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■オープニング本文 神楽の都の流星祭――流れる星に願いを託して、そんなロマンチックなものを期待するのはそれなりの大人達。子供達といえば流れ星よりもお祭りの屋台や的屋に興味は集まるものである。 「あっちあっちー、射的があったのー!」 「あのソース煎餅ってやつ食べたいー」 「あのお化け屋敷はいろーぜー」 道の両サイドに出ている出店を前に、子供達はくるくると表情を変えて…テンションはフルスロットル。 そんな中、一人の少女はある屋台の前で心を奪われていた。 「もふらさまだ…食べれるもふらさまだ…」 円らな瞳で作業するおじさんを見つめて、彼女が呟く。 そうその屋台とは『もふら飴』の屋台だった。粗目と呼ばれる砂糖の塊を熱によって溶かして、丸い専用の器具の上で箸をくるくる動かせば、その箸に白い糸が絡まって大きな綿を形成する。そうして、後から赤い粗目で色違いの綿を作って、糸目と鼻、口をカラメルでさっと描きつければ、彼女の言う『食べれるもふらさま』の完成である。 「おや、じょーちゃんもかわいいもふら持ってるじゃねぇか?」 そんな瞳に気がついて、屋台のおじさんがにこりと笑う。 「これはね、みっちゃんのもふらさまなの。けど、そのもふらさまも好き…」 出来立てふわふわのもふら飴――一つずつ手作りの為微妙に顔が違う。それもこの屋台の魅力なのかもしれない。 「そうかいそうかい、だったら一つどうだい?」 「え、いいのー?」 その言葉に少女は瞳を輝かせた。既に出来ている何本かの中から気に入ったものを選ぶ。 「あー、みっちゃんずるいぞー」 「ずるいずるいー」 とそこへいつもの仲間が駆けつけた。二人の名は巽と太郎。すっかり大きくなったが、今でも三人の仲良し連合は続いている。 「巽ちゃ、太郎ちゃ。見てみてもふらさま〜♪」 そんな二人に自慢げに貰ったもふら飴を見せてみっちゃんが微笑む。 「おや、お仲間かい…だったらちょっと……っとこりゃ参ったねぇ」 二人にももふら飴を渡そうとして屋台のおじさんは頭をかいた。その理由は原料の粗目にある。 「ここ、赤いの落ちてる」 太郎が屋台に続く赤いそれを見つけて言う。 つまりはどうやら粗目の袋に穴が開いてしまっていたらしい。十分量を持ってきていた筈だったのだが、その穴のせいで赤が足りなくなりそうなのだ。 「おじさん、もふらさま作れなくなっちゃう〜?」 その様子から察してみっちゃんが尋ねる。 「んー、そうだな。倉庫まで取りに行きたいが店をほおってはおけないし、今日はこの辺で」 かき入れ時がもうすぐなのだが、ここは一旦店じまいするしかないだろう。いつ穴が開いたのか疑問に思いながらも片づけを始める。 「ちょっと待って!」 そこで巽が動いた。辺りを見回して…ある事に気付いたらしい。 「もふら飴、ここだけじゃん! ダメだよ、皆楽しみにしてる」 もふらの人気は高い。みっちゃん同様にもふら飴を求めてこの祭りにくる子は多いだろう。 「俺達が取って来るから待ってて!」 めらめらとやる気を燃やして巽が言う。 「でも道が…」 そう言い掛けたおじさんに今度は太郎が、 「この赤いの辿ればいけるから…おじさん、任せて」 ぐっと握った拳に困り顔の店主。 「んー、しかし子供だけでは…」 正直心配だったが、やると言い出した子供ほど宥めるのは難しい。 「大丈夫。巽ちゃと太郎ちゃなら絶対やってくれるもん♪ みっちゃん信じてるー」 そこにみっちゃんまで加わって、三対一。店主ピンチである。加えてダメ押し――。 『ねっ、やらせて!!』 子供達の声がはもる。 (「どうしよう…」) 思わぬ展開に店主はアタフタするばかりだった。 |
