鍋の蓋の開拓者?
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/12/03 19:54



■オープニング本文

●その男、現る。

   からからから

 歩く度に木と木が当り音がする。積み木同士を叩いたようなその音に、何の音かと振り向く人々の視線の先には、木製の鎧を纏った男がいた。
 彼の名は新海明朝(しんかい めいちょう)。一応、開拓者の一人である。ギルドの窓口に歩を進めて、彼は自慢の笑顔で窓口の娘に声をかける。
「よっ、久し振り! 元気してたかね?」
 ナンパをするような口振りで、新海が問う。
「もぉ〜新海さんったら、今日は何の御用ですか?」
「何? つれないなぁ〜まぁいいさね。今日はちゃんとしたお仕事のこと。さっき見つけたこの依頼受けたいんだけど、人集まってるさ?」
「え〜と、どれですか?」
 新海の示した依頼を確認して、娘は手早く照合に入る。
「う〜んと、まだ一名も入ってませんね。昨日提示したばかりですし大丈夫ですけど、予約入れときましょうか?」
「んっ、頼むさね。折角出来たこの鎧と新しい武器を試してみたくってさ‥‥今回のはとっておきなんさね」
 子供が自分のおもちゃを自慢するように、新海はいたずらっぽく笑う。
「へ〜〜その鎧が、ですか? ただの木に見えますけど?」
「ふふふ? 違うんだな、これが?」
「へぇ〜じゃあなんですか」
「聞いて驚け、実はこれは‥‥」

●発案者、現る。
「あいつを止めてやってくれ!!」
 ギルドに駆け込んできた男は開口一番そう言うと、半ば半泣き状態でその場に力尽きた。
「あの‥‥お客様?」
 その様子を目にして、慌てて駆け寄るギルド職員。
 男の服装からして鍛冶屋で働いている人間らしい。煤に汚れた服がそれを物語っている。
 一息ついて意識を取り戻した男は、小さく頭を下げる。
「一体どういうことなんですか? さっきの様相といい、発言といい、只事ではないとお見受けしますが‥‥‥」
少し呆れながらも職員が問う。
「すいません。でも、あいつを止めないと! あいつ俺の一言を真に受けちまって‥‥冗談だったのに、あいつ馬鹿だから‥‥」
「だから、落ち着いて。あいつとは誰ですか?」
「しんかい‥‥新海明朝です。多分、昨日依頼を受けて旅だったはずです」

●選ばれしモノ
「はい、新海さん。本日もこちらになります」
 万商屋の店員に手渡されたのは、紛れもなく鍋の蓋――普通の物よりは少し高いのだろうか。頑丈そうにみえる。けれど、どこをどう見ても鍋の蓋。ギルドの遊び心の一つだったのだろうが、この男にとってはもう何十回目の出会いであり、深いため息をつかせる。
「なぁ、姉ちゃん。本っっっっっっっっっっっ当にこの支給品の中に幻のお宝が入ってるさね?」
 手渡された鍋蓋を片手で弄びながら、新海が言う。
「えぇ、入ってますよ。あっ次の方どうぞ」
「だって、俺はずぅ―――――――とこれしか当たってないさね」
「それは‥‥って、あっおめでとうございます。こちらが本日の支給品『幻弓』になります」
 自分の目の前で甲の商品が出ていくのを見て、新海は肩を落す。
 支給が始まって以来、毎日ここに通っているが今まで当たったものといえば干飯、梅干、止血剤‥‥そして、鍋の蓋。ここ最近はなぜだか鍋蓋ばかりを引き当て、現在連続十五回を更新中。今まで貰った総数なんと五十を超えているというから驚きである。さすがにここまでくると、ある意味神掛かってるといえなくもない。
「おっ、また引いたんですかい?」
通りすがりに新海の姿を見つけ、鍛冶屋の男が声をかける。
「なにさね? 笑いたきゃ笑えばいいさ」
 明らかに不機嫌な表情を浮かべて、新海が言葉を返す。
「別に、笑うつもりはねぇ〜ですよ。ただ、それも一応ギルドの支給品。加工すれば最強武器に化けるかもって‥‥‥」
「成程! そうかもしれないさね!!」
 新海は男の言葉を最後まで聞かずに一目散に走り出す。
「‥‥んな訳ないか。ってあれ??」
 残された男はただただ呆然と立ち尽くすのだった。

