【お心】怨恨の連鎖。
マスター名:夢鳴 密
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/10/30 15:46



■オープニング本文

 ひどく鬱蒼とした森の中を、一人の男性が黙々と歩を進める。
 その両手には大きめの布をかけられた小さな少年が抱えられていた。
 少年はその服装からどこかの道場の生徒であったことがわかる。
 抱えた男性はゆっくりと、しかし確実な一歩を刻みながら森の奥へと進んでいく。
「宇衛門様!」
 その後ろから女性の声が響き、宇衛門と呼ばれた男性はのそりとその顔を声の方へと向けた。
 立っていたのは小奇麗な着物に身を包んだ一人の女性。
「お心さん‥‥」
 まるで人が変わってしまったかのように暗い顔をした宇衛門が呟く。
 その様子に女性―――お心は思わず目を背けたくなる。
 元々は芯の通った、真っ直ぐな目をした剣士だった宇衛門。
 お心の許婚が無くなった後、彼の後を継いで道場の師範代となったものの、やはり自分の力不足か門下生が一人になってしまった。そしてそのたった一人の門下生も今―――
 男は今、己の無力さと目の前で起きた絶望と腕の中の冷たい感触を一度に味わっていた。
「‥‥太一を、ちゃんと葬ってやらないと‥‥」
「宇衛門様‥‥」
 何か声をかけようとするお心。だが言葉が続かない。
 この結果を生んでしまったのは間違いなく自分ではないかと思ってしまうから。
 例え自分の手にかけたわけではなくとも、間接的にかけてしまったようなものだから。
「力‥‥私にもっと力があれば‥‥」
 空っぽの瞳の中に澄み渡る空を映して、宇衛門はうわ言のように呟く。
 そうして再び森の奥へとゆっくりと歩を進める。
 追うべきなのか、そっとしておくべきなのか、迷うお心はその後を追うことができずにいた。
 追いついたところで彼女がかけれる言葉などない。目の前で同じ状況にいたらきっと彼女も同じようになっていたと思うから。
 だがこの時お心は気付いていなかった。
 宇衛門の心の中に渦巻くどす黒い感情と、全てを賭してでも成し遂げたい思い。
 そして、その宇衛門の感情を静かに狙う異形の存在に―――


「果たし状だぁ?」
 背中に『粋』の字を背負った半被姿の受付係は、目の前にいる商人風の男に声をかけた。
「あぁ。ある村でさ、一人のお侍さんに開拓者ギルドにって渡されたんだよ」
「物好きなのがいたもんだねぇ」
 言いながら受付係は苦笑いを浮かべる。
「地図はそこにおいてあるからそれを参考にしてくれ。確かに渡したからな。んじゃあっしはこれで」
 それだけ言い残して商人はギルドを後にする。
 残された受付係は再度渡された封書に目を落とす。表にはでかでかと『果たし状』という文字が。差出人の名はない。だが受け取った場所の地図に目を通した瞬間に、差出人が誰なのか、また何故開拓者になのかを理解する。
「‥‥ギルドの落ち度、か」
 珍しく重い表情で呟いた受付係は、封書の口を静かにあけた。


果たし状

  村の外れにある小鷹の森の砦にて待つ。

                        宇衛門
 


■参加者一覧
一條・小雨(ia0066
10歳・女・陰
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
六道 乖征(ia0271
15歳・男・陰
高遠・竣嶽(ia0295
26歳・女・志
中原 鯉乃助(ia0420
24歳・男・泰
柄土 神威(ia0633
24歳・女・泰
時任 一真(ia1316
41歳・男・サ
喪越(ia1670
33歳・男・陰


