花火戦争最前線。
マスター名:夢鳴 密
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 25人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/02 03:12



■オープニング本文

 北面にある、ある二つの村。
 隣村と言っていいその二つの村は日常的には農作を生業とする村人が穏やかに暮らす、何の変哲もない普通の村だ。
 しかし一年に一度だけ、村人全員が心の内に秘めた荒ぶる魂を呼び起こすときがある。
 それが―――

「天儀一花火戦争‥‥?」
 手元にあるチラシを見た銀髪の少女がかくりと首を傾げる。
 無駄に色とりどりに塗りたくられたそのチラシは、どうやら村で行われる一大イベントを盛り上げんとするために作られたモノのようで、花火をイメージして村一番の画家が描いたものらしい。どう見ても乱雑に塗りたくられた子供の絵にしか見えないが。
 それはともかく。
 疑問詞の浮かんだままの少女―――開拓者ギルドフ受付係である―――の前に座る青年が大きく頷く。
「そうです! 毎年この時期になると豊作を祈願するために、村同士で花火を打ち合って競い合うんです。あ、この時使用する花火は普段見ているような六尺玉などの大玉花火ではなく、目標に向かって直線状に飛来する特殊な花火なんですけどね。相手方の村により大きな損害を与えたほうが、その年の豊作がやってくるという風に言われています! あ、でも天儀一っていうのはあくまで自称で、実際はもっと凄いことをしてるところがあるかもしれませんけどね」
 興奮気味に語る青年を若干鬱陶しく思いながらも、少女は「はぁ」と小さく頷いた。
 確かに農作を生業とする村では、この時期になると豊穣祭のようなものが各地で行われていたりするのは確かではある。今回のこれもその類のモノではあるのだろう。
「では‥‥今回はこの天儀一花火戦争というモノを盛り上げるために協力をさせていただければいい、ということですか?」
「えぇ‥‥協力をしていただきたいのは勿論なのですが‥‥」
 先程の語り口調から一転、青年は言葉を濁す。
「他にも何かある、と?」
「他に、というよりは‥‥今回開拓者の皆様に参加していただきたいのは、片方の村だけなのです」
「‥‥つまり村の一員としてこの花火戦争に参加してくれ、と‥‥?」
 少女の言葉に青年はコクリと頷いた。
「しかし‥‥この手の催しに関しては開拓者といえど余り戦力になるかはわかりませんよ? まして花火を打ち合うなんて、経験した者も多くはないでしょうし」
「わかっています! ですが‥‥今回は相手の村の気合の入り方が尋常ではなくて‥‥何が起こるか正直検討もつかないのです。前回は村に迷い込んだケモノに花火をつけてこちらに向かって解き放ったりしてましたし」
 青年の言葉に少女は呆れた表情を浮かべた。
 これが事実なら完全に花火の枠を超えてしまっている。というより寧ろ尋常じゃない被害だ。
「それはその‥‥大丈夫なのですか?」
「前回は村人総出で何とか食い止めました!」
「はぁ、そうですか」
 どうやら村人には催し自体への疑念はないらしい。
 だがこれ以上被害が多くなれば最悪怪我人では済まないだろう。そういう意味ではちゃんとした実態調査を含めて開拓者を派遣するのも必要ではあるかもしれない。
 しばし考える仕草を見せた少女は、やがてその瞳に青年の顔を捉えると「わかりました」と一言吐き出した。


■参加者一覧
