【猫又】お怒りのお猫様
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/20 17:37



■オープニング本文

「なぁ、おまえ猫だよな」
「にゃ!?」
 真面目な顔でそう言ったご主人に思わず、目を瞬かせる。
 それが全ての始まりだった。
 お猫様――何時の事だかは定かではないが、とある村里に伝わる伝説の猫又の事で、その村ではその猫又を『お猫様』と言って奉っているという。その発端は、遥か昔‥‥その村を襲ったアヤカシをその猫又が一匹で退治したというところから来ているらしい。
 そのお猫様がご乱心の一報を受けて、ご主人が珍しく腰を上げたのだ。


『けしからんですじゃ』
 お猫様は確かに怒っていた。にゃにが彼女を怒らせたのかはわからにゃい。
 一つ言えるのは、お猫様を奉って毎年行わ黷トいるにゃんだ祭が終わった直後かららしいという事だけ――。
 今日も毎日のお勤めに神社を訪れた村人に当たり散らす始末だったという。
「なにゃにが気に食わないんですかにゃ? はっきり言って下さいですにゃ」
 この神社を管理する青年が一抹の知り合いと言うこともあり、事情聴取に来た‥‥いや、来させられたおいらが問う。今、この神社にいるのはお猫様の末裔であるが、人語を話す事はできにゃいらしい。遺伝の関係かどうかはわからないが、それでも末裔である事に変わりはなく、厳かに神社で飼われ奉られているのだと言う。
『‥‥うるさいのじゃ』
「うるさい?」
『毎日毎日‥‥わしの山じゃと言うのに、どんちゃん騒ぎをしとる‥‥あの者らをなんとかせい』
 末裔猫・式部宮はそう言うと、ぷいっとそっぽを向きふて寝を始めてしまう。


「どうだ? 何かわかったか?」
 外で待つご主人においらはさっきの言葉を報告した。
「うるさいだと? おい、生平(しょうべい)なにか村でやってるのか?」
 知り合いだからなのか、いつになく真面目に取り組むご主人である。
「いや‥‥何もないはずだが? こんな場所だ‥‥娯楽もない。十時過ぎれば静かなもんだ」
「ほう。って事はポチ。おまえの聞き間違いじゃあ」
「違いますにゃ! 猫が猫語を聞き間違えるにゃんてありえにゃいですにゃ!」
「‥‥となると、どういう訳だ?」
 顎に手を添え思案する。
「‥‥とそう言えば、最近地鳴りが多いようだが関係あると思うか?」
「地鳴り? さぁ、いつ頃からだ?」
 生平の方に視線を向けて、ご主人が問う。
「祭りの‥‥三日後辺りから‥‥だろうか?」
 真剣に聞くその横顔が嬉しくて、おいらも改めて気合を入れる。
(「あの式部宮が嘘をついているとは思えにゃい‥‥とにゃると‥‥」)
「ご主人、おいらが探りを入れてみますにゃ! ご主人には聴こえにゃい音かもしれにゃいですし」
 やる気のご主人に答えたい。おいらの提案にご主人の様子は一変した。
「‥‥その言葉待ってたぜ」
 にやりと笑うと同時に、神社の板間に身を預け意地の悪い笑みを見せてご主人が言う。
「あぁ‥‥離れ離れは寂しいだろうが、俺はお猫様の護衛についていなくてはならんからな。一人で‥‥いや、一匹で頑張ってくれ」
 さも名残惜しそうな事を述べてはいるが、いかんせ言葉に重みがにゃい。
「ご主人‥‥ずるいですにゃ」
 豹変したご主人を見つめて、じと目で応戦する。
「ずるい? おまえが自分が言い出したことだろう?」
「むむむっ、けどぉ〜〜」
「男に二言は見苦しいぞ…そういう訳だ、俺とお猫様の為に原因の調査よろしく」
 爽やかにそう言って、生平の前だというのに堂々と昼寝を始めるご主人である。
「前と全然変わってないな、おまえは‥‥」
 けれど、その性格を知っているようで生平は苦笑するばかりだ。
「むぅ〜〜どれだけおいらが優秀でも猫又一匹でどうしろっていうんですかにゃ?!」
 おいらがそう言って膨れると、それを見た生平が声をかけてくれた。
「おまえも大変だな‥‥まぁ、俺も期待してた訳じゃない。手は打ってある‥‥ギルドに依頼を出しているから、その者達と共に原因解明よろしく頼むよ」
 おいらの頭を優しく撫でて、その手を喉元に移してゆく生平しゃん。
 おいらは気持ちよくなり思わず目を細めてしまう。
「式部宮も君くらい可愛いといいんだが‥‥」
 生平の苦笑をおいらは夢見心地で聞いているのだった。


