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■オープニング本文 ●とある屋敷。 ばきゃーん。 盛大な音を立てて壁の一部が破壊される。 巻き上がる噴煙と共に外に躍り出たのは一つの影。 「ははは! よくぞ我が動きについてきた! そこだけは褒めてやろう!」 大声で笑い声を上げて飛び出したのは妙にもみあげの長い一人の男。 体を覆う張り付くような服も羽織るマントも全てが黒一色に染め上げられている。 男は飛び出した体を器用に捻らせて近くの路地に着地、そのまま走り出す。 飛び出した黒い影を追うように一人の男―――村の岡っ引きである銭金ペイジも噴煙から飛び出し、同じように路地に着地した。 二人が飛び出したのは屋敷の二階部分。どちらも一般人からすれば無茶もいいところだ。 だがそれでも二人は平然と走り続ける。 「待ちやがれッス、この怪盗野郎!」 言いながらペイジは懐から無造作に掴んだ小銭を男に投げつける。 ペイジが得意とする銭投げ。かなりの命中精度を誇るペイジの必殺技。 放出された銭は一直線に男に向かい―――巻きつけられた糸に阻まれて地面に落下した。 二人の間に流れるちょっと冷めた空気。 「くっ‥‥岡っ引きの給料がもうちょっと高ければこんなことには‥‥!」 無念さを全面に出したペイジは、走りながらも自分の銭にまきつけた糸を手繰り寄せて銭を回収する―――が、当然その作業をしながらでは速度を緩めざるを得ない。 その間に男の体は瞬時に他の屋敷の屋根上へと移動してしまった。 「ははは、面白かったよ岡っ引きクン! 今度はもっと面白くなることを願っているよ」 「あぁっ!? 待ちやがれッス!」 叫ぶペイジを前にマントを翻した男の姿は風の如く消え去ってしまった。 ●ギルドにて。 「と、いうわけなんッス! 何とかヤツを捕まえるのに協力してほしいッス!」 ギルドの受付に座る銀髪の少女の顔にぶち当たるかの勢いで詰め寄るペイジ。 無表情のまま、しかしうざそうにその顔面を払いのけた少女は、改めて手元の紙に目を落とす。 「一応岡っ引き組合からの正式な依頼でもあるようですね。ペイジさん、とおっしゃいましたか、あなたと協力して村を荒らす怪盗を捕まえてほしい、と」 淡々と読み上げる少女は、目の前でこくこくと激しい首振りを繰り返すペイジには目もくれずに小さく息を吐いた。確かにギルドは余程のことがない限り依頼は断らない。そう言って以前に目の前のこの男を助けに行ったこともある。しかしそれはあくまで報酬次第であり、目の前の男からはとてもじゃないが開拓者数人分の依頼料など出そうにもない。 「報酬がちゃんと出るならば、こちらとしては受けさせていただきますよ」 「む。ほ、報酬はしゅっ‥‥」 「あ、出生払いとかほざきやがったら、その中身のない脳みそごとかち割って売り飛ばしますからね?」 「‥‥‥‥」 笑顔すら浮かべぬまま淡々と言葉を並べる少女。 出しかけた言葉を発することができないまま金魚のように口をパクパクとさせるペイジは、他に何かいい方法はないかと必死に考える。が、当然出てこずにがくりと項垂れた。 そんなペイジの様子をしばらく眺めていた少女は、あからさまに疲れたと言わんばかりの盛大な溜息を吐き出すと、机に置いてあった紙にさらさらと文字を綴っていく。 「え‥‥か、金がないから受けてもらえないんじゃないんスか‥‥?」 「えぇ。でもそれを見越した岡っ引きの元締めさんからの手紙に、狙われたモノを守りきれば本当の依頼人さんからちゃんと報酬が出るって書いてありましたよ。気付かなかったんですか?」 「いや、中身とか見てなかったッスから‥‥」 「死ねばいいのに」 「‥‥‥‥言葉の刀傷って治るッスかね」 少女の言葉に精神を削られ、さめざめと涙を流しながらもペイジは村の元締めに感謝する。 「そういえばその怪盗さん、何か特徴はあるんですか?」 「ヤツは盗みに行く前に必ず予告状みたいなもんを出すッス。俺っちたちはそれを頼りに張り込むんスよ」 「それでいて捕まえられないんですか‥‥?」 