娘の心を奪うもの
マスター名:叢雲 秀人
シナリオ形態: ショート
EX :相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/08/05 01:08



■オープニング本文

少年は、一つ息を吐いて開拓者ギルドの扉を開けた。
 ドンッ!
 丁度ギルドから出ようとしていた開拓者にぶつかり、後ずさる。
『お、どうした。こんな所に珍しいな子供なんて』
 ぶつかった少年を抱きとめると、開拓者は少年の頭を撫でる。
「小夜を‥‥、小夜を連れ戻してくれ!」
 少年は、自分の頭を撫でた開拓者の手を取ると、思いつめた表情で訴える。
 真剣な眼差しに一瞬たじろいだ開拓者の後ろから、少年へ声がかかった。
「詳しい話を聞こう」
 
 東房の、とある村。
 少年と娘――小夜――は、さほど大きくもないその村で育った。
 小夜は幼いころ両親を亡くし、少年の家に引き取られて暮らしていた。
 少年と小夜は、幼いころから常に一緒。傍目からは血の繋がった兄妹のようにも見えるほど、仲が良かった。
 貧しいながらも日々の食に困ることもなく、少年の家で暮らして数年。
 少年も小夜も、幸せに暮らしていた。

「ねぇ、あの人たちはなんだろう?」
 夕暮れの丘、小夜は少年に問いかけた。
 指差す方を見れば、遠くに見える街道を進む数人の集団。
「なんだろうな、旅でもしてんのかなぁ‥‥」
 少年も首を傾げる。
「‥‥あ」
 小夜は小さな叫びを発し、見る間に頬を紅潮させた。
「どーしたんだ?」
 少年はその様に怪訝そうに問いかける。
「あの人‥‥」
 小夜は頬を赤らめたまま、集団を見つめる。
 視線を追うように少年も集団に目をやると、遠目では顔すら見えないはずなのに、その中の一人がこちらを見ているのがわかった。
 二人が村に戻ると、祭りの前日のように賑わっている。
「なんかあったのか?」 
 少年が母に問う。
「隣の町に旅芸人の一座がきたんだってよ。村の皆で見に行こうって言ってたねぇ」
「へぇ――ぁ」
 少年は先ほどの集団が件の旅芸人だと気付く。
 それは隣に居た小夜も同様で。
「私も、私も行きたいっ」
 頬を赤らめ手を握る。その顔は、先ほどの丘で見せた表情と同じだった。

 村人たちと連れ立って一座を見に行った夜、小夜は夢心地の体で少年の言葉すら耳には入っていなかったようだった。
「小夜、聞いてんのか?」
「ん‥‥?」
 心虚ろな様子で返される返答、少年は面白くなさそうに口を尖らせた。
 その翌日から、小夜は時折姿を見せなくなった。
「おや、小夜は?」
 母の問いに、少年は憮然とした表情で答える。
「しらねぇ、さっきまで一緒に草刈りしてたのに‥‥」
「どうしたんだろうねぇ、あの子は旅芸人を見に行ってから様子がおかしいねぇ」
「‥‥」

 その日も、家の仕事を済ませた後から小夜の姿が見えなくなった。
 今までも幾度かあったことに、少年も母親も慣れてきていた。
「夕飯には帰ってくるだろうし、待ってようか」
「‥‥うん」
「もしかしたら芝居でも見てるのかねぇ。大層気に入ってたようだったし」
「うん‥‥、きっと何をしてるのか、そのうち話してくれるよな」 
 それはそれは仲のいい兄妹のように育ったのだ。いつか自分にだけは何をしているのか打ち明けてくれるだろうと、そう考えていた。
 けれど――小夜は戻って来なかった。

