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■オープニング本文 ――恨めしや。あな恨めしや。 裏切られて悲しや、切なや 見捨てられて寂しや、虚しや。 引き裂かれて憎々しや、恨めしや。 彼の人が恋しや、会いたや。 もう一度、せめてもう一度。 会ってお話したや、お傍に着きたや。 屠ってしまいたや、喰らってしまいたや。 ――恨めしや、左門様――。 ●隣家の異変 「おっかしいよなぁ‥‥」 「もふ?」 五行のとある寂れた村。 首都結陣(ケツジン)へと至る街道沿いに佇むこの地は嘗て、宿場町として栄えた場所でもあったのだが、アヤカシの脅威が増した昨今では旅人も目に見えて減少の一途を辿り‥‥。 今では農牧業を営みながら、細々と暮らす者達が集う貧しい村となってしまっていた。 そんな中、もふらさまの世話をしていた一人の少女が、一軒の民家を見遣りながらそう呟く。 そこは、自身の住まう家のすぐ隣に佇む、村の中では比較的大きな平屋。 この時期になると、庭には一杯の紫陽花が咲き乱れ――見事ではあるのだが、それ故何処か近づき難い雰囲気をも醸し出している。 で、一体何が変なのかと言うと。 「この家の左門(さもん)さん、ここんとこず〜〜っと表に出て来てないんだよ。 ‥‥いや、奥さんのお眞(おしん)さんだっけ? あの人の訃報が届いてから暫くの間、少し引き篭もりがちになってた事もあったけど‥‥」 「もふ」 「ん、もふりーもそう思う? そう、なぁんか嫌な予感がするんだよねぇ‥‥」 ――ちなみに言っておくと、この少女はもふらさまと会話が出来る、と言う訳ではない。 もふらさまのもふもふ言うのを、勝手に相槌と解釈しているだけだ。多分。 ともあれ少女は、気になりながらも人の家に勝手に上り込む訳にも行かず、毎日こうしてもふらさま相手に一人芝居をしながら左門宅の玄関口を眺めているだけだった――のだが。 「!!?」 「もふ?」 「い、今何か‥‥聞こえた?」 耳を澄ませば、風音よりも遥かに小さく聞こえて来るのは、誰かの声。 ――――くれ――るしてくれ―――許してくれぇぇ――ッ―――。 「この声‥‥もしかして、左門さん!?」 次の瞬間、少女は駆け出していた。 紫陽花が生い茂る玄関先を掻き分け、履物を脱ぎ散らかして飛び込んだ館の中――そこはまるで誰かが争った後の様に、盛大に散らかされていた。 そして真っ直ぐ伸びる廊下を抜け、正面に見えるズタズタに引き裂かれた障子の部屋へと駆け込むと、その只中には寝巻きの男性が倒れ伏していて。 「さ‥‥左門さん!! 左門さん、一体どうしたの‥‥!?」 少女は声を掛けるも――それ以上部屋の中へは入れない。 と言うのも、物の少ない部屋の中にはどう言う訳か、屋内に咲く筈の無い紫陽花の花や葉が散乱していたのだから‥‥それは気味も悪くなる。 すると、左門は小さく呻きながら、手の中の何かをギュッと握り締め――。 「し‥‥ん‥‥」 「――え?」 「‥‥お、お眞が‥‥お眞が来る‥‥。お眞が‥‥ッ」 ――少女は息を呑む。 彼の握り締めた右手から、ゆっくりと赤黒い液体が畳を這って流れ出て来ていたからだ。 だがやがて、気を失ったかはらと指の力が抜け、その拍子に握り締めていた者が転げ落ちる。 それは、紫陽花の花を描いた豪華な櫛‥‥お眞が生前、愛用していた物であった。 ●お眞と左門 「‥‥左門、とある志士系氏族の出の青年。士体は持たない極普通の一般人、と。 大してお眞‥‥此方は元富豪商家の娘。二人は双方の両親から結婚を猛反対され、駆け落ちして件の村に落ち着いた。 ところが左門の元許婚に居場所を知られ‥‥‥‥ふむ、お眞はこの女に謀殺された訳ね」 そしてその後間も無く、許婚は謎の病死‥‥更には奇妙な事に、左門とお眞の両家の親御達も行方知れずとなってしまったのだそうな。 