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■オープニング本文 「遅くなってすまなかった。依頼の内容を説明させてもらう」 男は、開拓者の前に腰を下ろすと手帳を開いた。 「青柳新九郎(iz0196)と申す。この開拓者ギルドでボランティアをしている。そのきっかけとなったのは、私が勤める城に居られる姫君が、アヤカシにかどわかされた事に始まる。そのアヤカシは、年端の行かぬ娘を攫い、恐怖や苦痛を与え、もがき苦しむ心の涙を、悲鳴を‥‥。己の力へと変えていくモノだった」 思い起こすように、時折瞼を伏せながら、新九郎は開拓者へと語る。 「開拓者たちの力により、そのアヤカシを討伐し、姫君をお救いすることが出来たのも束の間。そのような特性を持つアヤカシが多数いることが判ったのだ。我は、苦しむ姫君を目の当たりにした。‥‥あのような苦しみを受ける子が他にも居る事は耐えられぬ。その為、我は開拓者ギルドにおいて、そのような事件を調べ開拓者たちへと伝える仕事に就いたのだ」 「て、ことは。これから話す依頼ってぇのも、その『娘を攫うアヤカシの討伐』関係ってことか?」 「その通り。先だっての依頼で、怪しい旅芸人の一座の調査を行った。その旅芸人の一座に居る、『京』という男に熱を上げた村娘が行方知れずとなったので、探してほしいという依頼だった。ただの恋物語と思うかも知れぬが、その『京』に心を囚われた娘は尋常ではないほどに、『京』に狂っていた。開拓者たちの働きによって、娘を取り戻し、その身を調べたところ『魅了』の術がかけられていたのだ」 「その『京』ってのがかけたと?」 「其れは判らぬ。可能性は高いと思うが、な」 「はっきりはしていないのか。では、今回の依頼はその旅芸人を?」 「先だっての依頼の際、開拓者の手柄で一座の似顔絵を入手したのだ。その絵を手掛かりに今まで行方知れずになった村や町を調べたところ、いくつかの町に一座が逗留していたことがわかった」 新九郎は机の上へと地図を広げる。地図にはいくつかの赤い印が打たれていた。 「此処と、此処、そしてこの町‥‥。旅芸人が通った町では必ず複数の娘が行方知れずとなっている。この一座を‥‥いや、『京』と呼ばれる男を捕まえれば、何かが掴めるだろう」 「捕まえるのか? 例えその『京』がアヤカシだったとしても?」 「――できれば。今まで行方知れずになった娘たちが未だ苦しんでいるかもしれぬ。それであれば救わねばならぬ。――それに」 新九郎は強く拳を握る。 「‥‥此れは、推測ではあるのだが」 低い声。周りにも聞こえぬよう注意をはらっているのが判ると、開拓者たちは顔を近づける。 「この事件には、もっと大きな脅威がある。その脅威を放置すれば、この先大変なことになるだろう」 「おおきな脅威‥‥?」 開拓者の一人が首を傾げた。 「『薔薇姫』という、アヤカシが居る。恐ろしく強いアヤカシだ。人体に蕾を植え付け花開かせ、花から出た瘴気で人を魅了する。また、蔦を自在に操り、地を割り、その亀裂に人を飲み込むこともできる。――『薔薇姫』は、己に魅了された娘たちの苦しみ叫ぶ心を糧として、強さを得るらしい‥‥そのアヤカシが、全てを操っているのではないかと思えるのだ」 「じゃあ、その『京』ってのを捕まえて、『薔薇姫』をおびき出すことが‥‥」 開拓者の言葉に新九郎は頷いた。 「まずは、旅芸人の一座が向かう町へと急行してくれ。そこで『京』を捕まえる。その後、『京』から、娘たちや薔薇姫の情報を集めるだけに済ますのか、『京』をアヤカシをおびき出す駒とするのかは、任せる」 地図を避けると、また別の紙を開く。先の依頼で開拓者が描いた『京』の似顔絵。 「この男が、『京』今回の鍵だ」 開拓者たちは、その絵をじっと見つめた。女性と見紛うように美しい男。年端もいかぬ娘ならその微笑だけで虜となるだろう。 