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■オープニング本文 その昔、褌を愛するが故に全ての人生を褌に賭けた者たちがいた。 その者たちは自らを褌一族と名乗り、この天儀に褌の素晴らしさを伝えんがために立ち上がった。 そして彼らは一つの村を作り上げる。 それがドキドキ☆フンドシ村―――通称「どきフン」。 だが歴史の光は彼らのような異端の存在を許さず、その存在を闇の中へと葬り去ろうと試みた。 必死に抵抗する彼らだったが、それも長くは続かなかった。 最後まで抵抗した褌長とその八人の勇猛な部下たちも、ついに捕らえられることとなる。 その後彼らは散り散りに流刑となり、ひっそりとその生涯の幕を閉ざしたという。 だが彼らの心は密かに受け継がれていた。 ―――これは、そんな褌紳士・褌淑女たちによる、愛と友情とナニかの物語である。 「これで全ての条件が整った」 薄暗い小さな山小屋の中で、一人の男が誰ともなしに呟いた。 端正な顔立ちに眩しい金髪の青年は決意に満ちた眼差しで小屋の外を見つめる。 纏った高貴な雰囲気は、たとえ青年が褌一丁であっても失われることはない。 「長、では―――」 その後ろで跪いていた、泰の服装の男の言葉に青年は静かに頷いた。 「これより各地に散った褌八将軍の招集を始める」 「はっ! では使者はやはり―――」 「あぁ、開拓者だ」 「畏まりました。ではっ」 応えた男は静かにその場から姿を消した。 残された青年はそっと自分の褌の前垂れを手に取った。 達筆で「漢」と書かれた前垂れは色々な物が滲んで、くすんで見える。 「古き力が勝つのか、それとも新しき力が加わるのか―――楽しみだ」 少し微笑みながら呟いた青年はその視線を再び外へと戻す。 外は暖かい日差しに包まれていた。 「失礼」 「のあっ!? ‥‥ったく、いつも心臓に悪いなアンタは‥‥」 毎度の如く驚く受付係に、やはり細い目で笑みを浮かべる男。 やれやれと頭を振った受付係は、カウンターに肘をついて顎を手に乗せるとじとっと男を睨む。 「で? 今度は何の褌?」 「えぇ、実は―――」 「あ、褌確定なのね」 熱心に話し始める男に、受付係はがくりと肩を落とした。 「―――というわけでこの地図の場所に行って、将太という男を連れてきて欲しいのですよ」 しばらく熱く語った後に男が出した依頼内容である。 勿論出された地図には迷いようのない正確な場所が記されていたりする。 「前にも言ったような気がするが、自分で行けよ‥‥」 無駄だとわかりながらも盛大な溜息をついて言う受付係。 お客に対して結構失礼な物言いではあるが、男も最早気にしていないのだろう。 「そうしたいのは山々なのですがね‥‥前回の皆様の働きに我らが長が非常にお喜びでしてね」 言いながら男は金子の入った袋を無造作に置き、ぺこりと一礼する。 「報酬は勿論払いますので、どうかお願いします」 「‥‥わぁったよ。依頼は依頼だ、開拓者たちを募ってみるさ。しかしその将太ってのは何者なんでぇ?」 「えぇ、実はその昔我等の中で絶大なる力を持っていた、八将軍と呼ばれた者の子孫なのです」 言いながら男はどこか懐かしげな表情を浮かべる。 一体何の八将軍なのか、受付係にはその情報はないがきっとマトモではないのだろう。 「なるほどな‥‥ではそいつを説得なりして連れてくればいいんだな?」 「はい。もしくは彼の持つ褌を誰かが受け取ってきてください」 「褌を‥‥っつかまた褌か‥‥」 げんなりとした様子で呟く受付係に微笑みを浮かべる男。 「その際、受け取った方には私たちに協力していただくことにはなります。ですので、今回の参加には条件を付け足させていただきます」 そこで男は細い目をすっと開く。 (この目をするときはロクなことがねぇんだよなぁ、こいつ) 胸中でボヤきながら受付係は次の言葉を待つ。 「褌を愛する者、もしくは褌に興味を持つ者限定でお願いしたい」 この時、受付係の意識がちょっと遠くまで飛んだとか飛んでないとか。 何はともあれ、こうして褌を巡る奇妙な依頼が再び幕を開けた。 |
