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■オープニング本文 開拓者ギルド。 そこはありとあらゆる問題事が持ち込まれ、所属する開拓者たちはそれを解決するために日夜各地に派遣されている。 開拓者は基本、報酬さえもらえばどんな事も引き受ける。 時には密偵や潜入など、国を揺るがすような重要な依頼が持ち込まれることも少なくない。 しかし中には本当にとりとめもない依頼が寄せられることもある。 今この北面の開拓者ギルドに寄せられた依頼も、その類であった。 「というわけでして、開拓者の方には盗人役をやってほしいのです」 ギルドの受付の前でそう言いながら一枚の紙を机に置く初老の男。 何でも北面の北に位置する街で岡っ引きを取り仕切る立場の男らしい。 話によればここ最近街中に増え続けている怪盗被害を減らすべく新たな岡っ引きを採用するのだとか。 そして実際に盗人を捕まえてみせるというのが、採用試験なのだという。 とはいえいきなりの実践で本物の盗人がそう都合よく現れるわけでもないので、今回芝居として開拓者に盗人をしろというのだ。 「話はわかりましたが‥‥それこそ何も開拓者でなくてもいいんじゃねぇですかい?」 背中に『粋』の字を背負った半被姿の受付係は、煙管を吹かしながらそう言った。 開拓者というのはその身体能力だけでも一般人をは比べ物にならない。そんな者を盗人に仕立て上げれば捕まるものも捕まらない。 だが依頼人の男は静かに首を横に振った。 「普通の奴なら我々も迷わずそうするんですが‥‥」 そこで男は言葉を濁す。 「‥‥普通じゃねぇってことか‥‥」 うんざりとした様子の受付係。 それもそのはず、彼の元に届けられる依頼の半分以上が一癖も二癖もあるモノばかりだからだ。 「えぇ。普通の人間に盗人役をやらせたら間違いなく盗みが成功されてしまいます」 「‥‥どんなだ、それは」 「例を挙げるとキリがないですが‥‥十手とゴボウを間違えてたり、捕縛しようとしたら自分を捕縛してたり、あげくに全く関係ない人間を捕縛したりとそれはもうありとあらゆる事態が‥‥あの?」 すでに机に突っ伏した受付係に不思議そうな視線を送る男。 「そんなの岡っ引きにして一体どうするつもりですかい‥‥そもそも試験なんだから落とせば済む話じゃねぇんですかい?」 受付係の尤もな言葉に男は深い、本当に深いため息をついた。 「それができればもうやってるんですがね‥‥」 普通に考えれば試験というからには落ちる者がいて当然である。だがそれができないとなれば――― 「裏があるってことですかい」 男はただただ苦笑を貼り付けたままその先は語ろうとはしなかった。 「わかりやした。しかし盗人だけならわざわざギルドに来る必要はねぇですよね? 他には何があるんで?」 「! これはこれは‥‥察しが良くて助かります。実は開拓者の方には他に、試験官の役もお願いしたいのです」 どうやら岡っ引き試験というのには、試験官が見定めるいくつかの項目を通過しなくてはならないらしい。 当然本来は先輩岡っ引きや同心などがそれを引き受けるのだが、今回はそれも開拓者にしろという。 言ってみれば完全に八百長紛いの試験である。 「そんな試験する意味がない気もしやすが‥‥」 「あくまで形上の試験です。贔屓しているわけではないという体面的な意味合いでもありますゆえ」 各地にはそれぞれ事情があるのだろう。 ギルドとしては報酬さえもらえれば大概のことは引き受けると銘打っているため、そこまでは追求する必要もない。 「では盗人役と試験官役の開拓者を揃えればよろしいんですね?」 「はい。人数の割り振りはお任せします。後盗人に関してはこちらの紙をご覧ください」 そう言って男が取り出した紙には、今回盗みに入る屋敷までの地図とその見取り図が書かれていた。 「試験を受ける新米岡っ引きの名は銭金ペイジ―――やる気だけは一人前の男です」 |