■参加者一覧
空音(ia3513
18歳・女・巫
若獅(ia5248
17歳・女・泰
ルーディ・ガーランド(ib0966
20歳・男・魔
奈々華(ib1214
16歳・女・巫
ウルク・グランフェルト(ib2696
14歳・男・騎
蜜原 虎姫(ib2758
17歳・女・騎
神鳥 隼人(ib3024
34歳・男・砲
月見里 神楽(ib3178
12歳・女・泰


■リプレイ本文

●推測
「うにゃああああ〜〜」
 出会ったばかりの開拓者らに揉みくちゃにされてポチが叫ぶ。
 今回の依頼では猫好きが集まっているようだ。
「いやいや、大人気だねぇ〜ポチ‥‥と、一抹の旦那は?」
 そんな中、傍観するのは何度か依頼を共にしている若獅(ia5248)だった。辺りを見回し、ポチの飼い主の一抹を探す。
「あいつはお猫様の社にいますよ」
 ――と、それを察して側にいた生平が苦笑し、釣られて若獅も苦笑い。
「今回の依頼はポチ君が頼りだからねっ! 頑張ってよぉ〜〜」
 お猫様に触るのはさすがにまずいと考えたのか、今のうちにとしきりにポチの頭を撫で奈々華(ib1214)が言う。
「そうです‥‥今回、情報、少ないから‥‥式部宮さんからお話、訊きたい‥‥」
 それに加えて言葉したのは、ポチを抱えている蜜原虎姫(ib2758)だ。
「ポチ隊長、本日はよろしくお願いしますです」
 そんな中ぴっと背を正して敬礼し猫獣人の月見里神楽(ib3178)が挨拶する。彼女はお山の捜索隊のつもりらしい。
「いや〜なかなか大変だなぁ。所でポチ君は煮干しと牛乳どっちが好きかね?」
 両手にそれぞれを掲げて見せて、今度は神鳥隼人(ib3024)が問う。
 けれど、ポチはそれどころではないらしい。
「あ〜いい加減、話そうぜ」
「そうですよ」
 目の前で繰り広げられている光景に頭を抱えたのは、ルーディ・ガーランド(ib0966)とウルク・グランフェルト(ib2696)だった。二人は予め予想を立ててきている。それを話す為集まった筈なのだが、結果はポチのお触り会で。
「ルーディ様はどのようにお考えなのですか?」
 それに応えて、ポチから離れ空音(ia3513)が声をかける。
「僕は原因についてはお手上げだ。ただ、宝探しとやらが怪しいと考えている」
「そうですね、私も同意見です。それ以降地鳴りが始まったとのことですし、式部宮様の言うどんちゃん騒ぎにも関係していると思われます」
「地滑りの前兆‥‥といった所か?」
 顎に手を当てたまま、思案顔だったウルクがぼそりと呟く。
「あるいは、山に眠る何かを起こしてしまったのかも‥‥」
「まぁ、どっちにしても調べてみるしかねーだろう」
 案ずるより何とやら‥‥若獅がそう言って、皆を促すのだった。

●早速調査
 そして、一行はそれぞれ行動に移る。
 村の聞き込みに回ったのは空音とルーディだった。
「宝探しの事かい? そうさなぁ〜ほら、よくあるだろう? 地図を片手に暗号を解いて進むって言う‥‥そういうものをやったんだよ。これがその時の地図だ」
 祭りで使われた余りの地図―― それはいかにもな企画用のチラシではなく、古めかしく色褪せた紙に簡易的な地図と暗号文字が記されている。
「なかなか手が込んでいるな。この暗号が示す先は?」
 企画主にそう聞いて、その位置を正確な地図におこす。
「宝は村で用意した黄金の小判でした。それをゴール地点に隠しておりまして、先着五名までそれと引き換えにこの村の温泉宿泊券を授与しました」
 そこは水脈の奥深く‥‥その場所を地図に書き込む。
「そうですか。あっそれと地鳴りですが、いつも何時頃耳にしますか?」
「子の刻‥‥零時辺りでしょうか」
「わかった。協力感謝する」


