【猫又】遅れた園遊会
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや易
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/02/08 10:03



■オープニング本文

「はにゃ? はにゃゃ??」
 ご近所の立て看板を前においらは目を疑った。
 それはなぜかといえばそこにおいらの知っている人物の名前があったからだ。
「ご主人、ご主じーん!! 大変にゃ! 一体何やらかしたのにゃ! 町の立て看板にご主人の名前が…」
 おいらはそれに慌てて、お買い物を切り上げ家に戻る。すると、そこには今年初めての来客があった。
「おや、そちらが今の相棒君かい?」
 ぱりっとした紋付袴に家紋入りの刀。どこかの偉い人っぽい雰囲気を感じる。
 けれど、言葉振りはとても気さくでそのギャップが少し面白い。
「……あ、ポチって言いますのにゃ」
 おいらはぼんやりとしたまま短く挨拶し、ご主人の隣に移動する。
 ご主人自体も相手が相手なのか、いつもとは少し違ってみえた。いつもであれば胸元はだらしなく、人が来ても寝転んだまま対応する事もあるのだが、今日は上体を起して胡坐を掻き相手と向かい合っている。
「ご主人、この人は?」
「ああ、挨拶が遅れたね…訳あって姓は明かせないが、菊柾(きくまさ)と言う。一抹には昔依頼を請け負って貰ってね、その時の縁さ」
 少し皺が増え始めた顔で優しい笑顔を見せる男。
 訳ありというのは気になるが、それにしてもご主人はつくづく顔が広い。若い頃開拓者として有名だったというのは本当らしい。これまでも何度かご主人を頼ってやってきた人を少なからず知っている。
「で、さっきのこいつの口振りからして俺が出る事になっている様だがどういうことだ?」
 立て看板に自分の名前がある事にご主人は心当たりがあるらしかった。ぎろりと菊柾の方を向いて問う。
「おまえの噂は聞いてるよ…今は隠居状態なんだってなあ。だったら断る理由もないだろうともう載せておいた」
 悪びれもせずに笑顔のままでそういう菊柾にご主人は眉を顰め呆れ顔。
「おい……そういうのは普通形式的でも本人の了承を得てからだろうが」
「だから今了承を得に来ている」
 ご主人の切り返しにあっさり答える彼。それがなんだかいつもと違うやり取りで、おいらは無性に楽しくなる。
「全く……仮に上のもんがそんなことでいいのか?」
「いい。それに私とおまえの仲だろう? あの酒蔵に口利きしてやったのを忘れたか?」
「酒蔵にゃ?」
 依頼で知り合ったと言っていたのに、そんな言葉が聞けるとは。もしかしたらこの人はご主人と並ぶ酒豪なのかもしれない。
「……あれはお前の親戚の実家だろう。まぁいい、出りゃ文句ないんだな」
「ああ、勿論だとも」
「何の話にゃ?」
 そこでやっと初めの話に戻って――おいらがすかさず尋ねてみる。
「園遊会だとさ。酔狂な事だ……つい最近、事件があったばかりだろうに」
 ちなみに事件というのは七草の折の事。
 複数の貴族が主催した七草の宴で死人が出たというやつの事を言っているようだ。
「園遊会って何するのにゃ?」
 ご主人が出るという事でおいらが再び問う。
「それは技披露だよ、技披露」
「技披露?」
「お披露目会みたいなものだな」
 事件で広がった不安な空気を消す為の一手。
 開拓者のスキルには派手なものも多く、視覚的にも楽しめるものも多いと目を付けたらしい。
「ご主人、やってあげればいいのにゃ」
 なんとなくおいらも興味がある。ご主人単独でどんな技を持っているのか。おいらが知らないご主人の技があるなら見てみたい。
「ほら、おまえの相棒もこう言っている事だし」
「看板に名前を出されちゃあ仕方ねえ…だが、少しだけだぞ」
「ああ、ああ、勿論だとも」
 ご主人の言葉においらは内心わくわくする。そう、初めはこんな些細な始まり――。
 けれど、おいら達の知らない所では着々と動く影がある事をおいらは知る由もなく…。


