ライバルの待つ村へ!
マスター名:真冬たい
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/09/15 19:58



■オープニング本文

「俺とお前はライバルだよな」
「おお、もちろんだ!」
「いつかは決着をつけるんだよな」
「そりゃそうだ!」
「‥‥なら引っ越しなんて、やめろよ」
 ライバルは真顔で答えた。
「それは出来ん。父ちゃん怖い」


●月日は流れ
 ギルドの受付嬢は相手のテンションに少し引きつつ、話を纏めるように言う。
「つまり、六年前に引っ越した土地に残してきた幼なじみに会いたいんですね」
「幼なじみではない、ライバルだ!」
「ラ、ライバルさんに」
 訂正すると、男・吉兆吉次(きっちょう よしつぐ)は満足そうな顔で頷いた。
 屈強そうな男だ。綺麗に手入れされた弁髪を持ち、筋肉は程よく膨れている。肩幅もあるため丸太くらいなら何本も担いで運びそうな雰囲気だった。太い眉毛は左右でギリギリ繋がらないような生え方をしており、キリリとした目には強い光が宿っている。
「私と実勝は永遠のライバルなのだ。行動に移すまでに時間を要したが、もう私は親の世話になっている訳ではない――つまりライバルに自由に会いに行けるのだ!」
「わ、わかりました。あと顔がちょっと近いです‥‥」
 吉次は乗り出していた身を元に戻す。
 ようするに、ライバルである出町実勝(でまち さねかつ)と会うために道中の護衛をしてほしいのだという。
 丸一日使うほど離れてはいないが、その途中には山や崖や川がある。ついでに野生の猪や狼も居るというのだから恐ろしい。
 ‥‥普通の成人男性ならばそれなりに上手くやるところだが、吉次は見た目によらず少し臆病な面がある。ポジティブすぎて本人も気づいていないようだが。
「とにかく頼んだぞ、また私は奴と拳を交えたい!」
「‥‥」
 断る言葉も見つからず、受付嬢は無言で書類に判を捺したのだった。


●ある村にて
 シュッ!っと拳が空気を切る。
 夏の暑い空気に包まれながら、一人で鍛練している男性だった。
 ストイックな雰囲気を持つ美青年だ。形の良い眉はあまり動くことはないが、瞳はどことなく優しい。
 短い黒髪はあまり手入れをしていないようだったが、それすらも男性の雰囲気の一部になっていた。
 彼はふいに真一文字に引き結んでいた口を緩める。
「あいつ、どうしてるかな‥‥」
 男性・実勝はそう呟くと、鍛練に意識を戻した。


■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
高倉八十八彦(ia0927
13歳・男・志
九鬼 羅門(ia1240
29歳・男・泰
空(ia1704
33歳・男・砂
ブラッディ・D(ia6200
20歳・女・泰
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
フリーデライヒ・M(ib0581
12歳・女・サ
レビィ・JS(ib2821
22歳・女・泰


■リプレイ本文

●暑い男
「わー‥‥暑苦しい」
 出発前、吉次を見て空(ia1704)が言った。
「確かにまだ暑いな!」
「あァ、そうか。夏だからこうゆう奴も出てくるんだな」
「も、もう何か居るのか?」
 自分の事を言われているなどと微塵も思っていない吉次は獣を警戒して辺りを見回した。
「ライバルとの再会っていうのは燃えるよなー」
「でももう秋だってのにまだ暑いし、まだ暑いってのに依頼主は暑苦しいし‥‥っとにもう」
「‥‥うん、確かに暑すぎるけど。ま、応援ぐらいはしてやろうかな」
 ブラッディ・D(ia6200)と鴇ノ宮 風葉(ia0799)がそんな会話をする。
 暑苦しい。直接会った者の大半が抱いた感想だった。
「寒い時に会えたら良かったんやけれどねえ」
 高倉八十八彦(ia0927)もそうボソッと呟くのだった。