■参加者一覧
木戸崎 林太郎(ia0733)
17歳・男・巫
嵩山 咲希(ia4095)
12歳・女・泰
瀬崎 静乃(ia4468)
15歳・女・陰
小野 灯(ia5284)
15歳・女・陰
アムシア・ティレット(ia5364)
23歳・女・シ
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫 |
■リプレイ本文 ●試験心得。 北面が北方に位置するとある街にある岡っ引き詰め所。 今ここに三人の人物が顔を合わせていた。 「今日はわざわざすまないな」 そう言って頭を下げたのは今回の依頼主でもある同心の男。 「いえ、これも仕事ですから‥‥」 手をひらりと振りながら無表情で答えたのは瀬崎 静乃(ia4468)。 「まぁ半分やらせみたいなものだしな」 「それを言ってくれるな‥‥こちらも耳が痛いのだ」 肩を竦めながら呟いた雪斗(ia5470)の言葉に男は思わず苦笑を浮かべる。 「それはそうと、肝心のペイジさんの姿が見えないようですが‥‥」 静乃が視線をちらりと動かしながら言うと、詰め所の外からドタドタと大きな足音が響いてくる。 「すいやせん! 遅れましたぁぁぁっ!!」 壊れるんじゃないかと思う程力一杯引き戸を開けて、その男―――銭金ペイジは現れた。 「こらぁペイジ! お前一体試験をなん‥‥だ‥‥と」 怒りを乗せた同心の言葉が終わりのほうで消え、彼は口をあんぐりと開けたまま固まった。 それもそのはず、息を切らして現れたペイジは褌一丁。無造作に頭に巻かれた鉢巻が妙に痛々しい。 「‥‥随分と大胆ですね」 あくまで冷静に、というよりは大して興味がなさそうに呟く静乃、そして大きなため息をつく雪斗。 だが当のペイジは自分に向けられたその視線やら溜息に少し憤慨。 「確かに遅れてきたのは悪かったッスけど、そんないきなりやる気をなくすような対応はやめてほし―――」 「いいからまずは服を着やがれ、このすっとこどっこいがぁぁっ!」 地を響かせるような同心の怒号に、静乃と雪斗は静かに目を合わせて首を振った。 慌てて同心に服を借りて着替えたペイジに、改めて顔を合わせる一同。 「すいやせん、余りに気合いれすぎて朝服を着るのを忘れてやした」 動きやすいように着流しの裾を結びながら、ペイジはぺこりと頭を下げた。 「ったく‥‥まぁいい。こちらがお前の試験官を担当してくれるお二人だ」 「‥‥試験官をさせていただく瀬崎です。宜しくお願いします」 「同じく雪斗だ。よろしく頼む」 コメカミを押さえる同心に紹介され頭を下げる静乃と雪斗を、ペイジはどこか驚いた表情で見つめる。 「綺麗所二人とは‥‥旦那の趣味ですかい? 憎いねこのこのっ」 「お前な‥‥」 茶化すペイジにわなわなと肩を震わせる同心。 一方ペイジの言う綺麗所に自分が含まれていると感じた雪斗は再び嘆息。 「君は盛大な勘違いをしているようだが‥‥自分は男だぞ?」 苦笑交じりの雪斗の言葉に一瞬驚愕の表情で彼を見たペイジだったが、やがて何か物悲しい表情を浮かべると、その肩にぽむと手を乗せた。 「色々大変だと思うッスけど‥‥俺っちはわかってるよ?」 「いや、だから―――」 「どうでもいいことは置いておきましょう。それより試験についての説明をお願いします」 ペイジの勘違い同情を否定しようとした雪斗の言葉を、静乃がばっさりと断ち切った。 若干背中に哀愁の漂わせながら「どーでもいいって‥‥」と呟く雪斗を横目に、同心は懐から紙を取り出し静乃に手渡す。 