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■オープニング本文 北面の南部にある山岳地帯。 普段は交易用として使われているその路は、現在は北面の一部急進派と五行の小競り合い、果てはアヤカシのせいか余程の商人でなければその路が使われることはない。当然人通りのない路に関所があるわけもなく、裏取引の場所として使われることもしばしばである。特に北面は国としてはまだ新しく、志のある武士たちが治めているとはいえ貴族の横暴には逆らえない脆い一面を持ち合わせている。よってどれだけ規制しようとも抜け道はいくらでもあるのだ。 今この山岳路にいる人間も、そうした取引を目的としていた。 商人風の男が差し出した少し大きめの箱を、羽織袴姿の武士風の男が受け取る。さらにもう一人の男が商人に小さな巾着を手渡す。商人はちらりと中身を見て口元に笑みを浮かべる。一方の二人組の方は箱を開けて確認して顔を見合わせて頷く。 「‥‥では確かに」 「へへ、毎度。しかしあんたらも大変だな、こんなモンまで仕入れにゃならんとは」 笑いながら言う商人に武士たちは思わず苦笑を浮かべる。 「仕方があるまい。貴族の方が御所望だからな」 「ま、うちとしちゃこんな買い手のつかねぇ危ない品をいつまでも持ってたくねぇんでいいけどよ」 言いながら商人は辺りをキョロキョロと見回した。 「しっかしいつ来ても不気味なとこだよな‥‥商売絡んでなきゃ絶対に近寄らねぇ」 「ま、基本立ち入りが禁止されてる場所だからな。最近じゃアヤカシも出るって話だ」 「うへぇ、んじゃ見つからねぇうちにさっさとトンズラさせてもらうぜ」 アヤカシという単語にぶるっと身震いした商人は慌てて荷物をまとめる。と、そこで何か纏わりつくような視線を感じる。 「‥‥なぁ、誰か近くにいねぇか‥‥?」 「何‥‥?」 小声で話す商人に武士二人が腰の刀に手をかけて辺りを見回す。注意深く木々の隙間などを観察するも特に何も見当たらない。だが確かに誰かに見られているような気配がする。 「何だ‥‥どこにいる‥‥!?」 見えない恐怖に武士たちはゆっくりと刃を抜き放つ。 生温い風が森を吹き抜け、鳥の鳴き声がまるで悲鳴のように静かな空気を揺らす。鳴き声に驚いた商人が思わず天を仰ぎ―――そして発見する。 「‥‥あ‥‥あぁっ‥‥」 情けない声を上げ、ガクガクと震えながら一点を見つめへたり込む商人。武士たちも商人が見つめる先へと視線を移す。鬱蒼と生い茂る木々の一部分、そこに妙に白い物がにゅっと突き出している。良く目を凝らしてみると、それがどうやら女の顔であることがわかった。だが、顔がある位置は男たちがいる地上より十メートル程上。普通ならば有り得ない場所である。 「なっ何だアレはっ!?」 叫ぶ武士に反応したのか、白い顔はにたりと歪み、妙に甲高い悲鳴のような声で鳴いた。 次の瞬間、顔の左右から大きな羽が姿を現しばさっと大きく羽ばたいた。 「そいつは人面鳥ですな」 ぷかりと煙管をふかした村長は話を聞いて開口一番そう言った。 「その昔子供を奪われた女の魂が、同じく雛を失った鳥に憑いて巨大化したって話があります。最も、話の信憑性は薄いですが。それでもこの村じゃ有名な話ですよ。だから村の人間は誰もあの山にゃ近付かないようにしていたんですが」 そう言って村長は冷ややかな視線を目の前の男に向ける。立っていた武士風の男は思わず村長から視線を逸らした。平穏な暮らしを望む村にとって厄介ごとを持ち込む武士に余り関わりたくないのは本音だろう。だからと言って邪険にはできないため、口調は柔らかいがどこか冷たい印象を受ける。 「だが‥‥今まであんな化け物はいなかったはず‥‥」 男は何かを思い出したのかぶるっと身震いをする。どうやら山に入っていたらしく、そこで人面鳥に出くわしたようだ。一緒にいた他の者が食われている隙に逃げ出してきたらしい。 