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■オープニング本文 天儀各国でアヤカシの被害が大きくなる中、アヤカシの襲撃にあい壊滅した小さな集落の話など珍しくもないだろう。 理穴のとある森の中‥‥かつてはここにも一つ、小さな集落があった。そこを襲撃したアヤカシ達は次々と人を食らい、長閑だった集落は瞬く間に無人の廃墟となったという。 そして集落を襲ったアヤカシは、駆けつけた開拓者により討伐されたのだ。 しかし―― 「犠牲者を弔うための墓‥‥それすらもアヤカシに‥‥ですか」 開拓者ギルドの受付係は、悲しげに瞳を閉じて呟いた。 依頼主の話によると、困ったことに、集落跡に作られた『墓』に幽霊アヤカシが出るようになったらしい。 ――幽霊アヤカシの居城となったその『墓』は、かつて開拓者達が犠牲者を弔うために作ったもの。 しかし、未練を残した人の『思念』まで取り込んでしまうのがアヤカシである。 強い恐怖と共に死んでいった人々の思念は、瘴気にとりこまれ『幽霊アヤカシ』と成り果てたのだ。 「身体だけではなく、魂までだなんて。酷すぎます。一刻もはやく、成仏できるように‥‥楽に、してあげたいですね‥‥」 そう呟いて、受付係は依頼を示すべく筆を走らせるのだった。 |
■参加者一覧
幸乃(ia0035)
22歳・女・巫
儀助(ia0334)
20歳・男・志
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
相川・勝一(ia0675)
12歳・男・サ
鷹来 雪(ia0736)
21歳・女・巫
玉櫛・静音(ia0872)
20歳・女・陰
天雲 結月(ia1000)
14歳・女・サ
喜屋武(ia2651)
21歳・男・サ
海藤 篤(ia3561)
19歳・男・陰
大羽 天光(ia4250)
19歳・男・陰 |
■リプレイ本文 大きな身体に小ぶりな刀を携え、辿り着いた墓場をぐるり見回し、 「死人すらもアヤカシの餌食になるなんて。開拓者なんてやってる自分も迂闊に死ぬことはできないっすね」 と、喜屋武(ia2651)はさらりと言った。 彼の言うとおり、開拓者達がこれから討伐するは『幽霊』と『鬼火』――アヤカシの犠牲となった人の無念すらとりこんでしまった、憎むべきアヤカシだ。 喜屋武の言葉に頷いた白野威 雪(ia0736)は、悲しげに瞳を伏せる。 「死して尚、魂を弄ばれるなど‥‥。‥‥見ている事が、耐えられぬ程です‥‥」 果たしてアヤカシが現れたとき、同情を感じずにいられるだろうか。僅かに不安に思う雪。 その隣で、天雲 結月(ia1000)はキュっと拳を握った。 「確かにやり切れないところもあるけど‥‥。でも騎士として僕、人々を救いたいから頑張るっ!」 なるべく明るい声でそう言って、「だから援護お願い!」と、真面目な顔で雪を見る。その言葉に雪は「はい、天雲様」と、たおやかに微笑んで応えた。 そして、幸乃(ia0035)も。 (「退治なのか、供養なのかわからない依頼だけど‥‥ま、とりあえずはやることをやるだけ、かな」) アヤカシとなってしまった以上、祈るだけでは成仏するまい。依頼だと割り切って、強く杖を握る。幸い自分には、前に立って戦う者たちをサポートする力があるのだから。 「明るいうちに様子、確認しておいた方がよさそう‥‥かな」 「ええ、まだ時間はあります。‥‥今のうちに、下調べと情報収集をしましょう」 幸乃の言葉に、真亡・雫(ia0432)が頷く。そして相川・勝一(ia0675)も同意し。 「そうですね、夜は地形がわかりにくいですし」 言って、早速辺りの様子を調べに向った。今のうちに地形を頭に叩き込めば、暗くなっても少しは上手く立ち回れるに違いない。 「明かりは‥‥昼間から立てておいても夜までさすがに持たないですかね」 「松明を灯すのは、もう少し待ちましょうか」 連絡をとりあいながら、下調べを進めていく勝一と雫。他の者も同様に、探索をしていく‥‥と、やがて陽が傾き辺りは夕暮れ色に染められたのだった。 