/ 小野 咬竜(ia0038) / 鈴代 雅輝(ia0300) / 羅喉丸(ia0347) / 真亡・雫(ia0432) / 紫焔 遊羽(ia1017) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 巴 渓(ia1334) / 喪越(ia1670) / 平野 譲治(ia5226) / 菊池 志郎(ia5584) / 千見寺 葎(ia5851) / 雲母(ia6295) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / 郁磨(ia9365) / 不破 颯(ib0495) / 琉宇(ib1119) / 豊姫(ib1933) / 蓮 神音(ib2662) / 朱鳳院 龍影(ib3148) / リリア・ローラント(ib3628) / イクス・マギワークス(ib3887) / 江 天虎(ib4366) / 八島 鈴(ib4369) / 斬月砕星(ib4384


■リプレイ本文

●花火戦争開始前。
 花火を使った戦争紛いの祭に参加すべく集まった開拓者一行は、依頼のあった村の広場に陣取り、開始の時を待っていた。
「昨年のこの時期は仮装して格闘祭、今年は打ち合い花火祭ですか‥‥天儀には俺の知らない祭がまだまだたくさんあるようです」
 予め村人と協力して作り上げた柵やら土嚢やらを見回しながら菊池 志郎(ia5584) は呟いた。
「本当だね。花火を見物するお祭りなら今までもいくつか聞いていたけど‥‥どんなのか楽しみだなぁ。ね、譲治くん」
「うん! 全力で遊ぶなりよっ! 雪辱を晴らすなりっ!」
 ほわんとした口調と笑顔を浮かべる琉宇(ib1119)に、平野 譲治(ia5226)が拳を握り締めて闘志を燃やす。どうやら何か祭に関して失敗した経験があるようで、今回はその再挑戦なのだとか。
「楽しむのも勿論だけどー。被害を抑えるように頑張らないとだよー?」
「勿論なりよ! やるからには負けないなりよっ!」
 これは依頼なんだから、と嗜める石動 神音(ib2662)は、楽しむとはいえ勝負は勝負、と張り切る譲治に思わず苦笑を浮かべる。
 だがそれは何も譲治に限ったことではない。
「おぉぉ! 祭りじゃ祭りぃぃぃ! 燃えてきたぜぇぇぇぇっ!」
「はっ! 花火ぐれぇ俺が全部叩き落してやるぜ!」
 既に目を肉食獣のようにギラつかせる豊姫(ib1933)と、妖魔だの魔人だのとわけのわからない言葉を発しながら既にトリップ状態の巴 渓(ia1334)。
 いろんな意味で戦闘準備は万端のようだ。
 そして暴れる気満々の開拓者も勿論いる。
「花火戦争か〜いいねー面白そうだね〜」
「あぁ。いっちょ暴れますか〜」
 へらりと笑みを浮かべる不破 颯(ib0495)に郁磨(ia9365)も拳をパキパキと鳴らして不敵に笑う。
 こちらも色々と細工をしているようで、今から楽しみで仕方ない二人であった。
 かと思えば偶然依頼を見つけて参加した者もいる。煙管を片手に騒がしい仲間の様子を笑顔で見守る鈴代 雅輝(ia0300)もその一人だ。
「おう! 何か祭りか! 楽しそうだな!」
「ふふー、花火のお祭りですって。綺麗な花火だといいですねー」
 雅輝の言葉に笑みを浮かべながら呟くリリア・ローラント(ib3628)の指先には既にちろちろと赤い炎が。火をつける気満々である。
「えぇと‥‥これでこっちは準備よし‥‥ん?」
 豪快な笑い声を上げる雅輝と、新しい悪戯を思いついた少年のような笑みのリリア。その二人の声が耳に入り、していた作業をふと中止した千見寺 葎(ia5851)は、声のした方へとそっと視線を送って愕然とした。
「な、何故お二人がこんなところに‥‥」
 葎にとって雅輝はとても恩のある人物、勿論いつかその恩は返さねばならぬと思ってはいるが、まだその機会には巡り合っていなかった。一方のリリアは以前共に同じ仕事を請けた仲間である。それ程仲がいいわけではないが、かといって知らぬ存ぜぬで通せる間でもない。そんな二人がいきなり目の前に現れたとなれば焦るのも当然だろう。どうすればいいものかと思案する葎に気付いた雅輝、ずかずかと彼女の前に歩み寄るとにかりと笑って声を掛ける。
「おう! シノビの娘! またこんなとこで会うたぁ、俺らはよっぽど花火の縁があんだな!」 
