血肉貪る蛭の川
マスター名:水乃
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/08/01 19:37



■オープニング本文

 額に汗を滲ませながら――その日、女は川で着物を洗っていた。

 暑さが増すと、洗濯の為に川へ通う労力も並大抵のものではない。
 川中で布を広げ、手足に感じる水の流れはとても冷たく心地よいけれど。
 必死に汚れを擦っていると、みるみるうちに体に熱が溜まっていく。
「全く、少しは涼しくなってくれないかねぇ」
 女の言葉が空しく響く。
(「早く終わらせて、家にかえりたいねぇ‥‥」)
 そして女は暫しの休憩を終え、再び洗濯にとりかかった。

 やがて日が暮れていく。けれど女が仕事を終え、再び家に戻ることはなかったという――。



「アヤカシが‥‥アヤカシが女房を食っちまったんだ!」
 開拓者ギルドに飛び込んだ男は、泣き喚きながら受付員にしがみついた。

 男の話によると、川へ洗濯へ行った女房の帰りが遅く、心配になって様子を見に行ったらしい。
 そこで見たものは‥‥散らばる着物と、群がる巨大な蛭の化け物。一匹ではなく、十数匹はいたのではないかと言う。
 男は逃げるのが精一杯で女房の姿は確認できなかった。だが、多分食われてしまったのだと‥‥涙を流し続けた。

 『川に現れた化け蛭の討伐』――新たな依頼が、開拓者達に齎される。
 一刻も早く駆けつけ、川の周辺で暮らす村人達の平穏を守って欲しい‥‥と、ギルド職員は頭を下げるのだった。


■参加者一覧
万木・朱璃(ia0029
23歳・女・巫
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
戦部小次郎(ia0486
18歳・男・志
皇 輝夜(ia0506
16歳・女・志
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
三日月(ia2806
16歳・女・巫


■リプレイ本文


 一人の女性を食らった『蛭のアヤカシ』――それを退治する為に、開拓者達は川辺へと集まる。

 川の流れを悲しげに見つめ、天河 ふしぎ(ia1037)は依頼主の表情を思い出した。
(「依頼人、本当に悲しそうだった‥‥僕、敵を取ってあげたい。それに、近くに住む人達の為にも、放っておく事は出来ない‥」)
 大切な人を亡くした悲しみは、痛いほど伝わっていた。握った拳に力を込め、ふしぎは唇を結ぶ。
 彼の後方では、三日月(ia2806)も注意深く川を眺めていた‥‥が、その表情はやはり悲しみに包まれている。
(「‥本当に、食べられてしまったのかな?」)
 もしも身体があれば‥生きていれば。その可能性を捨てきれない三日月。実戦経験は少ないけれど、がんばってみようと思う。

 こうしている今も、アヤカシは開拓者達を狙っているのかもしれない。
 川底で静かに、待ち伏せて――。

「かなり面倒くさそうですね。全く、醜悪すぎてたまりません」
 簡単には姿を現さないアヤカシに対し、万木・朱璃(ia0029)はさらっと言い切った。
 朱璃の横で、恵皇(ia0150)は拳布を巻きなおし、口を開く。
「ま、知能が高いわけじゃないだろうし」
「‥だが食いつかれた厄介だな。油断せず、行こう」
 恵皇の言葉に頷きつつ、皇 輝夜(ia0506)が言った。
 何が面倒くさく、厄介なのか‥‥それは確認されたアヤカシの、数の多さだ。
 酒々井 統真(ia0893)もその点が苦手なようで。
「雑魚わらわらってのは得意じゃねぇが、人が死んでるんじゃそうもいってられねぇな」
 得意じゃなくても避けるわけにはいかない。恥ずかしい戦いを見せたくない奴もいれば、支えると約束した団長もいるのだ。
(「気合、入れっか」)
 そして、チラリと『団長』である鴇ノ宮 風葉(ia0799)の様子を伺う。
 若草色の単衣を着たじゃじゃ馬少女は、『風世花団』の団長らしい‥‥が、初めての依頼で初戦闘。
(「‥緊張なんてしてないわ!」)
 そう言い聞かせつつ、緊張している。団員と一緒とはいえ、アヤカシへの恐怖は拭えない。
 そんな風葉のもとへ、芋羊羹をもってくる水鏡 絵梨乃(ia0191)。
「ほら、芋羊羹でも食べながら落ち着こうか」
 と言う実戦経験豊富な絵梨乃は、頼りになる団員の一人だ。

