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■オープニング本文 どこかにある、とある小屋。 「アニキー! 大変ですぜ!」 「どうしたっ!」 「へい、それが‥‥うちのシマを我が物顔で通り過ぎる飛行船があるみたいでさぁ!」 「何だと‥‥!?」 「どうしやすかっ!」 「決まってるだろう! そんなことを許しちゃ俺達らいだぁの名折れ! 準備しな野郎共!!」 『がってんだぁ!』 響き渡る声は高らかに、そして無駄に暑苦しかった。 「空の盗賊‥‥空賊ってことか?」 背中に『粋』を背負った半被姿の受付係は相変わらず煙管を吹かしながら呟いた。 「へぇ‥‥つい最近新しい取引先ができたんで、飛行船での流通を開始したんですが‥‥どうもその航路に妙な輩がいるみたいでして‥‥」 小太りの中年という言葉がとても良く似合う依頼人は、この寒くなってきた時期にも関わらず手拭いで汗を拭いながら心底参ったという表情を浮かべる。 「じゃあ航路変えればいーんじゃねぇの?」 「それはダメです!」 受付係の言葉に男はない首をぶんぶんと振って反対する。 どうやら扱っている商品は運ぶ時間が命だという。そして現在の航路が最短航路なのだそうだ。 依頼人の男はその短い手足で精一杯の身振り手振りを織り交ぜながら、その重要性を熱く、鬱陶しいぐらいに語り出す。しばらくは聞いていた受付係だったが、話が依頼人の母親の親戚の弟の隣人のことにまで及んだところでさすがに話を止めた。 「はぁ‥‥んで、結局何を頼みてぇんで?」 「あ、あぁ‥‥話は簡単なことでして、その航路を塞ぐ連中を始末していただきたいんです」 「ん? 始末までしなくても航路が使えるようになればいいんだよな?」 依頼人の言葉に若干の引っ掛かりを覚えて首を傾げる受付係。 「あ、あぁ勿論です。航路の確保が最優先ですからね‥‥」 「ふぅん‥‥で、その空賊ってのはどんな奴らなんでぇ?」 なんとも歯切れの悪い回答を残した依頼人を不審に思いながらも、受付係は依頼書を仕上げるために筆を走らせる。 「はい。何でも奴らは龍に乗って現れるそうでして‥‥」 そこで受付係は眉を顰める。 開拓者たちにとって龍はまだ不慣れ。しかも空中戦となればそれこそ乗り慣れた相手では分が悪い。たかが空賊、されど空賊だ。 「全員が褌一丁で龍に跨り、龍の首に巻いた褌の前垂れを手綱代わりに握り締めているという、その名も褌らいだぁず! 恐ろしい‥‥あれ、どうしました?」 冬の気配が近付く町の開拓者ギルド。 机に突っ伏した受付係を心配そうに眺める依頼人の姿が、今日も通る人々の心をほんの少しだけ和ませたとか和ませてないとか。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
相川・勝一(ia0675)
12歳・男・サ
蘭 志狼(ia0805)
29歳・男・サ
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
嵩山 薫(ia1747)
33歳・女・泰
雷華 愛弓(ia1901)
20歳・女・巫
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ
久我・御言(ia8629)
24歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ●燦然となびくのは。 空賊に妨害された商業航路を奪還せよ。 それだけ聞くと何だか勇ましく思える。それだけ聞くとね。うん、それだけ聞くと。大事な事だから‥‥いや何でもない。 「‥‥なんだってぇぇっ!?」 相棒の龍と一緒に依頼へ出陣できるとあって喜び手を挙げた相川・勝一(ia0675)であったが。当日までその内容をよく吟味していなかった。 「ふ、褌―――」 繋留場でがっくりと膝を落とし地面に手をついた姿を哀れみの篭もった眼で見下ろす炎龍。 「やっと一緒に参加できると思ったのに。せっかく飛べると思ったのに。