●道中
 まず見えてきたのは山だ。
「実勝様との思い出は何か御座いますか?」
 ふんわりとした雰囲気のジークリンデ(ib0258)が吉次にそう聞いた。
 その会話にレビィ・JS(ib2821)も参加する。
「わたしも気になるな、経緯とか勝敗とか自信とか」
「ふぅむ、そうだな‥‥」
 聞かれて嬉しかったのだろう、吉次は修行と称して滝に行って父親にこっぴどく怒られた事や、出会ったのは五歳の頃だった事や、次に会ったら絶対に勝つ!等と色んな事を語ってみせた。
 勝敗についてだけはモゴモゴと誤魔化したが。
「そういえばそのベルは何だ?」
 ひとしきり話し終えた吉次がレビィのブレスレットを指差して聞いた。
 それには鈴が付いており、リンリンと可愛い音をたてていたのだ。
「獣避け用の鈴。避けれる戦闘は避けたいからね、村についたらあげるよ」
「ほっほう、なるほど。忝い!」
 感心する吉次の手をジークリンデが引いた。
「吉次様、あそこに果実があるので取っていきませんか?」
 見れば木に赤い実が生っていた。
 少しなら時間もそうかからないだろう。二人は協力して実を取り、それを袋に入れて手に提げた。休憩時のおやつに良いかもしれない。
 それからしばらく歩いたところで、辺りを警戒しつつ歩いていた九鬼 羅門(ia1240)が風葉の様子を見て歩く速度を落とした。
「おい、大丈夫か?」
「もーやだ歩きたくない‥‥」
 風葉、完全に不貞腐れている。
 元来疲れることを嫌う性格なため、ここまで歩いた事自体が僥倖だった。
 困った様子の羅門に頭を軽く下げ、ブラッディが風葉の肩をぽんぽんと叩く。
「緑も綺麗だし、ピクニック気分で登ってみよ?」
「うー‥‥」
「ほら、これ杖代わりになると思うから」
 ブラッディは手ごろな長さの木の棒を風葉に手渡す。
 それを受け取り、風葉はしぶしぶ歩き続けた。
 しかし疲れてきているのは風葉だけではない。
「むう」
 吉次も軽く息が上がっていた。
 筋力は十分だが、長距離移動に慣れていないため筋肉の使い方が下手らしい。
 それを見かねた空が声をかける。
「ココでへばってると後々辛ェぜー?」
「後々‥‥そうだな!決戦があるというのにへばってはいられない!」
 ずんずんと歩いていく吉次。それについて行く開拓者一行。
「‥‥あまり急かさぬ方が良かったのではないかのぅ?」
「これくらいでないと日が暮れる」
 やれやれといった風にフリーデライヒ・M(ib0581)がツッコみ、空がニヤリと笑って言った。