もっとも、事の詳細な顛末に関しては情報操作によって随分と誤魔化されては居たのだが‥‥関係者としてもこの様な奇妙な事件が立て続けに起こったとなると、穏やかでは居られなかったのだろう。 村の農家の少女から依頼が舞い込むと、ほぼ同時に匿名でこれらの情報がギルドに寄せられて来た、という訳だ。 「ま、良く歌舞伎なんかで見る怪談話ね。もっとも、これは正真正銘『実話』と書いて『マヂ』だけど。 ‥‥でも、それだけにこんな事例、今まで見た事無いわ‥‥いや、亡霊の類のアヤカシは結構出てくるんだけど、こんな出来すぎてるって言うか、如何にもって言うか、ぶっちゃけ嘘臭いって言うか‥‥ねぇ」 と、先程から受付卓に頬杖を着き、大福片手に資料を読みながらぶつぶつと呟いているのは、開拓者ギルドの案内役を務める緑髪の女性、安藤亜紀(あんどうあき)。 そんな彼女におずおずと開拓者が声を掛けると、途端に亜紀は卓上から跳ね上がって「何しに来たの!?」と言わんばかりの目を向けて来た。 ‥‥案内役がそんなんで良いのでしょうか。なんて言ってしまうと、幽霊系アヤカシでさえも風圧で吹っ飛ばしてしまいそうな蹴りが飛んで来そうなので控えるとしよう。 閑話休題、開拓者は亜紀が今まで見ていた依頼書の確認を願い出る。 すると亜紀は渋々ながら、依頼の説明を始めるのだった。 |
■参加者一覧
恵皇(ia0150)
25歳・男・泰
紅(ia0165)
20歳・女・志
当摩 彰人(ia0214)
19歳・男・サ
翔 優輝(ia0611)
13歳・女・陰
竜泉 充流(ia0782)
20歳・男・巫
越智 玄正(ia0788)
28歳・男・巫
雲母坂 芽依華(ia0879)
19歳・女・志
八十神 蔵人(ia1422)
24歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●抜け殻の左門 「左門の兄さん、何があったにしろ後腐れなく行くのが一番でしょ!」 布団から上体だけを起こした姿勢の左門、虚ろな目をしている彼に対し当摩 彰人(ia0214)はあえて明るく諭してみる。 「人間、笑みを湛えて生きていくのが一番だ♪ 自分なりに罪を償ってでも生きるなり、少なくとも相手の女性の事想ってあげなきゃ☆ 暗いだけじゃ先は見えない、ぱぱっと片付けて明るい日の目を見ようや♪」 「‥‥‥‥」 彼の励ましも、左門の耳には届いていないようだ。 どうしたものか、と言わんばかりに苦笑を浮かべる彰人に代わり、今度は八十神 蔵人(ia1422)が声を張り上げた。 「ここは発想を転換してみてはどや、死んだ恋人にまた会えた、と!」 「‥‥お眞‥‥」 ぽつりと呟くその声はとても悲しげ。これには蔵人も苦い顔をせざるを得なかった。 「‥‥はぁ。ダメやな。 つうかお眞殺したんは元許婚やし、お眞が死んだ後左門は別に他の女とくっついたわけでもないし‥‥普通やと喜んで後追い心中でもする所やろ。 けどそうしないっちゅう事は、幽霊とは言え『お眞』に怯える理由あると? ――何を隠しとる、こいつ」 「まあ、こういう事情の場合、色々と話し難いこともあるだろう。 男が色々悪い部分もあるだろうしな、その辺りを話して貰えると俺達としてはとても助かるんだが‥‥」 ふと上げられた虚ろな視線は、冷静な声で諭す恵皇(ia0150)の姿を捉える。 「心配するな。何があってもお前を責めはしないさ」 そう念を押す彼に促されるまま‥‥やがて、少しずつ左門は語り始めた。 お眞に対して、自身の為した事。見殺しにした、と言う自らの罪を。 ●アヤカシかそれとも 「恋愛事情のもつれは厄介ですね。 