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■オープニング本文 それは突然やって来た。 静まりかえった街の中の外れで、一軒の屋台が赤い灯を灯していた。ほくほくのおでんと熱燗を出すその屋台では、数人の客が赤ら顔で笑い合っている。決して珍しくはない、極々普通の風景だった。 けれど、その中の一人がふと怪訝そうに顔を上げたことで、その日常は消え去った。 「何か聞こえないか?」 「あ? 別に何も‥‥」 眉を寄せる男に、別の一人が首を傾げると、その耳に何やらガサガサという音が聞こえて来る。屋台の主人も、おでんを取る箸を止めて耳を澄ますのに、他の客たちも会話を止めた。 確かにガサガサと、何か擦れるような音が聞こえる。しかも、それは段々と大きく、近づいて来ている様子だった。 「何だ、この音」 不審に思った客が立ち上がるのに、主人も慌てて屋台を離れる。客に何かあっては面目が立たない。賊か何かが忍び寄っているのだったら、自分が盾になってでも客を逃がそうと男の前に立てば、その音の主は街の外、暗闇の中から姿を現した。 闇に紛れる、黒光りする身体。鋭そうな毛の生えた細い脚。ふよふよと動く長い触角。ガチガチと鳴る大きな顎。後方には薄い羽を動かして、空を飛んでいるものもいる。数は視認しただけでも、三十、四十、いや五十はいるかもしれない。 それは、体長1〜2メートルはあろうかという、巨大なゴキブリだった。 「ぎゃああああああああ!!!」 瞬間、主人は『客を守らねば』という意識を投げ捨てた。 |
■参加者一覧![]() 25歳・女・陰 ![]() 21歳・女・魔 ![]() 25歳・女・陰 ![]() 70歳・男・泰 ![]() 18歳・女・巫 ![]() 18歳・女・泰 ![]() 26歳・女・シ ![]() 12歳・男・志 ![]() 26歳・女・弓 ![]() 18歳・女・シ ![]() 16歳・女・志 ![]() 18歳・男・志 ![]() 27歳・男・志 ![]() 30歳・男・騎 ![]() 16歳・女・魔 |
■リプレイ本文 農業が中心の質素な町には、それ程多く食糧がある訳ではない。よって、アヤゴキ達は商店や宿屋などの食糧が集まっている場所に集中しているらしい。 保護された町民から情報を得た開拓者たちは、3班に分かれて行動を開始した。 ●遭遇1班 「うわぁ‥‥」 見えて来た光景に、痕離(ia6954)は思わず犬神・彼方(ia0218)の背中に隠れた。もぞもぞと蠢く黒い波。もはや、探索する必要もない程である。 「こりゃまた盛大だねぇ‥‥」 げんなりと吐いたのは北條 黯羽(ia0072)だ。その後ろでは水波(ia1360)が豊かな胸を揺らしながら辺りを見回している。 「こ、こんな恐ろしい事が起きてるなんて‥‥!」 「形はアレじゃが、中身はアヤカシじゃ。さっさと倒してしまうに限るのう」 と言いつつ、アヤゴキそっちのけで水波の胸を凝視しているのは久万 玄斎(ia0759)だ。ニヤニヤと嬉しそうな久万に、扇子を握ってオロオロする水波。背後では痕離が頭を抱えて「アレはアヤカシ、アレはアヤカシ」とぶつぶつ呪文のように唱えている様子に、彼方はこっそりと黯羽を横目に見た。 腰に下げた長脇差に手をかけた黯羽は、ぼんやりとした目で食糧を漁るアヤゴキ達を見ている。それは別段アヤゴキに恐怖しているようではなく、彼方はつまらなそうに煙管を吹かした。 「黯羽も紅とぉか水波みたぁいに、キャーキャー言ってくれればぁ、気張り甲斐もあるんだぁがね‥‥」 「何か言ったかい?」 ぼそりと呟いた彼方を振り返った黯羽に、彼方は「なぁんでも」と首を振って、腰にしがみ付く痕離の頭を撫でる。 「とにかく、早く倒してしまいましょう!」 堪りかねたような水波の声に、アヤゴキがガサリと振り返った。 ●遭遇2班 「何ということ‥‥!」 剣桜花(ia1851)は多大なるショックを受けていた。それはもう、身体がブルブル震える程に。 「沢山いらっしゃいますね〜」 白霧 はるか(ia9751)がのんびりと辺りを見回す。周囲には野菜や肉よりも美味しそうな人間に気付いたのか、アヤゴキたちがワサワサと集まりつつあった。 