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■オープニング本文 ●とある村 赤い夕焼けが目に沁みる。 南橋石斑魚は背負子を揺らしながら道を急いでいた。 (早くしないと日が暮れるな‥‥) 見れば東の方はもう暗くなり始めている。 もう少しで次の村が見えてくるはずだ。そこで夜を明かそう――そう思い足を早めた石斑魚だったが、やっとの思いで着いた村の入口周辺はシンと静まり返っていた。 「まあこの時間ともなれば普通、か」 一瞬違和感を感じた石斑魚だったが、急いていることもあり詳しい確認をせずにそれを拭い取る。 事前に隣村で聞いてはいたが、小さな村だった。 住んでいる住民はほとんど親戚らしいが、その誰ともすれ違わない。 畑仕事から帰る途中の人間と出くわしてもいいものだが、本当に誰も居なかった。 廃村と化したのかとも思ったが、そうなれば隣村にも話くらいは伝わるだろう。それにそこかしこに放置されている様々な道具はまだ現役といった雰囲気だ。 「‥‥」 散々困ったことに巻き込まれてきた石斑魚は嫌な予感がした。 柵に刀が刺さったまま放置されている。 (人間か、ケモノか、アヤカシか‥‥まだ分からないな) 早々に立ち去るべきかもしれない。 そう思った時、離れたところから子供の泣き声がした。 「ぬ‥‥」 石斑魚はこのまま見て見ぬ振り‥‥聞いて聞かぬ振りをすることの出来る男ではない。 無いよりはマシだろうかと刀を抜いてみる。が、刀の扱いに慣れていない石斑魚には少々重すぎた。 仕方ない、と護身用に持っていた懐の小刀を取り出し、背負っていた本を民家の影に隠して歩き始める。 声のした方を目指すと大きな家が見えてきた。どうやらここの村長の家らしい。 玄関の前まで来た石斑魚は眉根を寄せる。玄関の左右に何者かが足踏みをした跡が残っていたのだ。それはその場でずっと立たされ、暇つぶしにと地面を足で弄った跡のようだった。 逡巡するが、見回しても周りには何も居ない。 意を決して小刀を握ったまま玄関の戸を開ける。 まず目に入ったのは広い土間。 そこに手足を縛られた老若男女様々な人間が居た。 一目見て「これは人間の仕業だ」と石斑魚は確信する。ケモノはほとんどの場合こんなことはしないし、アヤカシも食料をこうして放置しているとは思えない。もっとも、後者は知能が高いものの場合どうなるかは分からないが。 どうやら泣いたのはこの中に居た子供らしい。 「大丈夫か」 目を丸くしていた住民たちに声をかけ、一歩踏み出す。 この時、石斑魚も多少は混乱していた。 だからこそ背後の気配に気がつくのが一瞬遅れたのだろう。 振り返ろうとした瞬間、後頭部に激しい衝撃を受けて前のめりに倒れ込む。帽子が柱の下まで吹き飛び、眼鏡は泣いていた子供の足元に落ちた。 頬に当たる固い地面。 石斑魚が覚えているのはここまで。――今回、彼は自分の足でギルドに赴くことはなかった。 ●目を閉じたその後に 「こいつ一人だけか?」 髭面の男が角材を床に投げ捨て、後ろに居たひ弱そうな男に聞いた。 彼らは最近勢力を拡大しつつある盗賊集団である。この他にも村の各所には数十名の仲間が潜んでいた。 先刻、村人を抑え込み物色中の彼らに一報が届いたのだ。村に訪問者あり、と。 誰かが駆けつけるには早すぎる、だが警戒はしておこう、ということでしばらく泳がせておいた。 「仲間らしき奴は見当たらないっすね」 ひ弱そうな男が肩を竦めてみせる。 そうか、と言って髭面の男は倒れている石斑魚に近づいた。縛られた住民たちは震えて声も出ない。 頭から出血し、目を半分開けたまま倒れている石斑魚だが、まだ生きてはいるらしい。 「‥‥ふん、こいつも縛っておけ。止血は任せる」 「口封じしないんで?」 バカヤロウ!と言って、髭面の男はニィッと笑った。 「俺ぁ、昔っからやってから後悔するタイプなんだよ!!」 勢力を伸ばしているのは、その臆病さからくる慎重な行動のおかげだった。 石斑魚へ背後から近づく前、やるぞやるぞやるぞと自己暗示をかけていたのを知っているひ弱そうな男は、また肩を竦めると「へい」と頷いた。 ともあれ、石斑魚の来訪により冷静さを欠いた髭面の男。 しばらくして来た別の旅人により異常事態の知らせは外に漏れ、それは速やかにギルドへと届いたのだった。 |
