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■オープニング本文 ●再来の予兆。 「うが‥‥あ‥‥」 暗い路地の中、呻き声だけが静かに響く。 地べたに這い蹲る様にいくつかの人影が僅かに動き、その全てが既に虫の息である―――たった一つを除いては。 「いけませんねぇ‥‥片腕だからといって舐めてもらっては」 言いながら倒れている一人の頭をごりっと踏みつける唯一人の立っている男。 男の着流しの左腕部分が納める場所を探すようにひらひらと揺れている所を見ると、どうやら隻腕のようだ。一方倒れる男たちも剣術の心得のある者のようだが、本質はゴロツキというところだろう。 どうやら複数で喧嘩を吹っ掛けて返り討ちにあったようだ。 「本来なら斬って捨てるところですが‥‥今いいことを思い付いたので生かしておいてあげましょう」 歪な笑みを顔に張り付けた男は座り込んで踏みつけた頭の鷲掴みにして軽々と持ち上げる。 既に常人の力ではない。 「素直に聞いてくれれば‥‥傷を治してあげましょう」 言いながら男は持つ手に力を入れる。 メリメリと音を立てながら締められる頭。最早声にならない悲鳴が上がる。 「ちょっと‥‥治すのアタシなのよ? 余り無茶しないでくれる?」 リン、と鈴の音が鳴り、呆れたような声と同時に路地裏にもう一つの影が姿を現した。声からして女性のようだ。 「ただでさえアンタ治すのに付きっきりで疲れてるってのに」 「これは手厳しい」 苦笑する男は頭を持つ手をぱっと手放す。倒れ伏した影はびくんびくんと痙攣している。 「‥‥何が‥‥望みだ‥‥っ!」 他の影から息絶え絶えの声が上がる。 聞いた男はくつくつと薄ら笑いを浮かべ、言い放つ。 「なに、ちょっと道場破りを、ね」 ●悪意の襲来。 昼下がり。 開拓者ギルドの中に一つの影が飛び込んできた。瓦版を手に煙管を吹かしていた受付係は突然のことに目を丸くする。入ってきたのは何度か目にした人物――― 「アンタは確か‥‥お心、だっけか?」 息を荒げるその女性―――お心は何度か開拓者ギルドに依頼をしたことがある女性だ。 それ故に受付係も顔を覚えていた。 「なんでぇ、随分深刻な顔してんな。何かあった‥‥んだろうな」 「はぁはぁ‥‥お願い、です‥‥宇衛門様と‥‥太一を助けてください‥‥!」 まるで掴みかからんばかりの勢いで受付係に詰め寄るお心。 困った表情を浮かべた受付係は「まぁ落ち着け」とお心を宥めて水を一杯飲ませてやる。 数刻後、落ち着いたお心から聞いた話は以下の通りである。 お心の許婚であった又差は村の剣術道場の師範であった。 又差の死後、それを継いだのは宇衛門という男。志体はないものの綺麗な剣術をする男だ。 だが、やはり又差のいない道場は次第に人が減り、今では宇衛門と門下生の太一のみ。 太一というのはまだ十歳の子供で、勿論志体はない。 そこに「志士」を名乗る者たちが道場破りに現れ、二人は瞬く間にやられてしまったのだという。 そしてその志士たちは今道場を占拠しているというのだ。 「で、道場を取り返せばいいのか?」 受付係の言葉にお心は首をふるふると横に振る。 「いえ、道場よりも‥‥宇衛門様と太一を助けてあげてください‥‥!」 金子の入った袋を差し出しながらお心は深々と頭を下げた。 |
■参加者一覧
緋桜丸(ia0026)
25歳・男・砂
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
紅(ia0165)
20歳・女・志
高遠・竣嶽(ia0295)
26歳・女・志
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
