|
■オープニング本文 ジルベリアの東に位置する辺境の街、ネテマ。 今この国で起きている反乱に関して、この辺境にもコンラートから反乱に参加するよう要請がきていた。 街の権力者たちは緊急に会議を開き連日のように話し合った。 反乱に賛同する者と反対する者の数は拮抗する中、最終的には反乱には参加しないと結論を出した権力者たち。 だがその回答をヨシとしない者たちは、何とかそれを覆そうと密かに動き始めていた。 ネテマの外れにある大きな屋敷。 そこは街でも一・二を争う権力者ハーレー・スベッタさんが居を構える屋敷である。 ハーレー氏は今回反乱に対して断固反対意見を通した一人である。 街の住人のことを何よりも第一に考えるその人柄のおかげで、支持する住人も少なくない。 街の方向性を決める会議の決着から数日経ったある日、ハーレー氏が帰宅すると彼の妻が非常に神妙な面持ちで出迎えた。 「ねぇアナタ‥‥」 「何だその顔は? 何かあったのかね?」 明らかに憔悴した妻の様子に顔をしかめながらハーレー氏は問いかけた。 すると妻はおずおずと手に持っていた一枚のカードを彼に見せる。 「今朝家事をしていたら、突然窓からこれが‥‥」 渡されたのは猫を模った紋様が描かれた名詞サイズのカード。 『一週間後の日付が変わる頃、アナタの貞そ‥‥もとい、大事なモノを頂きにあがります。 怪盗キャッツ・バイ』 「な、何だこれは‥‥予告状!?」 わなわなと震えながらカードに書かれた文字を見つめるハーレー氏。 ただ単に金や宝石を狙いに来る怪盗であればそれほど問題にする必要はないだろう。 寧ろ彼ほどの地位になれば財産を狙う輩など大勢いるため、妻もそれほど慌てず軍の兵士なりに通報していただろう。 だが今回はどうやらその類ではない。 「一応駐屯している軍の兵士さんには通報したのですけれど‥‥」 申し訳なさそうに言う妻の様子から、どういう扱いを受けたかは想像がつく。 恐らく相手にされずに門前払いだったのだろう。 何せ相手が奪いに来るのは、金品などのように実体が存在するようなものではないのだから。 まして今は反乱の真っ只中、兵士もいちいちそのような事件に人数を割くわけにもいかないのだろう。 だからと言ってこのままむざむざ奪われるわけにもいかないモノではあるが。 「あなた、私どうしたら‥‥」 「‥‥開拓者だ」 今にも泣きそうな妻に、ハーレー氏は搾り出すように声をかけた。 「この手の事件は金さえ積めば開拓者が何とか解決してくれるはずだ‥‥」 言うが早いか、ハーレー氏はすぐさま開拓者ギルド宛に書簡をしたため始めた。 |
■参加者一覧
小野 咬竜(ia0038)
24歳・男・サ
相川・勝一(ia0675)
12歳・男・サ
ブラッディ・D(ia6200)
20歳・女・泰
トゥエンティ(ia7971)
12歳・女・サ
そよぎ(ia9210)
15歳・女・吟
ルエラ・ファールバルト(ia9645)
20歳・女・志
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
オラース・カノーヴァ(ib0141)
29歳・男・魔 |
■リプレイ本文 『バイセクシャル』とは、両性愛の意である。 この場合問題となるのは相手にどれほど魅力があるかどうかであって、性別云々はさして考慮されない。 しかし男性と女性とで比べた場合、その手の被害に対し社会的により同情を集めるのはやはり女性であろう。 だからといって男性が心に傷を負わぬかといえば決してそんな事はないのであるが。 ハーレーの護衛についているブラッディ・D(ia6200)は少し悩んだ後、心を決める。 「勝一、君に決めた!」 「あ、えっと‥‥何か御用ですかー?」 急に呼ばれた相川・勝一(ia0675)は、ハーレーとの会話を中断してそちらに目を遣る。 同じく護衛についていた小野 咬竜(ia0038)が怪訝そうな顔で問い返す。 「決めたって何をじゃ」 ブラッディは具体的な事は何一つ言わず、指示語で誤魔化しながら話す。 「なぁ、咬竜‥‥あいつで釣れるかな」 ぴんと来たらしい咬竜は、勝一をじろりと見た後頷く。 「‥‥かなり良い線いっとるな」 一人何も気付いていない勝一。 