「成程、園遊会ですか。わかりました。いいサンプルになりそうです」
 裏路地の一角で、ある青年がどこか妖艶な女から手紙を受け取り呟く。
「あの方の為に…やっと彼らも動けますね」
「私は少しつまらないけど?」
「何を今更…あなたは私より楽しんでおいででしたでしょう? まあ、成功とは言いがたい結果でしたが」
 表情一つ変えずに青年の言葉。
「フン…お子様には大人の苦労はわからないわよ。見てらっしゃい、これからが本番よ」
 女はそう言って目を細め笑う。背中に背負う長物の武器の刃がきらりと光った。


■参加者一覧
アーニャ・ベルマン(ia5465
22歳・女・弓
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
マルカ・アルフォレスタ(ib4596
15歳・女・騎
リンスガルト・ギーベリ(ib5184
10歳・女・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
ユウキ=アルセイフ(ib6332
18歳・男・魔
衝甲(ic0216
29歳・男・泰


■リプレイ本文

●正統派
「演技者も警備もよろしく頼むぞ」
 菊柾が皆に通達する。園遊会の見世物であっても安全第一。
 観客席近くには柵と共に何名かの志士が待機し、不測の事態に備える。一方で演技者達はといえば、
「ご挨拶のもふもふですよ〜♪」
 アーニャ・ベルマン(ia5465)がポチを見つけて今日ももれなくハグサービス。
「リィムナよ、これは少しはしゃぎ過ぎではないのか!」
 その横でもリンスガルト・ギーベリ(ib5184)とリィムナ・ピサレット(ib5201)が特別な関係とかでじゃれ合っている。
「うほっ! こりゃいいなあ…」
 そんな二人を待ち合いテントの陰から村雨紫狼(ia9073)が見つめ、そこへやってくるのはユウキ=アルセイフ(ib6332)と衝甲(ic0216)。
『おや、どうかされましたか?』
 二人の声に紫狼がびくりと反応した。
「また、ですか…」
 それに続いて呆れた声を出したのはマルカ・アルフォレスタ(ib4596)だ。
「紫狼しゃんも出るなら普通にくれば…」
「それは違うぞ、ポチ! こういうのは堂々と見るよりもこっそりとだ…ぐえっ!」
 そう言いかけた彼にマルカの手刀が入る。知る者にとってはいつもの光景――。
 そこで時間となる。会場には多くの人が集まり、座席が既に埋まっていた。


「まずご覧に入れますのは八極拳の使い手・衝甲殿と一抹殿による模擬演習です」
 場所は整備された固い土地――障害もなく技披露には打ってつけだ。
 衝甲は右拳を左手に当てて泰拳士らしくお辞儀する。一方一抹は血糊のついた小刀を手に礼。今日は一応髭を剃っているらしく幾分か男前に見える。
「それではいざ…お願いします」
 馴染みの面子が彼に密かに期待する中、衝甲の言葉に一抹が動いた。
「志体持ちでも刃物に刺されればイッパツだ」
 棒読みではあるが、慣れた動きで刃を向けて衝甲の懐に飛び込む。だが衝甲も慌てない。
 一抹の手首を払い上体を更に低くして、鳩尾に拳を突き出し身体を当てれば一抹が簡単に吹っ飛んでいく。
「今のが八極の技になります。前疾歩からの鉄山靠。太極のようにいなす手段もありますが、流派が違えば全く思想が違う。そしてこれが頂心肘」
 解説を交えて今度は丸太に肘鉄を。判りやすいように動きはゆっくりであるが、それでも威力は衰えず幹を真っ二つにする。
「俺は体重を生かしたこれらを徹底的に鍛えました。今のは単発、時を動かして…我々開拓者が絶対にあなたがたを守るという証明をして見せましょう」
 ザッと大地を踏みしめて、それを合図に今度は複数で彼らに襲い掛かる。
 その数ざっと二十人。念の為彼らも志体持ちであるが、打ち合わせで実践に近くしようという事になりほとんどマジだ。衝甲が構える。だが、一抹は受けを取って立ち上がって以降微動だにしない。
「一抹殿?」
 そんな彼をいぶかしみつつも衝甲が前へ。さっきやったそれは元より複数の敵が一度に押し寄せたならば鉄山靠で弾き飛ばし、その後各人を拳と振脚で捌いてゆく。
(「不動なのか?」)
 横目で一抹を確認しつつ、彼は考える。サムライの防御力を高める技にそんなのがあった筈だ。
「ご主人、寝るにゃーー!」
「え?」
 だがポチの意外な言葉に彼から思わず声が零れる。
 その時だった。最後の一人が二人に刃を向けて…ほんの一瞬空気が揺らいだ。
 そして次の瞬間、その一人は弾き飛ばされ地面に砂を舞い上げる。
 ワァと歓声が上がった。慌てて衝甲が頭下げる。
「これを名付けて絶対安寧。我々がみなさんの安全は確約いたします」
「あのサムライは手伝いだけだったのかねぇ」
 衝甲と共に戻る一抹を見た誰かの呟き。しかし衝甲は知っている。あの時自分の拳より早く一抹が刀を振り抜いていた事を――。一般人には見えなくて当然…それ位のスピードで彼は振り抜いていたのだ。
「一抹殿、あなたは一体…」
 そう尋ねてみたが、彼は言葉を返そうとはしなかった。