「はぁ。相手は一応志体持ちなんスよね」 予告状に関しては一応日付は正確らしいが、時刻に関しては夕刻や朝方などかなり広範囲に及ぶ。さらに警護するのは基本的に一般人であり、志体持ちを相手にするには荷が重すぎる。よって同じく志体持ちであるペイジに白羽の矢が立ったのだが、当然ペイジにも荷が重すぎる。じゃあ志体持ち増やせばいいじゃんという結論になって今ここ―――ということらしい。 「で、次の予告状はもう出てるんですか?」 少女の言葉にこくりと頷いたペイジは懐から一枚の紙を取り出した。 【予告状】 今から一週間後の夜、あなたの持つ緋色のカミを頂きにあがります。 怪盗ノレパン 「‥‥怪盗、る―――」 「おっと、そいつはちゃんと分けて読んでくれッス。怪盗、のれぱんッスよ」 こうして開拓者ギルドに新たな依頼が張り出された。 |
■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072)
25歳・女・陰
藍 舞(ia6207)
13歳・女・吟
朱麓(ia8390)
23歳・女・泰
金寺 緋色(ia8890)
13歳・女・巫
そよぎ(ia9210)
15歳・女・吟
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
小星(ib2034)
15歳・男・陰
八十島・千景(ib5000)
14歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●とある屋敷 秋も深まり夜はめっきりと冷えて来た。 「こんないい夜を選んでくるあたり、怪盗もなかなかやるよねっ」 「何事も無けりゃ、最高なんだがな」 屋敷の庭を見回る北條 黯羽(ia0072)と、そよぎ(ia9210)は、不審な個所は無いか入念に調べながら、歩いていた。 「志半ばにして逝っちゃった岡っ引きの為にも、あたしの正義見せつけてやるんだから!」 「いや、死んでねぇし‥‥」 二人はまるで散歩するかのように歩きながらも、怪盗がどこから現れてもいいよう警戒を怠らない。 一方こちらは、黯羽達とは別働隊。ジークリンデ(ib0258)と八十島・千景(ib5000)は、室内で警戒に当たる。 「屋敷の見取図もいただきましたし、これでおおよその侵入経路は予測できますね」 「はい。でも、泥棒も災難ですね」 「災難? なぜです?」 「これ程の警備の中、わざわざ宝を盗みに来るんですから」 「なるほど。でも、それだけ腕に自信がおありなのではないでしょうか?」 「そうなんでしょうか。まぁ、予告状とか出してくるくらいですからね」 「ですわね。あんなもの出さなければすんなりと盗れるでしょうに」 「同感です」 などと、未だ来ぬ怪盗に思いを馳せながら、二人は屋敷の警戒に当たった。 ●外 「はいよぉ、ペイジ!」 「ひひーん! って、何か間違ってるっス!?」 まるで子泣き爺の如くペイジの背にへばりつく藍 舞(ia6207)は、膝でガスガスとペイジの尻を蹴った。 「こうしてみると、まるで親子の様ですね」 そんな微笑ましい?光景を小星(ib2034)はにこやかに見つめる。 「ふむ、それも悪くないね」 「え‥‥?」 「ぱぱー!!」 「ぐえっ!?」 小星にそそのかされた舞は、子供が親に甘える様にポンジの首を締め上げた。 「実に仲睦まじいですね」 「悠長な事言ってないで、助けて欲しいっス!?」 にこやかに見つめる小星に、ペイジは必死の援助要請。 「あんまり喚いたら、泣くわよ」 「え‥‥?」 喚き散らすペイジの耳元で、舞がぼそり。 「悪い噂がこの街中に蔓延する程度に、ね」 ニヤリと口元を吊り上げた舞に、ペイジの顔が凍りついたのは言うまでも無い。 ●屋敷内 「うんうん、これで良しと」 追い出され――もとい、一泊旅行に出かけられた家人達を想い、金寺 緋色(ia8890)が人の気配が消えた屋敷を満足気に見つめた。 「温泉いいねぇ。