「それが今回の試験項目の一覧だ。まぁ‥‥後は頼む」 同心の言葉に静乃はこくりと頷いた。 「さてペイジさん雪斗さん、いきま―――」 「よっしゃぁ! 待ってるッスよ盗人めっ!」 「ちょっ、引っ張るなって‥‥うわぁぁっ!?」 静乃の言葉が終わるより早く、ペイジは雪斗の着物を乱暴に引っ張って外へと飛び出していった。 しばらく呆然と二人が消えた方を見ていた静乃は、そっと手元に残った紙に視線を送る。 「‥‥場所、まだ言ってないんですけどね」 ぽそりと呟いた静乃の声と同心の大きな溜息が、詰め所の中に静かに響いた。 ●怪盗参上。 日が落ち始める頃、怪盗を引き受けた四人組は件の屋敷の前に姿を現していた。 「よぉー、し‥‥怪盗、頑張る、よっ‥‥!」 やる気満々で握り拳をあげるのはアムシア・ティレット(ia5364)。 身体をぴったりと包み込む忍び装束が特徴的なアムシア。黒猫面のせいで表情こそ見えないが、その声から楽しそうであることはわかる。 そんなアムシアの横に並んで笑顔を浮かべるのは、彼女の親友である小野 灯(ia5284)。 「うん♪ ぺーじに、りっぱなおかっぴきに、なってもらう、の♪」 怪盗には覆面、ともふらの面を被った灯もまた楽しそうに小さな拳をぐっと握り締める。 一見しっかり開拓者な二人だが、その繋がれた手がどこかほのぼのとした雰囲気を彷彿とさせる。 そんな二人の隣で神妙な面持ちで考え込んでいるのは嵩山 咲希(ia4095)。 「怪盗‥‥所謂『ひ〜る』ですね。お母様に知れたら怒られるかしら‥‥でもこんなこと、滅多にできる経験じゃないし」 厳しい母親の顔を思い出しつつも、初体験の好奇心には勝てない咲希であった。 と、灯が何かを思いついてとてとてと咲希の隣に移動する。 「さき、そっくり、なのっ♪」 笑顔で灯が指したのは咲希の髪と目。 言われて咲希は「ほんとだわ」と嬉しそうに目を細める。 「私、もっ‥‥一緒、さがすっ」 楽しそうな二人に混ざりたい一心のアムシアは、どこか共通点がないか必死で二人と自分を見比べて―――凹んだ。 「あむっ‥‥!?」 しゃがみ込むアムシアに驚いた表情を浮かべて顔を覗き込む灯。 「‥‥なかっ‥‥た‥‥」 ぽそりと呟いたアムシアの肩に、咲希は困ったようにそっと手を乗せた。 「ほらほら、余り騒ぐと気付かれますよ? 一応僕たち盗みに来たんですから」 そう言いながら三人のやり取りを笑顔で見守るのは木戸崎 林太郎(ia0733)。 林太郎の言葉に三人は「はーい」と元気な返事を返す。本来ならこの時点できっと御用だろうが、そんなことは彼らには関係ない。 「ふふ、まるで保父さんにでもなったようですね。僕がしっかりしなくては‥‥」 笑みを浮かべて呟く林太郎。 この四人の中では一番年長である彼は、自分がしっかりしなければという使命感のようなものを感じたようだ。 「さぁ皆さん、早速お宝目指していきましょうか」 林太郎の一声に頷いた一行は屋敷内への侵入を開始した。 だがこの時、四人はまだ林太郎を先頭にすることの恐ろしさに気付いてはいなかった。 ●対峙。 四人組の怪盗が屋敷に侵入した時刻から遅れること数刻、ペイジと試験官二人も屋敷の前に辿り着いていた。 「ここッスか、問題の屋敷ってのは!」 「や、やっと着いた‥‥」 腕まくりをしながら意気込むペイジの隣では、雪斗が疲労の色を浮かべながら呟く。 それもそのはず、彼らがこの屋敷に辿り着くまでには様々な出来事があった。 屋敷を間違えること五回。 関係ない一般人に怪盗疑惑を向けること八回。 長屋の柱に小指をぶつけること十回。 その全てに付き合わされた雪斗は、ある意味では賞賛に値する。