■参加者一覧
珠樹(ia8689)
18歳・女・シ
千代田清顕(ia9802)
28歳・男・シ
西光寺 百合(ib2997)
27歳・女・魔
東鬼 護刃(ib3264)
29歳・女・シ
ルー(ib4431)
19歳・女・志
龍水仙 凪沙(ib5119)
19歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ●闇の村 家の壁も、屋根も、田畑も、道も、近くにそびえる山も、今はすべて同じ色に染まっていた。 闇に包まれた村は普段より静かで、虫だけが遠慮がちに鳴いている。 その中に小さな小さな灯りが点在していた。 「あれが見回りの賊じゃな」 東鬼 護刃(ib3264)が言う。 開拓者たちが現在居るのは村より少し高い場所。こちらは灯りをつけていないため、近づきすぎなければ発見される心配はない。 見回りの動きを見る限り、あまり規則性はないようだ。 「手当たり次第に見回りをされるというのも厄介だね」 そうルー(ib4431)が呟く。 きちんとルートが決まっていれば、こちらも隙を突きやすかったのだが。 「とりあえず‥‥最優先すべきは人質の命よね。頑張ろう」 龍水仙 凪沙(ib5119)があの村の中で怯えているであろう人質たちのことを考えながら言う。 早く救い出して今まで通りの生活をさせてあげたい。 そんな願いを胸に、六人はそれぞれの持ち場についた。 ●潜入 (全員、無事だといいけれど‥‥) 西光寺 百合(ib2997)がルーと共に村の出入り口を目指しつつ、ふっと湧いてきた不安に眉の端を下げる。 彼女たちは三班に分かれた内の『変装班』だ。 活動は――まさしく、その名の通りである。 「なんだお前らは?」 まず初めに二人を見つけたのは、出入り口の警戒を任されていた男二人だった。片手に太い槍を持っており、人相がとても悪い。服は質素‥‥というよりボロボロで、防御力はあまり無さそうだ。 その内の一人がこちらに近づいてくる。 百合はルーの肩を借り、包帯を巻いた片足を引きずりながらそれに応対した。 自分は薬草師であり、薬草を摘みにきたところ怪我をしてしまった。困っていたが村があるのを思い出し、ここまで案内人と共にやって来た、と説明する。 案内人に扮したルーも同じ説明をする。 「‥‥」 見張り二人は顔を見合わせて無言になった。 夜中の訪問者には警戒しろ、と頭には言われている。 疑いの目で見てみれば、日が暮れるまで薬草を探していた割には小奇麗だ。怪我の理由も詳しく説明されていない。 しかし相手は女性二人のみ。 何か罠があったとしても、自分の腕力でなんとかなるのでは‥‥と、男は思ってしまった。 「お二人は村の方ですか?」 ルーにそう問われ、男は視線をこちらに戻し――そして、使い慣れない作り笑顔で頷いた。 珠樹(ia8689)の超越聴覚が見張りたちの動き回る音を捉える。 変装班が一番厄介な位置に居た見張りを引き付けている間に、潜入壱班と潜入弐班に分かれた四人は上手く村の中へと潜り込んでいた。 潜入弐班、珠樹と共に行動するのは護刃だ。 「む?」 暗視を使っていた護刃が何かに気付いて足を止めた。 視線の先には木に繋がれた馬たち。