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■オープニング本文 「む、娘を助けてくだされ…」 ギルドに駆け込むと、老人はそのまま床へと膝をついた。 「何がありましたか」 ギルドの職員が老人の普通ではない様子に傍へ寄り、問いかける。 「もう、此処しか頼れる場所はありませんのじゃ、頼む、娘を‥‥娘を‥‥」 「‥‥あれは、ひと月ほど前のことですじゃ」 しばらくして漸く落ち着きを取り戻した老人は、床に膝をついたまま搾り出すように語り始めた。 「わしらの村では翌年の豊作を願って祭りが行われるのですじゃ。それはそれは盛大な祭で、皆楽しみにしております。しかし・・・・其処に、あ奴等が現れおった‥・・!」 忌々しげに言葉を荒げる、その声からは血を吐くような口惜しさが伝わってくる。 「村の近くでは見かけん顔じゃった。あの身なりや横柄な態度、きっと山賊じゃ。事を荒立てぬに限る、とわし等は息を潜めて願っておった」 しかし、そこで事は起きた。 早い時刻から泥酔した彼らは、村一番美しい娘に目をつけた。 「やめてください!」 娘の激しい声が飛ぶ。 「なんだよ、酌ぐらいいいだろ」 「いや!誰があんた達なんかに!」 取られた腕を振り払うと、娘は男を一瞥する。 「ほーう、威勢のいいねぇちゃんだなぁ」 酌を断った娘に対し些か機嫌を損ねたらしい山賊達を宥めると、首領は品定めするように娘を見やった。 「おい、お前ぇら。その女連れてくぞ」 周りに居た下っ端に指示を出すと、首領は高らかに笑う。 「何するの!やめて!離して!!誰か、誰か助けて!!」 強引に腕を引かれ連れて行かれそうになる娘は、村人に助けを求める。無論、その父親である老人も必死で村の若者に助けを求めた。その中には娘に求婚していた若者も居る。 しかし、山賊に怯える村人たちは皆、目を逸らすばかりだった。 「そして‥‥、娘さんを連れて行かれたのですね」 ギルドの職員が問いかけると、老人は力なく頷いた。 「あれから、ワシは必死で娘を探しましたのじゃ‥‥。しかし、とんと消息は掴めず‥‥」 漸く件の山賊らしき集団と、その中には不似合いな美しい娘を見た、という噂話を聞きつけたのはつい先だってのことだ、と老人は語る。 「お願いです‥‥娘を、助けてくだされ‥‥」 噂を手がかりにやっと見つけ出した隠れ家には、屈強な山賊たちと首領がおり、入り口には常に見張りが立っている。 老人一人では到底助け出せるわけはなく、村の若者に助けを請うても、誰も力にはなって貰えなかったと老人は泣き崩れた。 「というわけで、この一件を引き受ける事になりました。皆さんは、早急に娘さんを救出してください」 ギルド職員が一息に言い放ち、開拓者達を見回す。 もう、攫われてから一ヶ月が経つ、今までは永らえていた命も山賊の気分次第でどうなるかはわからない。一刻も早い救出が必要だ。 老人が入手した情報だけでは些か心もとなくあったが、幸い、ギルドには山賊の目撃情報が寄せられていた。日時や様子を見るに、おそらくはその山賊であろうと思われる。 相手となる山賊は、首領の他、下っ端が10人ほど。 下っ端は手にした斧や刀で戦いを挑んでくる。 首領は志体らしく、巨大な分銅がついた鎖鎌で遠くから攻撃してくるらしい。分銅は人の頭ほど、鎌も大人の首が二人分同時に飛ばせるほどの巨大なもの。下っ端と戦っている間にも、この鎌には注意が必要だろう。 「例え、娘さんだけを助け出したとしても、次の犠牲者が出ないとも限りません。この機会に山賊の討伐もお願いします」 娘は山賊の隠れ家に囚われているとは思うが、その中の何処にいるかはわからない。もし娘を先に救出するなら、隠れ家を捜索する必要がある。その場合、もし捜索しているのが見つかれば娘が殺される可能性もある。 山賊を先に倒してしまえば、その後ゆっくり探し出せばいいが、戦っている間に娘を刃にかける可能性もあるから、その場から逃さないようにしなければならない。 どちらの手段を取ったとしても、充分に作戦を練る必要がある。 「潜入方法や、先に山賊を倒すのか、それとも娘を助けるのか。そこは皆さんにお任せします」 最後に一言伝えると、ギルド職員は席を立った。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