そして、夜。 玉櫛・静音(ia0872)は『人魂』を使い、鳥の式を生んだ。 「‥‥貴方の名は『蒼音(そおん)』としましょう。お願いね」 式に名を与え、自分とは反対の方向の警戒に当たらせる。蒼音はまるで頷くような仕草をみせ、その羽を羽ばたかせた。 そして神経を研ぎ澄まし、仲間と共に辺りの警戒をはじめる静音。――その傍で。 「さて、アヤカシはいつ現れるのか‥‥」 そろそろ頃合だろうかと、武器を構えて仮面を手に持ち直す勝一。仮面は防具というには脆そうだが、何のために使うのだろう‥‥今は分からない。 こうして皆がみな、同じように物陰に潜伏する中、 「やっぱり、夜の墓場は不気味ですね‥‥」 冷たく重くなった空気を感じ、海藤 篤(ia3561)が不安げに口を開く。一方、 「墓地に幽霊‥‥趣があるねぇ」 物怖じせず好奇心旺盛な性格の為か、呟く儀助(ia0334)の瞳は輝いて見えた。 対照的な二人の様子に、大羽 天光(ia4250)は思わず笑ってしまう。 「はは、言うね! ‥‥さって、初仕事だし頑張らないとねえ」 天光の声は、夜の静寂を破った――。 緊張が、僅かにほころぶ。 しかし、賑やかさを取り戻した場を壊すように、アヤカシは現れる――! 不意に――暗闇に浮かび上がる炎の群。 「でた!?」 「あ、現れた!? と、とりあえず仮面を‥‥!」 思わず叫ぶ天光。 と、慌てて仮面を装備する勝一‥‥やや女の子のような顔立ちの彼の目元が、白い仮面で覆われた。『目元が隠れれば正体がバレない』というのはある意味お約束だが、確かに仮面をつけた勝一はちょっと一味違う様子。 「よし。出撃だ! 先制攻撃と行くぞ!」 心なしか口調も変わる。 『隼人』を使い物陰から飛び出る勝一に続き、冷静に『心眼』を発動するのは雫だった。 「‥‥! 一度に現れたようですね」 周囲に確認された多数のアヤカシの存在‥‥その位置を捉える。雫は仲間にアヤカシの位置を告げると、自身も刀を鞘から抜いた。 「一体残らず、墓地からいなくなってもらいましょう‥‥それが手向けの華となりますよう」 そう呟いて、一番手近に居た幽霊を斬りつける――まるで霞でも斬ったかのような感覚。 (「これくらいしか、僕にはきっとできないから‥‥」) それでも雫は一撃ごとに祈りを込めて、アヤカシを斬り払っていく。 その間に、式神人形を手にした静音はスッと立ち上がってアヤカシを見据えた。まだ経験の浅い静音だが、式と視覚をリンクさせていた為か思いの他素早く行動に移る。 「死してなお苦しまなければならないとは‥‥むごい事を」 言葉と共に、『一刻も早く安らかにして差し上げたい』という思いが強くなる。 「玉櫛の陰陽師、静音。参ります」 符を手にし、斬撃符を放つ――! ヒュッと風を裂く音と共に、静音の作り出したカマイタチのような式は鬼火を切り刻まんとした。 ダメージを受けたアヤカシのまとう炎が揺らぐ‥‥だが痛みを感じぬアヤカシは、怯むことがない。 開拓者らの一連の攻撃により、アヤカシも開拓者の存在を確実に捉えたらしい。次は彼らを目掛け、アヤカシの反撃が始まろうとしていた。 喜屋武の後ろでガードを構えながら、幸乃が杖を鳴らした。自分が身体を張るような役回りではないことは分かっている‥‥だから皆の後方で、自分の出来る支援に力を注ぐ。 幸乃は静かに、そして穏やかに舞い、精霊の加護を呼んだ。 ――神楽舞『抗』。 仲間の抵抗力を上げる為の舞であった。 「‥‥っと、ありがたいっす幸乃さん」 加護の力を感じ、にっと笑った喜屋武は『隼人』を発動。 「受けが効かないならば、やられる前にやれすね!」 先手を取るや否や、たちまち相手に打ち掛かかる。 鬼火を斜めに斬り上げ、続けて斬り下げたところで、喜屋武は鬼火の反撃をうけた‥‥が、抵抗力が上がった為か焼かれる痛みは殆ど感じない。まだまだいける――! 喜屋武が一連の攻撃を終えると、儀助が太刀を振るった。 「――はっ」 鬼火の炎が割ける――儀助の一撃が止めとなり、鬼火は瘴気へと成り果てた。 しかし、鬼火の数は多い。 