戦部小次郎(ia0486)
18歳・男・志
輝夜(ia1150)
15歳・女・サ
時任 一真(ia1316)
41歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●推察〜突入前。 問題のある道場は村の中央より少し外れた場所にあった。 お心から予め場所や構造を聞いていた一行は再確認の意味も含めて遠巻きに道場を見つめる。 「この村に来るのも久しいな‥‥」 呟いた風雅 哲心(ia0135)は以前この村での辻斬り事件を解決した開拓者の一人。最も、彼 にとっては余り良い思い出がある場所ではないが。 「ただの道場破りなら勝手にやってろと言いたいが‥‥その後が気にくわねぇな」 緋桜丸(ia0026)は普段わかりにくい表情に僅かな怒りを浮かばせる。 「志体の力を不逞を働く為に使うとは‥‥思い知らせて差し上げねばなりませんかね」 「全くじゃ。そんな性根の腐った奴は我が叩き直してくれよう」 相手が自分と同じ志士を名乗っているということに我慢がならない高遠・竣嶽(ia0295)が唇 をきゅっと結んで道場を見据えれば、輝夜(ia1150)もまた胸中の怒りを露わにする。 「何やアヤカシ以外に、身内も厄介どすなぁ」 柔らかな空気を纏ったまま感想を述べたのは華御院 鬨(ia0351)。派手な着物に身を包んで しなを作って歩く姿はまるで女性そのものだ。だが鬨は男、女装もあくまで演技、今回もその演 技力が何かの役に立つかと思っているほどだ。 「しっかし何の為に道場占拠なんてやったのかねぇ? 看板取ったわけでもないみたいだし」 「そうだな‥‥それにそんなことをすれば私たちが出てくる事は推測出来そうなものだが」 顎を擦りながら言う時任 一真(ia1316)の疑問に、思案顔の紅(ia0165)。 お心に確認してはみたが狙われる理由には心当たりも特にないようだ。寧ろ放っておいても潰 れるような道場故二人が無事ならばそれでいいとのこと。 「確かにおかしおすなぁ‥‥普通道場破りいうたら看板欲しがるもんやのに」 「ただの道場破りならば、な」 鬨の言葉に続けた哲心、この村に入ってから嫌な胸騒ぎが止まらない。 (ただの気のせいか、それとも―――) 「この状況自体が目的、か‥‥?」 哲心の不安を引き継ぐように言葉を発した一真。確かにそれならば動機にはなりえる。 だがそれにしては相手の戦力が少ない。 「わからないのならば聞き出せばよいのです」 「まぁここで論じても仕方ないのは確かだな」 淡々と言う戦部小次郎(ia0486)に思わず苦笑する紅。 「では手筈通りに。正面からの突破は五人、裏に回っての奇襲は三人‥‥わかっているとは思い ますが、最優先は人質の救出です」 竣嶽の言葉に一同は頷きを返す。 今回開拓者たちが立てた作戦は至って単純。正面から行く班が敵を引き付け、奇襲班が時間差 で突撃する。単純ではあるがそれ故に効果は期待できるはずである。勿論自分たちの正体を知ら れてしまっては人質を盾にされてしまうため、正面班は十分な注意が必要にはなる。今回はそれ を隠すために演技をして敵を欺き、合図と同時に奇襲班が突入。人質さえ救出すれば目的はほと んど達成、総当り戦になれば遅れを取る相手ではない。 「では‥‥合図を待っておるぞ」 言いながら奇襲班の輝夜・哲心・紅の三人は静かに道場裏へと移動を開始。 残された五人も三人の動きを見届けた後でゆっくりと道場へと歩みを進めた。 ●誤算のままの突入。 「おらぁっ!」 掛け声と共に呻き声と打撃音が道場の中に響き渡る。 道場の奥にある師範代の間、そのすぐ前で一人の道着姿の男が四人の浪人らしき者に囲まれ、 まるで人形のように順番に殴られていた。 