【動乱】宴
マスター名:御言雪乃
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 1人
リプレイ完成日時: 2015/02/17 00:45



■オープニング本文

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「さん、か」
 秀麗な美貌の娘がため息をこぼした。
 数日前のこと。開拓者のおかげで髑髏面の半顔が知れた。さん、とはマキシムが息絶える前に残した言葉である。
「ということは髑髏面の正体はマキシムの知る人物ということになるが……」
 さん、とは名であろうか。が、マキシムを斃しうる技量の持ち主で、さんを含む名の持ち主をユリアは知らない。
 その時、ドアが叩かれた。
「隊長」
 スパルタクの声。彼は十二使徒の一人であった。
「入れ」
「はい」
 スパルタクが執務室に入って来た。いつもは毅然とした男だが、今は表情がこわばっている。
「どうした?」
「お聞きになりましたか。パーティーのこと」
「パーティー?」
「はい。宰相殿の邸宅にて催されるとのこと。招待客は皇帝陛下」
「何っ」
 さすがにユリアの顔色が変わった。
 ジルベリア帝国の最高権力者二人が集う。この機を暗殺者が見逃すはずがなかった。
「動ける十二使徒は?」
「アーニャにヤン、キリルとミハイル、キラといったところですかな。他の十二使徒はヴォールクの調査のため、ジェレゾを離れております」
「私とスパルタクを含めても七人か」
 開拓者を。
 ユリアは命じた。


「使徒は七人」
 薄闇の中、白銀の髑髏面から声が流れ出た。
「もう少し片付けておきたかったがな」
 薄く笑う声は別の髑髏面から響いた。これは夜の色をしている。
「やれるか?」
「誰にいっている?」
 ふふん、と第三の髑髏面から鼻を鳴らす音がした。これは黄金色をしている。
「それに仕掛けはまだあるのだろう。十二使徒め、驚くぞ。本当の暗殺者は――ふふん。で、お前たちは」
 黄金の髑髏面が第四、第五の髑髏面に眼をむけた。これは真紅と蒼の色をしていた。
「宰相を」
 黄金の髑髏面がいうと、真紅の髑髏面がうなずいた。


■参加者一覧
孔雀(ia4056
31歳・男・陰
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
狐火(ib0233
22歳・男・シ
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
マルカ・アルフォレスタ(ib4596
15歳・女・騎
ジェーン・ドゥ(ib7955
25歳・女・砂
ヴァルトルーデ・レント(ib9488
18歳・女・騎
エリアス・スヴァルド(ib9891
48歳・男・騎


■リプレイ本文


「孔雀(ia4056)」
 艶かしい声が響いた。すると孔雀と呼ばれた男が紙片から顔をあげた。濃い化粧を施した、どこか不気味な雰囲気を漂わせた男である。
「あら、高尾(ib8693)じゃないの」
 孔雀はニンマリ笑った。その眼前、蜜のように色気の滴り落ちる女が一人立っている。
「何を見ているのさ」
「招待客の名簿よ」
 孔雀はこたえた。招待状の送り先に心当たりがあるか確かめてみたのだが、今のところ不審なものはない。
「ふうん。それはそうと、あんた、得意の式を使って十二使徒の行方を追っていたんじゃなかったのかい」
「無理よ」
 孔雀はわずかに顔をゆがめた。
 彼の式の効果時間はおよそ一分。これではジェレゾを離れている十二使徒は追えない。
「それはそうと、アハトワの方はどうだったの?」
 孔雀が問うと、今度は高尾が顔をしかめた。
「だめだったよ」
「あーら」
 可笑しそうに孔雀が笑った。
「あんたの色気もたいしたことないのねえ」
 孔雀はいった。彼の依頼した内容は前皇帝親衛隊長であるバルトロメイ・アハトワをパーティーに連れ出すというものであった。が、さすがに招待もされていないパーティーに足を運ぶことは難しかったようだ。
「いってくれるじゃない。なら、これはいらないんだね」
 高尾は一枚の書状をひらひらさせた。
「アハトワの紹介状。これなら宰相も断れないはずだよ。しかし、孔雀」
 高尾はじろりと孔雀を睨みつけた。
「こいつは高くつくからね」


