真心を伝える為に
マスター名:深空月さゆる
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/09/26 19:33



■オープニング本文

 様々な依頼が舞い込む神楽の都の開拓者ギルド―――。
 ある日の昼下がり目がくりっと大きく、澄んだ青の瞳にツンツンとした黒髪が印象的な、腰に刀を下げた粗末な着物を着た小太りの男が現れました。
 男は受付前にて足を止めるなり、自らの名を名乗った後は口を一文字に結び、何とも難しげな顔で暫しの間お地蔵さんのように黙っていました。年の頃、十代後半程でしょうか。多少変な様子はなんのその、受付嬢は心得た様子で、話を聞きだそうと穏やかに尋ねたのです。
「ご依頼をされるのは、初めてですか」
「あんた、好きな男はいるのか」
 二人の発言は見事に被りました。ぐしゃ。紙の上で筆が妙な音をたてます。墨が思い切り滲み、せっかく書いた男の名前が判別不能になりました。
「は、あの」
 白桃のような肌、その頬の赤みが増します。墨を流しこんだかのような黒髪はさらりと真っ直ぐで美しく、しとやかそうな娘―――その受付嬢は今まで開拓者や依頼人達の目に留まる事も多かったものですから、口説かれるのも言い寄られるのも日常茶飯事、その為珍しくはないと同僚らは特に口を出す事もせず、見て見ぬふりをしました。かといってそういう話や好意を、いきなり冷たく無下にするのも娘の気性からして出来ない相談でした。かといって今は仕事中です。娘は困惑した様子でした。
「‥‥あの失礼ですが」
「っていう反応を見るに、俺の事は全然覚えていない訳だ」
「すみませんが、ご依頼を‥‥」
 少し困り顔で微笑を向ければ、多少なりとも勘の働く男ならこの場でそういった話を持ち出すのはやめるのではと思われましたが、男は受付嬢の予想の斜め上をいったのです。
「一月程前、手頃な依頼を捜そうと着たとき、応対してくれたのはあんただ。覚えてないか」
 眉間に微かに皺をよせ、最近の利用者とのやりとりを思い出そうとしましたが、開拓者ギルドは実に様々な老若男女、年齢職業問わず実に様々な人が集まる場所です。全てを記憶していろというのは、難しい相談でした。
 会ったような気がする、‥‥といったところです。
 ――――つまり男は数居る開拓者のひとり、ただそういった存在に過ぎなかったのです。
「あの、困ります」
 小声で言い、暗にやめてくれるよう願うと、男はそんな事を無視してぽんぽんと話し続けました。先程までのお地蔵さんぶりが、嘘のようです。
「あの時倒したのは大したアヤカシではなかったからな」
 男は受付嬢が本日貼りだそうとしていた、先程とある依頼主が持ち込んできた【事件】の詳細が書かれた紙を手にして、目を走らせました。
「じゃあ、これを退治してくれたらあんたは俺と飯を食いに行く、どうだ?」
 明るい目をして、小太りの男はそう言ってきました。この世の終わりのような難しげな顔つきで黙り込んでいたのとは打って変わった明るさに、受付嬢は大きく眼を見開いて固まります。受付嬢以外の、傍にいた職員や利用者ら周囲の者達の失笑もなんのその、男はもう一度紙を見て頭にたたき込み、受付嬢に人の良い笑い顔を向けたのです。
「ふぅん、大蛇が旅人らを襲ってる‥‥見たところ、報酬はあまり多くないな。でもいいや」
「あ、あのこれは傍の村の人が代表で持ち込んできた依頼です。直接まだ村には被害が及んでいません、ですから報酬は期待できませんし」
「ああ、そんなのは別にいいんだ」
「いけません、街道沿いに現れるのは、書いてある通りアヤカシです。一人では危険すぎますよ」
 ぐるりと男はギルド内を見渡して、
「こんだけ大勢くるんだ。ちょっとくらい無茶しなければあんたみたいな別嬪、俺に振り向いてはもらえねえだろう」
「あの、‥‥すみません、私‥‥好意を寄せられるような事しましたか?」
 男は目を一層くりくりとさせて、胸を張った。
「一目惚れだな! それにあんたの仕事ぶりは最高だ。見てて凄く感じがいい」
 じゃ、無事解決したら約束、考えてくれなと―――。十夜と名乗る男は、颯爽と開拓者ギルドを出ていきました。