更に本来師範代が座る場所には一人の男が、突っ伏した子供を足蹴にしたまま鎮座し、道着姿 の男が殴られる様をにやにやとしながら眺めている。 「ははっ、頑張るねぇ。確か宇衛門っつったっけ?」 師範代席の男が囲まれ痛めつけられて、それでもなお抵抗する男―――宇衛門に声をかける。 尤も既に宇衛門の耳はほとんど聞こえてはいなかったが。 「まぁ俺たちの暇潰しにはちょうどいいな。こいつなんかガキだからすぐ沈んじまったし」 言いながら男は足元に転がる子供―――太一を足先で突く。同時に宇衛門が力尽きて床に突っ 伏した。 と、そこで道場の入り口の扉が乱暴に開かれ、男たちの視線が一斉にそちらを向く。 「おうおう、楽しんでるねぇ」 「楽しそうな事してんな。俺らもまぜろよ」 扉にもたれかかりながら言うのは一真。続けて緋桜丸が口元にニヤリと笑みを浮かべて言う。 だが、ここで開拓者たちの誤算―――小次郎が何も言わずにスタスタと宇衛門の方へと歩を進 める。 「待たれよ小次郎殿っ!」 「小次郎はんっ!?」 竣嶽の静止や鬨の声も小次郎の耳には届かない。それもそのはず、小次郎は最初からそのつも りだったのだから。 いきなり乱入してきた男が一人向かってくれば、相手の反応は当然――― 「何だてめぇ!?」 宇衛門を囲んでいた四人のうちの一人が小次郎に突っかかる。 剣術の心得があると言っても志体持ちの開拓者と一般人ではその実力は雲泥の差。あっという 間に小次郎に叩き伏せられる男。 だがそれは他の男たちに敵と認識させるには十分な時間。 動いたのは二人。一人は腰の刀をスラリと抜き放ち、それをそのまま倒れ伏した宇衛門の首下 へ。 もう一人は太一の頭を無造作に掴みそのまま持ち上げる。 その間に小次郎が動けたのは二人目の敵を叩き伏せるところまで。 「そこまでだ開拓者ども。動くなよ」 師範代席に座ってた男―――恐らくは大将格なのだろう―――は、下卑た笑みを浮かべたまま 掴んだ太一をぶら下げる。こうなっては開拓者たちに身動きをとる術がない。 「‥‥何で? 何でうちらが開拓者ってバレたんや‥‥?」 悔しそうに呟いた鬨。 確かに小次郎の予想外の動きはあったものの、それだけならまだ何とかやりようもあった。 だが相手は確かに言った―――動くな『開拓者』ども、と。 「どうして俺たちが開拓者であるとわかった‥‥?」 「ははっ簡単なことだ。知ってたんだよ、最初からな」 緋桜丸の問い掛けに男が答える。 「では‥‥今回の騒動の目的は―――」 そこで竣嶽は言葉を詰まらせる。 最初に自分たちでも可能性を考えていたはずだ。こんなことをすれば開拓者が来ることは予想 がつきそうなもの。相手の目的がもしそこにあるならば――― 「とある人の願いでね。開拓者どもをここに集めるために、道場破りをしろ、と。お前らに恨み があるわけじゃねぇが‥‥俺たちも命が掛かってんでな」 油断していたわけではない。 だが相手を低く見ていたのも確か。 その上相手の行動を読み間違えた。 「まいったね、こりゃ‥‥」 「くそっ‥‥」 苦笑したまま天を仰ぐ一真に苦々しい表情の緋桜丸。声こそは出さないものの竣嶽もきゅっと 唇を噛み締める。 「ひゃははは! 開拓者ってのは不便だ、なっ!」 言いながら男の一人が止まったままの小次郎の顔面を殴打。殴られた小次郎の身体が後方へと 捻られる。思わず身構える仲間たちだったが、人質に刃を立てられていることでそれ以上の動き ができない。 万事休す―――である。 ●突入できない奇襲班。 「‥‥反応がないな」 道場の裏手に回っていた奇襲組。その一人である輝夜は、先に突入した仲間からの合図がなか なか来ないことに疑問を感じていた。 