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■オープニング本文 夕暮れ時。 蒸し暑い夏が終わりを告げ、残暑もそろそろなりを潜め始めるこの時期は、天儀の中でも最も過ごしやすい時期の一つではないだろうか。とはいえ昼夜の温度差が激しいのもまた事実。 「う〜、ちっと冷えてきたな‥‥」 ぶるっと身を震わせた男は思わず自分の肩を抱き締める。 この男の名は勝次。彼はこの街、仁生で宿を営む中年の男だ。 北面の中でも特に交易が盛んなこの仁生では、日々各国からの商人が街にやってくる。その商人たちは名産品やら朝廷への献上品やらを持って訪れるため、日帰りで帰るということは滅多にない。となれば当然宿は必須。勝次の店も小さいながらそれなりに繁盛していた。 「旦那様、お体に触りますよ?」 勝次の隣で苦笑した男は、自分の持っていた上着をそっと差し出した。 「おう、すまねぇな丹助」 にかっと笑って上着を着込む勝次に男―――丹助は微笑を浮かべる。 言葉から察するにお付の者なのだろう。 「にしてもまた戦か‥‥今の国力じゃ厳しいな」 「えぇ‥‥しかも今度は随分大きな規模の戦になるようですしね」 勝次の言葉に神妙な面持ちで応える丹助。 今回突発的に起きた戦のために不足がちな物資を商人組合から援助して欲しいと、朝廷からお達しがあったのだそうだ。組合としてどうするかを議論するため、二人はこうして呼び出されていたのだ。結局差し出せる物資は限られるが、できることは協力しようという方向で話は纏まったのだが。 しばし無言のままで歩く二人。と、自分たちの宿まで後少しというところで、道の真ん中に蹲る影が一つ。 顔を見合わせた二人はすぐさま近寄る。綺麗な着物と黒く美しい髪から女性であることがわかる。 「もし、大丈夫ですか?」 言いながら女性の肩に手を乗せた丹助だったが、女性から立ち昇る不思議な香りに思わず眉を潜めた。ひどく甘いその香りは、一瞬丹助の意識を朦朧とさせる。次の瞬間、丹助はガッシリと腕を捕まれてはっと我に返る。 「‥‥痛っ!」 「おい丹助!」 捕まれた腕がギリギリと締めつけられて激しい痛みを覚える丹助。 様子がおかしいと声を掛けた勝次。 二人が目の当たりにしたのはゆらりと振り向いた女の顔。 目鼻がなくのっぺりとした顔に、歪んだ黒い唇がついているだけ。そして唇から覗くのは真っ黒な鋭い歯。更にその口がくぱぁと開き、見る見るうちにその大きさを増していく。 「う、うわ―――」 大声で叫ぼうとした丹助の声は、一瞬で女の口のの中に吸い込まれていった。 無残にも下半身だけが残された丹助の身体。 頭が真っ白になった勝次は踵を返してただひたすらにその場から逃げ出した。 「お歯黒の女のアヤカシ、か」 『粋』と書かれた半被姿の受付係は煙管をぷかりと吹かすと、手元の紙に視線を落とす。 今回の依頼主でもある商人組合からの手紙だ。届けに来たのは勝次。 「俺は見たんだよ、この目で! しかもうちの丹助が犠牲になってる。それにうちだけじゃねぇ、組合の中には他にも犠牲者が出てんだよ」 必死に懇願する勝次。 アヤカシとあればギルドの、開拓者の出番である。 それに北面の首都である仁生の中でアヤカシがいるとなっては人々が安心して暮らせるわけもない。 「じゃあ依頼として受けさせてもらうぜ。ただし、今各地でアヤカシの動きが活発化してるせいで、ギルドも手一杯なんでぇ。万が一のときは‥‥了承してくだせぇ」 言いながら受付係は依頼状をしたためてギルドに貼り付けた。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
九重 除夜(ia0756)