「何が釣れるんでしょう‥‥」 はいっ、とブラッディが咬竜に、何処から出したものか荒縄を渡す。 実に計画的である。 「釣れそうなら吊りましょう、こんな時の為に荒縄を用意しておいたのさ! レッツ・束縛プレげふんげふん! 君の犠牲は忘れない!!」 ここに来てようやく勝一は自身の危機に気付くが、両側を押さえられ縄をかけられた後に気付いた所でどうにもしようがなく。 「って、はい!? ちょ、お二人とも何を‥‥やーめーてー!? 怪盗はきっとおじさん趣味ですし釣れませんよ!?」 服の上からでも体のラインがわかる程みっちり縛り上げ、食い込む縄の苦しさからか勝一は涙目である。 相川勝一、年の頃は十二才前後、まだあどけなさの残る幼い顔立ちは、生来の女顔と相まって少女のあどけなさと少年の無垢さを兼ね備え最強に見える。 呆気に取られているハーレーに、ブラッディは満面の笑みで言う。 「贄ですっ」 ハーレーは再度勝一の潤む瞳を見た後、ぐっと親指を上げて返す。 「Cool」 彼もまた、実に良い笑顔であった。 トゥエンティ(ia7971)はハーレーの十五歳になる息子の護衛を引き受けていた。 息子はトゥエンティの若さに驚いていたが、若い者同士すぐに打ち解け、仕事をする上で問題無い程度の人間関係は築く事が出来た。 「何故僕がこんなめに!? あの、きっと僕では釣れない‥‥って、吊らないでー!?」 突然そんな声が聞こえて来た。 顔を見合わせた後、恐る恐るその部屋を覗いてみる二人。 部屋の中央には、荒縄で縛られた勝一が吊るされている。 これを仕掛けているブラッディと咬竜の二人はとても楽しそうであり、腕を組みながら見守るハーレーも大層満足げであった。 息子は全力で見なかった事にしようとしたのだが、トゥエンティは恐れる気もなく部屋へと入っていく。 「おいっ、これは一体何の真似だ」 へるぷへるぷーと叫ぶ勝一をガンスルーで、咬竜が事情を説明するも何処までもまっすぐなトゥエンティは納得しない。 すると、突然二塊の疾風が部屋を駆け抜ける。 風はトゥエンティを連れ去ってしまい、呆然としている息子に咬竜が訳知り顔で重々しく頷く。 「奴等が動いたか‥‥」 息子はツッコミを放棄する事に決めた。 一陣の暴風となりトゥエンティの両脇を抱きかかえ連れ去ったのは、そよぎ(ia9210)とルエラ・ファールバルト(ia9645)の二人だ。 勝一君が素敵にデコレートされていく様を一部始終観察していた二人は、囮の必要性と勝一でなければならない理由をトゥエンティに切々と語り、強引に納得させてしまう。 エルディン・バウアー(ib0066)は一連の騒ぎを、とても爽やかな顔でハーレーの奥方に説明している。 奥方はハーレー同様もういい年ではあるのだが、見目麗しい物腰穏やかな青年にこうされて気分が悪いわけもない。 逆側に、使用人やメイドを屋敷から出すよう手配を終えたオラース・カノーヴァ(ib0141)が、紳士然とした態度で控えているのもポイントが高い。 「あらあら、開拓者さんも大変ですわねぇ」 とまあ、こうして屋敷に居る全ての人間承認の元、勝一くん囮作戦は認可されてしまうのだった。 仕掛けも済ませた事であるし、皆はそれぞれの配置に付き怪盗キャッツ・バイの出現に備える。 基本的に二人以上で行動するよう皆に釘を刺したオラースは、今はそよぎと共に屋敷内の巡回を行なっていた。 そよぎは屋敷のメイド役、オラースは怪盗対策に招かれた専門家という立ち位置である。 しかし、とオラースは何とはなしに口を開く。 「そよぎはそーいうのに興味あるんだな‥‥」 いきなりのお言葉に思わず噴出しかけるそよぎ。 「ちょ、ひどっ‥‥まるであたしだけが今回のコト喜んでるヨゴレみたいじゃない」 「いやそこまでは言ってないが」 「女の子、と呼ばれる年齢の女性は皆この手のことが好きなのよー‥‥きっと‥‥多分‥‥」 なるほど、と納得したんだかしていないんだかのオラース。 そよぎの足は屋敷の厨房へと向かっていた。 「何故厨房なんだ?」 「メイドさんみんな追い出しちゃいましたし」 そのまま料理に付き合わされたオラースは、大き目の鍋の中でありあわせの具材を煮込み塩を振るのみの料理を見て、何か言いたげな顔をする。 