■参加者一覧
斎賀・東雲(ia0101)
18歳・男・陰
龍凰(ia0182)
15歳・男・サ
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
相川・勝一(ia0675)
12歳・男・サ
風雲・空太(ia1036)
19歳・男・サ
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ
璃陰(ia5343)
10歳・男・シ
紅蓮丸(ia5392)
16歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●連行か受領か。 褌を締めた少年を連れてくるか、その褌を受け継いでくる。そんな世にも奇妙な依頼に立ち向かったのは八人の開拓者たち。 「褌って重要だよなー。何て言うか‥‥ないと腹の下に力が入らないっていうか‥‥」 「うむ。褌こそ天儀の正式な下着でござるよ」 腹部を擦る龍凰(ia0182)の言葉にうんうんと頷きながら答えたのは紅蓮丸(ia5392)。どうやら紅蓮丸にとって褌というのは相当に思い入れがあるようで、最近入ってきたジルベリア産の下着には至極ご立腹のようである。 「全く嘆かわしいことでござる‥‥」 一人怒りを顕わにする紅蓮丸。怒りの矛先が全く違う方向に向いていたが。 「とにかく今回は褌を連れてくりゃいいんだよなっ!」 「褌を連れてくるわけでは‥‥いや、間違ってはないでござるな」 爽やかに笑う龍鳳にどこか違うだろうと突っ込みをいれようとした紅蓮丸だったが、案外間違えてないことに気付いて同意する。 「褌、ですか‥‥何故人はあの下着に魅力を感じるのでしょうか‥‥」 ギルドに舞い込んだ相変わらず謎めいた褌の依頼に、どこか哲学めいた考えを巡らせているのは真亡・雫(ia0432)。あくまで探究心の一環なのだ、と思うことでどうにか自分の冷静さを保っているようにも見えるが。そんな雫の横で相川・勝一(ia0675)は、いつもの如く遠い目をしていた。 「毎度毎度‥‥どうして僕はここにいるんでしょう‥‥」 ちょっと涙目の勝一。だが褌という言葉を聴いて吸い寄せられるように着いて来た勝一は、既に褌の虜と言っても過言ではない。 「他にも犠牲者がいらっしゃったのですね。やはり何か不思議な力が―――」 「それにしても雫さんが褌に興味があったなんて意外でしたねっ!」 無理矢理不思議な力のせいにしようとした雫の思考を勝一の言葉が妨害する。 「いえ、僕は決して褌自体に興味があるわけではなくて―――」 「さすがは桃色褌です!」 にこやかに言う勝一のトドメの言葉に雫は静かに撃沈した。 「八将軍‥‥何故だ、この響きだけで俺の中で何かがアツく燃え滾っている‥‥まさか、これが恋なのかっ!?」 ブツブツと呟いているだけで何故かどんどんヒートアップしているのは風雲・空太(ia1036)。どうやら彼もまた褌に魅せられた者の一人のようだ。 「八将軍の将太はんかぁ〜、どんな子なんやろね?」 褌よりも今回会いに行く謎の少年の方に興味津々なのは璃陰(ia5343)。今から会ったときのことを考えてワクワクしている。 「だが聞けば女性が護っていると‥‥女性に暴力はいけないよな」 考え込む空太。変なところは律儀である。 「そんなん、愛があれば平気やって♪」 笑う斎賀・東雲(ia0101)は手をひらひらと振りながら言う。 「そうだな! 俺たちのアツい思いを届ければ、きっとわかってくれるよな! よぉし、待ってろよーっ!」 東雲の言葉に俄然やる気になった空太は、拳を握り締めて高々と突き上げる。 