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■オープニング本文 ●武天此隅とある酒場にて 「彦次! 俺様は今しがたぴかっと閃いたんだ!」 酔いで頬を赤く染めた体格のいい大柄な男が、向かいに座る呑み仲間へ拳を握り締め力説する。 「‥‥で、今度はどんなこと思いついたんだ、源太郎せんせーは」 またいつものことかと、向かいに座る彦次が源太郎へ気のない返事を返した。 「いいか、その耳の穴かっぽじってよく聞けよ! 今度の目標は、ずばり‥‥アヤカシだ!」 酒に酔い、自分にまですっかり泥酔している源太郎は、輝ける未来へと想いを馳せている。 「‥‥へぇ、そりゃすごい」 酒のつまみを箸でつつく彦次の返事は、すでに棒読みだった。 「こうしちゃいられねぇ! 待っててくれアヤカシちゃん!!」 そう言うと源太郎はは深々と男に一礼し、足早に扉から出ていった。 「お、おい! まったく、思い立ったら即行動なのは相変わらずか‥‥。はてさて、どうなる事か――っておい! お代置いていけ!!!」 一人机に残された彦次が、源太郎の出ていった酒場の入り口へ引き戻そうと駆け寄るが、にこやかに怒る店員に丁重に引きとめられたのだった。 ●翌日、朝靄の川辺にて 「ふぅ‥‥釣れねぇな」 陽もまだ浅い朝、川面に糸を垂らし源太郎がため息交じりに愚痴をこぼす。 「お。源太郎せんせーじゃないか。今日はのん気に釣りかい?」 川縁を散歩していた彦次が、源太郎の背中を見つけ声をかける。 「ん‥‥? なんでぇ、彦次か」 源太郎は歩み寄ってくる彦次を一瞥すると、詰まらなさそうに再び糸を垂らした。 「今日はえらくつれないな。なにか‥‥って、その顔どうしたよ」 つれない呑み仲間の横に座る彦次。ふと源太郎の顔を覗きこむと、そこには顔にできた大きなあおあざ。 「なんでもねぇ」 源太郎は彦次を見ることなくぶっきら棒にそう答える。 「さては、あの後、何かやらかしたな?」 「ふん! なんにもやらかしてねぇよ! ちょっくらアヤカシさん家に遊びに行っただけだ」 「‥‥この阿呆‥‥」 「あん!? 人を捕まえて阿呆とはどういう了見だ!?」 「阿呆に阿呆と言って何が悪い! よく生きて帰ってこられたな! お前開拓者でもなんでもない、ちょっとがたいのいいただの画家だろう!」 「けっ! 開拓者じゃなかったらアヤカシさんに会っちゃいけないってのかよ!」 「当たり前だ、阿呆! 死にたいのか!!」 「阿呆阿呆と何度も叫びやがって‥‥もぉ堪忍袋の緒が切れた! 彦次てめぇ、覚悟しやがれ!!」 ゆるやかに流れる川面に写るのは、ただただ罵倒しあう二人だけだった。 ●さらに翌日 「‥‥‥‥」 とある昼下がりの飯屋。彦次が見つけたのは、あの悪友だった。昨日腫らした顔に加え、今日は腕に包帯を巻き、首からぶら下げてるではないか。幸い画家の命である利き腕ではない。 「よぉ、彦次。よく会うな」 食後のお茶を啜りながら、彦次を見つけた源太郎が軽く手を上げた。 「お前、また行ったのか‥‥?」 「おう! あれしきのことで諦められっか!! あれは惜しかった。もう少しでアヤカシさん達の戯れる姿を――」 そんな、息巻き思案に暮れる源太郎へ、彦次がこう呟く。 「なぁ、もぉ素直に開拓者に護衛頼めよ‥‥」 「――!?」 彦次の言葉に、一瞬呆気に取られ、一呼吸おいて口をパクパクさせ愕然と固まる源太郎。 「ど、どうした‥‥?」 自分の発した言葉が、悪友を傷付けたのかと彦次は慌てて声をかける。 「そ、そ、そ――」 「そ――?」 「その手があったかぁぁぁぁーー!!!」 源太郎の絶叫が飯屋にこだましたのだった。 |
■参加者一覧
百舌鳥(ia0429)
26歳・男・サ
朱璃阿(ia0464)