「‥‥心眼のほうは動きがない。まだ中にはいるようだが‥‥」 気配を探っていた哲心がすっと目を開ける。 「何かあったのか‥‥?」 呟いた紅は頭上の小窓に目を向ける。 この道場には通気のための小窓が存在するものの、その高さから覗き見することはできない。 人魂でも飛ばせればまた違ったのだろうが――― 「気にはなるが‥‥合図がなければどうにもできんな」 「‥‥! 待て。何か聞こえる」 半ば諦め気味の紅に、輝夜が何かを聞き取ったらしく、そっと壁に耳をつけた。 同じように壁に耳を付ける紅と哲心。 微かに聞こえてくるのは何かの打撃音と笑い声。争っているというよりはまるで遊んでいるか のような、そんなやり取りだ。同時に聞こえてくる呻き声は間違いなく仲間の物。 「これは‥‥!」 「失敗、か‥‥気付かれたのか? それとも‥‥」 驚きに目を見開く紅と苦々しい表情の哲心、そして輝夜は腕を組んで思案顔。 中を目視できない以上、正確なことはわからない。が、状況から判断するにどうやら作戦は失 敗のようだ。しかも格下の相手に傷を負わなければならぬ程に危機的な状況。となれば自分たち にできることは――― 「隙を見て助け出すしかあるまい」 輝夜の言葉に哲心と紅は静かに頷いた。 「後はタイミングだが‥‥どうする? 心眼ではさすがに詳細まではわからない」 言いながら眉を顰める紅。 確かに志士の心眼は便利だ。しかしその能力にも勿論限界がある。 「確実に気を逸らす必要があるな‥‥」 顎に手を当てて考え込む哲心。 だが現状で有効な手段があるはずもなく。 「待つしか‥‥ないのか」 苛立ちを含んだ声の哲心はただただ道場の壁を眺めるしかなかった。 ●突入〜邂逅。 「かはっ‥‥!」 轟音が鳴り響き、息を吐いた緋桜丸の膝ががくりと地に落ちる。 人質を盾に取られ身動きが取れなくなった開拓者たちは、相手の為すがままに散々痛めつけら れていた。元々相手も望んでいることではないため、その鬱憤の捌け口にはちょうどよかったの だろう。元々頑丈な者が揃った開拓者が相手故に、全力で殴りかかる。素手の者もいれば鞘で殴 る者も。 普段ならばこの程度で倒れるような開拓者ではない。だが今回は無抵抗状態の上、相手には開 拓者たちと同じ技を使う者も混じっていた。一撃一撃は小さく大した威力ではないが、積もり積 もればそれは大きな威力となる。一歩間違えば、例え熟練の者でも簡単に手傷を負わされてしま う。 「ふぅ。さすがに丈夫だねぇ、開拓者ってのは」 さすがに殴り疲れたと言わんばかりに手を振る男たち。 その足元には既に起き上がることもままならない開拓者五人が横たわっていた。 既に小次郎と鬨の意識はない。 「くっ‥‥あなたたちは‥‥志士を名乗る者のはず‥‥何故‥‥このようなことを‥‥!」 息絶え絶えながらも志士としての心得を説かずにおれない竣嶽。 そんな竣嶽に男たちは顔を見合わせて大声で笑う。 「はははは! 志士なんざクソ食らえだ。俺たちは自由に生きる。利用できるものは何でも利用 してな!」 「随分立派なご思想なこって‥‥」 辛うじて意識を保っている一真は動かない筋肉を無理矢理動かして苦笑する。 「て、めぇ、ら‥‥ごちゃごちゃ、言って、ねぇで‥‥さっさと、かかってきやが、れ‥‥」 立ち上がることもできないままの緋桜丸。だがそれでも這い蹲ったまま相手を挑発する。 もし普通だったなら、安い挑発には乗らなかったのかもしれない。 だが既に虫の息状態の相手に言われて黙って聞き流せる程、寛大な男たちではない。 「上等だ死にぞこない。てめぇだけはきっちりトドメさしてやるよ」 大将格の男がスラリと刀を構えたまま緋桜丸に近付いてくる。 