■参加者一覧
弖志峰 直羽(ia1884)
23歳・男・巫
明王院 未楡(ib0349)
34歳・女・サ
蓮 神音(ib2662)
14歳・女・泰
蓮 蒼馬(ib5707)
30歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●繋がる縁 「ふんふふ〜ん♪」 両サイドで編んだお下げ髪を揺らして蓮神音(ib2662)はご機嫌だった。 今日のお祭りの開催を聞いて師弟兼親子という関係ではあるが、大好きな蓮蒼馬(ib5707)をデートに誘い、さて今日この日を楽しむぞとばかりにおめかしをしてきた彼女である。紫陽花柄の綺麗な浴衣に梅枝の簪、横に並ぶ蒼馬の浴衣は猪鹿蝶の花札柄だ。しかし、彼女の思惑は会場に着くや否や頓挫する。 「何だ、お前達か。一体どうした?」 お祭りの一角で屋台主と子供達の声を聞いて、蒼馬がそちらに歩を向けたのだ。 「ねぇねぇセンセー、あれ食べたい…ってあれ?」 振り返った先に彼がいないのに気付いて、神音が肩を落とす。このまま離れてしまっては折角のデートが台無しだ。慌てて蒼馬の姿を探して、彼といたのは三人の子供。 「この子達、センセーの顔見知り?」 彼女が尋ねる。 「ああ、どちらも会うのは初めてか? こちらは俺の娘で神音と言う。そしてこの子達は」 「わー、巽君に太郎君にみっちゃんだ! お久しぶりなんだよ〜♪」 そう紹介しかけた蒼馬の横をすり抜けて子供達に駆け寄ったのは弖志峰直羽(ia1884)だ。仕事帰りにお祭りを見つけて、聞き覚えのある声だと思ったのは間違いではなかったらしい。 「直にぃだぁ」 みっちゃんの喜ぶ姿に少しばかりむっとする太郎と巽。 「あらあら、何か騒がしいですがどうかされたのですか?」 それに続いてもう一人。こちらはシンプルな浴衣を着た明王院未楡(ib0349)が声をかける。 「あ〜それがちっとばかし困った感じで」 そんな彼らに屋台主が事情を説明した。 それを聞きつつ子供達は自分達が行けると言い張る。 「ねーねーいいでしょー。皆待ってるもんー」 直羽と蒼馬が知り合いなのをいい事に子供達が言う。 「まぁ、皆…ですか。優しい子供達ですね」 未楡はその言葉に柔らかな笑顔を返して子供達の頭を撫でる。 「こうなったら神音達も手伝うんだよー」 そこで神音がそう宣言した。その裏には早く終わらせてデートを一分でも長くなどと考えていなくもないが、それはそれ。勿論子供達をほおっておく事はもっと出来ない。 「そうだね。俺ももふら飴食べてみたいし手伝ってもいいかな?」 直羽の問い――屋台主の心配は彼らの登場で既に解決したに近い。 「あぁ、そりゃあ願ってもない。宜しく頼むよ」 笑顔でそう言った屋台主に子供達はハイタッチした。 ●意志 穴が開いた粗目の袋……その袋を辿っていけば倉庫の場所は判ると考えた太郎君。現に屋台の近くには確かに紅い粗目が道を作っている。それを辿ろうと巽と太郎は姿勢を低くしてその後を追いかける事にする。 「じゃあ俺達も行ってくる」 そんな二人の意欲を尊重する為、蒼馬はあえて何も言わなかった。 実際問題、この人の多さを考えれば踏み荒らされて消えてしまっている可能性もある。けれど、今ここで色々口出ししてしまっては彼らのやる気を削いでしまうと考えたのだ。提灯だけを下げて、彼らを一歩引いた所から追いかける。 「ああ、ちょっと待って…太郎君!」 一方で直羽は慌てていた。小さい頃から彼らを見てきている手前、彼らの性格も既に頭に入っている。それ故に差し出したのは己の手――振り向いた太郎がじっと見つめる。 「人が多いし手繋ごう」 直羽がにこりと笑う。けれど太郎はと言えば、 「僕、いらない…巽といく」 その言葉に直羽の手が僅かに揺れる。 