●強さの源
 次に登場したのはマルカである。
 お淑やかな立ち振る舞いではあるが、彼女の内にあるのは両親が惨殺されたと暗い過去――未だその犯人は見つからず、自分の手で仇を打ちたいと彼女は槍を握った。そして今回披露する技こそが彼女の最終兵器。相手が泰拳士である事からスピード負けしない様、己の騎士としての力を利用し編み出した技である。
「わたくしの技はオーラバーストと申します。少し危険な技ですので真似などしない様にお願いします」
 そう言って笑顔を見せて…引かれないかと思いつつも意識は用意した人形に集中する。
(「あれが仇……お父様とお母様をやった人間」)
 静まった会場で彼女は眼前の人形に仇を重ねる。何も出来なかったあの頃とは違う。今ならきっと自分は仕留める事ができる。いや、仕留めなくてはならない。その思いが彼女に力を与える。槍を構えて僅か数秒で彼女の周囲には薄ら何処か禍々しい雰囲気のオーラが立ち昇る。それは武器にも移り、徐々に光を宿していく。ごくりと唾を飲む音がした。けれど、その時には既に彼女の戦闘本能が心を支配し始めている。
「行きますわっ!」
 そして彼女が動いた。喪服を意識した黒のドレスを翻し、まるで弾丸の様に一直線に駆ける。彼女が使ったのはスタッキング…相手が人形であるから判らないが、実際の人ならば今そこで檻に閉じ込められたような感覚に襲われている筈だ。
「はぁぁぁぁ!」
 そこで彼女は全練力を集中させ槍を突き出すと、

 ドゴォォォン

 人形が弾け飛んだ。周囲へ破片を飛び散らせる事なく破壊して、彼女がふぅと息を吐く。圧倒的な破壊力と彼女の凄まじいオーラに会場は完全に呑まれていた。
「少し本気になり過ぎましたわ…失礼致しました」
 彼女は小さく笑って見せるも時が止まったように観客は動けない。
「えと、あの…」
「いや〜すげえよな。これだったら大アヤカシも真っ青だぜ。なあ、そう思わねえ?」
 心配が現実になり戸惑い始めた彼女に紫狼の助太刀が入る。
 次が出番でもあり、拍手しつつマルカの元へと歩み寄れると、それにつられてぽつぽつと音が重なり始め、彼女はほっと肩を下す。
「まあ大技もいいが、俺のもちょっと見てくれよ。その名も二天三分クッキングだ☆」
 彼の宣言と同時に裏で楽団が軽快な音楽を流せば後はもう大丈夫。
 急いで設置される大きな鍋と食材達に子供らも目を輝かせ、菊柾もにやりと笑う。
「マルカ、あんたも手伝ってくれ」
 紫狼はそう言って彼女にエプロンを投げてよこす。そして始まるのは彼の剣技の応用版。
「志体持ちってもただの人間だ! って事でいつも平和的活用を模索している俺が送る『こんなに使える二天一流』料理講座! 食材の旨みを残すには素早く切ってしまう事が重要、そこでこれだ!」
 腰に下げていた二本の包丁を取り出し掲げて見せる。
 それに合わせてマルカが食材を空中に放り投げるとしゅぱぱっと空を切る音がして、その後は程よく切られた食材が鍋の中に投入される。それは無双と二天の合わせ技だった。二天で片手の力不足を補い、無双で手数を増やす。観客には彼の手が千手観音の様に見えている事だろう。
「お客様も投げたい方はこちらへどうぞ」
 その呼びかけに客がどんどん集まった。
 集中力が必要であったが、用意した分を切り終える頃に丁度太陽は真上。彼の決めポーズと共に鍋の蓋を閉め暫し待って、
「さあ、午前の部はこれで終了。お昼タイムだZE☆ 俺の石狩鍋欲しい奴は並んでくれ!」
 実演炊き出しのサプライズ昼食――七草事件で懸念されそうであったが、事件の犯人は手配されているし、こちらは本当に無料とあって皆が押し寄せる。
「本当に助かりましたわ、紫狼様」
「いや、気にする事ねーって…ん、大盛り一杯? 喜んで〜」
 続々と押し寄せる客に対応する二人。それに仲間も加わるのだった。