 一方その頃、ポチ同行班は式部宮に会っていた。
「あの者らって、明言、してる、けど‥‥数、わかるです‥‥?」
 虎姫の疑問を通訳し尋ねるポチに、面倒臭げに答える式部宮。
「わからにゃいけど、一人で出せる音じゃにゃいって言ってるにゃ」
「時間、とかは?」
「鐘が九回鳴った後からみたいにゃ。おいらも昨日聴いたから間違いないにゃ」
「それはどんな音でどっちの方角からだったか‥‥わかるかい?」
 興味津々と言った様子で今度は若獅が問う。
「にゃんちゅ〜か、がちゃがちゃごつごつどっかーんな感じだったにゃ」
「どっか〜ん?」
 どんちゃん騒ぎにしては似つかわしくない表現に若獅と虎姫が顔を合わせる。
「む〜〜猫獣人なのに猫語はわからないですぅ」
 ――と、思考する者達を余所に声を上げたのは、ポチと式部宮の会話を聞いていた神楽だった。
「神楽さん、それ当然‥‥仕方、ないよ」
 それを慰めるように頭を撫でる。
「重ね重ね協力ありがとですにゃ」
 ポチはそう締め括り、社を出るのだった。


 そして、もう一組――肉体労働班のウルクと隼人は山中にいた。
「もういいんじゃないのかい?」
 一服する事を提案して、隼人が言う。
「駄目だ、徹底的に確認しないと‥‥現場百回、何かあるはずなんだ」
 けれど、真面目なウルク‥‥自分が納得いくまではやらないと気が済まないらしい。辺りを見回し、何かないかと目を凝らす。彼は村人を引き連れて、宝探しで変わってしまった地形を見て回っているのだ。宝探しと言うのだから、円匙片手に地面を掘り起した人間も多かったようで、その一箇所一箇所を確認するのは予想以上に骨が折れる。

「熱いねぇ〜全く。若さ故か」

 そう一人ごちて、休憩を終了し立ち上がった隼人の視界に、ふと誰かの円匙が目に入る。
「誰だい、こんな所に円匙を放置したのは?」
 それを拾い上げて聞いてみたのだが、一緒に来ている村人達には心当たりがないようで、一行に持ち主が現われない。

(「宝探しに来た人の忘れ物か??」)

 不思議に思いながら、それを観察してみれば相当使い込まれているが、まだ真新しい土がついている。祭りから既に一週間以上――放置されたままだったとするならば、雨風に晒されており、土がついたままというのはおかしい。
「私達の他にも誰か居るのか‥‥」
 その言葉を聞いていたのか、ウルクが彼の元に駆け寄る。
「なんだ、円匙ですか‥‥けどこれは‥‥」



●潜入
 日が沈むその前に、一旦調査を中止して情報交換をした仲間達。
 そして、出した結論は‥‥地鳴りとどんちゃん騒ぎはやはり同時刻に発生しているようで、何らかの関係性があると推理。場所に関しては、宝探しで使われたらしい場所が怪しいと睨んだ一行は、ゴール地点である水脈に何かがあるのではと絞り込んでいた。それは、一概に隼人達が見つけた円匙のあった付近と、その地点がほぼ同じ場所だった事に他ならない。人数分の地図を作成していたルーディは皆にそれを配り、道を急ぐ。
 まだ、地鳴りの発生時間ではないがなんらかの手掛かりは見つかるかもしれない。松明片手に、アヤカシを警戒しつつも一行は洞窟の入り口に辿り着く。
 そして、中に入った彼ら‥‥そこには。 


「原因は‥‥これ?」
 彼らが辿り着いた先、洞窟内も地図を基に進むとそこは広い空間になっており、天井までの高さが高いとはいえ、小さな集落のようなものが形成されており、テントが密集している。そして、テント近くには焚き火の後も無数点在している。
「人、いるのかなぁ?」
 なにがなんだか判らないまま神楽が呟く。村人達からここに村があるなど聞いてはいない。ましてや人が住んでいるかなどわかる筈がない。