尤もペイジが雪斗の着物の帯をむんずと掴んでいたため逃げれなかったのだが。 「随分遅くなってしまいました。もう既に怪盗は中にいるかもしれませんね」 完全に日が落ちた空を見上げながら、静乃は静かにそう言った。 「それはいけねぇッスね! では早速中‥‥へ‥‥」 拳を握り締めて気合を入れたペイジは、ふと雪斗のほうに視線を向けて―――固まった。 視線の先にいた雪斗は、ペイジに引っ張りまわされた着物の着崩れを直しているところ。その容姿や仕草はどこからどう見ても女性、正真正銘の女性である静乃に若干の殺意が芽生えるくらいに艶やかなものだった。 「‥‥‥‥ほ」 「ん?」 「惚れてまうッスよぉぉぉぉぉっ!?」 「君に惚れられたくはないっ!!」 何を勘違いしたのか、抱きつこうとしてくるペイジに必死で抵抗する雪斗。 「‥‥ヤる気は十分、大丈夫ですね」 「変な納得してないでどうにかしてくれっ!?」 一人満足そうに頷く静乃の耳には雪斗の悲痛な叫びは届いていないようだ。 と、そこで屋敷の屋根上から声が聞こえてきた。 「ここが宝の場所ですか?」 「‥‥あれ? おかしいな、こんな所に出るはずじゃ‥‥」 まず姿を現したのは咲希と林太郎。続けて若干疲れた様子の灯とアムシアが姿を見せる。 「少し、疲れ、た‥‥」 「まだー、なの‥‥?」 先に侵入していた怪盗組ではあったが、どうやら宝に辿り着くことなく屋根上に出てきてしまったようだ。 結果的には大成功な林太郎の素敵道案内だが、付き合わされるほうは中々に大変だったようだ。 そんな四人の目に飛び込んできたのは着物を着崩した雪斗に抱きつこうとしているペイジという異様な光景。 互いに言葉を発さぬまましばらく時が流れ――― 「おたのしみ、ちゅー?」 かくりと首を傾げる灯の言葉で雪斗は地面に突っ伏した。 ●対決。 「出やがったな盗人め! この銭金ペイジ様が来たからにはもう好きにはさせねぇッスよっ!」 屋敷の屋根上に揃う盗人、そしてそれを見上げる岡っ引き。構図としては王道ともいえる状況の中、これまた王道が如く岡っ引きペイジが吼える。 勿論それに答えない手はない。 「ふっ、天儀一の‥‥っていう程でもないんですけど‥‥とにかく大怪盗、ここに参上!」 こちらも屋根上からびしっとペイジを指差して咲希が言う。 そしてそれに続くのはもふら面を被った灯。 「かいとー、おの、あかり‥‥まいるっ!」 「灯ちゃん‥‥」 きりっと身元バレバレの名乗りを上げてびしっとポーズを決める灯に思わず苦笑する雪斗。 そしていつの間にかペイジの後方に回り込んだアムシアが後を追う。 「え、っと‥‥怪盗、あむし―――」 「アムシアさん、名前名前っ」 「あっ‥‥えっと、今の、なしっ‥‥! も、一回」 思わず本名を名乗りそうになるアムシアに林太郎が小声でそっと助言。はっとなったアムシアは首をぷるぷると振って咳払いを一つ。 「怪盗、シーア‥‥参上っ!」 こちらは隠し持っていた水晶の盾とスパイダーシールドという何とも派手な出で立ちでポーズを決める。 どれをとっても忍ぶ気など全くないようだが、肝心のペイジは全く気にしていないようだ。 「おのれ怪盗どもめっ‥‥今そこに行くから待ってろッス!」 叫ぶペイジは一瞬足腰に力を込めると、一気に地面を蹴り上げて宙に身を躍らせる。 一気に屋根上まで飛び上がるペイジの動きは最早常人の域ではない。驚いたのは開拓者たち。 「早い‥‥っ!」 突如自分たちの目線の高さに現れたペイジに、咲希は役目を忘れて本気の構えをとる。だがそれよりも早く懐に手を差し込んだペイジは先程までとは打って変わった鋭い眼光で、構える咲希ときょとんとする灯を睨みつける。 「銭金家代々の銭投げを食らうがいいッス!」 