「町へ入り込み、『京』を捕まえる。今のところ、『京』が人間なのかアヤカシなのかは判らぬ。万が一『京』と戦う事となれば、周囲に注意を払ってくれ。それから、『京』を捕まえた後、『薔薇姫』を誘き出すのならば、連戦を覚悟する必要がある。無理にその場で行わず、一旦体勢を立て直してから『薔薇姫』との戦いに臨むことも出来るから、それを忘れぬよう」 『薔薇姫』の強さを知る新九郎は、『くれぐれも無理をしないでくれ』と最後に付け加え、頭を下げた。 『京』から『薔薇姫』へ、その道が繋がるのか‥‥其れは、開拓者たちの手に委ねられた。 |
■参加者一覧
倉城 紬(ia5229)
20歳・女・巫
ラクチフローラ(ia7627)
16歳・女・泰
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
ユリア・ソル(ia9996)
21歳・女・泰
千鶴 庚(ib5544)
21歳・女・砲
華角 牡丹(ib8144)
19歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ●接触 「あんさんえらい綺麗でありんすが、旅芸人かなんかでありんすか?」 華角牡丹(ib8144)は、茶屋で『京』に声をかけた。 事前の仲間たちとの打ち合わせ。『京に会ったことがない者が接触を試みる』と、決めた。 その思惑通り、京は警戒することもなく牡丹を顧みる。 「えぇ、私は旅芸人の『京』と申します。――お嬢さんも、とても美しいですね」 自らが褒められた事から相手の好意を汲み取ると、京は美しい微笑を浮かべる。 「ありがとうござりんす。良かったら、そこに座っておくんなんし。旅芸人ともなれば、道中大変でありんしょう? わっち、もっとあんさんの話聞きとおす」 ゆっくりと自分の前の席を指し示す。逆の手の中には、出発前に仲間から渡された『竜爪』が握られていた。 『気休めかもしれないが、一応ね』その言葉が耳に蘇る。 紬がくれた加護結界もある。そう簡単に魅了に堕ちる事はない。 (花魁の得意技、褒め殺し、受けておくんなんし) 腰を下ろすように促す牡丹の笑みは、その名を冠す花のように艶やかで。 京は微笑み返すと、彼女の前に腰かけた。 茶屋に入ってきた人影、一つ。 肩にかかる美しい髪をなびかせて、入り口近くに腰掛ける。 (無事接触できたみたいだね) ラクチフローラ(ia7627)、彼女もまた、京とは面識がない一人だ。 万が一、牡丹が接触に失敗した場合を考えて、彼女からつかず離れずの場所に居たが、無事接触したのを確認して一息ついた。 (店にお客さんが少なくてよかった) 狭い茶屋を見回す。自分と牡丹たち二人を除くと、店内に客は二人だけ。もしここで戦闘が始まってしまったとしても、なんとか外に逃がすことが可能だろう。 再び、ラクチフローラは京へと視線を移す。注視しているのを悟られぬように気をつけながら、京の姿をくまなく見つめる。 『薔薇姫』の支配下にある人間だとすれば、彼女の能力により、その身に薔薇の蕾や花などを実らせているかもしれない。 しかし、衣服の上からの視認では、其れは確りとは確認出来なかった。 「あっ! もしかして京様じゃない?」 茶屋に一際黄色い声が響いた。 その声に、視線を移動させた先には、髪を黒く染め三つ編みをしたユリア・ヴァル(ia9996)と、マフラーを目深に被り、顔を隠した倉城 紬(ia5229)の姿。 「おや、お嬢さん方、私をご存知ですか?」 「だって私ずっと探していたのよ。この街に一座が来てるって言うから、街の中できっと会えるはずだって」 京の微笑みに魅了されたかのように頬を染めるユリア。 もとより男性の苦手な紬は、ユリアの言葉に『うんうん』と頷きながら、彼女と一緒に京の近くへと歩み寄る。 「お嬢さん方も如何ですか、一緒にお茶でも」 傍へと寄る、ユリアと紬に座を勧めると、「いいですか?」