他の男二人もそれぞれが獲物を構えながら倒れた仲間の下へ移動する。 つまり、この時点で人質の傍から敵が離れた――― 「さっさと来いやぁぁぁぁぁぁっ!!」 残ってる自分の筋力全てを振り絞った緋桜丸の咆哮。 爆音。粉塵と共に壁が粉砕される。同時になだれ込んでくる三つの人影。 まずは紅と哲心。二人はすぐさま本来の目的である宇衛門と太一の下へ。 「な、何だてめぇら!?」 「聞かなくてもわかってんだろ?」 言い捨てた哲心はそのまま刀を抜き放ち近くにいた一人を薙ぎ払う。 同時に紅も男の一人の懐に滑り込み、そのまま刀の柄を男の腹へとめり込ます。 あっという間に地に伏せる仲間に大将格の男が慌てて足元の緋桜丸に刃を突き立てようと振り かぶる―――だが。 「させんよ」 どこから間合いを詰められたのか、男のすぐ傍には鉄甲を構えた輝夜の姿。そのまま男の腹に 拳を滑り込ませる。ビクンと一瞬の痙攣の後、男は手から刀を零れ落としてその身を地に沈ませ た。 まさに一瞬の間に片が付いた。 ●真打ち現る。 「大丈夫か?」 「あぁ‥‥さすがにキツイねぇ」 その場で簡単な手当てをする紅に相変わらずの苦笑を浮かべる一真。 「しかしまさか私たちそのものが目的だったとは‥‥んっ、風雅様少し痛いです」 「あ、あぁすまん。こういうのは慣れてないんだ」 竣嶽の言葉に申し訳なさそうに頭を掻く哲心。 「こちらの二人は大丈夫そうじゃ。意識はないがしばらくすれば目が覚めるじゃろう」 宇衛門と太一の様子を見た輝夜に哲心と紅も頷きを返す。 一旦二人を別の場所にと動かそうとした輝夜―――何か強烈な気配を感じて咄嗟に後ろに飛び 退いた。直後、メリメリと音を立てて輝夜が立っていた床が捲れ上がった。 「これは‥‥地断撃!? 哲心!」 「俺たちが空けた穴だ! そこに誰かいる!」 飛び退きながら掛けられた輝夜の声に哲心は既に心眼を使用。気配の方向を即座に伝達する。 顔を向けて視線を投げたその先、そこには銀色の髪を携えた着流しの男。良く見ればその片腕 がないのがわかる。そして何より――― 「貴様‥‥!」 「おや。どこかで見た顔ですね」 苦い顔の哲心に現れた男は飄々とした口調で答える。 忘れもしない、哲心たちが以前退けた辻斬り。結局トドメをさせないまま逃げられた本人だっ たのだから。 「哲心。この状況は―――」 「‥‥わかっている」 相手の腕は良く知っている辻斬りの男。その男の下には宇衛門と太一の二人。状況は最悪。 「貴公が‥‥我等を呼び出した張本人、か?」 「まぁそういうことですね。しかし‥‥」 紅の問い掛けに興味なさそうに応えながら辺りを見回した男は、くつくつと低い笑みを零す。 「くっくっく、これは予想外でしたね。まさかここまで健闘してくれるとは思っていませんでし たよ」 言いながら男は宇衛門と太一の傍にゆっくりと腰を下ろした。 「‥‥何のつもりです?」 哲心に支えられながら立ち上がった竣嶽が男を睨みつけながら言う。 「くくく、私はここで待っておいてあげますよ。お仲間の傷を治したいのでしょう? ただし、それまでこの方たちは預かっておきますけどね」 笑いながら応える男。 どうやら一行の反応を見て楽しんでいるようだ。 だが確かにこのままでは勝てる戦ではない。 「何故そんな条件を出す‥‥」 哲心の疑問。だが応えは至極単純だった。 「屈辱でしょう?」 言葉を失う開拓者たち。 だが彼らに選択肢はなかった。 結局男の提案を飲まざるをえなかった一行は、満身創痍の仲間と共にギルドに戻ってそのまま報告をすることになる。報告を聞いたお心はただ二人が生きていることを確かめただけで何も言わなかった。彼らにとっては苦い―――本当に苦い一戦となった。 |