 これには葎は焦った。何せ雅輝と一緒に他の夏祭りを楽しんだときとは違い、今回は依頼用にとシノビ然とした姿だったのだ。隠していたわけではないのだが、普通の人が見たのでは全く気付かないほどのレベルである。それを雅輝にいともあっさりと見抜かれた驚きと戸惑いで少し動きが挙動不審になる。
「どーしたの葎さん」
 そんな様子にリリアは不思議そうに首を傾げる。リリアにとっては葎の姿は共に依頼を受けたときの姿なので以前と印象は何も変わっていない。だから何を慌てているのかがわからなかったのだ。
「な、何でもないです‥‥それよりお二人とも、お暇でしたら少し手伝ってください。もう少し準備がいるのです」
 生真面目に祭りの準備を薦める葎の言葉に、「応!」と答えた雅輝は面倒臭がるリリアを無理矢理引っ張って手伝いに動く。
「おーおー、皆気合が入っとるのぅ!」
 準備やら掛け声やらの飛び交う村の様子に、血の滾りが抑えきれないのはド派手な衣装に身を包んだ小野 咬竜(ia0038) 。少年のように目を輝かせて見るからにうきうきとしている咬竜の隣では、彼のイイ人である紫焔 遊羽(ia1017)が盛大な溜息をついていた。
「あんなけ合戦で暴れといて‥‥まだ足りやんの‥‥?」
 呆れ顔で言う遊羽に、咬竜はかっかっかと笑い声を上げ一言。
「それとこれは別じゃ」
「‥‥も、知らんっ」
 ぷいっとその場を後にした遊羽に、「待て、すまんて」と言いながらその後を追う咬竜。最終的に強いのはいつの時代も女のようである。
 そんな二人の様子を横目で見ながら、明らかに不機嫌な空気を全面に出している者が一人――― 雲母(ia6295)である。
「撃てると思っておったのだがなぁ‥‥残念だ。あー、残念だ」
「まぁそう言うでない。迎え撃つのも案外楽しいかもしれんぞい?」
 そんな雲母の横に立つのは朱鳳院 龍影(ib3148)。同姓ではあるが、雲母を旦那とする龍影。せっかくなので一緒に楽しみたい想いもあるのだろう。
「残念だから本気で迎撃してやろう。うん、そうしよう」
「あぁ、そうじゃな」
 ブツブツと文句を言いながらもちゃんと準備をしている辺り、楽しみではあるのだろう。そんな雲母に龍影は微笑みを返して頷いた。
 勿論今回の依頼が初依頼となる開拓者もいた。緊張した面持ちでそわそわとしている八島 鈴(ib4369)もその一人だ。そんな鈴にからす(ia6525)が声を掛ける。
「そんなに緊張せずとも大丈夫ですよ。気楽にいきましょう。お茶でもいかがです?」
「が、頑張るで御座るよ‥‥! あ、かたじけないで御座る」
 茶席を設けようと準備していた茶器で茶を振舞うからすに、ぎこちない笑みを浮かべた鈴は、緊張で乾いた喉をそっと潤した。
 そんなこんなでわいわいと騒ぐ一行の下に、村人たちから今回使う花火の数々が運び込まれる。至って簡素な作りをしたその花火は鑑賞が目的でないことを如実に物語っていた。
「本当に妙な祭りがあるものだな」
「全くだ! 天儀ってぇのは面白いところだな!」
 運びこまれる花火を見ながらイクス・マギワークス(ib3887)の呟きに豪快に笑いながら答える江 天虎(ib4366)。泰から来たばかりの天虎にとっては珍しいモノばかり。全てが新鮮な景色は天虎の気持ちを否が応でも刺激する。
「本当にとんでもないお祭りがあったものだなぁ‥‥これ毎年やってるんですよね?」
「恐らくは‥‥今の世の中、少しでも気を紛らせることも大事なのかもしれませんね」
 こちらは若干の不安を覚える真亡・雫(ia0432)に礼野 真夢紀(ia1144)がしんみりとしながら答える。
「家とか壊れちゃったら大変でしょうに‥‥それに花火とはいえ当たればタダじゃすまないですよね? 怖いなぁ‥‥」
「何言ってるんだYO!」
 降りかかるかもしれない災難に身を震わせる雫に突然掛けられる陽気な声―――喪越(ia1670)だ。
「フッ、痛みを痛いと感じるから損するんだ。痛みを快感に変換できるよう進化した俺様こそ無敵!」