21歳・女・サ
天寿院 源三(ia0866)
17歳・女・志
睡蓮(ia1156)
22歳・女・サ
忠義(ia5430)
29歳・男・サ
ブラッディ・D(ia6200)
20歳・女・泰
大友義元(ia6233)
22歳・男・弓 |
■リプレイ本文 ●仲間と共に。 北面の首都、仁生。 未だ国力の安定しない北面において比較的商流の盛んなこの街では、街に住んでいる人間だけではなく余所から訪れる者も少なくない。当然その多くは商いを生業とする人間が多く、それらを束ねるために商人組合なるものまで存在している。今回被害にあった宿を営む勝次も組合に所属する商人の一人だ。 依頼を受けた八人の開拓者たちは、一先ず組合に足を運び状況を確認することにした。 「おぉ、あんたたちかい。今回はよろしく頼むよ」 「拙者は天寿院と申します。宜しくお願い致します。」 待ってましたとばかりに駆け寄ってきた勝次に、丁寧に一礼をする天寿院 源三(ia0866)。合わせる様に他の面々もそれぞれに礼をする。 「ん‥‥ぜんりょく、つくす、よ?」 どこかたどたどしい口調で言いながらもその細い右腕で力瘤を作ってみせる睡蓮(ia1156)に、勝次は若干の不安を覚える。そんな勝次を安心させるかのように肩に手を置いたのは天津疾也(ia0019)。 「大丈夫や。開拓者っちゅーんは色んな人間がおるだけや。それにもろてる分ぐらいの働きはさせてもらうで」 そう言って右手の親指と人差し指で輪を作ってにかりと笑う疾也。その仕草に商人の魂を感じた勝次も釣られて笑う。 「それで‥‥お歯黒の女のアヤカシを退治してほしいとのことですが」 「あ、あぁ。これを見てくれ」 天寿院の言葉に勝次が慌てて一枚の紙を取り出した。見るとそれは仁生の地図のようだ。 一本の大きな通りが東西と南北に一本ずつ、それを中心にいくつかの通りが伸びている。そして地図には赤い丸が三箇所につけられていた。 「これが襲われたという場所かしら?」 覗き込んだ葛切 カズラ(ia0725)の言葉に勝次はこくりと頷く。その印の一つの近くに遊郭らしき物を発見したカズラは思わず眉を潜める。 「無粋な誘い方もあったものね‥‥これじゃ勘違いされちゃうじゃない」 「‥‥何をっスか‥‥」 何故か若干怒り気味のカズラに大友義元(ia6233)は呆れ気味に苦笑する。 「何をって‥‥ふふ、知りたい?」 意味ありげな笑みを浮かべながら迫ってくるカズラに義元は首をぶんぶんと振って後退りした。 そんな仲間のやり取りを見ながらどこか別のところに思いを馳せる者が一人。 「ったく面倒ですなぁ、こんな街中でアヤカシとは‥‥夜とはいえ万が一あのクソガ‥‥失礼、御嬢様になんかあったら‥‥」 一人ブツブツとしゃべる忠義(ia5430)。どうやら自分が捜し求める子供が今回のアヤカシの被害にあわないかと心配しているようだ。独り言にも関わらず間違った呼び方に対して謝罪するのは、もう半分癖になっているせいかもしれない。 「さて、準備は怠らぬ方がよいか」 くるりと振り向く九重 除夜(ia0756)のその姿は深紅の甲冑に覆面。 「その格好で他に準備するとこあるんか‥‥?」と突っ込む疾也を余所に、除夜は渡された地図をじっと眺める。 依頼を受けた時に得た情報、そこで開拓者たちは既に次の襲撃先を予測していた。 「では手筈通り、可能性の高い場所二手に分かれての行動、ということでよろしいですか?」 天寿院の言葉に頷く一同。 開拓者たちがつけた目星―――それは現在襲撃がされていない北側、そして南側でも大通りから東に伸びる細い路。 「まぁ俺らは初任務っスから、先輩方のお手並み拝見といくっスよ。ねぇブラッディさん?」 「あぁん? 