●噂
「‥‥と言う訳で、その時は気にしてなかったんですが後日同業者から聞いた話では、鍋の蓋で鎧と武器を作ってくれと依頼があったそうで‥‥新海の奴、本気にしたみたいなんです。
 どう鍛えても鍋の蓋は鍋の蓋。防御力だってたいしたことないんです。なのに、依頼なんか受けて‥‥しかも人が集まらなかったらしく保留になったらしいんですが、どうしてもやりたかったのか個人で行ったとか。もう馬鹿としか言い様がない奴なんですが、でも悪い奴じゃないんです。だから、助けてやって下さい!!」
 再び頭を下げた男を見て、職員は呆れながらもペンを取るのだった。


■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
篠田 紅雪(ia0704
21歳・女・サ
星乙女 セリア(ia1066
19歳・女・サ
鬼限(ia3382
70歳・男・泰
真珠朗(ia3553
27歳・男・泰
ガルフ・ガルグウォード(ia5417
20歳・男・シ
只木 岑(ia6834
19歳・男・弓


■リプレイ本文

●新海の行方
 新海を連れ戻してほしい――鍛冶屋の男から依頼を受けて、集まった開拓者らは新海が受けていた化猪の依頼書を読み、現地に向かう。
 精霊門を潜って、少し行った所に出現地点があるのだが、方向音痴と聞いていた新海の姿は、案の定そこにはなかった。代わりに残されていたのは、木製のくないらしきもの。
「んっ‥‥こらぁ〜もしかしてぇ‥‥鍋蓋製かい?」
 それを拾い上げて、じっくりと観察したのは犬神彼方(ia0218)である。陰陽師の彼女ではあるが訳あって、今日は長槍『羅漢』を持参している。
「しかし、何故に鍋の蓋、なのか‥‥」
 彼方からそのくないを受け取って、サムライの篠田紅雪(ia0704)が呆れたように呟くと、それに答えようと茶飲み程度の面識がある弓術師の只木岑(ia6834)が割って入る。
「え〜別にいいんじゃない。それも一つの可能性かと思うんだけどぉ〜〜だって、その人志士なんでしょ〜可能性を追求するのはいいことじゃん」
「それはそうだが‥‥」
「奇跡を追うのはよいが、試用せんと即実践とは言語道断! 挙句親しき知己に心配をかける等もっての外じゃ!」
 そこで一喝したのは、老練の蛇の称号を持つ泰拳士の鬼限(ia3382)だった。数々の修羅場を潜り抜けてきたのだろう。身体にはその戦歴が深く刻まれている。
「まぁよい。ここにいないとなると、他を探すしかあるまい。早く見つけるためにも分かれて探すことにしよう。班は、出発時に決めていた二班で。合図は化猪なら呼子笛、新海殿なら発煙筒も上げるのじゃ。よいな」
「了解〜」
「あの、それ何が入ってるんですか?」
 一番最後を歩いてるサムライの星乙女セリア(ia1066)の荷物が気になり、声をかけたのは陰陽師の滋藤御門(ia0167)だ。セリアの背には、仕事に出るには似つかわしくない背中が隠れるほどの大きな袋が背負われている。
「あぁ、これですか? これは私の大事なものなんです」
 にっこりと微笑んで返すセリアに、それ以上は追求出来なかった。

●新海、見つかる
 二班に分かれて――山の下側を捜索するのは彼方・鬼限を含む第弐班。
 編成は、彼方・鬼限・紅雪‥‥そして、今回の依頼が初仕事となるシノビのガルフ・ガルグウォード(ia5417)の計四名。その中のガルフが木の上を飛び越え辺りを見回した時、ある異変を察知した。素早く下に下り仲間に知らせる。
「ここから東‥‥俺らの後方土煙が上がってる」
 その言葉を受け視線を後方に移せば、何やら地響きを立てて近付く物体――一行は一瞬固まった。よく目を凝らして見てみれば、そこには新海らしき人物。からからと鎧が音を鳴らしているから間違いない。ものすごい速さでこちらに迫ってくる新海の後方には化猪もいるようだ。