腹部 康成(ia3734)
25歳・男・サ
月酌 幻鬼(ia4931)
30歳・男・サ
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
鬼灯 恵那(ia6686)
15歳・女・泰
白藤(ib2527)
22歳・女・弓
鞍馬 涼子(ib5031)
18歳・女・サ |
■リプレイ本文 ● やがて本格的に冬へ入る山が、最後の彩とばかりに麓まで紅に身を染める山中を進み、開拓者たちは山賊の隠れ家付近へと身を潜めていた。 事前にこの場所に身を潜めることが出来ることを調べておいた、柊沢霞澄(ia0067)は身を低くして呟く。 「攫われた娘さんは大丈夫でしょうか‥村の為にも山賊は退治しておかないといけませんし‥早く救出して安心させてあげたいと思います‥」 「そうだな。祭りを打ち壊すこともそうだが、娘さんを連れ去る山賊は許せん。いつまでも娘さんが無事とは限らない、急いで救出しなければ」 腹部康成(ia3734)は頷くと、隠れ家を葉陰越しに見やる。 「アヤカシがこれだけ跋扈する世の中だというのに、人同士のこのような行為はなくならないんだね。ある意味ではアヤカシより頭にくるね!」 新咲香澄(ia6036)は人魂を鳥の形にすると宙空へと放った。 「全く‥酷い話もあったものだ。アヤカシの問題がある中で人間同士の問題なんて‥な」 青い空を羽ばたき、隠れ家に吸い込まれていく人魂を見送ると、雪斗(ia5470)は溜息をついた。 「わかったよ」 程なくして、人魂と感覚を共有させていた香澄は隠れ家の見取り図を描きだす。 「中の様子はこんな感じだったよ、それじゃボクは救出班の援護に回るね!みんながんばろうっ!」 香澄は娘が囚われている場所に大きく丸を描いて立ち上がった。 「‥さてさて、皆のしゅう、計画通りやるさぁね〜♪」 その傍らにしゃがみこんでいた月酌幻鬼(ia4931)も立ち上がり、楽しげに笑った。 事前の打合せどおり、誘い出し班と潜入班に分かれると、それぞれが配置につく。 鞍馬涼子(ib5031)は同じ潜入班である香澄と雪斗へ、極力音を立てず、隠れられるところがあるなら、危ない時は隠れて行くように声をかけると、時が来るのを待った。 ● 「ふふ♪盗賊狩りなんてひっさしぶりー」 鬼灯恵那(ia6686)が楽しげに微笑むと、雄たけびを上げる。大地を響かせるようなその声に、隠れ家から山賊の下っ端たちが飛び出してきた。 「人間の殲滅ね‥。まぁ、か弱い娘さんを攫ってるんだから、それ相応の罰を受けないとね‥?」 白藤(ib2527)が隠れ家から湧き出してくる下っ端たちを見やると、手にした弓に矢を番え、視力を一気に高め矢を放つ。 「‥賊か、バカなことしたなぁおまえ等も」 迎え撃つように隠れ家の入り口に立つと、高笑いを響かせながら幻鬼の拳が唸りを上げた。 「なんだコイツラはっ!」 「娘を連れ戻しに来たのか、お頭に知らせねぇと!」 開拓者たちと刃を交える中、下っ端の一人が戦いの目的を察すると隠れ家へと踵を返す。 だが、振り返ったその先には、刀を構えた康成が立ちはだかる。 「一人として隠れ家へ向かわせん!」 掛け声と共に一刀の下に打ち下す康成。その隣には回り込んだ幻鬼が立ち、隠れ家の入り口を塞いだ。 