結果がこれだよ!」 愛らしい女の子のような顔立ちに大きく配置されたつぶらな瞳がうるうると涙目になっている。 「庶汰の褌を受け継いだ者が何を言ってるんや。も・ち・ろ・ん、履いてきてるんだろな」 そびえたつ天狗褌一丁の筋骨隆々とした裸漢、斉藤晃(ia3071)。褌らいだぁ相手に見参とあってやる気満々である。 「褌に対抗するには褌しかあらへん。わかるか勝一、これが世界の摂理や。」 真顔でずいと迫られて思わずこくりと頷いてしまう。が、思いなおして首をぶんぶん横に振る。わ、わかりたく‥‥ないよ‥‥たぶん。 件の航路を飛ぶ龍の編隊。八騎も飛んでいるのだから何もない空ではとても目立つ。 案の定、発見したらしき五騎の龍が姿を現す。 「何なのでしょうねあれは‥‥悪い夢でも見ているのでしょうか」 眩暈を覚えた朝比奈 空(ia0086)が視線を明後日の方向へと逸らす。ああ、いい天気ですよねとっても‥‥。 龍の首に掛けられた白く長い布、それに跨った褌一丁の雄雄しくも暑苦しい男達。 上空は当然地上に比べれば寒い。普通なら逆に何か着込むところだ。 うん、だがあの暑苦しい感じを見ると本当に寒くないのかもしれない。 「どけどけぇっい! ここは誰のシマだと思ってやがる。この褌が目に入らねぇっていうのか!?」 賊刀を振りかざしたいかにも雑魚という男がダミ声を上げると、四騎の龍が一斉に散開する。 その背後からばーんと登場したのは‥‥龍の背に仁王立ちして腕を組んだ大柄な男。おい、危なくないのか。 「褌らいだぁず参上! うわっはっは、この空を横切ろうだなんててめぇらいい度胸してるな―――」 長々と口上を垂れるリーダーの背にはちょっぴり冷や汗が伝う。なんか、やけに強そうじゃないかこいつら? 見事な龍さばき、人数は勝っているとはいえ正面からの対決は愚策か。降りて交渉に持ち込んでみるつもりではあったが。 ダメで元々。言うだけは言ってみよう。蘭 志狼(ia0805)が生真面目な顔を崩さないまま告げる。 「我々は開拓者ギルドから正式に派遣された代理人だ。この航路を使いたいという依頼を受けたのでな。退いて貰いたい」 何を馬鹿な事を。これで退くようでは褌らいだぁずの名が廃る。口々によくわからない雄叫びを上げて武器を掲げる男共。 やっぱり通す気にはならないようだ。 ●酒で懐柔いたしますか。 「まま、ここはおひとつ」 とりあえず酒を献上しますから。話はそれからでも聞いてくださいよ。明朗な笑顔で酒を勧める滝月 玲(ia1409)。 「随分気が利くじゃねえか。ん、酔わせたってここは飛ばせねえぞ?」 地上に程よい旅籠屋があったので貸切での宴会。店の者は悪いものでも見たような顔をして、出す物を出したらそれきり顔を出してこない。 龍に乗ってやってきた褌ご一行様、触らぬ神に祟りなしくわばらくわばら。 「私も地酒を持って参りました。お口にあえば良いのですけど」 笑顔で酌をする豊満な金髪の少女、雷華 愛弓(ia1901)に割りと単細胞な野郎共は鼻の下を伸ばして酒をぐいぐいと進める。 「漢ならやっぱり楽しまなきゃ駄目っすよね!」 茶で相手をしながらもヨイショはかかさない玲。勝一もらいだぁに肩をばしばし叩かれながらもミルクを啜る。 「おうさなぁ、粋な漢たる者―――」 リーダー格と妙に意気投合してるのは晃だ。同じペースで酒を酌み交わし、褌談義に華を咲かす。 「そうと来たら褌と龍で正々堂々と勝負しようじゃないっすか」 「チキンレースなんてどう?」 「じゃ、褌ビーチフラッグ」 「わかったわよ。騎馬戦ならぬ騎龍戦で褌の取り合いならどうなの」 嵩山 薫(ia1747)が次々と出す提案に野郎共はまんまと乗せられる。 「かっ面白れぇじゃないか! よし乗ったぜその勝負っ!!」 「それでこそアニキでさぁ!」 「褌と龍で勝負なら俺達は負けねぇぜ!」 「あ、女子はさらしでお願いしますね。お手柔らかに♪」 愛弓の笑顔に俺達ぁ紳士だぜ!とらいだぁ達が相好を崩す。 もう遅い時間にもなったので試合は明日。ちっ、酔わせて飲酒騎乗させようと思ったのに。 (提案した勝負も褌‥‥) 布団に潜り込んだ勝一が猛烈な脱力感を抱きながら眠りに落ちる。 (褌に拘る理由‥‥聞かなくて良かったのか?) あまりにも異様に褌で盛り上がる面々に入ってけなかった志狼。‥‥まぁ退いてさえくれれば、いいか。 ●激突☆褌騎龍戦。 ああ、燦然と輝く太陽。嫌というほど空は澄み切って晴れ渡っている。 「さて、どんな勝負だろうと乗るわよ。こう見えて徒競走は昔から得意なの」 大欠伸をしている相棒の嵩天丸の背に手を当てて薫が不敵な微笑みを浮かべる。 子持ちとは思われない素晴らしいプロポーション。さらしと褌だけになると武術家の引き締まった筋肉が益々映えて見える。 褌一丁となった勝一のそこに記された庶汰の文字にらいだぁ達が熱くどよめく。 「あ、あれは噂に聞いた―――」 「これは素晴らしい相手でさぁ。うぉぉ燃えてきたぜ!」 思わぬ反応の大きさに勝一が及び腰になる。こ、こんなとこまで噂が届いているのか。泣きたい‥‥。 仮面を装着したものの恥ずかしさはあまり軽減されないような。むしろ褌仮面参上の晒し者!? 相手に合わせる為だと言えばやむを得ぬ。決心した志狼はカッと目を開く。 思い切りよく脱ぎ捨てた衣服が青空を背景に鮮やかに舞う。 「行くぞ。回天!」 前垂れを手綱に使うのはさすがにどうか。両手で回天の背中に掴まる。うん、良かったそこまではされずにと思ったのか龍は穏やかに首を下げて旋回する。 機動力を生かそうと縦横無尽に龍を駆る愛弓。 「何とか隙を作り出したいですね」 しかしまだ慣れぬ身、方向転換する度にロスが生ずる。そこを狙ってらいだぁの賊刀がかすめる。さらしだけを確実に狙って。 「きゃ〜っ」 対する相手は見事な褌捌きで相棒を自由自在に操っている。幽かな布の擦れだけで龍はどんな動きをしたらいいか察する賢さ。どれだけ褌に慣れているんだか。 「この褌紳士が相手や!!」 颯爽と大空になびく天狗褌。愛弓のピンチとあって、晃が強引に龍を割り込ませて突き抜ける。 ひらりと熱かい悩む火種の牙を避けたらいだぁがターゲットを変えるが、褌を引く晃の手が一歩速かった。 「愛弓、てめぇは速度を落とすな。わしが意地を見せたるわっ」 「嵩山流棒術の冴え、存分に見せてあげるわ。‥‥見せる相手がアレだけど」 といいつつ気功波をぶち込む薫。接近戦になれば龍の動きで負ける。 「褌さえ奪えば―――」 嵩天丸は無理な動きはしないが、両手で長槍を持っているので安定感は心もとない。 腿でその胴をぎゅっと締める。 「全力で行くわよ嵩天丸」 逃げ回り攻撃を誘う空と禍火の動きを見据え、ここぞと一直線で奪いに向かう。 「流石に負けるのは何だか嫌な感じですね‥‥もう少し頑張りましょう禍火」 反撃は予測のうち、できるだけ薫の射程に敵を飛び込ませるよう巧妙に飛び回る禍火。容赦無く射られる弓に捕まりかけたがもう少しだ。 急降下した禍火の残影を挟むように嵩天丸とらいだぁの龍が顔を突き合わせた。 「掛かったわね!」 正面からすかさず射ち込まれた矢を驚異的な動体視力で避け、槍を一気に突き込む―――褌の結び目へと。 「一本〜っ!」 相手の龍が巧みに激突を避けたので嵩天丸はそのまま前へと突き抜ける。 「これじゃあまるで大漁旗‥‥いや、大漁褌かしら?」 槍の穂先に長く尾を引いて靡く白い褌。 褌の持ち主は? 後ろは振り返っちゃいけない気がする。 「勝利の御旗が上がったぁ〜〜〜。さぁここからどう巻き返すか褌らいだぁず!」 余裕の観戦を決め込んでた玲の背中には『甘』の文字が躍っている。褌に祭半纏、龍の背より神輿の上が似合いそうである。 「さてお次はどの褌だ〜。うん俺も参加しちゃお☆」 「女性が頑張ってるのに、前に出ないわけにはいかない! 男として!」 志狼が引き付ける龍に敢然と向かう勝一。 「しょ、庶汰の褌を受け継いだ以上、褌には負けられぬっ」 ま、負け‥‥負けてもいいのかな‥‥。なんだかどんどんドツボにはまっていくような気がする。 咆哮を使用しながら積極的に攻める志狼。一対一ではなかなか相手の龍を捕らえられない。 