「すみません」
 深々と、その十五歳ほどの少女は頭を下げた。
 可憐な美少女である。が、いつもまとっている喪服を思わせる黒衣は、その日、何故かいつもより黒く染まっているかのように見える。マルカ・アルフォレスタ(ib4596)であった。
 すると、執務デスクについていた娘がちらりと冷徹そうなアイスブルーの瞳をむけた。
 ユリア・ローゼンフェルド。皇帝親衛隊隊長である。
「何のことだ?」
「マキシム様のことです」
「マキシム? そうか」
 納得したのかユリアはうなずいた。
 マルカのいうマキシムとはマキシム・ダンのことで、皇帝親衛隊騎士――通称十二使徒の一人だ。先日、髑髏面に襲われ、亡くなっている。
「私の力が足りなかったばかりに……」
「気にすることはない」
 冷たくユリアはこたえた。いや、むしろ怒気を滲ませて。
 ジルベリア最強の騎士たる十二使徒が何たるざまか。どのように無様であろうとも、マキシムは何としても生き延びねばならなかった。十二使徒なればなおさらに。生きていてこそ再戦することもできる。
「でも」
 マルカの瞳に必死の光がゆらめいた。
 それでも十字架を負う。そして、戦う。それがマルカの誇りであった。
「そのマキシム殿のことなのですが」
 男が口を開いた。皮肉めいた笑みをうかべた端正な相貌の男だ。狐火(ib0233)という。
「確認しておきたいのですが、ユリア殿の他に十二使徒の行動を知り得る者は誰ですか」
「私の他、か」
 考えうるのは当然十二使徒本人たちだ。他は特に思いつく者はいない。が、それは誰にも無理というわけではなかった。
 もし十二使徒以外の者が情報をつかみうるとするなら、それは恐るべきことだ。とてつもない力をもった何者かが敵である可能性があった。
「そうですか」
 ユリアのこたえを聞き、狐火は小さくうなずいた。彼が疑っているのは十二使徒であったから。必ず裏切り者がいるに違いなかった。
「次はわたくしからもお尋ねしたい」
 招待客名簿から凛然たる相貌の娘が顔をあげた。これは名をジェーン・ドゥ(ib7955)という。
「現皇帝が戴冠前後より現在までに死亡、または行方不明となった皇帝側近貴族関係者で、さん、と字のつく人物や組織はありませんでしたか」
「さん?」
 ユリアが眼をすがめた。
「はい。これを」
 ジェーンが一枚の紙をユリアに手渡した。そこには三分の一ほどの人物の顔が描かれている。
「マルカが目撃した髑髏面の素顔です。思い当たる人物はありませんか」
「ある」
 ユリアはこたえた。さすがにジェーンの顔に驚きの色がひろがった。
「あ、あるのですか」
「ああ」
 ユリアは人相書きから視線をあげた。
 マルカが目撃した顔は闇の中、さらにはわずかの時間と部位のみであったので、人相書きはあまり当てにはならない。が、さん、という言葉には思い当たることがあった。
「三天使だ」
 ユリアはいった。
 三天使。それはアイザック・ブラランベルグ、フォマー・アルシャーヴィン、ロディオン・ミシュレのことで、皇帝親衛隊騎士であった。あまりの強さのために陰ながら天の使い、即ち天使と呼ばれていたのである。
「では前皇帝親衛隊隊長であったアハトワ殿の部下であったのですかな」
 壁際に佇んでいた男が口を開いた。
 整った身形。品の良さ。おそらくは貴族であろう。ただ、この男には野獣のごとき獰猛さがどこか秘められている。エリアス・スヴァルド(ib9891)であった。
「そうだ」
 ユリアはこたえた。
 三天使には何度か会ったことがある。おそらく十二使徒ですら一対一では勝てないだろう。
「やはりアハトワか」
 エリアスは独語した。彼は立て続けに起こる異変事の首謀者がアハトワであると推測していたのである。
「金のかかるパーティを、無為に開くとは考えがたい。皇帝と自身が狙われるという危険を冒し、囮となり、賊を誘き寄せるつもりか」