あたしもついていきたかったよ」 一方、家人達が追い出され――もとい旅立った方角を羨ましそうに見つめ、朱麓(ia8390)が指をくわえる。 「ズ――じゃなかった、カミを守ったら私達も招待してくれるかもしれませんよ」 と、緋色は部屋の隅で『緋色のカミ』をがっちりキープする依頼主へと視線を移した。 「お? いいねぇ。ちょっとかけ合ってくるかね」 「え?」 と、朱麓は徐に立ち上がり依頼主の元へと歩み寄る。 「依頼主さん‥‥」 まるで小動物が捕食者に怯える様に部屋の隅で振るえる依頼主に、朱麓は平然と語りかけた。 「な、なんだ?」 覗き込む朱麓を依頼主は恐る恐る見上げる。 「‥‥それって、ズ――」 「わーわー!! そんなストレートに!?」 依頼主の姿に思わず呟きそうになった朱麓の言葉を、緋色が間一髪かき消した。 「ん? ああ、これは言っちゃいけないお約束って奴だったかね?」 「そ、そうですよ! ほら、依頼主さん余計に怯えちゃったじゃないですか!?」 きょとんと呆ける朱麓から、緋色は必死に依頼主を庇う。 「ま、とにかくさ。護ればいいんだろ。そのズ――」 「わーわーわー!! だから、言っちゃいけませんって!?」 再び繰り返される会話。 一体緋色は何から依頼主を護っているのだろうか――。 ● 「――わかった?」 「おぉ‥‥なんて画期的な技なんスか‥‥!」 ひそひそと何やら耳打ちする舞に、ペイジは感涙まで流し打ち震える。 「へぇ、どんな技なんです?」 そんな二人に小星は興味深げに問いかける。 「ふっふっふ。説明してあげるわ。この技は、ペイジの短所を補いつつ相互利益をもたらすもの!」 「‥‥まったくわからないんだですが」 「ちっちっちっ。驚くのはまだ早いわ」 「そうっス! 驚くのはこれからっス!」 舞の説明にがくりと項垂れる小星を完無視し、舞と次いでにペイジまでもが自信気に声を上げる。 「いい? 今までのペイジの投擲の弱点は、ズバリ射程距離!」 「射程距離っス!」 「その弱点を克服する為に、思い切って釣り糸を捨てるわ!」 「捨てるっス!」 「それだと、銭がどこかにいってしまいますね」 「そこよっ!」 「そこっス!」 「は、はぁ‥‥」 「投げた銭はうちが責任を持って回収、そしてペイジに返すわ!」 「返すっス!」 「この画期的な技――名付けて『銭投げ改』!」 「っス!」 技の名前を高らかに発表する舞。そして、我が事の様に自信気に胸を張るペイジ。 「小銭渡した方が早いですよね‥‥」 高笑いをかます二人に向けられた小星の声は、もちろんなかったものにされた。 ●休憩 「はぁ、疲れました‥‥」 畳の上にぺたりとへたり込んだ緋色。 「お帰り、お疲れ様だな」 と、見回り組二人を迎えたのはそよぎと黯羽であった。 「朱麓も、お疲れさんさね」 「ん、ありがと義母。それにしても一行に現れないねぇ」 黯羽の差し出した握り飯を報張りながら朱麓が、屋敷の外へ視線を移した。その時、突如黯羽の座っていた畳が持ち上がる。 「うおっ!?」 座っていた畳が突然ひっくり返り、黯羽は思わずもんどりうって転がった。 「はっはっはっ!」 部屋に鳴り響く高笑い。 至る所に蜘蛛の巣を張りつけ、颯爽と登場した黒い人影。 「ノレパンさん!?」 緋色が現れた人影の名を叫んだ。 漆黒のシルクハットに、先端がカールした見事な口髭。 全身真っ黒なタイツが隆々と盛り上がる筋肉を一層際立たせる。 「まさか床の下からだなんて‥‥!」 唐突な登場に、呆気にとられる一同。 「ふむ、実に芳しい。我が為に食事まで用意してくれようとは」 そんな一同をあざ笑うかのように、ノレパンは美味しそうな匂いを立てる黯羽の鍋に手を伸ばした。 「では頂くとしよう――」 お行儀よく両手を合わせ、鍋に箸をつけようかとした、その時。 「お前の為の飯じゃねぇぞ‥‥」 「うおっ!?」 「ちっ、外したか」 ノレパンは黯羽の放った呪縛符を間一髪のところで避ける。 「なんと不躾な‥‥人の食事を――」 そんな黯羽の行動に、ノレパンは不満たらたら。 「『雷鳴剣』!!」 しかし、そんなノレパンの隙を見逃す程、開拓者達はおろかではない。 