まぁ、そうと決まったわけではないですが」 竜泉 充流(ia0782)が優雅に扇子を揺らしつつ上品な口調で言えば、隣の翔 優輝(ia0611)は同意する様に頷きながら腕組みをする。 「今回はアヤカシが絡んでいるかも分らないんですよね〜。 でもアレだよね。人間関係ってアヤカシみたいなもんだし」 「へぇ、詩人だね〜。 まあなんとな〜く、半狂乱的な感も否めないんだけどね、俺は!」 見た目の年齢以上に何処か達観しているというか、深い発言。 そんな優輝の様子に彰人はケタケタと笑みを浮かべながら言う。 要するに彼らの言わんとしている事は、実は今回の事件の犯人はアヤカシ等ではなく、左門に対して何かしらの因縁を持つ人間による仕業ではないか、と言うものだ。 それこそ死んだと見せかけたお眞か、或いは親族か左門の婚約者か――はたまた優輝等に至っては『お眞の元婚約者説』等を挙げていたが、どれが正しいか等今は未だ察し得る所ではない。 「だが、それにしては気がかりな点もあるのだよな‥‥」 越智 玄正(ia0788)が口元に手を当てながら切り出すと、話し始めるのはギルド伝手に調査をして貰った左門とお眞の背後関係。 「直に会って聞いた訳では無いのだが‥‥以前のお眞や左門の事を知る者や亡くなった婚約者、或いはその関係者の話によると、お眞は間違いなく死んでいるのだそうだ。 記録では一人旅の道中にアヤカシに襲われて没したと言う事になっているらしいが‥‥実際には婚約者に謀殺される形でな。 だがその後間も無くに奇怪な事件が起こり始めた為、恐れを為した関係者は婚約者宅に放置されていた彼女の遺体を入念に弔ったのだそうだ。 つまり、もし本当に犯人がお眞であれば‥‥」 「けどそれだって、はっきりした情報じゃないんですよね?」 優輝が訪ねると、玄正は何処か済まなそうに頷く。 何しろこれも『お眞の関係者』と言う以外は詳細不明の人物からの書簡で齎された情報だ、もし自分に不利な情報があったとすれば、それらを隠蔽する事幾らでも出来る。 「しかし、ある意味アヤカシであってくれた方が救いではあるが‥‥」 「う〜ん、クレちゃんの言う事ももっともかな。 けどまあ演技にしろ、第三者からの偽装にしろ何にしろやる事は一つ! 後腐れなくいきましょ〜かね♪」 ちなみに、クレちゃんとは紅(ia0165)の事らしい。 「‥‥大人の世界はボクには分らないや〜」 彰人の言う『後腐れなく』がどう言う意味なのか。まあ、悔いを残さない様に等と言う様な事なのだろうけれど、何だかこうも繰り返されるとそれ以外のニュアンスも含んでいる様に感じられて。 優輝が棒読みで誤魔化せば、充流は上品に笑みを浮かべながら言う。 「どっちにしろ怨恨ならば、被害が広がらぬうちに断ち切らなければなりませんね」 「それは同意どす。 しかし、奇妙な事件どすなあ。 うちが掃除しとったら、八畳間以外かてぎょうさんの紫陽花が見付かはったことやし‥‥」 雲母坂 芽依華(ia0879)が服の下に隠れた豊満な胸を抱える様に腕を組めば、同じく『玄関から八畳間へ続く場所に満遍なく』撒かれていた紫陽花に思う所があったか蔵人も口を開く。 「低級なアヤカシがわざわざ紫陽花摘んで部屋にばら撒いたとも思えんしなあ。 つうか、アヤカシやったら近くにおった女の子やもふらさまもついでに喰ってそうなもんやが‥‥やはりそれらしく見せる為の演出か?」 「有り得なくは無いが、かと言って館の周りの紫陽花には、摘まれた後も刈られた後も特に見受けられなかったしな。 敵がはっきりしていれば楽なのだがな‥‥面倒なことだ」 それには仲間達も同意。玄正の言葉の後に続く様に、芽依華は今一度左門の屋敷の方へと視線を向けた。 