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■オープニング本文 ※当シナリオは参加者上限一杯まで、抽選処理が為されます。 ショートシナリオとなっていますが、文字数制限については緩和してあります。 また、参加者はイベントシナリオと同じく依頼拘束を受けませんのでご注意ください。 「はぁー、何かこう、ぱぁっとしないわねー」 盛大な溜息を吐いて呟く半被姿の一人の女性。見た目だけなら恐らく十五・六で通じるのではなかろうか。そんな彼女が見ているのは一つの六尺玉。火薬の匂いが立ち込めるその部屋と辺りに散乱する和紙の山が彼女の職業を物語っている。 「何だ、まだここにいたのかチャコ」 ふと声が聞こえて彼女は視線を部屋の入り口に向ける。立っているのは一人の男性。彼もまた彼女と同門の同業者。 「何よ円辰‥‥別にいーでしょ、アタシがどこにいたって。というかアタシは阿茶子(あさこ)だって何度言えばわかんのよ」 むすっとした様子で文句を言う女性―――阿茶子の態度に円辰と呼ばれた男性は思わず苦笑する。 「悪いな。だが何となくそう呼びたくなるんだ」 「理由になってないわよったく‥‥」 「まぁそう言うな。それより完成したのか? 例の玉」 問い掛ける円辰。阿茶子はくいっと顎で足元の方に促す。視線を移した円辰が見たのは綺麗に仕上がった六尺玉。そう、彼らの仕事は夏の花形、花火師。 「何だ出来上がってるように見えるが」 「見えるんじゃなくて出来上がってるわよ。アタシを誰だと思ってんの」 ふんと鼻息を吐きながら胸を張る阿茶子。彼女は代々続く花火師の家系で、歴代で最も繊細な花火を作るのだという。それは自他共に認めることのようで、それに関しては円辰も理解していた。 「じゃあ何であんな不満そうな顔を?」 「せーっかく作った花火よ? しかもアタシの中での最高傑作なの。それをただ何もなしで打ち上げていいと思う?」 逆に問い掛けられる形になった円辰はうーんと唸りながら首を捻る。 「どっかの花火大会に売り込むとか‥‥」 「それじゃアタシのものじゃなくなるわ」 「じゃあ町の人間かき集めて見せる、とか」 「それじゃ足りないわよ、アタシの花火なのよ?」 「じゃあどうしろって言うんだ‥‥」 ことごとく否定されて頭を振る円辰。一方の阿茶子は腕を組んで何かを考え込んでいる。 「でも人を集めて見て貰うっていうのはいいわね‥‥勿論アタシの花火なんだから盛大にやらなきゃ。そうね‥‥アタシの花火のためだけの祭っていうのもいいわね! そうだわ、それがいい!」 一人で勝手に話を進めていく阿茶子に最早嫌な予感しかしなくなってきている円辰。それを察してか阿茶子はくるりと円辰の方に顔を向けた。 「というわけよ円辰。開拓者ギルドに依頼出してきて」 「はぁ!? 何がどうなってそうなったんだよ!?」 「簡単なことよ。アタシは花火を見せるために人が欲しいの。町の人間だけじゃ足りないわけ。でもって何かこうインパクトになるモンが欲しいのよ! そしたらほら、開拓者絶賛! っていう謳い文句とかいいじゃない? しかも開拓者にお祭仕切らせとけばほら文句なし! 開拓者主催の祭なら安全も確保されたようなもんよ」 まくし立てる阿茶子の言葉を最後まで聴いていた円辰。 しばらくの間頭を整理していた円辰が最終的に出した結論は――― 「要は開拓者に祭開かせろってことか‥‥」 |