一匹を片付けたからといって、『減った』と感じるには程遠かった。 「参ります‥‥」 そこで、雪が『神楽舞・攻』を舞う。その優雅な舞は、味方の士気を高めていく。 結月は「ありがとうっ」と礼をし、まだまだ沢山暗闇を蠢くアヤカシの姿を見据えて。 「ほんと、一気に出てきたね‥‥こっちも全力で一気に決着つけるよっ」 数的な不利はものともせず言い放つ。珠刀「阿見」で鬼火を叩きつけると、彼女の青く長い髪が風に揺れた。 放たれた技は『スマッシュ』‥‥渾身の一撃だ。 鬼火の炎が掻き消される。そこへ、篤の式が放たれた。 「行きなさい――」 連携を重視し、先ほど結月が攻撃した鬼火を狙った『斬撃符』。篤の式は、鬼火の最後の炎を掻き消した。 一方、一体の幽霊に止めを刺し、雫は更に彷徨う幽霊を探す。 「何故そっと眠らせてあげることも、できないのですか‥‥?」 雫は問いかけた‥‥アヤカシが答えるはずなど無いのだけれど、問わずにはいられない。 「‥‥死して尚彼らを悩ませる、その罪断たせていただきます」 赤い瞳でアヤカシを睨み、凛とした声で言い放つ雫。 しかしその時、頭が割れるような痛みに襲われる――! 「――っ」 一瞬、雫の動きが止まる。彼の脳裏に響いたのは、呪われた言葉‥‥多分、アヤカシの使う特殊能力なのだろう。 (「‥‥これが、呪声?」) 「どうした!?」 固まった雫に迫る幽霊を足止めするように、叫んだ天光が『斬撃符』を放った。‥‥式は幽霊に攻撃を加えて消えていく。 どうやら雫と違い、天光は『呪声』の影響を受けていない。その声は他のものには届かず、特定の一人を狙うようだ。 「‥‥気をつけて下さい。呪声は直接頭に――」 痛みを堪え、態勢を整えた雫が目の前に迫った幽霊を斬り付けた。 そして、その声に驚いたのは喜屋武である。相手をしていた鬼火に止めを刺したあと、耳を掻きつつ何かをとりだした‥‥それは手帳の切れ端のように見える。 「この対策が成功している例を見たことはないんすけど‥‥やっぱりっすか」 彼は『耳栓』として耳に紙を詰めていたようだ。だが直接脳に声が響くとあれば意味がない‥‥と喜屋武は苦笑した。 だが範囲攻撃でないだけ良いだろうと気を取り直し、幽霊を見る。 「貴方方もこんな姿となり浮世を彷徨うのは本願ではないでしょう」 少し悲しげに言い、喜屋武は幽霊に狙いを定め武器を振った。 その間に幸乃は、アヤカシの知覚攻撃を受けたらしい雫へ『神風恩寵』を施す。 「回復しないと、ね」 忌まわしい痛みが消えると、雫も再び武器を構えるのだった。 「アヤカシ、退散!」 静音の声と共に放たれた式が鬼火に貼りつき、力を吸い取った。 アヤカシが弱った分だけ、静音の力が満たされていく。 さらに蒼音に命じ、自分の背後を守らせる静音。‥‥その傍では同じく後衛を務める篤が、『砕魂符』を放った。 「散って下さい――!」 式は鬼火の炎のヴェールをすり抜け、致命傷を与えた。式が消えると当時に、アヤカシも瘴気へ変わっていく。 こうして、開拓者達が次々とアヤカシを倒していく中、勝一のテンションも健在だった。 「ふははは! 正義のこの私が負けるわけがなかろう!」 言葉でアヤカシを挑発しながらも、長巻を構えて敵の動きをじっくり観察する勝一は、相手が隙を見せた瞬間に『直閃』を発動。 大きく利き足を踏み込むと同時に、手にした武器で突き放つ――確実に、強力な一撃をあてていく。 「成敗!」 華麗に立ち回りながら、『成敗!』しておくことも忘れない。仮面の奥の瞳がキラリと光っていた。 勝一の戦いぶりを見て、結月も自然と昂っていく。 「‥‥僕もがんばるよっ」 ガードで鬼火の攻撃を凌ぎ、反撃で珠刀を振る結月。 「『白』騎士として‥‥人々の魂を救い、成仏させてあげたいからっ!」 気力を解放し、地面を蹴ると疾風のように走る。 「やぁっ!」 そして、『スマッシュ』――! 結月の渾身の一撃は、鬼火を瘴気へと還すのに充分な威力があった。 着地して、「やったね!」と拳を握る――その瞬間、フワッとスカートが浮いた。 はためく布地から覗く『白』。 