●魅せる技
「午後の部、はっじまるよーーーー!!」
 一本の矢に声を乗せて…トップバッターはアーニャである。
 ちなみに今のは響鳴弓を使った矢だ。本来ならば敵内部に大音響を流し込み破壊に至らしめる技なのであるが、標的を無機物にこんな使い方も出来たりするらしい。
「私は烈射『流星』を利用して、二つの技をお見せしますね」
 休憩の間に用意された藁を集めて括ったものを前に彼女が矢を放つ。
 すると矢の軌跡に衝撃波が発生し、藁を薙ぎ払う…のだが。
「あれ?」
 本当は綺麗に刈り取れる筈だったのだが、ぶっつけ本番が裏となったか均一に当て刈り取るには至らない。
「えっとこれは急な来客は誤魔化せる。これぞ必殺ス…いや、ドッキリ♪ 芝刈りバーストです。そして次は確実、対複数用の爆星ですよ! 流星と月涙の組み合わせなんです」
 何とかんとか誤魔化して、次は適当な長さの丸太を数本一列に立て、その間に壁代わりの板が備え付けらた特別な的を狙う。ひゅんと彼女の矢が飛んだ。
 ちなみに月涙の効果は貫通――さっきと違い緑色の気を纏った矢は木を衝撃波で薙ぎ倒し、一部壁は貫通してかなり先の木に命中する。
「すっげぇ〜!」
 最前列の子供の言葉――それに続いて拍手と歓声が上がる。
「うまくいったみたいですね…彼氏も出来たし、今年は出だしから絶好調です」
 彼女はそう小声で呟き、ユウキと交代。
「僕のはまだやった事がない技なんですが、次の依頼で試そうと思っています」
 お面を被ったままぺこりとお辞儀し、彼は早速アゾットを構える。
 彼の前にはあるのはねじ巻き式の小さな箱だ。彼が集中を始めると同時にストッパーが外され、彼の前を走り出す。それは四方に不規則に動き、彼にプレッシャーを与える。
(「大丈夫。冷静になればタイミングは見える」)
 ユウキは自分にそう言い聞かせ杖を掲げた。
 すると何の前触れも無く地面から緑の蔦が出現し、ねじ巻き玩具を絡めとる。
「次はこれです!」
 それに続いて、今度は冷気が凝縮し蔦ごと氷付けに。太陽の下でそれはキラキラ輝く。それに追い討ちのサンダーを落とせばオーロラのような輝きを見せていた氷が砕け散り、さっきとはまた違った顔をみせる。あっという間の出来事だった。軽やかな音楽に合わせて過激な術の連続であったが、見た目がフォローしざわつきは無い。
「以上、アイススパークと言い技でした」
 出された玩具を全て仕留めて、もう一度彼が一礼する。
(「綺麗に見えてよかった…けど、実際これを受ける側としたら、恐ろしく感じるだろうけどね」)
 自分さえおっかないと思う。
 見えていても回避出来ない恐怖――体験すればトラウマ間違いなしだ。
「さて〜、じゃあいくよ。リンスちゃん♪」
 終始リンスガルドと一緒とあって楽しげなリィムナ。
 彼女の演技を手伝うらしく、木で出来た人形・木人を台車に乗せ引っ張る。
「そうじゃの…派手にいくかの」
 腕を取られながらもリンスもやる気だ。人形をセットして貰い、まずはご挨拶。
「我は天儀の剣術と泰の武術の組合わせ技を披露するのじゃ。何せ母は泰の生まれ、叔母はサムライであるゆえの。では、いざ…ゆくぞ!」
 腰に携えた殲刀を左手で抜刀し、身を低くしやや斜めに構えまずは踏み込む。そして、そのまま斬るのかと思いきや、ここからが彼女のオリジナル。右拳で刀の峰を打ち威力を乗せて木人を一刀。