■参加者一覧 / 小野 咬竜(ia0038) / 檄征 令琳(ia0043) / 涼月 紫穂(ia0047) / エーリヒ・ハルトマン(ia0053) / 一角(ia0059) / 柊沢 霞澄(ia0067) / 榊原・信也(ia0075) / 星鈴(ia0087) / 風雅 哲心(ia0135) / 三笠 三四郎(ia0163) / 亜守羅(ia0173) / 樟葉(ia0174) / 水鏡 絵梨乃(ia0191) / 静雪 蒼(ia0219) / 風麗(ia0251) / 南風原 薫(ia0258) / まひる(ia0282) / 芦屋 璃凛(ia0303) / 新崎舞人(ia0309) / 紅緒(ia0323) / 有栖川・優希(ia0346) / シュラハトリア・M(ia0352) / 薙塚 冬馬(ia0398) / 紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454) / 橘 琉璃(ia0472) / ルシオン(ia0475) / 黒鳶丸(ia0499) / 武六(ia0517) / 樹(ia0539) / 紙木城 遥平(ia0562) / 鬼御門 麗那(ia0570) / 柄土 神威(ia0633) / 奥野・奈菜歌(ia0642) / 天青 晶(ia0657) / 鷹来 雪(ia0736) / 十河 茜火(ia0749) / 真田空也(ia0777) / ルーシア・ホジスン(ia0796) / 夕凪(ia0807) / 榊 志乃(ia0809) / 佐上 久野都(ia0826) / 琉歌(ia0831) / 江崎・美鈴(ia0838) / 玉櫛・静音(ia0872) / 天使主・紅龍(ia0912) / 玉櫛 狭霧(ia0932) / 秋姫 神楽(ia0940) / 裏禊 祭祀(ia0963) / 鍋島 瑞葉(ia0969) / 綾乃(ia0993) / 一ノ瀬・紅竜(ia1011) / フィー(ia1048) / 霧崎 灯華(ia1054) / 星乙女 セリア(ia1066) / はねず(ia1090) / 柏木 万騎(ia1100) / 瑞月 リリア(ia1101) / 輝夜(ia1150) / 鳴海 風斎(ia1166) / 天目 飛鳥(ia1211) / 結城 千夜子(ia1244) / 鬼灯 仄(ia1257) / クロウ(ia1278) / 滝月 玲(ia1409) / 七神蒼牙(ia1430) / 瑪瑙 嘉里(ia1703) / 嵩山 薫(ia1747) / 千王寺 焔(ia1839) / レフィ・サージェス(ia2142) / 九竜・鋼介(ia2192) / 熊蔵醍醐(ia2422) / 細越(ia2522) / 水月(ia2566) / 三日月(ia2806) / シャオ・シン(ia2987) / 神無月 渚(ia3020) / 蒼零(ia3027) / 風瀬 都騎(ia3068) / 黎乃壬弥(ia3249) / 伊集院 優菜(ia3304) / 幻斗(ia3320) / 骨首 於凶(ia3354) / 褥桜 あやね(ia3567) / 七折兵次朗(ia3569) / 柘榴(ia3600) / ヨpitaqF(ia3651) / 土岐 静真(ia3659) / 姜宵夜(ia3889) / 漆代 タタル(ia3932) / 鳥養 つぐみ(ia4000) / 蒲鉾山(ia4072) / 霙(ia4107) / 陽胡 恵(ia4165) / 冬風(ia4343) / 綱島 姶歌(ia4345) / 夏目・セレイ(ia4385) / 相宇 玖月(ia4425) / シエラ・ダグラス(ia4429) / 天冥 呂亜(ia4450) / のまのま(ia4463) |
■リプレイ本文 ●祭といえば屋台でしょ。 「いらっしゃいませー! 本日限定、莢の屋台だよ〜☆」 泰独特の衣装を身に纏った紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)の元気な声が響き渡る。同時に彼女の手に握られた鍋が小気味よいリズムを刻んで振るわれる。そんな中、夏目・セレイ(ia4385)が嬉しそうな顔で近寄ってきた。 「あった、ここか! ソーヴィニオンさんの店、探してたのですよ」 「あ、セレイさんもいらっしゃいませ♪」 元気な声に思わず頬を緩めるセレイ。どうやら目的は果たせたようだ。 そのすぐ隣では水月(ia2566)が物凄い速さで積み上げられた皿を平らげていく。