 ――本来のんびり出来るシーンではないのだが、こうしているのには理由がある。
「‥この辺りにいるようです」
 女性が襲われた現場で『心眼』を発動した戦部小次郎(ia0486)は、アヤカシらしき気配を無数に察知して川底を指差した。
 既に十以上固まっている‥‥これは、うかつに飛び込んでは危険だろう。
「さて、頑張ってみますか」
 と、竹竿に垂らしたロープの先に木の板をつけ、三笠 三四郎(ia0163)は川辺から少し距離を置いて立ち止まった。
(「反応が有れば楽ですが‥‥無くても気休めなのでやるだけやってみましょう」)
 そう考える彼は、疑似餌を使ってアヤカシを誘き出そうとしていた。竹竿を握る手首を小刻みに動かし、木の板が生き物にみえるよう工夫する。
「これで化け蛭が釣れてくれると、ボクは楽なんだがな」
 2個目の芋羊羹に手をだし、絵梨乃は三四郎の様子を眺めていた。
 その間、男達は川の下流へ『網』を張る。幾重にも張る事で取り逃がすのを防いだり、上手く網で捕まえようという計算だ。
 少し下流へと移動し、ゴーグルに手をかけたふしぎは『心眼』を発動。
「‥大丈夫、ここには今の所アヤカシは居ないよ! 急いで仕掛けちゃお」
 指で丸サインを作り、靴を脱ぐと川へ入っていった。彼の心の眼が捉えた通り、辺りにアヤカシはおらず、襲ってくることは無い。
 沢山の網を担いだ小次郎は、川底の丸い石に足をとられそうになり慌てて体勢を整えた。
「‥と、流石に足場が悪いですねぇ」
 幸い転ぶことは無く、安堵する。
 恵皇は辺りの川底に転がる大きめの石を掴み、網の端に並べて結び重石としていく。
「なんか、ガキの頃の魚取りを思い出すな」
「そうだね!」
 どこか楽しげに作業する恵皇の表情を見て、ふしぎはつい笑顔を返した。その横で、
「‥できるだけ音はたてずに、な」
 淡々と作業する輝夜は仕事が速かった。
 ‥‥だが網を何重ともなると、なかなか骨の折れる作業。
「こんなもんじゃねぇか?」
 どうだ? と問うように、統真は芋羊羹を食っている二人を見た。
 それに気づいた風葉の言葉。
「あによ、さっさと設置なさいよ。‥‥アタシ? アタシはパス。だって、か弱い乙女だもん」
 ‥いや、頼んではいないから。
 そして網が設置され、三四郎も竹竿を置く。
「‥流石に無理ですか」
 疑似餌の効果は得られなかった。いくら知能が低いアヤカシとはいえ、本能的に『生物』かどうか分かるのだろう。
 しかし元々気休めでしていた事。
 ここから本格的に囮を使っての誘き出しだ‥‥開拓者達は気を引き締めた。


 数多いアヤカシに対応する為、開拓者は2つの班に分かれた。
 A班は朱璃、恵皇、三四郎、小次郎、輝夜。
 B班は絵梨乃、風葉、統真、ふしぎ、三日月。
 各班一人が囮となり、その身にアヤカシを誘き寄せる。

 まず三四郎は、『咆哮』が川へと届く位置に移動し――己の装備を確認する。筋兜から胴巻、ブーツまで、がっちりした全身装備は囮となる為だ。
 そして、息を吸い込み。
「おおおおおぉぉぉ―――!」
 耳を劈くような雄たけびをあげる。周りに小動物が居たならば、きっと逃げ出しているだろう。
 だが、それで誘き出されるのはアヤカシだ。
「――きましたね」
 松明に火をつけ、呟く朱璃。彼女の鋭い視線は、川から這いずり出る醜いアヤカシの姿を捉えた。
 それは蛭とは思えぬ速さで、三四郎にとびかからんとする‥‥その数は10を超えていた。
「流石に人の腕くらいの蛭ともなると、何とも気持ち悪いですねぇ」
 思わず顔を顰める小次郎。だがそうも言ってられない、相手の足の速さは予想以上だ。あれだけの数が三四郎に襲い掛かれば、流石に危険極まりない。
 急速に距離を縮めてくる蛭目掛け、長槍「羅漢」を両手に小次郎は駆け出した。『炎魂縛武』を発動し、武器に炎を纏わせる。
(「いかに早く数を減らせるか、一匹づつ、確実に」)
 小次郎は冷静に、這う蛭に狙いを定め槍を突き出す――熱い槍先は、蛭の胴を易々と貫通していた。
 蛭を縫いとめ、槍を抜くとアヤカシは一瞬で瘴気に変わる。
 だが攻撃を免れた蛭は、どんどん三四郎へにじり寄っている――。
 続いて『炎魂縛武』を使い、燃え盛る太刀を構えた輝夜。固まって動く蛭目掛け、太刀を振り下ろす。
「‥‥散れッ」
 輝夜の熱く重い一撃は、蛭の背部分を豪快に切り裂いた。容易く蹴散らされた蛭は、瘴気の塊へ成り果てる。
 しかしまだ蛭数匹は三四郎の足元から彼の身体に這い上がらんとし、残りは飛び掛ろうとしていた。
「‥‥っ」
 簡単に吸われてなるものかと、跳躍を見せた蛭をガードで叩き落す三四郎。それでも何匹かは叩き落せず、胴巻へ張り付いた。
 ――だが、張り付いた蛭は恵皇の手で引き剥がされる。
 蛭を掴みあげた恵皇は、そのまま地面へと叩きつけた。 
「正直、拳でぶん殴るのは気が引けるんだが‥」
 地面で蠢く蛭を見据え。
「しかたねぇ!」
 ――恵皇は拳を叩きつける。滑った体が潰れる音と共に、拳布越しに嫌な感触が伝わった。
 そして後方からは、朱璃が『力の歪み』を発動。
「くらいなさい!」
 三四郎の身体に張り付いた蛭の身体が捻られ、ポトリと地に落ちた。
 続けて別の蛭へと狙いを定め、『力の歪み』で同様に引き剥がしていく。
「はっ!」
 まだ何匹かに身体を攻撃されつつも、三四郎は落ちた蛭へと止めの一撃を放った。
 ――切り裂かれ、瘴気と変わっていくアヤカシ。
 開拓者達は時折噛み付かれ、体当たりをくらいながらも、少しずつ確実に数を減らしていった。