しかしそよぎは何処吹く風とおたまで汁をすくって味見中。 「手料理に文句つける男は結婚できないと思うの」 「‥‥覚えておく」 荒縄で縛られ吊るされたままの勝一に『はい、あーん』で誰が夕食を食べさせてあげたのかは置いておくとして。 夕食後、息子は読書の時間、ハーレーは書類仕事、奥方は縫い物とそれぞれの時間を過ごすのに合わせ、開拓者達は警戒を続ける。 色々と絶望的な気分でぷらーんとぶら下がっている勝一は、室内に気配を感じ背筋が凍りつく。 「‥‥これは一体何事?」 見知らぬ細身の男性、キャッツ・バイがそこに立っていた。 「あ‥‥うぁ‥‥」 まさか本当に出るとは思わなかった勝一は、敵を前に身動き取れぬ我が身が恐ろしくて仕方が無い。 「しかし、実に素晴らしい出来映えだ。素材も申し分なし。ふむ、仕事の前に一つお楽しみといこうか」 ゆっくりと歩み寄るキャッツ・バイは、勝一の前に手を翳す。 びくっと震える勝一。 その反応を見て、彼は何かを確信したようだ。 翳した手を上に持っていき、勝一の頭に優しく触れる。 効果は絶大、ただの一挙動で強張っていた勝一の全身から力が抜け落ちる。 「良い子だ」 僅かな時間で勝一の弱点を見切ったキャッツ・バイは、ここからが本番と残る手を勝一の腹部に添え、衣服をはだけさせながら胸元にずり上げていく。 後ろ頭に手を伸ばし、引き寄せながら自らの口元を睫毛に近寄せる。 小さな呼気が勝一の前髪を揺らす。 そこで、空気を読んでいるのかいないのか、扉を開き入ってくる者が居た。 ルエラは手に盆を乗せたまま、少しだけ驚いたように目を見開く。 「おや、お客様でしたか。ご主人もいずれ来られますので、しばしの間はそちらの遊具にて時をお過ごし下さい」 彼女自身、水着もびっくりな狭い範囲しか覆えぬ生地のみをまとい、透き通ってみえる薄い羽衣を羽織っているのみ。 扇情的な衣装に相応しい艶のある声、肉感的な体に若々しさをもたらす赤毛をしっぽのように後ろに縛り、色気と初々しさを両立させるという難事をそつなくこなしてある。 キャッツ・バイは、ぼうとした声を発する。 「ここは桃源郷か‥‥」 目線でルエラに助けを求めている勝一くんは、やっぱりスルーされていた。 「立ったままというのもなんですから温かい飲み物でもいかがですか?」 そう言って部屋の椅子を勧め、すぐ側のテーブルに熱い甘酒を置く。 そのまま動かぬキャッツ・バイに、ルエラは微笑を向ける。 「ふふっ、変な薬なぞは入れておりませんよ。雰囲気を盛り上げるのには良い手ですが、そちらの遊具には不要ですから」 そう言ってカップを手に取り、少しだけ口をつける。 酒よりよほど美味であろう薄紅の唇の端から、乳白色の雫が一滴、滑り落ちていく。 「いただこう」 扉の隙間からこれを覗いていたエルディンは、お見事です、と内心でルエラの健闘を称えつつ、キャッツ・バイの飲もうとしている甘酒にセイドの術をかける。 効果は即座に現れた。 体の痺れに思わずカップを取り落とすキャッツ・バイ。 エルディンはそれを確認すると部屋の中に入る。 そしてこちらも荒縄を手に、キャッツ・バイを縛り上げようと近づいていく。 しかし、キャッツ・バイもまた志体を持つ者。 並外れた体力で力押し、強引にエルディンに飛び掛る。 二人は床の上をもみ合って転がるが、そこで、またもキャッツ・バイの特技が炸裂する。 「!?」 弱点である耳に乱闘の最中とは思えぬ甘く熱した吐息がかけられると、一瞬だがエルディンはその場に硬直してしまう。 その隙にエルディンの上を取り、完全に押し倒しきるキャッツ・バイ。 吊るされたままの勝一は、一連の動きをぼけーっと見ているだけのルエラに訊ねる。 「あの、助けなくていいんですか?」 「二人が一線を越えたら考えないでもないです」 「‥‥‥‥」 キャッツ・バイが武器を所持している様子もないようなので、ルエラは勝一程危機感を持っていないらしかった。 ちょっとどきどきのまま観察を続けるルエラに、もうこの空間は駄目だ、と色々諦め気味になる勝一であった。 上を取り動きを封じると、キャッツ・バイの手はエルディンの全身をまさぐるように這い回る。 