■リプレイ本文

●心中。
 果たし状を受けて件の村へと赴いた開拓者たち。
 だが当然のことではあるが、その心中は穏やかなものではなかった。
「久しいな‥‥と言いたいところだが」
「あぁ‥‥出来りゃもちっと晴れやかな気持ちで来たかったが‥‥仕方ねぇさ」
 言葉を濁す風雅 哲心(ia0135)に中原 鯉乃助(ia0420)が頷く。元々お心に最初に関わった哲心と鯉乃助、短い言葉の間にも様々な思いがあるのだろう。
 そして同様にやり切れない思いを抱えている者がもう二人。
「真っ当に生きてきたつもりだったけど、それでも「開拓者」としてのこの手が血で塗れることはある、か」
「えぇ‥‥悔やんでも悔やみきれませんが‥‥だからと言ってこのまま放ってはおけません」
 空を見上げながら呟いた時任 一真(ia1316)。応えるように決意を吐いた高遠・竣嶽(ia0295)。哲心を含めた三人は事件の当事者でもある。自分達が直接手を下したわけではない。だが止めれなかったという自責の念が纏わりつく。
「久しぶりやと思たら何やえらい難儀なことになってんなぁ‥‥」
 いつもは陽気な一條・小雨(ia0066)の顔にも苦い表情が浮かぶ。小雨もまたお心とは村の祭りで顔をあわせている。そんな小雨の横で符を弄ぶ六道 乖征(ia0271)。
「ん‥‥これ以上‥‥悲しい想いを重ねたくないね‥‥」
「せやな」
 途切れ途切れではあるがしっかりとした意思の言葉を吐く乖征に小雨もこくりと頷く。
 と、そこで村の中で予め情報を集めていた二人が姿を見せる。
「どうだった?」
 尋ねる哲心に喪越(ia1670)は落胆の溜息と共に首を横に振る。
「ダメだな。あの事件以来村じゃ宇衛門の姿を見た人はいねぇみてぇだ。それに蛟って奴もそのナリを完全に潜めてら」
「私はここ最近で起きた事件について調べていたのだけれど‥‥ちょっと気になることがありました」
 続ける巫 神威(ia0633)の口からは最近小鷹の森で行方不明者が続出しているという情報が告げられる。
「‥‥気になりますね」
 唸る竣嶽。自棄になった宇衛門が人質に攫った可能性も考慮に入れていた開拓者たち。ただでさえお心が恐らく近くにいるはず。これ以上何かあっては開拓者たちの気持ち自体もやりきれない。顔を見合わせて頷く一同は、すぐさま小鷹の森へとその足を速めた。
 哀しみの連鎖を、ここで断ち切るために―――

●お心。
 果たし状にあった砦に向かった仲間とは行動を別にした鯉乃助と小雨。二人の目的は恐らく近くにいるであろうと思われるお心の捜索。だが捜索するまでもなく、村から少し離れた場所にお心はいた。呆然とした表情で立ち尽くすお心は、近付く二人の存在に気付いて視線を移す。
「‥‥何を、しに来られたのですか」
 お心の今までとは別物のような淡々とした言葉。その様子に鯉乃助は顔を歪める。
「おいらが言う台詞じゃないかもしれねぇが‥‥回の事は本当にすまなかった。謝ってどうにかなる事じゃないってのは分かってるが、謝らせてくれ‥‥」
「‥‥謝らなくても結構です。元はといえば私が招いた事態、それに太一くんはもう‥‥」
 深々と頭を下げる鯉乃助から視線を外して呟くお心。
 元々謝って許してもらえるとは思っていなかった鯉乃助は懐からギルドから借りてきた果たし状をお心の前に差し出す。
「無理を承知で頼みがある。宇衛門を止めるのを手伝ってくれ」
「‥‥私が止める必要はありません。それに私だって‥‥」
「いや、果し合いを止めろってことじゃない。それに開拓者を恨むならそれも構わねぇ。それだけのことをしたんだしな‥‥だけどよ、恨みが強すぎて何時かの人斬りみてぇになるんじゃねぇかって、それが心配なんだ!」
 鯉乃助の強い言葉にお心は返す言葉を失う。
 お心だって開拓者を恨んでも仕方がないことぐらいはわかってはいるのだ。それに鯉乃助の言う通り、今の宇衛門は正気ではないだろう。だが理解はしても湧き上がる気持ちだけはどうにもならない。一人葛藤するお心。
 と、今まで一連を見守っていた小雨が口を開く。
「なぁお心はん。お心はんは結果的に太一を死なせてしもた思て、自分を責めてるんやろ」
 小雨の言葉に鋭い目で睨みつけるお心。その通りではあるが、死なせた相手から言われる言葉ではない。
 だがそれはお心が自分の言葉に耳を傾けるようにと狙ったこと。
「わかっとる。うちらに言われとぅないんやろ? せやけどな、このままやったら宇衛門はんは取り返しのつかんことになるで? 今宇衛門はんを救えるんは同じ哀しみ背負ぅとるお心はんしかおらへんねん」
 黙って唇を噛み締めたまま俯くお心。
 お心が宇衛門の足枷となるようにという意味を込めての言葉、小雨の狙いはそこにある。真っ直ぐなお心にとっては痛すぎる言葉だ。だがお心の心自体は確実に動きつつあった。そして―――
「頼む! おいらたちのためじゃなく、宇衛門のために力を貸してくれ!」
 頭を地面に叩きつけて土下座する鯉乃助。その額から熱い雫が零れ出るのがわかる。
 しばしの間の沈黙。
 やがてお心は鯉乃助の傍に近寄ると、そっと手拭いを差し出し一言呟いた。
「‥‥行きましょう」