「それは何だかとてつもなく退化してるような気がします‥‥」
 聞き様によっては変態宣言にも聞こえる喪越の言葉に、雫はひっそりと突っ込んだ。
「なるほど、これで打ち合うのか‥‥相手もこれを使ってくるとなると、避ける鍛錬にはもってこいかもしれんな」
「鍛錬もえぇですけど、危ないときは頼ってくださいよ?」
 花火を一つ手に取った羅喉丸(ia0347)に斬月砕星(ib4384)が苦笑して一言。常に自身の向上に余念がない羅喉丸の姿勢は、駆け出しの開拓者である砕星にとって尊敬に値するところではある。だが砕星もまた人々を守りたいと願う開拓者。それが例えベテランの開拓者であっても揺るがない。その想いが通じたのか、羅喉丸はふっと笑みを浮かべた。
「あぁ、その時は頼らせてもらおう」
「えぇ、是非に」
 その時、村人の一人が開拓者たちに大声で祭の開始が近いことを告げる。
 それぞれが持ち場へと散っていく中、ただ一人和奏(ia8807)だけが虚ろな目でそれを眺めていた。
「‥‥最前列で花火を観覧する為の席取合戦ではなかったのですね‥‥」
 とてつもなく残念そうな和奏の呟きは、誰に聞かれるともなく喧騒の中へと消えていった。


●戦争開始〜迎え撃つ者たち。
 村人からの報せを受けて数刻、妙な緊張感を保つ村の空気を、一発の銅鑼の音が震わせる。
 誰が言ったわけでもない。ただ、それが開始の合図なのだと誰しもが理解する。
「ヘイヘイヘイ! 一番槍は俺がもらうぜぇぇぇぇぇぇっ!」
 そう言って前に躍り出たのは喪越。こめかみ、両肩、両手、太ももにそれぞれ二本ずつ花火を括り付け、丑の刻参りでもしそうな勢いの喪越はその身に巻きつけた花火を指差して一言。
「総員第一種戦闘配備! ふぁいあぁぁぁっ!」
 特に意味はないのだろう。とにかく点火して欲しい意思だけは伝わった。
「火ですねっ! 任せてください♪」
 嬉しそうに指先から火球を発射させたのはリリア。
 火球はそのまま花火に点火―――せず喪越の服に点火。
「あ」
「ふおぉぉぉぉぉっ!」
 燃え盛る喪越。そんな彼の奇声と同時に花火にも漸く点火。喪越の体から飛んでいく八本の光の筋。
「美人からの点火で感度あーっぷ!」
 喪越の火は予め水桶を用意していた志郎の手ですぐに鎮火されたが、迸る彼のパトスは留まることを知らないようだ。そんな喪越から美女と言われたリリアは―――まんざらでもなさそうに「美人だなんて、もう‥‥」とか言いながら頬を桃色に染めていた。
 そしてそんな実際に燃え上がった喪越を見て更に熱く燃える男が一人―――雅輝だ。
「よっしゃぁ! 俺も点火するぜぇぇぇ!」
「は? 点火‥‥? ちょっ‥‥危険ですっ」
 叫ぶ雅輝に隣にいた葎がはっと表情を固くして引き止める。
 葎としては恩人に危険な目にあってほしくないだけなのだが、対する雅輝はどうやら違う捉え方をしたようだ。
「あ? 男なら人生ででっけぇ花火の一発ぐらい上げねぇでどーすんだ!!」
「そういう意味ではなくてですねっ」
 拳を握って力説する雅輝に葎の言葉は届かないようだ。
 と、そこで水桶を持っていた志郎が異変に気付く。
「‥‥! 皆さん、来ますよ!」
 志郎の声と同時に空の向こうから飛んでくる無数の影―――相手村の攻撃である。
 開拓者一行の間にも一瞬緊張が走る。だがそこは百戦錬磨の開拓者たち、花火如きで取り乱すことはない。
「さぁ、やっとおいでなすったぜぇぇ!」
「全部蹴り落としてやる!」
 七節棍を振り回し不敵な笑みを浮かべる豊姫に、空を睨みつける天虎。
 二人は飛来する花火を視界に捉えた瞬間に大きく跳躍し、空中で手足の届く限りで花火を撃墜していく。
 勿論それだけでは防ぎきれる量ではない。
 二人の合間を縫って飛来した花火の一部が火輪によって相殺される。
「行かせないぜよっ!」
 気を吐いた譲治の召還した式によって次々と相殺されていく花火。