「どいたどいたぁ〜〜〜〜〜」

 新海がそう叫びながら、一行の間を通過する。
「俺ぇらも逃げた方がよさそうだぜぇ;;」
 彼方の一言に同意するまでもなく、一行も新海の後に続く。
「ガルフ殿、合図を頼む!!」
「まってましたぁ!!」
 鬼限の指示に従って、懐から取り出すは発煙筒。手早く着火を済ませれば、もうもうと煙が立ち昇る。
「後は、これを‥‥‥あっ、彼方これよろしく!」
「んん?」
 発煙筒を彼方に渡して、ガルフはここぞとばかりに取り出したのは――鍋の蓋、だった。そして、

   かん かん かん かん かん

 火事の折り鳴らす警鐘よろしく、ガルフは短刀で鍋の蓋を叩く。呼子笛を吹きかけていた鬼限だったが思わず笛を取り落としている。
(「輝いてる! 今この瞬間、輝いてるぜっ鍋の蓋〜〜!!」)
 今回の依頼を読んで鍋の蓋に愛着を覚え始めていたガルフはその勇姿を称える様に、力いっぱい音を出すと、笛にも負けない音が辺りにこだまする。
「やれる! やれるじゃないかっ、鍋の蓋ぁ〜〜って、あ!」
 懸命に叩かれて、鍋の蓋は力尽きた。ガルフの手の中でぱっくり真っ二つに割れ地面に落ちる。
(「よくやったぜ‥‥」)
 ガルフが心の中で呟いた。

●飛ぶ、新海
「あれは‥‥どうやら見つかったようですが――ん?」
 手筈と違う音を聞き、疑問を抱いたのは上側を捜索していた壱班の御門である。
「これは、多分合図です。笛ではないですが、私に心当たりが‥‥とそれよりあの煙」
「なんか移動してるみたいだねぇ」
 セリアの言葉を引き継いで、今度は泰拳士の真珠朗(ia3553)が続く。見晴らしのいい岩場ではあるが、林の中にいるであろう弐班に何が起こっているのか、全く状況が把握できない。
「でも〜、なんかやばそうじゃない? 早く行った方が‥‥」
 そう岑が言いかけた時、下のメンバーがひらけた場所に出た。先頭に新海。その後ろに弐班のメンバーが続いており、そのまた後ろを見れば、そこにいるは三匹の化猪。
「なるほど、あれのせいですか‥‥って、ん?」
 割と呑気に呟いた真珠朗だったが、新海の不自然な動きに視線が止まる。
 新海がきびすを返して立ち止まったのだ。別にこけた様子もない。予想もしないその行動に、思わず弐班のメンバーは新海の横を通過してしまい、慌てて戻ろうとしている。
「くらえっ!」
 多分、そう言ったのだと壱班のメンバーは推測する。新海は立ち止まり振り返って、手にしていた盾らしきものを前に突き出した。一瞬その盾がきらめいて――しかし、それに怯む化猪ではなかった。スピードは僅かに衰えたものの、化猪の突進で見事に新海を弾き飛ばされる。

「うおぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 天高く弾かれて‥‥新海は壱班の方に接近していた。あたふたした様子で、後数メートル‥‥。

「きゃっ!」
「おわっ」

 セリアと真珠朗の悲鳴が上がる。
「大丈夫〜?」
 慌てて駆け寄ると、そこには二人に受け止められる形で新海の姿があった。二人のおかげで重症を免れたようだ。ふと見れば、セリアの背負っていた袋の中身がクッション代わりになっている。
「あぁ〜〜と、セリアさん。あなたの背負ってたものって‥‥」
 袋の中身が露になってセリアは慌てて袋につめている。
「あの〜それって‥‥」
「あ、見られちゃいましたね‥‥もふらさまのぬいぐるみです。なんか可愛くて…手放せなくなっちゃって‥‥とうとう5匹になりまして嵩張るのですけど持ち歩きたくて‥‥このまま増え続けたら、私はどうすればいいんでしょうか!?」
 『そんなのしるかぁ!』と突っ込む者は残念ながらここには存在しなかった。あるのは困った表情で真剣に考える御門と、関心薄げな二人のみ。
「‥‥いってぇ〜さぁ〜」
 そんな空気を破ったのは新海だった。身体をさすりながら、上体を起こす。
   ぱきっ
 その拍子に身につけていた鎧が音をたてた。さっきの衝撃に耐えられなかったのか、じゃらじゃら重ねるように表面にぶらさがっていた木の板がほとんど砕けてしまっている。
「くそぉ〜あの化猪め‥‥この鎧の仇はとるさ!!」
 むくりと起き上がった新海は開口一番、周りにいる開拓者には目もくれず、再び獣の下へ走ってゆく。
「全く面白い御仁だ」
 静かに微笑を浮かべて真珠朗――。
「さぁみなさん、あの人いってしまわれましたよ。あたしらも行かないと‥‥お仕事ですからねぇ」
 言葉の最後にウインクなど入れて、真珠朗は新海に続く。
「確かにあの人まだやる気みたいだし〜サポートしないとね〜」
 自慢の弓を片手に岑も走り出す。
「さっ僕らも行きましょう」
 御門が手を差出すと、セリアが手を取り立ち上がって‥‥再びもふら入りの袋を背負い直す。
「いざいかん! もふらさまと共に!!」
 セリアの言葉に対応に困る御門がいた。