「小夜は、あの日からおかしくなっちまった。俺たちが話しかけても上の空で、時々独り言を言って笑ったりして」
「それは‥‥恋心、というものではないのか?」
 青柳新九郎(iz0196)は、静かに言葉を発した。
 小夜は恐らく、旅芸人の誰かに恋をしたのだろう。その為、暇を見ては覗きに行っていたのではないか、と。
 その言葉に反論しようとした少年の言葉を遮ると続ける。
「だがしかし――、行方知れずというのは、気になるな。隣町への道中で何かがあったのかも知れん」
「じゃあ――!」
「調べてみよう。小夜の年の頃や外見の特徴を教えてくれ」
「うん! えぇと、年は12。髪は長く後ろで結ってて――」
「――12、か」
 少年の言葉を聞きながらメモを取る新九郎の手が止まった。
 年のころは12。新九郎は今まで関わってきた事件を思い起こす。
「お前は、旅芸人の一座には会ったのか?」
「俺は見に行ってないんだ。ただ、街道を歩いてたのは見たよ」
「その中に――。‥‥いや、なんでもない」
 何か『怪しげなもの』を見なかったか、と、問おうとして、新九郎は口を噤んだ。
 少年や一般の人に話すべき話ではない。
「わかった、村を出てから小夜が辿った足取りなども含めて、調査にあたろう。必要であれば旅芸人達にも話を聞いてみる」
「ありがとう! 俺‥‥小夜はあいつに捕まったんじゃねぇかって思ってる。だって本当におかしかったんだ。今まであんな事なかった。まるで生気を抜かれたみてぇな目をして‥‥」
「‥‥そうだな、調べてみよう」
 新九郎は始め、少年は幼いころから共に居た娘が恋をした為、嫉妬しているのではないかと思っていた。
 だが、違う。少年は心底、小夜の変化とその身を案じている。
 それほどまでに、尋常な様子ではなかったのだろう。
 そう、まるで――アヤカシに、惑わされたように。


■参加者一覧
林堂 一(ia1029
28歳・男・陰
空(ia1704
33歳・男・砂
倉城 紬(ia5229
20歳・女・巫
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
ユリア・ソル(ia9996
21歳・女・泰
千鶴 庚(ib5544
21歳・女・砲
フランヴェル・ギーベリ(ib5897
20歳・女・サ


■リプレイ本文

「似顔絵が出来たから配るわよ」
 ユリア・ヴァル(ia9996)の手には数枚の紙。
 村人から特徴を聞いて描きだした小夜の似顔絵を、開拓者たちへと配布する。
「‥‥この年頃の女か‥」
 空(ia1704)は受け取った似顔絵を見ると、改めて実感したように息を吐いた。
「――ねぇ、空さん。もし彼女に遭っても‥‥大丈夫?」
 傍らに寄り、千鶴庚(ib5544)は他の者の耳に入らぬよう声を潜め、問う。
「ッ!‥俺は、大丈夫だ。大丈夫‥大丈夫‥」
 自らの心の底を伺うような庚の声に、空は歯を噛み締める。
『彼女』とは、先の依頼で出会った『薔薇姫』の事。空は、『薔薇姫』に心を揺さぶる言葉を投げつけられていた。
「ソレよりもテメェの方は大丈夫なのかよ、随分な喧嘩売ッてたみたいだが?」 
「‥あら。あたしの身一つなら、心配要らないわよ?あんな痛みより辛い想いをしている娘さん達を知っているのに――」
 臆してなど居られぬと、庚は似顔絵に視線を落とす。
「小夜を、あの子の元に、ね。」
 再び上げた視線の先には、あの日開拓者ギルドに駆け込んできた少年。
 彼はペケ(ia5365)、フランヴェル・ギーベリ(ib5897)と、話をしていた。
「『あいつ』って、誰のことですか?」
「あいつ‥‥俺が小夜と一緒に旅芸人たちを見つけた時。小夜はあいつだけをじっと見てたんだ。それにあいつも――小夜の事

をじっと見てた」
「大丈夫、きっと連れ戻してあげるからね」
 口惜しげに唇を噛み締める少年の頭をフランヴェルが撫でると、こくりと頷いた。
 其処へ歩を進めたユリア。小夜が心配?と彼の目線まで顔を下げる。
「ねぇ。ずっと傍にいた貴方なら、彼女が魅了と戦える様な何かがあると思うわ。一緒には連れて行けないけど、小夜の心を戻

せそうな品物や思い出話ないかしら?」
「‥‥これを」
 少し考えてから、少年は首に下げていたお守りを取り出し、ユリアへと手渡す。
「お守り?」
「小夜も、同じのを持ってる。小さいころに一緒に買ったんだ」
「‥‥。預かってもいい?」
 大切なものだから、必ず返すと約束。少年はもう一度、大きく頭を下げた。