「かか奏さん、前線へどどどうぞ!」 「いやいや、ここは咲殿の出番でゴザルよ」 いえいえいやいやと、前線を譲り合っているのは此花 咲(ia9853)と向井・奏(ia9817)である。ぐるぐると回っている二人の横で、九条 乙女(ia6990)がぽかんとした顔で桜花を見上げていた。 「桜花殿‥‥その恰好は如何なされた」 乙女の問いに、桜花はバッと髪を振り乱しながら振り返る。 「これは我らが偉大なるG様を讃える為の仮面と戦闘服です! アヤゴキなど‥‥G様を侮辱する汚らわしき存在! 断じて許すわけには行きません!」 そう言ってグッと大斧の柄を握る桜花は、まるでそのGを模しているかのような仮面と、真っ黒の戦闘服を着用していた。G嫌いの人であればお近づきになりたくない服装である。 「そんなことより〜、早くしないと〜私たちが食べられてしまいますわ〜」 そんな仲間達に、はるかはのんびりと恐ろしいことを言って、武器を構えた。 ●遭遇3班 「なんやこれ、なんやこれ!」 「いやぁぁ! 気持ち悪いぃぃ!」 あまりの光景に、マリア・ファウスト(ib0060)とジルベール(ia9952)は、お互いの腕をがっしりと掴みあった。光景が酷過ぎて、マリアは普段のクールさがどこかへ飛んで行ってしまっている。 「ジルベリアにはいなかったが‥‥あまり気分の良いものではないな‥‥」 「わしも、こったにデキャあ御器噛りは初めて見だスよ」 心持ち嫌そうに身体を引き気味のシュヴァリエ(ia9958)の隣では、赤鈴 大左衛門(ia9854)が物珍しそうにキョロキョロと、アヤゴキまみれの町を見回していた。そうしている間にも、アヤゴキたちは人間の匂いに気付いたのか、ガサガサと集まりつつある。 「アヤカシであるという以前に、この形自体に嫌悪感を抱く人は多いでしょう。混乱が広がる前に、速やかに排除するべきです」 「ものごっつい冷静やね‥‥」 常の姿勢を崩さず、冷静に話す朝比奈 空(ia0086)に、ジルベールが尊敬の眼差しを向けた。それにシュヴァリエが頷いて、ショートスピアを構える。 「そうだな。さっさと片付けるか」 「初めてのアヤカシ退治依頼だス! けっぱるだスよ!」 赤鈴も、意気揚々と両手を打ち、大薙刀を振り被った。そんな仲間の様子に、マリアとジルベールはお互いの顔を見合わせて。 「し、しっかりしなさい‥‥男が情けない‥‥」 「そ、そやね‥‥君の事は俺が守るさかい‥‥」 がっしりと腕を掴みあったまま、決意を固めた。 ●駆除1班 「よぉっと!」 霊青打を付与した彼方の長槍がアヤゴキを貫く。それでももがいていたアヤゴキだったが、彼方が貫いた身体を振り落とすと、落ちた地面の上で瘴気へと変わった。 「はっ!」 痕離が打剣を使って、飛苦無をアヤゴキの頭部に突き刺す。苦しげなアヤゴキに早駆で近づいて蛇剣で止めを刺し、別の場所にいたアヤゴキを打剣で倒した。一見冷静に見えるが、アヤゴキの近くに寄りたくない気持ちでいっぱいである。 「とりあえず、この辺の建物の中には、もういないようです」 「それじゃあ、後は外に出てるのを倒しちまおうかい」 瘴索結界で家屋の中を探した水波がアヤゴキの気配がないことを伝えると、黯羽が寄って来たアヤゴキへ呪縛符を投げつけた。式に身体を絡み取られたアヤゴキに、彼方が砕魂符を放つ。 「なぁんとも、気色悪ぅいねぇ」 「全くじゃのう。ほれ、後ろに」 「え? きゃああ!」 げんなりと呟く彼方に久万が髭を撫でつつ答えれば、水波が後ろを振り向いて悲鳴を上げた。屋根から滑空してきたアヤゴキが自分目掛けて降りて来るのに、水波が力の歪みでアヤゴキの動きを止め、久万が硬甲拳で殴り飛ばす。 「ほっほ、油断は禁物じゃの」 礼を言う水波に、久万が嬉しそうに胸を見下ろした。その好色混じりの目に、水波は気付きもせずアヤゴキに意識を戻すと、顔を引き攣らせた痕離が、足元に寄って来たアヤゴキに打剣を放ちながら飛び退って来る。 「気持ち悪い‥‥」 「大丈夫かい?」 心配気に見る黯羽に、痕離が大丈夫と伝えるように片手を上げたときだった。 黯羽たちと痕離の間に、壊れた家屋の屋根の一部が落ちて来る。