 大広間には音楽が流れていた。玉座のごとき豪壮な椅子には一人の巨漢が座している。
 ただそうしているだけで全てを圧倒するほどの豪宕の迫力。ツァーリ・ガラドルフ(iz0101)。ジルベリア帝国大帝であった。
「これが……」
 着飾った貴族たちにまじり、その若者はしばしガラドルフに見入った。彼とても貴族ではあるが、大帝をこれほどまでに間近で見たことはない。リューリャ・ドラッケン(ia8037)であった。
 やがてリューリャは意識をもどした。周囲に素早く視線を巡らせる。
 開拓者が入り込んでいるのである。敵が入り込んでいる可能性があった。

 流麗な音楽が闇に溶けている。聞こえてくるのは邸宅の中からだ。
 裏門の前で振り向いたのは艶やかな美女であった。二十代後半に見えるが、落ち着いた雰囲気がある。動くたびにゆさりと大きな胸が揺れた。
「やはりキナ臭いですね」
 美女――フレイア(ib0257)は呟いた。高い塀の外だ。パーティーに潜り込むべき手段をこうじなかったため、外での護衛での待機となったのである。
 フレイアは呪文を唱えた。現象界事象の上書き。ある種の警戒結界を展開する。
「どうだ?」
 綺麗な金髪の少女が問いかけた。
 ヴァルトルーデ・レント(ib9488)。人形のように整った顔と硬珠のような冷たい碧の瞳をもつ少女である。
 すると、くすりとフレイアが笑った。
「いくら何でも気が早すぎます。そんなに気になるのなら皇帝の側についていればよかったのでは」
「偉大なる皇帝陛下のお側等、畏れ多い。それに…我が家名、残念ながら賑やかな席に似合わぬ」
 冷たくヴァルトルーデはこたえた。レント家は処刑人の家系であったのだ。
 ちらりとヴァルトルーデは二人の十二使徒を見やった。ヤン・ルリエーとキリル・チャイカだ。
 フレイアの側を離れると、ヴァルトルーデは邸宅の周囲を歩き始めた。
 待機する十二使徒は六人。表にスパルタクとアーニャ・ルービンシュタインがいた。共にいるのは狐火だ。使用人として潜り込もうとしたのだが、さすがにユリアの口利きであっても直前では無理だったのである。
 そして西。そこにはキラ・フリードマンが配置されていた。そしてジェーンの姿があった。
 次に東側。待機しているのはミハイル・クラインであった。共にいる開拓者はエリアスだ。
 ミハイルを見つめつつ、ヴァルトルーデは心中で問うた。
 誰が獅子身中の虫か。狐火が抱いた疑いをこの少女もまた持っていた。
 その時だ。悲鳴に似た笛の音が聞こえた。フレイアの呼子笛の音が。


「きましたね」
 フレイアは身構えた。結界への侵入者を感知したのである。
「何人だい?」
 ヤンが問う。二人、とフレイアがこたえた。
 次の瞬間だ。闇の中に迫る来る影が浮かび上がった。黄金と白銀の髑髏面だ。
 刹那、黄金の髑髏面が刃をたばしらせた。迸る光流は空間を灼き、大地を削り襲い来る。
 咄嗟にヤンもまた刃を横殴りに払った。同じく疾る光流。
 凄まじい熱量がかみ合い、爆発が生じた。相殺――いや、ヤンのオーラを喰らった黄金髑髏の破壊熱量の余波がフレイア、そしてヤンとキリルをうちのめした。

「裏か」
 キラが振り向いた。
「いけ。ここは俺が守る」
 キラが命じた。うなずくとジェーンが走り出した。

 同じ時、スパルタクも同じ命令を発していた。が、狐火は動かなかった。彼はスパルタクを疑っていたからである。


「正体を見せていただきます」
 フレイアがトリガーとなる呪文を唱えた。
 顕現座標軸固定。輝く魔法陣が現出した。
 次の瞬間、魔法陣から灰色の光条が噴出した。二人の髑髏面めがけて疾る。
 同時に二人の髑髏面が盾をかまえた。光をはじく。
 瞬間、黄金髑髏面の姿が消えた。ぬっ、と現れたのはフレイアの眼前だ。
「恐ろしい業だ。俺達でなければやられていた」
 黄金髑髏面の刃が横一文字に薙ぎつけられた。
 キンッ、と。澄んだ音ともに髑髏面の刃がとまった。横からのびた刃によって。キリルである。
「くっ」
 キリルが呻いた。凄まじい衝撃に手が痺れてしまっている。
「終わりだ」
 キリルの眼前、白銀髑髏面が躍り上がった。閃く刃がキリルの首を刎ね――白銀髑髏面が跳び退った。直後、それのいた空間を弾丸が疾りぬける。ジェーンであった。
「ヤン殿、フレイアを」
「だめです」
 フレイアが叫んだ。彼女は別の敵の侵入を感知したのであった。