 生きて帰ったら、無事戻ったら――――
 ひとはそれを、死亡フラグというのです。こういう状況でそんな台詞を口にしたら、十中八九で危険な目に遭うという未来が約束されてしまう気がしますが‥‥。
 誰もが受付嬢が苦笑し、仕事に戻るかと思われました。が、しかし彼女は驚いた様子で男が消えた後も扉の方に目をやったまま。頬に手をあて、小さく息をつきました。近寄り耳打ちする同僚がいます。
「凄い人だったわね‥‥って、ど。どうかした、美雨さん」
「私、ここまで堂々と、面と向かって殿方に好意を伝えられたの、その‥‥初めてで。少し驚きました」
 思わずのように呟いた受付嬢の、はにかんだような笑みに、『えええ、マジで?!』と皆同様の反応を見せました。何というかまぁ、職員と利用客という垣根を越え、皆の心が一つにまとまった瞬間でした。
「でも‥‥このアヤカシは危険です。あの方一人ではやはり難しいと」
「だけどあの様子だと、たぶん本気で討伐に行くつもりじゃないかしら‥‥」
 難しげな顔で、悩むのも一瞬。受付嬢は何だ何だと気になった様子で近づいて来てくれた利用者らに、丁寧に頭を下げた後、ぐるりと見渡し尋ねました。
「今の方が向かわれた場所へ‥‥アヤカシ退治に行ってくださる方はいらっしゃいませんか?」


■参加者一覧
音有・兵真(ia0221
21歳・男・泰
中原 鯉乃助(ia0420
24歳・男・泰
御剣・蓮(ia0928
24歳・女・巫
柳生 右京(ia0970
25歳・男・サ
麗花(ia1222
10歳・女・陰
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
菘(ia3918
16歳・女・サ
朧月夜(ia5094
18歳・女・サ


■リプレイ本文

●十夜という男
「好いたおなごとつき合うことに命がけか」
 斉藤晃(ia3071)が呵呵と笑うと、室内に多々いる開拓者の中からも笑い声があがった。それで先程までやり取りを呆れた様子で見ていた者達の中に漂っていた雰囲気が、変わる。受付嬢の言葉に名乗りを上げ依頼を受ける手続きを終えた後、こんな感想を言う者もいた。
「受付のお仕事も、大変なんですね‥‥」
 前回の依頼の報告の為にギルドを訪れていたところ、帰り際にそのやり取りを見かけ力を貸すことにした菘(ia3918)だ。手を貸してくれる事になった八名、その彼らを動かしたのは受付嬢の呼びかけに応えてというのも勿論あるだろうが、それ以上に先走っている困った奴を何とかしなくては、というところが大きいだろう。
「アヤカシの正確な数も不明だというのに、一人で向かう阿呆が居るとはな‥‥」
 まぁ中には柳生 右京(ia0970)のように辛口に評する者もいたが。
 とりあえず早く追いかけようという事になり、そんな中、朧月夜(ia5094)は頭を下げてくる受付嬢に言った。
「あの男は俺達が責任を持って助力する。だから、ちゃんと帰ってこれたら、おまえはあの男の言ったことを守ってやるんだぞ」
 受付嬢美雨は、ちゃんと考えた後はい、と頷いた。朧月夜はほんの少し目元を和ませる。受付嬢は見目の麗しさはさることながら、誠実な人柄のようだった。あの男が無事に戻ってきさえすれば、彼の望みはあるかもしれない―――そう、皆考えた。