「ええぃ、なるようになれ―――」 目をつぶり勝一は龍に突撃を命ずる。背後を取った! 「褌なんかっ褌なんかっ」 らいだぁにしがみ付いて涙を空中に飛ばしながら勝一は揉み合いになりながら褌を奪い取る。 相手の龍が振り落とす。 「と、取ったぁ〜〜〜」 炎龍が落下する勝一の褌を慌てて咥える。いやだって他に掴むとこないし。 逆さ吊りになりながら奪取した褌を靡かせる。地上には、その涙雨が零れただろうか。 「昨日の酒は残っているか〜!?」 敵を中心にくるくると旋回し、相手の反応の良い龍を逆手に取る玲。 「褌魂のある漢なら言い訳なんてしないよなっ」 手綱代わりの褌を掴み、びしりっと眼前に指を付き立てニカッと笑う。 「こいつは戴くぜ! さあもっと回れ瓏羽!」 あ〜れ〜と褌を回し剥がされるらいだぁ。龍も一緒になって回転し、きりもみして落下してゆく。 「うはっ。やばい‥‥かな?」 盛大な水飛沫を上げてなんとか池に不時着したようだ。危ねぇ。 「今こそ必殺技を出すとき! 褌紳士の所以を見せてやるわ!」 晃の雄叫びが青空に轟く。 さあラストワン。残るはリーダーだぜ☆ 「ぶっ」 強力はそんな使い方をするものなのかぁぁぁっ!! いきり立つ天狗の鼻。ねぇ、それって筋肉なのっ!? 「さぁ、おまえらの罪を数えろや! 熱かい悩む火種とわし。二人が一つのだぶりゅ〜らいだぁの力や!」 ぐいと急上昇をかける熱かい悩む火種が上段からその鉤爪で飛び掛かる。対抗するリーダーと龍。晃の姿が一瞬視界から消える。 「上や上ぇぇぇっ」 むんずと褌を掴んだ晃を敵の攻撃をかわした熱かい悩む火種がしっかと着地地点に背中を用意する。 「これで褌は全部戴いたでっ」 「うぉぉ〜せめて道連れだけでもっ!!」 全裸のむさ苦しい野郎が愛弓に飛び掛かろうと追う。ぶち太頑張れ逃げろっ。 「いや〜えっち! こっちこないで変態どスケベ!!」 そんなにぶち太の首にしがみ付いたら苦しいってば。 もうっしょうがない。 べしんっ。 「悪霊退散、痴漢撃退〜〜〜!」 ぶち太の長い尾が迫る裸漢に渾身のビンタを振るう。らいだぁずリーダーは吹き飛んでいった。 ●競技化!?するのか。 褌魂を掛けた全力勝負に負けた野郎共が全裸で脱力している。 「あの、とりあえず何か身につけてください」 ものすごい勢いで視線を逸らしながら、布切れを差し出す愛弓。 「ところで―――」 薫はどうしても言いたい事があった。 「そもそも貴方達、龍に穿かせず手綱代わりにしている時点で褌の使い方を間違っているんじゃなくて?」 ‥‥あ。 「龍の尾の下になびく褌、いいですね!」 口をあんぐりと開ける褌らいだぁずより愛弓が先に反応した。 「せっかくですから龍を使った正式競技としてこれ普及させましょうよ。庶民の娯楽も増えますし、ね」 そうすれば彼らも立派な選手として堅気になれる。 「帰ったらギルドの人達に進言しておきましょう〜♪」 「褌らいだぁ〜なら空の掟。負けたものは舎弟になることは忘れたわけやないやろな?」 ダンッと土埃を舞い上げて足を踏み鳴らし、にやりと笑いながら見栄を切る晃。打ちひしがれるリーダーの鼻先に突きつけられる天狗褌。 「てめぇらの褌には情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ! なによりも褌愛が足りない! わしについてこい!」 おもむろに褌一丁のまま晃は駆け出してゆく。 「へ、へぇ。晃アニキー! ほら行くぞ野郎共!!」 赤い夕日に向かって猛ダッシュしてゆく褌一丁の野郎共。ああ、美しい友情(?)の光景。 「たまには普通の依頼入りたいよ‥‥」 遠い目を夕暮れの空へと向けて呟く勝一。炎龍がその頭丁にぽふっと顎を置いて眼を閉じる。 「すまん回天‥‥重要な物を失った気分だ」 勝負には勝ったが俺は何をやっているんだろう。言いようのない敗北感が胸を過ぎる。 相棒に寄りかかり志狼も真っ直ぐな瞳を空を見上げた。 そう天儀の空の平和は今日もこうして護られたのであった―――。 〜了〜 (代筆:白河ゆう) |