確かに祭の夜店には不思議な魅力があるものだが、この小さな身体のどこのその量が入るのか。その様子を呆れた顔で見てるのは浴衣姿の橘 琉璃(ia0472)。 「まさか‥‥全メニュー制覇する気じゃないですよね‥‥?」 恐る恐る尋ねた琉璃。水月は口をもきゅもきゅ動かしながらただ親指をぐっと立てる。 「はは‥‥すごいですね」 「あなたも十分凄いと思いますけどね‥‥」 琉璃の横に転がる幾本ものお銚子を見ながら呟く柘榴(ia3600)。それだけ飲んでも酔う素振りも見せない琉璃に、柘榴は羨望の眼差しを向けていたとか。 勿論酒を片手に既にいい感じに出来上がってる者もいる。お銚子のおかわりを注文する鬼灯 仄(ia1257)もその一人。 「これで美人の酌でもありゃ言うことないんだがねぇ」 「こら、近くに美人がいるのに失礼だぞっ? そりゃ紗耶香さんみたいに‥‥ないけど‥‥」 仄の呟きに頬を膨らますのは屋台の客寄せをしていた三日月(ia2806)。可愛らしい姿の三日月目当てで来る客も多い。気付いていない三日月は自分の胸に手をあててはふと溜息をつく。 「こりゃ失敬」 笑いながら仄は三日月の頭をぽふぽふと撫でる。 そんな様子を横目に泰料理に舌鼓をうつのは風雅 哲心(ia0135)。 「さすがというべきか‥‥美味いな」 感心する哲心に抱きつくように圧し掛かってお銚子を揺らすのはヨpitaqF(ia3651)。 「哲心ちゃーん、飲んでるー?」 「食ってるからどいてくれ‥‥」 あしらわれたヨpitaqFはむぅ、と口を尖らせる。容姿と裏腹に可愛い仕草だ。 「むー‥‥つれないわねぇ」 「俺はゆっくり楽しみたい」 言いながら哲心はやれやれと頭を振った。何だかんだ言いながらも仲は良いようだ。 「さぁさ皆さん寄っといで! 都でも珍しい泰国料理の屋台だよ〜!」 半被姿で客寄せをする滝月 玲(ia1409)は飴細工を巧みに操り子供たちの心を鷲掴み。 それを興味深そうに見つめるのは榊 志乃(ia0809)と綾乃(ia0993)。仲睦まじい二人を見た玲が対になったもふら飴を手渡す。 「お似合いのお二人にはこれを!」 「似合っ‥‥!? あたしと志乃様はそんな‥‥そんな‥‥いいかも♪」 「いや、よくはないぞ‥‥」 妄想爆発の綾乃に思わず嘆息する志乃。尊敬を通り越すと一体どこまでいけるのか―――それは誰にもわからない。とにかく大好きなんだろうという気持ちだけは十二分に伝わった。 お似合いという言葉にピクリと反応したのは見回り中のシエラ・ダグラス(ia4429)。 (いいな‥‥私もいつか‥‥はっ!? ダメダメ、今は任務中ですよっ) 真面目なシエラも女の子。心の葛藤はあるようだ。 「あちらも飴か。負けてはおれんな」 玲の腕前に対抗心を燃やすのは黎乃壬弥(ia3249)。こちらは色とりどりの飴細工を手早く作り上げていく。開拓者と言えどそれだけでは家族は養えない。涙ぐましい努力の結晶はこちらも子供たちに大人気。 「はーい、君はどの飴がいいかなー?」 にこりと笑う星乙女 セリア(ia1066)は見つめる子供に好きな飴を選ばせる。子供は少し迷って一つの飴を指さした。 「じゃしーん!」 「‥‥それ兎さんなんだけど‥‥」 かくりと肩を落としたセリア。どうやら彼女が作ったものらしい。 「だから無理すんなって言ったのに」 言いながら壬弥はただただ苦笑する。 ●定番屋台に変わり種。 勿論出ている屋台はそれだけではない。 串に鶏肉と夏野菜を刺した物を網の上に置き炭火でじっくり焼き上げる、所謂串焼き。予算の都合上鶏肉の大きさはそれほど大きくはないものの、野菜の大きさがそれを補いボリューム満点。 「こういうのは‥‥凝ってしまうんですよね」 口元に僅かに笑みを浮かべながら呟いた紙木城 遥平(ia0562)が串を返すと、辺りに香ばしい香りが充満し、人々の鼻孔をくすぐる。 対するは焼きそば屋台を出す奥野・奈菜歌(ia0642)。 だが彼女が出すのは普通の焼きそばではない。どこがと言えば。 