 更に何もない空間に突如として出現した壁によって花火の軌道が阻まれていく。イクスのストーンウォールだ。
「これで花火程度なら防げるはずだ」
 無表情で淡々と告げるイクスの隣で水を被った羅喉丸が濡らした布を器用に操り花火を撃ち落していく。
 そして少し離れた場所では咬竜が槍を風車のように振り回して飛んでくる花火を撃ち落していた。
「楽しいなぁ、おい! 楽しいぞ、なぁ遊羽!!」
 心底楽しいと声を漏らしながら豪快に笑う咬竜の横では、手にした鉄扇で咬竜の撃ち損じた花火を舞うように払い落とす遊羽の姿。
「もう‥‥キリあらへんっ」
 若干涙目になりながら舞う遊羽に、咬竜は少し自分がはしゃぎすぎたことを後悔。すぐさま遊羽を背に庇いそっとその肩を抱きしめる。
「すまん」
「っ‥‥もう‥‥アホ‥‥怖いんやで?」
 咬竜の袖に顔を隠しながら呟く遊羽。見詰め合う二人―――そんな二人のすぐ傍で花火を受けきれなくなっていくつか被弾している雫。
「ち、ちょっとちょっと! 二人の世界入ってないで加勢してくださいよっ!? こっちが涙目ですよ!?」
 雫の本気の涙に二人は慌てて花火の迎撃へと戻る。
 一方、周りがヒートアップする中でやはり不機嫌なのが雲母。
「撃てない、私が撃てないとは・・・・全く持って屈辱だ」
 ぶすっとして煙管から煙を吐き出しながら飛来する花火を矢で撃ち落していく雲母。と、その後ろからぬっと彼女を覆う影。見上げれば何やら二つの大きな山―――龍影の巨大すぎる胸である。
「どうじゃ? なかなかにええじゃろ」
 誇らしげに言う龍影に「おー」と感嘆の声を上げた雲母はおもむろにその胸をたぷたぷと揺さぶる。
「こ、こら‥‥」
「至高じゃのうー」
 何だかんだで機嫌は直ったらしい。

●反撃する者たち。
 第一波をさしたる被害もなく防いだ開拓者たち。次はこちらの番と言わんばかりに反撃の狼煙をあげる。
「ふふ、今度はこっちから反撃だよ〜郁〜」
「了解ですよ!」
 いつものようにへらへらと笑みを浮かべる颯の言葉に、郁磨は自身の愛弓に矢を番える姿勢を取り意識を集中。狙うは一点―――軌道上に並んだ花火の導火線たち。
 郁磨の手に現れた雷鳴の矢が手を離れて真っ直ぐ花火へ。バチリと音を立てて炸裂。同時に花火に同時点火。
「花火版五月雨!」
 郁磨の声と同時に花火は地面を離れ宙へと放たれる。楓もまた特注で作ってもらった地を這う花火に点火し、相手方の村の方へと解き放つ!
 が、どうやら障害物まで計算にいれてなかったようで、相手方に届くことなく途中で爆散。
「あっはっはー、失敗失敗〜」
 からからと笑いながら消え行く花火を見つめる楓。その障害物の中に豊姫がいて「ほぎゃああああっ!?」とか謎の悲鳴をあげながら燃えていたのが見えたがあえて見ない振りをした。
「さて、こちらも纏めていかせてもらおうか」
 言いながら花火の塊を球状にしたものを作成し始めるイクス。球体となった花火の一部から導火線をひょろりと出したモノが完成。イクスの作り上げたモノに興味を惹かれたのは鈴。
「おぉ、それは何で御座るか!?」
「ん。これに点火して着火する前に敵陣に放り込めば面白いことになると思わんか?」
 食い入るように手の中のモノを見つめる鈴にイクスは淡々と語る。
「そ、それは‥‥危ないで御座るよ?」
「大丈夫だ。任せろ」
 心配そうな鈴を余所に自信満々のイクス。とうとう導火線に点火。ジリジリと音を立てて球体に近付いていく火種。
 そこでイクスはおもむろにその球体を投擲―――しかし、イクスは決して腕力があるわけではない。まして投げたのは比較的軽い花火の塊。当然空気の抵抗に負けてぽすりと鈴の足元に着弾。
「む、腕力足りなかったか‥‥」
「‥‥足りなさ過ぎですよぉぉ!?」
 すまん、と謝るイクスと絶叫を上げる鈴の足元で、様々な方向に花火が飛び散り、それぞれに開拓者たちに襲い掛かる。そのうちの一つが神音に命中。瞬く間に燃え上がる。