●涼を納れる
「水の匂いだ」
 羅門が顔を上げて言う。確かに木々の向こうから水の匂いがする。
 山を抜けると、そこには橋の架かった川が道を遮断するように流れていた。
「これが件の川じゃな?」
 フリーデライヒは笑みを浮かべ、川の流れる先を見ていた吉次に言った。
「ここは敢えて橋を使わず徒歩にて突っ切る!これも足腰を鍛えるという修行の一環じゃて。と云うワケで吉次、お主も参れ!」
 修行、という単語に反応し、吉次はやる気満々といった雰囲気でフリーデライヒの後に続いた。
「あっ、私も川を――、っ!」
「む?どうした?」
 どうやら川を歩いて渉ろうとしたジークリンデが足を挫いてしまったらしい。
 そんな彼女を見てフリーデライヒが何か思いついた顔をする。
「吉次よ、折角じゃ。ジークリンデをおぶって歩いたらどうじゃ」
「えっ、そんな。お邪魔になるのでは‥‥」
「人を背負えば転ぶ事にも注意がゆこう、それにバランス感覚も培われる」
 まだ遠慮するジークリンデを吉次がスッと持ち上げた。
「ようし、無事に向こう岸まで送り届けるぞ!」
 開拓者に護衛され、送り届けられる側ということをすっかり忘れている吉次であった。
「わかりました、宜しくお願いします。で、でも何だか恥ずかしいですね」
 恐縮しながら肩につかまるジークリンデ。そこからは普段より高い目線で辺りを見回せ、少し新鮮だった。
 川を徒歩で突っ切る道を選んだのは吉次、フリーデライヒ、ジークリンデ、空。
 逆に橋を使う道を選んだのは風葉、八十八彦、羅門、ブラッディ、レビィだ。
「先に行って火をおこしておくから、急がずゆっくり来なよ」
 ブラッディが風葉の隣で片手を揺らす。
「渉り終えたら休憩じゃけえ、気張っていくんじゃぞ」
 八十八彦もエールを送った。
 川を進み始めた一行を見、レビィが笑う。
 コートが濡れると厄介なため橋ルートを選んだが、川組もなかなか楽しそうだ。
「でもあんまり疲れ過ぎるのは良くないからねー」
 と、足場の感覚が変わる。橋が終わったのだ。
 ブラッディが周囲から枝を集め、焚き火を作りに川辺へと向かう。
「川渉り、か。折角あるんだし橋を使えば良い気もするが‥‥まあ修行じゃ仕方ないな」
 羅門はそう言って肩を竦めた。
 視線を向けると、川組は渉りきる一歩手前という所まで進んでいた。

 時間は少し戻って、吉次達は四人で川を渉っていた。
「コケても俺は助ける気は無ェからな?」
 ケケケと笑い、空は吉次の横を通り過ぎて先まで進む。その身は水蜘蛛によって水面に浮いていた。
「むむむ、なんと便利な!」
「もしお主が水蜘蛛を使えたとしても、転んで仕舞いじゃろうなあ」
 フリーデライヒの言葉に空が「違いねぇ」と頷く。
 反論しようかとも思った吉次だったが、自分で想像してみても同じ結果になってしまうのでやめた。
 空は石などをスイスイと避けつつ、しかし吉次から離れすぎないように進む。
 これはいつでも助力出来る様に‥‥という訳ではない。吉次をいつでも弄れるようにするためだ。
「ふむ、やはりそれなりに足腰を使うようじゃ」
 フリーデライヒは滑らぬよう、慎重に足を運んだ。深すぎず流れも緩やかな川だが、流れはなめてかかれる相手ではない。
「そろそろ岸ですよ」
 吉次に背負われたジークリンデが嬉しそうに前を指差す。
「それそれ、吉次。そんなペースじゃ鍛錬にならんぞォ?」
「あと少しか‥‥そうだな!最後くらいはペースを上げるぞ!」
 空の言葉にざぶざぶと足を早める吉次。川岸ではブラッディらが焚き火の準備をしているのが見える。
「やれやれ、忙しい男じゃのう。‥‥ん!?」
 ぬるり、とした感触。
 しまったと思った時には既に視界は水に覆われていた。
「っぷは!」
「だ、大丈夫か!?」
 吉次が驚いた顔をする。
 フリーデライヒが滑って転んでしまったのだ。
「‥‥ま、これはこれで問題無かろうかの」
 フリーデライヒがそう呟く。着衣は濡れて透き通り、肌にぴたりと張り付いてしまっていた。
「おい、本当に大丈――」
「‥‥ふ、もっと見ても構わぬぞぇ?」
「――そ、そういうことは、き、聞いておらん!」
 吉次は彼女を見ないようにしつつ手を貸す。熱かろうが暑苦しかろうが一応男なのである。
 なんとか川を渉り終え、合流した一行は火にあたることにした。