●周辺警戒。
 一足先に砦に向かった六人の開拓者たち。そのうち、哲心・乖征・神威の三人は砦の周辺に不穏な影がないかを確認すべく探索を開始する。
 哲心の心眼に引っ掛かった気配に乖征が人魂を飛ばす。近くに行方不明者が続出しているならば、アヤカシの仕業か、宇衛門が人質に取った可能性が考えられたが、アヤカシの姿らしきものは一向に見つからない。ならばと心眼で砦内を探ってみるが、仲間の気配以外はバラバラ。小動物か何かもいるのだろう、それらは忙しなく移動している。唯一動いていないのは一箇所だけ―――恐らく宇衛門。
「‥‥妙だな」
 顎に手を当てて呟く哲心。
 宇衛門が人質にとっているならばそれは確実に砦内にいるはずなのだが、どうもそうではないようだ。それはそのまま他の仲間がいるという可能性も否定される。かといってアヤカシの姿が近くにあるわけでもない。
「ん‥‥ほんとに果し合い‥‥するつもりなのかな‥‥」
 首を傾げる乖征。
「でも‥‥明らかに勝ち目がないのは明らかですよね」
 神威の言葉に二人も頷く。
 事件のきっかけを作った蛟は元々開拓者。志体を持った者が力に溺れた末路が彼の姿だ。だが宇衛門は志体を持たない。力のない者が力ある者に勝利するためには―――
「力を得るか、相手に力を使わせないようにするか、数で押すか。そのどれかをしてくるはずなのだが‥‥」
「今のところ‥‥数はない、よね‥‥」
 哲心の言葉に乖征が続ける。
「人質の線もないみたいですし‥‥他に私たち開拓者が攻撃を躊躇するような事ってあったかしら?」
 さすがに今回はいつものようにのんびりとしているわけにはいかない、と珍しく真剣な表情で悩む神威。
 三人は念の為捜索を続けながら必死に相手の立場で考え続ける。
 だがいくら探しても志体を持たぬ一般人が開拓者に勝てる手段は思い付かない。
 残されているのは砦の中で罠を仕掛けてくる可能性、そして。
「身を犠牲にするならば―――アヤカシ、か」
 確かにアヤカシに憑依された人間は、信じられない力で襲ってくることがよくある。
 だがそれは同時に既にアヤカシに食われているということになる。
 最も嫌な展開に哲心は思わず舌打ちする。
「んん‥‥もう少し探して‥‥何もなかったら‥‥砦の中に行こう‥‥」
 乖征の言葉に頷く二人は逸る気持ちを抑えながら再び捜索を開始した。