「とりあえず、左門はんを守るちゅうのが仕事やのに、当の本人は屋敷出とぅないっちゅう事は‥‥屋敷で見張る選択しかおまへんわな。 ‥‥それより、先のもふらさまは何処へ行ってしもたんやろ?」 ――余談だが、開拓者が村に着いて早々、芽依華によりめっちゃもふられた依頼人のもふらさま、もふりー。 しかしその後間も無く、もふりーは逃げ出していた! 今はきっと、ほとぼりが冷めるまで近くの茂みに身を潜めているのだろう‥‥。 ●幽霊の正体は かくして、一通りの情報を集め終えた開拓者達。 後は左門の命を狙う者の正体を突き止め、退治するばかりである。 8名の開拓者達はそれぞれ、左門の部屋を中心に館の内外を固める。 いつ襲撃者が来ても良い様にと――。 ヒタッ。 芽依華達により片付けられた廊下を見回る内、微かな気配を感じた恵皇。 辺りを見回してみれば、玄関先の引き戸がゆっくりと開かれ‥‥‥‥その先に広がる夜の闇の中に、白い装束を纏った細身の女性の姿がぼぅと浮かび上がった。 思わず息を呑む恵皇‥‥相手が本物の幽霊とは限らないにしろ、対峙しているとそれだけで背筋が冷え冷えする様な感覚に見舞われる。 ――恨めしや。 「な、何だと? ‥‥っ、ぐ!?」 ――恨めしや、あな恨めしや 「ぐぁっ‥‥あぁぁあがっ‥‥!!」 微かに、されどはっきり『声』が響いたかと思えば、唐突に恵皇を襲うのは謎の頭痛。 堪らず悶えながら廊下の上を転げ周る内――漸く声が収まれば、横たわる恵皇の傍らをヒタヒタと擦り抜けて行く女性の行く後には、紫陽花の花弁がぽろぽろと零れ落ちていた。 「どへんしたんや、恵皇さん!?」 間も無く、物音を聞き付けて現れるのは他の開拓者達。 その内の芽依華と優輝が左門の居る八畳間の前に立ち塞がれば、彼女達を女性は垂れた髪の間から焼き付く様な眼光で睨み付ける。 「えっ‥‥は、あうぅっ‥‥‥!!?」 ――屠ってしまいたや、喰らってしまいたや。 「いっ! こ、この声って‥‥‥!!」 ――恨めしやあな恨めしや。 「あうぁぁあっ‥‥頭がぁ、頭が割れそうやぁっ‥‥‥!!!」 突然、激しく悶え苦しみ始める芽依華と、彼女に比べ幾分か余裕な表情で、されど煩わしそうに眉間に皺を寄せる優輝。 二人の姿を見遣りながら――仲間達は改めて、廊下に立ち竦む女性の姿を見据える。 恐らくは、手さえも触れずに二人を苦しめているのは、紛れも無く彼女‥‥唯の人間に、果たしてそんな芸当が出来るだろうか。 「やはりアヤカシ――か」 紅の言葉を合図に、各々が獲物を手に取って身構え始める。 そして真っ先に動き出したのは、先程まで外の見回りをしていた蔵人であった。 真紅の炎に包まれた長槍、それを真っ直ぐに突き出して――。 「恨むなや‥‥!」 穂先は見事に、アヤカシの身体を真一文字に貫いた。 ‥‥ところが、その瞳には動揺や苦痛といったものは伺えず、見えるのは廊下の先に居るであろう左門に対する未練や怨恨と言った念ばかり。 「成程、幽霊だから痛みは感じないのか――なっ!!」 「‥‥持たせてみせるッ」 続け様に彰人が、紅がそれぞれ刀を、炎を纏った業物を振るわせれば、一つ、また一つと刻まれて行く刀傷。 然程深くは抉り斬れなかったもの、なまじ人の姿をしているから。不慣れな者は思わず目を背けてしまう。 しかし、アヤカシを倒すと言うのはそう言う事‥‥やらなければ、こっちがやられる。 「くっ、芽依華さんと恵皇さんは未だ‥‥となると、此処はボクの番か」 充流と玄正にそれぞれ介抱される仲間達を見遣れば、陰陽符を取り出す優輝。 そして現れるのは、カマイタチの様な姿のアヤカシ――それは彼女の命に従い、敵へと飛び掛ってはそのままの勢いで切り裂いた。 そこへ躍り上がる様に飛び掛ってくるのは、神風恩寵による治療を終えた恵皇。 