今回は小さな男の子がつけた褌を狙う褌戦士たち。 護っているのは腐のお姉さんたちらしいよ? この困難に皆がどうやって立ち向かっていくのか、楽しみだね☆ それじゃ―――どきどき☆フンドシ村、はーじまーるよー♪ 「‥‥何しとんの、おっちゃん‥‥」 どこかに向かって一人ぶりっこなナレーションをする斉藤晃(ia3071)に、半眼のまま話しかける璃陰。お兄さん、と呼べるぐらいの人間がやるならまだしも、晃はどう見てもおっさん。そんな晃がウインクしながら宙に向かって一人話しているのだ。その光景は異様としか言いようがない。 「‥‥これがお約束っちゅーヤツや。璃陰も大きなったらきっとわかるわ」 言いながら璃陰の頭に手を乗せる晃。 にこりと笑みを返した璃陰は心の中で絶対にこんな大人にはなるまいと誓ったとか。 ●毒をもって毒を制す。 どれ程歩いただろうか。地図の示す村は結構な山奥に存在した。一見すれば何の変哲もないタダの村。 「ここが将太はんの村なん?」 誰ともなしに呟いた璃陰。だがその言葉に誰かが答えるよりも早く、村のあちこちから猛烈な勢いで女性たちが現れ、あっという間に開拓者一行の前に立ち塞がる。しかもそれぞれが手に色々な武器を構えて。 「うわわ、いきなり何ですか!?」 雫が叫ぶと、女性の中の一人がゆっくりと開拓者たちの前へと躍り出た。 「今将太様の名前を口にしたな? 貴様らのような汚らわしい男が将太様の名を口にするな!」 方々から同意を表す言葉や、開拓者たちをけなす言葉が飛んでくる。 「くっ‥‥話を聞いてもらえる雰囲気じゃないなっ‥‥」 既に完全に敵意剥き出しの女性たちにたじろぐ龍鳳。何か一瞬でも彼女たちの頭を冷やすきっかけさえあれば――― 「空太はん! 今こそあんさんの思いちゅーんをぶつけるときやで!」 同様にお姉さんたちに話すきっかけが欲しかった東雲は、咆哮を使うときのような大声ならば、と考え空太のほうに視線を送る。一瞬わかっていなかった空太だが、何かを理解してこくりと頷くと一歩前へ。更に大きく息を吸い込んで――― 「聞いてくれ! 俺も‥‥男が好きなんだぁぁっ!!」 しーん‥‥ 空気が完全に凍りつき、ただただ空太の叫びが山彦のように周囲に木霊する。 アレ程喚いていた女性たちも、目を丸くしたまま空太を凝視して動かない。 更に仲間の開拓者たちもその一瞬で空太から距離をとる。 「あ、あれ? いや、ほらこれはあの女性たちを納得させるために‥‥何で皆も距離取ってるの‥‥?」 よろよろと仲間に近付く空太。合わせて距離を取る一行。 「空太さん‥‥そっちの方だったのですね‥‥」 「人の趣味には口、出せませんしね」 ほろりと涙を流しながら言う雫に、何故か合掌をする勝一。 「世の中には色々な人がいるのでござるな。あ、拙者にはそっちの趣味はござらんよ?」 「俺には近付かないでくれよ?」 片手を差し出してお断り、と言わんばかりのポーズを取る紅蓮丸に、手と首をブンブンと振って全身で拒否を示す龍鳳。更に先程まで開拓者全員に敵意をむき出しにしていた女性たちも、空太の衝撃の告白に同情を示す反応に変わっていた。固まったままの空太の肩に、晃がぽむと手を乗せる。 「‥‥強ぅ生きるんやで」 言われた空太はガクリとその場に膝をついた。 「まぁとにかく、や。これで隙は出来たで! 皆、今やっ!」 東雲の言葉に我に返った一行は、女性集団の最前列へと一気に距離を詰める。 まず女性たちに接触したのは璃陰。女性の一人に近付いた璃陰は相手の着物の裾にしがみ付く様に、更に潤んだ瞳の上目遣いで女性を見上げる。 「わいら‥‥将太お兄ちゃんに大事な話があるねん‥‥」 何故かちょっと頬を赤く染めながら若干視線を逸らす璃陰。相手が少年好きと聞いていた璃陰は、自分の身体を最大限に活かす作戦にでた。そして効果は――― 「‥‥はうっ。あたしこの子もらっていい!?」 