「萌えろ、いー女〜。神音はいー女だよ〜‥‥‥‥ってあつぅいぃぃぃ!?」
 調子が良く軽口叩いてたもののやはり熱かったのだろう。転げまわって火を消していた。
「おいらたちも敵陣に乗り込むなりよっ!」
「うん〜行こう譲治くん〜」
 譲治と琉宇の小さき二人が敵陣目掛けて一直線に駆けて行く。
 譲治が相手の花火保管場所に火を放ち、それを利用して火事を匂わせて敵陣を混乱するというのが彼らの作戦。
 しかしそれをおいそれと許してくれる相手ではない。二人が自陣を抜けようとしたその時、前方から土煙を上げて突進してくる影が見えた。
 どうやらイノシシ型のケモノのようだ。目を凝らしてみるとその背中に申し訳なさ程度に花火がついているのが見える。
 慌てる二人の前に渓と砕星が立ち塞がる。
「はっ! トレーニングにはぬるいぐらいだぜ!」
 そう言ってイノシシ目掛けて突進し、拳を放つ渓。
 一般人からすればケモノは脅威であるが、開拓者ともなればそうでもない。瞬く間にケモノの勢いを殺していく渓。
 勢い余ってトドメをさそうとしたところで砕星が手にした水桶をケモノと渓諸ともぶっかける。
「つべてっ!?」
「そこまでです。動物虐待になっちゃいますよ?」
 水を滴らせる渓に笑みを零しながら告げる砕星。無用な殺生はしないに限る。
「そんなことでは魔戦獣の牙や魔人の咆哮にやられて―――」
「ふふ、とりあえず濡れた体を乾かしましょう? こちらに来てください」
 再びトリップを開始した渓の体を、柔らかな笑みと共に拭いていく真夢紀。自分の身を案じてのことだと理解したのか、むぅと唸りながらも渓は大人しく身を任せた。
 そうこうしているうちに敵の第二波が始まった。
「うわわわっ‥‥」
 再び飛来する花火を懸命に避けるリリア。だが元来彼女は接近されることに慣れておらず、結果的に撃ち落しきれずに花火の接近を間近にまで許してしまう。
 あわや直撃というところで颯爽と彼女の前に立ち塞がる影―――葎だ。迫り来る花火を一閃して叩き落す。その一連の流れをほぅと見つめるリリア。気付いた葎が首を傾げて「大丈夫ですか?」リリアを覗き込む。いきなり眼前に現れた葎の顔に顔が紅潮して熱を帯びるのがわかった。リリアはその凛々しい外見とスレンダーな体のおかげか、葎を男の子だと勘違いしてしまっていた。年頃の、それも美形の男の子に顔を近付けられれば誰しも鼓動が早くなるものだろう。
「ななななんでもないっ」
 慌てたリリアはその場を駆け出していった。
「な、何かしたのでしょうか‥‥」
 首を傾げて呆然と見送る葎の問い掛けに答える者は誰もいなかった。

 激化する花火の応酬。
 どれくらいの時を過ごしたのか、そろそろ花火の弾幕も尽きようかというところだろう。
 村の外れにある高台の上で陣取っていたからすは、避難していた一般人の方々を誘い簡易茶室を開いていた。
「激しい撃ち合いだな」
 茶を啜りながらのほほんと呟いたからす。完全に傍観者の気分である。
 そうは言いながらも稀に飛んでくる花火に対しては指してあった鉄傘を盾にして防いだりしていた。
「そうですねぇ‥‥花火なんて人に向けちゃいけないのですけどねぇ」
 自分に危害が加わらなければ何でもいいからすに苦笑しながら出された茶を頂きながら言う和奏。
 二人揃って再び村の方へと視線を送ると、そこには最後の花火に纏めて火をつけようとする仲間たちの姿。
「終わり、ですかね」
「恐らくは‥‥」
 頷きあう二人の視界に、最後に点火した花火が暴発してあちこち飛び回り逃げ惑う開拓者たち。
 琉宇とからすの溜息が重なったのはきっと気のせいではないだろう。
 

●戦い終わって。
 戦いが始まってから数刻、激化する花火の応酬もついに双方の在庫切れという形で幕を閉じた。聞けば毎年そんな感じらしい。
 で、最後は仲直りということで宴が催され、勿論開拓者たちも参加した。
 宴の席では飲めや歌えの大騒ぎ。
 だがそんな中で反省会をする者の姿も―――郁磨と楓である。