 侵入したのは二人の髑髏面であった。西側からである。
「陛下」
 ユリアがガラドルフの側に駆け寄った。が、動くことはできない。状況がつかめていないからだ。
 その時、二人の髑髏面は庭の護衛騎士を一瞬で始末していた。そして広間に躍り込んだ。颶風と化してガラドルフと宰相アレクサンドラを襲う。その後を追っているのはキラであった。
「覚悟」
 二人の髑髏面は跳んでわかれた。即ち真紅の髑髏面はアレクサンドラにむかって。そして漆黒の髑髏面はガラドルフに。
「そこまでです」
 いつの間に入り込んでいたか、狐火が印を結んだ。が、何も起こらない。
「ぬっ」
 狐火は呻いた。そして漆黒髑髏面の内からくぐもった笑い声がもれた。
「夜破りはすでに身につけている」
 漆黒髑髏面の刃が閃いた。そして真紅の髑髏面の刃はアレクサンドラに。
 いや、アレクサンドラの背後に蒼の髑髏面が現出した。それは楽士の中に入り込んでいたのであった。
「させん」
 キラの刃が光をはねる。白く染まったのは漆黒髑髏面だ。
「今度こそ守ってみせる」
「誰も傷つけさせはしない」
 同時にマルカとリューリャが動いた。蒼髑髏面に反応できたのはリューリャがこのことあるを予期していたからである。
 ふたつの刃をマルカとリューリャは防いだ。その間、漆黒髑髏面の刃はガラドルフへ。防ぐ形で流れたキラの刃は――おお、これもまたガラドルフへ。
 瞬間、漆黒の壁が現出し、キラの刃をとめた。孔雀の呪である。壁は砕け散ったが刃はガラドルフには届かなかった。
 ユリアは漆黒髑髏面と対峙した。いや、正確にはわずかに反応が遅れた。キラの刃に気をとられたのである。
 ユリアはあえて漆黒髑髏面の刃に身をさらした。その鋭さ、さらには遅延。身を挺するしかガラドルフを守る術はないと瞬時に判断したのである。
 漆黒髑髏面の刃は深々とユリアの胸を貫いた。刹那、漆黒髑髏面は膨大なオーラを刃に流し込んだ。
 咄嗟にユリアは後方に身をひいた。一瞬後、ユリアの胸がはじけた。致命傷ではない。が、かなりの深手であった。舞う鮮血の中、舞い上がったのは死神にも似た少女であった。
「退れ、不埒者ども」
 叫ぶヴァルトルーデの顔には笑みがういていた。
 この時、彼女の念頭からは髑髏面との実力差も正体に関する興味もけしとんでいた。偉大なる皇帝陛下を煩わす害虫を直接処刑できる。その喜びのみがヴァルトルーデを支配していた。
 ヴァルトルーデの漆黒の鎌が翻った。切り裂いたのは真紅の髑髏面の胴である。それは漆黒髑髏面をかばったのであった。
「ここまでか」
 漆黒髑髏面が呟いた。そして背を返した。
 その時、闇と闇が交差した。漆黒の髑髏面と刃が。
 ぱたりと二つに割れた髑髏面が床に落ちた。現れた顔を見とめ、さすがにガラドルフが顔色を変えた。
「お前は……ロディオン・ミシュレ!」
「お久しぶりですな、皇帝陛下」
 ニヤリとロディオンは笑った。
「やはり三天使か」
 漆黒の刃をふるったエリアスが呻く。
 刹那、ロディオンが跳んだ。エリアスの頭上を飛びこえる。
 阻止しようとする開拓者、そして十二使徒の前に立ちはだかったのはキラと蒼の髑髏面であった。

 わずか後のこと。
 地にはキラと蒼髑髏面の骸が転がっていた。手加減できる相手ではないため、仕方なく開拓者と十二使徒が斃したのである。
 こうして暗殺の夜は終わった。