●捕獲
「‥‥今どこにいるんだろうな」
 ギルドで受付嬢とのやり取りを、突っ走ってる奴がいるなあと見護っていた音有・兵真(ia0221)だ。その十夜の姿は、彼の頭にしっかり記憶されている。
 然しながら、結構勢い込んで出ていったのですぐ捕まらないのではないかという懸念も、当然皆にはあった。
 早く見つかるといいんですが、と菘。男が短絡的に即蛇退治に向かおうとは考えず、必要な備品を購入すべく店を覗いていたところだったのは幸運だった。
 腰から刀を下げ、黒の粗末な衣、特徴的なツンツンした黒髪、小太り――脂肪ではなく筋肉だろうか――そんな体系の男に。真っ先にたたた――っと駆けよっていくのは。
「発見なのーんっ!」
「ぉうぉあああああなんだ誰だあんたはっ」
 体を捩じり後ろにへばりついている少女と目が合い、その目が純粋な驚きにとってかわる。彼女がにこっと笑い掛けてきたからだ。
「うちは、麗花(ia1222)っていうのん。十夜ちゃん、ひとりで行っちゃうなんて酷いのん‥‥!」
「??」
「―――心配かけすぎるのも考えものかと‥‥その率直さは見習いたいところですが」
 追いつき、若干の呆れをこめ男に言うのは御剣・蓮(ia0928)。まぁそういう一途さが嫌いではないから、協力したのではあるのだけど。
 彼女は判り易く手伝いに来た事を告げ、蛇のとどめは十夜が刺すように伝えた。そうすれば自らの誓いを違える事にはならないでしょう、と。
「俺達は受付嬢の美雨がおまえの身を案じて後を追わせた開拓者だ。微力ながら協力させてもらうぞ」
 朧月夜も重ねて言えば、男は美雨さんがと呟き。
「うー‥‥ん。あんたらが好意で言ってくれてるのは判るんだがな」
 腕組みして悩む十夜。男のプライドを押し通して命を落としたら元も子もないのだが。
「なぁなぁ、十夜ちゃんにお願いがあるんよ!」
 ぱっと手を放し、ててっと前に回って。麗花は邪気など欠片もないキラキラとした目を十夜に向ける。
「お願い?」
「そうっ。僕たちの『りーだー』になって欲しいのん! 1人もカッコいいけど、みんなを纏められる人ってもっと素敵だと思うのん」
「お、俺がリーダ―に‥‥!? あんたらの?」
「そうなのん!」
「えっと‥‥マジ?!」


●村での聞き込み
 特に危険と思しき時刻を避ける為一晩五行の都に宿を取り、まだ暗いうちに都を出て村に向かう事にした。徒歩で一日というのはごく一般人の休憩を何度も取りながら、の時間である。彼らは当然ながらもっと早く着くと思われた。
「なぁ、何だってあんな無茶な事を言ったりしたんだ?」
 食事も早々さっさと爆睡されてしまったので、聞きそびれていた事を中原 鯉乃助(ia0420)は本人にさくっと聞いた。
 他人の恋を応援してやんのもいい男の務めだよなと考える鯉乃助だ、二人に興味もある様子。
「一目惚れだって! これくらいの事をしないとあんな別嬪が俺に振り向いてくれる事はない」
「それだけで、何匹いるかわからんアヤカシ蛇退治を引き受けるもんかい?」
「食い下がるなぁー」
「いやだって気になるだろうさ、普通に」
「‥‥。美雨さんは、物すげえ別嬪だろ」
「確かに」
 それは皆異論はない。
「といってもそれだけじゃねえ。あの人は気持ちの綺麗な人だ。あの人の仕事ぶりは誰に対しても丁寧で情があって見てていいなぁって思ったんだよ。綺麗な女は沢山見た事があるけどさ、ほら大抵中身と外見がちぐはぐな奴っているだろ。笑顔があっても目が笑ってないだとか、人にはいい顔を向けといて影で人の文句言って笑ってたりよ。でもあの人はそういう女じゃないって思ったんだな!」
 十夜は美雨の事を褒めた。本当に好きなのだろうと、全員が感じる程に。
「素敵なのん!」
 と麗花がぱっと笑みを浮かべる。
「なんというか惚気もここまでくると、見事や!」
 晃が磊落に言った。菘と蓮が笑い、朧月夜が密やかに苦笑する。兵真も頷いて。
「絶対生きて戻って、蛇退治の報告を美雨さんにしないとな」
「決めた、しっかり応援してやる。頑張れよ兄弟! ‥‥じゃなくてリーダー!」
 と鯉乃助がばしっと背を叩く。
 くだらん、と呟いた右京の囁きは皆の盛り上がりの中、掻き消える。それ以上の言葉は続けることはしない。幸せそうに美雨の事を話す十夜にあえてきつい言葉をぶつける必要もない――そんな気分になったのかもしれない。