24歳・女・陰
巳斗(ia0966)
14歳・男・志
出水 真由良(ia0990)
24歳・女・陰
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
玲瓏(ia2735)
18歳・女・陰
海藤 篤(ia3561)
19歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ●此隅郊外の森前 「何とか陽が落ちる前につきましたね」 巳斗(ia0966)は眼の前の不気味な静けさを湛える森を前にそう呟く。 「ええ、これならアヤカシが現れる前に準備できそうね」 自身が用意した戦場の想定図とにらめっこしながら玲瓏(ia2735)も満足そうに頷いた。 「源太郎様、アヤカシと遭遇されたのはこの辺りですか?」 隣を歩く源太郎に確認を取るのは、出水 真由良(ia0990)だ。 「ああ、確かにこの辺りだ。あの岩陰に隠れながら見てたんだけどな」 源太郎が指差すのは楽に人が3人は隠れる事ができそうな大岩。 「なるほど、あの岩は利用できそうだな。それにあの離れ木、いい感じに演出できそうじゃないか?」 戦場となる広場を見渡しながら百舌鳥(ia0429)がそう言うと。 「魅せる戦い‥‥そうだ、まさに俺の出番だ!」 この戦場は俺の為にあるとでも言わんばかりに両手を大きく広げる喪越(ia1670)。 「なにおう! 僕だって負けないんだから! 格好良く描いてもらうのは僕なんだからなっ!!」 そんな喪越に対抗するように双剣を抜き放ちポーズを決める天河 ふしぎ(ia1037)。 「まぁまぁ、お二人とも落ち着いて」 息巻く二人を海藤 篤(ia3561)が苦笑い交じりになだめる。 「そうよ、息巻くだけでは魅力なんて表現できないわよ?」 胸元を強調するように着物を整え、念入りに唇に朱を引く朱璃阿(ia0464)も準備万端だ。 「ははは‥‥では、皆さんそろそろ準備に取りかかりましょう。玲瓏さん」 主張に余念のない3人を横目に、篤が玲瓏に声をかける。 「うん、では皆、ここに戦場を構築するわ。この広場を囲むように篝火を立てて、開口は森へ向けてね」 玲瓏の指示に一同は頷き、事前に用意した篝火を大岩、離れ木、森入り口の3点を結ぶ円形に形成していった。 ●夜の帳 「では、ふしぎさん、参りましょう! 友情・努力・勝利です!!」 囮役を申し出た巳斗が、同じく誘き出し役のふしぎに声をかけた。 「待ってろアヤカシ! 僕の心の眼で見えないものはないんだから!」 ふしぎが額のゴーグルに手を当て『心眼』を発動させる。 「じゃ、私は入り口で待機してるから、二人ともよろしくね」 自ら囮役をかってでた朱璃阿も念入りに符を確かめる。そして、朱璃阿に見送られながら二人は足並みをあわせ、闇深い森へと歩み進んで行った。 「来ました、アヤカシです! うまく1体だけを引きつけられたようですね」 篤の声が上がった。囮の2人に釣られるように、のそりとその巨体を現したのは、源太郎の言っていた蛇型のアヤカシ。 「朱璃阿さん、打合せ通りによろしくお願いね! 皆は点火の準備を!」 アヤカシの目の前には囮役の朱璃阿が一人、目の前の奇異へ弱弱しく脅えるそぶりを見せつける。そして、玲瓏は残った者に声をかける。 「それじゃ――きゃ! あ〜ん、転んじゃった‥‥」 ぐすっと涙目になりながらわざとらしく転んでみせた朱璃阿。そこへ容赦なくアヤカシが牙を剥く。 「今よ! 点火!」 朱璃阿の見事な演技でアヤカシの意識が集中したその時、玲瓏の合図と共に一斉に篝火へ火が燈された。 「――!?」 薄暗い戦場に燈った緋色に揺らめく炎が光となってアヤカシの目を打つ。 「予想通りの反応ね。皆、アヤカシは怯んだわ!」 