「山に人が来るんで餌場とでも勘違いしたのでしょうね‥‥まぁ命があっただけでも御の字ですよ」 やんわりと、だがどこか突き放すように言う村長。 「だ、だがあそこに大切な品を置き忘れてしまったんだ!」 「‥‥何かは知りませんが命があればまた手に入るでしょう」 必死になって食い下がる武士。だが村長はこれ以上村の周辺での騒ぎは遠慮したい。二人の思惑が錯綜するも、やはり分は村長にあった。 返す言葉がなくなってただ項垂れる武士。しばらくそのまま黙っていた村長だったが、やがて大きな溜息をつくと再び煙管をぷかりとふかした。 「ま‥‥村の周辺でアヤカシが暴れてるとあっては皆が安心して眠れませぬ‥‥開拓者に退治を頼むことにいたしましょう。ですが、それ以外のことはご自分で何とかしてくださいませ」 そう言って村長はその重くなった腰をゆっくりと上げた。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
天宮 涼音(ia0079)
16歳・女・陰
天宮 琴羽(ia0097)
15歳・女・巫
井伊 貴政(ia0213)
22歳・男・サ
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
風雲・空太(ia1036)
19歳・男・サ
ロウザ(ia1065)
16歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●いざ討伐へ。 鬱蒼と生い茂る森の道を進む八人の開拓者たちと一名の武士。 大切な荷物をアヤカシのいる場所に置いてきてしまったことで、再度自分たちが襲われた場所に戻る羽目になった武士。その胸中は少なくとも穏やかではない。何せそこで顔見知りの商人と同僚が喰われているのだから。 「ろうざ アヤカシ やつける! オジサン たから とりもどす! だから げんき だす!」 「そ、そうだな‥‥かたじけない」 そんな武士の気を知ってか知らずか、任せろと言わんばかりに胸を張るロウザ(ia1065)。野生を思わせるその体躯は見る者を不安にさせるか信頼させるか、そのどちらかである。今回は後者のほうであったようで、武士は頭を下げる。 「人面鳥なあ‥‥そらまた面妖なやっちゃのう。そないなのがいるところで取引とは金の匂いがぷんぷんするで」 「そんなに金に執着しなくてもいいような気もしますけどね」 にやりと笑みを浮かべる天津疾也(ia0019)に井伊 貴政(ia0213)がやれやれと肩を竦める。 「何言うとんねん。世の中金があれば幸せはっぴーや。他のモンは金の後についてくるもんやで?」 言いながら親指と人差し指で円を作る疾也。商家の生まれは伊達ではないようだ。 「ま、余計な詮索は無しにしようや。誰も得をしそうにない」 「つまらんのぅ」 羅喉丸(ia0347)の言葉に口を尖らせる疾也。やり取りを間近で見せられている武士は苦笑するしかなかった。 「しかし姉妹で参加とは珍しいな」 呟く鷲尾天斗(ia0371)の視線の先には天宮 涼音(ia0079)と天宮 琴羽(ia0097)の姉妹。 「今回の敵は空を飛ぶ人面鳥‥‥遠距離と回復を任せられるお二人は非常に心強いですよ!」 言いながらにかっと笑う風雲・空太(ia1036)。答えるように涼音と琴羽もにこりと微笑みを返す。 「ありがとうございます。でも‥‥初めてのお仕事、お姉ちゃんと一緒にやれるなんて心強いよ」 「ふふ、よろしくね、琴羽。私も頼もしいわ」 仲睦まじい姉妹の会話に武士の顔にもようやく普通の笑みが零れる。 開拓者たちが今回請け負った本来の仕事は、先程空太が言った人面鳥の退治。武士はただ置き忘れた物を取りに行くだけなのだが、力無き者を護るのもまた開拓者の務め。依頼にはないがこの武士の護衛も兼ねている。だが護るためにはそれなりの条件が必要というもの。 「頼むぜおっさん。