「調べて‥‥とんんっ!」

 テントに向いかけたウルクだったが、先に入口が開かれ思わず後退する。

「う〜し、みんなそろそろはじめっぞぉ〜」

 ――と、そのテントから姿を現したのは筋肉質の背の高い男だった。つるはし片手にさも自然な様子で‥‥しかし、彼は一般人ではないようだ。肩には刺青が彫られ、その手の人間独特の雰囲気を醸し出している。

「兄貴〜本当にここであってんでしょうねぇ〜」

 すると、今度は小柄で小ずるそうな男が顔を出し、彼に話しかける。

「あぁ‥‥間違いねぇ‥‥俺の読みは‥‥って、何者だっおまえら!!」

 そこでやっと気付いて、肩にかけていたつるはしを構え開拓者らを牽制する。

「それはこっちの台詞です? あなた方は何者ですか?」

 なるべく穏やかに空音が問う。だが、
「はっはぁ〜ん、さてはおまえ達も宝を狙ってきたクチか??」

 男は勝手に察して言葉する。

「いえ、別に僕らは‥‥」
「嘘はいけねぇ〜‥‥だが、遅かったな。俺らが先にここにきたんだ‥‥宝は俺達が頂くぜっ。もしひかないってんなら力‥‥」

「ちょっと待って下さい。 話が見えません」

 ちぐはぐな会話に待ったをかけて、空音が両者を宥める。

「おっちゃんたちは何者ですか?」
「見てわかんねぇ〜か? 山賊様だよ」

 神楽の問いに自慢げとも思える表情で答える男。

「山賊さんがなんでここに住んでるんですか?」
「住む? 違うぜ‥‥今だけだ」
「今だけだと? 宝探しはもう終わっているだろう?」

 とこれはルーディ。さりげなく核心の部分に踏み込んでゆく。

「終わってるだぁ?? まだ見つかってね‥‥」

 そう言いかけた男に、部下が飛び出し口を塞ぐ。

「おい‥‥まさかとは思うが、この地図に見覚えは?」

 徐々に見えてくる真相に彼はあの宝探しの地図さし出した。

「んなっ!! ななななんで、おまえ達がそれをもってやがんだ!!」

 すると、あからさまな動揺を見せて男がそれをひったくり、自分が所持している地図と照らし合わせるように交互に視線を送る。

「あ〜〜と、まさか本気で小判探ししていたのか?」

 隼人の言葉に男はびくっと反応した。そんな周囲では、男の声を聞いたのかあちこちのテントから部下とおぼしき男達が姿を現し始めている。

「あ〜〜なんだ、山賊さんよぉ。実はその地図‥‥」
「地図がなんだよ」

 視線を落としたまま、続きを促す。

「実は斯く斯く云々なんです」
「なにぃ〜〜〜!!!!!!!!!!!!!」

 ウルクの説明が入り盛大な叫びが木霊した。

「じゃあ何か‥‥俺らは在りもしないふざけた地図に踊らされていたってのか!!」
「まぁ、残念ながら」

 そう平然と答えるウルクに自嘲気味の男。

「はっははは、なんてこった‥‥」 

 そこで、男の何かが壊れた。

「んだよ、折角見つけた一攫千金のチャンスが‥‥ふざけんなっ! 催し? 紛らわしい事しやがって!!」

 半狂乱になりながら男がつるはし片手に暴れ出す。

「兄貴〜〜落ちついて下せぇよ〜〜」

 しかし、彼の声は届かない。

「完全に逆切れだよね、アレ‥‥どうする?」

 それを見つめて、奈々華が尋ねる。

「とりあえず、とめるしかないだろう、話はそれからだっ!!」

 そう言ってウルク他皆が動く。
 しかし、足場は泥濘、テントの多い場所では思い切り武器を奮う事が出来ない。それに理性を失くしている相手である。次の行動が予想しにくく、加えて部下達も立ち尽くしている為、行動が制限されてしまう。