この村の家々に馬小屋が無いことから考えると、どうやら盗賊の馬らしい。 珠樹と視線を交わし、馬を驚かせないようゆっくりと近づいて縄を切る。馬はきょとんとしたままこちらを見ている。 「行きなさい、自由に走ると良いわ」 ぺしんと軽く尻を叩くと、驚いた馬たちは嘶いて暗闇へと走り去っていった。 馬の声に誰かが気がつく前に二人はその場を離れる。 「夜はわしらの時間。昏黒に潜む龍影を捉えることできるかのぅ‥‥さ、狩りの始まりじゃ」 護刃の顔には不敵な笑みが浮かんでいたという。 潜入壱班には千代田清顕(ia9802)と凪沙が所属していた。 盗賊の逃亡を阻止するため、潜入壱班は潜入弐班とは逆サイドから潜入する。 逆にももちろん見張りが居たため少し時間を食ったが、その見張りは昏倒させることによりパスした。騒ぎになるのが少し早まるかもしれないが、そろそろ他の班の皆も行動を起こし始めた頃だろう。 暗視と超絶聴覚を常に発動させ、清顕は闇の中を警戒しながら進む。暗視を持たぬ凪沙には外套の裾を持ってもらうことではぐれないようにした。 「千代田さん、そろそろかな?」 「ああ」 手近な家の陰へと隠れ、凪沙は人魂を放つ。 「ちゅっちゅっちゅー。鼠さん、私の目となれ耳となれ〜」 凪沙が人魂で障害物の向こう側や家の中を偵察している間、清顕は辺りの警戒を怠らずにいた。足音はまだ遠いが、こちらに向かっている者が居るようだ。 じっとしていればバレないかもしれないが、こちらは単独ではなく二人。それなりにかさ張るため、見つかる可能性も高くなるかもしれない。 ちらっと見てみると、凪沙はまだ偵察中のようだ。 彼女の目と耳は現在、村長の家と思しき場所を探っていた。ここが村の中で一番大きな家だ、誰か居る可能性は高いのではないかと凪沙は踏んでいる。 そして‥‥。 (居た、こんなに沢山‥‥!) 男も女も子供も関係ない。 皆が皆、縛られて閉じ込められていた。 「凪沙さん、そろそろマズそうだ」 小さな声で清顕がそう言い、人魂と視覚、聴覚を切り離した凪沙が頷く。 見回りの足音はスキルを使用していない凪沙の耳にも届く程になっていた。 見回りは二人組。どうやら頭に単独で動くなと命令されているらしい。その見回りの喋り声が聞こえてきた。 「俺ぁ早くアジトに戻りたかったんだがなぁ」 「下手なこと言うもんじゃないぞ。頭から聞いただろ、日暮れ時の山は怖ぇって」 「馬でならすぐだろ?‥‥おい待て、なんだ」 小さな物音に反応した男がビクリとする。 「うおっ、何か足元を走ったぞ!」 「どうせ鼠か何か――がッ!?」 「なっ、どうし‥‥」 男が仲間の奇妙な声に振り返りかけた瞬間、彼の鳩尾に何かが食い込んだ。棍棒だ。 一瞬横隔膜がいう事をきかなくなり、呼吸困難に陥った隙を見計らって二撃目がこめかみにヒットする。 失神した彼を清顕、倒した当事者が支える。なるべく音を立てないためだ。 もう片方の男は凪沙の式に気をとられ、そして食らった強烈な一撃によりすでに伸びていた。 「ふう、思っていたより簡単だったな」 二人に猿ぐつわを噛ませ、手足を縛って納屋に隠す。その際に片方の服を拝借し、目を欺くために清顕はそれを着込んだ。 木の幹に隠れ、珠樹は背の高い男と背の低い男の様子を窺っていた。 変装班はあの後ある家に連れ込まれた。物音からして、その中には何人かの盗賊が居るらしい。この二人はその家から出てきたのだ。 「前しか見ておらず、小走り‥‥ということは、見回りという訳でもなさそうじゃな」 護刃が言い、珠樹も同意する。 とすれば、あれは連絡係だろう。侵入者の存在が有害であれ無害であれ、頭に知らせに行くつもりだ。 「これは阻止してあげないとね」 珠樹がマフラーに口元を埋め、そっと男たちの後ろに回る。そして小刀の柄で思い切り後頭部を殴った。 