●一ノ班
 村から隣町までの街道。
 畑仕事の手を休め談笑する村人たちに、竜哉(ia8037)は声をかける。
「なんだ、兄ちゃんみかけねぇ顔だなぁ」
 竜哉は自然な会話を心掛けながら、小夜や旅芸人を見かけなかったか、話に組み込み問うていく。
 倉城紬(ia5229)は目立たぬように動くと、辺りに結界を張り巡らせる。
 その傍らでは林堂一(ia1029)が三光鳥の姿をした人魂を空に放つ。
 人の眼と、術の眼、彼らはすべての力を以て隣町までの道での異常を確認していった。
「‥‥娘が消えた、か」
 この地域一帯に起こる『娘が消える』事件。
 先の依頼で初めて関わったが、今回の件も幾許かの引っ掛かりを感じる。
 それはおそらく、行動を別とする班の二人も一緒なのだろう――。一は遠くに霞む、隣町を見つめた。
「すいません、小夜ちゃんを最近見かけませんでしたか?」
 ペケは街道を歩く人に声をかけた。声をかけられた男は術の力で警戒心もなく返答する。
「小夜ちゃん?」
「こんな服装の子なんですけど」
 ペケは小夜の似顔絵を見せると、男は手を叩いた。
「あぁ、この子なら何度か見たなぁ。俺は行商をやってるんでこの道をよく通るんだけどな、いっつもふらふら歩いてて危ねぇ

なぁって思ってたんだ」
「ふらふらですか?」
「なーんか、目も虚ろでふらふらって。よくあれで歩けたもんだよ」
「他に何か気づきませんでしたか?なんでもいいんです。普段と違った何か」
「道の途中に脇道があるんだが、いつもそこから出てきて今あんたらが来た方へと向かってたなぁ。普段は誰もつかわねぇよーな道から出てくるんで、覚えてたんだ」
 その言葉を聞くと、ペケは仲間の下へ駆け出した。

「こっちです!」
 ペケは仲間たちを連れて行商人から聞いた脇道へと向かう。
 その情報が正しければ、小夜はいつも隣村ではない何処かへ向かっていたのかも知れない。
 何か手がかりはないか、もしくは――小夜がいないか。開拓者たちは一縷の望みを賭けて其処へ向かった。
「あれは」
 細道を抜けた先に、参拝するものもいないような荒れ果てた神社を見つける。
 脇道は此の神社へと通じていた。
「小夜が来ていたなら、何か手がかりがあるかも知れない。探そう」
 4人は四方に散り、くまなく捜索を開始する。
 どこかに穴でもあって落ちているのかも知れない。
 もしや祠の中に閉じ込められているのでは――。
「小夜ちゃん!小夜ちゃん!」
 ペケは超越聴覚を使用し、あらん限りの声で叫ぶ。
 しかし、声は響くが、返事が返ってくる来ることはない。
「ん、何かある」
 竜哉が視線の先に光るものを見止め、其処へと進む。
「お守りだ」
 草の中に落ちていた其れは、小さな鈴が付いたお守り。
「まだキレイだな。此処に落ちたか捨てられたか‥‥どっちにしろ、最近ってことか」
「あっ」
 離れたところに居たペケが駆け寄ってきて、声を上げた。
「それ、少年くんとお揃いのお守りです。きっと小夜ちゃんのですよ」
「ということは‥‥小夜さんは此処に‥‥」
 紬は再度結界を張り巡らせる。
 もし、此処に今も居るならば。『何か』に警戒されている可能性は高い。
「小夜ちゃん!聞こえますかー!」
 再度、ペケは声を上げる。聴覚を研ぎ澄ました耳に、『ガタリ』と音が響いた。
「――!あっちです!」
 祠の裏にペケは回り込む。残る3人も裏へと回り込んだ。
「そこ、掘り返された跡がある!」
 仲間たちは土を掘り始め、程なくして木の扉を見つけた。
 祠の下、かつて神社を護っていたものが使用していたのだろうか、人一人がやっと通れるほどの小さな扉。
「開けるぞ」
 万が一に備え、紬の結界を受けてから竜哉はゆっくりと扉を押しあけた。
 

●二ノ班
 隣町では、舞台の前で芝居の案内をする旅芸人の一座を中心に人の輪が出来ていた。
 開拓者たちは、町人を装い旅芸人達を観察する。
「おや、一人足りないね」
 事前に聞き取っていた情報から、旅芸人達の照合を取っていたフランヴェルが怪訝そうに呟く。
「なんだと?」
「聞いた話だと、もう一人いるはずだ」
 その時、一際大きな歓声が上がった。
 舞台奥より現れたのは、まるで女性と見紛うかのような美しい男。
「あいつか‥‥!」
 近くに居た娘たちが上げる黄色い声に忌々しげに呟くと、空は男を凝視する。
 旅芸人達が交わす言葉を聞き漏らすまいと、聴覚を研ぎ澄まし言葉を拾う。
「あの男、怪しいわね」
 庚は男に群がる村娘に乗じて前へと出た。