●邂逅。
 一方、砦の中に入った竣嶽・一真・喪越の三人。
 罠の存在を警戒して竣嶽と一真で前方を、喪越が天井に注意をしながら慎重に進む三人。だが内部に入って僅か数刻。大き目の広間の中心に目的の人物はいた。
 一真と竣嶽には見覚えのある姿、だが今は笠を目深に被っているためその表情までは見えない。
「待っていましたよ‥‥」
 抑揚のない声で呟く宇衛門は、手にしていた刀をスラリと抜き放つ。
「宇衛門さん‥‥やめましょう。復讐は何も生みません。太一様の件は‥‥償うためであれば何でもする覚悟です。ですから―――」
「太一を‥‥返してください」
 何とか自分達の思いを伝えようとする竣嶽は宇衛門の一言で言葉を失う。
「結局‥‥受けなきゃどうにもならないんだよねぇ」
 一歩前に出た一真、こちらも腰の二刀を抜き放つ。
 だが一真の中では刀を振るうことなど考えていない。というよりは一真自身、受けたはいいがどうしてやるべきかわからないまま刀を握っている。
「返せないなら‥‥あなたたちの命、貰い受けます」
 声を吐くと同時に地を蹴った宇衛門は一気に加速して一真の目の前に迫る。その速度はとても常人の物ではない。初撃。乾いた金属音が響き一真の二刀と宇衛門の刀が交差する。
「よく‥‥受けれましたね?」
「一応、最悪の結果も考慮にいれてたからねぇ」
 驚いたと言わんばかりの声を上げる宇衛門に、正直やりきれない気持ちで一杯の一真。
 今回最初からこの結末を予測していたのは、ひょっとすると一真だけだったかもしれない。
 その証拠に成り行きを見守っていた竣嶽と喪越は初撃の余りの速さに驚きを隠せないでいた。
 一真は受けた刀を弾くと、そのまま宇衛門の顔目掛けて刀を振るう。斬るつもりはない。狙いは―――
 パサリという音と共に宇衛門の頭から笠が落ちる。
 その下から現れたのは一真も竣嶽も良く知る顔。だがその瞳には既に生気がない。
「くっ‥‥喪越様!」
「わかってるYO! ちくしょう、ほんとに最悪だぜ!」
 確認した瞬間刀を抜く竣嶽、そして呼子笛を鳴らす喪越。
 一方の一真は相手がアヤカシであるとわかっても、攻撃ができないでいた。
 近くにお心がいる。お心の前で理由はどうあれ宇衛門を斬る所を見せてはいけない。その想いから一真は防御しかできていない。そしてそれがわかっているために竣嶽と喪越も介入するタイミングを見出せない。
 そこで離れていた鯉乃助と小雨、そして砦周辺にいた哲心・乖征・神威も合流。
 目の前で斬り結ぶ一真と宇衛門を見て瞬時に状況を把握する。そして―――
「宇衛門‥‥様?」
 呆然としたお心の声が、虚しく砦の中に木霊する。