「真っ黒だな‥‥」 見回り途中の玉櫛 狭霧(ia0932)が焼きそばを見てぼそり。そう、真っ黒な焼きそばなのだ。 「見た目より味です! 騙されたと思って食べてみてください♪」 言いながらにこりと微笑む奈菜歌。 「‥‥じゃあ―――」 「兄さん! 何してるんですか! 仕事に戻りますよ!」 焼きそばを口に運ぶ直前で玉櫛・静音(ia0872)の声に遮られる。腰に手を当てて頬を膨らます妹に狭霧の顔が緩む。 「あ、静音ちゃんも食べ―――痛だだだだっ!?」 現れた愛しの妹にも、と気遣った狭霧の耳をぐいと引っ張った静音。そのまま人ごみへと姿を消した。頑張れお兄ちゃん。 その隣ではこちらも香りで勝負の葱焼き屋。ざっくりと切り揃えた一口大の葱を串に刺して天儀王朝御用達の某醤油でさらりと味付け。広がる香りは涎を誘う。単純、故に御託はいらない。 「食せばたちまちネギの虜じゃ」 言いながら何故か葱を構えてにやりと笑うは輝夜(ia1150)。彼女が葱の代名詞となる日はそう遠くはないかもしれない。 一方ちょっと変わり種の屋台を出しているのは蒼零(ia3027)と都騎(ia3068)と幻斗(ia3320)の三人。どうやらお菓子とお茶を提供しているようだが、目を惹くのはずらりと並んだ猫型の玩具。可愛い物が好きな女性客には大人気である。更に女性の目を惹いたのは――― 「さぁ皆さん、美味しいお菓子のある店ですよー!」 白い猫の着ぐるみを着た幻斗が通る人々に声をかけ。 「はい、猫饅頭お待たせしました♪」 笑顔でお菓子を運ぶ都騎は三毛猫の着ぐるみ。 「いらっしゃいませ‥‥照れ隠し、キス防止に猫のお面はいかがですか‥‥?」 恋人たちの敵になりそうな売り文句で玩具を売る黒猫の着ぐるみは蒼零。 端正な顔立ちの男たちの着ぐるみ姿は特殊な趣味のお姉さんたちの心をがっちり掴んだようだ。 「あーっ! 猫がいっぱいだー!」 並んだ猫の玩具を見つけてはしゃぐのは漆代 タタル(ia3932)。猫又を式として使役する彼女にとって猫はとても身近なものであり、愛すべきもの。その様子を微笑ましく思う同行者二人。 「元気だねぇタタルは。お、食い物もあるんだねぇ。じゃあ食いまくるよ、わしはー」 「蒲鉾山の姉さんが本気になったら店が潰れちまうよ」 舌舐めずりをして巨体を震わせる蒲鉾山(ia4072)に骨首 於凶(ia3354)がくっくっと低い笑みを漏らす。於凶もかなり細身だが長身なのだが、それ以上に大きな蒲鉾山のおかげか普通に見える。 でかいの細いのちっこいの。凸凹な三人だが不思議と仲は良い。 食べ物の店が多い中、遊びに重きを置いたのは南風原 薫(ia0258)。遊び好きの薫は弓を使った射的『的屋』を出店。並ぶ景品は全て高級品を模した偽物ではあるが、それもまた定番。 「むー‥‥取れないのですー!」 必死になって景品を狙うははねず(ia1090)。先程から何度か挑戦してるもののうまくいかない。 「はは。まぁパチもんなんだからあんましムキになると損する、ぜ?」 笑いを堪えながら忠告する薫。と、ふとあることが気になった。 「そういや嬢ちゃん、連れはどうしたよ?」 「ふえ?」 言われて振り返るはねず。だが誰もいない。一緒にいた人がいるはずなのに。はねずの目に思わず涙が浮かび薫が困ったように頭を掻く。助け舟を出したのは通り掛かったルシオン(ia0475)。にこりと微笑んだルシオンはそっと一点を指差した。そこにはキョロキョロと辺りを見回すシャオ・シン(ia2987)の姿。慌てて眼を拭ったはねずはぺこりと一礼、全速力でシャオに突撃。飛んできたはねずに一瞬驚いたシャオだったが、頭を撫でると手を繋いで近くの屋台へ消えていく。微笑ましい光景だ。 「あ‥‥当たった」 一連を見守っていた薫の耳に小さな呟きが聞こえる。見ればそこには驚いた表情の結城 千夜子(ia1244)。どうやら的に当たったようだ。景品の飾りを渡すと千夜子は少女のような表情で「わぁ、嬉しい」と声をあげる。だが次の瞬間にはぷいと顔を背けて一言。 