●蛇の住処
 その村に到着したのは、その日の夕刻過ぎ頃だ。道中蛇の襲撃に念の為皆備えたが、丁度蛇が活発に出てくる前の時刻であったか、予想された事態には陥らなかった。村で宿を見つけるのも早々、情報収集すべく酒場などに皆は出向いた。
「最近、街道沿いにおっきな蛇を見かけたちゅう話をきいたんやがな?」
 晃が尋ねたような事を、皆それぞれ確認していく。松明の明かりに照らされた蛇の外見、大きさ等を。被害は獣には出ており、旅人にも一人最近出たらしい。皆に緊張が走る。
「具体的にどこら辺で‥‥。ああ、お兄さんも遠目でも見たんだね」
 兵真は相手の警戒心を緩める人当たりの良さで、村の男達と打ち解けていく。
「俺達は退治に乗り出した者なんだが、蛇に関しては詳しい事は解らなくってな。もしできるなら道案内を頼めないだろうか」
 村に左程腕の立つ者はおらず、開拓者達は村の皆に大いに期待されたようだ。昼間だったら構わんよ、と答えを得た事もあり。また歩き通しだった事もあり皆あまり遅くならないうちに床についた。
 だが翌朝は生憎の、曇り空。それどころか、時折小雨がぱらつく。しかし時間も限られている事もあり、大雨という訳でもない事から開拓者達は森へと向かった。
 大蛇の通った跡、ぬめった感じ、等。蛇がいたなら必ず何かしら痕跡が残る。蛇が出た場所を中心に、晃、そして皆は慎重に調べていった。皆の努力の甲斐あって、小雨に完全に消されていない跡を辿り、蛇の巣穴を森の奥に見つけた。
「でかいな」
 大蛇の住処といって納得する程の大きさ。
 晃の用意してきた大量のタバコの吸殻が詰まった袋を、口を緩めその蛇穴に放りこむ。身を潜めていた大蛇は臭いに耐えきれなかったのか外へと出てきた。巣穴の外で皆が武器を手に待ち構えているのだ、アヤカシとはいえ彼らの敵ではなかった。
「おかしいな、もっと大きな蛇だと思ったが‥‥」
 絶命した蛇を見下ろし、右京が呟く。村人が大げさに特徴を口にしていたのか、それとも。


●夜も更けて
 蛇の痕跡を辿り一匹は退治できたものの、他にもいるのは間違いない。蓮も瘴索結界を使い捜索を行う。他の蛇の痕跡を先程探りある場所まで来たが、森の中にある沼を、どうやら蛇は通っているようだ。しかも地形的に向こう側に回るのは骨が折れる。
 勿論こうしている間も別の蛇の襲撃を考えていないわけではない―――鯉乃助は背拳等を使って備えている。
 村から見て森を挟んで向こう側には人里や街道はないようで、蛇が人を今後狙うのならやはりこちらの街道が危険である事には違いない。
 残りの蛇の退治は夜に行う事になった―――仕切り直しだ。
 思惑通り、蛇は出てくるだろうか?