俺は殺し合いができりゃそれでいいさ。それと気安く呼ぶな近寄るな」 へらりと笑う義元に容赦ない言葉を浴びせるブラッディ・D(ia6200)。だが言葉とは裏腹に湧き上がる高揚感に、ブラッディは緩む口元を押さえきれずにいた。 「大丈夫‥‥なんですよね?」 そんな一行の様子に、ますます不安を覚えた勝次が恐る恐る尋ねる。勿論尋ねた先は疾也。 「大丈夫や。あんなんにうろつかれたら商売上がったりやろ? ちゃっちゃと片付けてくるから待っといてや」 親指をぐっと上げて応える疾也に少し安堵した勝次は、再び開拓者たちに向けて一礼した。 ●北側の怪。 二手に分かれた開拓者たち。 目星をつけた北側を担当したのは疾也・忠義・ブラッディ・義元の四人。 ただでさえ薄暗いこの通り、既に夕刻を過ぎているということもあり視界は余りよくはない。 「まぁこんだけ人が少なけりゃ誰かいりゃすぐわかりますわな」 「せやな。今んとこ特にそれらしい影も見当たらんし‥‥」 松明に火を灯しながら言う忠義に、心眼で周辺を探っていた疾也も同意を示す。 生物反応しか見れない心眼ではアヤカシの捜索には不向きではあるが、人通りの少ないこの路ならば、こちらに向かってくる気配があればそれでわかる。 「何だ、まだ出てこねぇのか。つまらねぇな」 二人のやり取りを後ろから耳にしながらブラッディは不満そうな声を上げる。 さらにその後ろ、最後尾からついてくる義元は後方に注意を払いながら辺りを見回す。 「奴さん、話しかけねぇと動かねぇってわけでもねぇんでしょうや。博打だろうが夜討ちだろうが、背中を見せたらがぶりってねぇ‥‥何とも物騒な化けモンだこって」 「ギャハ! 俺は何でもいいぜぇ? 殺るか殺られるかの瀬戸際の勝負ができりゃあ何でもなぁ!」 義元の言葉にブラッディは箍の外れた笑いを浮かべる。 仲間とはいえブラッディの狂気じみた姿に、敵よりも味方の方が怖いと思う義元だった。 「それにしても‥‥辛気臭いところやなぁ。一応気配はいくつかあるけど‥‥何や気持ち悪いわ」 疾也の言葉。確かに人通りの少ない裏路地ともいえるこの場所は決して気持ちがいい場所ではないだろう。 「こんなとこに迷い込んだら‥‥チッ。やっぱ面倒臭ぇが不安の芽は早めに摘んでおいた方が無難か」 「何の不安や?」 忠義の呟きに疾也が首を傾げる。 「何でもありやがりません。こっちの話ですんで」 「‥‥どーでもえぇけど、ちょっと言葉遣いおかしいで?」 応える忠義に苦笑する疾也。確かに忠義の敬語は偶に敬語とは言えないような言葉に変貌しているときがあるのだが。 言われたほうの忠義は少しの間沈黙し、「おかしい‥‥ちゃんとお館様に教わったんですがね‥‥」などと呟いていた。 三十分程捜索していた四人。だが日が落ちた北通りには人影はない。 「こりゃこっちは外れっスかね‥‥」 すっかり暗くなった通りを見ながら頭を掻く義元の声に落胆の表情を浮かべたのは勿論ブラッディ。 「あー‥‥俺のこの滾った気持ちはどーすりゃいーんだよ」 言いながら舌打ちするブラッディ。だがそんな彼女の不満を解消するかのような声―――天まで伸びるかと思うほど澄んだ獣の叫びのような声が、夜の街に木霊する。 「どうやら向こうが当たりみたいですなぁ」 「みたいやな」 顔を見合わせた四人は一斉に移動を開始する。 目指すはもう一班がいる場所――― ●南側の怪。 一方の南側。 街の東西に伸びるこの路では大通りを挟んで東と西に分断されている。既にこの西側ではアヤカシの襲撃が確認されているため、東側を重点的に捜索するカズラ・除夜・天寿院・睡蓮の四人。 「歯黒‥‥か」 ぼそりと呟いた除夜。 