「う、うむ。有難く頂戴する‥‥」 恥ずかしがり屋のようだ。 ●楽しみ方は人それぞれ。 盛り上げるために来る者もいれば、純粋に楽しむ者たちも当然いる。 「美鈴、色々買ってきたぞー」 両手一杯の皿を持って走ってくる真田空也(ia0777)に気付いた江崎・美鈴(ia0838)は「かっはー!」と威嚇の意を示す。 「あらあら、そんなに怒っちゃダメよー?」 と、ほわほわ笑顔の巫 神威(ia0633)が美鈴の頭をそっと撫でる。 「そうだぞー? だからこっちも食え食えー♪」 言いながらまひる(ia0282)は食べ物を美鈴の口に無理矢理放り込む。何故か焼き物ばかりだったのは意図的なのだろう。詰め込まれた食べ物に目を白黒させた美鈴はまひるに一撃加えようと構える。 その前に立ちはだかるのはエーリヒ・ハルトマン(ia0053)。彼女は常にまひるにべったり、余程好きなようだ。その様子に何だか踏み込めなくなった美鈴の怒りは行き場を失い―――空也に向かった。 「俺かぁぁぁぁぁっ!?」 美鈴に蹴られた空也が吹っ飛ぶ。ここは河原。となれば飛ぶ方向は一つしかない。 水飛沫を上げて沈む空也の様子を細い目で見守るのは檄征 令琳(ia0043)。 「ふふ、伯父上でなければ助ける必要はありませんし‥‥それにしても伯父上どこ行ったんでしょう‥‥?」 どこか寂しそうに呟く令琳を不思議そうに眺めるフィー(ia1048)。 「‥‥かなしそ‥‥?」 「違うよフィーちゃん。あれは愛情の裏返しっていうんだよ。わかった?」 したり顔で説明するのは陽胡 恵(ia4165)。年の割にはおませさんのようだ。そんな恵の言葉にフィーは感心した顔で「‥‥ん!」と頷く。 「いらない事を教えないでください! というか私は伯父上のことなんて‥‥!」 解説された令琳は必死に誤解を解こうとするが、それが返って逆効果であることに気付いていないようだ。 「賑やかやねぇ」 言いながら星鈴(ia0087)は紺色生地に蝦夷菊柄の浴衣を揺らしてくすくすと笑みを浮かべる。 「楽しいな。こんな人数なんて初めてだからさ」 星鈴の隣で同じように笑うのは芦屋 璃凛(ia0303)。そんな彼女の浴衣は緋色に鬼百合をあしらった物。手を繋ぐ二人はまるで恋人のようだ。 「はしゃぐ女の子を間近で鑑賞できる‥‥これだけでも来た甲斐があるというものだ」 うんうんと頷く水鏡 絵梨乃(ia0191)ははしゃぐ仲間にご満悦。 そんな一行を遠目に見るクロウ(ia1278)。 「いいな‥‥俺も誰かと一緒に来たかったな‥‥」 「全くですね‥‥」 すぐ隣で同意を示すのは姜宵夜(ia3889)。 顔を見合わせたクロウと宵夜は無言で頷き、肩を組んでひっそりと人ごみに消えていく。 彼らに捧ぐ言葉は哀愁。 「いいな‥‥食い物‥‥」 違う意味で羨ましがっているのは冬風(ia4343)。どうやら本を買ってしまったせいで金がないらしい。匂いで腹は膨れない。溜息をついた冬風はただただ水を飲んでいた。 一方一人が故にすることが増えてしまった者もいる。 「全く‥‥よりにもよってこんな時に熱とは‥‥」 ブツブツと文句を言うのは細越(ia2522)。どうやら来れなかった相方の為に土産を買っているようだが、既に荷物で姿が見えない。何だかんだで相方思いのようだ。 「もふらさまのお面、金魚、林檎飴、わたあめ‥‥多いな」 買って来る物を記した紙に視線を落とした天目 飛鳥(ia1211)はその量に改めて溜息を吐く。普段こういう物を持たぬ彼にとってはある意味拷問のようなものなのだろう。 そんな様子を横目に小さな小物を選んでいるのはレフィ・サージェス(ia2142)。ジルベリアのメイド服に身を包んだ彼女もまた土産を選んでいるようだ。 「何かご主人様に似合う小物があれば良いのですが」 余り外に出れない主の姿を思い浮かべて笑みを零したレフィはまた別の店へと探しに行く。 少し外れた場所では鬼御門 麗那(ia0570)が紙芝居を手に熱い語りを始めていた。 