太郎には迷子癖がある。だからこの人ごみでは危険だと判断したのだが、それを太郎も察したらしい。自分でもその性格はちゃんと理解している。いつも誰かが手を引いてくれる…それは嬉しい反面、他と違うという違和感を彼に植え付けていたらしい。 「太郎、急ぐぞ!」 「うん」 そこで巽に呼ばれて、太郎は少し申し訳なさそうな表情を見せつつも紅い粒を追って走り出した。残された直羽が少し俯きふぅと息を吐く。 「大丈夫か?」 蒼馬が問う。 「…すっかり大きくなっちゃってるね。やっぱり寂しいな…」 それに直羽が苦笑を浮かべる。 「そうだな。しかし、まだ子供である事に変わりはない…ちゃんと見ててやらないとな」 彼とて直羽程ではないにしろ子供達との付き合いは長いし、それと同時に子供達を通して彼ともそれなりに知った仲でもあり、彼の気持ちは痛い程判る。直羽の肩に手を置いて、彼はそう慰めて…二人は気持ちを切り替えるのだった。 一方、屋台の方でも子供の成長を垣間見る事となる。 「みっちゃんは一緒に呼び込みしよーね〜」 「そう致しましょう」 残った二人にそう言われて、けれどみっちゃんはどこか納得がいかない様子だ。 「みっちゃんはぐるぐるをやりたいの?」 その様子から察して、流石は大家族のお母さん――未楡が尋ねる。 「そんな事言ってもそれは難しいし…赤粗目は…」 「違うもん!」 神音の言葉にみっちゃんが叫ぶ。 「呼び込みしてももふら飴ないんだよー、それじゃあ意味ないもん」 言われてみれば…蒼馬と直羽が付いて行ったとはいえ、すぐ戻ってくるかは分らない。片道五分の道であるが、それは人がいなかった時の話である。そしてその間にも呼び込めば一店だけのこの屋台には多くの人が集まるだろう。そうなれば、待って貰うにしてもうまく工夫しなくては通行の邪魔になってしまう。 「では普通の綿飴を作って凌ぎましょうか?」 屋台の経験はないのだが、家事自体は得意である未楡が言う。けれどそれでは意味がない。普通の綿飴なら他にもあるのだ。 「困ったなー、そういうのは考えてなかったよー」 神音が言う。 「だったらみっちゃんに任せてー、いい考えがあるのー」 綿飴製造機の下でみっちゃんがここぞとばかりに手を上げる。 「…仕方ねぇ。ここはこの子の話を聞いてみるか」 屋台主はそう言って、みっちゃんを優しく抱き上げた。 ●温もり 思っていた事態は時に現実となる。 「どうしよう…ここで散ばってる」 「ちくしょー、皆歩くから〜」 石畳になった途端の事だ。やはりそこを歩く客は多かったらしく、右や左に粗目は散ばり一部に至っては早々と嗅ぎ付けた蟻によって運ばれ始めている。 「あ〜これはまずいねぇ」 そう言った直羽の視界に柄の悪い男。けれど気付くには一歩遅く思わぬ事態に発展する。 「ああ? 邪魔なんだよ、ガキが」 酒も入っているのだろう。子供達がしゃがんでいたものだから早速いちゃもんをつける始める。けれど、問題の二人は粗目の行方に必死で気付いていない。 「ああ、聞いてんのかゴラァ」 それに腹を立てて蹴り飛ばそうとした男だったが、そこに蒼馬と直羽が割って入った。それにようやく気付いて、太郎と巽が目を丸くする。 「確かに邪魔になったのは悪いとは思うが、あんたの足癖も如何なものか?」 蒼馬が男の足を肘で受けて押し返す。 「なんだてめぇ」 蒼馬と男が睨み合う。その間に直羽が二人を先に誘導。男がどうなったかは言うまでもない。 「道わかんなくなったし…これからどうしよう」 倉庫までの道が立たれてしまった。二人が気を落とす。そんな彼らに直羽は再び救いの手を差し伸べた。今度は極自然に…彼らのプライドを傷付けない様に配慮する。 「ねぇ、二人共この地図分るかな?」 