「悪いな。あんたに恨みはないが、消えてくれ」 二度、三度と素早く繰り出された拳が打ち付けられる。 動きの緩慢さ故、開拓者達の圧倒する様な攻撃を一身に浴び続け、それでも尚まるで痛みを感じていないかの様に立ち続けていたアヤカシ。 だが、それは何の前触れも無く。ガクンと膝が折れたかと思うと、装束の所々から紫陽花の花弁が零れ出し――紫色に染まった廊下の上へ前のめりに、その細身の身体が横たえられた。 「‥‥お眞‥‥お眞、なのか?」 其処へふらふらと覚束ない足取りで現れるのは、奥の部屋で寝込んでいた筈の左門。 彼はふと、動かなくなったアヤカシの前にしゃがみ込み、艶やかな髪に触れる。 ‥‥もっとも、うつ伏せて倒れたその姿からでは、本当にそれが『お眞』なのかは分かる筈もない。 だが、それでも彼にはそれが愛しい人の姿にしか見えないらしく‥‥髪を掬い上げながら、おいおいと涙を流して泣き始めた。 「ごめん、ごめんよお眞‥‥死に行くお前を見殺しにして‥‥ッ‥‥!」 ●弔う役目と 翌朝、神楽へと帰る間際、開拓者達は何とも言えない表情で紫陽花咲き乱れる屋敷を見詰めていた。 あれからアヤカシのその姿が跡形無く消え行くまで‥‥否、消え去ってからもずっと泣き続けていた左門。 結局の所、昨晩に対峙したアヤカシが、本当にお眞本人の変わり果てた姿であったのかどうかは分からなかった。 しかし、それを左門に教えた所で、恐らくはまた『お眞の幻影』に捉われるだけ‥‥それならば、お眞を本当の意味で失ってしまったと言う事実に悲しみ余り塞ぎこんでしまっている今の状況の方が、余程本人の為だろうと開拓者達は判断した。 そしてこれを乗り越えるのは本人の問題だ。折角開拓者達に救われた命、是が非でも活かして生きて貰いたいと、その場に居る誰しもが思う所であった。 「‥‥これは本人に聞いたんやけど、左門の許婚言うんがおっそろしく執念深い女やったそうやで。 せやから、お眞がいつか殺されてしまうんやないかて常々恐れてたんやと」 「成程、そしてある日その婚約者に呼ばれたお眞さんを、左門さんは引き止めなかった‥‥それが、『見殺しにした』と言う所以ですね」 蔵人の言葉に、充流も目を伏せながら述べる。 その事実への後悔、罪悪感が結果的にお眞への恐れを生み出し、左門自身を苦しめた‥‥自業自得、と言う言葉で片付けるには余りにやるせない事情である。 「何にせよ、無事に事は済んだんだ。死んだ奴らの弔いはしっかりやっておいた方がいいだろ。まぁ、それは左門の役目だろうけどな」 恵皇が言えば、仲間達も大きく頷く。とは言え‥‥。 「ああ、左門本人があれでは仕方ないが‥‥少なくとも私達だけでも、お眞達の墓に花でも手向けよう」 「さんせ〜い! 後腐れなくすっきり纏めるには、それが一番だね♪」 紅の提案に、陽気な声で応えるのは彰人。 かくして一同は神楽の町へと戻る前に、寄り道をして行く事となった、 終始匿名希望の情報提供者、その人物から情報と共に送られた書状に記された場所へと。 辿り付いた其処に佇むのは、お眞の名の刻まれた小さな石柱。それに開拓者達は花を沿え、手を合わせ‥‥そして誓う。 今この瞬間にも、今回の左門の様にアヤカシに苦しめられる者達の喘ぎは、天儀中を満たして止まない。 そんな彼らに報いるべく、自分達は自分達の出来る事で尽力し‥‥そして一人でも多くの人々を救って行こう、と。 未だ開拓者として歩み出してから間もない彼ら、されど思う所は同じ。 アヤカシを倒す。そして、人々を救い出す。 そんな彼らにとって、この墓参りは意思を再確認する良い機会となった様だ。 やがて意気揚々と神楽の町に凱旋した彼らの表情は――いずれも、随分と晴れやかなものとなっていたと言う。 |