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■オープニング本文 知能が高い訳でもありませんが、山には時たま出没する子鬼達――。 彼らは専ら集団行動をいたします。個々の能力は低くても集団となると話は別。 海の小魚とて、行動を仲間と共にすれば時に天敵の大きな魚も彼らに手を出せずにいるとか。それに加えて、彼らが武器を手にしたらどうでしょう? 子鬼達がそれに気づいたのはつい最近の事でした。 人間界では暦ごとに季節を感じ、それぞれに催しなどを行います。 それを理解しているとは思えませんが、それでも彼らにとって有益なものを目にしてしまっては、奪わない訳にはいきません。それは小さな村の工房の――そこでは毎年この時期は生産のピークを迎えています。 「もうすぐ端午の節句だからねぇ! 張り切っていかなきゃ」 小さなものから大きなものまで。人形に着せるものもありますが、中には祝いを迎える子供に合わせて着用できる鎧兜の制作も行われているのです。そんな忙しい状態の工房をこっそり覗いて、頭のいい子鬼は思いました。 (「アレ、ツカエル。ブソウ、イミアル」) 鎧兜のみならず、中には小型ではありますが精巧に作られた刀まで。 それがあればきっと開拓者など一捻り。その先にあるのは家畜や、うまくいけば人間の食べ放題。そうなると、もうあれを奪わないではおれません。 (「ヒト、ヨル、スクナイ。ソコ、ネラウ」) 仲間を集めて、その子鬼は工房に侵入。見事五月人形を奪ってみせます。 そして、次の日――工房の職人達は驚きました。 納品間近だったというのに、仕上がっていた筈の商品が跡形もなくなくなっていたからです。 「こりゃあ、一大事だぁ」 職人の一人が言いました。けれど、既に物はなくて…どうにも手の打ち様がありません。 だがしかし、ピカピカの鎧で武装した子鬼など珍しい事この上ない。 夜な夜ながしゃがしゃ音を立ててやってくる小さな鎧武者の噂はあっという間に広がって…しかし、狡賢い彼らもそう簡単には譲りません。 「そういう訳で至急、開拓者の皆さんには鎧を奪還。子鬼の退治をお願います!」 そこで持ち込まれた依頼は少々面倒。 子鬼達のアジトは大よそ見当がついているとの事ですが、依頼人の意向は鎧等を出来るだけで無傷で取り返して欲しいとの事。 きっと子鬼達は抵抗するでしょう。当たり前です。あちらも必死なのですから。 さて、この依頼……あなたはどう攻略いたしますかな? |
■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
玄間 北斗(ib0342)
25歳・男・シ
ファムニス・ピサレット(ib5896)
10歳・女・巫
ナキ=シャラーラ(ib7034)
10歳・女・吟
戸隠 菫(ib9794)
19歳・女・武 |
■リプレイ本文 ●知能の差 がらがらがら 問題の工房に向かって、吟遊詩人のナキ=シャラーラ(ib7034)は借り受けた大八車を引いて歩きます。 肉体労働は得意ではありませんが、これも職人達の鎧を取り戻す為には必要な仕事。話し合いで決まった作戦はアジトにのり込むモノでしたから、その後の事を考えればこれは大いに必要です。 「あたしも手伝うわね」 そこへ駆けてきたのは武僧の戸隠董(ib9794)――ぱちりとウインクを返して後ろにつきます。 「別にあたしだけでも大丈夫だけどな。しっかし、今回の事件…子鬼どもの中にも多少頭の切れるのが居たってのは驚きだぜ」 何にしても雑魚は雑魚。全部ぶっ飛ばすつもりではいますが、彼女は話のタネにそんな事を口にします。 「本当だよ。大切な五月人形なのに失礼しちゃうよ」 とこれは董。そう言えばさっき仲間も似たような事を言っておりました。 「端午の節句は男の子の大切な日…その飾りを盗むなんて正義の空賊としては、放っておけないんだらな!」 砂迅騎の天河ふしぎ(ia1037)がきりっとした面持ちで言い切ります。 「そうなのだぁ。子供達の無病息災や健やかに育つよう祈りを込めて作られた物が悪用されっばなじゃ何とも報われないのだぁ〜」 とこれはシノビの玄間北斗(ib0342)。こんな喋り方ではありますがそれは仮の姿…実力は折り紙付きのレベルです。 「大切な商品を盗むなんて…お仕置きが必要ですねっ!」 