋桜丸と鬼武者の距離は一気に詰まっていた。目の前に迫ってきた緋桜丸に両刀を使って攻撃を繰り出してくる鬼武者に対して十字組受で攻撃を受け流す緋桜丸。その後にカウンター攻撃を繰り出した。 この攻撃が鬼武者に直撃、かなりのダメージを与える事になった。 「同じ二刀流だけに負けられねぇな」 そんな緋桜丸の攻撃に合わせて雪斗も攻撃に掛かる。この攻撃が貫通する結果となったのだが、大したダメージを与える事は出来なかった。 そんな前衛組みが動いている間にシノビ達は森の中に移動を開始していた。忠義は早駆の後に一度だけ攻撃をして見事に直撃させた。大したダメージを与えられる事は出来なかった。それだけ相手の防御が厚いのだろう。 その間にも七郎太は抜足で誰にも悟られる事無く森の中へと姿を消していった。 弓組み二人もすでに田んぼの中に移動しており、そこからの攻撃を図っていた。すでに足場となる畦道にしっかりと足を付けると弓を引く。 藤の弓は機械式の弓で準備の短縮時間を短く出来る。だからこそ、この短時間で幾つもの矢を発射することが出来るのだ。 「我が家には鬼出雷入の如く、息付く暇など無いと思え」 藤は即射の連続で一気に行動力を消費するが大したダメージにはならなかった。それと同時に早乙女も同じく弓で攻撃をするがこれは大きく外してしまった。 弓組みの攻撃が終わると今まで中間に控えていた青嵐が一気に攻撃に出る。 雷閃を使い一気にダメージを削る。軽症ではあったものの、元々の攻撃力が大きかったのか、かなりのダメージを与える事が出来た。 だがこのまま攻撃されっぱなしで黙っている鬼武者ではなかった。鬼武者は傍にいる雪斗に視線を向けると両刀を振るってきた。 けれども雪斗は受け流しで見事に攻撃を回避して見せた。けれども完全にはダメージを無くす事は出来なかったようだ。 「‥‥っ! これくらいならまだいける‥‥か」 そんな雪斗にこうめはすぐに駆け寄るとすぐに神風恩寵を発動させて雪斗の傷を回復させた。 その頃には完全に後ろに回りこもうとしていたシノビ達は一気に行動に移る。忠義は早駆の二連続で一気に後ろに回りこみ。七郎太も到着するのと同時に風魔手裏剣を投げるが相手の防御力の方が大きかったのかダメージを与える事が出来なかった。 鬼武者としても連続で攻撃されて頭に来ていたのだろう。前衛の緋桜丸に向かって攻撃を仕掛けてきた。 衝撃刃を使いカウンターが出来ない攻撃に切り替えてきたようだ。 確かに直接的な攻撃でなければ攻撃を受け流してのカウンターなどは出来はしない。緋桜丸は衝撃刃の直撃を喰らってしまったが、ダメージは軽微だ。 それでも放っておく訳にはいかないのだろう。こうめは真っ先に神風恩寵で回復させた。 けれどもこれで一瞬だけ前衛が崩れたのは確かだ。その間に早乙女が弓を引き絞る。 「この一矢で滅せよ、アヤカシ」 強射「朔月」を放つ早乙女。朔月が直撃するとトドメを刺したのか。鬼武者は紫色の瘴気を地面に垂れ流すように、憑り付いていた人間もろとも消滅してしまった。 後に残されたのは二刀一対の刀である三日月双月だけである。 地面に取り残された三日月双月を取り上げようとする七郎太を青嵐は止める。三日月双月自体がアヤカシの可能性があるからには無闇に触らないほうが良い事を言ってきたのだ。 それから三日月双月の破壊を提案してきた青嵐に異論を唱える者は誰も居なかった。誰しもこの三日月双月を破壊してしまった方が良いと思っているのは確かなようだ。 三日月双月の破壊は青嵐が担当する事になった。それは具体的な破壊方法を青嵐以外が提示できなかったからだ。 青嵐は斬撃符を放つと三日月双月は完全に砕かれてしまった。それだけではない、今まで三日月双月に宿っていた瘴気も地面へと消えていくのだった。 どうやらこれで完全に終わったよだが、何か疑問があるのか雪斗は不安げな事を口にする。 「これで本当に終わってくれれば良いけどね‥‥」 今回の事例は三日月双月に限った事ではない。何かしらの因縁がある限り、このような事が繰り返されるのでは無いのか。そんな不安が雪斗にそんな言葉を口にさせたのかもしれない。 だがアヤカシという存在が居る限り、このような事が続くのを暗示しているかのようにも聞こえるような言葉だ。だがそんな雰囲気を壊すかのようにこうめは開拓者達に振り向くのだった。 何にしても今回の依頼はこれで終わりである。それを確かめるようにこうめは開拓者達に微笑を向ける。 「皆様、大変お疲れ様でした」 こうめなりに皆を労ったのだろう。その微笑に開拓者達は少しだけ心が安らいだような気がした。 その後の事になるが、青嵐は砕いた三日月双月の破片を全て集めて鍛冶屋に持って行ったようだ。たとえ元がアヤカシに憑り付かれていた名刀だとしても、原料からして良質なのは変わりない。 だからこそ今度は人を傷つけるためでなく、人を守るための物になれば良いとの願いを込めての行動だ。 三日月双月も元々はそのために作られた物なのかもしれない。それが何の因果かアヤカシと化してしまった。このような悲劇がもう二度と起きないように願いながら、青嵐は次に生まれてくる刀に願いを込めるだけだ。 何にしてもこれで今回の依頼は終了である。やっと辻斬りが居なくなった事で安全に通行が出来ると街道には活気が戻っていったのであった。 |