●秘密兵器?
 一方その頃、弾き飛ばされた新海を見送った壱班は化猪と対峙していた。通常、猪とは警戒心の強い生き物らしい。新海はともかく、開拓者の技量を察知しているのか――動きを止め睨み合いが続いている。
「あの人、大丈夫かねぇ」 
 新海の飛ばされた方をちらりと見やって彼方が言う。
「派手な音もしなかったし大丈夫だと思うが‥‥」
「なら、俺、早駆で見てくるぜ」
 心配するメンバーにガルフが動く。が、それを追う様に化猪も動いた。ガルフの進路に向かって――
「こちらだ‥‥獣め!!」
 妨害を防ぐ為、紅雪の咆孔が轟く。それが引き金となった――残りの二匹も動き出す。
「壱班到着まで踏張るのじゃ!」
 鬼限の言葉に、おのおの自分の持てる技を発揮して、獣の攻撃をさばいてゆく。

「そいつは俺の獲物さね〜〜」

――と、またもや奴が現われた。
 早駆していたガルフが急な登場に対応しきれずつんのめっている。そんな事には目もくれず新海は敵を見据えて‥‥巨大な手裏剣(やはり木製)を構え走りながら大きく振りかぶり、狙いを定めている。
「ちょっちょっと危ないって〜」
「無茶ですよ。危ないですから、下がって」
 後方から聞こえる説得の言葉――しかし、新海の耳には届かない。
「覚悟するさぁ〜〜〜」
 言葉と同時に、巨大鍋蓋手裏剣が化猪を襲う。――が、

   ぽろっ

 化猪の硬い皮膚に弾かれて、それは虚しく地面に落ちる。
 そして、訪れるは微妙な沈黙――。
「くそぉ〜なんて頑丈さね! しかしこれならば!!」
 気を取り直して、取り出したのはやはり木製の短剣。わずか四寸ほどのとても短いその剣は、短剣というより小刀と言った方がよいかもしれない。それを手に無謀にも突っ込んでゆく。
「馬鹿もんがっ!」
 間合いからしてこのままでは角の餌食なりかねない。

   ばしゅっ ばしゅっ ばちばち

 庇いに入った鬼限をサポートするように、岑は弓を、御門は呪縛符を飛ばす。それは狙いを外す事無く化猪を射ぬき動きを封じる。 
「本当の馬鹿じゃな、おぬしっ! いい加減目を覚まさぬかっ!」
 その言葉に、新海はやっと目が覚めたようだった。
 流れるような連携を見せて、開拓者達は化猪を倒してゆく。岑の弓が化猪の目を捕らえれば、前衛のセリアと真珠朗が隙をつき攻撃を加える。ガルフと鬼限も同じように対応しているようだ。
「新海ぃ、よくみときなぁ〜俺は陰陽師だがぁ装備をちゃんとしてりゃ前衛的に戦えるんだ。前衛のお前さんなぁらもっと活躍できるだろぉさ。だから、もっとまともな武器使ってみなぁ」
 巧みに槍を動かして、化猪を寄せ付けない彼方。その動きに怯んだ隙を紅雪は逃さない。
「これで終わりだ」
 華麗な一閃――袈裟掛けに斬り下ろされて‥‥化猪は活動を停止するのだった。