「誰、ぐっ!?」 片方の男が驚いて振り向くが、そこには既に抜足で近づいた護刃の姿。 しかし運が良かったのか、彼は転んだことにより護刃の手刀から逃れた。 「‥‥水遁は苦手じゃが、ここの龍脈とは水が合うようじゃ」 腰を抜かしつつも逃げようとする男に向かって、護刃の水遁が炸裂する。派手に水柱の立つこれを使ったのは、周りに他の見回りが居ないことを確認したからだ。 男は平衡感覚を失い、再度すっ転ぶ。その際に松明も消えてしまい、視界が闇に包まれた。 その闇の中から聞こえてくる苦しげな声。 「よし、死んではおらぬな」 首を絞めていた手を離し、護刃は立ち上がる。 珠樹と二人がかりで男たちを拘束すると、それはあっという間に終わった。 ●甘言 「人質を傷つけずに金銭だけ持って行くなんて‥‥義賊ね。素敵だわ。それに私たちまで助けてくれて‥‥」 家の中へと招かれた百合は、盗賊と説明されて尚ニッコリと笑ってそう言う。 「それはお前さん方が美人だからさ。華奢でか弱そうな、な?」 その隣で肩を男に触れられ、一瞬嫌そうな顔をするルー。 しかしこれも作戦と割り切り、表情を無理やり元に戻す。 「あんなに静かだったのに、ここには大勢いらっしゃるんですね」 「ここには見張りの交代が待機してるのさ、夜通しだと寝ちまう奴が居るからな」 「頭は慣れない場所でも慎重さを失わねぇなぁ」 ルーの問いに男たちはそれぞれそう答える。 家の中に居たのは六人。大体一時間ごとに二人ずつ交代しているらしい。出入り口に戻った二人を含めると八人だ。 「ね、秘蔵のお酒を持参しているの。よかったら振る舞わせてもらえないかしら?」 「へえ、それはいいな。この村はショボすぎて酒がほとんど無かったんだよ」 と、男が酒に手を伸ばす。 この天儀酒は百合のセイドにより痺れ薬になっていた。飲めば体の自由がきかなくなる。 しかし―― 「待て」 「なんだよ」 この中で一番年長者と思われる男に止められ、不機嫌そうな声を出す。 「得体の知れぬものを無警戒に飲むな。ここはどこかの飼い犬にでも毒見を‥‥」 「うっせえ、俺が酒の中毒だって知ってんだろ?」 制止を聞かず、男はぐびりと一気に酒を呷った。 そしてピタリと止まる。 その手から瓶が落ち、床で砕けた。 「お前ら!やはり何か仕込んでッ‥‥」 最年長の男が立ち上がろうとするも、一気に襲ってきた眠気に倒れ込む。百合のアムルリープだ。 百合はくすっと笑う。 「あら、眠くなっちゃったの?‥‥ゆっくり、おやすみなさい」 家の中がざわつき、それにより生じた隙をルーは逃さなかった。 「!?」 凄まじい咆哮に残った全員がルーの方を見る。その一番手前の男にルーは剣気を放った。 「ひいっ」 怯んで尻餅をついた男を不思議そうに見、そして何かされたと理解した三人はすぐさま武器を取り出す。 途端にぐらつく視界。ルーのナイフの柄が唸り、額を殴り飛ばしたのだ。 瞬間、左側に閃光が現れ、後から音がついてきた。 百合のサンダーを足に食らった盗賊はその場に倒れ、全身を痙攣させる。残った一人は仲間の状態を見、顔面を蒼白にすると出口に向かって走り出した。 「逃がさないよ」 隼人のかかったルーは簡単に追いついた。 無念、男は他の仲間と同じく地面に体を横たえる。 「おい、なんだ今の声と轟音は!」 見張りをしていた二人が駆けつけたが――そこには百合とルーの姿が。 彼らはすぐに、不用意に戸を開けたことを後悔した。 ●知らせの音 ピイイイィィィィ――――!!! 清顕の呼子笛の音が村中に響き渡る。 目前に迫っているのは村長の家。凪沙により、ここに人質と‥‥そして、盗賊の頭が居ることが分かっていた。 自分から目立つ音をたてたのは村の中の盗賊が減っていたからだ。