「うひひ‥黒鬼参上だぜぇ〜♪悪さする子は剛拳制裁〜♪」 入り口を塞ぐ二人を倒そうと躍起になる下っ端を康成は斬り倒し、幻鬼は強力を使い、その腕だけで意識を奪っていった。 しかし、人員を二手に割いた事で、一人が相手にする敵の数はかなり多く。 「全く…何処からこんなに出て来るのかな…」 白藤は確実に相手を射抜きつつも、呟く。その視界に何かが飛び込んできた。 「逃げちゃ駄目だよっ!・・・・つぁ・・・・っ」 隠れ家へと飛び込もうとした下っ端を背中から斬りつけた恵那の腕に、敵が放った矢が突き刺さった。 「恵那さん‥!」 すかさず霞澄がその傷を癒し、恵那を射た山賊を白藤の矢が貫いた。 「危ない、射程距離としてはギリギリだったかな?」 「くそう、これではキリがないな‥。それに、首領がいない」 次々と襲いかかってくる下っ端たちを相手にしながら、康成は隠れ家の中へ視線を送った。 「こっちだよ!」 香澄が先ほど人魂が見てきた風景を辿りながら、娘が囚われた牢を見つける。 「娘、もう大丈夫だ」 牢をこじ開けると、涼子は娘へと手を差し出した。 「もう大丈夫だからね、安心して」 香澄も笑顔で声をかけると娘に怪我などがないか、確認しようとする。そこへ、下品な笑い声が響いた。 「なんだなんだ、外で騒いでるだけかと思ったら、こんなところにも忍び込んでいやがったのか」 「・・・・見つかったか。頼む、鞍馬さん。一度彼女を連れて退いてくれ」 雪斗は涼子と娘を庇うように立つと小声で告げる。眼にも留まらぬ速さで首領に密着して拳を打ち込んだ。 拳は首領の腹へと重いダメージを与える。手ごたえを確認すると、先ほどまで自分が居た場所に立つ仲間へ視線を動かした。 「新咲さんも無理するなよ?」 「大丈夫だよ。絶対守ってあげるから、安心してね」 香澄は雪斗の言葉に小さく頷くと、娘が安心するように笑顔で振り返った。 「ここまで乗り込んでくるとはいい度胸だ。いっちょ俺が遊んでやるぜぇ」 すばやい動きから繰り出された雪斗の攻撃に一瞬怯んだものの、すぐさま体勢を整えると手にした巨大な鎖鎌を振るい、牢の出口を塞ごうと動く。 その瞬間、涼子の地断撃で大地地が割けるほどの衝撃が首領を襲った。 「うがあああっ」 地面へと叩きつけられた首領の隙を突くと、涼子は娘を抱えて走り出す。 「御免!あとはお頼み申した!!」 「くそうっ、おめぇら許さねぇ!!」 怒り心頭の形相で立ち上がると、首領はその場に残った雪斗と香澄へと鎖鎌を繰り出した。 「やられるか!」 それを回避した雪斗は再度首領へと拳を打ち込んだ。 「この・・っ、・・うぉぉっ」 「ボクの火輪は少々熱いよ、容赦しないからそのつもりでねっ!」 懐へ飛び込んだ雪斗めがけて鎌を打ち下ろそうとした首領の腕を、香澄の火輪が燃え上がらせた。 ● 一方、隠れ家の前の戦いは漸く決着がつこうとしていた。 混戦を極めた戦いではあったが開拓者達の確実な攻撃と、的確な癒しによって下っ端は残り僅か。 その戦いの最中、娘を抱えた涼子が隠れ家から飛び出してきた。 「除け。下郎‥‥」 開拓者たちの攻撃によって、涼子の目の前に立ちふさがる形になった下っ端に、渾身のスマッシュが炸裂した。 「良かった。無事だったんだねぇ。でも‥‥」 矢を番えたまま様子を伺っていた白藤が安堵の声を漏らすが、雪斗と香澄が続いて出てこない事に不安げな色をその眼に浮かべる。 「二人はまだ中だ。‥首領の相手をしている」 涼子は娘をその場に下ろすと状況を説明し、娘は自分が護るから手助けに行ってくれと告げた。 「うわぁぁっ!」 その時、叫び声と共に隠れ家から二つの影が飛び出してきた。 「香澄さん‥!雪斗さん‥!」 地面へと転がったのは香澄と雪斗。二人とも腕には自信があるとは言っても、二人だけで首領を倒そうとした代償は大きく、かなりの傷を負っている。 「加勢する!!」 