 ユリアは、男に群がる少女たちの中に小夜が居ないか注意深く観察する。
 聞き取り調査の結果、小夜はまだ町には到着していないようだ。だとすれば、これから来る可能性もある。
 すると、反対側から移動してきたフランヴェルと肩が当たる。
「小夜はまだみたいよ。万が一、今着いたりしたら先に確保しないとね」
「わかった。それから、あの男が後から出てきたのも気になるね」
 ユリアが人を注視する隣でフランヴェルは舞台奥に繋がる通路を見つめる。
 何故あの男だけが後から出てきたのか。ただの偶然ならばいいが、舞台奥に何かあるのかもしれない。
「それは、俺が後で見てくる。テメェらは旅芸人と話をしといてくれ」
 超越聴覚で旅芸人達の会話に聞き耳を立てていた空は、聞き取り調査を仲間に任せると一旦輪から外れた。

「おや、これは見かけないお嬢さんですね?」
 娘たちの波に乗って前まで進んだ庚は、男に声をかけられた。
 間近で見る男は遠目で見るより更に美しく。年端もいかぬ娘なら夢中になるのも仕方ないのかも知れない。
「えぇ、ここで素晴らしい芝居が観れると聞いて、ね」
「芝居は夜にありますから、是非いらしてください。貴方のような美しい娘さんなら大歓迎です」
 ふわりと微笑むその顔はまるで大輪が咲いたかのごとく華やかで。
 庚の周りに居た娘たちから一際高く声が上がった。
「‥‥凄い人気ね。‥‥お兄さん、女の子達に好かれてるのね?あたしの知人の子もきっと夢中になるわ」
「‥‥いえいえ、私などまだまだ‥‥。知人の‥‥娘さん、ですか?」
 余所行きの笑顔で返答する男に、庚は小夜と同じ特徴を挙げていく。
 男は一瞬笑顔を失くし、だがすぐ元の笑顔に戻ると問いかける。
「――その娘さんは、まだ芝居を見に来たことはないのですか?」
「――どうかしら、ね?どうも最近姿が見えないのよ‥‥」
 庚のその言葉に、男の瞳が些か揺らぐのを見逃しはしなかった。

「庚、どうだった?」
 男の元から戻った庚に、さりげなく近づいて声をかける。
 周りから見れば男と言葉を交わした娘に様子を聞いている様に見えるだろう。
 会話の内容とは裏腹に、ユリアと庚の顔は満面の笑みを浮かべている。
「あの男、怪しいわね。小夜と関わりがあると思うから、様子を伺っていた方がいいわ」
 その輪にフランヴェルも加わる。
「町の人から得た情報だと、一座の中には小夜君ぐらいの子供は居ないようだ」
「ということは――後は彼らの荷物?」
「其れなら今、空が行っているわ」
 ユリアはそう答えると、空が行っているであろう舞台奥を見つめた。

 空は身を透かし、舞台裏へと忍び込んでいた。
 大きな長持の蓋を開け、入っていた天幕の中を探す。
(いねェか‥‥)
 肩透かしを食らった様子で、空は辺りを見回し、娘が入れるような大きさの荷物を探す。
(惑わされたか、喰われたか。どちらにせよ‥関わっているのか‥?)
 小夜を探しながらも、心には渦巻く疑念。その記憶の先には、髪に大輪の薔薇を宿した女の姿。
 空は囚われそうになる思考を遮るように頭を振る。
(どちらにせよ、マズは芸人が原因なのか、違うなら原因は「何」なのか、ガキは何処へ行ッたのか、だ)
 再度気を取り直して舞台奥から表の様子を警戒しつつ、空は手がかりを探し続けた。
「空さん」
 その時、舞台裏へと僅かに届く声で、呼ばれた。
「庚か?」
 聞き慣れたその声に空は外へと出、姿を現す。
「怪しい男が町の外へ出たわ。先に二人が追っているから、私たちも早く」

「何処へ行くのかしら」
「この街道を進めば、小夜君たちの村だね」
「このまま街道を行くとは‥‥思えないわね。‥‥庚たちは、ついてこれるかしら」
「脇の道にそれた。行こう」
 フランヴェルの声に促されるようにユリアは街道脇の小道へと男を追いかけて行った。