まだ合流はしていないが、護刃と珠樹も結構な人数を沈黙させたらしい。 つまり、この呼子笛は敵ではなく仲間を呼び寄せるために吹いている。 「なんだぁ!?」 まず反応したのは冷や汗をかいた盗賊の頭だった。 その後に続いたのがひ弱そうな男。そして見張りらしき男二人だ。 庭に出て素早く見回すも、隠れた清顕と凪沙を見つけることが出来ない。 「あれを片付けないと中の人たちを助けることは出来なさそうだな」 小声でそう言い、清顕は再び音を確認する。‥‥仲間の足音は近い。 (ならば) 不意打ちを狙い、盗賊の一人に向かって突進する。 多節棍が唸り、首筋を打たれた男は地面に転がった。 「おま‥‥」 頭が言い終わる前に、彼の目にとんでもないものが映った。 巨大な牙、怒るように剥かれた目、堂々たるヒゲ、巨大な鼻穴。龍だ。 「ぅひいっ!?」 息を詰まらせながら頭は悲鳴を上げる。そのまま滑って転び、手を使って後ろ向きに尻を擦りながら後退した。 その姿を見て、大龍符を放った凪沙はにやりと笑う。 「気絶しないとは結構タフだな」 しかし腰はしばらく使い物にならないらしい。 「お前たち、一体‥‥」 「ふふ、焦るな焦るな」 駆けつけ、ひらりと身を躍らせた護刃が笑う。 「冥府魔道は東鬼が道じゃ。今宵はその淵まで案内してやろう」 「な――」 恐らく参謀をしていたのであろうひ弱な男。その意識を護刃が根こそぎ奪う。 残った二人の内、片方の鳩尾に珠樹の一撃が入った。倒れ込む男から離れ際、残りの一人が繰り出した攻撃を刀で受け、そのまま流す。 「油断しすぎだよ」 秘術・影舞により一気に接近した清顕が男の首にがっちりと腕を食い込ませ、そのまま落とした。 そしてまだ立ち上がれない頭の前まで行き、多節棍を突きつけて言う。 「観念しなよ。年貢の納め時だ」 ●終わりに 潜入から一時間後。 変装班が仕留めた盗賊は百合により縛り上げられ、そのまま家の中に転がされていた。 普通に縛られた他、親指もしっかりと固定されている。縄抜けのプロでもない限り、どうすることも出来ないだろう。 村の盗賊は十八名倒され、残りの二名は騒動にすら気付いていなかった。その二名も交代に帰ってきたところで捕まっている。‥‥正確に言うと、凪沙に股間を蹴られて気絶した。 「っ‥‥」 百合が村人の手当てを済ませ、今度は石斑魚の応急処置を始めた時、やっと石斑魚が目を覚ました。 「開拓者、か?」 「ええそうよ。それにしても盗賊さんに止血してもらえて良かったわね‥‥私じゃ応急手当しか出来ないから、ちゃんとお医師に見てもらってね」 「‥‥すまない、世話になるな」 そこへ清顕と護刃が歩み寄る。以前縁のあった二人だ。 「久方ぶりに会うて見れば随分な姿じゃな?」 「ああ、自分でもそう思っているところだ。恥ずかしいところを見せたな」 「また巻き込まれたのかい。相変わらずだね」 清顕にも笑われ、「そういう星の下に生まれたらしい」と石斑魚は肩を竦める。 清顕は石斑魚のこういうところを悪くは思っていない。 「余程厄介事に愛されていると見える。ま、無事で何よりじゃ」 「愛されるなら人間の方が良いがな。‥‥そうだ、村人と盗賊は?」 「人質はさっき全員保護したよ」 包帯を持って来たルーが言う。 ルーと百合が見張りを伸した際に、他の人質の居場所を聞きだしたのだ。そのおかげでスムーズに保護することが出来た。 「そうか‥‥よかった」 石斑魚は安堵の声を漏らす。 「打ち漏らしが居ないか見てくるわ」 部屋の端で皆の手当て風景を見ていた珠樹が出ていく。念には念を、だ。 こうして時は経ち、闇に包まれていた村へと最初の朝日が差し込む。 太陽に照らされた村は、あんなことがあったとは思えないくらい普段通りの姿をしていた。 そこへいつもの村人の姿が戻るのも、もうすぐのことである。 |