そう言ったのは巫女のファムニス・ピサレット(ib5896)でした。引っ込み思案の彼女ですが、それを変えたいと開拓者になり…今では発言もそれなりに…但し、いきなりの注目は慣れないのか言ったはいいのですが、視線が集まりもびくりと肩を竦めてしまいます。 「ともあれ、まずは敵情視察だ。相手の居場所の見当はついているって言うし、奪還の事を考えると囮を使って正確な場所の特定の後、昼間に叩くのがいいと思う」 ふしぎのその提案に従って、各々まずは下準備。盗まれた物の数の把握にはファムニスが向っておりますし、囮に際して次に狙われそうな場所の検討には北斗とふしぎが地図と睨めっこ中。彼らに抜かりはない様です。 「どうだい? 当ては付きそうか?」 工房の一間を借りて、ナキと董が戻って参ります。 「やあ、早かったね。多分この辺じゃないかな?」 それに答えて、ふしぎが地図を指さします。その場所は森からは少し離れていますが、彼らの餌となりそうな家畜は十分。それに頭がきれるとは言いましても所詮は子鬼。捜査を撹乱する様な小細工など致しません。今まで襲われた場所を地図に書き出せば森の手近な場所から順に襲われているではありませんか。となれば、次の場所も容易に想像がつくというものです。 「くくっ、成程な。じゃあ、ここは私の出番って事だな」 にやりと笑みを浮かべてナキが言います。 「……ぺったんこ…」 その後ろでファムニスがぼそりとそう呟きましたが、彼女は気にも留めません。 「不思議です…本当に、不思議」 董と彼女のそれを見比べて――いえいえ、これは余談でした。彼女のちょっぴりの好奇心による行動ですから。 さて、話は戻りまして――太陽にさようなら。お月様にこんばんわのお時間です。 子鬼達は開拓者が動き出しているとも知らずに次の獲物を求めて、闇夜に身を潜めます。 (「コレ、スゴイ・・・ヤッパリ、ツヨイ」) その中にあの子鬼もおりました。他とは違い全身鎧に身を包み、一際立派な兜を装着し指揮を執る立場となっております。複数の仲間を引き連れて、目指すは村外れ。森から近い場所の家畜は粗方襲ってしまいましたから時間がかかります。 そんな行軍の最中に聞こえたのは優しい調べ…子鬼達にとっては聞き慣れない音楽です。ですが、森の小動物は違います。野兎等はその音楽に頻りに耳を欹てて、その音の方へと駆け出します。一方では休息を取っていた小鳥達も……一羽、また一羽と飛び立っていきます。 (「ナンダ? オレタチヲオソレテイルノカ?」) それに指揮官は気付き首を傾げます。しかし、彼もそこまででした。少し前であればその動きに反応して、獲物とばかりに飛びかかっていた事ですが、今は確実に手に入る『食糧』があるのです。苦労しなくともよいと味を占めた子鬼達はその動きを見送ります。 しかし、それが運の尽き――けれど、そこまで子鬼の知能では推理するのは無理だったでしょう。 「悪いな、おまえら。家畜を奪わせる訳にはいかないんだ…で準備、大丈夫か?」 「OKなのだぁ」 森の小動物達が動き出したのはただの偶然ではありません。ナキの言葉に北斗が返事をします。 そう、さっきの調べは小鳥の囀り――ナキの演奏によるものでした。 ●突き止められたアジト 案の定、彼らの予測をつけた場所に子鬼達は現れます。その数、三十は居たでしょう。 開拓者らは彼らに自分らの存在を悟られない様に身を隠します。そして、そこの家畜は既に保護済み。その代わり、可哀想だとは思いましたが、さっき野生の生き物を呼び寄せたのです。 (「凄い数なのだぁ〜」) 子鬼達のまさかの数と、武装姿に北斗がたまげたと心中で呟きます。 そして、彼らは集団の利を生かして一匹では挑まず、複数で一体を狙う手法で次々と小動物を仕留めて……時間はそれ程かかりませんでした。その場で貪る者もいれば持って帰る者もいたりと性格は違う様ですが…各々満足すると、彼らはアジトに戻って行きます。それを逐一超越聴覚と暗視で確認しながら、北斗は彼らの尾行を開始します。勿論理由は簡単。逃亡防止の為に彼らのアジトの周囲の環境も知る為です。 「全く、ひどい奴らだよ…」 襲われた後の惨状を前に、董が手を合わせます。その隣ではファムニスも静かに目を閉じます。 (「君達の命は無駄にはしないからね…」) そう二人は祈りを捧げて、董は近くにあった寺から汲んできた水で辺りを清めました。 