「うーむ、まだまだ改良の余地はあるね〜」
「結局相手のとこまで届かなかったですしねぇ。」
 二人が話すのは地を這う花火のことである。どこかの文献で仕入れた情報をそのまま使用したらしい。
「ま、次回に期待だねぇ〜。また一緒にやろーねー」
 へらりと笑いながら差し出された楓の手を、返答代わりにぐっと握った郁磨。
 そしてもう一組、反省会をしている小さな二人が。
「結局作戦うまくいかなかったねー」」
「でも楽しかったなりよっ!」
 少し落ち込んでいた琉宇に、気にするなと言わんばかりの溢れる笑顔で譲治は笑う。
 まだまだ幼い二人にとっては貴重な体験だったのかもしれない。
 そんな二人を微笑ましく見守っていた遊羽の隣に、咬竜がどっかと腰を降ろした。
「すまんなぁ、騒々しかったじゃろ! あっちゃこっちゃで火花がなぁ」
「ほんまや‥‥何遍言うても聞かへんのやから‥‥」
 その時の気持ちを思い出したのか、ぐすりと涙を浮かべた遊羽の肩を、咬竜はそっと抱きしめる。
「だが、こういうのもたまには悪くない。そう思わんか?」
 優しく、しかし無邪気な笑顔を浮かべる咬竜に、遊羽はただ「もう」とだけ呟いてその身をそっと寄せ付けた。
「何だか消化不良のような気がする」
 相変わらずの不機嫌全開で呟く雲母に、龍影はこれまた相変わらず胸を雲母の頭に乗せながら「果報者め」と嬉しそうに呟いた。
 一方恋人たちが愛を囁きあっている頃、宴の席とはいえまだまだ仕事をする者もいる。
 今回の花火祭は開拓者たちの頑張りもあってか昨年よりも安全さが増していたとはいえ、やはりアレだけの規模である。怪我をする人は少なくない。
「はーい、次の方どうぞー」
 真夢紀の声で怪我人たちが運ばれてくる。そのほとんどが軽い火傷であるとはいえ、やはり放っておくわけにもいかない。
 それに賛同した砕星や鈴もまたその手伝いを始めた。
「お水、持ってきたで御座るよ」
「あら、ありがとう♪」
 真夢紀にお礼を言われた鈴は嬉しそうに耳をぴこぴこと動かした。
「せやけどこないな祭、毎年やるやなんて元気やなぁ」
 次々と運ばれてくる村人を見ながら砕星は思わず苦笑を零す。
「あぁぁぁ! 俺は治療しなくていいんだ。何故なら俺はこの痛みが既に快感になっているのだか―――」
「わかったからいいから寝て〜? 喪越ちゃんが一番ヒドイからねー」
 治療はするなとごねる喪越の体を神音が押さえつけて無理矢理薬草を塗りこんでいく。当然傷口に良く染みるのだが、既に一般人の領域を超えてしまった喪越にはそれは痛みとは違う感覚に変換されてしまっているようだ。
「ふぅやれやれ‥‥えらい目に合ってしまいました‥‥」
「わははは! 何辛気臭い顔してんだ。せっかくなんだから楽しもうぜ!」
 誰ともなしに呟いた雫の言葉を偶然効いた豊姫が隣に腰掛けて肩をバシバシと叩いた。と、その衝撃で辛うじて身を隠していたボロボロの衣服がハラリと舞う。
「え、あ、ちょっ‥‥!? あ、あんまり見ないでください‥‥っ!」
 桃色に染めた頬とその華奢な体と中性的な顔と。全てが合わさると、雫は完全に女性にしか見えなくなる。
 勘違いした喪越が雫に襲い掛かる寸前で仲間に止められていたとかいないとか。
「ふぅ、やれやれ‥‥やっと終わりましたか」
「そうだな。激しかったな」
 溜息交じりの和奏に、何やらごそごそと懐を漁るからす。やがて何かを見つけてそっと取り出した。
「これは‥‥線香花火?」
 からすの手に乗せられた紐状のモノを見て和奏が言うと、からすはコクリと頷いた。
「派手な花火もいいが、私はこれが好きだな」
 言いながらからすは線香花火の一つに火をつける。
 しばらくして花火に火が灯り、そのうち小さくなって儚くも消えてしまう。
 いつの間にか開拓者たちも小さく揺れる花火の焔に杭付けになっていた。
「またいつか‥‥皆でしたいものだな」
 そんなからすの呟きは、そっと風に流れて村の中へと溶けていった。

 〜了〜