「これは私麗那の華麗な世界征服物語‥‥ってそこ! ちゃんと聞いてますのっ!?」 祭で仲間を見つけるという彼女の目論見は果たしてうまくいくのやら。 何はともあれ楽しみ方は、その人次第。 ●警備も大変。 人が増えれば何かが起きる。それはいつの時代も一緒。 「ねぇお兄ちゃぁん、シュラハと遊んでぇ〜♪」 猫撫で声で近くの男に声を掛けるシュラハトリア・M(ia0352)。自慢の胸を押しつければ男はメロメロ。今にも襲いかからんとする男に「いやぁん」と嬉しそうな声を上げる。だがそれが思わぬ方向に。 「今悲鳴が聞こえましたっ!」 巡回中だったルーシア・ホジスン(ia0796)と秋姫 神楽(ia0940)が声に反応して駆け付けてくる。傍目に見ればシュラハが襲われそうになっているわけで。 「不届き者なのですっ!」 「正義の名の元に、あなたを成敗するわっ! 天誅!」 ルーシアと神楽にボコられる男。 「あぁん、あたしの獲物ー‥‥次の探そうっと♪」 特に気に留める風もなくシュラハは再び物色へ。 「積極的だなー‥‥私も探そっと。そこのおねーさーん!」 妙な所に感心して駆けていく神無月 渚(ia3020)。こちらは女性を物色するようだ。何か間違えてる気がしなくもないが。 それを見ていた三笠 三四郎(ia0163)は人の多さと他の仲間の行動にただただ驚かされるばかり。純朴な青年は故郷の祭との違いを改めて痛感したようだ。 「都の祭って‥‥凄いなぁ」 「‥‥こんなに沢山の人が来てたんだ‥‥」 三四郎の呟きと琉歌(ia0831)の呟きが重なり、互いに思わず顔を見合わせる。 よくはわからないが笑いがこみ上げ、二人はくすくすと笑顔を零す。時には見知らぬ人との出会いも大事。 「がっはっは! 花火はまだかーっ!」 家屋の屋根によじ登り手を額に当てて打ち上げ予定の河原を眺める熊蔵醍醐(ia2422)は何故か褌一丁。何事にも全力な醍醐は楽しむのも全力。しかも今回酒が入っているので歯止めが効かない。 「こらー! おっさん、何やってんだーっ!?」 「全く‥‥喧嘩が多くなると思っておったが、よりにもよってお主が騒ぎの原因とはの」 同じように屋根をよじ登って声を掛けるのは夕凪(ia0807)と天使主・紅龍(ia0912)。見物客より変態が暴れているとの通報があって来た二人は、両側から醍醐の体を抑えようと掴みにかかる。 「んー? がはは、何じゃお前らも来たんかー!」 豪快に笑う醍醐はそのまま二人の首にがっしと手を回す。当然屋根の上でそんなことをすれば平衡感覚が崩れるわけで。 「ちょっ‥‥!?」 「い、いかん‥‥!」 三人仲良く地面に落下。幸い下に人はいなかったため怪我人はなかったが。 「何だ何だ‥‥騒がしいな」 人だかりの中からひょっこり顔を覗かせる榊原・信也(ia0075)。特に予定もないので見回りも兼ねて一人ぶらついていた信也だが、騒ぎの中心にいるのが開拓者の仲間とわかると「面倒くさ‥‥」と呟いて再び人ごみの中に姿を消す。 一方倒れる三人の前ににこりと笑みを浮かべて近付いてくるのは天青 晶(ia0657)。顔は笑ってはいるが目が笑ってない。 「皆さん‥‥詰め所で居残りの計、ですね」 晶の言葉にがくりと肩を落とす二人と笑ったままの一人。 祭といえば喧騒―――これもまた一興。 そしてもう一つ祭の名物といえば―――迷子。 白野威 雪(ia0736)は有志で作った警備小屋の中でその対応に追われていた。 「ほらほら泣かないで? 此処で一緒にお父様とお母様を待ちましょう?」 笑顔で泣きじゃくる子供の頭を撫でる雪。その柔らかな雰囲気に子供たちもよく懐いている。 一方運ばれてくる怪我人の対処に追われているのは鍋島 瑞葉(ia0969)。 火事と喧嘩は何とやらとは言うものの、さすがに運ばれてくる人も多い。 「もう少し静かに楽しんで頂きたいものです‥‥!」 やれやれと呟きながらテキパキと処置を済ませていく瑞葉。彼女の視界の隅に一般客に混じって運ばれてくる男三人が見えたような気がしたがあえて見ない振りをしたとか。 