叫ぶペイジは手から何故か釣り糸を結びつけた小銭を投げつける。 まるで吸い込まれるように正確に咲希と灯を捉えて飛来する小銭。 あわや二人の顔に当たるというところで、釣り糸の限界点と共に小銭は落下。同時にペイジも落下。 「‥‥え? 何だったの? ちょっと‥‥今の私の驚きを返してください‥‥」 そんなペイジを呆然と見送る咲希は、ちょっとでも本気になった自分を少し恥ずかしく思った。 一方反対側から見ていた林太郎とアムシアは、いきなり飛び上がって手を振ってそのまま落ちたペイジを見ながら首を傾げた。。 「‥‥あれ?」 「凄い瞬発力でしたけど‥‥何をしたかったんですかね?」 「さ、あ‥‥?」 二人の疑問に答える人は残念ながらこの場にはいなかった。 「ぺーじ、ごはん、だよー♪」 落ちたペイジを上から見下ろした灯は、懐から甘刀「正飴」を取り出してふりふりと振る。 「盗人から施しなど‥‥じゅるり‥‥受けないッスよ!」 灯の振る甘刀に視線を右往左往しつつも気丈に振舞うペイジ。 尤も、途中で投げられた保存食はきっちり捕らえて懐にいれていたのはきっと気のせいだろう。 だがこのままではいつまで経っても捕まえられない。 「さぁ、あなたの実力はこんなものなのですか? でしたら期待外れですね」 お子様たちに任せたままでは埒があかないと判断したのだろう、ペイジが本気で捕まえにくるよう挑発めいた態度で言う林太郎。 勿論ペイジは挑発には乗ってくる。 「な、何をぉっ!? よぉーし、見てるッスよ!」 叫んだペイジは手に唾をつけると、近くにあった一本の木をがしっと掴む。 「うぉぉぉぉぉぉっ!」 ペイジの渾身の叫びと共にメリメリと音を立て始める木。これも常人の力とは思えないものである。 「ふぉぁ‥‥すご、い‥‥!」 「ぺーじ、やる、ねっ♪」 きゃっきゃとはしゃぐアムシアと灯の声援に更に調子に乗って力を込めるペイジ。 一連のやり取りを静かに見守りながら試験項目に採点結果を記入していた静乃と雪斗は、その様子に思わず顔を見合わせた。 「‥‥やはり彼は志体持ちなんでしょうかね」 「そうかもしれないな。本人は全く気付いてなさそうだが」 「まぁ試験には関係ないですけど」 そうしている間にも掴まれた木とペイジの顔は既に臨界点に達していた。 「うぉぉぉぉっ! これでも食らえぇぇぇっ!」 ベキベキと音を立てて地面から引き剥がされていく木。そしてそれを大きく振って屋根上に投げつけ――― ぴき。 その日、嫌な音と共にペイジの背骨という大黒柱がぽきりと折れた。 ●試験結果。 盗人役の開拓者たちに治療してもらい両脇を支えてもらいながら詰め所に戻ったペイジ。 ぱっと見どちらが捕縛されたのかわからない状況に、同心の雷が落ちたことは言うまでもない。 「何はともあれお疲れでした」 「楽し、かった! ね、あむ♪」 「うん、いっぱい、楽しんだ‥‥!」 一行に改めて礼を述べる同心に、仲良く手を繋いだ灯とアムシアが笑顔で答える。 「悪役というのも‥‥刺激的ですね」 「いや、今回の葉悪役とはちょっと‥‥」 間違えた方向に目覚めそうな咲希にそっと突っ込みを入れる林太郎。 「なんだかやけに疲れた‥‥」 「大丈夫ッスよ、俺っちがついてるッス!」 「キミのせいだキミの‥‥」 無駄に爽やかに白い歯を見せながら親指を立てるペイジに、雪斗は思わず肩を落とした。 後日開拓者ギルドにはペイジの岡っ引き合格の報せが届いた。 大きな理由としては一応盗人を詰め所に連れて行くという内容は結果的に達成したためだという。 なお、試験官を務めた静乃の試験項目の用紙は、以下の言葉で締めくくられていた。 『天儀の世界は、ある意味危機を迎えることになるかもしれない』と―――。 |