覆面のせいで思考が読めない除夜だが、何か思うところがあるのか、じっと仄暗い通りのほうに視線を送っている。 「にしてもどうしようかしら? 結局どういう手段で襲ってくるとか、そういう情報ないのよね」 手を頬に当てて溜息をついたカズラにこくこくと頷く睡蓮。 「とりあえず、すわってるひと、きる?」 「い、いえ! それはさすがにまずいと思うのです‥‥!」 かくりと首を傾げながら刀の鯉口を切ってみせる睡蓮に、慌てて制止する天寿院。 「なぜとめる、げんぞー」 「あの‥‥できれば下の名前は‥‥」 親につけてもらった名前とはいえ、やはり自分の名前に抵抗のある天寿院は涙目で訴える。 一方の睡蓮は何が悪いのか自体をわかっていない。本人は至って真面目、同じ依頼の仲間故に親しみを込めて呼んだ、ただそれだけなのだ。 「‥‥なにか、いけない?」 再びかくりと首を傾げる睡蓮。しばらく見詰め合った二人。負けたのは―――天寿院だった。無邪気な言葉には何を言っても勝てないのかもしれない。そんな二人を羨ましそうにカズラが見つめていた。 「若いっていいわねぇ‥‥」 女性ばかりというせいもあるかもしれないが、今敵の標的になるかもしれない場所にいるとは思えないほどの緊張感で路を進んでいく四人。と、ある地点で前方に人影が見える。腰辺りまで伸びている髪を揺らしながら歩くその影は、着物などからどうやら女性のようである。確認した四人は顔を見合わせて頷く。既に日が落ちたこの時間にふらふらと歩き回る女性など、そういるものではない。だが後姿だけでは確定したわけではない。攻撃を仕掛けるには確認する必要がある。四人はふらふらと歩く人影に近寄っていく。 「もし‥‥どうされましたか?」 声を掛けた天寿院。だがその周囲に漂う不思議な香りにすぐ足を止める。事前情報にあった不思議な香り―――予防のためにと予め口元を手拭いで覆っていたのが功を奏した。 「いけないっ! この香りは‥‥!」 慌てて他の仲間を制する天寿院。それが何を意味するのかは仲間たちにすぐ伝わった。 同時に除夜が大きな、しかし済んだ声を伸ばして『咆哮』を放つ。それは同時に離れた仲間への合図となる。 一瞬遅れて振り向いた人影、それは目と鼻のない漆黒の口だけの顔―――アヤカシだ。 アヤカシはその黒い口をぱかぁっと開くと、そのまますぐ傍にいた睡蓮に襲い掛かる。それをスラリと抜き放つ刀で受け止める睡蓮。その隙に天寿院は『横踏』で距離を取りながら抜刀、除夜は逆に刀を抜いて距離を詰める。 「なかまがくるまで、わたしていどで、どこまでもちますかね」 言いながらふっと息を吐いた睡蓮は瞬間的に高めた力でアヤカシを吹き飛ばす。 それに合わせて天寿院も正眼に近い形で刀を構え、そのまま速度を高めて切っ先をアヤカシに突き出す。だがアヤカシは驚異的な脚力でその場から跳躍すると、近くの建物の上へと着地。そのまま再び上空から開拓者たちに襲い掛かってくる。 「一刀の元に断たせてもらう!」 飛び掛るアヤカシを両断しようと斬撃を繰り出す除夜。しかし想像以上の速さにその一撃が当たらない。 「だったらこれでどうかしらっ!」 下がっていたカズラが印を組み、何故か胸の谷間に挟み込んでいた符を投げ放つ。宙に放たれた符はうねうねと不可思議な動きと共に数本の触手も持った生物となってアヤカシ目掛けて飛来する。だが触手はアヤカシの動きにはついていくことができず宙を切る。更に食い下がって睡蓮と除夜の斬撃、そして天寿院の刺突がアヤカシを狙う。 こちら側に被害が出ることもない。が、相手を仕留めることも叶わず。一進一退の攻防が続き、開拓者の方に若干の疲れが見え始める。このままでは―――そう思ったその時、二本の矢が風を切って飛来した。 ●決着。 「何とか間に合ったか〜!?」 