警備も大変である。 ●奉納と舞。 祭といえば神への感謝や豊穣を願ってという意味を持つことが多い。 そしてその意味を持つことが多いのが神輿。 「わっしょいわっしょーい! やっぱ祭といえばコレだろう!」 掛け声と共に村人有志と神輿を担ぐのは一ノ瀬・紅竜(ia1011)。 普段は熱くなることが少ない彼も、祭となれば話は別だ。 「あぁ‥‥もみくちゃにされるこの痛み‥‥堪りませんね‥‥」 何故か男たちに肘やら膝やらを食らいながら恍惚の表情を浮かべている鳴海 風斎(ia1166)。 彼の性癖なのか、はたまた―――とにかく彼は彼なりに楽しんでいるようだ。 また奉納の雰囲気だけでもと用意したのが演舞場。花火会場近くの神社をと思ったのだがちょうどいい場所がなく、急遽村の人に協力してもらって舞台だけはそれように作成したのだ。 「さぁ皆さん! 思う存分舞いましょう♪」 今回会場準備に奔走した亜守羅(ia0173)の一声でまず出てきたのは七折兵次朗(ia3569)。 真っ白に塗りたくった顔に赤い化粧を施し、白い髪の鬘を被った兵次朗は槍を使った舞を舞う。 「いよ〜、いよぉ〜お〜」 低い声で唸るような声を放つ彼の舞は概ね好評。 ただし化粧と無縁の武芸者が自分でした化粧はかなり歪であったようだ。 続いて登場したのは静雪 蒼(ia0219)。ゆったりとした大き目の衣装に身を包んだ蒼は上半身を大きく動かし、袖と手にした薄布をひらりと舞わせて客の目を魅了する。 途中で通り掛かった七神蒼牙(ia1430)から「いいぞ蒼ー」という応援の声が耳に入り、思わず「もう、恥ずかしいからやめてぇな!」と返してしまうお茶目さもまた観客には堪らない。 「祭とは祀り、すなわち精霊を祀ること。今では余り気にする人はいませんが‥‥だからこそ私たちが伝えていかなければ」 決意に満ちた声で呟き、舞装束に鈴持ちて神楽を舞うは涼月 紫穂(ia0047)。 古典的な舞ではあるが、それ故に優雅。そんな紫穂は舞いながら隣で舞う嵩山 薫(ia1747)に視線を送る。 泰国独特の衣装に身を包んだ薫の舞は本来鉄扇を用いた武術演舞。今は扇子で代用してはいるが、その力強くも華麗な動きに変わりはない。自分とは異質の舞を舞う薫に、いつか取り入れようと密かに誓う紫穂であった。 更に独特な舞を舞うのは霙(ia4107)。柔らかな笑みを浮かべる霙は客寄せのときに見せた男らしい姿とは正反対。 式神を呼び寄せて共に舞う霙。勿論式神はそんなに長く形を保てないので次々に呼び出されては消えていく。だがそれがまた幻想的。 緩やかで、だがどこか荘厳な、そんな空間が流れる舞台。 ●花火の準備だ。 日も暮れて、空が薄闇のヴェールに覆われる頃。 いよいよ慌しくなってきたのは阿茶子の周り。 「ほらーっ! ちゃっちゃと動くー!」 「っ‥‥確かにコキ使えとは言うたけども‥‥ほんまに容赦ないなアンタっ!?」 全体を見回せる位置でふんぞり返る阿茶子に黒鳶丸(ia0499)がげんなりとした様子で言う。そんな黒鳶丸の隣で有栖川・優希(ia0346)が豪快な笑い声を上げながら、打ち上げ用の花火筒を固定していく。 「ははは! まぁいーじゃねぇか、こういうのも」 一方以前に花火師の仕事を手伝った経験がある者もいる。柊沢 霞澄(ia0067)もその一人だ。霞澄はその経験のおかげで基本的な流れを理解していたため、簡単な指示を任されていた。 「すまない霞澄さん‥‥これはどこに持っていけばいいかな」 ぽりぽりと頬を掻く土岐 静真(ia3659)。その申し訳なさそうな姿に思わず笑みを零す霞澄。 「あ、ではこちらの方に‥‥」 他愛もない会話もしながら二人は準備に戻る。 「やれやれ‥‥整地はこれで全部かな? 随分綺麗にはしたはずなのだが‥‥」 辺りを見回す綱島 姶歌(ia4345)は呟きながらふぅと一息。 「ま、皆が何も考えずに楽しめたらそれがいいな」 隣で呟く薙塚 冬馬(ia0398)を見つめながらふと問い掛けたのは相宇 玖月(ia4425)。 