 すると今度は車輪付の木人の出番だ。自分の方に来させる様指示を出し、接近する前に八極天陣を発動。瞬発力を増大し、車輪の下に潜り込む様な形でかわすと既に刀は彼女の思う位置に移動済み。彼女は沈むその間に刀を逆手に変えて、右肩から出るような位置に動かしていたのだ。
「え、何々!?」
 流石のリィムナもその仕込みの早さに目を輝かせる。
 だが、リンスの攻撃はこれで終わらない。跳ね起き様に体を捻り刀ごと木人にぶつけて更なる猛攻。
「絶技・伏龍天昇勢!!」
 右手を柄に添えて、身体を半回転させつつ刀を振り抜く両手での一閃――。
 小回りの利く彼女だが、その分馬力は劣る。そこをスピードと重力を利用し補うそれは彼女が言った通りの体剣複合技である。車輪付木人も破壊され、地面に音を立てて倒れる。
「ふふ〜ん、今のが我の絶技よ。これでもれなく敵は絶命じゃ」
 最後はくるくると刀を回して仕舞い、自信たっぷりに笑う。
 僅か十歳…この先が楽しみだ。
「おおとり、期待しておるぞ」
 「任せておいてよ。あたしは天才だよ♪」
 彼女がリィムナの横をすり抜け際に励まして、それに答えてリィムナが会場中央に歩み出る。
 彼女、巫女っぽい衣装であるが、実は魔術師だったりする。
「あたしが得意な高火力を追求した魔法の数々をお見せするよーー! まずはこれっ、雷の牙・ライトニングブラストー! これで希儀に行った時中級瞬殺、上級に深手を負わせたんだから♪」
 さっきユウキが見せたサンダーの上位版。それを立て続けに四連射させて、雷撃が周囲に乱舞する。
「続いてコンビネーション! はああっ! とう! ブリザード…サンダーアターック!」
 そのすぐ後に出したのはブリザードストームとアークブラストの二連融合。一ターンで同時に出せるのは大人でもそういない。会場には吹雪が吹き荒れ雷鳴が轟くと、思わず観客達は身を伏せる。
「これで雑魚は大体一層。そして最後に大技! 大隕石が堕ちるさま、見せてあげる!」
 彼女はそう言って両手を頭上で交差し火炎弾を召喚した。高位魔術師といえど、組み合わせにより全てが大技。そう簡単に出せるものではない。魔術師のイメージをがらりと変える容姿で彼女は会場の度肝を抜く。
「いっくよー、ギガンティック・エクスプロージョン!」
 その声と共に会場の真上で二つの火炎弾が爆発した。
 それは禍々しくもあったが、弾け散った炎は花火の様にも見えて…フィナーレを飾るには十分だ。
「あたしみたいな美少女天才魔導師がいるんだから大丈夫! みんな安心してよね♪」
 ない胸を限界まで張って見せて、彼女の言葉で園遊会は終了した。
 少しひやりとした部分はあったが力というのは表裏一体。いい部分もあれば悪い部分もある。人である限り、感情に流されてしまう事は仕方がない。
「凄かったでしょー、もっと褒めてよー♪」
 リィムナがリンスに抱きつき、言葉をせがむ。
「僕ももっと頑張らないとですねぇ」
 そう思ったのはユウキだ。人それぞれであるが、アレを見せられては同職として闘志に火がつかない筈がない。テントや設備品を片付けながら、各々今日を振り返る。
「ご主人、あれは…」
 ポチが気になって尋ねる。見ていた者もやはりあの奇怪な行動は気にかかる。
「ああ? あれはただの爆睡だ。最近常時発動出来る」
『ええっ!』
 確かにあるスキルであるが、あの状況でしかも立ったままとは…一同言葉を失くす。
 それが本当に一抹の技であったかどうかはさておいて――
 これが発端で思わぬ事件に発展する事をこの時、予期出来た者は誰もいなかった。