 三四郎が十数匹の蛭をひきつけている間に、B班は川に残る蛭を誘き出す。
「あの辺り‥‥石がモゾモゾしてるよ。 きっと蛭、だよね」
 川底を注視していた三日月が首を傾げて言った。その言葉に、皆は頷いて。
 そして囮となるは、絵梨乃であった。
 足が露出する浴衣姿の彼女は、川の端にその脚を浸した。
「ほら、美味しい血がここにいっぱいあるぞ〜」
 ついでに言葉を投げかけ、挑発。
 ――すると川底の石が不自然に転がり始め、その下から巨大な蛭が――。
 咄嗟に心眼で数を察知するふしぎ。
「危ない絵梨乃‥‥5匹、来るっ」
「‥わかった」
 しかし冷静に、ギリギリまで誘き寄せる絵梨乃。少しずつ、水飛沫をあげ襲い来る蛭のアヤカシ――。
「やっ」
 川から姿を現した蛭を狙い、ふしぎは矢を放つ。射撃は蛭の尾部に命中し、動く速さが衰えた。
 そしてアヤカシを目の当たりにし、少し恐々とする風葉。
「酒々井。‥‥約束通り、アタシを守りなさいよ‥?」
「わかってらぁ!」
 風葉の言葉を受け、統真は駆ける。
「どんな敵だろが、叩き潰す!」
 ――そうすれば結果的に守る事にも繋がると信じて。
 絵梨乃は強いから守るなんておこがましいし、風葉だって自分の足で立つと言った。それでも、
(「知り合いが戦いの場にいて、なんも支えられねぇ自分でなんざ、いられるか!」)
 仲間と戦いを共にすることで、統真の感情は昂っていた。
 ――七節棍を振る統真。矢で縫いとめられていた蛭は、その一撃で叩き潰される。
 だが4匹の蛭はまだ絵梨乃を狙う。攻撃を軽々回避しつづける絵梨乃だったが‥‥。
「くっ」
 蛭の一匹が、会心の攻撃を出した。足に食いつかれ、絵梨乃の軽やかな動きが止まる。
 その隙に、残りのアヤカシも一斉に飛び掛る――!
「‥‥! すぐ癒すからね!」
 後方で待機していた三日月が扇子を掲げた。『神風恩寵』を使い、風の精霊の力を借りて爽やかな風を起こす――その風は、今できた絵梨乃の傷を癒していく。
(「やるべき事はたくさんあるもん‥。『戦えない』ことを悔やんでいる暇なんて無いんだから!」)
 出来ぬことを憂うわけにはいかない、己に出来ることを全力で成し遂げるのみ――三日月の強い意志は、彼女経験以上の判断力を発揮させる。
 そして傷の癒えたところへ、やまじ湯浅醤油を持ったふしぎが駆けつけた。
「お前達の苦手な、お醤油なんだからなっ!」
 絵梨乃の浴衣にはかからぬように、蛭目掛けて――バシャっとかける!
 すると不思議な事に、吸い付いていた一匹の蛭がコロリと落ちた。おお! と眼を輝かせるふしぎ。
(「効果あり‥‥なのか?」)
 これには絵梨乃も驚いたようだが、醤油がきいたというよりは驚いて転げ落ちたのだろう。理由はどうであれ、身軽になったのでありがたい。
 そして残りの蛭を叩き落すために、風葉は『力の歪み』を発動。
「アタシの前では、物理法則も関係ないっ!」
 蛭の身体を捻らせ、叩き落す。
 衝撃で蠢く蛭――それを冷たく見下ろし、絵梨乃の反撃も始まった。
 飛手から七節棍に武器をかえ、『骨法起承拳』を発動、真っ先に食らいついた蛭を一撃で葬り去る。
「―逃さんっ」
 そして川へ戻ろうとする蛭へ、『気功波』で追い討ちをかけた。
 傷ついた蛭は、攻撃の矛先をふしぎへ変える。だが双剣に炎魂縛武の炎を纏わせふしぎに、近づく事ができない。
「炎精招来‥‥燃え尽きろっ!」
 炎が振り下ろされた。直撃をくらった蛭は真っ二つに裂け、散って瘴気となる。
 そして心眼の捉えた5匹を退治し、安堵したその時――範囲外からにじり寄っていた、もう一匹の蛭が川から姿を現す。
「‥出てきやがった」
 蛭に感づいた統真は、『泰練気胞壱』と『背拳』を刹那発動し踏み込んでいた。
 精度を増した彼の一撃の前では、蛭の不意打ちもあっさり叩き潰される。