玲瓏は突然の光に眩むアヤカシを見てさらに声を上げる。それを機に開拓者達は一斉にアヤカシへと向かって行った。 「手始めには私が! いきますよ『斬撃符』!」 篤の手に生まれた一陣の風がアヤカシ目掛けて襲いかかる。 「ぎょあぁ!」 切り刻まれる体にアヤカシは苦しそうに悲鳴を上げた。 「ふむ‥‥このアヤカシ、弱いですね‥‥」 様子見にと放った『斬撃符』で必要以上に苦しむアヤカシに、呆れたように篤が呟いた。 「本気でやったら、すぐに終わっちゃいそうねぇ」 隣で『吸心符』を構えていた朱璃阿も、困ったような表情だ。 「じゃ、こういうのはどうかしら。式よ、敵を喰らい我が血肉とせよ! 『吸心符』!」 朱璃阿の叫びに符は反応しない。わざと呪を違えたのだ。 「あれ? 術が発動しない‥‥」 呆然と自らの手に持つ符を眺める朱璃阿に、のそりとアヤカシがその首をもたげる。 「朱璃阿さん、あぶない!」 狙いを定めたアヤカシから朱璃阿を救おうと、篤は身をぶつけ、共に転がる。 「――いったぁ〜い‥‥」 篤の体当たりで朦朧とする意識を覚醒させようと、朱璃阿はふるふると頭を振る。 「す、すみません。咄嗟だったもので‥‥うわっ!?」 共に転がる朱璃阿に向け謝罪を述べる篤の背後、もうそこにはアヤカシが二人を飲み込まんと迫ってくる。その刹那――。 「こっちみろや!!」 百舌鳥の『咆哮』にアヤカシが釣られた。 「ふぅ‥‥で、喪越よぉ、演出ってなにやればいいんだ?」 アヤカシが自分に向いたことを確認し、百舌鳥は隣に立つ喪越に声をかける。 「あん? 演出なぁ‥‥熱けりゃとりあえず何でもいいんじゃね?」 ぶんぶんと棍を振り回す喪越に、あいよっと軽く返事を返した百舌鳥がアヤカシを見据える。 「んじゃ、どばーっと派手にやらかすか!」 「おう! 蛇ちゃんどっからでもかかってこいや!」 二人の巨漢が獲物を手にさらにアヤカシを挑発した。 「‥‥源太郎さん、何を描いてるの?」 戦端が開かれた戦場を見渡せる岩陰に潜む源太郎の描く絵を覗きこみ、玲瓏が声をかけた。 「ん? ほれ、あれだ」 源太郎が指差す先には、交代して前衛へと出た百舌鳥と喪越の姿。 「――ええ、それは分かるのだけど、なぜ薔薇が‥‥?」 源太郎の描き殴る画布には見つめあう百舌鳥と喪越が描かれていた。何故か背景に薔薇を背負って。 「かぁ! わかってねぇな! 薔薇は必須だろ?!」 眉間に皺を寄せて悩む玲瓏に、自分の絵を指し力説する源太郎だった。 「あ、朱璃阿さん、お疲れ様」 戦場の後方に臨時の待機場所を確保していた玲瓏が、囮役の朱璃阿を迎え入れた。 「あ〜、もう、せっかくの化粧が台無しだわ‥‥」 幾度となく地を転がった朱璃阿は、せっかく整えた衣服も化粧もすっかり乱していた。 「でも、アヤカシがたいした強さじゃなくてよかったですね」 こちらも戦線を離れていた篤が、玲瓏の用意したお菓子を摘みながら、朱璃阿に話しかける。 「ええ、そうね。下手に強かったら演出どころじゃないものね」 事前に玲瓏が予報した戦況は見事に的中していた。 「まったくだ。いくら護りの戦いを信条にしてたって、こう弱くちゃなぁ‥‥」 ふらふらと待機場所にやってきたのは、つい今しがたまで前線を構築していた百舌鳥だ。 「あれ、百舌鳥じゃない。前線はいいの?」 いるはずのない百舌鳥に、朱璃阿が不思議そうに尋ねる。 「んあ? ああ、ほれ」 と、百舌鳥が指差した先には、喪越が棍を振り回しての大立ち回りを演じていたのだった。 「出水、ぼちぼち反撃の狼煙上げるか」 「あら、やっと出番ですのね」 一歩後ろに引いて戦況を見守っていた喪越と真由良が互いに視線を会わせ頷いた。 「せっかく用意したんだ。使わねぇわけにはいかないだろ!」 「うふふ、そうですね」 二人の陰陽師は源太郎の視線が自分達に向いていることを確認すると―― 「んじゃ、いくぜ! 