聞こえてくる疾也の声。 同時に忠義の手から放たれた手裏剣がアヤカシを狙う。素早さでそれを避けるアヤカシ。だが移動先に先程手裏剣を放ったはずの忠義の姿が。驚いた―――かどうかはわからないが、とにかく瞬間動きが止まるアヤカシに忠義はショートソードを薙ぎ払う。反応が遅れたアヤカシの右腕を切り裂いた忠義は、『早駆』を使用して再びその場から姿を消す。苦悶の声を上げるアヤカシに更に追撃。 「近付かなけりゃ怖くねぇってね!」 叫ぶ義元が放った矢はアヤカシの胴に突き刺さる。アヤカシは完全に人の域を逸脱した動きで首をグルリと回転させて顔を義元に向ける。だがその横には既に距離を詰めていたブラッディ。移動と同時にアヤカシの腹を目掛けて拳を放つ。アヤカシは一旦その場から離れて標的をブラッディに変更する。 「ギャハハ! いいねぇこの緊張感! この殺気! 狂犬にゃふさわしいぜぇっ!」 笑うブラッディとアヤカシは同時に地を蹴って互いの距離を詰める。アヤカシの初撃。身体を沈めてかわすブラッディ、その身体が深紅に染まる―――泰拳士独特の技、『泰練気胞・壱』。ブラッディはそのままアヤカシの足元を掬うように蹴りを放つ。不意をつかれた形になったアヤカシはバランスを崩してその場で転倒。ブラッディはそのままアヤカシから離れる。 「ギャハッ!今だ、ぜ!」 「任せて! ふふ、こうなれば縛りたい放題ね!」 ブラッディの声に応えたカズラは数枚の符をアヤカシ目掛けて一気に放る。放たれた符は大きな目玉のやはり触手の生物。それがアヤカシの身体にうねうねと纏わりつく―――どうやら呪縛符のようだ。 「今よ、縫い付けて!」 「よっしゃあ、任せとき!」 「わかったっスよ!」 疾也と義元の弓から放たれた矢はアヤカシの身体を地面へと縫いつけるように突き刺さる。 そしてそこに迫るのは睡蓮・除夜・天寿院の三人。まずは天寿院。 「はあぁっ!」 気合一閃。跳躍した天寿院は両手で握った刀の刃をアヤカシごと地面に突き刺す。 続けて睡蓮。 「いちげき、おもい、よ?」 全ての力を込めて大きく振り上げた刀を、アヤカシ目掛けて一気に振り下ろす。轟音と共にアヤカシは地面にめり込むように叩き付けられ、声にならない悲鳴をあげる。そして最後は除夜。アヤカシの目の前で腰を低く落とし、手にした業物を最上段に構えると意識を集中。 「散るがいい。来夜流、月別、終の崩し―――雲断」 口上と共に振り下ろした刃は、真っ直ぐにアヤカシの身体を両断。断末魔の叫びを上げたアヤカシはその姿を黒き霧に変貌させ宙に帰った。 ●全てを終えて。 「ふぅ‥‥これで終わりかしらね?」 跡形もなく消え去ったアヤカシを確認したカズラが息を吐く。 「これも皆で力を合わせたこその勝利、ですね!」 嬉しそうに言う天寿院に、睡蓮もこくこくと頷く。 「やれやれ、これでクソガ‥‥失礼、御嬢様の捜索に戻れますなぁ」 「クソガって何や?」 嘆息した忠義の言葉にいつも入るクソガ、が気になる疾也は尋ねてみるが、忠義は「気にしやがらないでくだせぇ」と面倒臭そうに返すばかり。 「ふぅ。一博打終えた後はやっぱコレですなぁ‥‥先輩方もどうっスか?」 一人持ってきた酒を飲み始める義元に一行は苦笑を浮かべる。 それぞれが思い思いの感情を抱きながら武器の手入れなどを始める。と、そこで除夜が何かを思い出したのか仲間の方へと振り返る。 「歯黒をしていたのなら旦那がいたかもしれんな‥‥ん、何故こちらを見る?」 「なんつーか‥‥いや、何でもねぇ」 ぼそりと呟いた除夜の一言にブラッディが何かを言いかけて止めた。 人にはきっと色んな過去があるのかもしれない―――そんなことを思いながら、一行は勝次の下へと足を進めた。 〜了〜 |