 昼間調査を始めた場所へと皆は戻ってきていた。日中降り続いた小雨がやんでいるのは幸運だった。いかに笠や合羽を用意しようと、使用せず戦えるのならそれに越したことはない。
 兵真は昼間用意した添え木を取り出す。手に持っていなくとも松明を固定できるように、との考えだ。設置は開けた場所に。戦闘により集中する事が出来る名案といえた。鯉乃助ら松明を持つ者達は取り出し、地面につきたてる者もいた。兵真のように支えられる添え木を用意した方が良かったかもしれないが、倒れたら倒れたで仕方ないと諦めるしかない。
「蛇は熱に敏感だからな」
 人の気配があれば、蛇はこの道付近へと出てくる筈である。皆、突然の襲撃を予期し警戒している。
『さぁ、来い――』
「退治してやる」
 十夜もまた柄に手をかける。その瞬間を静かに待った。
 時間が過ぎ―――。
 人の気配に、熱に、何かに惹かれたものか。森の、木立の間からずるりと蛇行し這い出して来るものがいた。鯉乃助は呟く。
「来やがったな」
 昼間森に入り捜索していた者達に気付いたのか、現れた緑の蛇は一匹ではなかった。大蛇に続き二匹の蛇も別方向から蛇行し進んでくる!
「斬る相手には不足せん‥‥さて」
 呟くのは右京。襲いかかってきた蛇の攻撃を鯉乃助は身軽にかわし、脇より踏み込んできた右京がその斬撃で切りかかる。晃は斧を構え、しゅっしゅっと頭を突き出してくる蛇の攻撃を避けつつ、武器を薙ぎ蛇の動きを牽制し、牙を剥いて突進してきた時はその斧を口元に突っ込んだ。斧に力を込め、晃は吠える。
「蛇酒の材料になってまえ!」
 鈍い音を立て、血を流しながら蛇が身を捩った。
 もう一匹に攻撃を試みるのは、十夜と共闘する兵真。
 彼等は後衛につく者達を護る事を念頭に置いて、行動をしている。後衛に近づいてきた蛇に気付いた時は、空気撃を放ちぶつけた。
 十夜は口だけの輩ではなく、その発言に実力が全く伴わない訳ではないらしい。皆との連携を考えたものか、蛇の突進、巻き付きを交わしながら一太刀を浴びせ深追いせず引いている。
 大きな蛇には先程の三人が、だが二匹目の蛇と応戦する十夜に加勢すべく晃はそちら側に加わった。十夜を侮る訳ではないが、彼の力量は右京や鯉乃助には劣る。蛇は身をくねらせ松明に一度体をぶつけ灯りを消す、それに気を取られた隙をつき、蛇は十夜の足に絡み付き太ももに深々と歯を立てる。骨のきしむ音と牙が肉を破る嫌な音が響いた。
「ぐっ!!」
「十夜!」
 晃が思い切り体に武器を振りおろす。体を切られても絶命しない、その牙を刃物のように使い、兵真に晃にその牙を向け肌を切り裂き、力任せに体当たりを試みる。兵真にひとまず任せ晃が十夜を引きずり出し、後方に下がりその膝に酒をどくどくと流し込み消毒を試みた。応急処置だが、効果はあるだろうか。
「いだだだだだ」
「あほ、しっかりせえ! 人生っつうのはな、意志の力で切り開くもんや!」
「晃さん? っ‥‥!! あだだだ沁みるっ」
 そうこうしているうちに、蓮が駆けつけて一瞬の逡巡の後、神風で治療を行った。酷く腫れ上がりかけていた足も、酒の応急処置の効果か、蓮の解毒効果かそれ以上悪化はしない。じき元通りになるだろう。
「立てますか」
「手柄を立ててこい」
 十夜は頷きトドメを刺さずまってくれていた兵真の下へと駆けつけ、その刀で弱った蛇を渾身の力で切り伏せた。
 それぞれの蛇達は幾度も技を駆使しているうちに、動きを鈍くしていきやがて―――。
 朧月夜と菘は後衛の麗花を護るべく其々の愛用の武器を手に、三匹目の蛇と応戦している。
「‥‥噛ませるものか!」
 菘が気迫をこめて言い、その武器を振りおろす。
 朧月夜は二天を構え、奇襲を仕掛ける時はスマッシュでダメージを与えた。蛇の攻撃からは回避ではなく防御の態勢で受ける。得意とする技で確実に怪我を負わせていった。
「にょろりんちゃんはかわいいけど、悪い子はメっなのっ」
 麗花もまた陰陽師として符を使える―――放たれた式は蛇を深く切り裂いた。
 蛇は決して愚鈍な生物ではない、攻撃を受けながらもその長い胴体を生かして牙で開拓者達に僅かな隙も見逃さず攻撃を仕掛けようと試みていた。だが、大人しくやられてやる義理がないのはこちらもだ。
 鯉乃助は鉄山靠で、右京、菘は両断剣等を使い、皆躊躇なく得意とする技で蛇を攻撃し、確実に死の淵へと追い込んでいく。
 結論から言えば、一矢を報いる事ができようとも多勢に無勢、こちらは戦いに慣れた専門家達である。蛇達の末路は決まっていたようなものだ。
 皆基本的にトドメは十夜にささせようとしていた事を、記載しておく。
「手柄が必要ってわけでもないと思うのだがなぁ」
 といいつつ十夜は嬉しそうだったので、兵真は苦笑してそれ以上は言わなかったが。
 蛇達の執念故か怪我を負い、牙による傷から毒に侵された者もいたが。蓮が解毒の為にその力を振るう。彼女の負担を軽くしようと、麗花もまた治療の手伝いをすべく治癒符を使用し皆の傷を癒した。
 戦闘後も時間の許す限り捜したが、結果として先程倒したような大蛇は一匹も見つからなかった。

●終りに
「僕は友達が怪我したら胸が痛いのん。きっと十夜ちゃんが好きな人も一緒なんよ。だから、ちょっとの無理はいいけど無茶はダメなのん」
「あいよ」
 釘を刺され首を竦める彼を見、麗花はにこっと笑う。
「他人の恋路を手助けするというのもこれはこれでまた面白いかと‥‥私達に出来るのはここまでですがね。さ、報告してらっしゃいな」
 ――若干迷ったが皆ギルドの入口で二人の様子を見護る事に。
 身を乗り出して彼を出迎えた美雨、少々照れくさそうに報告をする十夜。美雨は何事か生真面目な表情で言った後、彼に優しい笑顔を向けた。
「所詮、男女のつき合いなんぞ、馴初めでしかあらへんからの。これからや、これから」
 晃が苦笑し。これから蛇酒で一杯やるか? 腹もすいたしな、と皆に提案する。報酬は既に受け取っている事もあるし、賛成、と開拓者達は頷く。
 神楽の都に生まれた一つの恋、願わくば二人が末永く幸せであるように皆は祈った。