隙をついて朱麓が神速の雷撃を、室内だというのに遠慮も無く放つ。 「まったく、ここの連中礼儀と言うものを知らんのか‥‥」 しかし、朱麓の一撃までもノレパンはバク転で軽やかに避けた。 「ふざけた姿に似合わず、なかなかやる様ですね‥‥」 と、不敵に佇むノレパンへ向け呟く小星は、せっせと炊き出しの鍋を護りにかかる。 「ふむ、匂いに釣られて来ては見たが、ここではないようだな」 身構える一行を他所に、ノレパンはゆっくりと部屋を見渡し、目的の物がない事に気付いた。 「どこ行く気だ。まだ話は終わっちゃいねぇ!」 怒り心頭の黯羽は、再びノレパンへ向け符を放つ。 「無駄だと言っている」 しかし、ノレパンは黯羽の符をあっさりと避けると、中庭へと身を躍らせた。 「‥‥一応、皆に知らせないといけないかな?」 と、何とも緊張感がない場ではあるが、そよぎは一応、呼子笛を取り出した――。 ●依頼主の部屋 「あ、来た様ですね」 「予告状通りですね。なかなか律儀な性格の様です」 鳴り響いた呼子笛に、依頼主を護っていたジークリンデと千景は慌てる事無く反応した。 「き、きたぁぁ!!」 異変を告げる音に依頼主は、情けない悲鳴を上げる。 「そんなに情けない悲鳴をあげられますと、余計に見つかってしまいますわよ?」 と、そんな依頼主を呆れる様に見つめるジークリンデは。 「少し引きこもっていてくださいまし」 杖を取り出し、呪文の詠唱に入る。 「アイアンウォール!」 ジークリンデの呼びかけに答えた鉄の板が、依頼主を囲む様に現れた。 「ありがとうございます。これで防衛に専念でき――」 「見つけたぞ」 千景が礼儀正しくジークリンデに礼を述べた、その時。ついにノレパンが二人の元に現れる。 「来てしまいましたね」 「無駄な戦いは好む所ではないのですが‥‥」 と、現れたノレパンに向け、千景は立ち上がり刀を抜き放つと。 「どうやら、本当にこれが目的の様ですね」 キッとノレパンを睨みつけた。 ●屋敷 駆けつけた一行は、不敵に微笑むノレパンとついに依頼主の部屋で対峙した。 「ここであったが10日ぶりっス! ノレパン覚悟っ!!」 ペイジの新必殺技がノレパン目掛けて放たれる。が。 「はははっ! その程度どうという事は無い!」 高笑いをかますノレパンはペイジの銭投げを尽く避けていく。 「ふふふっス! 今日の俺っちは一味違うっスよ!」 しかし、今日のペイジは自信に満ちていた。 「そう言う事!」 その声はペイジの足元から。 投げ放たれた銭は舞の手によって瞬時に回収され、ペイジの手元に舞い戻る。 「ここって手出ししていい所でしょうか?」 「天儀式様式美に則るのであれば、静かに見守るのがセオリーなのでは?」 無限に続くかと思われる攻防を、千景とジークリンデはまるで演劇を鑑賞する客の様に見つめる。 「ジークリンデさんはよくわかってるな。まぁ、しばらく様子を見ようや」 「ですです。かかさまの料理、とても美味しいですよ」 同じく外野席では、見事に守りきった食事に手をつける黯羽と小星。 「アレが緋色のカミ‥‥」 一方、対峙するノレパンとペイジに目もくれず、そよぎは依頼主(頭部)から目が離せない。 「え? 私の髪? って、そっちですか」 そよぎの呟きに、緋色は思わず自分の髪の毛を押えた。が。 「まさか‥‥これが噂に聞く、恋!」 「うーん、多分違うと思いますけど‥‥」 そよぎは依頼主に熱い視線を注いでいる。 「どうした? それまでか?」 「はぁはぁ、やるっスね‥‥! 藍さん、次の銭を!」 最小限の動きで攻撃を避け続けるノレパン。そんな余裕の表情にペイジは相方に向け声を上げた。 「あー、もう疲れたから、新技は終了ね」 しかし、ペイジの援助要請に、舞は一仕事した爽やかな汗を拭い、さっさと観客席?で舞戻る。 「そ、そんな‥‥!?」 「仲間割れか。ふん、他愛も無い」 突然の相棒の離脱。ペイジの余裕は一瞬にして絶望へと変わった。 「まだ、投げれる物があるじゃねぇか」 「え?」 と、絶望するペイジの背を朱麓が後押しする。物理的に。 