勝手な行動だけは避けてくれよ」 「おっさ‥‥うむ。お主達の合図を待って行動すればよいのだな?」 天斗の言葉に少々むっとしながらもこくりと頷く武士。 開拓者たちが考えた作戦は至って簡単な物。空中の敵相手に護りながら移動するのは至難の業、ならば敵の気が逸れたところを移動する。囮になる者と武士を護衛する者に別れての行動。 「くうた おとり ろうざ いっしょ!」 「えぇ、惹きつけて離さない、そんな囮になりましょう!」 「いや、離さないのはまずいでしょう‥‥」 盛り上がるロウザと空太に頭を抱えながら呟く貴政。と、そこで武士がぴたりと足を止めた。開拓者たちも併せて足を止める。 「‥‥着いたか?」 羅喉丸の問い掛けに静かに頷く武士はある一点をじっと見つめたまま。一同もゆっくりとその視線の先へと顔を向ける。 妙な緊張感が一行を包み込み、それが体中をチリチリと駆け巡る。 戦闘が近い―――前方を見た開拓者たちは否が応でもそれを実感させられた瞬間だった。 ●索敵〜発見。 森の中の街道には所々に休憩所のような空間があることが多い。とは言っても人工の物ではなく、ただ単に少し開けた場所に岩があって腰掛けれるとかそれぐらいだが。今一行が目にしているのもその類の場所である―――赤黒い染みがへばりつき切り裂かれた衣類が無造作に残されている以外は。 「ひどい‥‥」 思わず口元を押さえる琴羽の背中をそっと撫でる涼音。 「間違いなさそうですね‥‥」 「派手にやられてるな」 眉を顰める貴政に無表情のまま眺める羅喉丸。 「気をつけてくれ、奴はこの周辺のどこかの木にいるはずだ」 武士の言葉に全員が視線を上に上げる。生温い風と同時にざわざわと揺れる木々。 ―――近くにいる。 開拓者たち全員がそれを感じ取っていた。その証拠に見定められるような視線が一行に纏わり着くように絡み付いてくる。 「‥‥気持ち悪いったらないわね」 嫌悪感たっぷりの涼音は陰陽符を持つ手に僅かに力を入れる。輪になって死角を無くすように布陣する開拓者たち。息苦しくなるような張り詰めた緊張感。時間にすれば僅か数十秒―――武士にとっては数時間にも思える程の時間が経過し、ソレは姿を現した。木々の隙間からぬっと浮かび上がる白い顔。髪型などから女の顔であることはすぐにわかる。その顔がじっとこちらを見つめている。 「出てきおったな。ほな手はず通りにいこかー」 事前に準備をしておいた荒縄やらを手にのんびりとした声をあげる疾也。 「ではロウザ殿、空太殿。頼みましたよ」 「まかせろ! くうた! やるぞ じゅんび いいか?」 「いつでもどうぞぉ!」 貴政の言葉に胸をどんと叩くロウザと拳を重ねて気合を入れる空太。 「お気をつけて‥‥」 両手を胸の前で組んで祈るような姿で声を掛ける琴羽の言葉を背に受けて飛び出すロウザと空太。 「さて『攻めの鷲』の槍、何処まで通じるやら」 唇をペロリと舐めて呟いた天斗と羅喉丸もその後に続く。 「ではこちらも準備に掛かりましょう」 貴政の声に残りの開拓者たちも静かに頷きを返す。 「‥‥すまんが私は―――」 「分かってると思うけど、勝手な行動しても自分が死ぬだけだからね?」 何かを言いかけた武士をジロリと睨んだ涼音。だが全員が狙われてもおかしくない状況で一般人である武士を自由にさせておくほどの余裕は開拓者にもない。 「荷物は後でちゃんと引き受けますから‥‥僕たちと一緒に行動してもらっていいですか?」 「いや、しかしだな‥‥」 貴政の言葉にあくまで反発の意を示す武士。恐らくさっさとこの場から離れたいのだろう。その気持ちはわかるがこちらとしてもそれを飲むわけにもいかない。そこで武士の着物の裾を琴羽がきゅっと掴んだ。 「えっと、武士さん。罠を作るの手伝ってもらってもいいですか?」 対照的に懇願するような目で訴えかける琴羽。その何故か潤んだ瞳に見つめられた武士は半歩下がって逃げ腰に。