それを飛び退って避けた痕離の背後に、アヤゴキが現れた。 「紅っ!」 黯羽が咄嗟に呪縛符を投げ、彼方が斬撃符を放つ。痕離の身体を掴み噛みつこうとしていたアヤゴキは動きを止められ、カマイタチのような式にバラバラにされた。 「ありがとう、母上、父上」 「大丈夫ですかっ!」 慌てて水波が痕離に近づき、神風恩寵を使って傷を癒す。実際に噛まれはしなかったものの、身体を掴まれた際に足で傷付けられた裂傷が治っていった。 「そろそろ真面目にやるかの」 呟きながら、久万が背後に迫ったアヤゴキから背拳で回避すると、八極門を使った一打を繰り出す。勢い良く吹っ飛んだ黒い身体が、アヤゴキに壊されていなかった家屋の玄関を破壊した。 「ありゃ、しもうた」 てへっと誤魔化すように首を傾げる久万を、彼方が呆れ顔で見る横で、黯羽が魂喰をアヤゴキに放つ。 「行けるかい? 痕離」 黯羽の声に、痕離が頷いて打剣を放つ。長槍を振るって駆け出す彼方に追いつくように、痕離が早駆で駆け出した。 ●駆除2班 「本日の天気‥‥アヤゴキのちアヤゴキ。所により飛行アヤゴキ」 真剣な顔で、真面目なんだかふざけているんだか判らないあまよみを披露した桜花は、カッと目を見開いて、大斧を振り下ろした。一匹のアヤゴキが、その斧を視認する間もなく絶命する。 「KILL! KILLMOREアヤゴキ!」 「張り切ってらっしゃいますね〜」 恐ろしい言葉を発しながら敵を倒して行く桜花を見ながら、はるかはおっとりと笑って泰弓を引いた。屋根の上にいたアヤゴキが、狙眼によって撃ち落とされる。 「サクっと〜やられて下さいね〜」 「はるかさん、怖いです!」 笑いながら泰弓を引くはるかを、涙目の咲が振り返った。そこに、隙をついたアヤゴキが迫る。咲はその足を篭手払で凌ぐと、白鞘で居合を放った。頭を斬られたアヤゴキが瘴気へと帰っていく。 「黒光りな悪魔なんて、この世からいなくなってしまうといいのに!」 「触角だけ見れば可愛いでゴザルよ」 「全然可愛くないです!」 槍で周りのアヤゴキを吹き飛ばし、早駆を使って戻って来た奏は、ブンブンと頭を横に振る咲に少し笑って肩を竦める。 「はあっ!」 アヤゴキの攻撃に、覚えたての雪折で反撃した乙女は、仲間と少し距離が開き過ぎてしまった事に気付いて振り返った。その距離を戻ろうとして、乙女はふと横からの存在に気付くと、丁度屋根から滑空し始めていたアヤゴキの背中に飛び乗った。 「大丈夫でございますか!」 「ひゃああ!」 「まぁ〜、かっこいいですね〜」 アヤゴキの背中に乗って来る乙女に、咲が悲鳴を上げる横で、はるかがのんびりと笑う。仲間の元へ辿り着いた乙女はアヤゴキから飛び降りると、まず乗り物にしていたアヤゴキを流し斬りで落とし、炎魂縛武をかけた武器を手に、周りにいた敵に突っ込んで行った。 「咲殿、しっかりするでゴザルよ」 「か、奏さん、お願いします‥‥」 「別に構わぬが、代わりにご飯奢って貰うでゴザルよ」 さらっと言い返して槍を振るう奏に、咲が慌てて前線へ戻る。その背中に追随してサポートをする奏の横を、桜花が吹き飛ばしたアヤゴキが通り抜けて行った。 「Gの教えを外れ、外道をもって通過を企てるものをこの私が許しておけるものか!」 振り返った奏が見たのは、まるで狂戦士そのままに斧を振るう桜花の姿だった。周りの建物などへの配慮など少しも無く、彼女が通った場所は瓦礫が散乱している。 「うなぁー!」 前を見れば、半泣きの咲が奇声を上げながら剣を振り回しており。 「どんどん行きますわよ〜」 斜め後方を見やれば、はるかが笑顔のまま強射「朔月」でアヤゴキを射落としており。 「とぉっ!」 その横では、再びアヤゴキの背中に飛び乗った乙女が空を移動して行き。 「凄まじい光景だな‥‥」 奏はぼそりと呟いて、疲れたように頭を振った。 ●駆除3班 「こっちに来るなっ!」 近づいて来たアヤゴキを、マリアのサンダーが撃ち抜く。その横を、ジルベールの放った即射が通り抜け、アヤゴキの頭部に命中した。 「俺、弓使いでホンマ良かった‥‥ちゅーか本物を忠実に再現し過ぎやろ。アヤカシの考えとる事は、よぉ分からんわ‥‥」 ジルベールの言葉に深く頷いて、少し冷静になったマリアがファイヤーボールをアヤゴキに放つ。