出発前に予め聞いて作成させた倉庫までの地図。地図と言ってもほぼ一本道だし、目印となるものは子供でも判りやすいよう絵とかな字でかき示されている。 「これは?」 「ん〜、あの屋台のおじさんから預かったんだけどさぁ。俺方向音痴で助けてくれない?」 本当は道順も判っているが、ここは二人に任せるつもりな直羽だ。 「えーと確かあそこに鳥居があったから…」 「あと少しだ。僕来る時、この建物見たかもしれない」 そんな事とはつゆ知らず、二人はその地図を前に真剣に話し合い場所を確認して、 「行くぞ、太郎」 二人が再び意気を吹き返した。そして今度は太郎が直羽に手を差し伸べる。 「道わかったから、一緒にいこ」 その行動に直羽の心にふわりと光が灯って、 「うん、有難う」 彼はその手をぎゅっと握り返し、太郎に連れられ道を進む。 倉庫はそこからすぐ近くにあった。祭り会場に出店する屋台主達が何人かで借りている場所らしく、粗目以外にも常温で保存できるものがいくらか収納されている。 「あ、あったぞー!」 その中から目的の赤粗目を見つけて巽が高々と掲げる。 「やったー」 それに太郎も大喜びだ。だが蒼馬と直羽はそれだけでは終わらない。 「屋台のおじさんが不思議がってたけど、何故穴が開いたんだろう?」 提灯で中を照らして、辺りをじっくり観察する。すると、老朽化しているのか壁には小さな穴が…けれど粗目の原因はそれではない様で、 「あ、これ…」 粗目の袋の近くにあったのは細目の枝を束ねたものだった。 その束に破れた布の欠片が引っかかっている。 「場所が悪かったんだな…」 大勢で使っているから後から置かれたのかもしれない。自然に突き出ている為、気付かぬうちに枝が袋を引っ掛けてしまったらしい。 「よし、原因も判ったし、早く戻ろう」 誰かが忍び込んでいなくてよかったと内心ほっと胸をなで下して、四人で屋台に急ぐのだが屋台の方は――。 ●知恵 「いらっしゃいいらっしゃい〜。もふら飴はまだないけど、可愛い御花の綿飴ならあるよ〜。見てってねー」 「もふら様も大好物なのもふ〜」 神音が出来立ての花形綿飴を手にみっちゃんと共に呼び込む。 そこではみっちゃんのお気に入りのもふらさまも意外な活躍を見せていた。お人形遊びの要領でもふらさまを操って、みっちゃんより更に小さいお客にはとても受けが良い。それもそのはずみっちゃんがもふら伝いに商品を持つ事で視線の低い子供の視界にも入るのだ。 「あのもふら様がもってるのほしー」 また一人、それに呼び寄せられて一人の少女が彼女達の元に吸い寄せられる。 「あ、あっちのは白くまだ!」 そうして視線を屋台に上げれば、白熊の綿飴が彼らを見下ろしている。 「もふら飴の材料到着まで…これで十分持ちそうですね」 屋台主の隣で未楡が言う。 「そうだなぁ、あの子のおかげだ。こういう新しい発想ってのはなかなか凝り固まった俺らの頭からは出てこねえしなぁ」 次々と注文の入る中で手を休めず屋台主が笑う。 「本当に…子供の想像力とはすばらしいです」 未楡がみっちゃんに視線を向けて微笑む。 大勢の客に物怖じするかと思った彼女であるが、この分だと問題はないだろう。神音ともふら様が彼女に力を与えているのかもしれない。 「ふふっ、大好評だねーみっちゃんの創作綿飴♪」 神音がみっちゃんの体力を考慮しながら声をかける。 「神音おねーちゃのもふら様呼び込みのおかげなの〜♪」 それにみっちゃんはもふらをぴこぴこ動かしながら言う。 「うわーすげー、どうなってんだ?」 そこへ巽達が戻ってきた。 しっかりと赤粗目の入れた袋を抱えて、けれど予想外の人だかりに吃驚する。 「あ、センセーもお帰りだよー」 その後ろに蒼馬の姿を見つけて神音が手を振る。 