朱麓はペイジをむんずと掴み上げると、そのままノレパンへ向け投擲した。 「ええぇぇっ!?」 「なにっ!?」 直線を描きノレパンへと迫る弾丸ペイジ。その距離は一瞬に詰まり、二人の顔と顔――。唇が重なった。 『‥‥』 辺りに立ち込める、如何ともしがたい微妙な空気。 「あ‥‥ごめん。悪気はなかったんだ」 如何ともしがたい空気に責任を感じたのか、朱麓は思わず皆に対して謝っていた。 「ぐっ‥‥我が唇をこうもたやすく奪うとは‥‥」 「明らかに事故っスけどね!?」 口惜しそうに唇を拭うノレパンに、ペイジは涙目で猛反論。 「‥‥」 「そよぎさん、どうされました‥‥?」 そんな光景を眺め、わなわなと震えるそよぎに、緋色が恐る恐る声をかけた。 「恋敵の登場だわっ!」 一体何に対しての恋敵なのか、燃えるそよぎはグッと拳を握りしめる。 「もう訳わかんない‥‥」 混沌を増す現場に、緋色は涙目でそう呟いた。 「ノレパン! 君の気持は男としてよくわかります! でも、他人のカミにまで手を出そうなんて、それでも真の男ですか!」 再び対峙するノレパンに向け、ただ一人の男、小星が叫んだ。 「君にはその立派な口髭があるじゃないですか! それ以上の男っぷりを望むのは贅沢という物ですよ!」 他人の最も大事なモノを奪おうとするノレパンに向け、小星の魂の説得は続く。 「ふっ‥‥最早そのような物に興味は無い」 しかし、ノレパンは小星の説得?を軽く笑い飛ばすと、部屋の隅で悲しみに暮れるペイジに視線を移す。 「貴様達の大事なモノを頂くとしよう」 そして、勝ち誇ったように呟き、ペイジの元へ移動すると。 『え‥‥?』 ペイジの腰に優しく腕をまわした。 「へ‥‥?」 突然包まれた温もりに、ペイジは思わず顔を上げる。 「共に行こう」 と、そんなペイジの瞳を、真摯に見つめるノレパンは、へたり込むペイジをそっと抱き起こすと。 「ははは! では諸君、また会おう!!」 高らかに大笑いをかまし、ペイジをその脇に抱え、屋敷から飛び出した。 「いやぁああぁぁぁぁぁ――――」 『‥‥』 闇に溶けたノレパン。と、ついでに悲鳴を上げるペイジを、一行は呆然と見つめる。 「‥‥見事な手際でしたわ」 言葉も出ぬ一行の中、ジークリンデが感心するように呟いた。 「さすがにこの展開は読めませんでしたね。まさか、途中で目的の物を変更するなんて‥‥」 抜いていた刀を鞘に納め、千景が呟く。 「結局、愉快犯と言う事ですか‥‥」 そして、依頼主へと視線を移すと、大きく一度溜息をついた。 「こ、これって、依頼達成ですよね‥‥?」 小星が恐る恐る皆を見渡す。 「あー、どうなんだろうな‥‥。緋色のカミは盗られてねぇから、一応そうなるのかねぇ‥‥」 小星の問いかけに黯羽も自信なさげに答えた。 「そ、そうですよね。よかったかかさまの料理が守れて‥‥」 「いや、護るのは緋色の髪だからな‥‥?」 「じゃ、改めて――いただきますっ!」 行儀よく両手を合わせ鍋に向い直す小星を、黯羽は苦笑交じりで見つめた。 「恋には破れたけど、こっちの恋は護りきったわ!」 「だから、違いますって‥‥」 グッと拳を握り依頼主を熱い視線で見つめるそよぎに、緋色は溜息混じりに呟いた。 「父様、母様、そよぎはこの恋きっと成就させてみます!」 そんな緋色の呟きを華麗にスルーし、そよぎは遠い地にある両親に誓いを立てる。 「もうやだ。帰りたい‥‥」 緋色の悲哀の呟きは、誰の耳にも届かなかった。 「ろくねえ、すごいわ! 今のなんて技!?」 「うん? そうか? 技‥‥技?」 あらんばかりに目を輝かせ問いかける舞に、朱麓はきょとんと呆ける。 「ほら! ノレパンに向けてペイジを投げた、あれよ!」 「‥‥おお、あれねぇ。技‥‥技?」 「うちにも教えて!」 「お、おうさ。あれはな――」 「うんうん!」 興奮冷めやらぬ舞、どこか自慢げに新技の伝授に余念がない朱麓。 最早、二人の頭に依頼の事など無いのであろうか‥‥。 色々あったが一行は見事、緋色のカミを守り抜いた。 ペイジと言うと尊い犠牲を払いながらも――。 (代筆 : 真柄葉) |