●決着。
 砦の中に流れる澱んだ空気。
 既に幾度となく宇衛門の攻撃を受けている一真は、片膝をついて刀を支えに息を荒げる。
 対峙する宇衛門はお心に気付き、その生気のない顔に笑みを浮かべる。
「あなたは‥‥一体‥‥」
 よろけるように一歩前に出るお心。
「力を‥‥どうしても力が必要だった‥‥」
 ぼそりと呟く宇衛門。既にアヤカシに憑かれて自我などないはずの宇衛門。だがその口から出る言葉は宇衛門のもの。開拓者たちも混乱を隠せない。
「そんな‥‥そんな力など得てどうするのですか!?」
「勿論、太一の仇を討つんですよ‥‥だから」
 お心の叫びに答えながら宇衛門はゆらりと身体を揺らす。
「あなたも―――私と一つになりましょう!」
 刹那、宇衛門の身体が弾ける様にお心目掛けて飛び出す。
 肉を裂く嫌な音と共に鮮血が宙を舞う。宇衛門の手に紅い雫が流れ、そのまま地面に零れ落ちる。
 涙を流しながら立ち竦むお心。
 その前には刀を腹に飲み込ませた一真の姿。
「間に‥‥合った‥‥ねぇ‥‥」
 弱々しく呟く一真は咳き込んだ口から大量の血を吐き出す。即座に反応したのは哲心と竣嶽。刀を抜き放ち宇衛門に斬撃を放つ。寸での所で宇衛門はその場を離れ斬撃は虚しく宙を切る。同時に倒れこむ一真。
「おいおいおい、しっかりしろって!」
「こらまずいで‥‥喪っさん、乖征兄はん、治癒符を!」
「ん‥‥わかった」
 慌しく動き出す小雨・喪越・乖征の陰陽師たち。すぐさま符を取り出すとそれぞれの思い思いの形の式を呼び出し一真の治療に当たる。
 その様子に崩れ落ちるお心を鯉乃助が支えた。だがその表情は苦い。
「おやおや残念だ。せっかく共に仇を討つ絶好の機会だったというのに」
 くつくつと笑う宇衛門。それは最早宇衛門の物ではない。
「お心‥‥」
 ギリリと歯軋りをしながら言う哲心に、お心はゆっくりと首を向ける。
「これ以上宇衛門を侮辱されんのは我慢ならん。本人に言われるならばまだしもな!」
「同感です。アレはもう‥‥」
 哲心と竣嶽の言葉に、お心は―――
「‥‥もう‥‥宇衛門様はいないのですね‥‥」
 寂しそうな笑顔を浮かべたお心はすぐにその眼に強い光を戻す。
「開拓者の皆様にお願いします。宇衛門様を‥‥救ってあげてください」
 固い決意を込めたお心の言葉。
 治癒にあたる陰陽師たちと、哲心・竣嶽・神威・鯉乃助、そしてお心。
 全員の意思が一つになった今、アヤカシと成り果てた宇衛門は最早敵ではなかった。

●合掌。
 静けさを取り戻した砦の外、開拓者たちとお心は残った宇衛門の亡骸を運び出す。
 どうやら肉体の全てが食われていたわけではなかったようで、しっかりと原型を留めたまま亡骸は残っている。更に太一の墓が砦のすぐ傍にあるらしく、宇衛門もそこに葬ることにした。
「結局‥‥救えはしなかったな」
 気を失った一真を支えながら悔しそうに呟いた哲心。だがその言葉に首を振ったのは他でもないお心。
「既に宇衛門様は人ではなくなっておられました。ですが、誰にも迷惑をかけることなく最後を迎えられたのは‥‥一つの救いだったのかもしれません」
 宇衛門が砦内で言った言葉。それは紛れもなく宇衛門の言葉でもあったはず。アヤカシが気まぐれでその思いを汲み取ったのか、それとも奇跡的に自我が残っていたのか。今となっては誰にもわからない。
「今更言ったって始まらねぇのはわかってる。だがそれでも、謝罪ぐらいはさせてくれ‥‥すまなかった」
 宇衛門の亡骸の前に膝をついた鯉乃助は、手を合わせながら言う。
「過去の罪は消せねぇ。だがこれで‥‥仕切りなおしといきてぇな。まだ何も終わっちゃいねぇんだからよ」
「せやな‥‥元凶はまだ逃げたままなんやし」
 苦々しげに言う喪越に小雨も頷きを返す。
「そうですね。最早我らができることは一刻も早く一連の連鎖を食い止めること」
 竣嶽はお心の方へと振り返る。合わせて仲間も一斉にお心の方へと顔を向ける。
 それを受けたお心は久しぶりに―――本当に久しぶりに、笑みを浮かべる。

 様々な禍根を残した一連の事件。
 大きな犠牲と遺恨の残った太一と宇衛門そしてお心を取り巻く事件はようやく振り出しに戻る形となった。
 全ての禍根が消え去ったわけではない。だがそれでも、救われる思いはあったと信じたい。
 開拓者たちはただそう願い、帰路へとついた。

 〜続〜