「本当にどうなっているんだ? 赤がないのではなかったのか?」 蒼馬の疑問――勿論他の三人の頭上にも?マークが浮かんでいる。 「ふふふっ、これは全てみっちゃんのお手柄なのですよ」 その反応にくすりと笑って未楡が説明を始めるのだった。 「赤がないなら白だけで作ればいいと思うの〜」 人を呼び込むなら商品がいる。そこでみっちゃんが提案したのは新たな商品の作成だった。とはいえそう簡単に思いつくものでもない筈なのだが、彼女は器用に棒に綿を絡めて形作っていく。 「どうする気なのかなー?」 見守る神音から漏れた言葉。一つ出来ると今度は小さい綿を二つ作って、大きいのに乗せる。そして接合には屋台主が力を貸して…そこに目鼻をもふら同様に書きつければ、なんと白熊綿飴の完成だ。 「なんと…こりゃたまげたねぇ」 形は不細工であるが、いとも容易く作り出したそれに屋台主が目を丸くする。 「あら、なんて愛らしい…」 とこれは未楡だ。神音もとにかくその仕上がりに言葉が出ない。 「後ね、もう一つ考えがあるの〜」 みっちゃんはそんな三人を前に今度は少しだけ赤を混ぜて再び土台の綿飴を作り始める。そうして出来たのが花形綿飴だった。普通の楕円形を半分のところまで押し潰して、宛がったのは新たな棒。その棒を根元に当てて中央に向かう様に所々押し込めばそこだけ窪んで花形になる仕組みだ。 「すごーい! みっちゃん天才だよー!」 ほんのり色付いた花形綿飴――これならばもふらほど赤を使う事がない為、一時凌ぎにはもってこいだ。 「いける。いけるぜっ、これは!?」 ぐっと拳を作って屋台主が確信する。 「ですね。これで問題は解決しそうですし…呼び込みいたしましょうか?」 みっちゃんの頭を撫でてやりながら未楡が言う。 「おうよっ! 赤粗目が届くまでこの変り種でいっちょやってやらぁ!」 「やってやるの〜」 その言葉にみっちゃんも闘志を燃やして……そして今に至る。 「やるじゃん、みっちゃん! かしこくなったな〜」 ぎゅーとみっちゃんを抱きしめて直羽が言う。 「直にぃくるしぃのぉ〜。みっちゃん、工作好きなだけだよぉ」 そんな彼に抱きしめられて照れながらも喜ぶ彼女――今日一番の笑顔だと言っていいだろう。 「さぁ、赤粗目が返ってきたなら後はもふら様で盛り返すぜぇ!! ボウズらも有難うな!」 屋台主がそう功績を称えて、一際大きいもふら飴の製造にかかる。 その出来栄えに周囲が沸いた。さっきまで作れなかった分の反動なのか出来上がったのは実際の仔もふらほどの大きさがある。 「いいなー、太郎ちゃ巽ちゃ」 「おれもあれほしー。母さん買ってー!」 その出来栄えの噂が広がって、もふら飴屋は更なる賑いを見せる。 「やったね、みんなー♪」 神音が言いつつハイタッチ。忙しくなりそうな屋台ではあるが、できればこの後はデートを再会したいと思う彼女である。 「あらあら、押さないで下さい。材料は沢山ありますから」 そんな彼女を察して未楡は列を整備しつつ、目配せする。 「俺らはもう少しここにいるから任せてくれていいよ」 直羽の言葉に神音は目を輝かせ、早速蒼馬の手を引く。 「おっと…ならばここを頼む。だが、皆いいか? 気持ちは立派だが、今度からはちゃんと考えないといかんぞ」 蒼馬が別れ際に注意を促す。 今回は確かにうまくいった。しかし途中冷やりとした所もあったのは事実である。 「あ、それと店主。娘にも一つ貰えないか?」 折角のお祭りだ。出来立てを貰い神音に手渡す。 「あ、俺も俺も〜。みっちゃんとお揃いを作って貰おう♪」 その隣では直羽も出来立てを受け取って子供達と一緒にそれを味わう。未楡はそんな一同を眺めつつ、ふと空を仰いだ。するとその視線の先でまた一つ、星が曲線を描いて消えた。 |