とでも言うように牡丹へと目配せを送る。 その慣れた様子に、今まで多くの娘たちが同じように彼の手中に落ちていったのだろうと感じつつ、同じ卓へと座したのだった。 ●収集 一方。 京と面識のある竜哉(ia8037)。髪を染め、ジルベリアの衣装に身を包み、冷たい空気に眼鏡を曇らせながら街頭を歩んでいた。 (魅了するにしても、あまりに派手に動きすぎる。一座ぐるみでの仕事で、京が「御輿」、即ち注目させる為の餌ってのも考えられる) 一座の様子に引っかかりを感じていた彼は、今回の目的に情報収集をも含んでいた。 「やぁ、ちょっといいかな?」 旅芸人の一座が逗留する宿の門をくぐると、竜哉は明るく声をかけた。 「へい、いらっしゃいまし。ご宿泊で?」 気の良さそうな主人が奥から顔を出すと、揉み手をしながら歩み寄ってきた。 「あぁ、そう思っていたんだが‥‥。どうも随分賑やかな様子だね?」 「へぇ、昨日から旅芸人の方々がご宿泊でらっしゃいまして‥‥少々‥‥。ご迷惑をおかけいたします」 主人は苦笑交じりに頭を掻く。 「そうかい。その一座は長く逗留するのかい?」 「一週間ほどで。その間に興行を行うとかで」 「‥‥すると、結構な人数が居るんだな?」 「そうですねぇ‥‥ひのふの‥‥、恐らく15人ぐらいはいるかと」 竜哉の巧みな話術に、宿の主人は旅芸人の一座について知りうる事を、全て伝えることとなった。 「ある程度の情報は掴めた」 宿の主人に散歩に出ると告げた竜哉は、近辺で情報収集を行って居た千鶴庚(ib5544)へ声をかけた。 あくまでも、旅人同士が偶然言葉を交わしている様子を装いながら、二人は団子屋の軒先に腰かける。 変装の為に着けていた市女笠をはずすと、結い上げた髪を直す庚。 「一座の人数は15人ほど。座長や役者、他に裏方もいるそうだ。この街へは、すぐ先にある店の店主が呼んだらしい」 あれだ。と、その店を指差すと、庚にも注意を促す。 促されて向けた視線の先には、小太りの店主が慌しげに店内を動いていた。 「仲介先、かしらね」 もしやこの街が、薔薇姫との接触箇所かも知れない。 だとすれば、街に協力者がいるとしても不思議ではない。 一つの可能性を考えながら、庚は団子を口に運んだ。 「この街にいる年頃の娘たちには、薔薇や蕾を宿している子は居なかったわ。この街を薔薇姫への中継として使っているのなら、怪しまれないようにあまり大きく動くことはしていないのかも知れないわね」 竜哉は、こくりと頷きながら茶を飲み干した。 ●囚えるものを捕える時 「そう、じゃあ身寄りがないんだね」 「えぇ、父も母も幼い頃に亡くしてしまって。今は大店で奉公の身なのよ」 「それは寂しゅうおざんすなぁ」 「少しね。でも、仕方がないわ」 「そうだね。誰かいい人でも居れば寂しくもないだろうけど‥‥、お嬢さんのように美しい娘さんが一人ぼっちだなんてね」 京は、そう呟くと気遣うようにユリアの手を取った。 身寄りがないという言葉が決め手になったのだろうか、京はターゲットをユリアへと絞ったように見えた。 「ねぇ、キミも、そう思わない?」 ユリアの傍らに腰掛ける紬に賛同を促すように微笑みかけた。 「!? は、はい? えと。何か御用でしょうか?」 紬は突然声をかけられたことに緊張しつつも、再度京から問いを告げられると、「そうですね」と言葉を返す。 「けれど、‥‥私では分不相応かな。しがない旅役者の身だしね」 そう呟くと、京はじっとユリアの瞳を見詰める。 (魅了‥‥!) ユリアは胸元に忍ばせた、青龍晶を思う。これも竜哉が渡してくれたもの。そして、京から視線を逸らす。 その反応に、見切りをつけたか。ポン、とユリアの手を叩くと、京は突然座を立ち上がった。 「あ‥‥っ」 感づかれただろうか。三人は一様に立ち上がった京を見つめた。 「そろそろ芝居の支度の時間でね。