「どうして髪の毛をガチガチに固めているのです‥‥?」 「‥‥色々あったんだよ‥‥まぁ予防ってとこかな」 「結構、大変なんですね‥‥」 人生何が起こるかわからない。遠い目の冬馬の肩をぽむと叩く玖月。 男同士何か通じるところがあったのかもしれない。何もないかもしれないが。 「ねーねー、コレだけあるんだし少しぐらい貰っちゃダメー?」 「ダメに決まってるでしょ!? というかそれ危ないから!」 花火玉をお手玉にして遊んでるのは十河 茜火(ia0749)に烈火の如く怒る阿茶子。 「ゴメーン」と舌を出して謝る茜火。と、その手から花火玉がポロリ。 「うおっ!?」 地面に落ちかけた花火玉を千王寺 焔(ia1839)がだいびんぐきゃっち。 「おい、何してんだ‥‥っ!! これは俺が預かっとくからな!」 口調は荒いが他の人が心配な焔。男のツンデレとはこういうものかもしれない。 そんなこんなで打ち上げ時刻。一発目の花火が夜空を明るく染め上げた。 ●ゆるりと流れる時間。 賑やかな中でも一人で楽しむ者もいる様子。 似た者同士は集まるというが、花火が良く見えるその場所はそういう者たちが自然と集まっていた。 「夜の華に調べを添え‥‥奏でますは『夢一夜』」 借り物の琵琶を奏でて花火に一曲添えるのは裏禊 祭祀(ia0963)。弾き語りで集まる客の女性をその音色と巧みな言葉で口説いているようだ。そんな祭祀を見ながら霧崎 灯華(ia1054)は苦笑する。 「元気だねぇ。まぁたまにはいいかもね」 「折角だからな。楽しめるときに楽しまないと後で悔やむことになる。それこそ後の祭りってな‥‥祭りだけに」 「つまらん」 隣で呟く九竜・鋼介(ia2192)会心の駄洒落は灯華に一蹴された。 「賑やかな祭だ‥‥昔を思い出すな」 打ち上がる花火を眺めながら呟くのは樟葉(ia0174)はいつもの志士服ではなく着物姿である。 「都に来てあっという間でしたが‥‥これからが本番なのでしょうね」 同じように花火を見つめる新崎舞人(ia0309)は今までのことを振り返る。 「こういう平和な時間の為にも、頑張らなくてはな」 「全く‥‥」 花火を見ながら開拓者としての心を再確認する樟葉と舞人。 夜空に浮かぶ華に全く別のものを思い出してしまったものもいる。 「‥‥帰ったら八つ当たりですかね」 今回一緒に来れなかった妹たちのむくれる顔が浮かんだ佐上 久野都(ia0826)は苦笑い。 開拓者といえど、馳せる思いは十人十色だ。 ●最後の花火。 最後の締めは残った花火の一斉点火。 「さぁ皆最後よ! 景気よくいくわよー!」 阿茶子の言葉に褥桜 あやね(ia3567)は嬉しそうに配置につく。火付け役は彼女がどうしてもやりたかった役割なのだ。 「皆さん頑張ってくださいね」 瑞月 リリア(ia1101)はにこやかな笑顔で打ち上げに参加する者を見送る。リリアの傍には既に終わった後の為の差し入れが置かれていたり。 「くぅ! 楽しくなってきたねぇ!」 「ご機嫌だねぇ。ま、わからなくはないけどな」 嬉しそうな風麗(ia0251)と満更でもないと笑みを浮かべる紅緒(ia0323)。友人である二人の息は準備のときからピッタリだ。 「じゃあ、行くわよー? せーのっ!」 掛け声と共に一斉に放たれる火種。 数瞬後―――盛大な轟音と共に夜空を染める数十発の花火。 「たーまやー!」 「かーぎやー!」 「アチャコ屋ー!」 「アチャコって言うなバカーっ!」 「たま‥‥かぎ‥‥? それは何なのだ!?」 皆の掛け声に鳥養 つぐみ(ia4000)が難しい顔で問い掛ける。 「ぐあぁっ!? 目が‥‥目がぁっ!?」 叫びながら目を押さえてごろごろと転げまわるのは樹(ia0539)。どうやら近すぎて眩しかったようだ。そんな様子にくつくつと笑みを零す瑪瑙 嘉里(ia1703)は彩る花火に、いつかは想い人と一緒にと静かに目を閉じる。 こうして開拓者主催の花火祭は大盛況で幕を閉じた。 〜了〜 |