自然の摂理でいつかは死を迎える訳ですが…利用したのは変わらない。それは静かな弔いでした。 一方、北斗は子鬼のアジトに向います。 子鬼達は小さな体で右に左に。茂みの多い場所やら人では気付かない様な獣道をうまく利用して奥へ奥へと帰っていきます。そうして辿りついたのは、雨風が凌げる様な木の密集した場所でした。そこで持ち帰った獲物を戴く者やら寝入る者やら。勝手気ままに過ごしている様です。 (「場所はこれで良しなのだぁ。後は周りを…」) それを地図を片手に確認して、北斗は踵を返します。その時かさりと小さな音がたちましたが、お腹一杯になった子鬼達には届きません。北斗は長居は無用とばかりに仲間の下へと帰ります。 そして次の朝。 「じゃあ今度は僕が…」 大八を引いてくるメンバーに先行して人魂を使ったのはふしぎでした。 蛇の形態をとった人魂は北斗から教えられた場所へと向かいます。そして、活動し始めるかもしれない子鬼達の様子を窺って、奪還作業をよりスムーズに行える様手を打ちます。まずは見張りの有無から……眠る前に装備を外すと踏んだ彼でしたが、残念ながら彼らはそれを身に着けたままです。 (「ずぼらな奴らだなぁ」) 状況からして食っちゃ寝といった所でしょうか。中には獣の骨を握ったままの奴までいます。 ちなみに見張りというのはいない様でした。但し既に目を覚ましている者もいる為、少し厄介かもしれません。それともう一つ。気になったのは鎧兜の一部で煌めく石――。 (「あれはもしかして、宝珠かな?」) だとすると、そこも注意しなければなりません。悟られない距離でそれを確認して、彼はそれを仲間に報告します。 「そう言えば、工房でも…少し、そんな魔力を、感じました…」 ファムニスが思い出した様に小さく呟いて、しかしここで引く彼らではありません。 「なぁに、おまえが舞ってくれればそんなのどうって事ないぜ! なぁ、皆?」 鎧を傷付けないでの奪還となれば、物理攻撃は極力抑えたい所です。ですから、知覚が重要…勿論その事を考慮し、ファムニスは神楽舞『心』を舞うつもりです。 「大丈夫だよ。それ程恐れる相手ではないもの…いつも通りにいけばいいだけだよ」 「そうなのだぁ。逃走経路には撒菱も仕掛けておいたしうまくいくのだぁ〜」 董と北斗の言葉にファムニスが頷きます。そして、別の敵がいないか瘴索結界で確認した後、彼らは子鬼達との距離を詰めて――まずは少しスペースのある場所で神楽舞。それと同時にナキも精霊の狂想曲の演奏に入ります。 ずしんとした圧力をかける様な出だしからの激しい曲調、はっとしたのも束の間でした。 眠っていた子鬼達は起き上がる事さえ許されず、半数はそのまま消し飛んだ模様です。 「なんだ、楽勝じゃねーかっ!」 「お見事です」 喜ぶナキにファムニスもほっとします。けれど、宝珠付きの鎧は別です。 職人の腕がいい様で開拓者が身に着けても十分実力を引き出してくれると思しき鎧兜は子鬼達を守ります。ぼんやりと宝珠が光り、辛うじて瞬殺を防いだ様です。けれども、意識下への影響まで回避できたのは更に少なそう。 「鎧や兜は返して貰うんだからなっ!」 がさりと茂みから飛び出して、ふしぎが鎧なしの子鬼に狙いを定めます。武装していると言いましても、武器だけの者も見受けられます。そこでふしぎが二振りの刀と剣を巧みに扱い、未だ混乱中の子鬼に止めをさして回ります。 一方、北斗はお得意の道化を演じて彼らの攻撃を難なく交わしおりました。既に足元は千鳥足となっている相手ですから、相手は簡単。けれど、油断は禁物です。何故なら、相手はまさしく混乱中…小刀を手にしていた子鬼が仲間の子鬼に刃を向けます。それを見て彼は、 「ダメなのだぁ!」 ばっとそっち方向に腕を出して、放ったのは真空の刃・風神でした。ぼわっと風が駆け抜けると同時に数体の子鬼が瘴気に返ります。それと同時に主をなくした武具や武器が宙に放り出されて、北斗の近くにいた子鬼の小刀はキャッチしましたが、残りの物までは手が回りません。しかし、 「おっと、危ない危ない」 「間一髪、ですね…」 それは仲間によって救われました。しょっぱなの一発で大多数が消滅したのを見取ってナキとファムニスが商品の回収に来てくれていたのです。 「あたしも負けてられないわね」 北斗とふしぎとは別の方向から子鬼のアジトを取り囲む様にしての襲撃。