良かったら、また舞台でね」 名残惜しそうにも見える微笑を浮かべると、京は店を跡にした。 「大丈夫?」 「危ないところでありんしたな」 「大丈夫。さぁ、チャンスが来たわ。追うわよ」 「わかりました、その前に」 紬の体が淡く光り、ユリアへと加護結界を施す。 「ありがとう」 ユリアは店を飛び出し、残る三人も其れに続いた。 「京様!」 感極まったような声で、ユリアは京を呼び止めた。 「どうしましたか? 何か忘れ物でも――」 ゆっくりと振り返った京に、ユリアは抱きついた。 魅了にかかったと思わせるように頬を染め、瞳を潤ませ。その体を京は受け止める。 すかさず、左右、背後を固めるように、紬、牡丹、ラクチフローラが囲む。 「‥‥‥‥?」 ユリアを抱きしめたまま、京は辺りを見回す。流石に、この状況はおかしいと思ったのだろう。 「このまま、一緒に来て貰うわよ」 反撃を防ぐように自らの身体を使い、ユリアは短剣を繰り出した。 案外簡単に、この捕り物は済むかと思われた。 京は大人しく人気の無い街の片隅までつれて来られ、大樹を背に腰を下ろす。 其処には、別れて行動していた、竜哉、庚もいる。 「私を捕らえて、どうするつもりだ?」 半ば、馬鹿にしたような笑みを浮かべ、京は問う。 それも、薔薇姫に魅了されているからだろうか。ユリアは、解除の法を試みた。 (以前、救出した娘は、数回の解除の法で正気に戻ったと聞いたわ。それより深いとしても、少しでもこちらに傾倒させられれば‥‥) 「聞きたいことは、いくつかある。大人しく問いに答えて貰おうか」 辺りに人気の無いことを確認すると、竜哉は京の前に立った。 何かした場合は容赦しないとばかりに、手には武器を構えている。 「今まで誘拐した子たちは、どこにいるの?」 ラクチフローラは、自分の疑問を問いかける。 「それに答える理由はないね、お嬢さん」 「そんな事を言える状況かしら? 逃げられるとでも思ってるの?」 残念ながら、解除の法が効くことはなく、諦めたユリアは京を脅しにかかった。 「開拓者にこれだけ囲まれていたら、無事に逃げおおせることは出来ないわ。大人しく答えたほうが身のためよ」 京は、クックックッと笑いを漏らした。 その表情に眉を顰めながらも、庚は声を発した。 「ねぇ、京さん。この失態を犯して、あのお姫様は貴方の味方で居てくれるかしら。協力すれば‥‥ギルドが貴方を『保護』するわ。アヤカシであっても協力して、生き延びれば好機が来る可能性がある。どうする?」 「あの、お姫様?」 庚の言葉の端を掴むと、京は顔を上げた。 「どのお姫様のことだい?」 「判っているのよ。貴方と薔薇姫が繋がっていることは――」 「へーぇ? それで、私の安全を確保するから、手を貸せと。交渉してるつもりかい?」 「――そのつもり、よ。薔薇姫との関係、どうしてこうなったのか‥‥。そして薔薇姫と囚われた子供たちの居場所を教えて頂戴」 「その問いに答える理由は、私を護ってもらうため、か。キミたちに」 嘲笑うような笑み。その顔に竜哉とユリアがいち早く身構える。 ゴウッ!!! すさまじい風。それは京を中心に渦巻いていく。 「く‥‥っ」 ラクチフローラの頬に、風の刃で斬られた傷が浮かぶ。 「治します!」 紬の閃癒により、その傷は瞬く間に消え失せ、ラクチフローラは荒ぶる鷹を模した姿を取る。 「私と戦う気かい? 」 ラクチフローラに合わせるように、他の開拓者たちも武器を構え、京を逃がさぬように取り囲もうとする。 「じゃあ、その前に。一つだけ答えてあげるよ。失態は‥‥、この前娘をキミたちに奪われたことが既に『失態』なんだよ。そんな私を、あの姫様が許すと思うかい?」 「‥‥」 「私は、あの人に捨てられた。キミたちを殺さなければ、あの人の傍に居ることは許されない。あの美しい人にもう一度微笑んで貰うには‥‥、オマエタチヲコロスシカ‥‥!」 京の言葉は徐々に正気を失い、暴風渦巻く中心にいる姿が異形の姿に変容していく。 