●遭遇
「――お前、小夜か?」
 祠の下に潜り込んだ竜哉の目は漸く闇に慣れ、奥にいる人影を見極めることができた。
「‥‥京様?」
 奥に居た娘がぽつりと声を発する。どこか酔ったような、呂律の回らない声。
(京様とは、少年の言っていた『あいつ』のことか?)
「迎えに来たんだ、小夜。君を待っている人が居る」
「誰‥?京様じゃないの?」
 声色が怯えを帯びたものに変わる。
(惑わされているのか)
 竜哉は、再度娘へと声をかけた。
「小夜、行こう。君を待っている人が居る。帰ることが出来る場所がある、それを捨てちゃいけない」
「いや‥‥、京様は?京様はどこ、怖い」
「‥‥」
 竜哉は説得して連れ出すのは難しいと判断し、奥へと手を伸ばすと娘を引きずり出した。
「いやっ、やめて!」
 娘の激しい抵抗。しかし、なんとか娘の動きを確保することに成功した。
「大丈夫か?急いでギルドへ―――」
 娘と竜哉の様子を伺う一が言葉を途切れさせ、ペケと共に後ろを振り返る。
「‥‥こんな場所にヒトとは、珍しいですねぇ?」
「あなたも、珍しい服装ですね?」
 ペケが指摘したとおり、男はこの付近の者とは思えぬような出で立ちで現れた。
 綺麗な着物を着流しに纏い、その顔はまるで女性のように美しく端正で――。
「私は、町に逗留している者でしてね。此処にはお参りに来たんですよ。貴方がたは‥‥?」
 一とペケの後ろを気にしながら、男は回り込む。
(町に逗留って‥‥この人、旅芸人でしょうか)
「あなたはもしかして――」
「あら、旅芸人のお兄さんじゃない。こんなところでお目にかかれるなんてね」
 その声に男はぎょっとして振り返る。視線の先には、隣町から男を追ってきたユリアとフランヴェル。ユリアの言葉に、ペケ

達はすべてを察した。
「‥貴方がたは、町にいた‥」
「言葉も交わしていないのに覚えていていただけるなんて光栄だね」
「こんな人も来ないような神社に、何の用なのかしら?」
「私たちも、今それを聞いてたんですよ」
「‥‥‥っ」
 開拓者たちに囲まれる状態になった旅芸人の男は、この状況が嵌められたものだと、察知した。
「小夜‥‥こいつらに囚われてるのかい?可哀想に‥‥君は私と一緒に居たいだけなのにね」
 男がふっと息を吐くと、辺りに激しい風が吹き荒れた。
 男の術を遮るよう、開拓者たちの攻撃が飛ぶ。
 しかし吹き荒れる風に視界を奪われ、ダメージを与えられず。
 ガァーーン!!
 風を突き破るように、一筋の光。
 それは男の肩に命中し、風を止めた。
「追いついたわ、やっと」
 構えた銃の的は逸らさずに、庚が呟く。
(あの女は‥‥いねェか)
 空は辺りを一瞥すると、今回は会えそうにない事を悟った。
 気を取り直し、刀を構えると、男を睨み付ける。
「‥お前、まんまと嵌めてくれたね。小夜の事が気になって来てみれば、この有様だ‥‥。私に傷を負わせて、ただで済むと思

わない方がいいよ」
 男は肩に受けた弾丸を指で抉り、笑みを浮かべる。その顔は、既に『旅芸人』のものではなく。
(今だ!)
 男の注意が庚に向いた瞬間、開拓者たちは小夜を抱え逃げの手を打った。
「目くらましですよ!」
 ペケの煙幕が辺りを包み込み、男の視界を奪った。
「く‥‥、小夜っ」
 些か狼狽した声で男は小夜の名を呼ぶ。
 しかし、その声に応えるものは、なかった。

●開拓者ギルド
「無事戻ってきてくれて、何よりだ。小夜は今、解除の法を受けて眠っている。目を覚ましたら村へと送って行こう」
 青柳新九郎(iz0196)から状況を聞き、開拓者たちは安堵の息を漏らす。
「新九郎、これを」
 ユリアが懐から紙を取り出す。
「旅芸人の一座を描いておいたわ。これで、過去の行方不明者が出ている村で確認が取れないかと思って」
「そうだな、これを基に最近の行方不明者のリストと住んでいた場所、それらと旅芸人の移動ルートを調べてみれないか」
 ユリアと同様の考えを持っていた竜哉も賛同し、新九郎に似顔絵を手渡した。
「ありがとう。今までの事件と照合をとり、必要とあれば事件の起きた村などを洗ってみよう」
「よろしくね、新九郎さん」
「頼んだぞ」
「任せてくれ。だが‥‥いざという時は、お願い致す」
 その時は頼むと、新九郎は頭を下げた。