 ぱちぱちと爆ぜる焚き火で服を乾かしつつ、九人はここで休憩を開始する。
「巫女兼魔術師の本領発揮ね!」
 風葉がキュアウォーターで水を清め、氷霊結で凍らせる‥‥が、氷が出来たと同時に風葉はへにゃりとした。
「でもこれは錬力の消耗が半端ないわね‥‥うう、疲れてきた‥‥」
「まだ先は長いぜェ?」
 空が氷を受け取ってくつくつと笑う。そのまま氷をジークリンデに手渡した。
 彼女はそれを手回し式かき氷削り器で削っていく。今日という日にうってつけの面白い道具だ。
「私はこれを持って参りました」
 果実のピュレと大粒のあずきを取り出してみせるジークリンデ。細かく削れた氷によく合いそうである。
「一口目いっていい?」
 レビィが嬉しそうに聞き、OKが出るやいなやかき氷をぱくりと口に含む。
 順調にぱくぱくと食べていたレビィだったが、途中でぴたりと動きを止めた。
「どうされました?」
「‥‥寒い」
 大変!とジークリンデはレビィを火の近くに誘う。一気に食べるのは難しいようだ。
「手伝うよ」
 ブラッディが言い、削り器を回して氷をしゃりしゃりと削ってゆく。
「ほい、風葉の分」
「貰うー。これでちょっとは体力も回復するかな‥‥」
 はぐはぐと食べていた風葉だったが、ふとある事に気付いて視線を巡らせた。
「やーくんは?」
「ああ、さっき川遊びに行った。ほら」
 ブラッディが指差した先で、八十八彦が何やら川の魚を追っている。器用なもので、あと少しで捕まえられるところまできているようだ。
「‥‥私も混ざろうかしら」
「また疲れるよ?」
 義弟と遊びたくはあるが、疲れるとこの先もっと辛い。
 また体力のある時にしよう‥‥と、風葉は今回は諦めることにした。


●崖の先
「これだけあれば弁当を食べる時、更に豪華になりそうじゃの」
 捕れた魚を焼き、紐を通して持った八十八彦がご機嫌な様子で言う。
「それにしてもかき氷は美味かった。そうじゃ!ねーちゃ。こないだねえ、シロップに果物をダイス状にカットした豪勢なのを見たよ」
「へー、美味しそう‥‥!」
「急にはできんけど、今度また作ろうね」
 微笑む八十八彦を風葉はぐりぐりと撫でる。義弟が可愛くて仕方ないのだ。
 その時、前方に居た空が「げっ」と言って立ち止まった。
 ‥‥崖だ。気をつけて上れば大丈夫そうだが、低くはない。
「あー‥‥こりゃまた」
「かなり向こうの方まで続いてるようだな」
 空が頭を掻き、羅門が左右を見て言う。
「てかワザと厳しい道選んでるんじゃねーだろーな、あ゛?」
「そんなことはない、ただ回り込むと夜になってしまうのだ」
 吉次は空にそう返すと、もう一度崖を見上げた。
「!?」
 そして目を疑った。
 レビィが一気に駆け上がろうと飛びついたのである。
「うっ、やっぱり生身で一気にはいけないかぁ」
「良い根性じゃ、お主はやらんのかぇ?」
 フリーデライヒにそう言われ、またもややる気を出した吉次はわっしわしと崖を登り始めた。
「さて、妾もゆくか」
 フリーデライヒも崖をよじ登ってゆく。得物が重いがここは我慢である。
「ふーん、それなりにしっかりしてるみたいだな」
 空は足場を確かめ、そして三角飛を交えつつ登り始めた。吉次がまた目を真ん丸くしたが気にしない。
「なんという妙技‥‥」
「吉次、急いで登れー。じゃねーとうっかり何かが落ちてくるかもよォ?」
「な、なに!?」
 先に登りきった空の声に吉次が大いに焦る。
「後20秒なー」
 もちろん冗談ではあるが、吉次のスピードを上げるには十分だった。
 それでも羅門に負けてしまっているのが情けないところだが。
「おーい、荒縄を下ろすからこれを伝って来てくれ」
 羅門が近くの木に荒縄を括り付け、それを崖の下に垂らす。一本では足らないだろうと空も二本目を垂らした。
「よ、っと!」
 吉次がジークリンデを引き上げ、縄で上ったブラッディも同じく風葉を引き上げる。
「ふう‥‥これで全部か?」
 羅門が額の汗を拭い、皆を見回す。全員登りきったようだ。
「ほいじゃが、ここまで来ればあと少しかいのう?」
 八十八彦が情報をメモしておいた紙を見て言う。この後花畑を抜ければ目的地だ。
「‥‥少し、だと良いんだけど」
 風葉が面倒くさげな声で言い、木々の向こう側を見据えた。
 ――何かが息をする音がするのだ。ふごふごと。
「ん?来たのかぇ」
「で、出たか獣め!」
 フリーデライヒが刀を構える。そしてその影に隠れる情けない吉次。曰く、人間なら良いが獣はダメらしい。
「まさに猪突猛進じゃな!」
 ガサッ!と姿を現し、こちらに走ってきた猪に斬竜刀「天墜」を一閃させる。
 それを頭に受けた猪はそのまま倒れこんだ。
「おっと、いかせないよ」
 別の猪が走り出そうとするが、ブラッディの矢が足元に刺さり驚いて足を止めた。
 だがまた別の猪が突撃してくる。
「まったく面倒だな」
 言いつつ空は水遁を発動させた。
 猪は突如現れた水柱に驚き、しかし突進を止める事も出来ずに転倒する。もがく猪に空は忍刀を突き立てた。
「一対多数はちと骨が折れるなぁ‥‥ん?」
「うお!」
 吉次の声にいち早く反応したのは羅門だった。
 一頭だけ真っ黒な猪。吉次は事前に八十八彦から加護結界をかけてもらっていたが、怪我をしないとは言い切れない。
 その間に瞬脚で割って入り、羅門は猪を弾き返した。