董は逃走を計ろうとしていたのか、はたまた混乱の為思う様に歩けないのか脱線していこうとしていた一匹を見つけて、まずは一喝。びくりと子鬼が振り返ります。 「あら、完全装備なのね」 彼女はその姿を見て呟きます。 そう、その子鬼こそがあの司令塔の子鬼だったのですが、勿論彼女は知りません。 子鬼集団の一人として、随分着込んだ奴という印象です。 「悪いんだけど、それは返して貰うよ」 そういう間にも一気の距離を詰めて、董が繰り出したのは護法鬼童…掲げた棍から炎の精霊が飛び出したかと思うと、武装した子鬼を包み実体だけを燃やします。 『ナンデ…カテナイ。ツヨイ、ヨロイ…ナノ、ニ……』 子鬼が喋る事ができたとしたら、そんな事を言ったのかもしれません。着弾と同時に振り返った子鬼がそんな表情をした様に見えました。けれど、それも一瞬の事、慌てて彼女も武装していた商品の回収へ。できれば地面落下前に拾いたいとスライディング。服が少し汚れましたが、気にしません。 「これで全部かな」 最後に逃げ出しかけた一匹をボーク・フォルサーで逃がさず近付いて一刀両断したふしぎが言います。 「そう、ですね……気配、ありません」 それにファムニスが再びの瘴索結界で確認し一段落。 苦戦するかと思いましたが、やはり所詮子鬼は子鬼でした。 「まあ、雑魚は雑魚。あたしの敵じゃなかったぜ!」 びっとサムズアップでナキは勝利のポーズ。皆も笑顔を返します。 「さて、じゃあ早く持って帰るのだぁ〜」 ●御加護があります様に 北斗の言葉に一同は引っ張ってきた大八車に商品を詰め込みます。 その際はファムニスがチェックを担当。事前に聞き、書き留めていたメモのおかげでスムーズです。 それに持ち帰った後の事も考えて、刃毀れしているものとそうでないものの区別も忘れず、後の作業がやり易い様工夫します。 「これは…後で職人さんに、見て貰わないと…」 軽く土を払いつつ、判る範囲で事前メモに現在の状態も記しておきます。 「数はこれであってたか?」 「あ、はい」 「じゃあ、しゅっぱーい!」 回収完了を知ってナキは始め同様、大八を引っ張ります。坂道では慎重に、けれど戻りは迅速に。 五月はもうすぐそこ。これを待ち望んでいる子供達は沢山いるでしょう。 北斗等はそんな子供達の笑顔を思い浮かべながら、それを手伝います。 「ねえ、ちょっといいかな?」 そんな中、董がある場所まで来ると仲間に呼びかけました。 何事かと思い、振り返ると彼女はある場所に寄りたいというのです。 「子鬼達が着ていたり使っていたりしたものだよね? やっぱり一度汚れを祓わないと…」 囮とした獣達を弔う為に貰ってきた湧き水のあるお寺はここからそう遠くありません。それに、この後作業をする職人さんに、万が一瘴気が憑いては元も子もありません。それに折角ならば、自分の手で真言を唱えて返したいと思う董なのです。 「あ、そうですね…職人さん達も判ってると、思いますけど…先にしておいた方が、手間も省けていいと、思います」 ファムニスも巫女ですから、それに同意します。 「そういう提案なら賛成なのだぁ。他はどうなのだ?」 「僕も異存ないよ」 「あたしも。凱旋するのが多少遅くなってもいいもん渡したいぜ!」 そういう訳で満場一致――となれば向かうはそのお寺です。 それ程広くはありませんが、浄化するのに広さなど関係ありません。 水を貰いに来た時に顔を合わせておりましたから、寺の住職に快く聞き入れて頂き、スムーズに儀式は進みます。 (「出来る事なら、子供達の成長を見守る守り神になれますように…」) そんな事を願いながら、専門家と共に真言を唱えて―――彼女らが工房に戻ると、職人達がお出迎え。 「遅くて心配しましたが…その様子、成功されたのですね! 本当にありがとうございます!!」 各開拓者の腕を取り、職人達が喜びます。そして、事情を説明すると更に深く頭を下げて、早速点検を始め、欠けている部分などの修繕へ。皆、ラストスパートといった感じです。 「五月五日が楽しみなのだぁ〜」 北斗が言います。 既に工房の屋根には鯉のぼりが逸早くはためき、その日を待っている様です。 「にぃちゃん、待ってよ――!」 「やだよ――! おれを捕まえたきゃ本気で来いよ――!」 工房の片隅では次代を担うかもしれない子供達が元気に駆け回っている様でした。 |