「ここは私の出番ねっ。きなよっ、山賊さんっ」

 テントを縫うように走り抜けて、奈々華が咆哮する。すると、それに釣られて男は彼女を追いかけ始める。

「へっへ〜〜ん、つかまるもんですかってわきゃあ!!」

 だが、歩く不幸センサーの彼女――お約束とばかりに泥濘に足を取られ体勢を崩す。そこへ男がつるはしを振り被る。

「あぶないですっ!!」

 しかし、そのつるはしが彼女を捉えはしなかった。上段に振り上げた状態ではボディはがら空き――そこを狙って神楽の空気撃が炸裂、男はふらつき後退する。

「大丈夫かい?」

 奈々華自身は近くにいた若獅に助けられたようで、こちらも転倒を回避している。

「恨みはないが、大人しくしてもらおう」

 よろけた隙をついて、男に向うは隼人だった。『朱天』を構えて男に近付き、間合いをあっという間に縮め、彼の刀が煌いた。そして後に残るは男の倒れる音――地面を揺らすほどの地響きだった。

「これでひとまず安心、でしょうか?」

 それを見取って虎姫他、皆武器を下ろす。――が、まだ終わってはいなかった。近くにあった篝火が先程の振動で倒れ、テントに燃え移ってしまったのである。

「なってこったぁ」

 それを見て誰かが呟く。

「言ってる場合じゃにゃいにゃ! ここ火薬の匂いもするにゃ‥‥引火したらえらいことにゃ」

「何だって!! みんなぼさっとしてないで逃げろ!!」

 山賊達に声をかけ、外へと促す。

「けど、兄貴が‥‥」
「あぁ、わかった。あいつは俺らが運ぶ。だから、早く出るんだ!! 」

 その叱咤が効いたのか、立ち尽くしていた者達が一斉に外へと向う。

「気休めだが、フローズ!!」

 ルーディは後ろを振り返りながら、迫る炎に冷気をかけた。けれど、それでは火は消えない。水は腐るほどあれど、消火して回る時間がない。

   ドカァーーーン

 そして、ついに炎は火薬へと引火した。轟音を轟かせ爆発すると、洞窟内が大きく揺らぎ、天井の岩が崩れ始める。

『えらい事になったなぁ〜』

 誰もがそう思わずにはいられなかった。
 

●終幕
『音が消えたのじゃ』
 お猫様はご機嫌顔で一言そう言うと、皆に笑顔を見せる。
 どんちゃん騒ぎの原因――それは彼らの夜な夜なの発掘作業らしかった。人には水脈奥で行われていた事もあって、耳には届かず爆破の際の衝撃が地鳴りという形で届いていたらしいが、お猫様は動物。聴覚が優れている為、つるはしや円匙の作業音や、声等も聞こえていたらしい。社の近くに水脈に続く井戸があった事も大きかった。

「何はともあれ一件落着ってか」

 何食わぬ顔でそう言ったのは、ぐうたら主人の一抹である。

「あんたもいい加減、ちったぁ働いてやれよ」

 そんな彼に声をかけたのは若獅だ。

「まぁ、気が向いたらな‥‥あれはあれで楽しんでんだ。いいと思うが」

 遥か先にいる、ポチを見て一抹が言う。
 あの後、洞窟は半壊――山賊達はお縄となる。宝探しについての行き過ぎた行為で半壊の原因を作った事が罪に問われているらしい。ちなみに地図は拾ったのだという。

「とんだお間抜け山賊でしたね‥‥けど、まさか本気にしてたとは」

 生平の言葉に空音が頷いている。

「全く‥‥カエルの大合唱ならよかったのですが‥‥地形が変わってしまったのは、如何なものかと思いますよ、僕は」

 すると、傍観体勢のままでいたウルクが言葉する。

「カエル‥‥冗談にしてもイマイチだぜ、ソレ」

 それを聞いてこれはルーディ。

「いや、僕は別に」
「ルディ、いこ」

 と、そこに彼の友人の虎姫が現われ、彼をさらってゆく。

「ぼ、僕は‥‥」

 本気だったらしいウルクだが、言葉を告げる相手がいない。

「なぁ、ポチ。突然だけど式部宮の事どう思うよ? 美人ならぬ美猫なんだろう?」

 いつの間にかポチの元に近寄り、若獅が尋ねる。

「確かに美人かもしれにゃいけど、式部宮は十歳過ぎてますにゃ」
「あらっ‥‥そうなんだ、じゃあおばあちゃん猫か」

   げしっ

 と、その言葉と同時若獅の頭部に鈍い衝撃。
 言葉を理解していたのか、式部宮の右足ストレートが決まっている。

『おおっ!!』

 普通の猫に見えてただの猫ではない。そう彼女はお猫様の末裔なのだから‥‥。