 数分後。
 ジークリンデのアークブラストにより、大半の猪は閃光に驚いて逃げていった。
 仕留めたのは普通の猪二頭と、黒い猪一頭。ライバル決戦の前の良い腹ごしらえになるだろう。


「花畑じゃ!」
 駆けていく八十八彦の目の前に広がるのは様々な花の咲く花畑だった。
「さて、最後の休憩にしましょうか」
 ジークリンデは手作りの弁当を広げる。
「へえ、上手いじゃないか」
「良い嫁さんになりそうだな!」
 羅門と吉次が美味しそうに言う。さすが早起きしただけある、という感じだ。
「俺はちょっと薬草でも探してくるわ」
 吉次の肩を叩き、空は薬草はないかと見回しながら歩いていく。
「月、こっち来て」
 風葉がにこにことしてブラッディを呼び寄せた。
「ん?なに――って、えと、花輪‥‥いいの?」
「月のために作ったのよ?」
 にこりと笑う風葉にブラッディは照れ笑いを返し「にあう、かな」と花輪を頭に乗せてみせる。
 こうしていると二人とも普通の女の子だった。
 そんな開拓者たちを前に、吉次が改まった顔つきで口を開く。
「ここからは十分もかからぬ。少し早いが――皆、依頼を受けてくれてありがとう!」
 頭を下げた彼にフリーデライヒが笑みを浮かべる。
「よいよい。その代わりお主らの戦い、見届けてもよいか?」
「うむ!見られていれば気も引き締まる」
 少し緊張するが、と少しではない緊張の仕方をしつつ吉次はそう返した。


 村の入口に立つ男が一人。――短髪のライバル、実勝だ。
 彼は道の向こうから歩いてくるのが吉次だと気付くと、普段は殆ど変えない表情を動かした。
 その様子を八十八彦が「どちらが攻めっぽいか、受けっぽいか」と誤解たっぷりにメモしたため、どのような形でギルドに伝わったかは‥‥今は伏せておく。

 兎にも角にも、ライバルは再び巡り会い、往年の約束を今やっと果たせたのだった。