●自慢の盾
「いやはや本当、お恥ずかしい限りでさぁ〜」
 壊れてしまった鎧を捨て切れず身につけたまま、新海が話す。あの後、一行は偶然を装って新海に付き合い、薬草摘みへ。特にめずらしい薬草という訳ではないが、限定した場所にしか育成せずここら近辺の村人には重要なものらしい。
 あらかた摘み終えて、一息ついた帰り道――話は自然と支給品の事に流れ始めていた。新海自身は自分を助けるために派遣された開拓者だと知らないものだから、自分の鍋蓋神話もとい、支給品での悲しきエピソードを彼らに話す。
「確かに、支給品は悲喜交々ですよね‥‥」
 セリアが相変わらずもふらを背負ったまま言う。
「他にも色々‥‥殿方の下着が出た日なんて私どうしたらいいか困ってしまいましたもの」
 セリアが頬を赤らめて、そう言うと今度は岑が、
「逆にボクたちは巫女袴とか梓小弓とか困るよね〜」
 と同意を求めるように、真珠朗らに視線を向ける。
「まぁ確かに鍋の蓋は強化しないと売れないし、売っても利益にならないからねぇ〜――けど」
「けど、何ですか?」
 思わせ振りな言い方をする真珠朗に、御門が問う。
「いやぁ〜鍋の蓋の本来の使い方は別にあるんですよ」
 含み笑いを浮かべて真珠朗は再び勿体つける。
「そこまで言ってやめるのはずるいですよ、真珠朗さん」
「そうかい、なら教えようか‥‥実はあれは戦場に赴く兵士へのギルドの『優しさ』なんですぜ。戦場はロクな食糧ありませんし、男手ばかりで複雑な調理もできない。それでも、落とし蓋一つするだけで、火が均一に通ってうまみが増しますからねぇ。過酷な地において少しでもイイ物をって、ギルドの心使いなんですよ」
「へぇ〜」
 感心する新海たちに、ますます弁が立つ真珠朗――。
「その優しさが兵士の力となるって寸法で。伝聞してるうちになんか鍋蓋自体が最強の武器やらにって話になってるようですが。だから、にーさんも横着しねぇで、感謝の気持ちを忘れず精進すれば、きっと強くなれるんじゃねーですかねぇって話でさぁ」
「成る程、肝に銘じておくさね」
 真珠朗の言葉を真に受け、新海が何度も頷いている。
(「本当は今考えたんですけど。信じる者は救われるっていいますしねぇ。真実がいつも優しいとは限りませんが。嘘は何時だって優しいって話で‥‥実に楽しい方々です」)
 暮れかけの空を眺めながら、今日の出来事を振り返る。

「あっそうだ。あの時、何しようとしてたの〜?」

 ――と何かを思い出して、岑が問う。
「あの時とはどの時さね?」
「いや、だからぁ突然立ち止まって振り返った時だよ〜」
 不可解過ぎる行動、盾のあった場所にはもう固定のベルトしか残っていない。
「あぁあれは、反射盾でさぁ。鍋の蓋の平らな面に鏡を張りつけて、相手に太陽光を反射して怯ませる。そんな武器兼防具だったさね」
 極真面目に、そして自慢するように新海はそう言ってのける。
「それ‥反射させる前に攻撃受けたら鏡、割れるよね」
「ん〜まぁそうさね」
「それにぶっちゃけそこで割れたら危なくない?」
「え」
「後、対人間ならともかくアヤカシ戦では意味ないんじゃあ‥‥」
「ぬわぁ〜〜〜しまったぁ〜〜そんな欠点があったさねぇ〜〜」
 開拓者らの指摘に、新海が悶絶した。やはり鍋蓋武器には難有りのようだ。

●贈り物は突然に
「そうだ、シノビのあんた。ちょっとちょっと」
 ギルドで解散したガルフを呼び止めたのは新海だ。 
 訳が分からず着いていけば、案内されたのは彼の家。少し待たされて、戻って来た新海の手には見慣れた鍋蓋が握られている。
「これ、あんたにやるさね。確か始め会った時鍋蓋叩いてたさ〜あれ割れたんじゃないさね?」
「はぁ、確かに割れたけど‥‥なんで知って」
「俺を誰だと思ってるさね。鍋蓋の事ならおまかせさっ」
「はい?」
 新海のお得意の笑顔で手渡されたその鍋蓋はぴかぴかに研かれており、木製とは思えない輝きを放っている。
「それじゃあ、今日は本当に助かったでさぁ。ありがとうさね」
 無事仕事を終えて新海は思った。
(「いい人達だったなぁ〜」)
 ――と。思いの他、自分の事を知っていた不自然さに気付かずに。
 彼が真実を知るのは、明日鍋蓋記録を塗り替えた後になるようだった。   終