だが視線を外さない琴羽に押し負けたのか大きな溜息を一つついた。 「男っちゅーんは悲しい生きモンやで‥‥」 どこか遠い目をした疾也の言葉に貴政はそっと目を逸らしたとか逸らしていないとか。 何はともあれ、開拓者による人面鳥退治が静かに幕を開けた。 ●引き付けろ。 「ろうざ きたぞ! アヤカシ しょうぶ する! かかてこい!」 「焼き鳥にしちゃるから降りてこいやぁああ!!」 思い思いの言葉で叫ぶロウザと空太をジロリと睨みつける人面鳥は、甲高い声で一声鳴くとその大きな翼を木々の隙間から広げてゆっくりと上昇、そのまま叫んだ二人に焦点を定めて急降下を開始する。一方の空太は―――何故か息切れしていた。 「ハァハァ、ふっ。俺としたことがついつい叫び過ぎてしまいましたね」 言いながら視線を人面鳥に戻した空太、相手が完全に自分たちに狙いを定めたことに気付くと慌てて全力で駆け出す。 「あらやだっ! 完全に狙われましたわよ奥様っ!?」 「わはは うまくいった こっちこっち♪」 「ったく‥‥大丈夫かあの二人」 迫り来る人面鳥に意味不明な言葉を叫びながら疾走する空太と楽しそうに四足歩行のような姿勢で走り回るロウザ、それを見て苦笑を浮かべながら槍を構える天斗。敵を誘き寄せるという目的は達成しているため問題はないのだろうが、緊張感の薄い戦闘開始である。人面鳥は二手に別れたロウザと空太に一瞬戸惑いを見せたが、獣のようにちょこまかと木々の隙間を移動するロウザよりも一直線で疾走する空太に狙いを定めたようだ。 「うっはー! やっぱ俺ですかーっ!?」 気付いた空太は少し涙目。だが他の仲間から十分引き離したことを確認すると正面から身構える。滑空する人面鳥。その爪が空太に届こうとする瞬間―――見えない力が人面鳥の足に命中。慌てて上空に戻る人面鳥。 「こっちにいるんだ、忘れてもらっちゃ困るな」 掌をかざした状態でにやりと笑う羅喉丸が放ったのは気の力。威力こそ低いものの相手を牽制するには十分な代物だ。宙に浮かびながら見下ろす人面鳥に今度は拳ほどの石が飛来する。投げたのはロウザ。 「ろうざ ここ! おまえ かり へた!」 言いながらぴょんぴょんと跳ねるロウザ。さすがに腹が立ったのかロウザ目掛けて降下する人面鳥。だが今度は地上付近で細かく突きを狙う天斗の槍に行く手を阻まれる。一進一退の攻防。だが時間を稼ぐには十分だった。 ●戦闘開始。 「皆さん、準備できました! ロウザさん風雲さん、あちらの方へ人面鳥を―――」 森の一部を指差しながら叫ぶ涼音の姿を視認した二人は再び叫びながら全力でそちらへと駆けて行く。人面鳥もつられてそちらへ向かい、後から天斗と羅喉丸が続く。 「気を付けて、余り姿勢を高くすると罠が―――」 走り抜ける空太に声を掛ける涼音。空からの攻撃に備えて上の方に網を張っていることを伝えようとしたのだが、時既に遅く。 「え? 何です―――うわっぷ!?」 声に振り返った空太は見事に網に引っ掛かって絡まった。空太は何とか抜け出そうともがくが、もがけばもがくほど網は絡みついてくる。更にそれを狙って人面鳥が迫る。 「お前が掛かってどうすんだーっ!?」 「そんなこと言ったって‥‥アレ? 抜けれないっ!? いやーっ俺大ピンチーっ!!」 叫ぶ天斗に慌てる空太。人面鳥が空太まで残り数メートル、というところでガクンと速度を落とした人面鳥。よく見ると手前にも網が張られている。更に両端の木々から人面鳥目掛けて投網が投げられる。 「あっはっは! 自分なかなかやるなぁ」 「‥‥私は少し頭が痛くなってきました‥‥」 からからと笑う疾也とは対照的にコメカミを押さえて嘆息する貴政。投網を投げたのはこの二人。そのに絡め取られた人面鳥は翼を振るえないまま足掻き、同じように隣で絡まった空太に対して威嚇しながら足爪を振るう。届いた爪が空太の肌を薄く切り裂き、薄らと血が滲む。 「はっはっは、その程度の‥‥痛っ‥‥攻撃では俺は‥‥痛っ‥‥全然‥‥って痛ぇわボケェ!」 