この技は巫女の浄炎と違い、可燃物に引火してしまう為、敵を外してしまうと家屋を燃やしかねない。マリアは気持ちを落ちつけようと、胸を撫でた。 「精霊よ‥‥穢れを焼き尽くす炎をここに!」 空は、周りに集まって来たアヤゴキに不快そうに眉を寄せると、浄炎を放つ。周囲にいたアヤゴキを瘴気へと変えると、空は仲間のサポートをするべく、辺りを見回した。 「どっこいしょー!」 炎魂縛武を纏った大薙刀を赤鈴が振るうと、一際巨大なアヤゴキがぐらりと倒れると、追随したシュヴァリエが腹部にショートスピアを突き刺す。 「数が多いな‥‥こりゃあ、骨が折れそうだ」 「んだスなぁ。本物ァ蟋蟀やらとさして変わらねェだスけど、こンだけデカいと気持ちのええモンじゃねェだスなァ」 「大きかろうが小さかろうが、気持ち悪いものは気持ち悪いわ」 シュヴァリエと赤鈴の会話へ、不機嫌そうに言うマリアにジルベールが同意するように頷く。そんな二人に、この状況でも冷静さを全く失っていない空が近づいた。 「気が乗らないのは判りますが、油断しないように参りましょう」 「そうだな‥‥さっさと片付けちまおうぜ」 シュヴァリエがくるんとショートスピアを構え直し、スタッキングでアヤゴキの頭部を吹き飛ばす。その横に迫って来たアヤゴキをジルベールが即射で射抜くと、ガサガサと逃げ回るアヤゴキに赤鈴が巌流を見舞った。 「ちょっ!」 ふと上を見上げたマリアが見たのは、今まさに屋根から飛び立たんとしているアヤゴキの姿だった。その声にジルベールも気付いて顔を青褪め、慌てて即射を放った。だが、矢は飛び立ったアヤゴキの足に命中するも、その意識をこちらに向けさせるだけだった。 「こっち来たー!」 ジルベールが即射を射ると、マリアもファイヤーボールを二連発で放つ。突然の接近に半狂乱になった二人が放った技は敵を倒したが、頭部に矢を刺して燃えるアヤゴキは、そのまま近くの家屋へと落ちて行き、木造のそれに引火した。 「あ」 と言う間に燃え広がっていく炎に、マリアとジルベールが恐る恐る振り返ると、困ったような顔の空が溜息を吐いた。 ●駆除終了 半壊した玄関。ほぼ瓦礫となった家屋。そして、ぷすぷすと黒い煙を上げている一帯。 それらを引き起こした久万・桜花・マリアの三人は、申し訳なさそうに地面に正座していた。 「まあ、駆除は出来たから良いけどよ‥‥」 確実に報酬が天引きされるだろう有り様に、シュヴァリエが肩を落とす。それに、マリアが「不可抗力よ!」と返した。 「そうじゃ、そうじゃ」 「私はアヤゴキに汚された建物を浄化しようと‥‥」 言い訳しようとした三人だったが、仲間にじろりと見られて肩を縮める。それに閃癒で仲間の怪我の治療を終えた空が溜息を吐く。 「まあ、街の復興資金として提供したと思えば、そう悪い気分ではないでしょう」 「そうだぁねぇ。報告してさっさぉと帰ろうぜぇ」 ぷかーっと煙管を吹かす彼方の腰には、未だにブツブツと呟いている痕離が張り付いている。彼方もいつも以上に疲れている様子で、黯羽はそんな二人を労わるように頭を撫でていた。 「そういや、これが初仕事やねんけど‥‥開拓者の仕事っていっつもこうなん?」 「いえ‥‥これは特殊な方だと思います」 ぼそりと呟いたジルベールに、こちらも疲労困憊な水波が返す。その後ろで、咲がハッと思い出したように奏を振り返った。 「奏さん。私が前衛を張ったので、ご飯を奢って下さい」 「そういえば、アレも煮ると海老みたいに赤くなるらしいでゴザルなぁ‥‥」 「御器噛りも食えるんだスか?」 奏の呟きに赤鈴が反応すると、咲が真っ青な顔で悲鳴を上げる。 乙女は周りを見渡し、そしてしょんぼりとしている桜花に近づいた。心なしか、例のG様を模したという仮面の触角もしょんぼりしているように見える。 「その、G様も、貴公の活躍には満足しておられるだろう‥‥あまり気を落とさず‥‥」 「うう‥‥有難う御座います!」 励ましの言葉をかけた乙女に、桜花が感激した様子で抱き付いた。瞬間、胸に顔を埋める形となった乙女が、大量の鼻血を噴き出して倒れる。 慌てて神風恩寵をかける桜花を、はるかが相変わらずおっとりとした笑みで見守っていた。 |