 一方、A班は。
「大丈夫です!?」
 三四郎の傷から血が溢れ出し、朱璃は『恋慈手』で傷を癒す。流石に蛭の数が多く、怪我は免れなかった様子。
「まだ、大丈夫ですよ‥っ」
 多少肉が抉れた位では怯みませんと、三四郎は言う。そして蛭にスマッシュを当てていった。
 A班の方で倒した数は、現在8匹。
「‥厄介だな」
 張り付いた蛭を削ぎ落としながら、輝夜は呟いた。
 だが『心眼』を使って気配を探してみると、残る数は少ない――あと一息だと輝夜は自分を奮い立たせる。
 削ぎ落とされた蛭に小次郎が槍をつきたて、また一匹気配が消える。
 そこへ、
「すまない、少し遅れた」
 駆けつけた絵梨乃が、松明の火で三四郎の身体に張り付く蛭をあぶった。
 剥がされる蛭目掛け、再びスマッシュを放った三四郎は。
「いただきました」
 口元に笑みをうかべ、アヤカシを『成敗!』。
 残る一匹は、恵皇が追い立てる。「はっ」という掛け声と共に、重い拳が尻尾部分を潰す。
 そこへ加勢したふしぎの追撃。
 弱った蛭を切り刻み、目にも止まらぬ早業で剣を鞘へとしまった。
「‥お、倒してみてぇだな」
「これにて、一件落着なんだからなっ!」
 恵皇の言葉に、ふしぎはにこっと笑う。
 こうして17匹全ての蛭を討ち、開拓者達は成し遂げた顔をした。
 が、
(「入念に洗うか‥‥いや買い換えよう」)
 滑りでボロボロになった拳布を見て、恵皇は苦笑するのだった。

 

「吹けよ精霊の風っ、ぜーんぶ癒しちゃいなさいっ!」
 戦い終わり、風葉ら巫女達は仲間の傷を癒していった。
 開拓者達は下流に張った網を回収し、蛭がかかってないか確認し、念の為に川の周囲をもう一度調べ。
「隠れていないようです。‥これでもう二度と悲劇は繰り返されませんね」
 と、微笑む朱璃。
 一方彼女に手ぬぐいを渡した三日月は、悲しげに目を伏せる。
「奥さんの身体‥‥みつからないね」
 三日月の細い背中が少し震えた。
『まだ生者の世界から完全に離れていないなら、ボクの力で助けてあげられるかもしれない』
 と、気力を振り絞ってでも頑張ってみようと考えていただけに、望みが絶たれたショックはある。
「でもまだ‥‥遺品があるかもしれませんし」
 あまり気を落とさないようにと、朱璃は三日月の背を叩いた。
「探しましょう、それが犠牲者を弔う意味でも必要でしょう」
 朱璃の言葉に、小次郎も頷き同意する。

 遺品を捜す、その間。風葉は静かに旋律を紡いだ。
 此処で命を失った女性の為に、命を奪ってしまったアヤカシの為に。
 風葉の喉が震えて。澄んだ歌声は、清流に響き渡る――。

(「身体が残っているなら、できるかぎりきれいにして、家に帰してあげたかったけど。せめて遺品だけでも――」)
 歌声に励まされるように、三日月は遺品を捜し‥‥やがて、彼女の視界で何かが光った。
「‥もしかしてっ」
 輝く物を、慌てて拾い上げる三日月。それは――小さい硝子球のついた、簪だ。

 遺品を手に、女性の魂が安らかに眠れるよう、三日月は祈りを捧げる。
 そして開拓者ギルドへと託された簪は、依頼主の元へかえっていくのだった。