頭には禍々しい角。目からは血のような赤いものを滴らせ、口は耳の付け根まで広がっている。 「グァァ!」 『京であったモノ』はアヤカシへと姿を変え、暴風の中から毛むくじゃらの手を伸ばした。 「させるか!」 竜哉の剣先がその腕を弾く。 剣戟が鳴り、銃声が響く。アヤカシは瘴気を撒き散らしながら抵抗する。 「お前が本気を出したところでこんなものか」 竜哉の聖堂騎士剣に瘴気を払われ、暴風はラクチフローラの繰り出した拳によって封じられた。 「グ‥‥ァ」 大きく手を振り、開拓者たちを退かせようと試みる。 「遠くに居る私には届かないわよ」 庚の銃弾が、アヤカシの腕を巻き込むように螺旋を描き、肩元へと着弾した。 止めを刺さなかったのは――。 「もう一度言うわ。協力すれば‥‥ギルドが貴方を『保護』する。協力して、生き延びるのよ。それでも、此処で潰えるのが望み?」 「生きる‥‥」 アヤカシの声が冷静さを取り戻す。 『生きたい』という感情が、アヤカシに在るか否か。しかし、彼は確かに其れに呼応した。 「‥‥わかった。私は、どうすればいい?」 状況を判断したユリアが、構えていた武器を仕舞うと口火を切る。 「薔薇姫の居場所と目的、現在の戦力。それから、出来れば誘い出しの囮になって貰えると良いわね」 「誘い出しの、囮?」 「そう。薔薇姫を誘き出すための囮になってもらうわ。危険が及ぶ可能性はあるけど、娘達を誘拐した罪は相応に償って貰う。例えアヤカシだとしてもね」 「一人で行かせるわけじゃない、安心して。私たちも行くわ」 庚が口添えると、アヤカシは再び口を開く。 「‥‥薔薇姫の居場所は、東房の山奥。そこで、魔の森を広げるために力を蓄えている。娘たちは、薔薇姫の力となるために、其処にいる」 「場所はわかるの?」 「私が失態を犯した後に、拠点を移していなければ」 「まずは開拓者ギルドに向かおうか。どうやって薔薇姫を誘き出すか、詳しく話を聞きながら作戦を立てよう」 ●そして‥‥。 アヤカシは『京』の姿へと変わり、開拓者ギルドの一室に通された。もちろん、捕縛の下に、だ。 新九郎は、自分の希望どおりアヤカシを捕縛した開拓者たちに礼を告げると、京の前に腰を下ろした。 「薔薇姫は周辺に居るアヤカシ達を魅了し手下にし、自分と同じように、幼い子供たちの苦しみ悲しむ心を吸い、強さを増して行かせている。そのような配下は優に100を超える。その配下も手下を持っている場合もあるから、水面下でどのくらいのアヤカシが動いているかは、わからない」 「それがすべて東房の山奥に?」 「いや、各地に散らばっている。私もそうだ。私は、今回開拓者たちに出くわした街の近くを拠点にしていた。薔薇姫は、この東房すべてを魔の森にしようとしている。薔薇姫が居る中枢が、山奥の此処、ということだ」 京は、目の前に広げられた地図の一点を指差した。 「其処の戦力はどのくらいだ?」 「アヤカシは、20〜30。薔薇姫以外は、そんなに強くはない。ある程度強くなれば、それぞれ離れた場所で子供を囚えて力を増強していったほうが効率がいい」 「しかし、薔薇姫は上級アヤカシ。一体だけでも苦戦するのに、20〜30いるとなれば‥‥」 新九郎は腕組みをして考え込む。 (娘たちを救い、薔薇姫やほかのアヤカシを倒すには、一度や二度攻め込んでも難しいかも知れんな‥‥) 「もう少し話を聞きたい。人間の協力者――あの街に居た、店の主人なども含めて、どのくらい居るのか。また、娘たちを助け出せるルートがあるかなど、な」 さまざまな作戦を思い浮かべてはかき消し、新九郎は京に告げる。 そして、傍らで尋問を見守っていた開拓者たちに、 「作戦は追ってふれを出す。その時はまた此処へと集まってくれないか」 そう告げて、京と二人、ギルドの奥へと姿を消したのだった。 薔薇姫と、配下のアヤカシ。 その闘いの時は、近くまで来ている。 |