地へと倒れこんだ仲間の姿に、首領へと強打を放つ康成。と、同時に霞澄の声が響く。 「精霊さん、力を貸して‥、術式展開、精霊力集積‥エレメンタル・キャノン、シュート‥!」 「ぐあぁぁっ」 康成と霞澄の攻撃をモロに食らってよろめいた首領は、自らを取り巻く開拓者と倒された下っ端たちに気づく。 「くそっ、てめぇら!俺の大事な手下どもに!」 首領は怒りに打ち震えると、鎖鎌を頭上で旋回させ轟音を立てつつ振り回した。 「うひひ‥、当たらないねぇ」 大鎌を体を掠めるように回避すると幻鬼は首領へと殴りかかる。 「くそうっ」 幻鬼に反撃するために鎖鎌を引き戻すところを見逃さず、恵那が詰め寄った。 「飛び道具なんて嫌いだよ。斬れないとつまらないからっ!」 両手で秋水清水を握ると一気に振り下ろし、首領の肩から斜めに血飛沫が散った。 「精霊さん‥、皆さんの怪我を癒して‥」 霞澄は、必死で雪斗と香澄の回復に当たっていた。そして、二人が立ち上がる。 「すまない、待たせた」 「一緒に戦うよっ!」 戦線に復帰する雪斗と香澄。 彼らの回復を済ませた霞澄もすかさず仲間たちを癒しにかかり、涼子と娘の見守る中、総攻撃が始まった。 「うおおおおおっ、誰かてめぇらなんかにやられるかぁぁ!!」 激しい戦いによって首領の身体には幾筋もの傷が刻まれていく。 しかし、その傷をものともせず血塗れになった鎖鎌を開拓者たちに向けて打ち振るった。 「うおぉぉっ」 「・・・・くぅっ」 激しく旋回する大鎌を回避し、受け流す仲間たちの間から一閃、白藤の矢が首領の額を貫いた。 「─私は自分の手が血で汚れようとも大切な人を護る為なら厭わない」 首領は何か言いたげに、ぱくぱくと口を開閉したが、言葉を紡ぐことは叶わず。どうっと音を立てて、その場に倒れ伏した。 ● 「これで済んだな。村の皆も喜ぶだろう」 戦いの終焉を見届けると、涼子は傍らの娘に語りかける。 程なく、開拓者たちもその周りに集まってきた。 「大丈夫?やっぱり怖かったよねぇ…」 白藤は娘を気遣うように傍に膝をつくと労わる様に肩を撫でる。 「無事ならよかったよかった♪」 恵那も娘の安堵した様子に笑顔を浮かべ。 最後に到着した霞澄が小さな声で囁いた。 「もう大丈夫です‥。送りますから、帰りましょう‥」 村の入り口では老人が娘の帰りを今か今かと待ちわび、立ち尽くしていた。 遠目に老人を見つけた香澄が駆け寄る。 「娘さんを無事に救出したよ、もう安心してね」 老人にそう告げると微笑み、娘と引き合わせる。 一ヶ月ぶりの再会を果たした老人と娘は二人抱きあって喜びを噛み締め、何度も何度も香澄や開拓者たちへ頭を下げる。 「それと、山賊は倒しておいたから安心して、ただ何かあったらすぐにボクたちを頼ってね!」 何度も告げられる礼の言葉に、嬉しそうに微笑んで香澄が応える。その様子に、康成は目を細めた。 「親子も村もこれで大丈夫だろう‥うむ、今夜は美味い酒が飲めそうだ」 傍らに居た雪斗はタロットカードを一枚引いて呟く。 「とはいえ‥人を討つのは‥どうあっても慣れないね‥。星の正位置‥か、悪くはなかったんだ‥な」 かたや、隠れ家には幻鬼と恵那の姿があった。 生き残らせた賊たちに説教をする幻鬼を恵那は眺めている。 「さぁて、お前等賊はどうしてこうアホばかりなのかねぇ。さて、本題だが、お前等大工やらねぇか?知り合いが人手足りないからって困ってるんだぁよ」 周りの下っ端と目を合わせて様子を伺う下っ端たちに、幻鬼はにやーっと微笑む。 「豚箱につめられて、冷たい不味い飯くって後生を生きるのに比べたら悪くねぇ話だぁろぃ?自分が今までしてきた罪を償うためのチャンスでもある・・どうだ?」 彼らが悔い改めて労働に精を出すかは、また別の話。 山は、沈む夕日に更に身を紅く染め始めた。其処に、もう泪を零すものは居ない。 |