引っ掻く人面鳥の足をむんずと掴んだ空太は腕に力を集中させてぶんぶんと振り回す。勿論双方ともに網に絡まったままなので傍から見れば何とも情けない攻防戦なのだが。 「飛べない鳥も哀れだけど‥‥アレはアレで哀れな気がするわ‥‥行くわよ琴羽」 「うん、お姉ちゃん」 言いながら各々の獲物を構えた天宮姉妹。巫女の琴羽は意識を杖に集中。力の干渉か流れるような黒髪がざわりと宙に泳ぎだす。対する陰陽師の涼音は符に意識を集中。光に包まれた符がみるみるうちにその姿を白い蛇へと変貌させていく。 「大人しくなさい」 涼音の言葉と同時に白い蛇が人面鳥の身体にグルグルと巻きつき、その身体の自由を完全に奪っていく。 「もう逃がしませんっ!」 対する琴羽が杖を前方へと掲げると、人面鳥の片翼の周りがぐにゃりと歪んで有り得ない方向に捻じれていく。まるで人間の女性のような悲鳴をあげる人面鳥。更に追い討ちをかけるように疾也の放った矢がもう片方の翼に突き刺ささり、貴政が全力で振り下ろした刃が翼を胴体から切り離す。 「これでもう飛べませんね!」 斬られた場所から黒い霧を噴き出しながら悲鳴を上げる人面鳥。 「おまえ もう とべない! かり おわり!」 「ま、そういうこった。成仏しろよっ!」 意気揚々と話すロウザは手に装着した鉄牙を、天斗は槍を置いて構えた短刀をそれぞれ振るい、人面鳥の身体を斬りつけていく。そして最後は羅喉丸。 「窮鼠猫を噛むというが―――お前にはさせん」 呟いた羅喉丸は虫の息の人面鳥の顔をむんずと掴み、その掌から気を飛ばす―――零距離からの気孔波。 最後に本当に人間らしい断末魔を上げた人面鳥は黒い霧となってその身を霧散させ、後から吹いてきた風が静かにその霧を払っていった。 ●全てを終えて。 人面鳥を片付けた一行はあちらこちらに念入りに仕掛けた縄などの罠を撤去しつつ、恐らく喰われてしまったであろう人間の衣服とその遺品を回収していた。 「へっへ‥‥何かえぇモン入っとるやろか〜」 遺品の中をごそごそと漁りながら呟く疾也。その目は既に金の亡者そのものだ。 「ちょっと。何意地汚いことしてるのよ」 怒り顔で注意する涼音にあからさまに嫌そうな顔の疾也。 「金は天下の回り物やで? こないなとこで野風に晒されとるより、俺が使うた方がよっぽど世の為ちゅーもんや」 「あなたねぇ‥‥っ!」 「お姉ちゃん‥‥」 怒りに震える涼音をわたわたと抑える琴羽。と、そこで天斗があることに気付ききょろきょろと辺りを見回す。 「あれ? そういや武士のおっさんは?」 「あ、はい。それが‥‥荷物を回収したらそそくさと帰られてしまって‥‥」 「あっさりしてんなー」 呆れたようにぽかんとして言う天斗に苦笑するしかない琴羽。 「ろうざ いっしょ よろこびたかった」 「ま、あの人にはあの人の事情があったんだろうよ。ま、禄な事情じゃねぇだろうがな」 しょんぼりとした様子で言うロウザの肩をぽんと叩いた羅喉丸は苦笑を浮かべながらそう言った。 こんな場所で取引をするぐらいだ、恐らくあの武士の荷物は真っ当なものではないだろう。だがそれは今回の依頼とは別問題。安全に逃げれたというならそれでよかったのだろう。 「あの人‥‥無事に辿り着けたかな」 空を見上げて呟く琴羽をじっと見つめる涼音。気付いた貴政が不思議そうに声をかけた。 「どうしました‥‥?」 「‥‥あの子素直すぎて、悪いのに引っ掛からないか心配なの」 貴政は涼音の視線の先に琴羽がいるのを確認して、あぁ、と苦笑を零す。 「‥‥あなたも苦労しますねぇ」 「ま、それが私の役目でもあるわ。さ、早く片付けて帰りましょう」 「あのー‥‥そろそろ俺を縄から解放して欲しいんだけどー? ねぇ皆さーん!?」 何故か網に絡まったままの空太の叫びがは、風に靡く木々のざわめきに消されて流れていく。 結局空太が開放されたのは全ての後始末が終了してからだった。 〜了〜 |