慌てて押さえる結月‥‥幸い、その中の『白』を認識したものは幽霊だけだったようだ。 「どうしました?」 「‥‥っ! 大丈夫、なんでもないっ」 見ていない篤に何気なく問われ、思わず赤くなる結月である。 戦闘中ながら僅かに和むやりとりに一瞬顔を綻ばせる雪だったが、すぐに真面目な表情で唇を結んだ。 「風の精霊よ‥‥お願いします」 『神風恩寵』で爽やかな風を呼び、仲間の傷を癒していく雪。 サムライと志士達前衛は、巫女や陰陽師という後衛の者達に直接攻撃が及ばぬように、動き、戦った。 これだけ頼れる仲間がいるのだ、たとえ『呪声』を使われようとも負ける気はしない。 皆で声をかけあい、協力して、1体ずつ確実にアヤカシを殲滅していく。 暗闇で不利になるかと思われたが、事前に設置された『松明』の灯りと、鬼火が発する光で、なんとかアヤカシを見失わずにすんでいる。 斬撃符を撃ちまくる天光は、止めのつもりで式をしかけた鬼火に逃げられ、思わず声をあげた。 「‥‥っと、仕留め損ねちまった」 しかし儀助の追撃がすぐさま鬼火を捕らえた。両断され、消えていく鬼火。止めを刺した儀助を見て、天光は「おお、たよれるねえ」と軽い口調で賞賛した。 儀助はすぐさま次のターゲットを幽霊へと定める。 「さぁて、畳み掛けるか」 呟き、『炎魂縛武』を発動した儀助は炎を纏った一撃を叩き込んだ。 ――幽霊は怯みこそしないが、その一撃は確かにきいている。 そして次の一撃を放つは、喜屋武だ。 「解放されたら改めて弔って差し上げます。御免!」 『成敗!』と共に放たれた一閃――連撃をうけた幽霊は、とうとう瘴気の塊へと成り果てる。 「これで魂が成仏するといいのですが‥‥」 消え行く幽霊をみて、篤は悲しげに目を伏した。 ――幽霊は消えた、だがまだ鬼火が数体残っている。気持ちを切り替え、篤は再び式を放つ。 式の攻撃をうけた鬼火に、続いて雫が一撃を加えた。 ‥‥炎が散る。また一つ、消える。 「あと少しっ」 スカートの裾を翻し、結月も駆けた。 彼女の珠刀が鬼火をとらえる――と、ほぼ同時に、勝一の『成敗』もきまる。 こうして最後のアヤカシが‥‥瘴気へと変わっていった。 「ふっ、これで全て倒し終わっただろうか?」 長巻を収め、仮面を押さえながら勝一が言うと皆が頷いて。 「ええ、これでやっと‥‥」 心眼で辺りの気配を探った雫は、ようやく落ち着いた表情を取り戻した。 そして、 「有難う、蒼音」 役目を終え消える式に、静音はそっと語りかけていた。 戦いが終り暫くすると――松明の灯りが消えていく。 篤が包帯で傷の手当てをする一方で、儀助は新たな松明に火を灯した。 僅かな灯りの中で、仮面をとる勝一。 「ふぅ‥‥数が多いと結構大変ですねー‥‥。流石に疲れちゃいました」 ニコっとわらう彼からは、戦闘中の不敵な態度など見て取れず。「すごい変わりよう」だと目を丸くして言う天光が居た。 「お疲れ様‥‥ね」 幸乃は静かに労い、ゆっくりと辺りを見回す。 ――そこは、アヤカシとの戦いで荒れた墓地。アヤカシを倒しただけで、果たして人々の魂は安らぎを得るのだろうか‥‥否。 「これでも一応、巫女ですし、簡素でも‥‥供養、しなおしてあげたい‥‥かな」 そう言って幸乃は、同じ巫女である雪を見る。 (「人付き合いは面倒だけど、死人にはそんなのないし、死んだ後くらいは、面倒見たって、ね」) 幸乃の言葉の裏にはこのような思いも隠されていた‥‥が、雪は微かに笑って頷いた。 「はい、供養いたしましょう‥‥どうか、今度こそは、安らかに‥‥眠れるように」 簡単な墓の修復は皆の手で行い、二人の巫女は魂の安息の為に祈りを捧げた。 「また、アヤカシに取り込まれるよう成仏してください」 祈る二人の後ろで、喜屋武が呟く。そしてその墓に、そっと『天儀酒』を供えた。亡くなった人がそれを飲めなかったとしても、想いは届くはず。 又、白騎士としての勤めを終えた結月も‥‥目を閉じて、手を合わせる。 (「救う事が、出来たかな‥‥どうか安らかに、眠ってね」) 彼女の真っ白な心も、彷徨っていた魂へと届くに違いない。 |