エルディンは、しかしこれを危機とは思っていなかった。 のしかかってくるキャッツ・バイの胴体を両足で挟むように固定し、彼の胸元に手を添える。 「少し熱くなりすぎですよ」 そう言ってフローズの術を放つと、表皮に霜が生える程の冷気がキャッツ・バイを襲う。 ちょうどその時、異変を感じ取った他開拓者達が部屋に駆け込んで来る。 「わはははは、出たな怪盗! さあ、怪しい様を見せるがよい、すぐにでも捕まえてやるのであーる!」 絶好調で真っ先に飛び出して来たのはトゥエンティだ。 だが、そのすぐ後に続いたブラッディが、キャッツ・バイにエルディンが押し倒され、衣服も乱れに乱れている惨状を見るなり、後ろからトゥエンティの両目を覆ってしまう。 「ちょっ! な、何をするか!?」 「あー、一応、こういうのは見ない方がいいらしいぜ」 「見ないでどーやって賊を退治するというのかー!?」 それまでの自分らしくない事をやってるとは思うが、ブラッディはブラッディなりに、変わって行こうとしているのだ。 同じく駆けつけたそよぎは、 「何があっても温かく見守るから安心してほしいの」 だそうである。 危うしエルディン。凍りつくような温度もキャッツ・バイは熱く燃えたぎるハートで溶かしてやるつもりだぞっ。 咬竜とオラースの二人は顔を見合わせる。 「女達、助けるどころか敵方の援護始めそうな勢いじゃな」 「最中というのは、どんな腕利きでも隙だらけになるもんだ」 「‥‥おまえも見捨てる気満々かっ」 仕方なく刀の峰でキャッツ・バイを痛打し、エルディンから引き剥がしてやる。 何やらため息が聞こえてきたのは無視してやる咬竜。 ごろごろと転がるキャッツ・バイは、完全に包囲されているにも関わらず、すぐに次の標的を定める。 「へ? 私?」 駆け寄りざま、そよぎの衣服の裾を跳ね上げさせ動揺を誘う。 しかしこれはキャッツ・バイ最大の失敗であった。 男性陣を狙う分には女の子達はスルーを決め込んでいたのだが、同じ女性が狙われるとなれば話は別である。 ブラッディがトゥエンティからぱっと手を離す。 「ごー」 「お? 何だもう良いのか。ならばっ!」 低い身長に不釣合いな大斧をふりかざすトゥエンティ。 「安心するが良い! 我輩の鬼殺し、痛みを感じる暇すら与えぬ!」 力に歪まされているキャッツ・バイに、トゥエンティの大斧が、よーやく動き出したルエラが、手加減だけはしてやるかと剣は抜かなかったブラッディの拳が、一斉に襲い掛かった。 流石にこれはマズイと逃げ出しにかかるキャッツ・バイであったが、セイドによる痺れの効果も残っており、更に、悪いが逃がさんとオラースが放った吹雪の嵐がこれを襲い、動きを封じられまくったキャッツ・バイは、その隠密スキルを振るう事すら出来ずとっ捕まってしまった。 これで一段落と、咬竜はハーレーと共に今回の騒ぎについて話し合っていた。 「ん、それにしても、何でまたあんたみたいなお偉いさんのし‥‥もとい、大事なものを奪おうなんて考えたんじゃろうなぁ。意外とそっち方面に人気があるのかもなぁ、おっさん」 とっても気になるのでキャッツ・バイを問い詰めた所、ハーレーの固い意志を崩す為、ネテマの街の反乱軍参加希望者達がキャッツ・バイを雇ったらしい。 精神が崩れれば、強い意思も持ち続けられまい、だそーである。 頭痛が止まらぬハーレー。 「‥‥兵を動かさせないやり方でもあるが、賢い手‥‥とは認めたくないな、断じて」 ふと、咬竜はキャッツ・バイがこちらを見ている事に気付く。 「ん? 何か用か?」 キャッツ・バイは真顔のまま、捕らえられているとはとても思えぬ偉そうな口調で言った。 「その筋肉、実に素晴らしい。なでまわしたいんだが、構わんか?」 鉄拳をぶちこんで即座に黙らせる咬竜。 オラースが勝一の縄を解いてやると、勝一はぽつりと溢す。 「僕、今回なーんにもしてない気がします」 「囮役だったんだろ? 適材適所だったぞ」 「勘弁してください‥‥」 へこんでいる勝一を他所に、オラースはキャッツ・バイを見下ろす。 「志体持ちなのを良い事に強引にモノにする、か。怪盗でもなんでもねえな、お前」 (代筆 : 和) |