「あー、ずるい!あたしも欲しい〜っ!」 抜群だったようだ。 続けて突撃したのは龍鳳。彼はその背の高さから到底幼子に見えるわけではないし、実際の年ももう十五、天儀では一応成人している年齢。しかし彼にはとっておきの武器がある。 「なーなーおねいちゃん、将太って奴と話したいんだけどさぁ‥‥」 「奴ですって!? あなた将太様のことを‥‥何なのよ!?」 「そーよそーよ!」「何よあんた!」など口々に激高する女たち。その剣幕に若干たじろきながらも龍鳳は用意していた言葉を口にする。 「な、何って‥‥運命の人、だよっ」 「運命‥‥美しい男の子がくんずほぐれつ‥‥」 瞬間、何かの電撃が女性たちの身体に走った。元々幼年男子に限りない萌えを抱くほどどうしようもない趣味の女性たち。そこに男子と男子が運命で結ばれているなどという素敵状況が舞い込んでくることにより、彼女たちの妄想が暴走したようだ。顔を真っ赤にして鼻血を吹いて倒れていく女性たち。 そして最後に登場したのは――― 「ふ、普通に行ってもダメなんですよね‥‥それならっ!」 今回この依頼を受けたときから半分自棄になっている勝一は、自分の服をぐっと掴むと一気にそれを脱ぎ捨てる。現れたのは純白の白褌。一瞬で女性たちの視線が勝一に集中する。その瞳はまるで腹を空かせた猛獣のようだ。 「ぼ、僕たちはどうしても将太君に会わないといけな‥‥ってみゃあっ!? ちょっ‥‥放してくださ‥‥」 女性たちの間をすり抜けようと試みた勝一。 だが褌姿の幼年男子というまさしくド直球な勝一を、女性たちが見逃すはずもなく。 「あ、あのっ! だからっ‥‥ってあぁっ!? 頭は撫でちゃダメ‥‥ふにゃぁ‥‥」 「‥‥いくら同じ褌戦隊を名乗ったとはいえ‥‥僕にはあそこまでできない‥‥」 群がる女性たちにもみくちゃにされて骨抜きになる勝一を見ながら呟いた雫。 通してもらうためなら何でもする覚悟だった雫は、その言葉を口に出さなかった自分を初めて褒める気持ちになったとか。 「そんなアンタらにはこれをやろう!」 どこからともなく女性たちの間に入り込んでいた晃は、彼女たちの前に数冊の冊子を広げる。見るとそこには『勝一×龍鳳』や『雫×璃陰』といった文字が並んでいる。 「何で僕たちの名前使われてるんですかっ!? っていうかいつの間にそんなの作ったんですかっ!?」 「それ、頂くわっ!」 「アタシもよっ!」 表紙に載った仲間からの非難の声も虚しくあちこちから手が挙がり、瞬く間に晃の手の中から冊子が消えていく。そして中身を見た女性たちは―――刺激が強すぎたらしくその場に崩れ落ちた。 「一体どんな内容だったのでしょうか‥‥というか僕までどうして‥‥」 次々と倒れていく女性たちにガクガクと震える雫。と、ふと隣を見ると平然とした様子で冊子を捲っている紅蓮丸の姿が。 「‥‥どんな内容でした?」 「つまらぬ話でござるよ‥‥ロリコンの拙者には全くつまらぬ内容でござった」 「そ、そうですか‥‥それは残念でしたね‥‥というかロリコンだったのですね、紅蓮丸さん‥‥」 雫の問いにやれやれと溜息をついて応える紅蓮丸。何故か同時に衝撃的な告白をされたが、雫はあえて気にしないことにした。 ●受け継いだ魂。 ありとあらゆる手段を使って襲い来るお姉さんたちを撃退した一行は、ついに目的の少年、将太の元へと辿り着いていた。くるりとした目に色白の肌、膝上丈の下袴に肘までの上着。まさしく幼年男子の鏡のような少年である。 「君が将太‥‥くん?」 問い掛けた雫の言葉に恐る恐るコクリと頷いた将太。まるで子犬のようなその姿は確かにその筋のお姉さんなら放っておかないかもしれない。 「そうかお前が‥‥お前に会うために俺は‥‥俺はっ‥‥!」 将太の肩をガッシと掴みながら血の涙を流す空太に、将太は意味も分からずただただ涙目。だがその仕草の余りの可憐さに空太は思わずじっと見つめる。 