出てこい紅龍!」 右に立つ喪越が『大龍符』を発動。伸ばした右腕に従うように紅色の豪腕を誇る龍がその姿を現世に結ぶ。 「さぁ、来なさい蒼龍!」 左に立つ真由良が『大龍符』を発動。伸ばした左手に従うように蒼色の流れる肢体の龍がその姿を現す。 「右に紅龍を!」 「左に蒼龍を!」 『喰らいつくせ蒼紅の龍! 合符『双龍波』!!』 適当に考えた合言葉を二人が声を合わせて叫ぶと、控えていた二匹の龍が互いの身を絡み合わせるようにアヤカシへと突進して行く。が、しかし―― 「なに! 効いてないだとおぉ!?」 元々はったり用の符術。アヤカシの様子に変化はない。それを確認して、ことさら大げさに喪越が愕然とすると。 「まさか、そんな‥‥」 あわせるように真由良もわざとらしくへなへなと地面へとへたり込む。 「なんてことです! 二人の大符術が効かないなんて! よし、こうなったら!」 放心状態の二人の前へ、巳斗とふしぎが入れ替わるように立ち塞がる。 「ふしぎちゃ‥‥さん、行きますよ!」 「‥‥ちょっとまって巳斗。今言いなおさなかった?」 「き、気のせいですよ、やだなぁ‥‥」 「だよね――って、僕は男だぁ!!」 「ボ、ボクだって男です!!」 「うん! 僕たち立派な男の子! 男の力みせてやるんだからなっ!」 「そうです! いつもいつも女装ばかり‥‥今日こそ男らしく決めるんです!」 アヤカシを目の前に、がっちりと手を取る美少女二人。 「あのぉ、男の友情を深めてるとこ申し訳ありませんが、お二人とも、上上」 やれやれと困ったように真由良が指差すのは上空。手を組む二人も釣られて上を見ると、そこには大きく跳躍し襲い来るアヤカシの姿が―― 「う、うわぁ! いきなりとは卑怯ですよ!」 「ちょっとアヤカシ! 今いい所なんだから邪魔するなぁ!」 空気を読まないアヤカシの攻撃に、二人して不満たらたらだ。 「ふふ、お二人ともかわいいんですから」 緊張感のまったくない空気をさらに真由良が和ませるのだった。 「‥‥源太郎さん、何を描いているんです‥‥?」 戦線から一歩引き、源太郎の護衛に回っていた篤が声をかけた。 「ん? ほれ、あれだ」 先程と変わらぬ様子で源太郎が指差す先には、危機を演出した巳斗を優しく抱きかかえて救出するふしぎの姿。 「――ええ、それは分かるのですが、なぜ百合が‥‥?」 次々と画布に描き殴る源太郎が次の対象にしたのが、見つめあうこの二人だ。何故か背景に百合を背負って。 「だぁ! わからねぇのか! 百合は基本だろ、この場合!!」 頭を掻き毟って力説する源太郎に、篤ははぁと呆れるのだった。 「――そろそろね」 絵心を知る玲瓏が源太郎の絵の完成度を判断し、一行へ締めの合図を送る。 「よし、敵は怯んだ! 陰陽戦隊、行くぞ!! 結べ五行の印! 退軌封縛!!」 合図を確認した喪越の声に、陰陽師達も頷き持ち場に散っていく。そして―― 「絶え間なく静め! 木の印!」 ため息混じりに玲瓏。 「燎原を焼き尽くせ! 火の印!」 体をくねらせ朱璃阿。 「天儀を揺さぶれ! 土の印!」 照れ笑いの篤。 「鐘音、鳴り響け! 金の印!」 恍惚の表情、喪越。 「万の顔を持て流せ! 水の印!」 のりのりの真由良。 『五印必縛! 穏呪封鎖!!』 五芒星を形成するように位置を取った5人が、声をあわせ各自思い思いの印を結ぶ。 『合体符術『封・大呪縛』!!』 解き放たれた各々の『呪縛符』がアヤカシの動きを大地に縛る。もちろん発動したのはただの『呪縛符』なのだが、傍から見ると5人が力合わせて強大なアヤカシの動きを縛ったように見える。 「うおおぉ! 熱い! 熱いぞお前ら!!」 この過剰な演出に源太郎も大興奮。筆を走らせる手はさらにその速度を増していく。 「ボクも負けていられません!」 いつの間にか大岩の上に陣取った巳斗が、『炎魂縛武』により紅色に染まった3本の矢を同時に弓へ番える。 「いきますよ! 三矢光陰となりて敵を貫け! 三・点・結!」 巳斗はぎりぎりと引き絞られる弓と自身を同化させていく。 「巳式弓術奥義『紅参華』!!」 そして、大岩より放たれた3本の紅矢が、アヤカシの額、喉元、鳩尾の3点へと見事に突き刺さった。 「――!!」 声にならないアヤカシの叫びが木霊すなか。 「僕だって!」 その言葉と共に、離れ木の太枝に身を潜めていたふしぎがゴーグルをかけ空高く跳躍した。 「このゴーグルは伊達じゃないんだからな! 喰らえ! 空賊相伝宙の型!!」 ふしぎは抜き放った双剣を翼のように広げ、アヤカシ目掛けて滑空する。 「『飛天クロススラッシュ』!!」 猛禽の爪と化しアヤカシへと襲いかかる二本の剣が、十字を刻み異様なる飛蝗の足を切り落とす。 「おいおい、これじゃ、俺が止めさすまでもねぇなぁ」 やれやれと動けぬアヤカシの正面に飄々と現れた百舌鳥が肩に愛刀を乗せ、そう呟く。 「しゃぁない、演出演出っと――うおおぉぉ!!」 掲げた刀をそのままに、全身に錬力を満たしていく百舌鳥は『強力』を発動。 「一刀両断! 外式が二十七番『滅之太刀』! 行くぜぇぇ!」 すでに瘴気の霧へとその姿を変えつつあるアヤカシの頭めがけ、百舌鳥の渾身の一刀が降り下ろされる。 「これで――終わりだぁぁ!!」 「――――!」 三人の適当に名付けた必殺技を受け、もはやアヤカシに発する言葉はなく。 「う、う、ううおおぉぉ! お前ら最高だああぁ!!」 代わりに、手に持つ筆を握りつぶさんかとばかりに興奮した源太郎の絶叫が辺りに鳴り響いたのだった。 ●終幕 「大活劇、これにて終幕なんだからなっ!」 『銀杏』を使ってすばやく剣を鞘に戻したふしぎが微笑と共に決めポーズ。 「ふしぎ様、源太郎様は見てませんけど‥‥?」 ポーズを決めるふしぎの肩にぽんと手を置き、真由良が残念なお知らせ。 「ふしぎちゃ‥‥さん、気を落とさないでください」 最大の見せ場を不意にされたふしぎを、優しく慰める篤。しかし、ふしぎは「僕は男だぁ!」と絶叫するのだった。 「さて、蛇ちゃんと戯れるの図は出来上がったのか?」 描きあがった百枚以上もの下書きを束ねる源太郎の手元を、百舌鳥が覗き込む。 「おう! いやぁ、いいもん魅せてもらったぜ!」 いまだ興奮の冷め遣らぬ源太郎は、瞳を閉じ拳を握り締め熱き戦いに想いを馳せていた。 「はぁ、疲れたわ‥‥下手な戦いより面倒くさかったわね‥‥」 見事に囮役を務めた朱璃阿も、疲労困憊といった様子だ。 「何とか、ご希望に沿えたようね」 戦場の構築にその知識を遺憾なく発揮した玲瓏も、一安心のようだ。 「ふふ、こんなに楽しい戦闘はなかなか経験できるものではありませんね」 一方の真由良は。まるで祭りの余韻を楽しむよう。 「俺は燃えた、燃え尽きたぜ‥‥」 大岩には喪越の姿が。満足そうな笑みを浮かべしゃがみ込んでいる。 「喪越先生、お疲れ様でした! 源太郎さんも大満足の様ですよ」 そんな喪越に巳斗がねぎらいの言葉をかける。 「おう、みったん。おつかれぃ。何とか無事終わったな」 「ええ、大変でしたけど何とかなりましたね」 巳斗と喪越がお互いを称えていると。 「お前らほんとにありがとよ! 完成はもうちょい先になるが、絶対見に来てくれよな!」 下書きの束を抱いた源太郎が開拓者一行へ拳を握り締め礼をするのだった。 この大活劇は、その後半年の時を経て17枚から成る襖絵大絵巻として完成された。『多武大妖伐之絵図』と銘打たれ、此隅のとある寺社への奉納されたこの絵図は、寺を訪れる者を驚かせ、そしてその目を楽しませるのだった。 |