「よく見たらお前、結構可愛いな‥‥」 「‥‥え?」 「はっ!? い、いや、何でもねぇ!」 一瞬どうしようもない欲望に付き動かされそうになった空太は慌てて首を振る。 「えっと‥‥もしかして変態さ―――」 「変態じゃない、兄ちゃんは変態じゃないんだぁぁぁっ!?」 空太の絶叫がどこか虚しく木霊する。 と、そこで龍鳳と紅蓮丸が今回自分たちがここに来た理由を将太に丁寧に説明する。どうやら将太は自分の立場は理解しているようで、特に驚くことはなかったもののその表情は険しい。一通り話し終えた二人は、将太の顔を見てふっと微笑んだ。 「どうするかは将太殿次第でござるよ。拙者たちは将太殿を無理に連れて行くつもりはないでござる」 「そうそう。ここの生活が気に入ってんなら残ってもいいんだ」 優しげに声を掛ける龍鳳と紅蓮丸。将太はふと、自分を護ってくれていた女性たちの方に目を向ける。 「えぇか、真の腐女子っちゅーんはやな‥‥」 晃が女性たちの前に立ち何やら熱弁を奮い、それを熱心に聴く女性たち。その様子に苦笑を隠せない龍鳳と紅蓮丸に「大事には思ってくれてるんです」と将太は笑う。 「でも‥‥この褌を背負う者としてはやはり‥‥」 「はっはっは! 心配には及ばない!」 表情を曇らせて呟いた将太の耳に高らかな笑い声が飛び込んでくる。声のほうに視線を移すと、そこには白褌に仮面姿の勝一の姿。更に驚く将太の後ろからぬっと手が伸びてきて将太の身体に絡みつく。手の主は東雲。驚いた顔の将太の頬に指を滑らせにこりと微笑む。 「大丈夫や、俺に任せとき? ほら、そない固くならんと‥‥な?」 「あっあの‥‥あっ」 「ほら‥‥暴れたらあかんて」 「そこはダメですっ‥‥!」 声だけを聞いていると最早何をしているのかわからなくなりそうな薔薇色の雰囲気。 そんな二人を指差して「アレが美慰衛留(びいえる)の真髄や!」と訳のわからない説明をする晃に、女性たちの黄色い歓声があがる。 そうこうしているうちにするりと手を忍ばせて将太の褌を剥ぎ取った東雲は、そのまま褌を勝一の方へと手渡す。 「何やったら穿かせたろか?」 「激しく遠慮する‥‥」 東雲の誘いを全力で拒否した勝一は受け取った褌を素早く装着する。振り返った勝一の腰元には『庶汰』の文字が書かれた褌が。 「褌受け継ぎ、おめっとさんや」 「見事な褌であるな‥‥拙者もいつか‥‥」 「はっはっは、もうどうにでもなれー」 にやにやしながら拍手を送る東雲、羨望の眼差しを送る紅蓮丸、そして涙目で自棄になった勝一。それぞれの反応で受け継いだ褌を祝福する。一方褌を脱がされた将太がもじもじとしていると、璃陰が傍に来て一枚の褌を手渡した。 「あ、ありがとうです‥‥」 「うぅん、えぇんよ。それより将太はん‥‥」 「はい、何ですか?」 「‥‥将太兄やん、って呼んでもえぇかな?」 今度は璃陰がもじもじとしながら言葉を紡ぐ。頬を赤く染めたあどけない少年二人が、若干上目遣い気味で見つめあう――― 「わかるか、これがかっぷりんぐっちゅーヤツや」 「なるほど‥‥」 二人を観察しながら無駄にアツく語る晃と、これまた熱心に聴く女性たち。 ここにもまた、一つの特殊な関係が築かれているようだ。 「危うく危ない道に進んでしまうところだった‥‥さすがは褌八将軍というところか‥‥!」 「いえ、それは関係ないと思います‥‥」 拳を握り締めてわなわなと震える空太に、嘆息交じりに突っ込む雫。雫の言葉にくるりと振り返った空太の顔はどこか疲れた表情をしていた。 「‥‥変態じゃ、ないんだ‥‥」 将太に言われた言葉が少しショックだったのか涙目の空太。雫は、遠くを見つめたままただ空太の肩にぽむと手を乗せた。 「きっといつかご加護がありますよ‥‥フンドシの‥‥」 呟いた雫の言葉はただ静かに宙に流れ、誰の耳にも届くことなく霧散した。 〜了〜 |